《3Dプリンターを使い出してもうすぐまる5年》
■ショート・ストーリーのKUNI[201]
超恐がり女はカメムシの夢を見るか
ヤマシタクニコ
■3Dプリンター奮闘記[84]
3Dプリンター・きっかけと縁
織田隆治
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■ショート・ストーリーのKUNI[201]
超恐がり女はカメムシの夢を見るか
ヤマシタクニコ
https://bn.dgcr.com/archives/20161006140200.html
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フリーのデザイナーというより、自称デザイナーと言ったほうがいいかもしれない、ほとんど事件の容疑者みたいなヤマシタである。
そのヤマシタが、なぜかここしばらく仕事で忙しかったので、いつものように創作ものを書く余裕がない。
この間はちょっと時間ができたので、「そうだ、創作のための刺激を受けに行こう!」「映画を観たらぶわ〜っとアイデアが浮かぶことあるよな!」と、近所のシネコンに行った。つまりインプット。
しかし、観た映画が「怒り」だったので、何の効果もなかった。あんな重い、力作まるだしの映画と、私のふだんの小説と何の関係があるというのだろう。ちょっと考えたらわかりそうなものだ。
そういうわけで、今日はフィクションじゃない雑文でお茶を濁させていただく。
実は少し前から悩んでいることがあって、それはカメムシである。チョコチップみたいと言われるあの黒くて小さなやつではなく、胴体の長さが2センチ以上ありそうな、たぶんクサギカメムシという種類。
6月のある日、洗濯物を取り入れ、Tシャツをたたんでいたら何かついてる。
直径1ミリくらいの、わずかに緑色を帯びた白い球体がびっしりと並んでいて、数えると12個……なんだろ……顔を近づけ、よく見ると……虫の卵……ぽい?!
ぎゃーっと叫び、いったん放り投げて部屋の隅まで逃げ出した後、正気を取り戻し、Tシャツをそーっと引き寄せる。つまみあげ、ベランダに持って行き、そばにあったプラスティック製のふとんたたきでこそげ落とす。
びっくりしてどきどきしているせいか、なかなか取れない。ててて手に力が入らないのだ。卵はボンドでくっつけたみたいにしっかり、産み付けられている。ふとんたたきを持つ手に力をこめ、なんとか、取れた。
ちょっと、いや、かなり罪悪感あったけど……。
それから何日か後、同じものが網戸に! 今度もこそげ落とした。だだだって、めでたく孵化したらいやじゃないですか、そんなにたくさん! 悪いけど。
で、このときもがんばったが、いくつかは落とすことができなかった。卵の殻だけが今も残っている。網戸から無理矢理落とした卵も、踏みつぶすまではできなかった。なんだかひどすぎるようで。それでも、罪悪感、さらに積もる。
ふと見ると、ベランダの柵の上に大きなカメムシがいる。真横から見ると、腹部がちらちらと見える。背中は硬くて黒っぽいが、腹部はやわらかそうで横に何本も筋が走る。
触覚と足をゆっくり、ゆっくり、もわもわと動かす。こっちを見ているような気がする。卵の関係者だろうか。なんだかどきどきしてくる。冷や汗がにじむ。
Tシャツをたんすの引き出しから出して着ようとしたら、そのカメムシがくっついてることに気がつき、また絶叫とともに放り出したこともある。私が気づかずにたたんで、しまったのだろうけど。
そのカメムシ、と書いたが、同じ個体かどうかはわからない。見た目はそっくりだけど。
カメムシはどうも居着いてしまったらしく、それからも毎日のように見かけるようになった。
あるときは台所のそばの開閉式の網戸にしっかり張り付いていた。とんとん、とたたいても網戸をばたばたしても微動だにしない。
仕事机の前の窓に張り付いていたこともある。こちらに腹を見せて。
私は別にカメムシを殺したくない。虫は苦手なので、よそに行ってほしいだけである。向こうも、別に私を攻撃するつもりはない。そのことはわかっている。
突然出会ってしまったときは驚いてこちらが動くと、向こうもびびって動く。
「うわわわわ!」「おおおおおっ!」と、どちらもびびってるわけで、考えたら笑える。でも笑うどころじゃないんだ、両者とも。
ベランダに出るときは、必ずカメムシチェックをするようになった。いきなり至近距離で目が合う事態は避けたいので、眼鏡をかけてまずそーっと360度チェック。
いなければいいし、離れたところにいるのが確認できればそれでよしとする。何時間もじっとしてることもあるので、しばらくは安心。むしろいなくなるとどこに潜んでいるのかと不安でたまらない。
当然かもしれないが、次第に、見かけてもそれほど驚かなくなった。それどころか時々「あ、そこにいたんだ?」と声をかけるようになってきた自分に驚く。
向こうも私に慣れてきたような。そんなことないか。でも、なんというか、お互いを認め合うようになった、というのかなあ。ははは。
だからといって間近で見る勇気はない。悪いけど、不気味だ。腹が特に。カメムシに何の罪もない。でも、近寄りたくない。
ところで、そんな恐がりの私だから、寝る前とか出かける前の戸締まりや火の元チェックには、いつもものすごく時間をかける。
声に出して「締めた」「消した」と言うのはもちろん、「ふり」もつける。何かの替え歌にして歌いながら身振り手振りつけて「♪ガスしめた〜元栓も〜」などとやる。
あっちの窓、こっちの窓、台所のガス、風呂場、そこらじゅう歌いながら踊りながら確認……あほです。
いや、だってそのほうが「確かにさっき、ああやって確認した」と記憶に残りやすいじゃないですか。
で、ある夜もそのようにして確認して、ふとんに入った。
その日はけっこうよく動いた。ふわ〜っ、今日はけっこう疲れたな……私にしては割と歩いたよな……その割に新しいポケモンにも出会えなかったな……ポッポやコラッタはもうええわ……とか思いながら意識が遠のいていく。
──え、風呂場の窓閉めたかな?
風呂場の窓の歌はどうだったかな? ああ、最近「あさが来た」のメロディに変えたんだった。♪風呂場の窓をしーめた……って歌った記憶がないような……歌ったかな……どうだっけ……
いつの間にか寝てしまった。
次の日、起きてみたら風呂場の窓は開いたままだった。
いや、風呂場の窓くらいどうってことないよ。
自分にそう言い聞かせる。事実、家の中が荒らされたわけでもないし、何の被害もない。そもそも風呂場の窓は、開けっ放しでも人間が入れるような大きさではないし。
──でも、人間じゃなかったら?
私はとても恐がりである。心配性である。
それ以来しばらく、何かがいるような気がして仕方なかった。いつもの部屋と同じにみえてどこか違ってないだろうか? 室内の空気の色、におい、重さ。そんなものが、ほんの少しだけ変わってないだろうか?
ふと振り返ってみる。もちろん、だれもいない。
でも、やがてそんな違和感はなくなった。
ある朝、私が目覚めて台所に行くと、男がいる。ごく自然にテーブルにつき、新聞を読んでいる。大きな男だ。肩幅がひろくがっしりしている。
「もう起きてたの?」
私が言うと男はうなずく。無口な男なのだ。死んだ夫も無口だったなと思う。このひとはいつからいたっけ。私は考えるが思い出せない。ずっと前から知っているような気がする。違うかもしれない。
「今日は遅くなるかもしれない」
私がそういうと、男はまたうなずく。新聞を熱心に読む。のぞきこむと、遠い街で起こった殺人事件の記事だ。
「そこ、行ったことある?」
男は首を横に振る。ふと聞いてみる。
「前はどこに住んでたの?」
男は答えない。コップを取り上げ、そこに満たされた樹木のにおいのする液体をごくごくと飲む。
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
http://midtan.net/
http://koo-yamashita.main.jp/wp/
というわけで、映画「怒り」っぽい感じをちょっとだけ取り込んでみたつもりですが、どうでしょう。次はロマンティックな映画を観たいな。
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■3Dプリンター奮闘記[84]
3Dプリンター・きっかけと縁
織田隆治
https://bn.dgcr.com/archives/20161006140100.html
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僕が3Dプリンターを使い出して、もうすぐまる五年になります。早いもんだなぁ……と思う今日このごろ。
あの頃、僕は基本的には3DCGや新商品の展示のプランニングや、展示会でのディスプレイのお仕事、そして、たま〜に模型やジオラマ制作をさせて頂いていたんです。
2011年3月11日に忘れもしない、あの東関東の地震がありました。その頃の仕事は、新商品のPR関連が多く、直後から数か月ほどお仕事がストップしました。新商品のPRの自粛、延期ですね。
当時、京都自宅から大阪市内に事務所を出したところで、その影響は結構長く続いて、かなり厳しい状態になって行きました。
まあ、被災された方から見ると、そんなのたいしたことないと言われればそうなんですが、なんとかやっと事務所を出したところで、お仕事が突然激減したんですね。
とりあえず、事務所を撤退して京都に戻ろうとも思いましたが、色々な方から、小さくてもいいから大阪に事務所を残した方がよいというアドバイスを頂いて、小さいビジネスホテルの一室のような所に事務所を引っ越すことにしました。
家賃の負担は少なくなったものの、仕事が増えるわけでもなく、これまでの貯蓄を削ったり、新規のお仕事の営業をやってみて、なんとかギリギリではあったんですが、細々と続けて行くことができました。
この東関東の地震の影響は、思ったより長く響いてきて、このままではマズいなぁ、と思っていました。
その時、ある方から連絡が入りました。
「今度、3Dプリンターを扱っている会社のコンサルティングの打ち合わせに行くけど、一緒に行かないか? 織田さん、そういうの好きでしょ?」
当時、3Dプリンターはまだ世間ではあまり知られておらず、僕もググってみて、「これは面白いものだな!」と直感しました。
3DCGをやっていて、その前は科学館等の模型製作をやっていたり、プラモデルや造形が大好きだったことが幸いしたんですね。
もちろん、関係者でもないのに同行させてもらい、ご紹介頂きました。これが、僕が3Dプリンターに関わるようになったきっかけとなりました。
ちょうどその当時は、コンシューマー向けの3Dプリンターが日本に入って来たところで、まだほとんどの所で3Dプリンターを置いていない状況でした。
関西では、そういうコンシューマー向けのプリンターは、まだ数台しか販売されていませんでした。
先にも書きましたが、その当時、僕にプリンターを導入する資金なんてほとんどなく、どうしても使ってみたかったので、知人や友人、クライアントの方々に相談したところ、みなさんがそれぞれ出資してくださいました。
本当に嬉しかったです。皆さんの優しさと、これまで地味だけど真面目にやって来て良かったと。
そういうわけで、事務所に3Dプリンターがやってきたのです。それからある程度使えるようになった頃、テレビの取材が来たりもしました。
その当時はまだセンセーショナルな機械だったので、次の年あたりは、テレビなどで色々と3Dプリンターが取り上げられていました。
それから数年。まずはFDM(熱融解式プリンター)を使い、色々なものを制作させて頂きました。
そして、ラッキーなことに、あるメーカーの社長さんからオファーを受け、シェアオフィスへのお誘いを受けました。
そこで、当時高嶺の花だったインクジェット光造形のプリンターを導入して、半年ほど商品の開発に携わって行きした。
その後、色々な3Dプリンターに触れることができました。
FDM(熱融解式)
インクジェット光造形
光造形プリンター
粉体プリンター
もともと制作機械が大好きだったことと、メカニカルな物の設計等も行っていたので、自然に3Dプリンターの構造や基礎等を学んで行くことができました。
そうこうしている内に、また一人で少しだけ広い事務所を借りることとなり、新しいプリンターも導入できるようになりました。
そしてしばらくして、大学時代の同級生から「大学で教えてみない?」というお誘いの連絡が入りました。
「僕なんかが人に何かを教えるなんてことできるのかな?」とは思いましたが、チャレンジしてみることになりした。
息子や娘と同い年くらいの学生でしたので、なんとなく気持ちも分かりました。そういった経緯があって、色々な大学や専門学校からお誘いを受け、現在に至っています。
僕が今、こうやって仕事を続けていられるのも、そういった友人や知人のおかげです。人との繋がりが、いかに大切なのかを、ここ数年で痛感しています。
仕事の方も、3Dプリンターを使い出してから、色々浮き沈みもあるんですけど、なんとか順調に行っています。
このデジクリで記事を書くようになったきっかけも、知人からのお誘いでした。始めは、何か別の事を書くつもりだったんですが、せっかく3Dプリンターを使っているから、その当初からのことをまとめて書いて行こうと思った次第。
気がついてみると、たまに3Dプリンターからは外れた記事もありますが、よくここまで続けられてるよなぁ、と思います。
一重にみなさんのおかげ。
こういった経緯で、色々と培ってきた知識や技術を、今若い学生さんに伝授(そんなたいしたものではないですが)して行けることが楽しくてしょうがない今日このごろです。
まだ発表できないイベントも、今立ち上げているところ。これから、もっと沢山の人に、3Dプリンターを使って「モノ作り」をしていってもらうべく、諸々企画中です。
また、このデジクリでも発表して行けるようにがんばりますよ。
今後ともよろしくお願いします!
【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
http://www.f-d-studio.jp
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編集後記(10/06)
●「400デイズ」を見た(アメリカ、2015)。DVDの始めにある予告編集を見て(見せられて)あ、これ面白そうな設定、と期待した映画だ。外宇宙探査飛行のため集められた四人の宇宙飛行士。彼らは探査船の船内に見立てた地下基地で400日間過ごし、リアルな訓練や心理実験に挑むことになる。最初の事故シュミレーションをクリアして、船内生活が始まる。200日後、なにかの警告が出る。管制に報告しようとするが応答がなく、以後、本部との連絡が途絶する。218日後、異常な事態が発生。これも訓練なのか。373日後、誰かがハッチを叩いている。これは本当に訓練なのか。彼らはルールを破り地上に出てみると。
といった、なかなかスリリングというか、不可解というか、四人(&見ている者)は、これは訓練なのか、それともリアルなのか、よく分らない展開になる。なにしろ、彼らがいるスペースは地上の密室ではなく、地下に埋められた探査船の操作部と居住空間なのだ。地上のマンホールの蓋状のものを開閉し、出入りするようになっている。後から分かるのだが、完全密室ではない。通気口は別にあり、そこから外部の怪しい人物が侵入し、目を離した隙に消えている。給排水はどうなってるんだ。電源が落ちたときどう回復するのだ。本部との位置関係はいかに。まともに考えれば、わざわざ地下にセットする理由がない。
不安にかられた彼らは地上に出る。大地は荒れ果て、暗い空間に粉塵が覆っている。その粉塵には地球にない物質が含まれていた。核戦争やエイリアン襲来によって人類が滅亡したのではないかと疑う(彼らも、見ているわたしも)。やがて営業中の食堂を見つけ(笑)、怪しい店主に聞いても要領を得ない。なぜか、住民たちが彼らを襲う。なんとか逃げのびた主人公と元カノの二人、探査船ルーム戻る(暗い上に不案内な土地で戻れるわけないと思うのだが)。追跡してきた食堂店主ほか一名の襲撃に応戦、なんとか倒す。モニターには管制から「400日間の実験終了」のメッセージが入る。応答できず。唐突にお終い。
なんなんだ、このミッションは。すべてがおかしい。理解不能な展開である。予告編では「絶対予測不能のSFサスペンス」といばっていたが、ここまで不条理な展開を予測できたら、そいつがおかしい。伏線らしきものの回収はなく、ツッコミどころが満載。分からないのはわたしが悪いのかとネットで探ると、高評価は殆どない。設定は面白いと思ったが、結局なんにも解決しないで、見ている者に丸投げという感じ。エンドタイトルのあとになにかあるのかと期待したが、なにもない。そこで気がついた。これはアルバトロス配給であった。BC級の殿堂アルバトロス! じゃ、しょうがないわとあっさり納得。 (柴田)
「400デイズ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B018RFB4C2/dgcrcom-22/
●「しかし、観た映画が」のくだりで吹き出した。日常の描写にも引き込まれる。さすがヤマシタさんだ〜。/「ポッポやコラッタはもうええわ」。めっちゃわかります。「コラッタポッポのくせに〜(ボール浪費させやがって/逃げやがって、の意)」などとつぶやくことが多いです。
こちらこそよろしくお願いいたします!/忘れてた! そもそも、アメージングモデルエキスポでは、全身を測定して3D化してもらえるブースがあったと書きたかったのだ。コスプレしていた人に大人気だったわ。
保険相談の続き。いらないといえばいらない。入るにしても手厚く保障してもらう必要はないかもしれない。でも入るならちゃんとしておきたいというジレンマ。中途半端にかけるのが一番良くない。
小林麻央さんの戦いを見ていると、勇気があって凄いと思う。彼女が発言することによって、がんへの関心は高まり、健診を受ける人は増え続けるだろう。樹木希林さんのように、全身がんという記者会見後、10年経って放射線治療によってがん克服となると、医学は進歩しているのだなぁと思う。
「抗がん剤治療は全身に働きかける全身療法」「副作用は全身に表れます」と
記事で見た。放射線治療は局部治療とはいえ、悪くない臓器にまで放射線が当たって被爆してしまう。胃のある部分ががんであれば、放射線は皮膚から患部、そして背中側に突き抜ける。
抗がん剤や放射線治療はしない方がいいのかもしれないと思ったりするし、実際にそうなったら簡単に諦めきれずに頼るのは目に見えている。 (hammer.mule)
朝日新聞シンポジウム「がんに負けない、あきらめないコツ」鎌田氏、樹木氏の対談
http://www.asahi.com/sympo/060428/05.html
抗がん剤の副作用、本当のところ
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20160621/med/00m/010/002000c
抗がん剤は怖くてつらい? その本当の目的と最新の治療法を知る
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20160129/med/00m/010/006000c