[4261] 金星と三日月の共演

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《こんどの旅にはどのレンズを連れていこうか》

■わが逃走[193]
 構造美2016の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[54]
 金星と三日月の共演
 関口浩之




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■わが逃走[193]
構造美2016の巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20170112140200.html

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みなさま、新年あけましておめでとうございます。

年賀状書いてたら年が明け、あわてて実家に帰って、戻ってきてまた続きを書き、やっと一息ついたら通常営業という、年賀状に縛られる正月がここ数年続いております。

こうならないよう早めに書きはじめようと誓うも、やはり年末というものはなにかと忙しい季節であり、そううまくいくもんじゃあない。

パソコン使ってこれだもの。昔はプリントゴッコや木版画でよくもまあ、あんなに気合いの入った刷り物を作ってたもんだなあとしみじみ思う自分に、グラフィックデザイナーとしてそんな気持ちでどうするよ! そうツッコミを入れる、もうひとりのワタシがいることはいるのですが。

正月くらい日頃の業務をリセットして、ゆっくり過ごすというヤツを一度でいいからしてみたいという夢、憧れは年々増す一方であります。

さて、年明けということで私のライフワークである写真『趣味の構造美』を一年分振り返る、なんてことをしてみようと思う。

『趣味の構造美』を簡単に説明すると、構造として機能している、もしくはしていた物件を散歩中に探し出し、思わずグッときたモノをイイ塩梅に写真として定着させたい! という、まったくもって曖昧な価値基準と美意識によるシリーズです。いいんです、趣味ですから。

さて、構造美フォルダを月ごとにわけてテキトーに開いてみましょう。

1月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/001

こんなのが入ってた。ホントに1月に撮ったかは不明。おそらくフィルムをスキャンしてますね。尾道だったかなー。まんなかの右側に小石がのっかっていますね。この石はどっから来たのか、などと考えてみるとけっこう楽しい。

2月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/002

これは外神田あたりだったような気がします。ちょっと前までビルだったところが、いつのまにか更地になってた。

今までヒトサマに見せなかった壁面があらわになってしまうことで、本人(?)は恥ずかしいかもしれないけど、こういう飾らないぶっきらぼうな感じはとても好み。

“必要だから”這わせた配管のラインもイイ味出してる。おそらく今はもう新しいビルが建っていて、この写真と同じ光で同じ壁はもう二度と見ることができない。

3月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/003

これは世田谷区瀬田あたりの美階段です。iPhoneで撮りましたよ、たしか。既成建材を使わないダイナミックな階段の迫力に、改めて惚れ込んだ次第。

建築のスクラップ&ビルドのサイクルと比べて、地面そのものの新陳代謝は比較的ゆるやかですが、大規模な再開発にかかれば周りの風景ごと一気にリセットされる危険性は常にはらんでいます。

そんなわけで、今、普通に見ることのできる風景を大切にしていきましょう。

4月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/004

桜の季節、緑道沿いを散歩したとき、風情のある階段を見つけたので上ってみると、見事な高低差を鑑賞できました。ちなみに桜の写真はみんなが撮ってたので、私はあえて撮らんかったのです。

5月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/005

連休に盛岡へ行ってきました。初盛岡でしたが、その文化都市っぷりにすっかり魅了されちまったオレであります。風景を見るだけで歴史的背景が想像できる。これってスゴイことですよ。

写真は岩手県公会堂の裏側の地下へと通ずる階段に沿った配管。スクラッチタイルとの対比が実にツボでありました。

6月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/006

信州は上田に行ったとき、たまたま渡った鉄橋の六角ボルト。この密集感がたまらん。そしてこの陰影。

ボルトをナットで締めるという、誰でも経験したことのある行為の積み重ねでこの巨大な構造体が支えられてている、そう思うと人の力ってすごいなあと素直に思う今日この頃。

7月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/007

ウチは集合住宅なんだけど3階と4階と屋上に庭がある。これは3階から4階へと続く、ブドウがからまった階段。金属の表面もイイ感じに味わいが出てきた。ちなみにこのブドウはとても食えん。観賞用です。

8月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/008

取材でうかがった某酒造メーカーのホース。

ホースの巻きっぷりというのは以前から興味があり、整理整頓したり放置したりするにも、一種の地域性のようなものを感じている。栃木の巻きっぷりはかなり好みだ。

9月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/009

この日も栃木へ。途中、重要文化財クラスの自転車屋さんを発見、しかも現役。オヤジさんに頼んで店先を撮らせていただいた。

10月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/010

月末に沖縄へ。那覇は人が多いのでいつも素通りしていたが、実は興味深い物件の宝庫だった。写真は農連市場。戦後の復興を食で支えた生き証人が、しずかに再開発の波にのまれてゆく。

11月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/011

タイポグラフィ。出張先の金沢で発見。今はPhotoshopのフィルタ機能で何でもできる時代だが、偶然性が生み出す本物の迫力にはとうてい及ばず。

12月
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/12/images/012

石垣と配管。質感の対比とか、陰影とか、ものすごく好きな壁に出会うも、じっと見つめていると不審者と思われるので、シャッター切ってとっととその場を離れた。

こういうものは美術品でもなければ文化財でもない。じゃあ、なんなんだろうね。と自問自答しながら、こんどの旅にはどのレンズを連れていこうか、などと夢が膨らむ2017年の幕開けであった。

そんなわけで、今年もよろしくお願いします。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[54]
金星と三日月の共演

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20170112140100.html

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あけましておめでとうございます。もじもじトークの関口浩之です。本年もよろしくお願いします。

もじもじトークの基本路線は「肩の力を抜いてお茶でも飲みながら、書体や文字のお話をゆるく楽しく語るよ〜」ですが、僕の趣味である「天体観測や宇宙のお話やカセットテープのお話とかも時々やるよ〜」ってノリでやってます。

昨年は毎週土日にセミナー出演する機会をたくさんいただき、ベランダ天体観測のチャンスがほどんとありませんでした。たまに週末に余裕があるときに晴れていないことも多く、昨年の天体写真のお話は0件でした。

なので、今年の抱負は「今年はベランダ天体観測もがんばるよ」にしたいと思います。ということで、2017年の初回メルマガは宇宙のお話をお送りします。

●金星と三日月の大接近

金星と三日月が仲良く並んだ写真をご紹介します。Facebookの投稿写真です。
https://goo.gl/KnqE82


この写真は、2017年1月2日にマンションの非常階段から、日没直後にデジカメで撮影しました。

金星と三日月が大接近しています。月と金星がおよそ1.5度の視野に収まってました。月のみかけの直径視野が約0.5度ですから、肉眼で見ると、くっ付きそうな感じでした。宇宙のパワーをもらった年初めでした。

この写真を拡大してよく見ると、左斜め上のほうにも星がひとつ写っています。この星は「火星」なのです。実は、三日月と金星と火星の共演だったのです。

ちなみに下のほうに、薄〜く宇宙船のような物体が写ってますが飛行機でした。未確認飛行物体UFOではなかったです……

さらに、火星の直ぐ近くに「海王星」が位置しています。海王星は8等星なので、望遠鏡でも見つけることが困難ですが。

●宵の明星は今が見ごろ

今日、天気が良かったら、ぜひ、日没直後に西南西の空を見上げてみてくださ
い。1月12日の日没時間は東京であれば16時48分です。

日没直後の薄明(薄明かりが少し残っている時間帯)の金星が超おすすめです。金星はマイナス4.5等星と非常に明るい星なので、日没後のトワイライトな時間帯でも容易に見つけることができます。そして、今週ぐらいでしたら、日没後3時間ぐらいは金星は地上にいます。って、つい擬人化しちゃいます。

ちなみに、各地の日没時間は、釧路16時09分、札幌16時21分、名古屋17時00分、大阪17時07分、岡山17時14分、博多17時30分、沖縄17時57分になります。おぉ、日本の日没時間って、釧路と沖縄では2時間近く違うんですね……

なぜ、いま、宵の明星「金星」が見ごろかというと、金星は本日、1月12日に『東方最大離角』を迎えるからです。

えっ、東方最大離角ってなに?

ご存知の通り、金星は内惑星(地球の内側の惑星)なので、金星を夜中に見ることはできません。地球と金星と太陽の、位置関係を想像してみればわかるはずです。

地球から見て、金星が太陽に対して一番東方に離れて見える位置になるのが、東方最大離角といいます。その角度は約45度です。なお、黄道(太陽のみかけ上の通り道)は傾いているので、地上からの高度は45度よりも低い位置になりますが。

少しややこしかったかもしれませんが、宵の明星を眺めるなら「今が見ごろです!」ってことです。2月下旬までは見ることができます。

3月下旬には、金星が内合する(金星が地球と太陽の間に位置する)ので、金星は見えなくなります。そして、4月中旬頃から明けの明星としての金星が、明け方の東南東に見ることができます。

そして、今年の6月3日に『西方最大離角』になります。その後、来年の2018年1月に地球から見て金星が外合(金星が太陽の反対側に位置する)します。

地球と金星の公転周期が異なる関係で(地球が365日で金星が225日)、ざっくり言うと約9か月半毎に、宵の明星と明けの明星を繰り返していることになります。今日と同じ位置の宵の明星が見えるのは、19か月後の2018年8月になります。

「宵の明星」と「明けの明星」が同じ金星であることはご存知かと思いますが、どのくらいの周期で繰り返しているかを覚えておくと、なにかと便利かもしれません(笑

今年は、文字、ときどき、宇宙ネタを投稿させてください。今年も「もじもじトーク」にお付き合いください。よろしくお願いします。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステム
やプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(01/12)

●福澤徹三「俺たちに偏差値はない。ガチバカ高校リターンズ」を読んだ(徳間書店、2012)。生徒も教師も粗暴な、偏差値が最底辺の男子校に通う高校生・百鬼悠太が主人公だが、タイトルに謳うほど勉強や成績の話題はない。全員が野蛮なヤンキーである。しかし、この時代にはヤンキーという言葉はない。悠太は2013年から1979年へ、34年前にタイムスリップしたという、もはや使い古されたイージーな設定である。またかよ、とウンザリさせられる。筆者は怪談・ホラーやアウトローの分野の作家だと思っていたから、こんなお手軽でいい加減なジュブナイル、エセSF(といっていい)を書いていたとは意外である。

今(って、この物語の現在)から34年後の2013年、悠太は母とふたりで東京に住んでいた。父の剛志郎は悠太が2歳の時死んだ。高校に入る直前の3月末に、入院している祖母の見舞いで九州にきた。父の実家に泊まった翌日、父の勉強机で奇妙な地図を発見し、興味をひかれて門字へ探索に行った。地図にあった印の場所には古井戸があり、そこを覗きこんだはずみに井戸に転落して気を失い、目をさますと父の家のフトンの中にいた。よくある話。そこは1979年で、異常に若い祖母がいて、悠太を剛志郎と呼ぶ。悠太は若き日の父になっていたのだ。ということは、祖母だと思ったのは母だった。なんだよ、この設定は〜。

とにかく悠太、じゃなかった剛志郎(僕)の高校生ライフが始まる。偏差値が低い大昔の男子校で、みんな老けているうえに強面で低能、毎日が暴力沙汰である。そのバカっぷりはやや面白い。僕もそこに溶け込んで、恋愛もしたりする。しかし、冷静になって考える。父の剛志郎として生きているのだから、このままいけば同じ経過をたどるはずだ。もちろん母と結婚なんかしたくないが、そうしないと僕が生まれない。だが、僕が父親で僕が生まれるはずがない。生まれないなら僕もいないわけだから、父もいなくなる。どう転んでもパラドックスが起きる。安易なタイムスリップに、面倒で不可解な設定を加えたもんだ。

僕より年下の母も登場、仲間の一人が彼女とつきあっている。このまま行くと何が起きるか分からない。時間軸が狂って過去や未来が変わって、僕という存在が消えてしまうかもしれない。どうしても2013年に戻らなければならない。ということで井戸を捜して……。まことにおざなりでご都合主義なタイムスリップである。悠太は歴史や文化について何も興味がなかったから、過去に行っても、未来を予知できる男になれなかった。こんな無能なタイムスリッパーも珍しい。1979年、わたしは未熟な編集者だった。あの頃に戻れたらなあ。現在の自分に都合のいいよう、いろいろ修正してきたいんだけどなあ。 (柴田)

福澤徹三「俺たちに偏差値はない。ガチバカ高校リターンズ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198635234/dgcrcom-22/



●齋藤さんの写真好きだ〜。/日没直後に西南西……アラームセットした。

/去年、Adobe CCのオンラインコードセールについて書いた。自分自身は最初の値下げの時に買ってしまい、その時期の最安値では買えなかった。

それが悔しくて(笑)Google Chromeのアドオンを導入した。「Keepa」というもの。商品、価格を設定すると、アマゾンでその価格以下になったら通知が来るようになっている。買った時の43,027円より1,000円ぐらい低いといいなぁと42,750円を設定した。

設定は簡単。拡張機能で「Keepa」で検索、インストール。Keepaから商品を検索して登録。その際に価格を入れておくだけ。通知はメール、Twitter、Facebook、ブラウザアラート。Android機種にも繋げられる。続く。 (hammer.mule)