[4271] 新型Vitzの巻

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《あるあるな出来事でした(笑 》

■わが逃走[194]
 新型Vitzの巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[55]
 宇宙と文字が好きですか?
 関口浩之





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■わが逃走[194]
新型Vitzの巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20170126140200.html

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年末、U氏から久々に連絡があった。

U氏はイラストレーションエージェンシーのプロデューサーだ。今風に言い換えるなら絵師の元締。

なにやら名古屋方面にある某世界的自動車会社の、新型『Vitz』のイラストを描いてほしいという。

しかも、実車発表前に、「見た人が実車へのイメージをふくらませる材料となりうるもの」とのこと。

おおお、こいつあ面白そうだ。

というわけで、さっそくラフ制作にとりかかった。

こういう仕事であえて私にお声がかかるってことは、エンスーの人が好きそうなスーパーリアルイラストや、水彩タッチのものを望まれているのではない。

アレだろう、間違いなく。アレとは、私がかれこれ18年近く描き続けている、まさにライフワークのアレですよアレ、『リッタイポ』シリーズ!

リッタイポとは……

1999年、独立してヒマだった齋藤浩がちゃぶ台に座り、真面目にデザインのことを考えていた。

絵が記号化されて文字になる。この文字を再び絵にするにはどうすべきか?

立体にすればいいじゃん!! という思いつきから、面白がって始めたビジュアル表現である。

たとえばこんなの(いずれも自主制作)。

「タイポグラフィ・エクスプレス 鮨」
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/26/images/001

「タイポグラフィ・エクスプレス 3」
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/26/images/002

ことあるごとに、『リッタイポ』を使ったグラフィックデザインの可能性をプレゼンテーションしていたのだが、なかなか思うように仕事にはつながらなかった。

しかし一昨年のD社、昨年のM社など、ここ数年少しずつ採用されることが増えてきた。そして今回の『Vitz』である。オレって遅咲きだったのか!

というわけで、こんなラフを描いた。

A案
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/26/images/003

趣味の世界全開! 坂本龍一の『未来派野郎』を聞きながら、カッサンドルに弟子入りしたつもりで一気に描いたのがこれ。

「新型」という文字を、自動車のカタチに造形し、並木道を突っ走る!

そういえば学生の頃、こんな大きさのハッチバックに乗ってたなあ。カローラII。後部座席を倒してB全パネル積んで、日本グラフィック展やJACAイラストレーション展に出品しまくったことを思い出す。

B案
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/26/images/004

ドボジャークの交響曲第9番『新世界より』第4楽章を聞きながら、ヨゼフ・ホホルに弟子入りしたつもりで一気に描いたのがこれ。

「Vitz」型自動車。実物大のモックを作ってプラハでロケしたい! そしたらたぶんこんな写真が撮れるはず。

情熱のA案、落ち着きのB案。どっちも正解だが、おそらくB案が選ばれるだろう。で、結果的にやはりB案に決定した。A案は熱すぎたな。

クライアントからのオーダーは、「フロントグリルまわりを実車に近い形状にしてほしい」のみ。

こういう仕事っていろんな人の意見が入りがちで、複数の意見を取り入れてるうちに、とんがった部分がまるくなり、最大公約数的なツマランものになってしまうことが多いのだ。

にもかかわらず、物言いは一点だけだった。これはひとえに元締U氏と、その向こうにいるディレクターの手腕。

正月休みが明けたと同時に、CG制作開始。自由度の高い仕事だから作業効率もイイ。

ところで私は『リッタイポ』制作に◯◯◯◯というソフトを使っている。

10年以上前の、しかもこういったエッジのきいたプロダクト的表現を最も苦手とする3Dソフトだ。

ではなぜ、あえて私は◯◯◯◯を使い続けるのか。その答えはふたつある!

ひとつは、今◯◯◯◯をこんなふうに使ってる人など皆無なので、ヒトサマの絵と似てしまう心配がないという点から。

とくに3DCGの場合は、ソフトの癖をいかにして消すかに神経を使うが、使ってる人が少なければ、そのあたりも気にしないで済む。

ふたつめは、他のソフトの使い方を勉強するのがおっくうだからである。おっくうがっていたら、◯◯◯◯に対応するOSがもう骨董品クラスになってしまい、このパソコンが壊れたらアウトという、危機的状況に陥ってしまった。

◯◯◯◯はもうずいぶん前に供給打ち切りになっているのだ。つまり、終わったソフト。

とはいえなー、ヴィンテージシンセに通ずる味わいのようなものを感じるのもまた事実。

なので、これはこれで大切に使いつつ、来月から□□□□という新しいソフトへ移行することを決意したのだった。ゆえに、Vitzのイラストは◯◯◯◯を使う最後の仕事になるだろう。

さて、今回のお題から仕上げのポイントを考えるに、文字としての可読性を維持しつつ、Vitzの顔つきを表現せよ、という感じかな。

なので、ヘッドライトとホイールは素材感と密度を意識した造形とし、それ以外はできるだけシンプルにまとめた。

静止画にも“寄りと引き”が大切なのだ。実際はカメラがズームするわけじゃないけど、見てくれる人の目をズームレンズのように誘導することは可能だ。

Vitzの顔、目に相当するヘッドライトで視線をつかみ、徐々に視界を広げて全体像すなわち「Vitz」という文字を読んでもらう設計。

できたー。いいじゃん。自画自賛。
https://bn.dgcr.com/archives/2017/01/26/images/005


『 Is this Vitz? 

某世界的自動車会社から「こんど出る新型車を発表したいのだが、カメラが壊れて撮影ができなかったので、ぜひ齋藤浩さんに描いていただきたい、なんとか発表日までにタノム! ついでに拡散タノム!」という依頼を受けたので、できるだけ実車に忠実に、写実的に描きました。拡散タノム!
#toyota #vitzhybrid #IsthisVitz? #IsthisVitz 』


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[55]
宇宙と文字が好きですか?

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20170126140100.html

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もじもじトークの関口浩之です。

僕は「宇宙と文字」が大好きです! たぶん、皆さんも本当は好きなのではないでしょうか??

「宇宙と文字」 この二つは非常に身近な存在です。でも、日頃、あまり気にかけてないと思います。

よくよく考えると、朝起きてから寝るまでの間(寝てる最中も)、私たちは宇宙と文字に囲まれて生活しています。宇宙と文字を目にしない日はないと思います。

実は「宇宙」と「文字」、密接な関係があるんです。宇宙が誕生したのは、約137億年前と言われています。もし、宇宙が誕生していなかったら、文字(記号が体系化されて人々の間で歴史や知恵が共有された)は誕生しなかったと言えます。

そして、文字が誕生したのは、今から4,000〜5,000年前といわれています。メソポタミアの楔形文字、エジプトの神聖文字(ヒエログラフ)、中国の甲骨文字などです。

もし、文字が誕生していなかったら、宇宙の起源の探求、天動説と地動説の論争、太陽系の解明、相対性理論の確立など、実現しなかったと思われます。

こじつけではありません。人類の歴史や英知は、文字を通じて情報を正確に多くの人に共有され、論議され、進化してきたのです。言葉だけは、伝承されることは無理なのです。

最近、「宇宙と芸術展」という、東京六本木で開催されていた展示会に足を運びました。このイベントを通じて、そのことを再認識しました。素晴らしい展示会だったのでレポートしますね。

●「宇宙と芸術展」とは?

六本木ヒルズの森美術館で、2016年7月30日から2017年1月9日まで「宇宙と芸術展」というイベントが開催されてました。

宇宙がテーマだったので、「絶対に行くよ」と意気込んでいたのが昨年の夏。開催期間が長かったので余裕で行けると思ってました。

ある日(2017年1月6日・金曜日)の出来事です。その日は、新宿のオフィスで急ぎの案件対応に追われていました。時計を見ると20時。まだまだ終わりそうもありません。

そのとき「あれっ、宇宙と芸術展っていつまでだっけ?」と、ふと思いました。Googleで調べてみたら「あれっ、あと三日で終了ではないですか」 しかも、次の日からの三連休はイベントでみっちり日程が詰まってました……。

あるあるな出来事でした(笑

でも、開館時間を見てみると、なんと、10:00〜22:00ではありませんか! 「今、会社を出発すれば一時間半、展示会を見学できる。残りの仕事は展示会の後でも大丈夫だよね」と、頭の中で瞬間的にシュミレーションできたので、さっそく行動開始しました。

●近代サイエンスの礎

一番の訪問目的だったのが、レオナルド・ダ・ヴィンチとガリレオ・ガリレイの展示物でした。

15〜16世紀に書かれた天文学のオリジナル手稿が、ガラスケースの中に展示されてました。

木星の衛星の動きを観察した手稿、太陽の黒点の観察の様子が書かれた手稿など、うっとりしながら眺めていたら動けなくなりました。残念ながら写真撮影は禁止でした。

でも、アイザック・ニュートンが17世紀に書いた『自然哲学の数学的諸原理』(Philosophi* Naturalis Principia Mathematica)』の活版印刷初版本と、チャールズ・ダーウィンが執筆した『種の起源』(On the Origin of Species)の1859年初版本は撮影はOKでした。  *はメルマガで表示できない字(ae)

その二つの書物を撮影しました。ジャーン!
https://goo.gl/HGBEm6


紙は古ぼけているけど、書籍の装丁、鋳造活字の書体と組版が美しい。

心と体が数百年前にタイムスリップした感覚でした。できれば中身を見たかったけど、もちろん、ガラスケースにしっかり収められていました。

ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』(単に『プリンキピア』とも呼ばれる)は、天体の運動や万有引力の法則を説明しています。すごく難解なようですが、近代科学における最も重要な著作のひとつと言われています。

書物で書かれていることはとうてい理解できませんが、僕が日頃、天体写真で使っている反射望遠鏡は「ニュートン式」なので、とても親近感を感じる時間でした。

『種の起源』は、誰もが学校で学んで知っているダーウィンの著作です。生物は常に環境に適応するように変化し、種が分岐して多様な種が生じることを説明している進化論のお話です。

もちろん、当時は遺伝子研究はなされてなかったわけで、そんな時代に、仮説・観察して体系化したのは凄いですよね。

どちらも、近代科学(物理学や生物学)の礎になった著作です。

●宇宙人はいるのか?

人類にとって、宇宙は永遠の謎であり、永遠に探求し続けるのではないでしょうか。人工知能(AI)がどんなに進化しても、その答えは出ないような気がします。いやっ、答えが出て欲しくない!

そして、宇宙は古来から信仰の対象になったり、神話や物語でもたくさん登場します。そして、芸術の対象にもなっています。

でも、皆さんが最も気になるのは「宇宙人はいるのか?」「UFOは地球にやって来たのか?」という疑問ではないでしょうか(笑

宇宙と芸術展のイベントでも「新しい生命観─宇宙人はいるのか?」という真面目な(?)テーマゾーンがありました。その展示内容もご紹介しながら、次回は、世界の歴史からみる宇宙人とUFOについてお話したいと思います。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステム
やプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(01/26)

●「ドローン・オブ・ウォー」を見た(2014、アメリカ)。ドローンを無人戦闘機に仕立てた、架空の戦争エンターテインメントだろうと思っていた。ところが違った。主人公の元F-16のパイロット、トミー・イーガン少佐は、戦争で徐々に心を病んでいき、やがて家庭が崩壊する。これはもうひとつの「アメリカン・スナイパー」だった。ほとんど同じような悲劇を描いている。違うのは、彼がリアル戦場ではなく、空軍基地のまったく安全な場所で「戦争」に参加し、「仕事」が終われば自分の家庭に帰るという、サラリーマンな日々を送っていることだ。しかも、彼が「搭乗」するのは、戦闘機のコクピットではない。

ラスベガス基地内のコンテナの中の疑似コクピットで、モニターを見ながらコントローラーでドローンを操作し、上官の命令でミサイルを発射する任務で、ほとんどオペレーターである。指示通りに操作を実行する人にしか過ぎない。戦闘機乗りにとって、こんなゲームのような戦闘行為は意気上がらないのが当然だろう。交戦なしだから、迎撃される可能性も、操作ミスや判断ミスによる危険性もゼロ。ただの一方的な殺戮に過ぎない。爆撃後はその現場をズームアップして、ちらばった死体の断片を確認して、一方的にゲームセット。こんな無慈悲で安上がりな戦争がいま進行中らしい。実話をもとにした映画だという。

タリバンの戦闘員らしき人物を家族ごと吹き飛ばし、その葬儀に来た人も全員、ミサイルの餌食にする。どうみても非戦闘員だろう。戦時国際法違反ではないのか。トミーは毎日、この人殺しゲーム盤を上官の命令に従って操作している。そのうち、射撃チームは国家情報機関の組織的配下となって、戦闘員とは思えない人々を捉えた画面でも、軍人ではない背広組から無感情に「撃て」と命じられる。判断はすべて上の人で、実際に命を奪うのは彼である。パイロットとしての自分の判断なら、自分の責任として結果は受け入れられるが、他人の判断で引き金を引き、それがもたらす大量殺人、これで神経を蝕むのはわかる。

郊外のマイホームから、ラスベガスの繁華街を抜け、基地のシミュレーション戦場に「出勤」し、散々人殺しをさせられ、また繁華街を抜けて家路につく。PTSD(心的外傷後ストレス障害)になるのも無理がない。その結果、夫婦関係にも亀裂が起こるのも当然だろう。ビバークする小隊を一夜、上空から見張り番するといったドローンの有効活用は納得だった。トミーが一度だけ、自分の意志で一人のイスラム人を狙撃する。これも納得。よくやってくれたと思う。これが現代の最先端の戦争の真実なのか。日本の遙か上空に、密かにこんなのが、滞空していないだろうか。その有無は探査できるんだろうか。(柴田)

「ドローン・オブ・ウォー」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B019F44B7O/dgcrcom-22/



●AED講習会続き。骨で守られている心臓に圧力をかけるため、5〜6cm沈むような凄い力が必要。つまり倒れている人の身体にも負担があるということで、骨が折れることは少なくないそう。折れた骨は治療できるが、命は戻らない。ガンガンやれとのお達し。

押す時の姿勢を検索していたら、マウンテンゴリラというページが引っかかった。「マウンテンゴリラのマネを真剣に行いました。ちょっと歩いて、そのままの姿勢で膝をつくと、ほぼ正しい胸骨圧迫の姿勢になっているという見本を見せました。」

「笑いながら見ていた子供たちも、興味を持ったのか、同じようにやってもらったところ、なんと、ほぼ90%の子供たちが『正しい姿勢』を取ることができていました。」

一生に一度も押す機会はないかもしれない。万が一押すことがあれば、マウンテンゴリラというキーワードが頭に浮かびますように。続く。 (hammer.mule)

胸骨圧迫の姿勢は「マウンテン・ゴリラ」
https://higesan.jimdo.com/%E8%83%B8%E9%AA%A8%E5%9C%A7%E8%BF%AB%E3%81%AE%E5%A7%BF%E5%8B%A2%E3%81%AF%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%A9/