《僕、まだ生まれていません。》
■わが逃走[196]
新幹線の幼虫の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[57]
「It's a Sony展」に行ってきました
関口浩之
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■わが逃走[196]
新幹線の幼虫の巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20170223140200.html
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8年くらい前だったか、銀座を歩いていると、ふと『天賞堂』の看板が目に留まった。
天賞堂といえば絢爛豪華な宝石や腕時計を扱う老舗として有名だが、私が最初にその名を知ったのは、小学4年生のときに立ち読みした『鉄道ファン』の雑誌広告だ。
超精密に再現されたD51型蒸気機関車の真鍮製鉄道模型。値段も腰が抜けるほど高価だった。いちどだけ父に連れられて店内に入り、夢のような名列車の数々をショーケースごしに凝視した思い出がある。
それ以来、ここは紳士のための高級店、というイメージが定着しているわけだが、いいかげん私も立派な中年男になっていたので、意を決しておよそ四半世紀ぶりに入ってみたのだ。
緊張とは裏腹に、絢爛豪華宝石売場と鉄道模型売場は入口が別だった。そのあたりさすがである。当然のことながら、模型売場の方が敷居が低い。
で、久々に美しい機関車の数々をうっとりと眺めていると、なにやらカワイイものと目があった。
蚕の幼虫だ! いや、新幹線のぬいぐるみだ!! しかも0系!!!
ほどよくディフォルメでされ、大きさ的にもだっこするのにちょうどいい。次の瞬間、「これください!」と買ってしまった。
天賞堂の紙袋を下げて銀座の町を歩くなんて、セレブになった気分だ。
で、それ以来新幹線の幼虫と暮らしている。
私は物心ついたときから“やわらかいもの”が好きで、まくらやおふとんは、人生を共に歩むパートナーだと思っているが、新幹線の幼虫もそれに相当する。
子供の頃、「もうぬいぐるみは卒業しなさい」と言われ、そのときは親の顔を立てて素直に従ったが、そんな私も大学生の子供がいてもおかしくない年齢だ、構うこっちゃねえ、と、だっこして寝ている。
すると、けっこうな確率で不思議な夢を見るのだ。
夢◎その1
毎朝の日課は幼虫に餌をやることで、私が桑の葉をケージに置くと、腹を空かせた新幹線たちがわっと寄ってきて、しゃりしゃりと音をたてながら旨そうに食む。
「たーんとおあがり」とか「元気に育て」とか言いながら私は桑の葉を与えるのだ。
どうやら私は新幹線の養殖をしており、大きく育てて国鉄に納品することになっているらしい。
世の中はもっと大きなヒラタシンカンセンや、海外産のヘラクレスオオシンカンセンなどが人気で、年々0系の需要は減る傾向にあるようだが、日本の風景に似合うのはやはり0系以外には考えられない。
その強い信念のもと、私は新幹線を育ててゆくのである。
最後に冨田勲の「新日本紀行」が流れて目を覚ます。
夢◎その2
うちの新幹線の幼虫は「ひゅーん」という声で鳴く。一緒に暮らし始めて何年も経つが、なかなか大きくならないなあ。でも私にはすっかり懐いて、けっこう楽しい毎日だ。
ある日、幼虫とテレビを見ていると、ドラマの中で「ひゅーん」という音とともに新幹線が画面を横切った。
それを見た幼虫も「ひゅーん」と鳴く。そして何かを訴えるような目で私を見るのだ。どうやら新幹線に乗りたいらしい。
そういえば、幼虫はまだ新幹線に乗ったことなかったな。ではいちど乗りに行こう。
ということになり、ある晴れた日の朝、下りのひかり号に乗り込んだ。自由席はガラ空きで、進行方向右側の席に座った。
新横浜を過ぎたあたりで駅弁を食べる。崎陽軒のシウマイ弁当だ。今はいくらか知らんが夢の中では700円だった。
こんなに充実した内容でこんなに旨くて700円か。さすが崎陽軒だ。
幼虫も食べたそうな顔をしていたので、弁当のフタにごはん少々とシウマイを乗せてやると旨そうにぺろりと食べた。
へー、新幹線ってシウマイ食べるんだ……。
そうこうしているうちに富士山が見えてきた。幼虫を窓の高さまで持ち上げてやると「ひゅーん、ひゅーん」と鳴いた。
よほどうれしいとみえる。この子もはやく大きくなって、せめて小田原くらいまで往復できるようになるといいな。などと思う私。
すると車掌さんが検札に現れた。ひざの上の新幹線を見て、これは何か、と聞くので新幹線の幼虫だと答える。
車内持ち込みの許可を得ているかと尋ねるので、何言ってるんですか、これは新幹線ですよ。新幹線が新幹線に乗ってなにが悪いというんです?
みたいなやりとりがつづいていく。その後どうなったかは覚えていないが、まあ楽しかったのでよしとしよう。
それにしても、こんな夢を見るなんて愉快だなあ。と思っていると、隣で寝ていたごく親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)も新幹線を育てる夢を見たという。
なにやらおしりの扉がサッと開くとポロっとウンコをして、またサッと扉が閉じたとのこと。彼女はその様子を詳細な図とともに観察日記に記録したのだそうだ。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[57]
「It's a Sony展」に行ってきました
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20170223140100.html
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もじもじトークの関口浩之です。
すごく寒かったり、春のように暖かくなったり、嵐のような強風だったり、めまぐるしく天候が変化するこの頃ですが、体調など崩してないですか?
睡眠と栄養をしっかりとって体調維持していきましょう。
そういう僕はこのところ睡眠不足が続いるので、仕事が一段落したら、がっつり睡眠とりたいと思ってます。
昨晩は、欧文書体の日本人第一人者である、ドイツMonotype社のタイプディレクター小林章さんをお招きして、「欧文フォントの読み方」をテーマとしたイベントを開催しました。
印刷物やサインシステム(案内板など)を活字で表現するにあたり、見やすくて美しいとはどういうことなのか? その背景は? などを初心者でも分るよう、具体的な事例を紹介いただきながら勉強しました。
平日の夜にもかかわらず、約100名の方にお集まりいただきました。次回のもじもじトークでは、そのイベントの様子をレポートしますね。
さて、今日のテーマは文字ネタではなく、「It's a Sony展に行ってきました」
をおおくりします。
銀座ソニービルで開催されていた「It's a Sony展 Part-1」、最終日の2月12日(日)に見学してきました。
●SONYの企業ロゴの歴史
まずは、これをご覧ください。
https://goo.gl/oS4epf
会社の顔である企業ロゴ、この約60年間で少しづつ変化を遂げています。その時代にあったデザインに少しづつ調整していますね。
1955年に作成されたロゴ、なかなか素敵ですよね! 僕は好きです。
●展示会で気になった二つの家電製品
次に、これをご覧ください。
https://goo.gl/pye3GX
このテレビ、すごくないですか! 左下に小さなテレビが付いています。おっ、これなんだろう……。実は、オプション付属品のビデオレコーダー(U規格)のモニター画面のようです。
ベータ方式対VHS方式のビデオ規格戦争よりも10年前ぐらい前の1974年に、一般家庭用テレビレコーダーがあることを僕は知りませんでした。
でも、トリニトロンのテレビとビデオレコーダーの両方揃えると、70万円ぐらいになります。1974年の70万円はかなりの高級家電ですね……。
それから、電気炊飯器、なんかすごい……。本当にご飯が炊けるのだろうか。どうやら、水加減が非常に難しかったようです。
●ソニーという会社
日本を代表する企業、ソニー株式会社(Sony Corporation)という電機メーカー、ご存知ない方はいないですよね……。
しかしながら、SONYの前身の会社名、ご存知でしょうか?
正解は、東京通信工業株式会社です。
略して東通工と言ってました。創業は1946年(昭和21年)なので終戦直後です。僕、まだ生まれていません。
その後、テープレコーダーやトランジスタラジオの開発、製品化で、世界ブランドとして有名になりつつある、1958年(昭和33年)に東京通信工業株式会社からソニー株式会社に社名変更しました。
ですので、東通工の創業から数えると、昨年が創業70年だったのです。
僕は家電オタクでありオーディオオタクですので、過去にソニーの歴史本を何冊か読んだことがあります。なので、東京通信工業の社名が、すぐ浮かびあがったのです。
創業者は、みなさんもご存知の盛田昭夫さんと井深大さんです。日本を代表する起業家であり、偉大なるイノベーターです。僕が社会人になった1980年代、盛田さんと井深さんは、世界に通じるビジネスマンとして大活躍していたので、尊敬する社会人の大先輩でした。
●わくわく感のある工業製品
この展示会では、創業時の製品やテクノロジーが一〜二階に展示されていて、階段を登るにつれて、現在の製品にたどり着くようになってました。
企画として、すごく良く出来ていて感動しました。正直なところ、1960年代から1980年代の製品には、わくわくするものがたくさんありました。
ということで、わくわくした製品を並べてみました。
https://goo.gl/wDlFLJ
三枚目の写真の「ラテカセ」、すごくいいでしょ。テレビ付きラジカセです。当時、すごく欲しかったけど、そんなお小遣いはありませんでした。
ソニーに限らず、電気メーカー各社出てくる最近の新製品は、普通の優等生だったり、どんぐりの背比べに見えて仕方ありません。
スカイセンサーやラテカセ、デンスケのような、わくわく感のある家電やガジェットが、日本企業からどんどん出てきて欲しいなぁと思う今日この頃です。
「It's a Sony展 Part-2」
2月22日(水)〜3月31日(金)
http://www.sonybuilding.jp/ginzasonypark/event/
では、来週からしばらく、文字ネタを連載したいと思っています。お楽しみに。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。
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編集後記(02/23)
●昨年末からまた書棚の整理を始めた。大規模な整理は、引っ越してきてからほぼ二年に一度はやっている。わたしの本たちは保存状態が良好なので、経年のわりには美しい。本を捨てるのはいやだ。誰かに役立ててもらいたのでオークションに出品している。値段をつけるときはアマゾンのマーケットプレイスを参考にする。ここはあらゆる中古本の値段が出ている。しかし、驚愕の値段ばかりである。わたしが大切に保存していた愛する本たちが、ただ同然、なんと最安が1円で売られている。なんだか自分の価値観が否定されているようで、いやじっさいそうなんだけど。なぜだ! どういうことなんだ。グヤシイ。
そこで、武田徹「なぜアマゾンは1円で本が売れるのか」を読んだ(新潮新書、2017)。わたしの疑問にストレートに答えてくれる、願ってもない本である。第一部・デジタルは活字を殺すのか、の第二章にそれがあった。
「なぜ1円で売れるのか。アマゾンのマーケットプレイスで本を売る業者に対してアマゾンは配送料として本1冊に対して257円を払う設定をしている(日本国内の場合)。しかし実際には成約すると成約料として本の場合はそこに1冊につき60円(プロマーチャント契約をしていない小口出品業者の場合はこれに基本成約料100円が上乗せされる)手数料として販売価格の15%が引かれるので1円で売って約98〜198円の収入となる。業者が実際に支払う送料と仕入れ価格の合計がこれ以下であればかろうじて儲けが出るが微妙なところだろう」
いやはや、読点のない怒濤の説明。アマゾンはコンテンツ出品者と購買者をつなげるメディアであり、売買の場を提供するのが業態だ。マーケットプレイスでは、その場で成約が増えれば増えるほど、アマゾンが儲かるビジネスモデルである。だから成約が増えるように、プラットフォームが設計されている。安値順に掲載する仕組みは、より安値での販売をコンテンツ出品者に促しているわけである。しかし、こうなると本の価値は何なんだと思う。わたしがヤフオクに出品する本たちの価格も、それを参考にするから、まことに不本意である。
ところでこの新書、思い切りキャッチーなタイトルだが、その回答となる記事はほぼ見開き2ページでお終い。本当の内容は、サブタイトルの方の「ネット時代のメディア戦争」である。コンテンツ陣営とメディア陣営の攻防戦を描いたノンフィクションだ。平成版「メディアの興亡」といってしまったら誉めすぎだろうな(本家の昭和版は杉山隆男の名作)。なおこの本は、現在マーケットプレイスで251円から。1円で叩き売りされていたら笑えない話。 (柴田)
武田徹「なぜアマゾンは1円で本が売れるのか」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106107007/dgcrcom-22/
●天賞堂を知らなかった。/大阪のソニータワーがなくなってずいぶん経つなぁ。/CCPからステカセキングとスプリングマンのフィギュアが出る。今の子はステカセキングを見てもピンと来なさそう。
/ずいぶん前にマケプケで1円販売していたことがある。ライバルの少ない本なら、最安値を気にせず高めに出す。「喫煙しません」と書くと、それでも先に売れたよ。
/レターパック。厚手の封筒が売られていて、配達追跡サービスのついているもの。ライトは郵便受けに、プラスは手渡し。プラスは重さ制限がない。以前はエクスパックという名前だった。
朝に投函したら、府内なら夕方には届いている速達サービス。だったはずなんだが、レターパックに名称変更後は、速達でなくなっているらしい。
夜に投函し、集荷が午前。近くの大きな郵便局に届いたのが昼過ぎ。そこから府内の別の大きな郵便局に届いたのは翌日の夜明け前。そして持ち出されたのはそれから数時間後。これなら普通の郵便と同じ扱い。
追跡サービスは不要だったので、普通に速達にしておけば良かったと悔やんでいる。集荷対応だし、夜中に投函に行く必要もなかったなぁ。 (hammer.mule)
天賞堂の鉄道模型サイト
http://models-store.tenshodo.co.jp/
ソニー、大阪・梅田に新ショールーム 心斎橋ソニータワーは売却(2004)
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0406/17/news048.html
ステカセ、スプリングマン、ブラックホール
http://blog.livedoor.jp/ccp/archives/52096433.html
CCP
http://www.ccp.jp/
「引き続き」レターパックを販売しておりますので
http://www.post.japanpost.jp/service/expack/
ライトとプラスの2系統にしただけだと思ってたよ……