《本当の自分なんて存在していない》
■羽化の作法[40]
七転八倒時々無気力
武 盾一郎
■LIFE is 日々一歩(53)[コラム]
ドラクエのCMをきっかけに自分の棚卸しを考えてみた
森 和恵
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■羽化の作法[40]
七転八倒時々無気力
武 盾一郎
https://bn.dgcr.com/archives/20170606110200.html
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釈放された翌日9月10日、美術予備校・彩光舎に通ってた時の講師だった通称「寺さん」が自宅まで来てくれた。寺さん曰く。「オマエの意とは違う方向にいってしまう可能性がある」と。その日の夜はタケヲと三人で午前2時ごろまで話した。
翌日、ラブホテルに絵を描く仕事を頂いた「有限会社○○○○○」の事務所にまで行き、社長と話をした。社長は「権力に逆らっても勝ち目はないんだよ、武君…」と諭してくれたのだった。
逮捕・拘留の整頓もつかないままバタバタとするのだが、9月12日の制作ノートにはこんなことが記されている。
○
私は思ふ。
私の絵は外側からの刺激で描く。
つまり、私は複雑な組合せを持った鏡。
私の絵は鏡。マクロからミクロまでを写し出す鏡。
私の内部から出て来たものではない。
鏡の角度、カーブの度合い、鏡の性能、大きさ、組み合わさり方が、偶然、他人から見たらユニークなのだろう。
しかし鏡の奥には何があるのだろう。
○
逮捕されてまで絵を描いた事実だけ見ると、ものすごく確固たる思想信条がありそうだけど、本当は、僕は「自分などないかも知れない」と思っているのである。
「思想に基づいて行動する」ことに対して、自分は疑問を抱いている。そういったものはすべて、無意識にある欲望を思想を借りて言い訳しているに過ぎない、と。
では、何に基づいて動きたかったのか?
嗅覚とか感情とか、或いはただの反応であるとか、そういった「剥き出し」でありたいと思っていた。
理由や整合性の了解の前の「衝動」で動きたかった。
だがしかし、「剥き出し」になって立ち顕れるものは、本当の私の「正体」だろうか? 「衝動」に任せた行動は私の核(コア)なのだろうか?
本当の自分があるとする。あって欲しい。いや、あるはずだ。
しかし、その本当の私の核(コア)には、沢山の被せ物が幾重にもしてある。価値観だとか、プライドだとか、常識だとか、固定概念だとか。
そういったものがコアの上に積み重なって、私は世界と折り合って生きている。
だから、その積もった落ち葉のような邪魔なものを剥がして、コアに向かって掘り進めて行かなければならない。
そうすれば、いつか、「本当の自分」の核(コア)に辿り着く。
そんなイメージをずっと抱えていた。
が、同時に「本当の自分なんて存在していない」という、直感めいたものも抱えていた。
自分は乱反射している鏡に過ぎない。そして鏡の奥は「空洞」なのだ。本当の自分は「いない」のだ。
この感覚は幼少の頃からあった。
友達と遊んでいる時、友達は普通に自分の感想を述べる。「暑い」とか、「それは面白い」とか。ごくごく当たり前のことなのだが、その姿を見て「ああ、この人は自分が存在してると確信してるのかあ」と、このような言葉として思考できてた訳ではないが、とても不思議に思っていた。
「とてもじゃないけど、自分にはそんな風に自分が存在していること当たり前のように感じることができない」と常々感じていたのである。当時は子供なので「存在」と言う言葉は使ってなかったが。
このアンビバレンツなビジョンが常に自分にあり、それが自分を苦しめていたし、またそれが絵を描くモチベーションでもあった。
当時の「自分にとっての芸術」は理由の見つからない「叫び」だったが、それは「私はここにいる」という当たり前のことだったのだろう。
その当たり前が自らの意識によって奪われていたり、または周りの状況によって疎外されて奪われていたりすることがあって、そこから「私」を取り戻そうとした運動としての絵画だったのかも知れない。
とはいっても、当時の自分はそうは捉えてなかった。いっぱいいっぱいな感じで忙しくしていた。
釈放後もすぐにイベントでライブペインティングがあったり、カメラマンの写真展用に段ボールハウスを制作したり、その展示で絵を描いたら苦情が来たり、前向きに張り切ってるかと思えば、時々無気力になったりと七転八倒していた。
●9月25日(水)の制作ノートより
無気力症の特徴
1)無意味にうろうろする
2)決断をせまられてると頭の中が白くなる
3)「やらなきゃ」という思いとうらはらの行動「何も出来ない」
4)全身がだるくなる
5)耳鳴りがする
6)寝返りをうたない
そして10月。神戸の占い館を経営している社長さんから「何か絵を描いてくれないか」と連絡があって、神戸に出かけることになった。(つづく)
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■LIFE is 日々一歩(53)[コラム]
ドラクエのCMをきっかけに自分の棚卸しを考えてみた
森 和恵
https://bn.dgcr.com/archives/20170606110100.html
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こんにちは! 森和恵です。梅雨までカウントダウンな感じですが、ここ数日すがすがしい天気が続いてます。天気で気分が左右されると言いますが、まさにそんな感じの朝ですね。
……猛烈忙しくて、化粧したまま寝落ちをしてしまった自分が信じられません(笑)せっかくもらった、すがすがしい気分のままに今日を乗り切りたいと思います。
さてさて。思うところあって、今回は久しぶりのコラムです。
《自分の棚卸し》、つまり、これまでの人生やキャリアを振り返る大切さについて語ります。
●きっかけは、ドラクエのCM
Twitterのタイムラインでふと見かけた、ドラクエのこのCM。
【『ドラゴンクエストXI』特別WEB映像「あの頃、僕らは勇者だった」】
30周年を迎えるドラクエが、「あの頃」を振り返るストーリー仕立てになっています。
オープニングで、次々に登場する歴代のドラクエオープニング映像。注意してよく見ていると、映像を映し出すマシンがブラウン管から液晶テレビに移り変わっています。
懐かしさと共に、若いときの不安や恐れを知らないあの頃を思い出して、ちょっと泣けました。
「昔のわたしは、何をしたくて生きてたんだろう?」と思ったのが、棚卸しをしてみようと思ったきっかけでした。
●「自分の棚卸し」って、どんなことをするんだろう?
とはいえ、棚卸しなんてこれまでしたことがありません。とりあえず、「自分 棚卸し」というキーワードでググってみました。
そうしたら、ページが出るわ出るわ……。みんな、悩んでるんですね。主に、転職したい人向けのキャリアの棚卸しについて書かれているページが、多数見つかりました。
それをかいつまんで読んでみて、こういうことをしたらいいんだなというのをまとめてみます。
《キーワードを洗い出す》
自分を表すキーワードを紙に書き出します。マインドマップ方式でつなげていく、価値感じるものや、逆に嫌だと感じるものを書き出すなど、さまざまなテーマで自分が関心のあるキーワードを洗い出します。
頭の中で漠然と思っていてもつながらないので、キーワードを書き出すことで、点から線をつないでいくように思考をまとめることができるのでは? と思いました。これが一番手軽な始め方かもしれません。
《過去の自分の整理》
これまでどんな仕事をしてきたかの職歴を書き出す、達成感・楽しさを感じたことや、逆に失敗や二度とやりたくないことを書き出す、等々自分の過去を振り返ってまとめ、視覚化します。
いかにも転職したい人向けの作業ですが、思い返すと忘れている仕事もあったりして、やってみるとキャリアが整理されるのではと思いました。
よく人に「講師の仕事を20年以上やってるって、具体的にどんなこと教えてるの?」と聞かれることが多いので、一度徹底的にリストアップして、自分のサイトに掲載してもいいなぁと思いました。
何をやってる人かがアピールできてないと、お仕事の依頼も来ませんよね。たしかに。
《現在の自分の整理》
過去ではなく、いまの自分の思いを整理するというのもありました。得意なこと・不得意なこと・楽しいこと・やりたくないこと・やりたいこと・やるべきことなどを書き出します。
「自分の棚卸し」と聞いたときに、この作業を一番先に思いついたのですが、過去の自分を整理してから、いまの自分の整理をする方がよいのかもしれないなと思います。いまの自分に目線を向けすぎると、視野が狭まりそうですよね。
《世の中のことを分析》
こんどはベクトルを外へ向けて、「世間さまからみた自分の評価」のようなことをします。
ニーズはどこにあるのか? を考えて、自分のポジショニングを探ったり、あこがれの先輩や同業の人と自分を比較して、弱みや強みを浮き彫りにするなどをします。
……と、検索でヒットした多数のページを読んで、たぶんこんな感じじゃないかな? をまとめてみました。具体的に「こうすればいいよ」と指南してくれているページは少なくて、みなさん試行錯誤してるんだなぁと感じました。
いくつか記事を読んだ中で、これは使えそうだなと思ったページをいくつか紹介しておきますね。
【ワークシートで自分の価値観を見える化:日経ウーマンオンライン「ジメジメの梅雨を吹き飛ばせ!」】
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/special/20100519/107137/
【創業ナビ>創業に役立つ資料集|大阪産業創造館】
https://www.sansokan.jp/sogyo/material.html
【将来不安だけど面倒臭がりな人向け! 簡単にキャリアの棚卸をする方法 - paiza開発日誌】
http://paiza.hatenablog.com/entry/2014/12/25/%E5%B0%86%E6%9D%A5%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%A9%E9%9D%A2%E5%80%92%E8%87%AD%E3%81%8C%E3%82%8A%E3%81%AA%E4%BA%BA%E5%90%91%E3%81%91%EF%BC%81%E7%B0%A1%E5%8D%98%E3%81%AB%E3%82%AD%E3%83%A3
●そこで「自分の棚卸し」をしてみる
今回、ドラクエのCMをきっかけに思いついた「自分の棚卸し」ですが、ここまで調べてやってみようという気になれました。
フリーランスになってからいままで、仕事の依頼がほぼ途切れずに来ていたので、目の前に来る仕事をさばくのに精一杯でした。自分の振り返りなんかしたことがなかったのを、改めて恥ずかしいことだなと思います。
若い頃から「死ぬまでに何かを残したい」と思って生きてきたのですが、たんに流されて生きてただけのようです。
いま、ふんわりと思っている次のステップは、やはり「人に教えるという仕事がしたい」ということです。
仕事に翻弄されて、スキルアップを望みながらも技術を学べない社会人の方々に、実践的ですぐに現場で使えることを伝えていきたいなと思います。若い学生の方より、社会人の方々にという気持ちは、昔から変わりませんね。
どうすればそれが実現するのか? をこれまでの私の棚卸しをしながら、探っていきたいなと思います。
自分の内側をすっきりと整理して道筋を立て、あの頃のわくわくを、明日を恐れない自分を取り戻したいです。
……ということで、今回はここまで。
次回は、5月に登壇したイベントの感想などをお届けしようかなと思います。ではまた、次回お目にかかりましょう!
(^^)
【 森和恵 r360studio 〜 Web系インストラクター 〜 】
site: http://r360studio.com
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Twitter: http://twitter.com/r360studio
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編集後記(06/06)
●ヒッチコックの「裏窓」を見た(1954/アメリカ)。カメラマンのジェフは事故で負傷し左足にギブスを装着、車椅子生活を送っている。もっのすごくゴージャスな美人・リサが恋人で、結婚を迫られるもいまいち煮え切らない。身動き不自由なものだから、裏窓から向かいのアパートを眺めるしかない。
そのアパートの住人たちの生態はバラエティに富んでいて、仕事で使うカメラに望遠レンズを装着し、気になる住人をズームアップして観察している。さらには双眼鏡も使う。窃視は犯罪行為だが、悪意はないひまつぶしだからいいだろうと思っているらしい。まあ、実験的なコメディだからそこは追及しない。
正直、覗き見は楽しい。一方的な知り合いの一日を、相手に気づかれずに観察している。肉眼で、レンズを通して、双眼鏡で、わたしはジェフの視点で見続ける。覗かれる対象の人たちはいつものように動き、会話しているが、もちろん聞こえない。サイレント映画を見ている感覚だ。そこにはドラマがある。
下着姿で踊るバレエダンサー、孤独なオールドミス、新曲つくりに奮闘する作曲家、いつも口論している仲の悪そうな夫婦、新婚夫婦、なぜかベランダで寝る愛犬家の老夫婦など、それぞれの生活が一斉に展開する。アパートは巨大セットで、出演者一人一人がレシーバーをつけて、監督の指示で動いたという。
アパートの路地の向こうには人や車が通る道があって、その向こうにはスナック・バーがあってと、じつにリアルである。そこもドラマの舞台になる。やがてジェフは仲の悪そうな夫婦の部屋がいつもと違うことに気づく。ベッドにいる女房の姿が見えず、夫は夜中の外出など、なにやら不審な行動をとっている。
ジェフが男を注視していると、包丁と鋸を新聞紙に包んでいた。殺人が行われたとジェフは確信する。男の名はラーズで殺された妻はアンナ。って、リサが大家から聞き出したのか。確かに怪しい行動をとるラーズだが、もう殺人犯と断定し、友人の刑事に電話したりして。これ絶対早とちりだと思うのだが。
リサは疑惑の花壇を掘り返し、ついにはラーズの部屋に窓から侵入、って犯罪だよ。このへんはジェフの見た目だから声は聞こえない。リサは戻って来たラーズにつかまり万事休す。ジェフは警察に電話、リサは不法侵入で連行される。窓辺に現れたラーズは、ついにジェフの姿を捉える。ヤバイ、見つかった!
ラーズは必ず殺しに来る、そう考えあたふたするジェフだが、ここに至ってもまだジェフの間違いではないかとわたしは思っていた。あまりにも分かりやすいからだ。これはヒッチコックの映画である。一番怪しいのが犯人なはずがない。だいいち、まだ「殺人事件」は成立していないのだから、犯人も何も……。
お約束通りにやって来たラーズは「一体何が望みだ」と聞く。ご尤もである。殺人事件などなかった、で終わるのかと思ったら……。面白かったが、裏窓ねえ。彼の部屋の構造がよくわからないが、通路側に表窓があるとは思えないんだけど。生活している部屋の大きな窓を、裏窓と呼ぶのはなぜだろう。ヒッチコックは、作曲家の部屋で時計を修理する男の役で堂々と現れた。 (柴田)
ヒッチコック「裏窓」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B008MITZA8/dgcrcom-22/
●自分の棚卸し、しなきゃなぁ……。「何をやってる人かがアピールできてない」とはよく思う。書き始めると、長々と自分の反省点や欠点ばかりを挙げてたわ。逃したチャンスとか、そういうのも。
新しいことを学んでいる時が一番集中できるし、楽しい。好奇心が満たされ、他人のアレコレが介在しない。何時間でもやれる。でも楽しかったなぁで終わっちゃうことが多い。
今も学びたいこといっぱいあるんだけど、仕事に直結しないから、先に仕事関係を学ばなきゃな〜なんて思ったり。今の仕事は、好奇心を満たすためにはじめたことが発展したんだよなぁ。
仕事の勉強したら、効率は良くなるだろうし、やれることも増えるだろう。わかってるんだけど、ワクワクしないんだなぁ……。「すべき」より「したい」をやりたい自分との戦いはツライ。
というか、自分の人生において、「すべき」な勉強ってあんまりしたことないんだよなぁ。解けるのが面白い、知られて面白い、読書だから面白い、とかそんなんばっかり。あ、またネガティブな方向に(汗)。 (hammer.mule)