《やっぱり「触感」が大事》
■ショート・ストーリーのKUNI[218]
Meは何しに大阪へ?
ヤマシタクニコ
■3Dプリンター奮闘記[99]
仕事は3Dプリンター、ワンフェスは手作り
織田隆治
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■ショート・ストーリーのKUNI[218]
Meは何しに大阪へ?
ヤマシタクニコ
https://bn.dgcr.com/archives/20170713110200.html
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私はドンゴリラ星の第一大臣である。遙か彼方のドンゴリラ星から、スペースシップに乗ってやってきた。ていうか、いまやって来てるところだ。
窓からは地球が見える。小さな星だ。こんな小さな星のくせに生意気なやつらだ。いや、そんなことは思ってはいけない。
ドンゴリラ星は平和の星だ。他者をおとしめたりけなしたり、争いを挑むようなことはしない。たとえ地球の文明が、われわれのそれよりずっと遅れていたとしても。
スペースシップは快調に進む。
──間もなく右方向。その先、直進です。
ナビも快適だ。どんどん進む、進む、進む。
──目的地周辺です。音声案内を終わります。
うむ。あともうちょっとナビってくれたらいいのだが。
しゅぽしゅぽしゅぽ……。たよりない音を立ててスペースシップが止まる。私はスペースシップを降りて、あたりをきょろきょろ見回す。はたしてそれらしい看板が見える。
「失礼します」
「らっしゃい!」
「私はドンゴリラ星からやってまいりました、第一大臣です。第一大臣というのは主に外交関係担当と思っていただければけっこうです。で、さっそくですが、実はわれらがドンゴリラ星では、先頃地球で制作された映画について、これはさすがにひとこと言わないわけにはいかんだろうという声が高まっており、私がまいった次第です」
「はあ?」
「その映画というのは『メッセージ』という作品です。これに出てくるエイリアンは、明らかにわれらドンゴリラ星人をモデルにしていると思われます。なのに、重大な点で間違っている。
あの映画の中ではエイリアンは『ヘプタポッド』と呼ばれるように7本足です。しかしわれわれは9本足。9本足だからこそ高度な文明を築くことができたのです。7本足では困る。大変困る。これはドンゴリラ史に関わる問題なのです」
「あのな」
「はい」
「何をごちゃごちゃゆうてんのか知らんけど注文は何やねん」
「ちゅうもん?」
「注文やがな! うちはラーメン屋やで。何ラーメンにするか、聞いてんねんがな。塩、みそ、とんこつ、チャーシュー大盛り、季節限定ハモのせに冷麺、激辛。なんでもあるで。何にすんねん」
「ラーメン屋、さんですか?」
「何やと思てんねんな」
私は第5足でポケットをまさぐり、そこから取り出したメモ帳を第4足でめくり、第6足で鉛筆をなめながらメモの態勢を整え、たまたま脇腹がかゆくなったので第2足でかきながら言った。
「ドンゴリラ星の第一大臣としましては、地球に関する小説や映画を観てどうすればよいか考えました。その結果、たいていのエイリアン関係の映画では、大統領とやらが出てきてリーダーシップを取るらしい。なので大統領に会うのがよかろうと」
「確かにうちは大統領という名前やけどな」
「では間違ってはないのですね」
「あほか! 間違いないどころか、もろ間違うてるやないか! なんでおれがエイリアンの相手せなあかんねん!」
私はがっかりしてスペースシップに戻った。地球人ごときにあのように言われる筋合いはない。だが、自分より劣る者たちを責めて何になる。抑えよう。
スペースシップのフロントには、「駐車違反」と書かれた黄色いものが貼られていた。赤い円に斜めの直線を組み合わせたマークも描かれている。これは何だ。まあいいだろう。私はシートに座り、部下に電話してみた。
「あ、第一大臣ですか! いまこちらから電話しようと思ってたところですよ!」
「え、なんで」
「大臣、スペースシップを間違えて乗って行ってます。それは大阪観光用のスペースシップです!」
「え、じゃあ」
「ナビも大阪仕様ですし、燃料もそんなに積んでないので、そこからあまり遠くへ行けません」
「それでか。『大統領』で検索しても『ワシントン』で検索しても『アメリカ』で検索しても、ラーメン屋とか靴屋とか喫茶店しか出てこない」
「すみません、ひとこと私に声をかけてくださればよかったんですが。まあ仕方ないので大阪観光楽しんできてください」
ぶつっ。電話が切れた。どっちが部下だかわからない。
私はがっかりした。とてもがっかりした。ドンゴリラ星の名誉が自分にかかってると思い、張り切ってやってきたのに。私は第1足でティッシュを一枚取り、第3足を添えて鼻をかみ、第7足でそれをくずかごに投げ入れた。
なかなか第8足とか第9足が出てこないなと思うかもしれないが、その2本は予備である。もちろん、予備こそが大事なのだ。予備がないところに文明の発展はない。たぶん。
私は第6足と第7足を胸の前でからませ、しばし考えた。大阪とはいえ、私にできることはないのか。ドンゴリラ星のために。スペースシップの運転席に座ったまま私はさらに考えた。
すると、なんだかませた、鼻持ちならない感じの小学生男子と思える地球人がやってきた。窓からのぞきこんで言う。
「おじさん、何してるんですか?」
「私は高度な文明を持つドンゴリラ星からやってきた。誤解に満ちたドンゴリラ星人のイメージを修正し、正しい姿を伝えたいと思ってね。だからアメリカの大統領に訴えようと思ったのだが、なかなかうまくいかないのだ」
「ふうん。まあ何をしようとおじさんの自由だから別にいいんですが、それは間違ってると思います」
「え、どういうことだい」
「アメリカであれ中国であれ、どこかひとつの国が世界の王様として君臨しているわけではありません。地球に何か起こったときは、みんなで話し合って解決の糸口を探すからです」
なんとすばらしい。地球にもこんなことをいう子供がいたとは!
「そうか。では私はどうすればいいのだ」
「おじさんが行くべきところは、国際」
そこでバイクがブオーッとやかましく通り過ぎた。通り過ぎたときにはませた小学生はもういなかった。
仕方ない。私はナビに「国際」と入れた。もちろん、ろくな結果にはならなかった。スペースシップは勢いよく舞い上がったと思うとあっという間に減速し、しゅぽしゅぽしゅぽと止まった。ナビが告げる。
──目的地周辺です。
そう言われて降りてみると、そこには大きなきらきらした派手な店があり、時たま客が扉を開け閉めすると、ヒュンヒュンジャンジャンとものすごい音がもれる。ああ、これがうわさに聞いていたパチンコ屋というものか。
「え? 国際? あー、千日前国際劇場な」
「確かにここにあったけど、もうのうなったわ」
「なくなって何年もたつで。なあ」
「最近はシネコンばっかりでおもろないなあ」
「途中から入られへんしなあ」
「昔はよかったなあ」
道行く人々が説明してくれた。そうか。ここで世界の人々が集まってさまざまな問題を話し合っていたのか。そして、それはもうなくなったのだという。
なんと残念なことだろう。地球という野蛮な星で芽生えたささやかな良心はむなしく滅びてしまったらしい。私はまたがっかりして第4足と第5足をひろげ、肩をすくめた。これは村上春樹作品の「やれやれ」に相当するポーズだ。と思っている。
私はそれでもまだ希望を失わず、歩いていった。あたりはごちゃごちゃした商店街で、あちこちの店で呼び込みをしている。
私はふと、視線を感じた。そこで視線のもとを探ると、なにやら奇妙な生き物がいた。黄色いタヌキのようでありネコのようであり、人間のようであり、それがまた頭が異常に大きい。重そうだ。全体はふかふかして、暑苦しい感じである。
その妙な生き物が通行人にうちわを配っている。私はつい好奇心にかられて、その生き物のほうへ近づいていった。相手は異常に親近感を示し、うちわを手渡すふりをして私にささやいた。
「君のその着ぐるみ、ようできてるなあ」
着ぐるみ? はあ?
「ごっつリアルやん。新素材? ええなあ。通気性悪そうやけど、そうでもないんかな。おれなんかもう汗びっしょりで」
私がまったく理解できずにいると、あちこちから人間が集まってきた。
「あっ、着ぐるみが2体も」
「ラッキー! 写真撮ろ!」
「私も私も!」
何ということだ。私は着ぐるみというものと思われているのだ。そういえば、どこに行っても怪しまれたり、逃げられたりしなかったが、そういう事なのか。
「いやー、ようできてるなあ、あんた、これ、宇宙人の着ぐるみ? へー、たいへんやなあ」
「着ぐるみって暑いんやろ?」
おばはんたちが私に話しかけ、さわりまくる。ぶぶ無礼者! 私を何だと思っている。ドンゴリラ星の第一大臣だぞ! ドンゴリラはおまえたちの住むこの地球よりずっと文明が進んでいるんだぞ!
「あんた、さっきそこのパチンコ屋さんの前で何か聞いてはったやん。ひょっとして道に迷ったんちゃう?」
「わかった! なんとかおじさんのチーズケーキの店探してるんちゃう?」
「なんやそうかいな。あの店はこっちやで。連れてったろか?!」
私の第3足を引っ張るな! もげるじゃないか! ああ第8足がねじれる! もう! いや、それより、今そこの道路を私のスペースシップがトラックに引きずられて、どこかに運ばれようとしてるではないか!
だめだ、だめだ、持って行かないでくれ! おい!
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
http://midtan.net/
http://koo-yamashita.main.jp/wp/
暑いので何を書こうとしていたのかわからなくなってしまいました。読者のみなさんも暑いのでどうでもいいかもしれませんね。
ところで、私は人一倍、いや二倍三倍、蚊にかまれやすいです。毎日、夕刊を団地の集合ポストから取り出してる間に五か所くらいかまれます。
で、蚊にかまれやすいのは「O型の人」とか「汗かきの人」「色が黒い人」とかいろいろ言われますよね。最近では「足裏の雑菌が多い人」だとか。なんかいやです。
蚊にかまれやすいのは「心が繊細な人」「美しい人」とかいう研究結果がどこかで出ないものでしょうか。お願いします。
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■3Dプリンター奮闘記[99]
仕事は3Dプリンター、ワンフェスは手作り
織田隆治
https://bn.dgcr.com/archives/20170713110100.html
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もう7月半ば。そろそろ蝉の声も五月蝿くなってきましたねぇ。。。
7月と言えば、僕たち造形をやっている輩にとっては、大きなイベントがあります。それは、「ワンダーフェスティバル」。
年に二回、夏と冬に開催されるんですが、フィギュアやホビーのお祭りで、自分で作った「ガレージキット」と言われる、レジンキャストで複製されたキットを販売するイベントです。
これが、もうお祭りでありまして、僕もここ十年くらいずっとディーラーとして参加しています。
ここ数年で、原型を制作するのに3Dモデリングを行い、それを3Dプリンターで造形している物がかなり増えてきました。
3Dモデリングするためのモデリングソフトや、造形するための3Dプリンターの展示も、ここ三〜四年でかなりの盛り上がりを見せています。
こういったホビーの分野では、かなりの普及率になってきたように思います。
3Dプリンターもこの二年くらいで、驚くほどの進化を遂げており、造形レベルも格段に上がっていて、前までは一部の3Dプリントサービスを使っていた人達も、ある程度は自宅等で3Dプリンターを導入し、プリント(造形)が出来るようになってきました。これって、すごいことだなぁと思います。
僕が3Dプリンターを導入した時期から考えると、本当にレベルが上がってきました。FDMプリンター(熱融解式)も光造形のプリンターも、どちらもある程度緻密に造形できるものが、個人でも手に届くものになってきましたし、今後はもっと普及して行くんじゃないでしょうかね。
FDMプリンターと光造形の3Dプリンターを比べて見ると、FDMプリンターの造形レベルは、光造形の3Dプリンターにかなり近づいてきています。
素材についても、色々な企業が開発をしており、こちらもかなり良いものが出て来ました。
以前は、FDMで使われているPLA素材(ポリ乳酸)の樹脂は、凄く固くて後の整形がかなり困難で敬遠されていましたが、最近ではABSに近い特性を持ったPLAも出て来ています。
ABSというのは、家電や僕たちがよく用いるプラスチック製の製品にはよく使われている、強度とある程度の「しなり」を持った素材で、加工性も高いのですが、3Dプリンターで出力する時、熱収縮等の影響で、テーブルの温度や庫内の温度管理等をかなり気を使って行う必要があります。
物質は熱を加えると体積が増え、冷えると収縮します。このため、造形物をテーブルに固定している部分が冷えると収縮し、底面の大きいものになると、その収縮によりテーブルから造形物が剥がれてきてしまう現象が起きます。
これを予防するために、テーブルの温度を一定の温度に保ったり、3Dプリンターの庫内の温度を上げておく必要が生まれて来ます。
この熱による膨張や収縮が、PLAに比べてABSの方が大きく、ある程度大きなものを出力するには、ABSよりPLAの方が向いているということですね。
しかし、PLAにも弱点があり、造形後の素材が固く、融点が低いために熱による変形が起こり易い、湿気に弱く、素材のフィラメントが折れ易い等といったことから、PLAを敬遠するユーザーも少なくはありません。
FDMプリンターで使われる素材は、基本的にフィラメントといわれる線状の樹脂を、リールに巻いた状態で使うのですが、現在は1.75mmΦのものが主流。
素材が細いため、PLAは長期間使用しないで放置しておくと、温度や湿度による劣化がABSに対して大きく、造形途中でフィラメントが折れてしまって、3Dプリンターに供給されない状態になることが多く見られました。
それと、曲げに弱く、すぐに折れてしまいます。リールに巻かれている最後の方は、かなりきつく曲がっているので、それを伸ばした時に折れてしまいます。
それに対して、ABSはある程度の粘りがあり、曲げに強く、湿度による影響も少ないことで、やはりユーザーはABSを選びたい気持ちが強いんですね。
ABS素材に関しても、色々と開発が進んでおり、熱による変形を少なくし、テーブルから剥がれる現象を抑えたものも出て来ています。
3Dプリンターの進化に伴い、素材の進化もここ数年はかなり進歩していて、これからどんどん良い環境で、効率良くプリント出来るようになってくると思います。
一方、光造形のプリンターに関しても、このテーブルから剥がれてしまい、造形が失敗することが多くみられます。
インクジェット式を除く光造形式のプリンターは、テーブルからつり下げる方法を取っています。これは、素材が液体ということもあり積み上げて行くことが困難だからですね。
テーブルに固定している一層目の造形がうまく行かないと、出来上がったと思って見てみると、上がってきたテーブルには何も付いておらず、素材が溜まったプールが大変なことになっていた、なんてことが多々あります。
光造形のプリンターでは、造形ミスの中ではこの失敗が著しく多いのです。
先ほどのFDMプリンターでも同じなのですが、基本的に造形を成功させるカギは、「造形テーブルに、一層目がどれだけ定着しているか?」ということに尽きるでしょう。
ここさえうまく行く方法が定着すれば、3Dプリンターの利便性がかなり上がり、さらに普及していくんじゃないかなぁ……なんて思います。
最近では、色々と工夫された3Dプリンターや素材が増えてきて、こういった開発が多くのメーカーが行なわれています。
ホビーで使用する人は、元々物作りが好きな方なので、そういったトラブルにも比較的対応可能なんですが、一般に普及するには、そういったところの改善が必須なんでしょうね。
さて、冒頭に述べた「ワンフェス」ですが、僕もそろそ尻に火が付いてきていて、目の前にある原型をいい加減仕上げてしまわないと……。
ところで、僕の場合ですが、仕事で3Dプリンターを使うことが多く、すべて手作りも減ってきました。本当に便利になりましたね。
ワンフェス等の趣味の造形に関しては、基本的に手作りをモットーにしていて、ほとんど3Dプリンターを使うことはありません。やっぱり手作業が好きなんですよねぇ。
これ、かなり重要なことなんですが、造形をする場合、手作りの触感で立体を把握できるのです。まあ、技術の進歩により、始めからデジタルのみで手作業なんてやった事ない! って人も今後増えて行くんだろうなぁ。
凄いぜ未来。AR技術も進んでいて、触感を持ちながら、バーチャルでモデリングするような技術も出て来ていますし。
これ、やっぱり「触感」が大事、って事をみんな感じているんでしょうかね?まあ、この「触感」とか、五感をいかにバーチャルで表現するか、ってのがARの目指すところなんでしょうけど。
さて、そろそろ原型を進めないとエラいことになりますので、本日はこのあたりで……。
【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
http://www.f-d-studio.jp
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編集後記(07/13)
●山本淳子「枕草子のたくらみ 『春はあけぼの』に秘められた思い」を読んだ(2017/朝日新聞出版)。枕草子は中高の教科書にあったなあという程度の記憶だが、リズミカルな初段「春は、あけぼの」だけは、いつの間にか覚えていて、今でも暗唱できる。「つとめて」が早朝だと知っているのがうれしい。
古文にしては比較的読みやすい、一人の女房の個人雑記という認識だったが、その正体は違っていた。お気楽なものではなかった。清少納言には明確な企みがあった。そして、それは成功したのだという。この作品は清少納言が仕える中宮定子の下命で作られたのだ。そして、創作の全権が清少納言に委ねられた。
「枕草子」は定子のための作品だ。執筆が本格的となったのは、政変によって定子が絶望的な状況にあった頃らしい。悲嘆にくれる定子に捧げたのは、悲劇的現実にはいっさい触れない、感動やときめきに満ちたものばかりだ。悲しいときこそ笑いを、くじけそうな時にこそ雅を、これがコンセプトだった。
この企画は中宮定子後宮の文化の粋を表すものでもあった。幸せに満ちた定子サロン文化を書き留める執筆方針は、定子の死後9年を経ても続いた。生前には定子が楽しむように、死を受けては定子の鎮魂のために。枕草子の核心がここにある。枕草子は定子後宮の「文化遺産」といえる作品なのである。
定子の一生は24歳で終わるが、この人の浮沈の人生はお気の毒である。波瀾や苦悩続きというべきだ。にもかかわらず、定子を描いた枕草子は幸福感が満載である。闇の中にあって闇を描かない。定子の出家は「なかったこと」なのである。それでいいのだ。枕草子は清少納言が定子に捧げた作品なのだから。
最後まで理想的だった皇后定子、それを世に示すことこそが枕草子の戦略だった。枕草子の中では定子は死なない。定子はこの作品の中でいつまでも燦然と生き続ける。定子の文化は決して潰えることなく、作品の中に永久保存された。
枕草子が死守しようとするのは定子の理想性である。定子は気高く、不幸などではなく、もちろん誰からも迫害されてなどおらず、誰のことも恨んでいなかった。いつも雅を忘れず幸福に笑っていた、と描かれる。枕草子は世が内心で欲しているように定子の記憶を塗り替えた。これが清少納言のたくらみだ。
枕草子が記しているのは、定子のためのひたすらな「文学的真実」なのだ。一方「清少納言こそ、したり顔にいみじう侍りける人」と呟くのは紫式部である。紫式部は「紫式部日記」で清少納言を批判し、現実味がなさすぎるとこきおろした。だが同時代人である紫式部も、事情は分かっていたはずである。
清少納言は宮廷生活で定子に鍛えられた機知の才で「枕草子」の冒頭を飾った。「紫だちたる雲」は紫雲、瑞祥の兆しであり、天皇家を表す。また中宮の暗喩であり、定子その人なのだ。たとえどんなときでも人生は美しい。そのことは「はたいうふべきにあらず」なのであった。久しぶりに感動できる本を読んだ。
橋本治「桃尻語訳枕草子」は1980年代の女子高生の話し言葉で一貫し、ふざけたことやってるなあと当時バカにしていた。この度、ようやくその第一巻を読んで驚愕した。ミーハー訳はともかく、解説が半端ない。ものすごい情報量である。第一巻途中で投げ出す。やっぱり橋本治、ただ者ではなかった。 (柴田)
山本淳子「枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022630574/dgcrcom-22/
●「ラーメン屋とか靴屋とか喫茶店」で大爆笑した。良かった、電車や飲食店で読まなくて。「国際」は予想通りだったぜ!/「アメイジングモデルエキスポ」は今年開催されないみたい。来年復活するといいな。
/走るなら心拍数わかった方がいいよねと買ってしまったApple Watch(AW)、単体でできること続き。
音楽を聴く、写真が見られる、心拍数が見られる、呼吸アプリが使える、アクティビティが見られる、ワークアウトを記録できる、Apple Payで決済・乗車(モバイルSuica)。
他にやれること。当たり前だが時刻がわかる。タイマーにアラーム、ストップウォッチが利用できる。
Wi-Fiに繋がっていると、やれることが増える。リマインダー、天気、メッセージの送受信、株価表示、ルート案内、IoTな家電コントロール(うちには対応家電類なし)、その他対応アプリ。
そして条件つきだがWi-Fiでの通話。FaceTime。試していないけれどSkypeやLINE通話もできるのではないだろうか。 (hammer.mule)