《楽しくて楽しくて朝までセミナー続けたかった》
■わが逃走[213]
ソフトフォーカスレンズの巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[81]
タイポグラフィの学び方
関口浩之
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■わが逃走[213]
ソフトフォーカスレンズの巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20180315110200.html
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ソフトフォーカスってのはアレですよ。
70年代のアイドル写真やエロ写真なんかによく見られた、ピンはあってるんだけど、ぼやーんとした表現手法のこと(超大雑把)。
ひょんなことから「MINOLTA AFソフトフォーカス100mm f2.8」なるレンズを手に入れた。
これはとても妙ちくりんなレンズで、本来ならば抑えるべき球面収差をあえて残し、ぼやーんとした雰囲気の写真を撮ることができるというもの。
しかも、「ぼやーん」の発生量を三段階にわたって調整でき、さらに0にもできる。0にしてみると意外なほどシャープな写真が撮れて、その変貌ぶりに腰を抜かす。こ、これは面白い!
ぼやーんとした写真が欲しければ、普通に撮った写真をデジタル加工すればいいし、実際そういった使い方の方が融通きく。
そういうわけで、現在ソフトフォーカスレンズの需要はほとんどない、といっても過言ではない。
しかし、後処理ではなく、撮影時の自らの意思で、光学的にぼやーんとさせるという、前世紀的な思想(実際、前世紀のレンズだが)にはなにか狂気のようなものを感じるし、それだけのためにマスプロダクトが存在していたことにも、今となっては驚きを禁じ得ないのだー!
というわけで、実際にどんな写真が撮れるか試してみた。
ベタな被写体といえば、うつろな瞳+口半開きの美少女となるのだが、そんな人に心当たりがなかったので、我が家の埴輪を撮影した。
ソフト効果1
ソフト効果2
ソフト効果3
ソフト効果0
みなさん、脳内で埴輪を眉の濃い美少女に置き換えてみてほしい。
少年だったあの春の日、橋の下に落ちてた雑誌を思い出しますね。
あえて今、このレンズで美少女を撮るというのもイイし、おっさんやジイさんを撮ってみても面白いかと思う。
いずれにせよ、こちらにその気なんてなくても、思い切り演出された写真が撮れてしまうのが、このレンズの特徴である。
なので、その効果を逆手にとってみたい。たとえば、ポートレートに使わないとか。花を撮らないとか。できることなら心霊写真やUFOを撮りたい。
きっとインチキ感が増大して、たとえそれらがホンモノだったとしても、トリックにしか見えなくなるだろう。
というわけで、このレンズとともに近所を散歩してみた。
世田谷区役所
前川國男による名建築。すでに建て替えが決まっている。写真は第一庁舎の一部で、煙突(?)のように見える塔を見上げたところ。ちょっと柳宗理っぽい。
止まれ
と言われればそう見えるが、黒いところを読もうとすると訳がわからなくなる。ソフト効果もあってか、意味不明感大。このように、レンズの実力を無駄遣いする行為は実に楽しい。
三角コーン
駐車場入口を生け垣越しに撮ったところ、光の輪っかがきれいな円形だったのでびっくりした。
地面に収納されているポールの金属反射表現も、冗談みたいに俗っぽくてイイ。反射素材を逆光で撮りまくってみるのも楽しそうだ。
影
暗渠脇コンクリートの構造物に落ちた影。金網や鉄柵などが交差し、非常にハードな、シャープな、無機的な美しさを感じてシャッターを切ったのに、レンズからは真逆の回答が出された。
といった具合に、うまくいけば想像のナナメ上をいく写真に心躍らされ、うまくいかなければコレジャナイ感満載の写真が撮れる。
誰でも普通に思いどおりの写真が撮れる今こそ、この奇妙なレンズに主導権を奪われながらカメラ散歩するのもアリだなあ。
などと思う今日この頃です。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[81]
タイポグラフィの学び方
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20180315110100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
みなさんは花粉症は大丈夫ですか? 僕も先週から目がかゆく鼻水もでてきました。症状はそれほどひどくないのですが、早く花粉が飛ばない季節になってほしいです。
そんな中、週末から喉も痛くなってきたので、本日、病院へ行ってきました。花粉症だけでなく、風邪も併発してしました。
●第13回FONTPLUS DAYセミナー
隔月で主催している『FONTPLUS DAYセミナー Vol. 13』を2018年3月7日(水)に開催しました。
テーマはずばり、「タイポグラフィ」です。今回も募集開始してから5時間ぐらいで定員80名に達しました。タイポグラフィにこれだけ多くの方が興味を持っているということ、とても素晴らしいことですね。
FONTPLUS DAYセミナー Vol. 13[タイポグラフィの学び方]
〜東洋美術学校から、河野三男さんと中村将大さんをお招きして〜
https://fontplus.connpass.com/event/79137/
僕は、IT系の技術会社に勤務しています。7年前に「FONTPLUS」というWebフォントサービスを立ち上げました。技術プラットフォーム屋です。
サービス立ち上げ当初から、「HTMLやCSS、JavaScriptが得意でも、文字や活字のことを理解している人は少ないよね」「Webディレクターやマーケターの方もタイポグラフィにあまり詳しくないよね」と感じていたのです。
なので、Webデザイナー以外の人も、文字や活字を深く理解すると楽しいし、新しい武器を持つことになるんじゃないかなと思って、「文字とデザイン」を学ぶ場所を提供することにしたんです。
コツコツと開催していたら、4年目になりました。まだまだ、これからも続けますよ!
過去のセミナー登壇者や企画内容を振り返ってみると、なかなか、がんばってるじゃん、と思いました(笑)
https://fontplus.connpass.com/
調子に乗って、セミナーの趣旨も掲載させてください。
◎書体やフォント、タイポグラフィ、グラフィックデザインなどに関する知恵や知識は、Webデザイナーのみに必要なものではなく、ディレクターやプランナー、マーケター、コーダー、プログラマー、エンジニアなど、Webに関わるすべての人にとって必修の科目です。
このFONTPLUS DAYセミナーは、皆さまと一緒に「書体とデザイン」を楽しく知り、深く考えるイベントです。「興味はあるけど初心者」という方も、ぜひ、ご参加ください。◎
本音を言うと、過去にお会いした方の中から、自分が大好きな方々を講師としてお招きしているのかもしれませんけど……。
●東洋美術学校
タイポグライフィの分野で長年活躍されていて、現在、東洋美術学校で講師をされている河野三男(Mitsuo Kono)さんと、中村将大(Masahiro Nakamura)さんをお招きしました。
河野さんは、朗文堂 タイポグラフィ・スクール 新宿私塾で講師の一人でした。
http://robundo.com/shinjuku-shijuku/
学校法人「東洋美術学校」(東美)は、4年間のうち、3年間通じて「タイポグラフィ」の授業があるそうです。大学でも専門学校でも、タイポグラフィを3年間みっちり授業受けられるところは少ないと思います。
河野先生はタイポグラフィのカリキュラムの中核の立場であり、中村先生はデザインにおけるタイポグラフィの重要性を授業で熱弁されています。
タイポグラフィで有名な大学と言えば、武蔵野美術大学(ムサビ)が思い浮かびますが、専門学校においては、東洋美術学校(東美)がタイポグラフィ分野でも超おすすめだと思います。
お二人のお話は、とにかく、楽しくて楽しくて、朝までセミナーを開催したい気分でした。ほんとです(笑)
そういえば、セミナーの休憩時間にTwittrend(ついっトレンド)を見たら、全国で30位に入ってました。ハッシュタグでは全国6位。瞬間風速とは言え、すごくうれしかったです。
参加者でない方から、「#fontplusdayのハッシュタグが面白ろ過ぎたので、まとめました」という、うれしいTwitter書き込みがありました。
平山鉄太郎(@__tetsu__)さん、ありがとうございます。
2018月3月7日(水)に東洋美術学校で開催された 【FONTPLUS DAYセミナー Vol. 13[タイポグラフィの学び方]】に関するツイートのまとめです。
|#fontplusday fontplusday #東洋美術学校
https://togetter.com/li/1206269
これを追っていくだけで、タイポグラフィに興味をお持ちの方は楽しいに違いありません。
タイポグラフィをこれから学んでみようと思っている方、ぜひ、時間をかけて読んでみてください。タイポグラフィを学ぶためのいろんなヒントが隠れていますよ。
僕が心に残ったフレーズをいくつかご紹介します。主催者なのでバタバタしてて、メモ書きしか残せなかったので、解釈違いなどあってもご容赦ください。
箇条書きですが、腑に落ちる内容ばかりだったので、紹介します。
●コミュニケーションとしてのインフラストラクチャ
・活字は規格化され体系化したもの
感覚的なものと思われがちだが、タイポグラフィは規格化されている。図版もテキストも規格化されている。スペースが空いているのではなく、意識的にスペースを空けた、ということなのだ。印刷される文字(活字)と印刷されない文字(余白)が同等に扱われる。
音楽でいえば、譜面って規格されているよね。例えば「テンポ120、4/4拍子、Cmajor」とか。活字も同じ。感覚的サイズではなく、絶対的なサイズがある。余白も規格化されている、4分アキや8分アキとか。
・デザイン造形の最小単位と最大単位
造形の世界において、活字は数字でコントロールできる。1行○○文字、余白○文字とか。感覚的なものでなく、グリッドに沿って有機的にコントールできる。「余白が休符」で「音符が活字」とたとえられるね。
・習慣のなかで学習できる
活字の選択はドレスコード感覚と捉えると分かりやすい。書籍なのか、詩集ではどうだろうか、高級チョコレートではどうだろうか、クラシックレコードの、ジャケットではどうだろうか、など。活字の歴史背景もしっかりしているので学びやすい。
・タイポグラフィの定義が曖昧ではいけない
「タイプ」の語源は「型、母系、活字」。「グラフィ」の語源は「表現法、表記していくこと」。
タイポグラフィはつまらないぞ、地味だぞ、つらいぞーと言われるが、タイポグラフィはデザインの基礎である。文字のないデザインはほとんど存在しない。
タイポグラフィとは言葉を表記させたもの。活字を組む際にはストーリーを作ることが大事。誰がどんな状況であるか、何を感じたのかを考えてから、書体を選ぶ。言葉をどう膨らませるか。想像力、語彙力も重要。言語表現力があるひとは、タイポグラフィ上達が速いらしい。
・海外と日本ではタイポグラフィの違い
海外では15世紀のグーデンベルグの印刷技術発明からの歴史がある。海外のタイポグラフィ授業では、教師から徹底的に突っ込まれる。「どうして、この書体を選んだの?」「どうして、このスペースなの?」などなど。
日本では「なんとなくいいねー」となることがある。でも、言葉でちゃんも説明できないと、いいものができても「それは偶然の産物だ」と言われても仕方ない。
・創部10周年のタイポグラフィ・サークルQP
なぜ、サークル名がQPなのかと言うと、活字のサイズを表す級数のQとポイントのPを活動の象徴している。部員である生徒2名と、河野先生と中村先生と掛け合いが奥深い。部活動報告が楽しい。
以上が僕のメモ書きの紹介です。中村さんと河野さんがお話した内容のほんの一部です。
河野さんの結論は、「地味だけど、ちゃんと学びなさい」ということでした。ほんと、そうだと思った。すごく勉強したくなった。
東洋美術学校のwebサイトでも、セミナーレポートがアップされてました!
https://www.to-bi.ac.jp/2018/03/09/fontplus-day13/
最後に、河野さんの主著と、中村さんのオンライン授業のご紹介もさせてください。
河野三男さんの主著
『タイポグラフィの領域』(朗文堂 1996)
『評伝 活字とエリック・ギル』(朗文堂 1999)
『欧文書体百花事典』(共著 2003)
中村将大さんのSchoo(スクー)授業
「ミル文字ヨム文字ミセル文字」
「デザインのよみかた」
「いろのいろいろ」
https://schoo.jp/teacher/976
ちなみに、僕も、Schoo(スクー)でWebフォントの授業を2コマ、担当しています。
https://schoo.jp/teacher/1654
あっ、前回、「相対フォント感」のシリーズを始めるよ、と書きましたが、先週主催したセミナーが素敵だったので、今回は「タイポグラフィの学び方」セミナーのレポートを記事しました。
では、次回、3月29日のもじもじトークで、またお会いしましょう。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
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編集後記(03/15)
●ルイス・A・デルモンテ著、黒木章人訳「人類史上最強ナノ兵器 その誕生から未来まで」を読んだ(2017/原書房)。人類は今世紀中に滅亡するかもしれない。そのとき、私たち全員を死に至らしめるものは、おそらく〈ナノ兵器〉と呼ばれる軍事兵器だ。2008年にオックスフォード大学で開かれた地球規模の巨大災害リスクについての会議で、人類滅亡の原因のトップがナノ兵器だった。
人類滅亡の確率は19%だ。その原因として可能性の高い順に、ナノ兵器(5%)、人間の知性を超えるAI(5%)、戦争(4%)、生物兵器:人工的に作り出された感染症の地球規模の流行(2%)があげられる。しかし、ナノテク関連書籍などで兵器に言及されることは滅多にない。なぜなら「軍事機密」だからだ。
ナノ兵器は極秘事項だ。オックスフォード大学の会議の指摘はお見事である。クリントン政権下で国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)がスタートした。ナノテク関連技術の研究開発を国家主導で行うもので、ロシア、中国、ドイツなども既に巨額を投じて、ナノ兵器の開発競争をくりひろげている。
競争に油を注いでいるのは「最強のナノ兵器を手にした国々が新時代の超大国となる」という新しいパラダイムだ。公開された情報によれば、新たな兵器開発戦争は、リアルに進行中である。そして、ナノ兵器は人類を脅かす存在となる。その理由は、ナノ兵器のコントロールは生物兵器なみに難しいからだ。
例えば昆虫大の超小型ロボットが開発されたら、偵察から暗殺まで多様な軍事使用が可能だ。さらに進化すると分子レベルの大きさで、しかも自己増殖するAI搭載のロボットが生まれる。こうなると生物兵器と同じで、究極の最終兵器となる。それが人間のコントロールから離れると、とんでもないことが起きる。
解放された自己増殖型ナノボットは、人類の殺戮と自己増殖を始める。ほとんど致死性のある感染症の大流行と同じで、人類の大部分が数週間で殺戮される。これはSFではなくて、あり得るシナリオだ。この本は新世代の兵器をわかりやすく解説する。引用の注釈、ソースの明示などもきちんとなされている。
これはSFではない。ナノ兵器のコンセプト段階から、現在の配置状況まで、その発展史を描いている。ナノ兵器こそ、今世紀後半の近未来戦の行方を左右する最有力の兵器だという。昆虫サイズの兵器や、細菌兵器の開発は想像できたが、この本に出会うまで、考えこともなかったのがナノ兵器ナノであった。
本書の一番重要なポイントは、ナノ兵器のコントロールはものすごく難しいという問題を提起することにあると筆者は書く。ヘタしたら人類滅亡に至るのだ。じつは、ここまでが序章なのだ。ここから具体例を挙げて、ナノ兵器の開発と運用について本格的に怖い話になっていく。つづく(かも、未定)。(柴田)
ルイス・A・デルモンテ著、黒木章人訳「人類史上最強ナノ兵器 その誕生から未来まで」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4562054433/dgcrcom-22/
●埴輪が家にある人はそう多くないと思う。/世田谷区役所かっこいい。齋藤さんが撮影したらかっこいいんだよなぁ。うちの近所のもっさい建物もかっこよく見えるんだろうなぁ。/関口さ〜ん(泣)
/「パーティー 目玉料理」で検索したら、「【みんなが作ってる】 眼球のレシピ 【クックパッド】 簡単おいしい」と出た……。いや、そういう意味じゃなくて。
その下には画像検索結果が並んでいる。モザイクかけて欲しかったな……。
こういう趣味の人が結構いるのか〜と思ったら、ハロウィン用のようだ。なるほど。あとは、「目玉のぷるぷる白玉デコ」「目玉のレシピ」「目玉ゼリー」「目玉のチーズフォンデュ」など。
パーティー用のケータリングサービスで、メインとなるような料理を探していたの。豚の丸焼きがあったりしたよ。 (hammer.mule)
豚の丸焼き専門店 信希
http://maruyaki.jp/