Otaku ワールドへようこそ![280]ほんのひと押しで現実化する妄想旅行─奇妙な列車に乗ろう
── GrowHair ──

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山頂付近に雪を残す北アルプスの山々を遠く左手前方に仰ぎ見ながら、高原を走る観光列車が穂高駅に到着すると、巫女さんが待っていた。徒歩5分ほどのところにある穂高神社に案内してくれるという。15人ほどがついていった。

停車時間が27分もあるので、参詣して余裕で戻って来られる。昼近い時間、空は青く澄みわたり、さわやかなお散歩日和。のどかだ。

●眺望がすばらしすぎてはかどらない読書

ゴールデンウィークはおとなしく過ごしていた私だが、その前の週末にのんびりと一人旅を楽しんできた。“鉄”分補給というか。いやいや、私は鉄ヲタではない。

そんなもんと同類にくくってくれるな、と言っているのではない。本物の鉄ヲタは、それこそ鉄を栄養分に生きているようなもんで、日々の自己研鑚を通じて吸収してきた知識の量がハンパない。

それはそれは高〜い雲の上におわしましまする神々であるからして、東京都新宿区にある標高44.6mの箱根山の分際で、エベレストと同じ「山」を名乗るなんて、おこがましいにもほどがあるってもんである。

今回の長野旅行は、自分の言った言葉に操られて身体が勝手に動いた格好だ。これに先立つ3月24日(土)、14:02高尾始発の中央本線各駅停車長野行に乗って、茅野まで行っている。

40年くらい前なら長距離走行の(快速も含む)普通列車はそんなに珍しくなかったが、今はあんまり残っていない。高尾─長野間ぐらいでもがんばってるほうで、これは一度、通しで乗ってみたいと言っちゃったのがひとつ。

通しで乗ると、姥捨(おばすて)に停車する。この駅はスイッチバック式で、しかも通過可能なタイプである。





道路でも鉄道でも、坂道の傾斜には限度がある。最短距離で敷設したら傾斜がきつくなりすぎる場合、道路だったら、山腹を緩やかに登り、折り返してまた登り、……と、つづら折りにして距離を伸ばすことで、傾斜を緩めている。

同じことを鉄道でやると、折り返し方式のスイッチバックになる。箱根登山鉄道がこの方式である。すべての列車が進行方向を転換するので、折り返し地点を通過できないという難点がある。

通過可能なタイプというのは、本線はひたすら坂道を進むが、それの脇に平らなところを作って、そっちへ引き上げたところに駅を設置する方式である。

松本から篠ノ井へ向かう篠ノ井線下り列車は、姨捨駅前後で下り坂が長く続く。本線から左手へ水平に分岐した先に駅があり、その先は行き止まりである。発車するときは、一度、後退して、本線をクロスし、その先にある別の水平な引き上げ線に入る。そこから再び前進して、本線に復帰する。

かつて、機関車が客車を牽引するタイプの列車では、傾斜地に停車できない制約があったため、このような方式になっている。制約から解放された今の自走方式の列車にとっては、傾斜駅のほうが後退の面倒がない。どんどん移設されたため、スイッチバック方式は全国的にみてもあまり残っていない。

4月1日(日)にJR中央本線の初狩駅を見に行ったことを4月6日(金)のこの欄でレポートしている。
https://bn.dgcr.com/archives/20180406110100.html


初狩も傾斜駅だが、かつてのスイッチバック式の配線もちゃんと残っている。ホームは撤去されているし、軌道もあまり使われていないようだけど。

現役で生き残っている駅は貴重なので、停車する列車に乗っておかなきゃ、と言っちゃったのがひとつ。

それと、ある疑問に対する答えを実地に見て確かめたかったというのがある。この方式のスイッチバックでは、前進、後退、前進と進行方向を2回変えるが、後退するとき、誰がどうやって運転しているのか。

(1)運転手と車掌が担当配置を交代する
(2)担当配置はそのままで、運転手と車掌が役割を交代する
(3)その他  
正解は後ほど。
  

高尾始発の中央線下り普通列車は、3ドアの横向きロングシートの車両が多いが、3月24日(土)に乗った長野行は3ドアで、ドアとドアの間が 2組の4人掛けボックスシートになっているタイプだった。

そうか、長距離を走るやつには、その方式のを充てているんだな、と納得しちゃったのだが、これが間違いだった。

4月21日(土)に同一時刻の列車に乗ったのに、このときはロングシートだった。なんか、すごーくがっかり。長野までずっと横向きシートって、景色がよく見えないし、旅情に欠けるし、興醒めだ。カニ走り姿勢も長時間に及ぶとなんだかつらいぞ。

ふと目が覚めたら、逆向きに走っていた。日が暮れて、外は暗かった。姨捨を発車したところだった。しまった! けど、まあ、よい。この路線は翌日も使うことにしている。そのときちゃんと見よう。

長野まで行くのはいいとして、翌日、どういうひねくれたコースで帰ってこようかというのは、出発前に計画を練っておいた。見つけたのが「快速リゾートビューふるさと」。

長野を始発駅として、篠ノ井経由で松本に行くところまでは、名古屋行の「特急ワイドビューしなの」と同じ、何の変哲もないコースだ。問題は、そこで進行方向を変えて、大糸線に入ることだ。大糸線と篠ノ井線は、しばらく並行して走る。穂高あたりから離れていくけれど、大した開きではないのだ。

行って戻る徒労感がたまらない。何なら、長野から白馬までバス路線があり、所要時間は1時間10分だ。この快速列車だと3時間20分だ。

乗り物とは目的地に到達するための手段であって、所要時間は短いほどよい、という思想をもつ凡人とは、すっぱり決別する覚悟のよさがさわやかだ。

この列車に乗ること、それ自体を目的とする変人だけを見事に選別している。姥捨で17分、松本で14分、穂高で27分、停車する。景色のよいところでは徐行してくれる。列車の性格に合ったサービスだ。

快速リゾートビューふるさとは全車指定席なので、事前に指定席券を取っておく必要がある。ウェブサイト「えきねっと」で予約した。

シートマップから座席が選べるが、進行方向が書いてないので、A列とD列がそれぞれどっち側の窓際なのかが分からないのが難点。
https://www.eki-net.com/


この観光列車のウェブページがJR東日本のサイト内にあって、そこに書いてあるので、参照しながら席を選ぶ。
https://www.jreast.co.jp/railway/joyful/resortfuru.html


篠ノ井線はちょっと変わった性格をしている。一般に、内陸部を走る鉄道は河川に沿って敷設されることが多い。川沿いに点々とする集落を線で結べば利用客が見込めるし、地形的にも比較的緩やかなので敷設しやすいはずである。流域をまたぐ、どうしてもしょうがないときだけ、峠を越える。

松本駅付近で梓川と奈良井川が合流して犀川となり、長野駅付近で犀川は千曲川へと合流し、長野県から新潟県に入るところで千曲川は信濃川になる。

じゃあ、松本─長野間を結ぶ鉄道は犀川に沿って敷設すればいいようなものだが、そうはなっていない。おそらく、V字谷が深く、蛇行がひどく、傾斜がきつく、無理だったのであろう。

長野を出て、篠ノ井でしなの鉄道線(旧信越本線)を左へ分岐すると、右手の山の中腹にとっつき、徐々に徐々に高度を稼いでいく。峠の冠着(かむりき)トンネルは全長2,656mあり、1900年(明治33年)に開通した当初は日本最長の鉄道トンネルであった。3年後に4,656mの笹子トンネルに抜かされているが。

沿線は原生林が広がるばかりで、ほとんど人が住んでいない。無駄に長生きして家族のお荷物になった年寄りを、捨てにくるようなエリアである。姨捨駅は、遥か下方に千曲川を見下ろして、すばらしい絶景である。「姨捨駅」でGoogle画像検索をかけると、いい写真がいっぱい出てくる。

快速リゾートビューふるさとは、9:28に姥捨に到着すると同時に、飯田線から直通してきた下り各駅停車長野行が入線してくる。それを見送り、特急ワイドビューしなの1号長野行が通過するのも見送ってから9:45に発車する。

さて、先ほどの問題。どうやってバックするか。正解は(3)。私にはまったく予想外であった。自動車がバックするときと同じ要領で、運転手が窓から頭を突き出し、後方を確認しながらバックオーライで後退するのである。

考えてみると、電気機関車に牽引された客車が初狩駅に進入する際、いちいち機関車を前後につなぎ替えたりしていなかった。バックするときは、機関車が客車を押す形で進んだ。電車になっても同じことだと思えば、自然な成り行きであった。これが分かっただけで、もう、来た甲斐があったな。

快速リゾートビューふるさとは、ハイブリッド車両なので、非電化区間でも走ることができる。しかし、実際には全行程が電化区間である。

終点の南小谷駅から先の糸魚川までの大糸線が非電化区間なので、そこでこそ本領が発揮できるってもんだが、JR東日本からJR西日本へまたぐ関係で、乗り入れできなかったのだろうか。

糸魚川、直江津と進んで長野まで戻って来ちゃえば、内部に特異点がない限り周回積分した値はゼロになるというか(←意味不明)、完璧に遊園地のアトラクションになれたのに。

実際には、南小谷から同じコースを逆にたどって長野に戻る。しかし、帰りはどの駅でも長時間停車せず、したがって、穂高神社への案内もない。乗るなら長野発のほうが、圧倒的によい。

運転台は、最前部の左寄り3分の1しか占めていないので、乗客は、中央部と右寄りで、フロントガラスにへばりつくことができる。かなり高い位置に展望座席が作ってあって、共用スペースになっている。

ゴールデンウィークの1週間前に旅行しようと思い立つ人はあまり多くないようで、列車はすいていた。乗っている人はみんな自分の席で満足しているらしく、わざわざ最前部まで来る人はほとんどいなかった。そういうわけで、大半、私が独占していた。

読むもんがいっぱい溜まっており、自分を列車の中に閉じ込めておけば逃げ場がないので読むことに集中できるだろう、というのがもともとの目論見だったのだが、景色がよすぎてまるっきり読めなかった。

変なV字の経路だが、景色のすばらしい2路線を選んでこうなった感じだ。大糸線は仁科三湖と呼ばれる木崎湖、中綱湖、青木湖の湖岸すれすれを走る。12:47に終点南小谷に到着する。次の糸魚川行は14:43だ。お昼にしよう。

南小谷は、特急あずさ3号の終着駅でもあり、どれだけ大きな駅なのかと思いきや、実にひなびていた。駅前に飲食店が一切なく、日用雑貨を売っている地味な「石川売店」があるだけだった。

食事ができるところはないかとそこで聞くと、橋を渡って10分ほど歩いたところに「おたり名産館」という蕎麦屋があるという。橋の下で姫川がちょっとした滝のような段差になっていて、轟音をたてていた。

おたり名産館は意外にも混んでいて、入るのに並んだ。どう見てもすごい年齢だろというおばあちゃんが元気に切り盛りしていた。予想にたがわず美味かった。こごみという山菜を初めて知ったが、もともと区別のついていなかったわらびとぜんまいに、さらにややこしいもんが加わった感じだ。

「えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン」という装飾過多な感じの名称の路線は、旧北陸本線だ。電化区間なのに、なぜか気動車。1両編成。意外と混んでいて、糸魚川から直江津までずっと20人くらい立っていた。

こんな経路で帰ってきた。

14:43 南小谷─15:46 糸魚川、大糸線糸魚川行
15:48 糸魚川─16:31 直江津、日本海ひすいライン直江津行
16:57 直江津─18:16 越後湯沢、信越本線・ほくほく線・上越線越後湯沢行
19:01 越後湯沢─20:12 東京、上越新幹線 Maxとき342号東京行

●そこ掘るなワンワン:掘りつくせないほどあった観光列車

たまたま見つけた「快速リゾートビューふるさと」が非常によかったので、ふと気になったことがある。ひょっとすると私が知らないだけで、日本全国そこかしこでおもしろ列車が走ってるんだったりして。「あ、そこ、掘らないほうが……」と天からの声。

たいへん不思議なのだが、妄想旅行のほうが、現実の旅行よりも時間を食われることがある。1,100ページ以上ある時刻表を読み始めると、3時間や4時間あっという間に過ぎていて、時間の経過の異常な早さに自分でびっくりすることがある。心理学で言うところの「フロー」状態に入っているのだろうか。

危険はそれだけではない。妄想ならば時間を浪費することはあっても財布の中身までは減るまいと思いきや、なまじ情報をキャッチしてしまったばかりに無性に乗りたくなってきて、理性で抑えきれなくなると、その限りではなくなる。

それが自覚できているんだったら、できるだけ手前のほうに柵を設けておいて、踏み越えないように自制しておくのが賢明ってもんだ。ところが、ついつい魔が差して、JTBのとJRのと両方買ってしまった。

巻頭カラーページがあり、索引地図があり、ニュースページがあり、本文が始まる。本文と言っても文章ではなく、列車ごとに上から下へ、各停車駅の発車時刻がばーーーっと並んでる表なんだけども。東海道・山陽新幹線の下り列車から始まる。うわ、ヤバい。沼に引きずり込まれるーーー。

本文に先立つニュースページには、工事や災害による運休のお知らせがあり、行楽臨時列車の掲載があり、お得な切符の情報がある。

行楽臨時列車のコーナーには、祭りや野球の試合による混雑を見越して増発される臨時列車や、奥多摩、河口湖、日光、鎌倉などの行楽地へのアクセスが便利なように、複数の路線を乗り入れて直通運転する季節列車などが掲載されている。

中には、貨物線を使うのもあったりして、レア感がある。季節にちなんだものがピックアップされているようで、すべての観光列車が網羅されているわけではない。

「観光列車」でググってみれば、例えば、下記のようなページが出てくる。
http://www.jreast.co.jp/railway/joyful/


『のってたのしい列車ポータル』。これ、構成が非常によい。列車ごとにページが設けられ、それぞれの魅力を分かりやすく伝えているし、運行日や時刻表など必要な情報も提供されている。ただし、JR東日本のウェブサイト内のコンテンツなので、当然のことながら、本州内、中部地方より東側の範囲しか載っていない。

近畿から中国地方をカバーするのは、JR西日本が運営する『JRおでかけネット』のサイト内に設けられた『観光列車の旅時間』というコーナー。
https://www.jr-odekake.net/navi/kankou/


四国は、JR四国のサイト内に、シンプルに『観光列車』のコーナーがある。
http://www.jr-shikoku.co.jp/01_trainbus/event_train/


九州は、JR九州のサイト内に『JR九州の列車たち』というコーナーがある。
http://www.jrkyushu.co.jp/trains/


北海道にもおもしろそうなのが走っているようではあるけど、総覧的にまとめたサイトが見当たらない。

眺め渡すのにすでにそうとうの時間を使った上に、知ってしまったからには乗らずにゃおれんぞ、と、うずうずさせてくれる列車がやっぱり出てきた。情報を気前よく提供しましょうという善意の陰には、読者諸兄も同じ沼に引きずり込もうという悪意が、……いやいや、なんでもないです。

自分基準でこりゃたまらんと思ったうちでも断トツなのは、秋田─青森間を五能線経由で走る快速。車両は「くまげら」、「青池」、「ブナ」の三兄弟。デビュー年はそれぞれ2006年、2010年、2016年だ。

長男の「くまげら」だけが「キハ48形」で、次男と三男はいずれもハイブリッド車だ。乗るなら長男に限る。

秋田から青森に至るなら奥羽本線経由が標準的で、「特急つがる号」に乗れば約2時間40分の行程だ。奥羽本線は秋田から男鹿半島の付け根、八郎潟の東側を北上し、東能代でほぼ90°右へターンして内陸部へと入っていく。東能代を起点として、海岸沿いの続きを走るのは、五能線。

奥羽本線は大館、弘前(ひろさき)と回り、五能線は鯵ヶ沢、五所川原と回り、川部で再びコンニチハする。特急つがる号と同じく秋田発青森行でありながら、わざわざ五能線を経由していくひねくれ者が例の三兄弟だ。所要時間は、なんと5時間47分! 2倍以上だ。

五能線にあって奥羽本線にないのは、海の景観だ。五能線は、シッポまで餡の詰まった鯛焼きのように、半島の先っぽまで忠実に海岸線ぎりぎりをなぞる。特急つがるに乗るやつなんざ、「このせっかちさん♪」と笑い飛ばしてやろう。

というか、オレの知ってる「つがる」は「急行津軽」で、上野から東北本線・奥羽本線経由で青森まで行く夜行列車だった。機関車がチョコレート色の客車を牽引するタイプで、寝台車は併結してなく、全部が椅子席だった。あれはたいそう魅力的な列車だった。

五能線経由のつがるは東能代で進行方向が変わるため、どっちかの端では号車番号の並びの整合性がとれなくなるというひねくれっぷりもよい。

やはり秋田がらみで、たまらないのが「急行おが」だ。湯沢から秋田を経由して男鹿に至る。いろいろな意味でレアだ。まず、機関車が客車を牽引するタイプの列車自体が非常に少なくなった。その中でも、ディーゼル機関車が牽引するのは、おそらく電気機関車よりも、蒸気機関車よりもレアだ。それは言い過ぎか。

急行列車自体が、いまや非常にレアだ。というか、定期列車としてはすでに絶滅している。2016年3月26日のダイヤ改正で、青森─札幌間を走る夜行列車「急行はまなす」が廃止されたことをもって消えたのだ。ただし、不定期に出
現する。

秋田─男鹿間には12駅あるが、急行おがは6駅を通過する。それなのに、所要時間は各駅停車よりも1分長い。なんとも不思議なことだ。

とてもじゃないが、特急を名乗るわけにはいかない。そういうときに思い出したように出てくるのが急行だ。車両は特急用を使うので、快速じゃないよ、という言い訳がいちおう立つ。

決定的にレアなのは、運行するのが 6月16日(土)、1往復だけだという点。全車指定席で、その席の取り合いの熾烈な戦いは、すでに終わっている。

ヤフオクで検索してみると、それほどべらぼうでもない値段で出品されている。まあ、落札時点でいくらになるのか知らないけど。

ディーゼル機関車が客車を牽引するタイプとしては、木次(きすき)線を走る「奥出雲おろち号」も同類だ。やはり全車指定席だが、こっちは金・土・休日の運行なので、秋田のよりは競争が緩そうだ。

あと、乗りたいかと言われるとビミョーだけど、四国は予土線をものすごく変てこりんなのが走っている。鉄道ホビートレイン予土線三兄弟。三男が特に変で、0系新幹線ふうに外装されたディーゼルカー1両編成。速そうな遅そうな。
http://www.jr-shikoku.co.jp/yodo3bros/tetudohobby/


蒸気機関車(steam locomotive; SL)は別格。探せば、観光列車としてあちこちで走っている。生きてるやつが目の前でボワシュッと蒸気を吹いているのを見ると、ものすごーく乗りたくなるけど。もう乗り納めはしてあるからいいや、という気持ちもある。

小学生時代、小海線や根室本線で、観光列車としてではなく現役でふつうに走っているのに乗ったとき、遠からず消えゆくものなのだから、よーく味わって乗るぞという思いをもって乗っている。自分の中で葬式は済んでいる。

あれをちゃんとメンテナンスして、過酷な環境下で複雑な操作をして走らせているがんばりには幾百万の敬意を表するけど、現役時代を知っているだけに、経済的合理性からするととっくに要らなくなっているものが遊園地のアトラクションみたいな役割で生かされているのを見ると、かえって哀しくなる気がするのだ。

別な意味で別格なやつらがいる。「ななつ星」とか「瑞風」とか「四季島」って聞いたことあるだろうか。ブルー・トレインではない。ブルジョワ・トレインだ。うん、我ながら上手いこと言った。一般的にはクルーズ・トレインと呼ばれる豪華列車だ。

こいつらの別格たるゆえんは、時刻表に掲載されてない点にある。貸切臨時列車という扱いで、人知れず、幽霊のようにこそこそ走る。運行スケジュールを知りたい場合は、それぞれの列車のウェブサイトに行くのがよい。
https://www.cruisetrain-sevenstars.jp/

http://twilightexpress-mizukaze.jp/

http://www.jreast.co.jp/shiki-shima/


列車に乗るだけという乗り方は許してくれず、2泊3日などの決まったツアーコースに組み込まれている。列車が豪華なら、宿泊や食事も超一流のものがセットになっている。値段は、見るだけで健康を害しそうなほどべらぼうだ。いやぁ、持ってるヤツは持ってんだねぇ、恐れ入りやんした。

金がぶんぶんうなっているどこぞのブルジョワジーはいいとして、清水の舞台から飛び降りたつもりでなけなしの貯金をはたいて参加する鉄ヲタもいたりするのだろうか。比率はどうなんだろう。見かけで区別がつきそうな気がするので、乗車するところをはたからカウントしてやろうか。

死んだと思っていた「カシオペア」がしっかり生きていた。JTBの時刻表の行楽臨時列車のコーナーの先頭ページが丸ごと、株式会社朝日旅行の広告になっている。題して『ホリプロ・南田マネージャーと三陸鉄道を「わんぱく乗り」!カシオペア紀行と三陸鉄道完全走破』。

2018年5月26日(土)に「寝台特急カシオペア紀行」が走ることが書かれている。これまた時刻表本文には掲載されていない。申込みは5月13日(日)に締め切られているが、ネットで検索すると、割とそれなりの頻度で運行しているようだ。三線軌条の青函トンネルをくぐって、札幌まで運行するときもあるようだ。

●妄想で全行程を細部まで詰めれば現実化は目前

乗りたい列車が見つかったら、それに乗りに行くためには、どんな旅程になるか、組んでみたくなる。これで妄想が一歩進む。あくまでも妄想の範囲内であって、乗りには行かないという前提だ。

先ほど挙げた、五能線をのんびり行く急行に乗りに行くとしたら……。五能線快速三兄弟の長男「くまげら」が走るのは一往復だけだ。下りのに乗ると日帰りで行ける。

9:08 東京─13:02 秋田、東北・秋田新幹線こまち9号秋田行
13:53 秋田─19:32 新青森、奥羽本線・五能線・奥羽本線 快速リゾートしらかみ5号青森行
19:44 新青森─23:04 東京、東北新幹線はやぶさ42号東京行

しかし、この旅程にはふたつ不満がある。ひとつは、五能線回りの快速列車を終点の青森まで乗らず、一駅手前の新青森で降車すること。これでぎりぎり乗れる新幹線が東京行の最終なので、終点まで乗って戻ってくると、もう間に合わないのだ。

もうひとつは、私の好みの問題だが、できればいつでも右側窓際に座りたいというのがある。日本の鉄道は左側通行が原則なので、右側に座っていると、すれ違う列車や駅の前後の配線がよく見えるという利点がある。ところが、五能線の下り列車で右側窓際に座ると、海辺を走りながら山ばっかり見ているという目にあう。

そういうわけで、下り列車を利用したい。ところが、下りは8:10青森発である。朝一番の新幹線に乗っても間に合わない。夜行バスという手はある。20:30上野駅前発、6:50青森駅前着のがある。

覚悟をきめて2日がかりの行程にすれば、もうひとつ、おもしろそうなのに乗れる。秋田内陸縦貫鉄道の角館─鷹巣間を走る「急行もりよし」だ。

定期運行の急行列車は絶滅したと言ったが、これは定期運行だ。第三セクタは別枠扱いということらしい。急行料金はJRよりも安く設定されている。秋田内陸縦貫鉄道のウェブサイトがある。
http://www.akita-nairiku.com/


「たかのす」駅の漢字表記が、秋田内陸縦貫鉄道では「鷹巣」なのに対して奥羽本線では「鷹ノ巣」なのも謎だ。

(1日目)
7:36 東京─10:39 角館、東北・秋田新幹線こまち3号秋田行
11:02 角館─13:02 鷹巣、秋田内陸縦貫鉄道急行もりよし2号鷹巣行
13:51 鷹ノ巣─15:20 青森、奥羽本線特急つがる3号青森行
(2日目)
8:10 青森─13:27 秋田、奥羽本線・五能線・奥羽本線
快速リゾートしらかみ2号秋田行
14:14 秋田─18:04 東京、秋田・東北新幹線こまち28号東京行

なお、1日目は、さらに、津軽鉄道に乗りに行くこともできる。また、2日目はさらに、男鹿線で男鹿駅まで行って戻ってくることもできる。

秋田─青森間を五能線経由で直通する列車が奇妙なことになっている。通らないはずの弘前駅に停車するのだ。

時刻表でたどると、秋田発の下り列車は、東能代から五能線に入り、川部で奥羽本線に復帰する。このとき川部に停車する。川部からそのまま奥羽本線を青森に向かうのではなく、進行方向を変え、奥羽本線を弘前に向かうのである。

弘前でまた進行方向を変えて、同じ奥羽本線を戻る。二度目に川部を通るときは通過する。逆に、青森発の上り列車は、最初の川部を通過し、弘前に停車して戻ってくる二度目の川部で停車する。つまり、どちらも進行方向を変えるときに停車するのである。

さて、逆向きに走る区間で、運転手と車掌が場所を交代するのか、それとも場所はそのままで役割を交換するのか、それとも場所も役割もそのまま、バックオーライで運転するのか。これは、実際に行ってみて、この目で確かめてこなくてはなるまい。

行けるのはいつだろうと、カレンダーをチェックしている私。夏休みの直前の週末あたりが狙い目か。……だから妄想旅行は危険だと言うのだ。


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《増上寺で尼僧アイドルのライブが開催された》

5月24日(木)6:30pmから港区芝にある増上寺にて光誉祐華さんのライブが開催された。

増上寺は、あの増上寺である。浄土宗大本山。東京タワーを背景に大殿が構える。左側にある光摂殿の講堂が会場となった。100名近くが客席を埋め、お坊さんも多くいた。

『仏教イヴニングスクール・一夜一会』は年一回開催されるイベントで、今年は光誉祐華さんが招かれ、約1時間にわたるワンマンライブを執り行った。

光誉祐華さんは、旧称愛$菩薩さん。奈良の生んだ奇跡。尼僧アイドルである。奈良県吉野のお寺「西迎院」の副住職を務める。住職は父親。その傍ら、アイドルとして、布教を旨とするライブ活動を行なう。

近年、少子化の影響もあり、若い人たちがなかなかお寺に来てくれなくなった。ならばこちらから若い人たちのいる場へと出向き、仏教の教えをお伝えしたいという辻説法の精神に則り、ライブハウスなどで法話と歌のパフォーマンスを演じる。

テクノの音楽に乗せてお経をお経の節回しで詠むなど、新旧織り交ぜた独特の感覚がおもしろい。祐華さんの澄み切った心ときれいな声は、こちらの薄汚れた心を洗濯してくれる。

このユニークな活動はもっと広く世に知れ渡ればいいのにと歯がゆい思いをしていたが、このところいい風が吹いてきているのか、今回のライブにもテレビカメラが入っていた。

登場すると、まず歌から入った。衣装は法衣ではなく、ステージ衣装。『西遊記』で三蔵法師を演じた夏目雅子さんを彷彿させる派手なものだ。仏教は寛大である。

みずからの愛別離苦のつらい体験話を交え、仏教の正しい教えに導かれて、苦しみを受け止め、乗り越えていくために一生涯精進していくことの大切さを説かれた。

場の空気に飲み込まれず、のびのびと話し、歌っていた。後で聞くと、来場者たちのやさしさ、あたたかさが伝わってきて、緊張しすぎることなく自分のパフォーマンスができたのだとか。

私は私で、仕事上がりにカラオケ屋に立ち寄ってB面からA面に変身して赴いた。おっさんがセーラー服を着ているというフザケた姿で行って、入れてくれるかどうか若干心配したが、だいじょうぶだった。仏教は寛大だ。

周囲の平常心をかき乱したりということも、たぶんそんなになかったんじゃないかな。今のところ、天罰が下されたりもしていないようだし。

祐華さんは、これからもますます活躍し、仏教の心を次の世代に伝承する立役者になっていってほしいなぁ。