《フォントおじさん秋の巡業がはじまります》
■わが逃走[223]
自然から学ぶデザインの極意の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[91]
新・まちもじ特集 その1 ~「愛」はゴシック体?~
関口浩之
■わが逃走[223]
自然から学ぶデザインの極意の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[91]
新・まちもじ特集 その1 ~「愛」はゴシック体?~
関口浩之
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■わが逃走[223]
自然から学ぶデザインの極意の巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20180906110200.html
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自然現象により可読性の落ちた文字は、つい解読してみたくなるものだなあ。
割れた石板や虫食いだらけの古文書の修復に通ずるロマンを感じるというか……。こういったものは気になる。つい振り向いてしまう。少なくとも好奇心をくすぐられるのは確かだ。
実際、脳内で完成当時の文字を幻視し、その状態から今までの経年を高速再生している自分がいるわけだが、この現象をデザイン的視点で読み解いてみると、なかなか興味深い。
デザインの表現手法をおおまかに分類したとして、そのひとつに『対比』がある。「使用前・使用後」とか「日常・非日常」などを効果的に見せることで、主役を印象づける。
『対比』表現は、必ずしも言葉やビジュアルを並列する必要はない。たとえば、「これがあるだけで、生活がより豊かに」といった広告は「これがある」を見せるだけでいい(「これがない」は受け手の今の姿なので)。
このふたつを『対比』させ、前者の優位性をアピールしているわけだ。
で、再度この写真を見てみると、
1・何が書いてあるんだろう? と興味をもたせる。『振り向かせる』機能
2・現在を見せることで、過去(開店当時)を『想像』させる要素
そして
3・現在と過去を『対比』させ、それを繋ぐことで時の流れを表す要素が含まれていると分析する。
つまり、この地で永く営業を続けている、即ち歴史と伝統が表現されているわけだ。歴史と伝統は味への信頼に繋がる。
おまけに全体にかかるひび割れは、揚げ物のサクサク感に通ずる。しかもそこに作為がない。即ち下心がない。
「下心がない」。これは非常に重要で、たとえば既存フォントを同じように加工したところで、“ただの読みにくい文字”になってしまうのだ。
デザインの目的が「相手に情報を伝えること」ならば、作り手として最も留意すべきは「無作為の作為」だと思う。
人は説明をききたくない。
人は読みたくない。
人は説教されたくない。
これは、広告デザインにおける受け手側の三大要素である。
「つい振り向いて、気がついたら読んでいた」がよいデザインだとすれば、デザイナー自身がいかに自然に近づくか、受け手の気持ちと送り手の気持ちを考えつつも、その間の時間とか空気みたいなもの、目に見えないものをいかに感じ、客観的存在になりきれるかがポイントといえよう。
デザイナーとは本来黒子であり、縁の下の力持ちなのである。
次に、この写真をご覧いただきたい。
前述したとおり、人は基本的に「読みたくない」のだ。
これは、読まずに「感じる」からこそ伝わるケースである。
デザインのエラい人の言葉で「読ませるな、感じさせろ」というのがある。実に的を射た表現だと思う。それが必要な情報かどうかが判明するまでは「文字を言葉として読み取り、その意味を理解する」などというめんどくさいことは、誰もしたくないのだ。
直感的な情報伝達の例としてアナログ時計が挙げられる。デジタル時計が、読んだ数字を時間に置き換えて認識するのに対し、アナログ時計は、短針と長針の角度から今の時刻を「感じる」。
この『ガラスに書かれたハゲたロゴ』は、アナログ時計的な瞬発力が活かされていると言えるのではないか。
とはいえ、このように「感じさせる」ためには、常日頃からそれが何なのかを刷り込ませておく必要がある。
実際、日本中いつでもどこを歩いても、このロゴを見ない日はない。
それこそ、回数でいえば時計を見るのと同じくらいだろうか。
風景の一部として溶け込むように、我々の無意識下にそれが書き込まれており、この写真のような場面に出くわした際は、瞬時に欠けている部分を脳内で補正して、あたかもそれが文字として認識できたかのような錯覚を自分自身に与いるわけだ。
優れたロゴとは、印象的な顔である。
世界的な企業だろうが、小さな町工場であろうが、それはゆるぎない事実だ。そういった意味からも、社長が交代する度にロゴデザインを変える会社は、デザインの何たるかを理解していないことをアピールしているようなものだし、ともすれば企業が私物化されているといった誤解を招きかねない。
その点、このロゴは132年も姿をほとんど変えずに我々の前に提示され続けている。
継続は力、とも言える。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[91]
新・まちもじ特集 その1 ~「愛」はゴシック体?~
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20180906110100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
まずは、台風21号で被害にあった皆様にお見舞い申し上げます。僕の住んでる街では、小さな看板が外れたりした程度で、大きな被害はありませんでした。
ただ、東京から千葉方面に向かう電車は大混乱でした。僕が通勤で使っている東京メトロ東西線は、雪で止まることは当たり前なんですが(笑)、今回の強風で、帰宅ラッシュの時間帯に、数時間、電車が止まりました。
東京メトロ東西線は、地下鉄とはいえ、西葛西駅から西船橋駅まで地上なのです。しかも高架線なので、強風には弱い路線なのです。
今から40年前の1978年に、東西線の荒川に架かる鉄橋で、強風により電車の転覆事故があったのです。
1987年といえば、僕が高校卒業後、東京に上京した年じゃん……。思ったほど昔の話じゃない。
脱線事故の写真を見つけたので、リンクを掲載します。
https://mobile.twitter.com/shounantk/status/1036955717427576833/photo/3
近代化の象徴でもある東京メトロの車両が走行中に、バッタリ、倒れている……。この橋は、僕が住んでいるマンションから徒歩5分ぐらいのところにある鉄橋なので、人ごとには思えません。
過去に、そんな重大な事故があったというトラウマを持っている地下鉄東西線にとって、今回の台風で、早めに運転中止したのは正しい判断だと思います。
天候の回復をみて運転再開したので、いつもの3倍時間が掛かったけど、無事、帰宅できました。
さて、今日のテーマは「新・まちもじ特集 その1」です。3年前に「街中で見つけた素敵な書体たち」シリーズを4回やりました。
好評だったので(のはず…)、復活したいと思います。
「通勤途中や散歩中に見つけた楽しげな文字」「おっ、これ文字、大好き」とか、「この場面でこの書体はやばいんじゃね」などを紹介したいと思います。
文字オタクの観点ではなく、初心者目線で、肩の力を抜いて楽しめる企画にしたいと思います。
●「愛」はゴシック体、それ以外は明朝体
最近、気になったポスターなんですが、こちらをご覧ください。
http://bit.ly/2wNYY1b
最近のアイフルは、「愛がいちばん~」がキャッチフレーズなのかしら。僕がイメージするアイフルは「どうする~、アイフル~」なのです。そして、わんちゃんが出てきて、「アイフルです」で終わるやつです。
それはそうとして、「愛」の書体をじっくりみてください。
おっ、ゴシック体だけど、なんか風情のある「愛」ですよね。
この書体を作ったのは、フォントワークスの書体デザイナー藤田重信さんです。もじもじトークで、何度も登場しています。
「愛」の文字は「筑紫アンティークゴシック」という書体です。フォントにある程度詳しい人であれば、「筑紫ゴシック」は知ってますよね。つまり、アンティーク(100年以上の古さがあり貴重なもの)な、筑紫ゴシックということです。
一方、それ以外の文字は明朝体です。でも、ちょっと待って。なんか、このひらがな、すげ~風情ありませんか?
「筑紫Cオールド明朝」という書体です。オールドスタイルな筑紫明朝ってことですね。でも、こんな、こねこねした感じの「ん」とか「が」とか、見たことないよね。なんか新鮮な感じもするし、コクもあります。
筑紫オールド明朝シリーズの仮名セットは、Aタイプ/Bタイプ/Cタイプがあって、Cになるほどバビューンって感じで振り切ったスタイルです。
この「筑紫アンティークゴシック+筑紫Cオールド明朝」で『愛がいちばん』と表現すると、なんかしゃべってる感、でてませんかせんか?
この書体の組み合わせで、漫画の吹き出しに文字組みしてみたくなりました。
そうそう、明朝体とゴシック体が組み合わされた書体を、アンチゴチ、と表現します。アンチゴチという言葉、聞いたことある人いますか?
もう少し、詳しく説明してみましょう。
主に漫画の活字書体を指す言葉です。つまり、「アンチック体活字+ゴシック活字体」で、アンチゴチってことです。
多くの漫画のセリフは、ひらがなとカタカナが明朝体太字に似たアンチック体活字、漢字がゴシック体活字で、印刷されていると思います。
昔のアイフルのコマーシャルをみたのですが、「どうする? アイフル!」の文字を観察したら、あれっ、「どうする?」が明朝体で、「アイフル!」がゴシック体じゃありませんか。
ということは、アイフルは、ひとつのキャッチコピーの文章にゴシック体と明朝体を混植させる法則が、昔からあったのかもしれませんね。
http://bit.ly/2M0RXiv
●「でこぼこ感」がしゃべってる感を演出
ゴシック体よりも、明朝体のほうが肉声感(人がしゃべってる感)があると言われています。理由は「でこぼこ感」があるからです。
金属活字の明朝体は、でこぼこ感が更に顕著になります。漢字と仮名が大きさの差があればあるほど、肉声感がでると思います。
更に、骨格が全く違う明朝体とゴシック体を組み合わせれば、更にでこぼこ感が出てきそうですね。
ということは、「筑紫アンティークゴシック+筑紫Cオールド明朝」の組み合わせは、まさに、肉声感を出すための手法なのかもしれませんね。
以前、「フォントソムリエ感」というテーマで記事を書きましたが、それに通じるものがあると感じました。
「このフォントは何という書体か」を見分けることも楽しいけど、「この書体は、どういうコンテクスト(文脈や背景)で使っているのか」を想像することのほうが、更に楽しいと思います。
●秋はイベントシーズン!
みんなから、「関口さんって、いろんなところに出没してるよね」と良く言われます。秋のイベントシーズンということで、フォントおじさん、秋の巡業がはじまります(笑)
フォントおじさんが出演するイベントで、募集開始したものを4つ、勝手にご紹介しますね。お近くで開催されるセミナーがありましたら、ぜひ、ご来場ください!
・2018年9月23日(日)14:30~20:00
Webデザインシンキングセミナー in 広島 with YAT blog
https://yatblog.connpass.com/event/96728/
広島にて、「フォント最新事情×Webデザインシンキング」をテーマでフォント愛を語ります。遊びにきてね~ YATさんとManaさんのWebデザインシンキング講座も必見です。学割もあるよ。
・2018年10月6日(土)13:00~18:20
Web Design Creative Plus 今とこれからのウェブデザイン in 門前仲町
https://wdcp.doorkeeper.jp/events/79575
東京の門前仲町にて、「最新Webフォント極意 フォントおじさん直伝 2018年度版」をテーマでフォント愛と語ります。境祐司さん、森和恵さん、松田直樹さん、生明義秀さん、轟啓介さんも出演するという豪華企画です。SNS/ブログ投稿割もあるよ。
・2018年10月27日(土)11:00~17:00
クリエイティブハント 2018 in 山口
https://creative-hunt.connpass.com/event/97017/
山口県の山口大学にて、「フォントを学んでクリエイティブ力を高めよう ~フォント最新事情2018~」をテーマでフォント愛と語ります。まだ、登壇者情報は出ていませんが、多くの方に申込みいただいています。
では、またお会いしましょう。次回のもじもじトークは、文字に関するお話になる予定です。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
フォントおじさん
https://event.fontplus.jp/about/hiroyuki_sekiguchi.html
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。
現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして日本全国を飛び回っている。
日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、オトナンサー等のWebメディアにて、文字に関する記事を連載中。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。
フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/
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編集後記(09/06)
●西村まさゆき「ふしぎな県境 歩ける、またげる、愉しめる」を読んだ(中公新書カラー版/2018)。筆者はニッチな“県境マニア”である。実際に現地に行って、県境をまたいだ証拠写真を撮る。そしてなぜそこに県境が引かれたのかを調査する(もちろん下調べ済み)。13か所の実地調査を敢行したレポートである。まるで「デイリーポータルZ」みたいな展開だ~と思ったらアタリ。
オルタナ系のポータルサイト「Daily Portal Z」は「愉快な気分になりますが、役にたつことはありません。」と宣言し、世の中のトレンドをあまり意識せず、自分たちが興奮したことだけを掲載している。かなりバカバカしいことを企画、実践、レポートしていて楽しい。そこで連載した記事をまとめたようだ。
「境界線はその土地の歴史が刻み込まれた記念碑である」とは格好いいが、面白い境界線を地図上で探し出すのが楽しくて、実際そこに行って見たらなお楽しいだろうという、野次馬な志が潔い。東京の練馬に県境がひと目で分かる場所があるので見に行った、店舗内に県境ラインが引かれているショッピングモール、東京都を東西に1秒で横断できる場所、福岡県の中の熊本県など13物件。
ハイライトは「標高2000メートルの盲腸県境と危険すぎる県境」で、26ページにもなる渾身のレポート。「変わった形の県境クエスト」なるゲームがあれば、ラスボス級の県境は「福島県の盲腸県境」だという。福島県、山形県、新潟県の三県境、三国小屋あたりから飯豊山(2105m)山頂を経て、御西小屋まで福島県が新潟県と山形県の間に細く(幅1.0メートル:by道路台帳)長く、続く。
県境マニアのあこがれの聖地であるらしい。筆者がここにたどり着くまでが超絶の苦行だったという。なにしろ本格登山なのだ。素人には上れないので、飯豊山ガイドを雇う。坂道のきつい登山ルートで尾根まで出て、尾根伝いに上り下りしながら山小屋を目指すが、滑落事故がよく起きる剣ヶ峰は、登山初心者にとって死ぬほど怖かったという。正直、尾根の縦走をなめていたのだ。
三国小屋から先が、筆者が命名した盲腸県境である。朝5時から登山を始め10時間を経過している。HP5、MPゼロと形容するがゲームをやらないわたしには分からない。運動不足の登山ビギナーおっさんが、盲腸県境を踏みしめて標高2000mの木山小屋着。翌朝、飯豊山の山頂を踏む。そして、登山は下山がいちばんの山場である。筆者もフラフラになって這々の体で生還したのだった。
ほかの県境物件もみな興味深く、行ってはみたいが、まあ読むだけでいいや。「埼玉、栃木、群馬の三県境が観光地化している?」は、渡良瀬遊水池そばにあり、日本で唯一、鉄道駅から歩いて10分で行けるため「歩いて気軽に行ける三県境」として新聞やテレビで報道され、県境マニアの聖地になっているとか。
埼京線+宇都宮線+東武日光線で柳生駅か。埼京線+武蔵野線+東武日光線というルートもある。電車だけで往復3時間、2000円以内。これなら行けるな。わが戸田市のガイドマップで、戸田市、蕨市、さいたま市の「市境」を国道79号線のカーブ上に見つけた。週末に行ってみる。往復30分、無料。(柴田)
西村まさゆき「ふしぎな県境 歩ける、またげる、愉しめる」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121024877/dgcrcom-22/
●北海道で地震! みなさまどうぞご無事でいてください。
/台風前日時点の話続き。牛乳屋さんだけじゃなかった。明日配達予定の通販があった。慌ててログインし、配達日を明後日に変更した。遅れても誰も責めないだろうが、無理して配達されると心苦しい。明日なくてもどうにかなる。
半年以上前に予約していた商品の出荷案内が来た。佐川急便だ。問い合わせ番号が記載されていたのでサイトにアクセスすると、明日届きそうな雰囲気。
クロネコヤマトは事前通知からすべての荷物の受取日の変更ができるが、佐川は事前通知が来ない時がある。頼む、先に通知を下され。明日配達しなくてもいいかの確認メールをくれぇ。なぜ明日なのだぁぁぁ~。
宅配便は休みになると翌日分が増えて、かえってしんどいかもしれない。歩合制なら休みになると逆に困るだろう。続く。(hammer.mule)