[4737] 違いを受け入れる◇立体作品の撮影に苦労する◇韓国・北朝鮮はこうなる!

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《まるでタイムマシンだ》

■日々の泡[004]
 違いを受け入れる
 【最後の国境線/アリステア・マクリーン】
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[599]
 「立体作品の撮影に苦労する」「MyMiniFactory」
 吉井 宏




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■日々の泡[004]
違いを受け入れる
【最後の国境線/アリステア・マクリーン】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20190220110200.html

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昨年公開されたドイツ映画「はじめてのおもてなし」(2016年)を面白く見た。現在のドイツの状況がよくわかった。難民問題を取り上げているのだが、コメディにしているので、ニューナチの連中や極右の人種差別主義者が出てきても苦笑いですむ。シリアスに描いたら、ちょっとやりきれない。

先進国のリーダーで唯一まともでまっとうなメルケルさんさえ退陣に追い込まれている現在のドイツの状況を思うと、この映画のように問題が解決したらいいのにな、と叶わぬ願いを抱いてしまう。

狷介で口の悪い老医師リヒャルトがいる。引退を勧められても頑として認めないし、難民センターで奉仕活動をしている移民出身の研修医タレクには嫌味ばかり言っている。手術中に彼にミスを指摘されると、口を極めて罵る。

妻のアンゲリカは元教師で校長の経験もあるが、今は引退している。子供はふたりいるが、独立し家を出ている。息子のフィリップはエリートの企業弁護士で、離婚し男の子をひとり育てている。娘のゾフィは三十を過ぎているのに、まだ「自分探し」の真っ最中で今は大学で心理学を学んでいる。

ある日、難民センターへいき協力を申し出たアンゲリカは、家族が集まった晩餐の席で「難民をひとり受け入れる」と宣言する。夫と息子は反対するが、娘のゾフィは賛成する。その家族の議論が、ドイツ国内の難民支援派と難民受け入れ反対派の対立のようだった。

結局、夫は人種差別主義者と言われるのが嫌で妥協し、家族を殺されたナイジェリア難民のディアロを自宅に受け入れることになる。そこから、「難民受け入れに寛容だったドイツ」の現在の問題が様々に描かれていく。

見終わって、クレジット・タイトルを見ているとき「あれ、センタ・バーガーだったんだあ」と思わず声を挙げた。「上品で、きれいなおばあさんだなあ」と思いながら見ていた一家の母親アンゲリカを演じていたのは、何とセンタ・バーガーだったのである。

僕がセンタ・バーガーを最後に見たのは、サム・ペキンパー監督の「戦争のはらわた」(1977年)だから四十二年も前のことになる。最近の出演作を何本か見たカトリーヌ・ドヌーヴより二歳年上だが、今はセンタ・バーガーの方がずっときれいだ。「はじめてのおもてなし」出演時は七十五歳である。

ドイツ出身の女優というとマレーネ・ディートリッヒが有名だけど、戦後ではヒルデガルド・ネフ、マリア・シェル(マクシミリアン・シェルの姉)、ロミー・シュナイダー、クリスティーネ・カウフマンもいると思って調べてみたら、マリア・シェルもロミー・シュナイダーもセンタ・バーガーもオーストリアのウィーン出身だった。

クリスティーネ・カウフマンもオーストラリア出身である。「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)で描かれたように、オーストリアはナチス・ドイツと合併した。アドルフ・ヒトラーだってオーストリア人だったのだ。ドイツとオーストリアの関係は、密接なのだろうか。

センタ・バーガーが今も現役の女優で、美しさを保っているのを知って僕は大変うれしくなった。昔、とても好きだった女優さんなのだ。改めてネットで調べてみると、「戦争のはらわた」以降の出演作はほとんど日本未公開だった。「はじめてのおもてなし」が四十一年ぶりの日本公開である。三十六歳のセンタ・バーガーが七十五歳になって現れたことになる。まるでタイムマシンだ。

僕が初めて見たセンタ・バーガーは、やはりサム・ペキンパー監督作品「ダンディー少佐」(1965年)だった。忘れられないのはジュリアン・デュビビエ監督の遺作になった「悪魔のようなあなた」(1967年)のヒロイン。人気絶頂期のアラン・ドロンの相手役である。何しろ僕の最愛の作品「冒険者たち」と同じ年に制作されている。

もう一本、僕がどうしても見たい映画に二十歳のセンタ・バーガーが出演している。彼女がハリウッドデビューした「秘密情報機関」(1961年)という、リチャード・ウィドマークが制作し主演したスパイ映画である。六〇年代の冷戦を背景にしたハリウッド映画には、ドイツ人女優の需要が多かったのかもしれない。

センタ・バーガーも六〇年代にはスパイ映画への出演が多い。僕がどうしても「秘密情報機関」を見たいと思っている理由は、アリステア・マクリーンの「最後の国境線」を原作にしているからだ。彼女は、おそらくハンガリーからイギリスに亡命する博士の娘の役に違いない。

初期のアリステア・マクリーン作品は、非常に完成度が高かった。デビュー作「女王陛下のユリシーズ号」は不朽の名作である。ただ、完読するには忍耐が必要だろう。しかし、二作め「ナヴァロンの要塞」が映画化され大ヒットした後、中期以降の作品は映画のために書くようになり、質は低下した。

後期の作品など、読むに耐えないものさえある。僕は十一作めの「八点鐘が鳴るとき」まではすべて読破し、その後、チョコチョコと適当に読み、「軍用列車」以降は書店で新刊を見かけても「マクリーン、また出したんだ」とチラリと見るだけで手に取りもしなくなった。

「最後の国境線」は、冷戦真っ盛りの一九五九年に、四作めのアリステア・マクリーン作品として出版された。僕が読んだのは、四十年ほど前のことになる。二十代後半、僕はマクリーン作品を集中して読んだものだった。「最後の国境線」は、マクリーンの初めてのスパイ小説である。極寒のハンガリーを舞台に繰り広げられる逃亡と追跡の緊迫感は、半端ではなかった。手に汗握る。冒険小説として一級品である。

そして、その小説には忘れられないフレーズがあった。ある登場人物が語る長いセリフの中にそのフレーズはあり、僕の記憶に刻み込まれたのだった。後年、かわぐちかいじさんのマンガ(作品名は憶えていない)を読んでいたら、そのフレーズが以下のように引用されていた。

----最後の国境線は人間の心(アリステア・マクリーン)

「はじめてのおもてなし」を見ていると難民排斥を訴える人々の言動は醜悪で、「最後の国境線は人間の心」というフレーズの意味を実感する。他者の違いを受け入れられない人は、突き詰めていくと、結局、自分以外の人間は受け入れられないのである。自分以外の人間は、どんなに共通する部分があっても自分と何かが違っているのだから。

僕は「はじめてのおもてなし」を見て、「違いを受け入れる寛容さと許容する心」を改めて肝に命じた。ちなみに、「はじめてのおもてなし」の監督はセンタ・バーガーの息子だという。


【そごう・すすむ】

ブログ「映画がなければ----」
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■グラフィック薄氷大魔王[599]
「立体作品の撮影に苦労する」「MyMiniFactory」

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20190220110100.html

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●立体作品の撮影に苦労する

3Dプリンタ作品をきちんと撮影したことがない。それで、試しにいくつか撮ってるのだが……ツルツルものはむずかしい、思うように撮れない orz

http://www.yoshii.com/dgcr/photo_P2091782
http://www.yoshii.com/dgcr/photo_P2091781

なんちゅうか、「3Dプリンタ作品の写真撮影」自体が、僕にとってバカバカしいというか、間抜けな作業に思えてしまうw だって、CGで僕的に理想的なライティングを施した、レンダリング画像がすでにあるんだもん。

「データを3Dプリントして表面仕上げて色塗ってトップコートして完成したものを、アナログでライティングして撮影」だもんね。遠回りすぎるし、やってることはCGの再現というか、CGレンダリング画像をアナログでもう一度やるみたいなw

レンダリングに使う例の天窓のHDRIそっくりに、LEDトレース台に格子を切り抜いて、ライティングしてみたらおもしろいかもね。または、液晶ディスプレイ何台かでライティングを作るとか。

使ってるのは折り畳みの簡易スタジオ。LED電気スタンドを照明に使ってる。スタジオを広げたついでに、一日かかって30個の他作品も撮影したのだが、光量や反射が思うようにセッティングできなくて落ち込む。

調べたら、最近の簡易撮影ボックスって、LED照明がついてたりするのね! 買ってみよう。

●偏光フィルタ、おもしろい!

「ツルツルなモノが思うように撮影できないなら使うと便利だよ」と教えてもらった偏光(PL)フィルタ。さっそく買ってきた。(レンズ口径に応じたサイズがあるなんて知らなかったから、デジイチの口径を確認しに帰宅してからまた行ったw)

なぜ反射とかテカりが取れるのか、理屈はよくわからない。反射した光の波は横向きになるので、縦のフィルタを通り抜けられないとかなんとからしい。フィルタを回すと白っぽい反射がきれいになくなっておもしろい。

フィルタを通していろんなものを見てみると、回す角度によっては、液晶ディスプレイが真っ黒になっちゃうのがすごい。床や箱側面のテカりなど完璧に消える。

撮ってみた。強すぎる反射などが確かに軽減できる。ぐるぐる回すと反射の強いところが、移動したり消えたりする。そうやって最適なところを見つける感じか。
http://www.yoshii.com/dgcr/PLFilter1
http://www.yoshii.com/dgcr/PLFilter2

ちょっと暗くなるからか、シャッター速度が遅くなって手ブレする。三脚が必要かも。

あと勘違い。偏光フィルタって強・中・弱とか、強度の段階で何枚か買わなきゃいけないんだろうと思ってたw 回して調節できるのでした。

●MyMiniFactoryで出力用3Dデータ売ってます

ロンドンを拠点とするMyMiniFactoryのSTOREに参加しました。出力用3Dデータを購入できます。最近バタバタと作ってた、3Dプリンタ利用の立体作品3個はこれのためでした。
https://www.myminifactory.com/


単に3Dデータならいっぱいあるし、実際に3Dプリンタ用にデータを作成、出力して仕上げたものも数十個ある。しかし、「出力しやすいもの=本体が一体型で、塗装が比較的ラクなもの」に限定すると、当てはまるものはわずか。それでMMF用に新しくアレンジ。

※念のため。色もUVマップも無しのSTL形式ファイルです。つまり、写真のような仕上がりにするには、自分で3Dプリンタで出力して、表面をサンドペーパーやパテで整えて、色を塗らなきゃいけないです。ガレージキットより大変。

カラー3Dプリンタ用のデータにも対応を検討中。

TDW_1956 「SPROUTS」
http://mmf.io/o/85499


TDW_2785 「Slipper」
http://mmf.io/o/85500


TDW_2997 「Yoshii Ducky」
http://mmf.io/o/85509



【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


噂ニュースによれば、16〜16.5インチのMacBook Proが今年中に出るかもしれない。ちょっと小さいけど、17インチMBPの再来に期待! あこがれの「ノートだけで仕事する」は15インチじゃ小さすぎるのだ。

もうひとつの噂、32インチ6Kのディスプレイは新Mac Proに合わせてだろうな。27インチディスプレイでさえ苦手と判明した今となっては、32インチには興味ないかな。

○吉井宏デザインのスワロフスキー、新製品がいくつか出ました。

・見ざる聞かざる言わざるの「三猿」
https://bit.ly/2UF4LzF


・フクロウHOOT、踊りたい気分! 「HOOT LET’S DANCE」
https://bit.ly/2Dc6p4Z


・恋に落ちたフクロウHOOTたち「HOOT WE ARE IN LOVE」
https://bit.ly/2BlyBC4


○MyMiniFactory
3Dプリンタ用のデータを売ってます。
https://www.myminifactory.com/users/Yoshii



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編集後記(02/20)

●偏屈BOOK案内:「韓国・北朝鮮はこうなる!」

かの国では「文在寅は外交の天才だと」と言われているらしい。“天災”じゃないのかね。かの国では大統領になると神様扱いになる。時の権力者を神格化し、批判を許さないというのが民族的な特徴である。ところが、その権力者が倒れると、後ろから石を投げ、踏みにじり、評価する人はゼロになる国……。

ムードと情で動いている国、民主的な法はあってもなきがごとしの国、それが韓国である。“こうなる!”と感嘆符付きのタイトルだが、この二人にしても断言はできないのだから、安易な表現ではある。しかし、さすがにこの二人、強い説得力があるのでじつに読ませる。朝鮮半島のそばにあるというだけで、日本の蒙る不運、不幸が再確認できる。読めば読むほどほど怖い話だ。

韓国には対日本「ツートラック」という都合のいい言い方がある。民族感情、歴史認識問題、これが一つのトラック。もうひとつは、経済協力、あるいは安保協力。これらは別のトラックであり、それぞれ個別に話合わなければならないことで、それが当然だと言う。日本側からすると、そんな虫のいい話はありえない。しかし彼らはそうは思わないし、そのやり方をずっと押し付けてくる。

加藤氏は、はじめは彼らが図々しいからそう言っていると思っていた。二枚舌の一種ではないかと。ところが、韓国人とつきあい始めてから、そうではなく、もともと発想が日本人とは違うと認識した。それと、韓国人には、「反日」でありながら、「日本を利用する」という「用日」という言葉もある。この「反日」&「用日」という発想と、ツートラックという発想は表裏のものなのだ。

彼らには「日本の技術供与を受けた」「お金を貸してもらった」からといっても、「日本に助けてもらった」という発想はまったく出てこない。「私たちは優れた民族で、頭の良い国家だから、日本が提供、協力を申し出ざるをえなくなってきた。私たちはうまく日本を使うことができているのだ」という、なんとも図々しい理屈だ。これが「用日論」で、韓国内で広く浸透している。

今度は「克日」といって、「日本は国際社会ではもはやたいした国ではないのだから、日本を克服し乗り越えよう」「日本は北東アジアあるいは世界に於いて、かつてほどの存在感がないということを自覚すべきだ」となってきた。文政権は「克日」というより「無日」としたいのだ。親日的なるものを清算、排除したいが、経済面で実際に「離日」は困難なので、我慢しているのが現状だ。

韓国の若者達は、朝鮮戦争が「北朝鮮から攻められた」ことを教わらず、6割以上が「南が北を攻めた」と思っている。今どきは「日本が仕掛けた」という認識が少しずつ増えている。具体的にどんな関与があったのかは明示されない。なんでも悪いのは日本だとしておけば、国民の支持を受けて、丸く収まるのが韓国なのだ。体をはってまで「真実」を言う人は、もはや韓国には殆どいない。

「北朝鮮はかつての南アフリカを凌ぐ『アパルトヘイト国家』であり、ヒトラーも真っ青になるような『アウシュビッツ国家』であり、スターリンも驚くソルジェニーツインが告発した『収容所国家』なのです。こんな三大巨悪国家をのさばらせてはいけないのです」と呉さん。そんな「南北の融和」が日本存亡の危機になるという現実感を、全然認識できていない日本人って……。(柴田)

「韓国・北朝鮮はこうなる!」呉善花・加藤達也 2018 ワック
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4898317804/dgcrcom-22/



●MacBook Pro続き。年末にPayPayが20%還元をやっていて、Apple製品のCTO(BTO)が店舗で購入可能だと知り、背中を押されてようやく購入。

脱線するが、還元された5万円は欲しいものが売っているお店では使えず、プールされたまま。同時に楽天ポイントが5,000円近くつき、今月末にも同じぐらいつくことになっているので、スーパーかドラッグストアで利用予定。

キャッシュレス戦争のおかげで、ドラッグストア20%還元だの、コンビニ200円クーポンだの、ケンタッキーフライドチキン半額だのの恩恵にあずかっている。割引による利点はもちろんだが、新しい決済方法やクーポンを試せるのがとても面白い。続く。(hammer.mule)