もし「安久」だったりしたら、発狂して永田町に火炎瓶を投げ込み、漁船を乗っ取って北朝鮮まで逃げ延び、そのまま亡命していたかもしれない。
「令和」? あ、なんか、うまくやられて恐れ入りましたという、ある種の爽快感を受け取りましたぞ。
暮れだからといってしみじみと一年を振り返ったりせず、正月だからといって凧揚げしたり独楽を回して遊んだりせず、目の前に積み上がったTo Doリストをもりもり片づけていく平常運転を続けてきたが、このたびの新元号祭りには、まんまと乗せられてしまった。
泣いて絶賛する人もいれば、腹の底から嫌悪する人もいるようだが、まあまあ、そこまで深刻に受け止めず、隠されたメッセージを解読しようと無理ぎみの理屈をこじつけたり、重箱の隅をつつくような粗探しをしたり、背後の選定プロセスを勘ぐったり、菅官房長官が新元号を掲げている絵を加工したりして、ひとしきり笑いたおすのが、うららかな春の過ごしかたとして、平和でよろしいんじゃないかと思う。
●ズバリ当てちゃった人が二人
4月1日(月)、予定よりも11分遅れの11:41amから開かれた記者会見で、菅官房長官が新元号「令和」を掲げた。これを受けて、では、どんなお祭り騒ぎが起きたのか、ざっと振り返ってみましょう。
いやもう、事前の予想熱がすごいことになっていた。ネットなどで公表された予想は決定候補から除外すると言われていた。ふたを開けてみれば、大方の予想を回避するトリックがお見事で、たとえ何万件上がっていようとも、超能力でも使わなきゃ当たらんだろうと思える。
ところが、予想を的中させた人がいる。私の知る限り二人も。一人は愛知県内の20代男性で、毎日新聞が報じている。全国で居酒屋店舗を経営する株式会社ヨシックスの元号当てキャンペーンに約5,500通の応募があり、当てたのは一人だけだという。
ビンテージワインの販売サイトを経営する和泉屋のキャンペーンには、約15,000通の応募があったが、正解者はゼロだったという。二文字のどちらかに「令」が入ると予想したのでさえ、たったの5通だったという。
2019年4月2日 09時57分(最終更新 4月2日 16時06分)
毎日新聞
ズバリ的中「令和」 愛知の20代男性
「平和」から連想 「令」はひらめきで
https://mainichi.jp/articles/20190402/k00/00m/040/031000c
令和を正解した人がいるというのは、驚くべきことではあるけれど、大量の応募があってのことなので、超常現象を思わせるような神秘性はない。不可解なのは、3年も前に、あたかも正解を知っているのがあたりまえと言わんばかりの、さらっとした調子でtwitterでツイートしている人がいることだ。
しゃん @syaaaan_
明治大正昭和平成令和
違和感ないね!
19:41 - 2016年7月13日
https://twitter.com/syaaaan_/status/753177564164653056
32万件のリツイートと49万件の「いいね」を獲得している。
種市孝氏(物理学者)の提唱する「意識の余剰次元仮説」のように、われわれの知っている時空4次元空間の外に、情報の通り道があるのだろうか。
2018年3月11日(日)を最後にツイートが途絶えていたが、2019年4月1日(月)0:43pmになって、こんなツイートをしている。
しゃん @syaaaan_
あの、、すみません、、
私新しいアカウントにしてしまったのでフォローしてくださった方には
申し訳ないのですが、今後特になにがあるわけでもないです
そこの所はご理解ください
あと私は世間から煙たがれる所謂キモオタクです
可愛い女の子の絵最高!えっち絵はちゃんとRTするんだぞ!!
12:43 - 2019年4月1日
https://twitter.com/syaaaan_/status/1112561127769042944
自称キモヲタですか。ひょっとして童貞をこじらせて、魔法が使えるようになっちゃったクチでしょうか。
コメント欄には、マスメディア方面からの書き込みも。「突然のメッセージ失礼いたします。私、日本テレビでバラエティ番組制作をしております××と申します。新元号を当てたことについてのお話をお伺いさせて頂くことは可能でしょうか。お忙しいところ申し訳ございません。ご検討のほどよろしくお願いいたします」。さらっと無視している。
引っ越し先のアカウントもなぜか発見され、出回っている。が、ほとんどのツイートは、他人の上げた萌え系の画像をリツイートしているだけである。
先ほどの4月1日(月)のツイートにリプライする形で、投稿日を後から変更するトリックを示唆するツイートが上がった。ただし、ツイ主のアカウントはaの数が一個多い。
しゃん @syaaaaan_
これを利用したのだ!
21:16 - 2019年4月2日
https://twitter.com/syaaaaan_/status/1113052546946363392
これに自己リプする形で、本人のアカウントではないことを示唆するツイートをしている。
しゃん @syaaaaan_
このツイートをどんどん拡散してください! ただこの本物のしゃんさん
がこの機能を使ったのかわかりませんけどね
21:45 - 2019年4月2日
https://twitter.com/syaaaaan_/status/1113059799883628545
偽アカ氏が指摘した方法は、指定した未来の時刻にツイートされるように予約する機能を用いて、いったんは未来の時刻で予約を入れた後、ツイート予約時刻を過去に変更するというものだ。twitter側が、そんなことを許すようにできているはずがないと思う。
実際、「その方法で同様のツイートをしてみてください」というリプライに対して、現時点では実行できていない。真相は謎のままだ。
●元号と同じ名前の人が探し出される
本名が令和さんという方が、次々に探し出された。新元号発表直後から話題になったのは、早稲田大学政治経済学部長の川岸令和(のりかず)教授。同学部入学式に出席し、司会者から「新元号と同じ」と紹介されると会場から拍手が上がったとか。
兵庫県明石市に無職、仲西令和(よしかず)さん(80)がいることを、4月1日(月)4:05pmに「産経デジタル」が報じた。
2019.4.1 16:05
産経デジタル
新元号 子供の頃から「れいわ君」 兵庫・明石の仲西令和さん
https://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/190401/lif19040116050026-n1.html
兵庫県に令和さんがもう一人いることが判明し、同日5:40pmに「神戸新聞NEXT」が報じた。兵庫県尼崎市の無職、森岡令和(のりやす)さん(78)。
2019/4/1 17:40
神戸新聞 NEXT
兵庫県の「令和さん」びっくり 新元号に戸惑いも誇らしげ
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201904/0012202261.shtml
産経デジタルはさらにがんばった。山形県山形市の会社員、高橋令和(のりかず)さん(63)と埼玉県春日部市の無職、小笠原令和(よしかず)さん(66)について報道したのは同日の9:23pm。
2019.4.1 21:23
産経デジタル
新元号 全国の令和さん「まさか同じとは」
https://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/190401/lif19040121230051-n1.html
さらに、高知県安芸市の入学したての高校生、小松令和(れな)さん(15)、神奈川県鎌倉市の商店街連合会長、高橋令和(のりかず)さん(76)、福岡県八女市の建築防水業、永田令和(よしかず)さん(70)について報じたのは毎日新聞。
2019年4月1日 20時33分(最終更新 4月2日 00時25分)
毎日新聞
令和と同名「れな」「のりかず」「よしかず」さん
…「光栄」「恥じないよう」
https://mainichi.jp/articles/20190401/k00/00m/040/243000c
二文字がひっくり返っているけど、カズレーザー氏(お笑いタレント)の本名が金子和令(かずのり)であることが話題になった。
●お騒がせ事案が上がる上がる
ボツになった案は公表しないと言っていたような気がするが。毎日新聞によれば、政府関係者が2日、ボツネタ5案をすべて明らかにしたとか。
2019年4月2日 11時21分(最終更新 4月2日 12時39分)
毎日新聞
「英弘」「久化」「広至」「万和」「万保」 新元号原案の全6案判明
https://mainichi.jp/articles/20190402/k00/00m/010/056000c
これだという。
・英弘(えいこう)
・久化(きゅうか)
・広至(こうし)
・万和(ばんな)
・万保(ばんぽう)
個人的な感想としては、6案の中では採択案が一番よく、ボツネタはやっぱ見劣りがする。「英弘」と「万和」は会社名などの固有名詞としてすでに使われているし。「万和」と書いて「ばんな」と読むのは連声(れんじょう)というが、じゃあ、「万葉集」は「まんにょうしゅう」と読むんですかね? なんか、くさそう。
「久化」なんて響きの古めかしさが大化の改新並みだし、何かを恒久化するんですかね? 「広至」って広報室みたいだし。「万保」って、殿さまキングスの『けい子のマンボ』を連想するよね?
実は出来レースで、ボツ案は、いかにも拙劣なのをわざとひねり出したのではなかろうか、と疑う声すら聞こえてくる。
BBCやNew York Timesなどの海外メディアは「令和」を"order and peace"と英訳した。日本政府の公式発表によれば、この元号は万葉集を典拠とし、「令」の字は「初春の令月にして」から取ってきており、「よい」、「めでたい」という意味である。
"order"は「命令」の英訳であり、誤訳とも言えそうだ。さらに、この"order"が「平和」を意味する"peace"と等位接続詞"and"で結ばれて並置されると、その意味するところはどうしても「秩序」にみえてきてしまう。日本語から英語に行って帰ってくると、「命令」が「秩序」に化けている。
機械翻訳のお手並みを試そうと、
The spirit is willing, but the flesh is weak.
(精神は強く、肉体は弱し)
という聖書の一節をロシア語に翻訳し、次に、その訳文をもう一度英語に翻訳させたところ、
The vodka is good, but the meat is rotten.
(酒は最高だが、肉は腐っている)
になった、って話を思い出した。
従来、元号は漢籍を典拠とするのが慣わしだったが、今回、国書から採用したのが初のことだと政府は自慢する。けど、その「万葉集」には元ネタがあり、遡れば結局は漢籍である、という批判はごもっともである。
元の元の元の元ぐらいまで遡ると張衡「帰田賦」(AD78-139)に行き着き、その漢詩は、「愚昧な安帝と側近たちの腐敗政治、自由すぎる奥方に乱れきった治世はもうヤダ」という内容だったらしい。腐れ皇帝の名が、よりにもよって「安帝」だとか。
https://togetter.com/li/1334095
「令和」の字画から一部を消去すると、隠されたメッセージが浮かび上がるという、陰謀論めいた勘ぐりも上がっていた。「アベ」なんて、もうこじつけすぎて、笑うしかない。「ノラネコ」とか、よく考えたねぇ。
菅官房長官が掲げているものが、大きな猫に差し替えられているパロディ画像がほっこりする。
令和年数に「018(レイワ)」を足すと西暦年数になる、と。ほう、気が利くね。
昭和生まれの人が独身のまま令和に突入することを、「平成ジャンプ」と呼ぶのだとか。これを嫌った駆け込み婚が増えているらしい。
●選定側と予想側とのハイレベルな知恵比べ
新元号を選定する側の身になって、自分なりにどんなのがいいか考えてみようとすると、実は、制約条件がめちゃめちゃ厳しいことに気づく。ほぼ「無理ゲー」と言ってよい。
1979年に元号法を定めた際、どのようなものが元号にふさわしいかという基準が同時に定められ、6項目が示されている。
1. 国民の理想としてふさわしいようなよい意味を持つものであること
2. 漢字2字であること
3. 書きやすいこと
4. 読みやすいこと
5. これまでに元号又はおくり名として用いられたものでないこと
6. 俗用されているものでないこと
明治、大正、昭和、平成はよくM、T、S、Hと略記されるので、これらのどれかと頭文字が同一になると混乱を来たすため、避けるであろうと言われている。
これらを全部満たした上で、さらに、字面のバランスがよいとか、音読したときの響きが不自然でないとか、変なものを連想させないとか、権力者が自分の名前を盛り込んで私物化した疑いをもたれないようにとか、総合的な吟味が必要になる。
可能な解の候補は、めちゃめちゃ絞られるのではあるまいか。予想を的中させようと狙う側が、圧倒的に有利なゲームなのではあるまいか。しかも、選定する側はおそらくごく少数なのに、当てに行く側は1億人いる。多勢に無勢だ。
さらに、事前に誰かが予想したものが、すでにネットなどで公表されている場合、それは候補から除外すると言われている。「大方の予想を裏切る意外性のあるものであること」という条件が加わった結果、ほぼ解が存在しなくなるのではあるまいか。
新元号の予想については、AbemaTVの生放送番組『Abema的ニュースショー』の3月17日(日)0:00pm~2:00pm放送回の取り上げ方がおもしろい。この番組は、一週間の話題を取り上げ、的外れなコメントをしあうというコンセプトで成り立っている。
この回、コメンテーターとして雛壇に座ったメンバーは下記の6人である。
・本郷和人(東京大学教授・歴史学者)
・舛添要一(前東京都知事)
・古谷経衡(文筆家)
・鈴木涼美(作家・元セクシー女優)
・鈴木 拓(ドランクドラゴン)
・小林秀章(セーラー服おじさん)
あ、私も出てます。手前味噌ですいません。
新元号の話題は1:04:00~1:25:40で、本郷氏の解説に、みんなが質問を投げかけている。視聴は4月16日(火)まで可能。
https://abema.tv/video/episode/89-76_s10_p19
本郷氏は、過去の実例などを鑑みて、使えそうな漢字はわずか72字程度しかないという。
永、長、寛、平、享、亀、神、乾、衡、授、泰、武、
元、文、徳、康、弘、寿、政、感、国、勝、鳥、福、
天、和、保、宝、貞、万、中、吉、斎、昌、禎、霊、
治、安、承、久、明、化、養、亨、至、昭、同、老、
応、廷、仁、慶、禄、観、雲、興、字、祥、銅、祚、
正、暦、嘉、建、大、喜、護、景、朱、成、白、雉。
私「これの二文字の組合せって高々5,000通り程度しかないんで、書き並べてネットで公表しちゃったら、ぜんぶ却下ですかね」。
「令和」に決定したことを知ってから、振り返って再視聴してみると、みんな超能力者ですかぃ? ってぐらいいいところを衝いていて驚く。
舛添氏「これ、めちゃくちゃたいへんです。中国の王朝でもだめ」。さらに舛添氏「本郷先生、一個疑問があるんですけど。国文とか調べたってですよ、漢字二文字がもし出てくるなら、元は中国の古典じゃないですか。日本のでやるなら、私はぜったいひらがなじゃないといけないと思うのですが」。
うっわー、舛添さん、今さらながらだけど、ほんっっっと頭いい! それがまさしく、事後、取沙汰されてるわけですよ。本郷氏「まったく舛添先生のおっしゃるとおりです。「あさ」とか「あい」とか、いいんじゃないですかね」。
鈴木さん「同じ漢字って、どれくらい空けたら使っていいんですかね。「なんとか和」っていうのはダメですか?」。うっわぁぁぁぁーーー、当ててんじゃん!
本郷氏「和の字は昭和で使っちゃったから、その字は使わないんじゃないかな」。あ~あ。
さて、この番組の放送開始直前、本郷氏も含む6人が各自の予想をマジックで紙に書いて、録画し、封印した。その日に公表しちゃうと、たとえ当たっていても、除外されちゃうので、証拠だけ質に取っておくのだ。
答え合わせの儀、放送するとしたら4月7日(日)の回以外にないと思うのだけど。さてさて、当てた人、あるいは、近くをかすめた人、いるのでしょうか。
●私は的中させに行った
予想してくださいと言われて、どう答えるか、ポリシーの選択にはいろいろありうる。真面目に的中させに行くか、アイドルの名前を織り込むなど、外す覚悟で願望を言うか、意表を衝くバカバカしさでウケを取りにいくか。私はいちおう、当てに行ったつもりである。
政府は「元号に関する懇談会」の有識者として、ノーベル医学生理学賞と文化勲章を受けた山中伸弥氏、および、小説家の林真理子氏を起用する方針を固めたと報じられている。
このお二方を起用するということは、中国古典から取ってくるという従来方針を捨てて、現代的な感覚や未来的な感覚を取り入れたり、あるいは科学技術用語から字を取ってきたりする意図があるのではあるまいか、と私は読んだ。
だって、いまさら、例えば「文久」みたいな響きの元号をつけたら、いかにも古めかしくて、「おいおいそんな時代じゃねーよ」ってなりそうではないか。
林真理子さんの線なら、「るんるん」かな。山中氏の線に自分の嗜好を少し織り交ぜるなら、これから数十年の間に起きるかもしれない、科学的な大発見や技術的ブレイクスルーを象徴する名称がいいな。「光宙(ぴかちゅう)」とか。
地球外生物との遭遇がそろそろなんじゃないかな。宇宙。連想するのは、星、光、時空、相対論、広大、などか。あと、人工知能が人間の頭脳を超えてシンギュラリティが起きるとすれば。連想するのは、神経、深層学習、機械学習、強化学習、ニューラルネット、意識、認識、などか。
言っちゃうと、私の予想は「広知(こうち)」であった。宇宙からの連想で「広」を取ってきて、人工知能から「知」を取ってきた。制約条件を満たしているはずだ。
裏話をちょこっとしちゃうと、AbemaTVから宿題が言い渡されたのは、生放送の2日前、3月15日(金)の10:19pmである。回答締切は16日(土)3:00pmだが、私は名古屋に日帰りする予定があり、講演聴講中はメールのやりとりができないので、土曜の朝、7:56amに回答している。
当日急に聞かれるよりはだいぶ助かるけど、じっくり考えている時間のない中で、頭をフル回転させて、ひねり出した。
で、放送が終わって、帰り道、もう撤回できない段になって、違う案が浮かんでくるのだなぁ。「広知」はなんだか軽すぎる、安っぽすぎる。「広智」のほうが格調高い感じがしないか。「広究」も重厚でよいのではないか。
走って戻って訂正したいくらいであった。後の祭り。というか、これに限らず、放送が終わってから、帰り道に、あのときああ言えばよかったと、よいアイデアがひらめくことが今までもよくあった。
そういうのは芸能人に向いていない。肝心なその場面で、バシっと言えちゃう人こそが、登竜門を駆け上がっていくのだ。なんか、凹む。
●無理ゲー突破のトリック
ふたを開けてみれば、選定側がほぼ無理ゲーの壁を見事に突破している。「令和」を見た瞬間、「こりゃ当たらねーわ。当てられなくてもしょうがねーわ。てか、当てた人、いるのか?」って思った。
大方の予想の裏をかき、それでいて、無理やりひねりだしたような突出感もない。二文字を縦書きにしたときのバランスがとてつもなく美しい。
もうひとがんばりすれば当てられたってレベルではない。圧倒的に有利だったはずの知恵比べに、はっきり大敗を喫したのだ。飛車角二枚落ちでプロに負かされた感じ。針の穴を通すような手筋を駆使して、攻め破ってきたのだ。負けて、気持ちはさわやかだ。
まず、一文字目が当たらない。裏をかきにいくとは言え「令」の字を採択するのはスリリングだ。命令の令なんて、冷徹で強権的で、およそ印象がよくない。
特に、お上の側から発せられると、服従を強いるメッセージが込められているように聞こえ、シモジモの者たちの反感に火をつけかねない。だから、この字を採択することはまずあるまい、とたいていの人は予想から外すのだ。
ところがどっこい、万葉集の「令月」から取ってきていて、「よい」とか「めでたい」という意味がある、と来たもんだ。あー、左様でございましたか。『芦屋令嬢 いけにえ』(1986年:昭和61年8月23日公開)って映画がありましたね。
次に、「和」の字。昭和で使ったばっかじゃありませんか。紅茶を淹れた出がらしのティーバッグで、もう一杯ですか。これも、うまい。
ただ、私のFacebook友達で、「和」の字を当てた人は二人いる。一人は4月1日(月)8:44am に、エイプリル・フールネタとして、「新年号は『和始』」と書いていた。
もう一人は、私のタイムラインにコメントしてきた物理学者の種市孝氏で「もう一回、昭和でいいよ」と。
お二人とも、当てに行ってないのが、結果的に当たっちゃってますな。私は本気で当てにいったのに、二文字目の右側しか当たっていない。
「令」の字の採択については、力こぶを入れて不服を述べ立てる人がけっこういる。陳腐な言い方で悪いけど、「代替案を出してみんしゃい」と言いたい。制約のきつさにきっと気づくから。私の「広知」だって、もし政府がこれを採択したら、「土佐藩の回し者かよ」って批判されるに決まっている。
今回のは選定側の見事な勝利、ってことでいいんじゃないかと思う。
ただ、予想回避の手口を明かしてしまったので、次回はいっそう、無理ゲーのハードルが上がりますぜ。
元号制定は歴史に残る重大事と言えばその通りだけど、真面目な人文系の学術研究とは一線を画する。紅白歌合戦で日本野鳥の会が客席の票を勘定するのに似た、表芸を裏芸に使い回す余興みたいなもんである。
格調高さが求められるので、それなりの知識人が、由緒ある言葉を選んできましたという口上が重要だ。
「令和」の考案者が誰だったか、公表されてしまった。万葉集研究で知られる中西進氏(89・大阪女子大名誉教授)だったことを政府関係者が認めたと報じられている。この公表は本人の希望に反してのことだったようで、取材に対して、「私は関係ありません」と否定している。
あの狭い条件をクリアしたのだから、世間からの賞賛に価すると思うが、世の中にはアンチ安倍な人がいっぱいいるもんだから、御用学者だの、悪の手先だのと、ついでに批判の矢が飛んできかねない。頼まれたから仕事しただけなのに、そんな目に遭ったのでは、次回から引き受け手がいなくなっちゃうぞ。
私はまったく不案内な方面なのだが、漢籍や国書を専門に研究する学者さんって、後継者は育っているのだろうか。
次に元号を決めるころにはみんな死に絶えちゃって、古典から取ってこようにも、その方面の有識者がすっからかんにいなくなってる、なんて事態にはならないだろうか。
そのころには人々の価値観も大きく変化していて、どんな名称がふさわしいかの基準も変わっているかもしれない。権威主義の香りがするのは、嘲笑の的になっていそうだ。
事前に渋谷の女子高生300人にアンケートを取ってみたところ、「嵐」、「タピオカ」、「卍」などの珍解答が続出したという。
2019年4月1日 06:30
スポニチ
渋谷の女子高生からは珍回答続出 ー「卍」「嵐」「タピオカ」
安倍首相の「安」は入るよね~
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2019/04/01/kiji/20190331s00041000522000c.html
古典から採択しました、とか言って、「吾猫(わがにゃん)」とかになっちゃうのだろうか。訓読みだし、中国由来じゃないし、いいかもね。
【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/
《意識を機械にアップロードする会社が設立される》
渡辺正峰(まさたか)氏(東京大学准教授)が2018年7月21日(土)、大阪で開催された「シンギュラリティサロン #30」で講演した際の聴講レポートをこの欄に書いた。
『生体意識をもって人工意識を味わうことは可能か(前編)』
https://bn.dgcr.com/archives/20180824110100.html
『生体意識をもって人工意識を味わうことは可能か(後編)』
https://bn.dgcr.com/archives/20180907110100.html
その渡辺氏が、人の意識を機械にアップロードするサービスを提供する会社「MinD in a Device」を立ち上げた。
http://mindinadevice.com/
2019年3月25日(月)8:36am、渡辺氏はFacebookで次のようにアナウンスしている。
いよいよ「20年後の意識のアップロード」を目指す大学発ベンチャーが立ち上がりました。表向きはいたってノーマル、一枚めくれば“とんでも”なWEBページを準備したつもりですがいかがでしょう(笑)?
社名には二重の意味が込められています。
http://mindinadevice.com/
エンジニア募集中!
https://www.facebook.com/masataka.watanabe.75/posts/2397317156985402
同日5:00am、日経が解説記事を上げている。
2019/03/25 05:00
日経 XTECH
20年後に「意識の移植」へ、新 AI スタートアップが旗揚げ
脳科学者と著名起業家がタッグ
今井拓司=ライター
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/01843/
twitterでは金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)が、次のようにつぶや
いている。
Ryota Kanai @kanair_jp
まさか意識スタートアップで競合が現れるとは思っていなかった。
渡辺まささん、クレイジーで素晴らしい。
13:35 - 2019年3月25日
https://twitter.com/kanair_jp/status/1110037522631950336
いよいよ21世紀が近づいてきた。人は死ななくなる。
《大泉匡史氏、アラヤから東大へ》
大泉匡史氏(株式会社アラヤ マネージャー)が2018年9月15日(土)、大阪で
開催された「シンギュラリティサロン #31」で講演した際の聴講レポートをこ
の欄に書いた。
『統合情報理論―意識は、見た目の機能より、中身の仕組みに宿る(前編)』
https://bn.dgcr.com/archives/20190111110100.html
『統合情報理論─意識は、見た目の機能より、中身の仕組みに宿る(後編)』
https://bn.dgcr.com/archives/20190125110100.html
大泉氏は、3月いっぱいでアラヤを退社した。転身先について、4月1日(月)
11:19pmにツイッターでつぶやいている。
Masafumi Oizumi @oizumim
今日から東京大学大学院総合文化研究科に准教授として着任し、
独立した研究室を運営することになりました。大学院生を募集して
いますので、ご興味のある方は気軽にお問合せ下さい。詳しくは
リンク先をご覧下さい。
https://sites.google.com/site/masafumioizumi/students
23:19 - 2019年4月1日
https://twitter.com/oizumim/status/1112721026285096961
アラヤの代表取締役である金井良太氏は、祝福して送り出している。
Ryota Kanai @kanair_jp
大泉さんおめでとうございます!アラヤというスタートアップから
大学へ戻ってポジションを獲得するという新しいキャリアパスを
身をもって確立してくれて誇りに思います。今後さらに情報に関する
研究で活躍していくのを楽しみにしています。
0:25 - 2019年4月2日
https://twitter.com/kanair_jp/status/1112737657128247298
Masafumi Oizumi @oizumim
アラヤでの二年間がなかったら、このポジションにはたどり着け
なかったです。スタートアップならではのユニークな経験ができた
ことも今後の糧になりました。これからも色々議論させてください。
7:53 - 2019年4月2日
https://twitter.com/oizumim/status/1112850458920378368
3月10日(日)に大阪で開催された「シンギュラリティサロン #33」では、『意識をめぐる大冒険』と題して、渡辺氏と大泉氏と私とが登壇した。
https://singularitysalon-33.peatix.com/
内緒だが、終了後、同じフロアで関係者のお茶会があり、その後、3人ともその日のうちに東京に帰ればいいということで、グランフロント大阪北館6階「憩酒屋ひょうたんや」で飲んだ。
意識の謎について、お二人の熱い議論の延長戦が繰り広げられた。聞くのは私たった一人だけという、おそろしくもったいない場である。ところが、こっちはへべれけに酔っぱらってしまい、内容をよく覚えていない。もったいないにもほどがある。こっそり録音しときゃよかったか。