《エランエランエランエランエランエラン!》
■わが逃走[241]
美しい話と美しくない話 の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[110]
明朝体の教室 ~神は細部に宿る~
関口浩之
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■わが逃走[241]
美しい話と美しくない話 の巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20190704110200.html
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やあジョージ。美しい話と美しくない話があるんだ。
どっちから聞きたい?
では、まずは美しい話から。
といっても話自体が美しいわけではなく、美しいものを見て感動した話。
昨日の午後、近所のパン屋まで行こうといいかげんな格好(10年くらい着ている伸びきったTシャツ+便所サンダル)で世田谷区役所の前を歩いていると、向こうからこの世のものとは思えないほど美しい車が、この世のものとは思えないほど美しいエグゾーストノートとともに現れた。
エラン!
エランエランエランエランエランエラン!
真っ赤なロータス・エラン!が
目の前で止まった。
博物館やクラシックスポーツカーのお店ではなく、
公道でエラン!
なんだこれは!
美しすぎる!
ここまでのコンディションのエランは初めて見た。
しかも、普通に走って、止まっているのだ。
ミニバンやタクシーじゃないぞ。
エランが、エランが、エランがー!!!!
エランが普通に走って、止まっているのだ。
この衝撃と感動をどう伝えたらよいものか。
まず印象に残ったのは鮮烈な赤と銀とのコントラストだ。
いうまでもなくボディが赤、バンパーが銀。
銀は銀でも素材の色ではなく、ペイントの銀。
印刷物に例えれば、安っぽい銀箔とはちがう、
ヴァンヌーボに刷られたインク! 刷り銀に近いイメージだ。
そして足元をみると、純黒のタイヤとホイールのいぶし銀、
そしてロータス社刻印入りホイールキャップのきらびやかな銀。
この無彩色のハーモニー!
どんな車だってタイヤは黒でホイールは銀でしょ?
いや違う! 違う! 違うんだって、エランは違うのだ。
その直径と幅の比率だけとっても究極の黄金比なの!
さらに離れて見ても、真っ赤なボディと足廻りとのコントラストが絶妙でしょ?
さらにインテリアは品のあるウッディでフラットなインパネ、
そしてメッキ加工されたスイッチの数々。
ウッドのステアリングホイール、そしてシフトノブ!
これぞ対比の美学である!
美術館で美術品を見るには、まず美術館に行って入場券買って名画まで歩いて行かなくちゃいけないのに、エランは向こうから、向こうからやってきてくれたんだよううううう。
ここまで読めばおわかりいただけたと思いますが、もう、完全に狂気モードに入ってましたね。はたから見たら、私は相当アブナイ人だったと思います。で、改めて思い返すと、
全体のフォルムだけでなく、サイドのエンブレムの書体やワイパーのメッキなど、細かいディテールまでもが驚くほど鮮明に記憶されているのです。
このところ物忘れが激しく、もう若い頃のような記憶力は戻らないと思っていたのですが、なにかに感動すると脳が本気出してくるんですね。
で、なりふりかまわずオーナーさんに、スバラシイです! と話しかけてしまった。感動のあまり顔が狂気に満ちていたはずだ。かなりビビらせてしまったかも。オーナーさんごめんなさい。
某社カタログ入稿前だというのに、記憶にとどめるべく帰宅後早速スケッチした。引きもよけりゃ寄りもイイ。ドアのヒンジ付近のラインもとくに印象的だった。視覚的にきちんと開きそうな安心感。
この剛性を感じさせるクランク状の切り欠きっぷりが、曲線主体の小柄でエレガントなフォルムのアクセントとして絶妙に効いていた。
さて、次に美しくない話を書こうかと思っていたのだが、エランに対する冒涜となりうると判断し削除した次第。ではまた次回!
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[110]
明朝体の教室 ~神は細部に宿る~
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20190704110100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
さて、今日は「明朝体の教室~神は細部に宿る~」をお送りします。
●「明朝体の教室」とは?
先週土曜日、「明朝体の教室」というセミナーに参加しました。
明朝体の教室? えっ、なにそれ? 明朝体を制作する教室なのか? 文字マニアが集まる教室なのか?
こんなセミナーです。
https://www.visions.jp/b-typography/
連続セミナー『タイポグラフィの世界』は2010年12月に開始され、現在、「明朝体の教室」の連続講座が開催されています。
今回の連続講座「明朝体の教室」は、『タイポグラフィの世界・シーズン7』といったところです。
講師は、書体設計や書体史研究の第一人者である小宮山博史さんと、ヒラギノ書体シリーズや游明朝体、游ゴシック体などの、書体設計士として有名な鳥海修さんです。
もじもじトークの読者で、ある程度、書体に詳しい方は、「おぉ、そんな凄いセミナーがあるのかぁ」と感じたのではないでしょうか。
フォントやデザインに携わってる人にとって、小宮山さんと鳥海さんは、雲の上の人って感じですよね。活字やフォントの神様ですから。
実際にお話したり、食事をご一緒する機会が何度かありましたが、とても優しいお二人でした。神様ですが、気さくなお二人です。大好きです!
小宮山さんと鳥海さんのことが掲載されている、僕のおすすめのウェブページをご紹介しますね。
小宮山博史
https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_komiyama.aspx
鳥海修
https://www.td-media.net/interview/osamu-torinoumi-vol-1/
小宮山さん、鳥海さんの講演は、今まで10回以上、参加していますが、毎回、新しい発見があります。そして、お二人のお話は、いつも楽しいのです
『タイポグラフィの世界』連続セミナーには、書体を制作する立場の人もいれば、仕事でフォントを使っているデザイナーも多数、参加されています。
また、タイポグラフィに興味を持っている学生のみなさん、タイポグラフィ初心者だけど、フォントに興味を持っている社会人の皆さんも参加されています。
開催場所は、阿佐ヶ谷美術専門学校(通称、アサビ)で、年に5回前後、開催しています。
書体に興味があれば、だれでも参加できます。「文字やフォントの集まりは怖い」ということを耳にしたことがありましたが(笑)、『タイポグラフィの世界』連続セミナーは、そんなことはありません。
興味のある方、ぜひ、参加ご検討くださーい。
●密度の濃い3時間
今回の「明朝体の教室」は第5回でした。毎回参加したかったのですが、自分の主催イベントや、自分が登壇するイベントの日程と重なることが多く、半年ぶりの参加でした。
今回のテーマは、「書きにくい漢字は、どうデザインすればよいか」でした。横線の多い文字の作り方、縦線の多い文字の作り方、曲線ばかりの文字の作り方などです。
ひとつの文字を題材として、1時間ぐらい講義に時間を掛かているので、1日の講義で3~5文字しか進まないのです(笑)
でも、それが退屈ということは一切なくて、楽しくて、あっという間に3時間が経過してしまうのです。正直言うと、鳥海さんと小宮山さんのお話を、合宿方式で朝までやって欲しいって思うくらいなんです。
では、講義の内容の一部をご紹介します。ジャーン!
http://bit.ly/2Lzs8cU
●神は細部に宿る
例えば、「家」という文字を、異なる書体で並べてみましょう。「明朝体なら、どれも同じでしょ!」と思う人、多いと思います。
でも、違うんです。
拡大して見比べると、微妙に曲線の膨らみ具合が違ったり、右払いの始筆の位置が異なっていたり、縦線の太さが微妙に異なっていたりするのです。
「でも、10.5ポイントの大きさにしたら、どれも同じ明朝体に見えるんじゃないの?」と思うかもしれませんね。
でも、違うんです。
こちらで、ご確認ください。
http://bit.ly/2YtmIUc
実際に文章に組んで読んでみると、水のような空気のような明朝体に出会ったり、懐かしさを感じる明朝体に出会ったり、芳醇でまろやかな明朝体に出会ったり、そんな感覚を味わったこと、ありませんでしたか。
すべての文字を細部に渡って、理論に裏付けられたアウトラインを引いて、研ぎ澄まされた感性で、0.01mm単位で調整しているというお話を聞くと、まさに「神は細部に宿る」ということなのだと思いました。
最近は、電子書籍で読む人が増えたので、同じ明朝体で読むことに慣れちゃった人がいるかもしれませんが……。
僕は紙の本が好きなので、自宅は本だらけなんです。「場所をとるので、読んだら、古本屋に持ってってねー」とよく言われます。
だけど、文字関係の書籍は捨てる気にはなれず(古書や絶版の本が多いので)、大きな書籍棚を部屋にくくり付けることを考えているのですが、いつになることやら……。
●筆書体と明朝体
毛筆の漢字は大きく分けて「篆書」「隷書」「草書」「行書」「楷書」に分かれます。
また、江戸時代に生まれた「勘亭流」や「寄席文字」なども筆文字と捉えることもできまし、「教科書体」も筆書体のひとつと分類される場合もあります。
「そもそも、明朝体ってなに?」「何のために生まれた書体なの?」って思いませんか?
僕も、明朝体のことを、そこまで深く考えたことがなかったので、今回の「明朝体の教室」を通じて学んでいます。次回で、そのあたりを書いてみます。
●素敵な出会い
自宅の本棚には、文字に関する書籍がたくさんあります。本棚に入りきれず、床に積み上がれらている書籍のほうが多いのですけど。
何冊か気になる書籍を抜き出して、奧付を眺めてみました。そうすると、日頃、お世話になっている方々ばかりじゃありませんか。
それら書籍と奥付の写真を撮ってみました。
http://bit.ly/2LxON9i
著者が小宮山さんだからとか、鳥海さんだからとかという理由で購入することもあります。大半は、神保町の本屋さん、もしくは、オークションサイトで、気になる書籍を見つけると、思わず入手してしまうことがあります。
セミナーの懇親会で楽しくお酒を飲んで、親しくさせていただだいた方が、あとになってから、お気に入りの書籍の著者の方だったことに気付くことが、最近、多いです。
素敵な本との出会いは大好きなのですが、その本を制作した方々と思いがけずお会いすることも、とてもありがたいことですね。
では、また、二週間後の木曜日にお会いしましょう。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)
https://www.facebook.com/hiroyuki.sekiguchi.8/
Twitter @HiroGateJP
https://mobile.twitter.com/hirogatejp
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。
現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして、日本全国を飛び回っている。
日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、Web担当者Forum、Schoo等のオンラインメディアや各種雑誌にて、文字やフォントの寄稿や講演に多数出演。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。2018年も「ベスト10セッション」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。趣味は天体写真とオーディオとテニス。
フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/
Webフォントってなに? 遅くないの? SEOにはどうなの?
「フォントおじさん」こと関口さんに聞いた。
https://webtan.impress.co.jp/e/2019/04/04/32138/
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編集後記(07/04)
●偏屈BOOK案内:中島 恵「日本の『中国人』社会」
ものすごく残念である。カバーの写真がダメ。帯がダメ。写真は京浜東北線・西川口駅か蕨駅付近の飲食街の一部のようだが、うらぶれてショボい。まあ確かにこんな感じなのだが、内容とは大きくかけ離れている。帯の「なぜ、あの街に彼らは集まるのか。」もぜんぜん違う。日本に在住する中国人の姿を浮き彫りにする優れたレポートなのに、まるで違うビジュアル。おバカな出版社。
中国人は東京都に約20万人、神奈川県に約65000人、埼玉県に約63000人くらい住んでいるらしい。中国人の居住地は大都市圏に集中している。勤務先も生活拠点も首都圏にある。全国で70万人以上にふくれあがった在日中国人は、やがて100万人に迫るほどの勢いで増え続けている。と聞くと不安が募るのだが。
筆者が出会った中国人の実像は、多くの日本人が描く「中国人像」とは大きくかけ離れ、変貌を遂げている。法務省などの「高度外国人材の受入れ・就労状況」によると、国籍・地域別高度外国人材として日本で働く全外国人のうち、65%が中国人で圧倒的多数を占める。2位はアメリカ人、3位はインド人だ。何となくイメージしていた中国人と、いまそこにいる中国人はまったく違う。
かつては技能研修生くずれの不法滞在者が多かったが、2015年くらいからそれらは激減し、富裕層が日本で起業したり、高度外国人材ビザや、財産があって日本国内に法人を設立する経営管理ビザを獲得して働く中国人が増えてきた。日本に住む中国人が、本国との強い関係性やネットワークを持ちながらグローバルな仕事をし、日中間を頻繁に行き来することが多くなったという。
基本的にマスコミの情報=政府のプロパガンダ、官製情報と受け取り、マスコミを信じない中国人は、信頼できる情報のやりとりをSNSで行う。日本に住む中国人もウィーチャットを駆使し、ほぼすべての情報源といってもいいくらい。そのコミュニケーションは、ネットワーク外の人にはほとんど見えない。そうはいうが、すべてのネットワークは国家がばっちり監視してるんじゃないの?
中国はあまりに変化が激しいので、中国人といえども、半年以上中国を離れたら、認識に間違いが起きることもあるという。中国人のコミュニティにもいろいろある。無数のグループが存在し、彼ら同士も別々の世界に生きていて、同じ中国人同士といってもギャップが生じており、決して交わらない。というのだから、中国人と日本人の間に大きなギャップが存在するのは当然であろう。
日本に住む中国人が増えれば、相互理解も自然と進んでいく、というわけではない。むしろ、日本国内に中国人が増えれば増えるほど、中国人同士のコミュニティが強化されて、日本社会から隔絶された「空間」を大きくしていく面もある。その背景には、SNSの発達という要素も大きく関係している。
「これは、日本人にとっても、中国人にとってもあまり健康的ではないように思える。時間はかかるのだろうが、お互いすこしづつ歩み寄り、理解を進める必要がある。完全に理解し合うことは難しいかもしれないが、少なくともその努力はすべきだろう」。……思いっきり平凡にまとめられてもなあ。(柴田)
中島 恵「日本の『中国人』社会」 2018 日本経済新聞出版社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/453226393X/dgcrcom-22/
●G20続き。うちの母は会場近くの住人と知り合いで、「住民・事業者確認カード」を見せてもらったと、ワクワクした口調で報告してきた。このG20専用のもので、これや公的身分証明書、社員証などがないと通行できないとのこと。
伯母はエアフォースワンが飛んできたところを、見かけたらしい。飛び立つ日は、多くの航空機ファンがカメラを構えているニュースが放送されていた。
高速道路はガラガラ。下道はいうほど混雑しておらず、みんな外出を控えたんだろうなぁ、と。スーパーには普通通りに品物は並んでいたし、ポケモンGOで遊んでいる人もいた。構えていたのに肩すかし。
特に大きな不便を感じないまま、あっさりと終わってしまった。また何か非日常が来ないかなぁ。まぁ、何事もなくて良かったわ。(hammer.mule)