今回は、1980年代前半の時代、ちょうど第一次マイコンブーム(パソコンブーム)が起きた頃に出た、NECのPC-6001について書いてみます。PC-6001の説明の前に、少し時代背景をおさえておきます。
その1980年より前、1970年代になると、中堅企業でもコンピューターを導入できるようになりました。と言っても、現在のような卓上に置けるようなものではありません。
畳12畳くらいのエアコンが効いた専用部屋に、でで〜んと鎮座するようなシロモノです。このサイズのコンピューターは、当時ミニコン(ミニコンピューター)とも呼ばれていました。他には、給与計算など事務処理で使用するためオフコン(オフィスコンピューター)という呼称もありました。
父親が勤務する会社にも、給与計算を行なうミニコン(TOSBAC)が導入されました。が、ミニコンを扱えるのは、特定のオペレーターのみでした。一般の営業マンやドライバーが、気軽に触れるようなものではありませんでした。
計算したり在庫管理するにはそろばんか電卓、方眼紙に在庫表を作ったりするという時代です。営業マンがコンピューターを気軽に使えれば、仕事が楽になるはずです。
今なら当たり前ですが、コンピューターの威力を目の当たりにした父親は、仕事に使えるパーソナルなコンピューターが欲しかったようです。会社へのレポートにもそのように書いてありました。
また、1970年代はコンピューターを使った自動化の波が来ていました。FA(ファクトリーオートメーション)という言葉を、覚えている人もいるかもしれません。製造ライン(工場)がコンピューターの導入により、どんどん自動化されていきました。
工場だけでなくオフィスも自動化しようという流れも出てきて、これはOA(オフィスオートメーション)という呼称でした。
1970年代前半は、数千万円から億単位もするコンピューターでしたが、1970年代末期になると、個人でも買えるほどの価格にまで急激に下がりました。
Apple社のApple IIや、SHARPのmz-80K、NECのPC-8001などがそうです。本当に急激に価格が下がったため、コンピューターを使いたい人が次々と購入していきました。
また、大型コンピューターで使うCOBOL、FORTRAN、マシン語など難しいプログラミング言語ではなく、コマンドを入力すれば即座に処理を実行してくれるBASIC言語が利用できるようになったというのも大きな動機でしょう。
こうして、コンピューターの価格が下がり普及していくわけですが、同じ時代にコンピューターを使ったゲームが登場します。インベーダーゲームがもっとも有名でしょう。
インベーダーゲームはハードウェアロジックで作られていて、ソフトウェアの存在価値がありませんが、その後プログラムをメモリに書き込んで実行するという、現在のコンピューターの使用スタイルに近いものになります。
ゲーム基板をなるべく同じにしておいて、ソフトウェアだけ書き換えれば効率よくゲームを提供できます。こうして、パーソナルコンピューター黎明期と同じ時期に、ゲームセンターで大量のゲームが提供されました。
ただ、当時の風潮として子供はゲームセンターには行けません。ゲームセンターに行くと不良の人達にお金を取られてしまったり、不良グループの仲間になってしまったりすることがあったためです。
当時の学校の規則は、どんどん厳しくなり、髪の毛が規定より5mmでも長いとハサミで切られたりするという、今なら訴訟問題になってしまうようなことが多々発生していました。
そんな時代でしたが、デパート内にあるゲームコーナーでは子供(わたし)もプレイすることができました(実際にプレイしていたのは地元ではなく、親の実家がある愛知県名古屋市のたまこしデパート)。
最初に遊んだのが任天堂のドンキーコングでしたが、300円しかお金がなく、1プレイで終了。次にプレイしたのが、ナムコのパックマン。面白いけどお金がなく2プレイで終了。
次にプレイできるのは半年後か一年後(親の実家に行った時しか遊べない)。一年に数回しかプレイできないゲームが、パソコンを買えば自宅で無限にプレイできる→欲しい! と思っていた私の、小学生〜中学生時代の話が、今回のネタです。
長い前フリですみません。編集長がテキスト追加してもっとわかりやすくして、というものですから。そういえば、時代背景を説明しないと分からないのではないか、ということでつらつらと書いてみたという具合です。肝心の本文はここからです。
●パピコンよりX1
NECのコンピューターの中で、たぶん最初に愛称がついたのがPC-6001でしょう。PC-6001の愛称は「パピコン」でした。ちょっとかわいげのある愛称で、コンピューターの堅苦しいイメージを、多少なりとも払拭したような感じはありました。また、本体のカラーリングもオレンジとベージュで、堅苦しくない雰囲気でした。
・PC-6001
https://ja.wikipedia.org/wiki/PC-6000シリーズ
NECというとPC-9801シリーズが有名ですが、ホビーパソコンとしてPC-6000系があり、何種類か発売されています。その中でもPC-6601SRにはMr.PC(ミスターピーシー)という愛称がつけられています(ちなみにこのPC-6601SRは、今でもちょっと欲しいパソコンだったりします)。
・PC-6601
https://ja.wikipedia.org/wiki/PC-6600シリーズ
私が最初に買ったパソコン(当時はマイコンという呼び方の方が一般的だった)はSHARPのmz-721ですが、PC-6001を買っていた可能性がありました。というか、最初の段階ではPC-6001を購入予定でした。当時欲しかったパソコンは以下の3つでした。
1位 X1(赤色。赤色が駄目なら白色)
2位 PC-6001
3位 mz-731
当時、他にメジャーなパソコンとしては、富士通のFM-7がありました。ただ、X1のイメージと性能が強烈で、それと比べると他のパソコンがかなり見劣りしてしまう感じがありました。X1とFM-7ならどちらがいいかと言われればX1しかない、そんな感じです。
この3機種の中でX1の性能はダントツでした。まず、目を引く機能としてはスーパーインポーズがありました。スーパーインポーズは、テレビとパソコンの画面を合成して表示する機能のことです。
つまり、映像をバックに流しておき、その上にテロップや画像を表示することが簡単にできました。簡単というか、今のパソコンより楽かもしれません(コマンドで黒色を透明にするように設定するだけなので)。
不動産屋さんは、このスーパーインポーズを利用して、録画しておいた物件の映像を流し、その上にテロップで説明などを入れるという用途に使っていたと噂で聞いたことがあります。
また、文字形状を自由に設定できるPCG(プログラマブルジェネレーター)があり、これにより文字もグラフィックのブロック(チップ)のように使用することができました。
通常、グラフィック画面を書き換えると、8バイト×RGB3色=24バイトのデータが必要ですが、PCGなら文字なので1バイトですみます。単純にグラフィック画面を書き換えるより、24倍高速化できるということになります。
これを上手に利用したゲームとしては、X1のXEVIOUS(ゼビウス)があります。4ドット(ピクセル)単位で地形を定義しておくことで、上手に高速化とスクロール処理を実現していました。当時は8ドット単位(1文字が8ドットなので1文字単位)でのスクロールが普通でしたので、どういう仕組みになってるのか疑問でした。
・SHARP X1 ゼビウス XEVIOUS エリア16 プレイ 懐かし パソコン
ちなみに、上記のXEVIOUSは電波新聞社から発売されたものですが、現在の技術を使って、よりスムーズでオリジナルに近いXEVIOUSを移植した人もいます。同じマシンなのに、技術と開発環境が進歩すればできることも変わる、よい例ではないかと思います。
似たような事例は、mz-1500やPC-6001/8001などにもあります。気になる方は、MI68のキーワードで検索してもらえば、いろいろ出てきます。
・NEW X1版ゼビウス【X1でゼビウスを作る】
X1は他にもサウンド機能やら、広大に使えるメモリなど、ダントツの性能を誇っていました。FM-7もグラフィック機能やサウンド機能はX1と同じですが、グラフィック画面と文字画面が同じ扱いになっていました。
どちらかというと、テキストもグラフィックも区別しない現在のパソコンと同じなのですが、文字画面がないので処理速度やゲームなどでは不利なこともありました。
あこがれのX1ですが、30万円以上で高すぎて予算的に無理ということになりました(自分のお金で買うわけではなく親のお金なので、なおさら)。単純に10万円以下でないと駄目だということです。10万円以下というのは父親から言われた金額で、それまでしか出せないということです。
そうなると、候補としてはPC-6001かmz-731になります。実はmz-731を買えなかったのも予算的な問題で、ひとつ下のランクのmz-721になっただけです。
mz-731は本体にカラープロッタプリンタがついており、手軽に印刷ができるようになっていました。プロッタプリンタなので、当時一般的だったラインプリンタ(1行ずつ印刷して紙送りするだけ)とは違い、かなり自由な範囲にドローイングできました。
グラフィック機能がないmz-700シリーズでしたが、プロッタプリンタを使えば、そこそこ自由に4色カラー絵を描くことができました。
PC-6001の性能は、X1やFM-7よりもよくありませんでしたが、それなりのグラフィック機能とサウンド機能が搭載されていました。このため数多くのゲームが発売されていました。ゲームセンターに行くことができない、中学生にとっては魅力的でした。
そんな時代に友人宅に行くとPC-6001があり、無料でゲームで遊べたのです。もう、これは魅力的。買うしかない、という思考になってしまいます。また、友人はゲームを何本も持っていたので、同じパソコンを買えば自分がゲームを買わなくても、貸してもらえるという腹づもりがありました。実際に同じPC-6001買ったら貸してあげるよ、と言ってくれました。
当時はゲーム1本で3,000円くらいしていましたので、お小遣いのない私としては自分で作るか、借りるしかありません。PC-6001を買えばゲーム三昧の日々が送れるんじゃないかと、単純に思っていました。
当時はゲームに限らず、パソコンのソフトは高額だったので、友人間で貸し借りすることがありました。このため、まわりと同じコンピューターを買う方がお得ということになります。
当時から、経済学で言うネットワーク外部性が機能していたわけです。中学2年当時で経済学を学習していたら、PC-6001かPC-8801を選択していたかもしれませんが。
ちなみに当時のゲームは、こんな感じです。これでも、かなりイケてるゲームです。
・ピラミッド PYRAMID PC-6001 pc retro game 1982
・PC6001 ミステリーハウス 1 MYSTERY HOUSE|レトロゲーム
ミステリーハウスは、コマンド入力型のゲームです。コマンドは英語なので、親にはパソコンを買えば英語の学習ができる、という謳い文句を使うこともできました。
その後、PC-6001に当時あこがれのゲームであった、XEVIOUSが移植されるという衝撃的な事件が起こります。これについては、もう少し後で説明します。
PC-6001が欲しかったもうひとつの理由は、すがやみつる氏による漫画「こんにちはマイコン」の影響です。この漫画本はパソコンの入門書としてはよくできていて、そこで扱っているパソコンがPC-6001でした。
また、当時人気だった「ゲームセンターあらし」のキャラクター達が、漫画でわかりやすく解説してくれるというのも大きかったと思います。説明のためにおまけで漫画がついているようなインチキなパソコン解説本ではなく、漫画をうまく使って、中学生でも理解させてくれました。
・ゲームセンターあらし
https://corocoro.jp/ゲームセンターあらし/
ただ、この本はパソコンの使い方ではなく、プログラミングについて学習する内容でした。掲載されているプログラムを入力すれば、ゲームなどが遊べるのです。
・こんにちはマイコン
https://ja.wikipedia.org/wiki/こんにちはマイコン
Googleで検索すると、同じように "こんにちはマイコン" によってPC-6001があこがれのパソコンになったと書かれた記事がありました。まあ、気持ちはよくわかります。
・“こんにちはマイコン”を読んで憧れの機種になった「NEC PC-6001」
https://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/column/retrosoft/1057227.html
結局、PC-6001でなくmz-700を買うことになるのですが、親が仕事にも使いたいという理由もあり、モニタもカラーでなくグリーンモニターになり、プリンタもなくなり、極めて質素な状態になりました。ゲームよりもビジネスとして使いたいという、親の意向が働いたというところです。
今思えばこれがよかったのかもしれません……と書きたいところですが、やはりよくない。最初からカラーモニタだったら苦労しなかっただろうし、プリンタがあればグラフィックに対するノウハウも溜まっていたはず。
もともと親が大型コンピューター(当時はミニコンと呼ばれていました。東芝のTOSBACという機種)を扱う部署におり、そこで給与計算などのプログラムを作成していました。(TOSBACに関しては以前の「レトロコンピューター編」をどうぞ)
・TOSBAC
https://ja.wikipedia.org/wiki/TOSBAC
・クリエイター手抜きプロジェクト[591]レトロコンピューター編
東芝TOSBAC:最初に触れたコンピューター
https://bn.dgcr.com/archives/20190902110100.html
実業務では給与計算以外に必要だったのは在庫管理です。商品点数が多いため、在庫がどのくらいあるのか、すぐに把握したかったのだと思います。また、クリスマス商戦などで各販売店から注文を受けた際、どのくらい製造すればいいか把握できれば、無駄なコストを削減できるからです。
ここらへん、ずっとおばちゃんが管理していたのですが、1978年当時はエクセルなどもなく大変苦労していたようです。(後にmz-2500で管理、X68000で管理、その後Unisysの専用コンピューターで管理という流れに。現在はインターネット経由でサーバー/クライアント〈Windows〉で管理)
それなら、PC-6001を買っていたらどうなっていたのか。最初はゲームで遊んだかもしれないけど、やはりプログラムを作ったはず。ただ、PC-6001を選んでいたら、コンピューター関係の仕事などはしてなかったんじゃないかなと思います。というのも、PC-6001には天才プログラマー松島 徹がいたからです。
・松島徹
https://ja.wikipedia.org/wiki/松島徹
中学生で当時移植不可能と言われたゲームXEVIOUSを移植してしまい、その後猛烈な開発スピードでゲームセンターのゲームを移植していきました。当時、全盛を誇っていたナムコのゲームが、次々とPC-6001mkIIに移植され遊ぶことができたのです。
他にもSEGAのスペースハリアーを移植したりと、そんなのありえないだろうという事を次々とやってくれました。今でも移植とか手がけていたりするようで、凄いなあとしか言葉が出てきません。
・PC-6001版「タイニーゼビウス」
https://www.nicovideo.jp/watch/sm918568
まあ、そんな中で唯一、Wikiで同じページに名前が載ってたりするのが、ちょっと嬉しい、ってのはあります。
・タイニーゼビウス
https://ja.wikipedia.org/wiki/タイニーゼビウス
このタイニーゼビウスに関しては、昔話として電子書籍にしてありますので、興味ある方はどうぞ。
・tiny XEVIOUS for 700の制作昔話など
https://openspc.booth.pm/
結局、現在までPC-6001系のマシンは1台も保有することはなかったのですが、今でもちょっと欲しいなあと思うことはあります。
ちなみに友人は中学を卒業すると同時に、実質、音信不通になりました。一度だけ電話がかかってきたことがありますが、マルチ商法の勧誘としか思えない内容でした。
そういえば高校の時の同級生も、なんでかマルチ商法に関わってしまい、何度か電話がかかってきました。そんな事する時間があったらプログラムでも作れよと思ったりしましたが、もう今は何をしているのかさっぱりわかりません。
【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
http://www.openspc2.org/
中学生当時(1980年代前半)のゲームと言えば、今のようにたくさん種類があるわけではありませんでした。トランプ、花札、人生ゲーム、インベーダーゲーム、任天堂ゲーム&ウォッチなどでした。
それがパソコンを買えば無制限にゲームで遊べたわけですから、パソコン(当時はマイコンという呼称)が売れたわけです。そのゲーム部分だけに特化したのがファミリーコンピュータ(通称ファミコン)です。パソコンの購入目的がゲームですから、そこだけを抜き出したファミコンもバカ売れするわけです。
・みんなのobniz入門
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https://news.mynavi.jp/series/makeprogram
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[正誤表]
http://www.openspc2.org/book/error/ichigoLatte/
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・Illustrator自動化基本編
http://www.amazon.co.jp/dp/B00R5MZ1PA/
・4K/ハイビジョン映像素材集
http://www.openspc2.org/HDTV/
・クリエイター手抜きプロジェクト
http://www.openspc2.org/projectX/