《人間はAIと戦う必要なんかない》
■装飾山イバラ道[259]
レインボークィーンの覚悟
武田瑛夢
■Scenes Around Me[64]
オブスキュア解散当時の写真(2012年5月20日頃)
関根正幸
■crossroads[78]
読む力より書く力
若林健一
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■装飾山イバラ道[259]
レインボークィーンの覚悟
武田瑛夢
https://bn.dgcr.com/archives/20191217110300.html
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今年最後の長いテキストです。今年は準備や練習、収集と整理をしていた。来年はそれを生かして具体的な形にしていきたい。
●まとまった会話
高齢者家族がいる人は、親の日常の出来事で頭を抱えることも多い。しかし、笑える失敗なら、笑って過ごすことができるようにもなる。
玄人になると、きっと大抵のことは笑えるようになるのかもしれない。母は最近のことよりも、昔のことの方をよく覚えているのでついつい昔話が多くなる。
私の日常は英会話と絵と、夫と母のご飯作り。英会話は一日で2コマ行くと、40分×2。80分くらいは人と話すことになる。大抵は週に1回だが、たまに週に2回入れることも。
SNSの友人とダイレクトメールで話し込むこともあるけれど、長い時間になることは滅多にない。英会話って、私にとっては大きな会話の機会なのだ。
英会話学校なのでテキストを開けて勉強する人が多いと思うけれど、私はほぼマンツーマンのフリートークにしてもらっているので、100%雑談だ。今これを書いていて、何て贅沢な雑談をしているのだろうと笑った。
一日の中で40分×2回話すのは、カフェや食事に出かけて話すのと近いわけだ。毎週となれば、それはもはやかなりの仲良しレベルでないと、実現しない頻度での会話になる。
もちろん、スケジュールの空いている講師の予約を入れる。あまり同じ人が重なると、話のネタが尽きて困ることも。
ふと、仲良しでもない私と会って話す講師が、気の毒な気もしてくる。本当はNGを出したい生徒もいたりしないのだろうかと、考えてみたり(笑)。いや、お仕事ですし、そんなことはないですね。
講師の中には、私の英語の間違いをサラサラと正しい文章にして、ノートにとってくれる人もいる。知らない単語も書いてくれる。大概は、話のネタを振って、それに対する意見を語り合う感じだ。
私にはまとまった会話は貴重なので、大事な時間だ。
●イギリス王室
今年は令和の時代が始まって、私の記事に書いたようにパレードのお祝いの列に並んだことを話した。イギリス人講師だったので、王室との違いなどの話題が興味深い。
パレードの写真を撮るなどした具体的な経験は、自分でも話しやすいのだ。
驚いたのはそのイギリス人講師は、歴代の日本天皇の名前をすっと言えたり、皇室の目立った話題はほとんど知っていたことだ。日本に住んでいるのだから、当たり前だろうか。
そういえば私もチャールズやカミラとか、イギリス王室の話題を結構知っている方かもしれない。ロイヤルファミリーのゴシップ的な話題は、何かと耳に入ってくるものだ。
エリザベス女王は今年93歳で、在位67年。ほとんどのイギリス人は、今のエリザベス女王の時代を生きて来たわけだ。考えてみるとものすごい長さだ。
しかし昭和天皇も63年なのだ。過ぎてしまうと実感がなくなる。長く大変な時代を頑張られたのだなぁ。
●派手な理由
私のエリザベス女王の印象と言えば、あの可愛らしいピンクのスーツや帽子のファッション。とても華やかな色を使っていて、遠くからでも驚くほど目立つ。
「エリザベス女王」で画像検索すれば、満面の笑みの華やかなカラーのお洋服の姿がたくさん出てくる。そこに幼少期や若かりし頃のモノクロの写真も。この色の対比こそがそのまま、女王の歴史の長さを感じさせる。
過去にそのカラフルなドレスの写真を虹色に並べた、「Rainbow Queen」というカラーチャートが、UK Vogueのファッション誌に掲載されたぐらいだ。
「Rainbow Queen」で画像検索すると、今までに着た洋服は赤系からオレンジ系、黄色系、緑系から青系へとほぼ完璧に虹色になるほどカラフルだ。レインボークィーン、なんかカッコイイ。
今年またWEB新聞「ロンドン・イブニング・スタンダード」の記事で、華やかな洋服について書かれたのでリンクを貼っておく。
・London Evening Standard
https://www.standard.co.uk/insider/royalssociety/queen-elizabeths-most-colourful-outfits-from-her-neon-green-memes-to-her-official-red-robes-a4159521.html
そして、イギリスではエリザベス女王を実際に見たことがある人が、とても多いのだと言う。かなり地方の行事まで女王自身で行くので、地元の人はきっとその機会を逃さず会いに行く。それを67年続けている訳だから、見たことがある人が増える一方でも当然かもしれない。
決して個人的に派手好きだから派手にしているわけでなく(笑)、会いに来た人からよく見えるようにと配慮されているそうだ。
外国の場合は、選ぶ色を慎重に吟味して決めるそうだ。帽子だけでも、手袋だけでも動いているのが見えたなら、その人の歴史には「女王に会った」と刻まれるのだ。
私が参加した即位パレードでも、天皇陛下のお車が通り過ぎた後に「えー、見えなかった。もう通り過ぎちゃったのー!」と、ショックを隠せない人が何人もいた。前列には昔そういった悔しい思いをした人が並んでいるのだ。どんなに早く来ていても、もう1時間早ければ良かったと思うようになる。
人の垣根が視界を遮る悲しさを、目立つ色でカバーしようとするアイデアは一つの方法として素晴らしいと思う。
エリザベス女王はダイアナ妃亡き後、英国王室の華やかな存在感を維持させるために、頑張って来られたのだ。
「派手に生きる覚悟」。覚悟のショッキングピンク。いや、レインボー。72%というエリザベス女王の支持率も、それらの積み重ねの結果だろう。
・世論調査機関「YouGov」
https://yougov.co.uk/ratings/politics/popularity/royalty/all
女王に会いに来る人がどれだけ長い時間、寒空の下に立っているのかを考えて、華やかな出で立ちで登場する。多くの人の目にそれが焼きつくのを知っているのだ。きっと皆、末長く覚えているだろう。
【武田瑛夢/たけだえいむ】
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/
最近話題の会話型AIシステム「グーグルアシスタント」の音声通訳機能を、夫が面白そうに使っていた。これ結構楽しい!! 自分がスマホに話しかけた日本語を、すぐに滑らかな発音の英語で聞けるのは画期的。
煩わしいボタン操作もなく、マイクボタンを最初に押して始めれば、AIが勝手に補正してくれる。少し噛んだ程度の言い間違いは拾わずに、言いたかった文章に整えてくれるのだ。バカ正直でもない感じが凄い。しかも無料。
今日は英会話の話題を書いたのに、通訳アプリの驚異が迫る。いよいよAIと複雑な意見を述べ合うまでになったら、困る人は続出しそうだ。ん? 何が困るのかな。
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■Scenes Around Me[64]
オブスキュア解散当時の写真(2012年5月20日頃)
関根正幸
https://bn.dgcr.com/archives/20191217110200.html
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以前の記事でアートブックOBSCUREの紹介をした際、OBSCURE6号が手元にないことを書いたのですが、その記事を見られた方から処分するアートブックを引き取ってもらえないかとの打診があり、6号を送ってもらいました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
OBSCURE6号で気になっていた、裏表紙に記載された住所ですが、豪徳寺になっていました。となると、都立大学に移転する前に6号が作成されたことになりますが、私がアートブックを一旦受け取ったのは確かに都立大学でした。なので、都立大学に移転する前後に6号が出来たのかもしれません。
ネガを見返したところ、前回紹介した写真から、オブスキュアが都立大学を引き払う2012年5月20日頃まで、オブスキュアで撮った写真は見つかりませんでした。
その間、恒例になっている秩父の花まつりのライブイベントに行ったり、現在このテキストを書いている板橋の地下室(Art Studio Dungeon)のグループ展に参加したりと、オブスキュアに入りびたっていたわけではありませんでした。
もちろん、前に書いたように、都立大学は仕事先の近くだったのでオブスキュアには頻繁に顔を出していたはずですが、写真は撮らなかったようです。また、普段から日記をつけていないこともあり、当時の記憶は曖昧になっています。
上に書いたように、都立大学からの引っ越しは5月20日頃に行われました。この直後の5月22日に、板橋で部分日食を観測している写真があるので、日付に関しては間違いないはずです。
この日までにおおかたの荷物は運び出されたようで、家の中はほぼ空っぽになっていました。
この日はオブスキュアのトイレの写真を撮りました。壁の絵は以前から描かれていたのですが、ここから立退くにあたって記念に撮影したようです。この絵を書いたのはHAMADARAKAと記憶しています。
浴室に描かれたシュウジくんの絵。シュウジくんは、このだいぶ前にオブスキュアを去っていました。
当初、シュウジくんは壁一面に絵を描いていました。ですが、私はシュウジくんにこの鹿が良いと話したところ、シュウジくんがオブスキュアを去る際、この部分を残して壁を塗り潰しました。
荷物の運び出しが完了した時点で、皆で集合写真を撮りました。コーキくん、HAMADARAKA(エル、エム)、ポンタくんが写っています。安彦さんもいたはずですが、集合写真には写っていません。
オブスキュアの近くに新田中というお寿司屋さんがあり、当時何度かランチを食べに行きました。
この日も集合写真を撮った後、皆でランチを食べに行きました。写真は店を出た直後に、近所に住んでいたトモくんのお母さんが、安彦さんに花束を渡しているところです。
【せきね・まさゆき】
sekinema@hotmail.com
http://sekinema.com/photos
1965年生まれ。非常勤で数学を教えるかたわら、中山道、庚申塔の様な自転車で移動中に気になったものや、ライブ、美術展、パフォーマンスなどの写真を雑多に撮影しています。記録魔
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■crossroads[78]
読む力より書く力
若林健一
https://bn.dgcr.com/archives/20191217110100.html
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こんにちは、若林です。
今回は、先日ニュースなどで少し話題になった「若い人の読解力低下」について、私なりの考えを述べてみたいと思います。
今月の初め、経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した「国際学力到達調査(PISA)」の結果の中で、日本人の読解力が15位に落ちた(2015年調査時8位)、若い日本人の読解力が低下している、ということがニュースで取り上げられました。
読解力が低下して大きな理由は「本を読むことが少なくなり、SNSなどでの短い文章でやりとりが増えたため」と考えられているそうです。
PISAの調査結果や文部科学省のサイトに公開されていますし、読解力の問題例が国立教育政策研究所のサイトで公開されています。若い人の読解力の低下を嘆く前に、調査で用いられた実際の問題を見てください。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA):国立教育政策研究所
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/detail/1344310.htm
問題例については、こちらからPDFでダウンロードできます。
2018年調査問題例(読解力)
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/04_example.pdf
問題の内容は、ラパヌイ島という島でフィールドワークを行ったある大学教授が書いたブログを読んで、設問に答えるというものです。ぜひ一度やってみてください、そして解答するのにどれぐらい時間がかかったかを計ってみてください。
おそらく、多くの方はほぼ正解されると思います。一方でこの問題の難しさも感じていただけるのではないでしょうか?
■読解力とは?
そもそも読解力とはどういう能力なのでしょう? シンプルに考えれば「文章の構造や係り受けの関係性を読み取って、文意を理解すること」ということだと思います。しかし実際に問題を読んでみると、問題を解くのにはそれ以外の力が必要だと知ることができます。
まず、文章の中に出てくる単語の意味を把握しなければなりませんし(さらにいうと、その単語に使われている文字が読めなければならない)、それらを一時的に覚える記憶力も必要です。そこから、それぞれの単語の関係性(構造)を理解して、ようやく文意を読み取ることができます。
さらに、設問が何を求めているのかについても同じように理解し、設問が求めているものと与えられた文章の意味を照合して、ようやく答えにたどり着きます。この時、文章に出てくる単語が自分の知らないもの、はじめて見るものだった時は、それぞれの単語を記憶するだけでもかなり大変です。
わかりやすい例として、次の記事に出てくる「アミラーゼ問題」をご覧下さい。
「教科書が読めない人」は実はこんなにいる
https://toyokeizai.net/articles/-/300847?page=3
記事から問題の部分を引用します。
次の文を読みなさい。
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
セルロースは( )と形が違う。
(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素
この文章の中には「アミラーゼ」「グルコース」「セルロース」という見慣れない3つの単語がでてきます。
しかも、それぞれの単語はいずれも「○○○ー○」と同じ構造を持っているため、これらの単語がどういうものかをわかっていなければ、どの単語がどのタイミングで出てきたのかを混同しやすいのではないでしょうか。
すくなくとも、私はこの3つを初見できちんと分類して把握できませんでした。この短い文章を何度も読み返さなければ、正解に辿りつくことができませんでした。
みなさんはいかがでしょう? この文章を1回で理解して設問に答えることができたでしょうか? ちなみに、正解は1のデンプンです。
ここでもう一度、PISAの「ラパヌイ島問題」を読み返してみてください。「アミラーゼ問題」ほどではないものの、覚えにくいな、あまり馴染みがないと感じる単語があったのではないでしょうか。
このように問題を解くプロセスを分解していくと、正解にたどり着くためのハードルはひとつではないことがわかります。
■テストという非日常
もうひとつ理解しておいていただきたいのは、これらの問題がテストとして行われているということです。
つまり、これらの問題を限られた時間で解かなければならないのです。時間が迫っていると焦ってしまって余計に頭に入らなくなる、テストの時にそんな経験を多くの人がしているのではないでしょうか?
時間の制約を受けずに、他の問題のことも考えずにひとつの問題に集中できる私たちと、実際にこのテストを受けた学生さんたちとでは、大きく状況が違います。
これは、あくまでも非日常の世界での話なのです。
これらのことから「ラパヌイ島問題」にしても「アミラーゼ問題」にしても、この問題が出来なかったから読解力が低いと判断されるべきなのか? というところに私は疑問を感じます。
おそらく、教育分野の意味においては「読解力が低い」と判断されるのかもしれません。しかし、これらの問題を間違ったとしても、実生活では困ることがありません。
それはこれらの問題が実生活と関係のない内容だからではなく、実生活であれば時間をかけて理解したり、言葉の意味をもっと深く調べてより理解してから、改めて文意を読み解くということができるからです。
テスト問題で与えられた情報だけで文意を理解することを、実生活では強制されないのですから。
■分かりにくい文章を読み解く力よりも分かりやすい文章を書く力
若い人の読解力低下については、PISAの調査結果よりも前に「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」という本で話題になっていました。
AI vs. 教科書が読めない子どもたち
https://www.amazon.co.jp/dp/4492762396/
この本を書いた方と、先ほどの「アミラーゼ問題」の記事を書いた方は同一人物で、東大合格を目指すAI「東ロボくん」の開発に関わっておられます。この方によると、学生の読解力はAIにも劣っていて、もっと読解力を鍛える必要があるそうです。
しかし、私はそうは思わない。
そりゃ、テスト問題に出てくるような難解な文章を理解できるようになれば、日常生活のもっと平易な文章は難なく理解できるようになるでしょう。でも、それはきっとオーバースペックってやつです。そこまでできなくても、普通に生活を送ることができます。
そんな時間があったら、分かりやすい文章を書く力を鍛える方に時間を割いた方がよほど有用です。そして、分かりやすい文章を書く力を鍛えることによって、文章の構造を理解する力も上がると思います。
分かりにくい文章を読み解く力よりも、分かりやすい文章を書く力を身につけた方が、まわりの人も幸せにできると思いませんか?
■人間はAIと戦う必要なんかない
AIにできることが人間にできないのは、人間の能力が劣っているからだと言われることにも反対です。AIの方がうまくできるなら、AIにやらせればいいのです。人間がそこに戦いを挑む必要はない。
人間はコンピューターと違って色々な感情を持っています。大して面白くもなく、関心もない「アミラーゼ」の話を、無理やり読まされるの辛いじゃないですか。でも、コンピューターはそんなこと思わないのですよ。それが「アミラーゼ」だろうがなんだろうが、淡々とこなしていくだけです。
ここが人間とコンピューターの違いです。だからテストでは人間よりもAI(コンピューター)の方が有利なんです。この土俵で人間がAIに戦いを挑む必要なんて、まったくないと私は思います。
■分かりやすい文章を書いてもっと優しい世の中に
色んなことを書きましたが、じゃ日本人の読解力は下がっていないのか? というと、それはまた別の話だとも思っています。
確かに、最近の若い人が本を読まないというのは私自身も感じていますし、実際に世界ランクが下がっていることを考えれば、下がっているのかもしれません。でも、こんなテストでそれが測れているのだろうか? ということについては疑問だということです。
それよりもやっぱり、分かりやすい文章を書く力をつける方向で頑張りましょう。きっとその方がみんな幸せになれると思います。僕らはテストを受けるために生きているんじゃないんです。
こんなニュースサイトがあるのをご存知ですか?
NEWS WEB EASY
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/
平易な日本語で書かれたニュースサイトで、外国人や小中学生に分かりやすい言葉で伝えるように作られたサイトだそうです。
これが標準でもいいんじゃないのかな?
このwebサイトは外国人や小中学生だけでなく、発達障害と呼ばれる状態にある方にも有用だと思います。難しいことに挑戦することも必要ですが、難しいことを簡単にしていくことは、もっと必要とされているのです。
【若林健一 / kwaka1208】
https://crssrds.jp/aboutme/
子供のためのプログラミングコミュニティ「CoderDojo」
https://crssrds.jp/CoderDojo/
mBotをただの車型ロボットで終わらせない本
「mBotでものづくりをはじめよう」好評発売中!
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編集後記(12/17)
●偏屈BOOK案内:松原惇子「長生き地獄」
わたしの祖父と祖母は、自宅でなんとなく死んでいった。苦しむ様子もない自然死だった。床についている期間はわりと長かったような記憶があるが、それは日常だった。わたしには、両親が二組いた。その両親はいずれも、病院でそれぞれ数か月、眠ったきりで、苦しむこともなく亡くなった。ほとんど自然死に近い。わたしも両親のように死にたい。だが、もっと短期間で死にたい。
死を語ることは、今を充実して生きるための答え探しである、というのが筆者の考え方だ。現代人は死を恐れるあまりに、死なないよう努力するが、それはまったくの逆効果である。かつて中村仁一先生の「大往生したけりゃ医療とかかわるな『自然死』のすすめ」を読んで啓発され、この欄でも書いたような記憶がある。我々は死について学ぶべきである。自分のため、家族のため。
長生きが幸せだった時代は過去のこと、現代は長生きがいろいろな問題を呼び寄せる。一日でも長く生きたいと、必死に苦しい闘病生活を送っている人もいる。それはその人の肯定する人生だから、何もいうことはない。家族ではない他人様の生き死には、筆者は関係がない。だが、独身の彼女は長生きするのが怖い。それなら、長生きの現場に乗り込めばいいと思い取材に入った。
当初は「長生きがこわい」というタイトルで取材を進めていたのだが、日本には“死にたくても死なせてもらえない高齢者”が大勢いることがわかり、愕然としたという。それこそ「長生き地獄」である。なぜこうなったんだ、日本。わたし(柴田)は延命治療を拒否する。どうせ以前のような状態には戻らないんだし、苦痛を伴うのがいやだ。延命治療はエンドレスに金と時間を要する。
筆者はオランダの高齢者住宅を視察した。延命治療について聞きたいというと、対応してくれた人は笑いながら「延命ですか? オランダには延命という言葉さえありません」と言う。延命をしないのが当たり前。存在さえしない概念だ。これはオランダだけでなく、欧米ではスタンダードである。だから、欧米には寝たきり老人がいない。終末期の高齢者を延命させるのは非論理的だからだ。
多くの患者は寝たきりになる前に亡くなっている。自然に死ぬことができる。
日本は後進国ではないし、医療は先進国である。それなのに、なぜ寝たきりの
人をつくりながらも、疑問を持たなかったのか。医師は欧米の例を知っている
はずなのに。答えは、医療側の算盤勘定であり、日本人の医療信仰による医師
にお任せ体質も原因だ。だから、安楽死をきちんと法制化しなければならない。
筆者は「良い死のために考えておきたいこと10」をあげる。延命治療をするかしないか、リビングウイルを書く、家族や友人に自分の意思を伝えておく、救急車を呼ぶか呼ばないか、孤独死を望むか望まないか、最期は自宅か施設か、あなたの地区に訪問医はいるか、生死について話せる友達がいるか、自分なりの死生観をもっているか、今を楽しんでいるか……ちょっと無理やりな感じも。
葬儀社の人の話によれば、延命治療を施されて死んだ人は、自然死の人と比べて遺体が重い。点滴や栄養補給で余分な水分が体内に溜まっているからだ。また、亡くなった直後の顔は険しく、遺族が見る前にかなり丁寧に死に化粧を施す。遺体を見ればいかに辛い最期だったか分かるという。自然に亡くなった人の顔はとても穏やかだということだ。そんな顔で死にたいものだ。(柴田)
松原惇子「長生き地獄」2017 SBクリエイティブ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797391448/dgcrcom-22/
●どのテストも正解できてほっとした。セルロースは一度読んだだけでは回答できなかった。小中学生の頃、友人らに「あんたの言うことはわからん」と言われ続けていたが、いま思えば難解な、いまでは使わない言葉・文語を使っていたように思う。それに四字熟語やことわざが好きだったので、よく引用していた。
仲良かった人たちは、考えてみれば勉強のできる子ばかりであった。あの子たちには通じていたのだろう。同級生らに拒絶されたのはきつかったが、はっきり言ってくれたのはありがたかった。どうやってわかってもらえばいいのかを、数年後に少しは考えたからだ。
社会人になってから、上司にきっちりした敬語も使うなときつく注意された。杓子定規で親しみがない、とのことであった。壁ができ、懐に入れないという意味なのだろう。相手に失礼にならないように、どこまでくだけた言葉を使っていいのか、いつも迷う。人によって基準が違うからだ。
簡単な単語、わかりやすい言葉を選び続けて、語彙が減ってしまった(笑)。微妙なニュアンスを文章で伝える力が減った。読んで理解はできるのだが。
後記は自分目線ばかりで、そこはあかんよな、いや、その「あかん」はどうあかんのか、それを伝えなきゃいけないんだけど、そこの努力は怠ってしまっている。若林さん、めっちゃ難しいよ〜!(hammer.mule)