《コレも天然物》
■わが逃走[257]
オモシロイ被写体の巻 その4
齋藤 浩
■もじもじトーク[126]
新駅・高輪ゲートウェイ駅で途中下車してみた
関口浩之
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■わが逃走[257]
オモシロイ被写体の巻 その4
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20200326110200.html
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よくよく考えると、同じもの、もしくは同じようなものばかり撮っている。
機関車だけ撮ってる人もいるのだから、階段や手すりだけ撮っている人がいてもおかしくはないはずだ。
しかし、そこに美を感じる人の絶対数が少ないようなので、こうして啓蒙しているのか、と思ったが違う。
機関車は誰が見ても機関車だが、たとえば階段を撮って「こ、これが階段なのか! なんと美しい!!」
と誰かに言わせたい。
と思ったが、これはおそらく機関車を撮ってる人も同じだろう。
などと考えつつ、今回も尾道で出会ったステキな構造美をご紹介します。いかにしてオモシロがったかを記しますので、日々の生活にお役立てください。
細い道は楽しい。スイッチバック階段を上から見下ろしたの図。
ここも何度も通ってる場所なのだが、90ミリレンズで撮ったのは初めてかもしれない。本来こういった風景には広角が適しているとされるが、あえて、というか率先して定石をはずしてみると、なにかしら新しい発見がある。
側溝の緑に気づくことができたのも、いつもと違う視界に新鮮さを覚えたからだろう。もしズームレンズをつけっぱなしにしていたら、こんな発見はできなかったはずだ。
金網というか柵というか。
これは既製建材ではあるけど、最近あまり見なくなったタイプだ。昭和40年代の香りが残る。当時を知る者として懐かしさを感じるが、とくだん優れた意匠というわけではない。しかし、サビが良い。
サビとかキズというものは意図してつけるものではないので、雨だれの流れる方向や構造的に水の乾きにくい箇所、モノが当たりやすい場所をあらためて知ることができる。
知ったところでどうということはないのだが、人工物をより自然に見せる演出方法を学べるので、なんかトクした気分になる。
サビといえば学生の頃、道端で拾ったボルトがかっこよくて、同じように錆びたボルトを作ろうと思い、
腐食液(塩水のようなものだったか)に浸けてから放置しておいた。何週間か経って見てみると、サビが発生していたのだが、何かが違うのだ。
コレジャナイ感というか、まがい物感というか、やはり天然モノにはかなわんと思った記憶がある。
尾道を散歩していると、頻繁に天然物の鉄板に出くわす。道端に落ちてたり、かつて機能していたものが錆びついて放置されていたり等々。今回出会ったコレも天然物である。
寺の境内に立てかけてあったものだが、じっと見ていると、いろんなものに見えてくる。
撮影時は草を食む牛に見えたのだが、こうしてあらためて見直すと、オオカミの後ろ姿にも見えてきた。
月の模様がウサギや女性の横顔に見えるのと同じようなもので、作者の意図などないのだから、どう捉えてもかまわない。その自由度が楽しいのだ。
しかし、鉄板をじっとみつめる男は一般的に言えばアヤシイやつだ。鉄板鑑賞の際は、隣におねいちゃんを従えて世間話をしているとアヤシさが払拭されるという統計結果が出ている。
くねくね急階段を背景に、手曲げの手すりを鑑賞。
やはり現場の状況にあわせて曲げられた手すりは美しい。これも通い続けている階段なのだが、何度見ても飽きない。
と同時に、いつまでたってもこれぞ!という1枚が撮れないのだ。アイドルや鉄道はなにかと引退するので追いかける方も大変だろうけど、階段の解散や廃止はそこまで頻繁ではないので、時間ができたらまた会いに行こうと思う。
段差のある板状の構造物。
カメラ位置には以前住宅があり、その裏手が坂道で、道と土地との境界線に、このような構造物だけが残ったようだ。一段ずつすべて形状が異なる。二段目と三段目のの天面、中央がゆるくくぼんでいるのは何故か??
もしかしたら、かつてここに出入り口があり、長年にわたって踏まれていたからかもかも。といった仮説をとなえるごっこは楽しいけれど、生活の記憶が少しずつ消失してゆくのは寂しいものだなあ。
4回連続で尾道の構造美をオモシロがってきたわけだが、世の中的に外に出るなという風潮があるし桜の季節だからといって、みんなそろって同じもの撮るのもねえ……。というわけで、つづく!
【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[126]
新駅・高輪ゲートウェイ駅で途中下車してみた
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20200326110100.html
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こんにちは。フォントおじさんこと、関口浩之です。
前回のもじもじトークの文字ネタで、「高輪ゲートウェイ駅看板の明朝体に批判の声が続出」という話題を紹介しました。
https://bn.dgcr.com/archives/20200312110100.html
駅の看板は、通常、ゴシック体(もしくは丸ゴシック体)が使われています。ネット上では、「ダサいし読みづらい」「デザインとして間違ってる」などのコメントで溢れました。
「高輪ゲートウェイ駅の看板を嫌いになっても、明朝体は嫌いにならないでください」のツイートに、思わず、笑ってしまいました。
でも、ネットの噂に惑わされてはいけないですよね。自分の目で実際に確かめないといけないと思い、今月開業したばかりの新駅「高輪ゲートウェイ駅」で途中下車してみました。
●新駅・高輪ゲートウェイ駅で途中下車してみた
ネットで噂の「明朝体で書かれた高輪ゲートウェイ駅の看板」、写真撮影してきました。ジャーン!
https://bit.ly/mojimojitalk126-1
一枚目と二枚目の写真が、高輪ゲートウェイ駅の正面の看板です。改札入口の看板も駅名標のひとつなので、明朝体よりゴシック体のほうが自然です。
最初、違和感がありましたが、炎上するほど「ダメじゃん」という感じではありませんでした。意見には個人差がありますが……。
三枚目の写真は駅舎の看板です。この新駅は、おしゃれな商業施設にも見えるので、このケースではゴシック体よりも明朝体のほうが、風情があっていいなと感じたのです。
最後の写真は、駅ホームの駅名標です。「駅名標」とは、駅ホームに設置されている、前駅と次駅も書かれたその駅の名前を表記された看板です。柱に掲示された縦長の駅名看板も、駅名標と言います。
駅名標は、さすがにゴシック体でした。もし、この駅名標が明朝体だったら、僕も、SNSで大騒ぎしたと思います。駅名標の書体は、路線毎に決められています。
一般的に、「看板=ゴシック体=視認性(見やすさ)」と言われています。パッと見て、すぐに理解しやすいのは、文字の表情が少ないゴシック体のほうがいいのです。特に、公共機関の看板、道路標識などは、視認性はとても重要だからです。
駅名標という公共サインではなく、駅舎という建築構造物を説明するサインとしては、ゴシック体以外の、表情がある書体の選択肢もありかなと思いました。
●駅名が長いと不便なこともある
駅名に「ゲートウェイ」というカタカナ名称を使っていること、そして「高輪ゲートウェイ駅」という駅名が長いということが、一年前に話題になりました。
「駅名が長すぎて、路線図マップに書き加えるのができない」ということも話題になりました。
そこで、大日本タイポ組合の塚田哲也さんが、「これなら路線図に入るよ」って、Twitterで書き込みがありました。僕は、「これが正解だね」って本気で思いました。4.5万件のいいねと、2.3万件のリツイートがされていますね。
https://mobile.twitter.com/dezaiso/status/1070143246381146112
そしたら、今月3月10日に、「お待たせしました ヒラギノ明朝バージョンです」との書き込みがありました。塚田哲也さん、仕事が早い!
https://twitter.com/dezaiso/status/1237256855019122688
車両内サイネージの路線図や切符売場の路線図に、「高輪ゲートウェイ」や「Takanawa Gateway」のテキストが、どのように文字組みされているのか気になりますよね。なので、探索して写真撮影してきました。ジャーン!
https://bit.ly/mojimojitalk126-2
テキストが長いので、2行組みになりましたね。三枚目の写真は1行書きで目立つのでな、「ドヤっ」て感じに偉そうに見えますね……。
一枚目の写真の「たかなわげーとうぇい」のひらがな表現が、なんか、かわいくて好きです。
●駅名公募130位の駅名が選ばれたの?
『圧倒的な得票数で1位だった「高輪」を抑えての「高輪ゲートウェイ」という名称の決定に不満の声が続出しました』という記事を読んで、「そんな経緯があったのね」とびっくりしました。
Gatewayって言葉のニュアンスですが、英語がネイティブの人にとっては、「何かの玄関口」と感じるのではないかと思いました。
高輪ゲートウェイ駅を下車して、しばらく歩きましたが、期待した何かがその駅周辺にあるとは思えませんでした。これから、再開発が進んで、ゲートウェイらしい何かがある街になるのかもしれませんけど。
駅構内はとてもきれいでした。遠くから見える駅舎の佇まいも素敵ですし、新鮮味がある新駅です。時間がなくて10分ぐらいしか散策できませんでしたが、楽しい弾丸ツアーでした。
高輪ゲートウェイ駅に入るとコンコースからホームが見渡せるので、駅好きな人にとって、じばらく、電車の往来を眺めてみたくなります。こんな感じです。ジャーン!
https://bit.ly/mojimojitalk126-3
ちょっと面白い体験をしました。駅の正面改札に入らずに、駅舎の周りを散策したいたら、「コーナーカップ」のシンボルマークが階段の入口にあったので、登ってみました。
予想はしていたのですが、スターバックスがありました。休憩したかっただけなので、お店に入らずに、他にも何があるのかなと思って、ふらふらと歩いたのですが、スタバしかありませんでした。
スターバックスにしか行けない階段ならば、スターバックスの看板を階段入口に表示したほうが親切だなと思いました。
●看板を英語では何という?
過去の「もじもじトーク」で、何度か記事にしましたが、僕は看板が好きです。
小さい頃、群馬の実家には琺瑯看板がたくさん貼ってありました。当時は手書き職人が描いた看板しかありませんでした。自動車(オート三輪車)のドアに書かれた、商店の名前も手書きでした。
少年の頃から看板が好きでした。今でも、街中の看板に目が行くのは、琺瑯看板にルーツはあるのかもしれません。
日本語の「看板」という言葉、いろんな意味で使われています。英語では「signboard」が一般的な看板の表現ですが、利用目的で別々の表現があるので、便利ですね。
・sign(標識・標示)
・signage(サイネージ・標識・ポスター)
・information board(情報板・案内板)
・billboard(屋外の大型看板)
・advertisement (広告)
その中で、「sign(サイン・標識・標示)」は社会基盤であり、生活の一部の看板なので、わかりやすさがとても重要になってきます。
東京オリンピックが来年に延期されましたね。時間に余裕がでてきたので、日本のサインシステムが、日本人にとって、そして、海外から来日するすべての人にとって、親切で分かりやすいインフラに整備されることを期待しています。
では、二週間後にまたお会いしましょう。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)
https://www.facebook.com/hiroyuki.sekiguchi.8/
Twitter @HiroGateJP
https://mobile.twitter.com/hirogatejp
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。
現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして、日本全国を飛び回っている。
日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、Web担当者Forum、Schoo等のオンラインメディアや各種雑誌にて、文字やフォントの寄稿や講演に多数出演。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。2018年も「ベスト10セッション」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。趣味は天体写真とオーディオとテニス。
フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/
Webフォントってなに? 遅くないの? SEOにはどうなの? 「フォントおじさん」こと関口さんに聞いた。
https://webtan.impress.co.jp/e/2019/04/04/32138/
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編集後記(03/26)
●読売新聞3月22日の言論欄「あすへの考」で、国立情報学研究所の新井紀子教授がAI時代の国語教育の改革について語っていた。著書「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」は「2019年ビジネス書大賞」で大賞を受賞している。東大合格を目指した研究所のAI「東ロボくん」は、昨年のセンター試験・英語で200点満点中185点。でも彼は、問題の意味を理解しているわけではない。
各国にある英語試験のビッグデータなどをもとに、確率と統計を駆使し、単語の並びなどから、どれが正解らしいか選ぶのだ。なーんだ、と思ってはいけない。人間の学生だって意味を理解して解いているのかというと、そうでもない。数学の基礎的な定義はほとんど理解していないのに、難しい計算問題は解けるというケースは少なくない。記述式ではない試験で、まぐれ当たりに発生する。
「東京都内のある小学校では、4年生のクラスで自分の名前を漢字で書けない子が半数を占めていました。授業では、穴埋め式のプリントにキーワードを書き込んだり、タブレット端末でキーを選択したりすることが多く、文字を書く機会が激減しています。ノートの取り方もわからない。筆圧が弱く、きちんとマス目の中に書けない状態です」って、信じられないような現実がある。
そこで新井教授は、週一回、朝の3分間、教科書や新聞の記事を集中して書き写す「視写」授業を始めたところ、3か月くらいで生徒の読解力はメキメキ上達した。中学、高校では、「とはいえ」「一概に」「論点は」といった学習言語が、全然身についていない。今春以降、各教科で討論や発表を中心にしたアクティブ・ラーニング(AL)が導入されるが、これも読解力がポイントとなる。
「語彙の量、書く速さ、ノートの取り方といった基礎基本がクラスの中である程度揃っていないとALを有効に行うのは難しい。各学年で縦断的に読解力を調査し、学ぶスキルを上げることで、学力の伸びしろをつくっていくことが重要なのです」。AL時代は読解力なしでは生きていけない。それなのに、いま「誰もが自然に日本語が読め、書ける状況ではなくなった」というんだから衝撃。
日本の子どもたちの読解力の低さには愕然とする。79か国・地域の15歳が参加した2018年のPISA(国際学習到達度調査)で、読解力は国別で15位、06年度調査と並んで過去最低だった。日本は両親の母語も生活言語も日本語である。それなのに、移民の多いアメリカと同レベルという結果は、日本の言語政策の長期的な無策が影響しているのは間違いない、と新井教授は厳しく指摘する。
「図表の説明ができるか、正しい式を書けるか、そんな内容を問う短答式でも、受験生が集中している偏差値50前後のボリュームゾーンの選考には充分意義があります」。この層から小中学校の教師や看護師、薬剤師など、社会を支える人材が多く出ている。彼らの仕事はAIでは代行できない。表現、問題解決、創造性、これら機械に代替できない力を育てていかなければならない。(柴田)
NII 国立情報学研究所 新井紀子
https://www.nii.ac.jp/faculty/society/arai_noriko/
●オリンピック一年延期。一年のうちに薬やワクチンが開発されますように。
/高輪ゲートウェイ駅の明朝体。中国製の怪しい電化製品の「日本語メニューが変」を連想した。以前後記で紹介したと思う。
検索したら、たぶんこれだろうというDVDプレイヤーが出てきたが、高輪ゲートウェイ駅のフォントとは全然違ってた。破壊力のあるメニューであった。
しブラル設定グーピ、テレプタイポ、字幕域ゼ設定、スクリーンセーガーゼ設定、スポーカ設定グーピ、ガーチュアルサラウンド、リアスポーカ、サデウーファー、センターダィレー、ドルプーダピタル、オーダィオ、アナロパ、ドルビーポロロピック、テレプ、スグイン、リーピョンコード、はスワード変更、にーム、ジーカル、スロー送と、チャポター……
「旧はスワードゼ入力なさいす」「再生ジタン押しくリターン」「ダフォルトローダィンパ」。再生ジタンには別パターンあり。「再生ジタン押しく続り」
うーん、好き。(hammer.mule)
再生ジタン押しくリターン
http://nationalmaclord.nekonikoban.org/simpleVC_20090313154001.html