◎高山正之「変見自在 中国は2020年で終わる」 新潮社 2019
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103058854/dgcrcom-22/
「週刊新潮」連載中の超辛口コラム「変見自在」シリーズの第14弾目。素晴らしいタイトルの実現に期待したが、残念、中国は2020年中には終わらなかった。
なぜこのタイトルがついたのかというと、共産党国家72年説があるからだ。2020年に中国は72年目を迎えた。
「その辺が限界だと歴史も福島香織も言っている」には笑えた。反日朝日新聞は、中国は2020年代に米中が逆転すると期待している。
経済同友会代表幹事小林喜光を担ぎ出し、「技術大国ニッポンは過去のもの、劣化した日本人は新しいものに挑むエネルギーもない、ゆでガエル状態にある」と言わせる。
しかし日本はずっと挑戦を続けた。70年代には米ソ独に続いて原子力駆動船を独自技術で生み出した。夢の原子炉、高速増殖炉を世界に先駆け実用化にこぎつけたが、いずれも朝日のフェイクニュースで潰された。
「孔子とその世界」の著者マイケル・シューマンは「21世紀の課題は国際競争に打ち勝つ強い工業力、技術力の確立だが、その手本は驚くなかれ日本だ。中国みたいな付け焼き刃でない、伝統の力がモノを言う時代に入った」と断言する。
英経済界の権威アデア・ターナーは「老齢化する日本は技術革新で70歳まで労働力にした」「GDPの2倍を超す国の借金が足枷というが、内実を見れば政府資金で相殺でき、日銀の利息もあって実際はGDPの60%しかない」と、私の好きな高橋洋一と同じ見方をとる。彼の結論は「21世紀は日本に学べ」である。
ブルームバーグのダニエル・モスも「中国を向いていた世界の目は老齢化とデフレをクリアした日本に向けられている」という。外国人の日本びいきのお言葉を引っぱってきてまとめた、高山正之にしては説得力に欠ける一文だが、「朝日と経済同友会がなくなるとき、日本の空は晴れ渡る」結びには同感。
日本にとって朝鮮半島は要衝にみえる。中国が取れば日本が危ない。それで、日清、日露戦争を戦った。
中国にしろロシアにしろ、半島に西側の自由圏文化が押し寄せると具合が悪い。まわりの国の思惑があって、今の分断国家がちょうどいい落とし処になっている。
だから、北朝鮮の核を外したあとは周辺国家が話し合い、あの半島から一切手を引いてみたらどうか、と高山。
金正恩と文在寅には「みんなが東洋のスイスになるのを望んでいる」と言う。けっこう見栄っ張りの二人だから、喜んでOKすると思うが。わはは、ナイスなジョーク。
さて、千円札といえば、なんといっても聖徳太子だった。大学に入る頃に伊藤博文に、会社員時代に夏目漱石になった。現在、わたしの小銭入れに折り込んでいるのは野口英世だ。
いまどきリアルの紙幣や硬貨をつかうわたし。カードといえばジャパンネット銀行、3つの図書館の4枚しかない。
今年上期に、新たな偽造防止技術を用いた新しい五百円貨幣が発行される予定だったが、コロナで延期。そして、2024年度上期に新しい日本銀行券が発行される。
新一万円券は渋沢栄一(現行券は福澤諭吉)、新五千円券は津田梅子(現行券は樋口一葉)、新千円券は北里柴三郎(現行券は野口英世)である。
現行のどなたとも、財布をもたないわたしの小銭入れとは、ほとんど無関係な2020年だった。
さてこの本の、「新千円札『北里柴三郎』をよーく知ろう」が非常に興味深かった。
世界各地に植民地を広げ、資源を簒奪してたちまち豊かになったヨーロッパの国々。そうなると白人たちは優生学を世に出し、自分たちこそ支配者に相応しい優れた者と思い始める。
ところが、5世紀かけてもペスト(黒死病)を克服できなかった。ユダヤ人陰謀説まで出て、ユダヤ人大虐殺を行った。
みんな殺しても黒死病は止まらなかった。白人学者は懸命に研究を重ねたが、何の収穫も得られなかった。
1894年6月、北里柴三郎はペスト禍の香港に入った。到着2日後にペスト菌を見つけ、その2日後には鼠が媒介するのを確認した。
英香港政庁は彼の言葉に従って鼠を駆除した結果、ペストは収まった。白人が5世紀間、追い続けてきた答えを一見の日本人が数日で出してしまった。
これはまずいと誰もが思った。フランス人医学者アレクサンドル・イェルサンが「私もペスト菌を発見した」と言った。北里の発見から一週間後。欧米医学界は検証もなしに即座に認めた。
3年後の万国衛生会議は二人をペスト菌の共同発見者とし、学名を「キタザト・エルシニア・ペスティス」と決めた。その4年後、北里の名前が第一回ノーベル賞候補者として再び持ち上がった。
彼の血清療法の功績が評価されたが、ノーベル賞は白人の叡知を褒めそやす賞だから、白人助手のフォン・ベーリングのみが受賞した。
発見から70年後、国際微生物学会では、ペスト菌の学名を密かに短く変更し、北里の名を削った。これにより、黒死病は白人が自ら見つけ出し、始末したことになった。
日本のお札の肖像は財務省が決める。「小粒に無難」を基準に、課長クラスの役人が選ぶらしい。明治天皇や昭和天皇、東郷平八郎などは絶対に出て来ない。福澤諭吉はともかく、貧乏の樋口一葉とか結婚詐欺の野口英世とか。
日本が長いこと元気がなかったのは、彼らのせいだ。ようやく、日本国紙幣に相応しい人たちが出てくる。一万円札が渋沢栄一、五千円札が津田梅子、そして千円札が北里柴三郎。わたしがいちばん仲良くなれるのは北里さんである。(柴田)
◎ちきりん「ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法」イースト・プレス 2011
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社会派ブロガーとして圧倒的な影響力を持つといわれている「ちきりん」。ブロガーなんていない時代に、著書を読んだ記憶がある。
久しぶりに手に取ったのは10年前に出た本で、人生を100倍ラクにする思考法が書かれているらしい。もう人生を終わりにしてもいいやと思っているわたしだが、困ったことに、向上心はまだあるらしい。人生をラクにしようなんて、まったく思わないが。
ラクに生きる、「自分基準」で生きる、賢く自由に「お金」とつきあう、仕事をたしなみ未来をつくる、ストレスフリーで楽しく過ごす、という章立てで、50年前なら読みたかったような内容だ。
だからコミュニケーションがなんたらかんたら、退屈な時間を楽しもう、なんてことどうでもいい。もはや、実用的な考え方を評論家から聞いても意味がない。年寄りが読む本ではない。
そんな中で、辛辣な「防災グッズは必要?」が興味深かった。かつてマンションの防災に熱中し、管理会社の人と一緒に防災・災害対応の冊子を作って住民に配布していた。
とっくにその熱は冷めて、いまやマンションの通常総会にさえ出席しない。理事会主催のイベントも参加しない。かつて揃えた防災グッズは何処へ?
でも、「防災」って無理だよね。「災害対応」と言い換えた方がいい。巷で売られている防災セットの中には、必要性が疑われるようなものも多く、しかも値段が高くてビックリ。
「災害トイレセット」なんてホントに役に立つのか。避難所の容量オーバーになってしまったトイレの悲惨さを想像すると、こういう商品も必要かとも思えるが、これは一体どこで使うのであろうか。
災害時に避難所まで運び、自分の家族だけで使うなんて無理。家にいるなら、普通のゴミ袋を多めに買っておき、家のトイレにセットして使えばいいだけで、高価な専用グッズが必要とも思えない。
備蓄用の水や食料も、わざわざ専用のものを買わなくても、たいていの家には2日分くらいの飲食物はあるはずだ。
日本ならかなり田舎でも、2日ほど待てば救援物資が届くだろう。
水や電気が広範囲で止まるのはせいぜい3日。それ以上になったら、他地域に移動して復旧を待つ方がいい。
防災グッズの多くは実務的な有用さというより、「買っておけば安心」という「お守り効果」を売る商品のように思える、と辛辣。
「実際に災害が起こったときに役立つのは、おそらく専用の防災グッズではなく、体力や精神力、判断力、不便な中で工夫する力、コミュニケーション力なのです。イザというときに役立つのは『お金では買えないもの』なのです」
きれいにキメてくれました。
◎藤井青銅「あんまりな名前」扶桑社 2008
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かつて国鉄の分割民営化に伴い、「国電」に代わるものとしてJR東日本が決めた愛称が「E電」だったが、あまりのダサさに定着することなく「死語」として有名である。
名付けた人たちにとっては理路整然としていたが、世間的には不可解でおバカでダサくて「あんまりな名前」になってしまった。
よく考えると、どこかおかしい名前。筆者によると、日本は「あんまり大国」だった。
筆者はそんな「あんまりな名前」を集めて、侮蔑系、尾籠系、寿限無系、理路整然系、矛盾系、欺瞞系、安易系、あやかり系にジャンル分けした。
さらに侮蔑系あんまりを、バカもの、ニセもの、貧困もの、イヌものに分けた。尾籠系は糞尿系あんまりな名前。寿限無系は無駄に長い名前のことで、パブロから始まりピカソまで「・」を含めてカタカナ約90字を要するのがピカソの本名だ。
バンコクの正式名も長さでは有名。カタカナで150字以上を要する。「テロ対策特別措置法」は法律名が112文字もある。
筆者はこうした名前の分析を「ネーミング心理学的言語認知社会心理学」と名付ける。「心理学」がカブってる。
75歳以上の人は、ほとんど“姥捨て山”の如き印象の「後期高齢者医療制度」に入る。あんまりな名称ではないか。「後期高齢者無料制度」なら、まあよろしい。
あちこちの大学で、カタカナ学部創設が続いた。
明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部、駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部、立教大学異文化コミュニケーション学部、法政大学キャリアデザイン学部、東洋大学ライフデザイン学部、帝京平成大学現代ライフ学部とか。何を教えておるのかねえ。
何か新しいモノには、仮に「新〜」と名前をつけて呼んでおく。
いつのまにかそれは名前の中に同化してしまう。「新幹線」「新派」「新劇」など。
「ヌーベル・バーグ(新しい波)」「ボサ・ノバ(新しい傾向)」も同様。
「新体操」は1963年に世界大会が始まり、けっこうな歴史があるが、いまだに「新〜」と新参者っぽい名前のまま、放置されているのはあんまりである。
Q「山梨県甲○市、この○に入る漢字は?」
A「甲(斐)市、甲(州)市、甲(府)市」、「甲」多すぎ!
いずれも県の代表っぽいが、他にも山梨市、中央市なんてのもある。静岡県には「伊豆の国市」がある。
東京都港区には「(社)責任あるまぐろ漁業推進機構」という団体がある。電話かけたら、なんと応じるんだろうか。
「テロ特措法」の正式名は漢字とかな合わせて112文字もある。
子供の頃の世界地図には、アフリカ西海岸あたりに、黄金海岸、象牙海岸、奴隷海岸、という表記があったような記憶がある。
15〜19世紀、ヨーロッパ人の植民地政策により、その主要輸出物から勝手に命名されたらしい。
黒人奴隷をアメリカ大陸へ向けて積み出したから奴隷海岸、獲りまくった象牙から象牙海岸。西洋人のやることは非道である。この歴史的事実は消去できない。
◎竹内久美子「ウソばっかり! 人間と遺伝子の本当の話」ワニブックス 2018
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この本では様々な人間関係を軸に「そんなの当然じゃない」「そんなこと、真剣に考えたこともなかった」「なんとなくわかっていたつもりだけど、よくよく考えるとわからない」といった問題を、深掘りし、科学的根拠に基づいて解明、解説する。
科学的といっても、難解な理屈は出て来ないからいいね。恋愛10、家族9、印象8,体15、合計42テーマ。
真剣に考えたことがなかった、わかってるつもりだったがよくよく考えるとわからない、そういった問題を深堀りして、科学的根拠に基づいて解明、解説する。
編集プロダクションが企画制作したお手軽な内容でなく、著者は京大理学部の博士課程(専攻は動物行動学)を経て著述業になった竹内久美子。この人の著作はよく読んでいる。
いずれのテーマも具体的でわかりやすい。そのなかからいくつかを紹介する。
これは特別な色だと思われる色を挙げよと言われたら、かなり多くの人が赤と応じる。わたしもそうだ。
赤が血の色であり、唇や頬などが赤みを帯びていることが血流がよいことを示すからだが、もうひとつ重要な意味があるという。
赤のユニフォームや防具をつけていると、試合に勝ちやすい。
ボクシング、テコンドー、レスリングのグレコローマン・スタイルとフリー・スタイル。実力が伯仲しているとき、赤と青では試合結果に多大な影響が出た。
4種を平均すると、赤の勝率が62%、青が38%だった。なぜこんな大差が出たのか。
赤を見た青はビビる。赤は自分が強くなった気分で自信たっぷり、だといわれている。
「人間の男が赤を身にまとうと、対戦者は相手のテストロステン(男性ホルモン)のレベルがとても高く強そうに見え、ビビってしまう。赤を身につけた方は勘違いして、自分が強くなったような気分になるのでしょう」。
さらに、赤は審判の目をごまかしていて、よい採点をしてもらえるから勝ちやすいのではないか。
よし、次は赤を着よう。って場面は、わたしにはないんだけど。
血液型の本質とは、免疫の型である。知らなかった。初めて聞いた。
「免疫の型とは、自己と他者を区別するために存在する、印のようなもの。もし他者(病原体など)が侵入してきたとわかったときには、容赦なく免疫的に攻撃する。
そんなわけで、病原体でなくても、他人の血液を輸血してもらう際にも、型が合う、合わないという問題が生じるのです」
血液型が侵入者と戦うための戦術の違いである以上、型によってより戦いやすい相手と、そうでない相手があるはずだ。
実際、血液型によってより気をつけるべき病気の種類が違う。
A型がO型に比べ罹患率が高いのは何といってもガン。それに良性唾腺腫、リウマチ性疾患、悪性貧血、糖尿病、心筋梗塞、狭心症などいろいろ。とくに好酸球増加症はO型の2.38倍と深刻。わたしはA型Rh+。
コレラ菌に対してはO型が弱く、AB型がとても強い、B型もかなり強いということは統計学的にわかっている。
コレラの家族への感染については、どの血液型であっても一定の確率で、血液型によって感染のしやすさが違うのではなく、感染してからの重症化の程度が違うということだ。
血液型がO型の人は病気全般に強く、弱い病気にしても胃潰瘍など薬で治せる病気が多く、気をつけるとしたらコレラくらいと圧倒的である。
現代ではその最強O型の人が多いが、O型とは真逆の、あらゆるガンに弱く、貧血も多く、元気のない印象のA型が、日本をはじめ多くの国で最大勢力になっている。
なぜなんだ? 筆者は二つの大きな理由を挙げる。
一つはA型は病弱であるために、慎重に行動するという性格が備わり、そのために生存のうえで有利であるということ。
そして、もうひとつの理由は、ガンになりやすいということ。え? ガンになりやすいと、どうしていいんだ?
ガンとは本来、中年以降に発症する病気である。子供が独立し、孫もいるという状況下で発生することが多い。
人類は過去の多くの時間を食うや食わずの極限状態に晒されてきた。そのような状況で、無駄飯を食うだけの人間は存在すべきではない。
それが動物としての現実である。ひどい表現だが真実である。
「自分の遺伝子のコピーは既に受け継がれているのであり、もはや存在して彼らの食い扶持を奪うよりも、いなくなった方が自分の遺伝子のコピーを残すという点で有利なのです。
そんなわけで、子が独立したなら早々にこの世を去るということこそが、他ならぬ自分自身にとって最善の道。
このような過去があるために、一見健康には不利な血液型であるA型が最も大きな勢力になっているのではないでしょうか」。
この本では様々な人間関係を軸に、「そんなの当然じゃないか」「そんなこと真剣に考えたことなかった」「何となくは分かっているつもりだったけど、よく考えるとわからない」といった問題を、深く掘り下げ、科学的根拠に基づいて解明、解説している。
「科学的」と言っても、難しい理屈はほとんど出て来ない。
人間についての問題、疑問をより深く理解することを目指すという本。
読んで「何だ、単にそういうことだったのか。これまで悩んでいて損した」という人もいるだろう。わたしなんか健康についてはほとんど悩まないから(それでも妻からは小心者扱いされている。お産した女は強すぎる)あら、そうなの、で済む。
ルックスがいい男に女が惹かれることには、誰も異論を唱えない。しかしそれを軽薄だとする風潮は、ルックスのよくない多数派の男たちのプロパガンダである。
「ルックスのよさとは、動物行動学や進化論の分野では、ずばり免疫力の高さ、つまり病原体と戦う力の高さを意味します」。だから、一目惚れというのは、免疫力の高さを見抜き、惚れるということなんですって。
気になるタイトルを並べてみる。
動物行動学的にも人は見た目が9割、浮気男と相性のいい尻軽女、男は「名前をつけて保存」女は「上書き保存」、世界共通の「魔の2歳児」、若い女性が痩せたがるのは? 人の印象を悪くする決定的な要因は? 血液型によって決まるもの、などなど。面白いぞ。