[2632] プラモはやはり筆で塗れ!の巻

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<ああ、ハンズさま。売ってくださってありがとう。>

■わが逃走[43]
 ガンプラブームを思い出す(ついでにヤッターマンも思い出す)
 〜プラモはやはり筆で塗れ!の巻
 齋藤 浩

■つはモノどもがユメのあと[04]
 mono03:ピンポイントバリアっ!
 ──HAL LABORATORY HTB-10 / Kensington TurboMouse model 62360(?)
 Rey.Hori

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■わが逃走[43]
ガンプラブームを思い出す(ついでにヤッターマンも思い出す)
〜プラモはやはり筆で塗れ!の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20090423140300.html
>
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どーも。齋藤です。そーいえば先週末に映画『ヤッターマン』を観てきたのですが、かなり良かったです。

最近なにかと昔の漫画やアニメを実写化するのが流行っているようですが、どれもこれも原作のモノマネ的な印象が強く、実写で表現することの必然性を感じないものが多いと思っていたのです。

しかし!『ヤッターマン』は凄かった。嵐ファンの人妻・カズエねえさん(仮名)に誘われてご近所お誘いあわせの上4人でぞろぞろ、まあそんなに期待しないで行ったのですが、まさかここまで良いとは!!!

たとえばギャグひとつとっても、原作の面白さの根源までさかのぼり、それを実写表現だからこそ活きる形でアウトプットしている。しかもフツーにサラッと。これって生半可な人じゃできないと思うのです。目に見える構造はもちろんのこと、原作の味、ニオイ、思想などを理解した上で再構築しているのでしょう。

しかも、コアなファンも大勢いる国民的アニメが相手なんだから、失敗は許されない。そんなプレッシャーをものともせず、というか全く感じず(?)むしろそれを楽しんじゃうくらいな勢いで、素晴らしい映画を作ってくれた三池監督以下、スタッフ・キャストの皆様に敬意を表するオレなのさ。

そう、『ヤッターマン』の魅力の根底にあるものは、作ってる人達のノリというか、楽しみっぷりなんだと思うんですよ。送り手側が楽しんで作ったからこそ、受け手にその楽しさが伝わるんだよねー、的なことを当時テレビを観ながら母と話していたのも、もう30年以上前のことか。びっくりだー。

で、その30年後、実写とCGという表現方法になっても、そのノリはきちんと受け継がれているんだよなー。これはスゴイことです。といった訳で、文化が肩肘張らずに継承されてゆくさまを目の当たりにして、これは素敵なことだなあ、と思った39歳の春。

いきなりヤッターマンネタで始まってしまいましたが、今回の『わが逃走』は前回に引き続き、ガンプラブームを思い出します。

ヤッターマンのテレビ放映が始まって、その2年後かな。常識を覆した革新的なアニメ『機動戦士ガンダム』の放映が始まったのです。で、いろいろあって(このへんは前回を参照のこと)番組放映後にガンダムのプラモデルシリーズが発売され、爆発的ヒットを記録。超品薄状態が続き、少年達はそれを求めて日々模型屋巡りを続けたのでした。

さて、憧れのガンダムプラモ(当時はまだガンプラという略称は存在しなかった)『シャア専用ムサイ艦』を手に入れたはいいが、劇中の印象的なシーンを模型で再現したい願望のあるオレとしては、やはりモビルスーツのキットが欲しい。

第1話の、3機のザクがスペースコロニーに降り立つシーンや、砂漠でのガンダムとグフとの格闘戦、ジャブロー基地に侵入したシャア専用ズゴックが連邦の量産機GMをぶっつ刺すシーンなどを、ジオラマで再現できたらなあ……などと夢見ていたのです。

※ザクだのグフだのズゴックだのっていうのは、モビルスーツの名称です。モビルスーツとは、ガンダムの世界における巨大ロボットの総称。知ってる人にしてみれば常識なんだけど、興味のない人にしてみれば、ほんとにどうでもいいことではあります。『わが逃走』では、マニアックなことは一般人に対して居酒屋トーク的に紹介するという方針をとっていますので、こんな解説を入れさせていただきました。

さて、モビルスーツのプラモデルが手に入ったら、どんなポーズをとらせようか? どんな情景を作ろうか? 来る日も来る日もかっこいいポーズの練習と称して、布団たたきをライフルに見立てて自らモビルスーツのようなポーズをとっては鏡の前でスケッチし、ジオラマのイメージイラストを描く。

思えばこの行為が人体の構造を意識し、緊張感のある空間設計というものを考えた最初の体験だったのかもしれない。親にはいつも「ガンダムガンダムって、いいかげんに勉強しなさい」とか言われていたもんだが、結局この経験があったからこそ、今オレはデザイナーとして食っていけてるんじゃないか? と小学生のオレのとった行動を正当化してみる。

まあガンダムに限らず、プラモデルってスケール感覚や立体感覚をものすごく鍛えてくれる優秀な教材だったなー、なんてけっこう本気で思う。戦車や飛行機、車に戦艦。そのどれを作るときでも、必ず縮尺ってことを考えるようになるのだ。

つまり、いま自分の手の上にある車がこのくらいの大きさなら、人はだいたいこれくらいの大きさだろう、的な話です。いろんなスケールのいろんな模型を作っているうちに、建築や工業製品等の図面を見ただけで、瞬時にその縮尺がわかってしまうようになるのです。これって、今の仕事をする上でめちゃくちゃ便利。

さて、話は戻って小学5年生のある日。墓参りだかなんだかの帰りに、渋谷の東急ハンズに行ったのでした。ハンズに来たからには、模型売り場に行かない訳にはいきません。エレベーターを待つことすらじれったいオレは、5階だったか7階だったかまで階段をダッシュ、模型売り場にたどり着いたところ、「!!! あ、あったーっっっっ!!!!!!!!」と声にならない声とともに、レジ脇に積み重ねられていたガンダムとグフをゲット。あのときの感動は忘れられないなあ。

あ、くどいようですが、それほど品薄だったんですよ、ガンダムプラモ。「こ、これであのシーンがオレのものに……」と声にならない声で涙ぐみつつレジに向かう。「2点で540円です」。安い! なんと東急ハンズはプラモデルが全品1割引で販売されていたのだ。小遣いの少ない小学生にとってはまさに神。当時は今みたいに量販店で3割引! なんてありえない時代であります。しかも、超人気で品薄な商品が定価よりも安く買えるなんて!

ああ、ハンズさま。売ってくださってありがとう。まさにそんな気持だったことを思い出す。戦後焼け野原と化した東京で、住む家のない人々が家を借りられたとき、「ああ大家さん、部屋を貸してくださってありがとう」感謝の意を込めて礼金を渡したという。それが慣習となって現在まで続いてるらしいが、ガンプラを購入したらその1割を店の人に礼金として支払う、なんてルールができなくてホントによかったなあ。

でもこれって冗談じゃなくて、当時人気のガンダムと不人気の『日本の城シリーズ』等をセットでしか売らない“抱き合わせ販売”が横行して社会問題になった、なんてことも実際あったのですよ。そんな状況で1割引で入手できたというのは、一生の運をすべて使い果たしたんじゃないかという程の大事件だったのです。

さて、コーフンさめやらぬ模型売り場な訳ですが、ふと周りを見渡すと、人だかりのあるショーウィンドウを発見。なんと、そこにはガンダムプラモの完成作例が展示されていたのです。しかも、どれも丁寧に作り込まれていてカッコイイ!

まだ製品化されてないものや、劇中には登場しないオリジナルなモビルスーツまで、すべて自作したものから大改造を施したもの等、これでもかってくらいな腕の競い合いだ。キャプションを見ると、慶応大学模型部作品展とある。さすが、一流大学の学生は模型作りまで一流だなあ、なんて本気で思った。あきらかにオレの周りの小学生が作るものとは次元が違う。なんといってもその気迫がすごい。「おまえがテクニックで来るなら、オレはアイデア勝負だ!」みたいな勢いがショーウィンドウの中からビンビン伝わってきたのだ。

※以下マニアな専門用語が続きます。一般の方は気にせず読み飛ばしてくださいませ。

中でもオレがいちばん「スゲエ!」と感じたのは『量産型Gアーマー』という作品。ガンダム専用支援メカ・Gアーマーは一品モノ、という設定だが、その人は「もしGアーマーが量産化されていたらこうなるんじゃないか」という想像をもとに、新しいデザインを模型で提案していたのだ。すげえ。やられたーと思った。そうなんだ、ガンダムの素晴らしさって、実在しないからこそ自分のイマジネーション次第でどんどん世界を広げることができる。なんてクリエイティブな世界なんだろう! と、小学生のオレはえらく感動したのでした。

その後、なんだか知らんうちに後づけの細かい“公式設定”なるものが増えていき、史実(!)にないモビルスーツを作ると保守的なマニアからイジメられる、といった状況が生まれ、自由さを求めてガンダムを作ってたような人達は徐々にこの世界から離れていったように思う。少なくともオレの周りではね。で、ブームは沈静化したのです。

話は戻ります。沈静化する前。ガンダムとグフを購入したオレは、早速作りはじめた。当時はまだ真っ当な制作手順なんて知らなかったから、パーツを切り離す前に塗装をすませていたなあ。でも、1色で成形されたパーツを塗装することで、どんどん完成に近づいていく感じがたまらなかった。

組み上がったら、戦闘機や戦車にあるような“注意書き”を面相筆で描き込む。さらに熱したドライバーで盾にダメージを加えたり、“汚し塗装”を施した。雑誌の作例をまねながら作り込んだとはいえ、自分としては納得のいく仕上がりになったのです。

ベースは、手元にあったスチレンボードを使った。ただ単に砂色のパウダーをしきつめて固定しただけだったけど、けっこう砂漠っぽい雰囲気になった。で、モビルスーツをカッコイイポーズに固定して砂漠に立たせて完成。おお、イイ。今の目で見ればド下手なんだけど、作った当時はかなりコーフンしていたことを思い出します。さらにその後、オレはこのジオラマを写真に撮ってるのです。その写真、実家に帰れば絶対あるはずなんだけどなあ。こんど探してきます。

さて、そんなこんなであれから30年の月日が流れたのですが、その後私のプラモデル人生はどうだったかと申しますと、けっこうディープにはまってしまったんですね。

塗装もエアブラシを使ってグラデーションをつけてみたり、高価な歯科医用の工具を使ってパーツを削ったりなどなど、無駄な出費も数知れず。なんだけど、凝れば凝るほど完成しなくなっていきまして、結局現在つくりかけの模型がいくつもあります。中には10年以上ちまちま作り続けているのに、いっこうに完成しない、なんてものもあります。そのくせ、作りたい模型は増える一方。ほんと、困ります。

先日「これじゃいかん」と思い立ちまして、初心にかえってガンダムを作ることにしました。最近のガンダムは、改造なんかしなくてもかっこよく仕上がるのです。技術の進歩はすばらしい。

という訳で、(1)改造しない。そして塗装は準備がめんどくさいのでエアブラシは使わず、(2)筆塗りで仕上げる。この二つのルールで作っていくことにしました。そーしたら、意外に面白いのです。とくに塗装が。

エアブラシって均一な面が塗れるので、美しい仕上げの必需品のように言われてますが、その反面、誰が塗っても同じような表現になってしまうんじゃないか? 対して筆塗りはムラが出やすいため難しいと言われていますが、その筆ムラをタッチと考えれば、かなり個性的な表現が可能になるんじゃないか? てなことをかんがえつつ、『ガンダムの形をしたキャンバスにガンダムを描く』をテーマに、ちまちま作っています。けっこう楽しいです。
< http://www.dgcr.com/kiji/20090423/01 >

そのうち完成したら写真UPしますね。まあ、早くて今年の秋かなあ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://www.c-channel.com/c00563/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■つはモノどもがユメのあと[04]
mono03:ピンポイントバリアっ!
──「HAL LABORATORY HTB-10 / Kensington TurboMouse model 62360(?)」

Rey.Hori
< https://bn.dgcr.com/archives/20090423140200.html
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前回に続いて今回も、話の起点は筆者の「先Mac期」にさかのぼる。MacでのCG制作にアコガレつつも踏ん切りがつかずに、キューハチことNEC PC-9801を使ってあれこれやっていた時代のことだ。1990年頃である。

キューハチのOSは当時MS-DOS 3.3。黒画面白文字プロンプト、キーボードだけで操作するCUIの世界である。だからと言うべきなのか、当時はアプリケーション毎に勝手にマウスに対応していたのを覚えている。アプリの起動時にマウスドライバを常駐させ、終了時にそれを外す、といった動作をさせていたように思うが、プログラマではない筆者の身なのであまり深く追及しないでおく。

とにかくOS自体は事実上マウス非対応だったわけなのだが、ともあれ、キューハチのDOS上でもアプリによってはマウスによる(今やアタリマエの)GUI的操作を味わうというか、垣間みることができたのだ。

脱線するが、その時期にNEC(か、その関連会社だったか)からキューハチで使えるペンタブレットが出ていた、らしい。よほど品薄だったのか、早々の生産中止になったのか、筆者はCG入門書に載っていたそのタブレットの実物を一度も拝んだことがない。当時、毎週のように秋葉原を徘徊していたのに、である。今やネットでも型番や品名の確認が困難なのだが、当時見つけていたら購入していたかどうか、その後の展開を思うと興味深いところだ。

更に脱線をネストするが、今やアキバ通いなどと言うと(昨年の痛ましい事件はさておき)たちまちある種のアヤシの雰囲気が漂ってしまうが、当時はあくまでニッチでコアなパソコン(+古来のオーディオ&無線の)専門店街であって、それはそれでよりアヤシイとも言えなくもないが、そのぶん、女子部員のいない文科系クラブ的、図画工作的、ジャンクパーツ的、ヤニ入りハンダ的、サンハヤトの基板的な香りが強かった気がする。今でもごく一部、この雰囲気の残る秋葉原深部が筆者は好きである。

もとい。そうしてマウスの味を知った途端、ポインティングデバイス、つまりマウスに代表される「カーソルを動かすためのお道具」へのコダワリが発生することになる。そして、その時期からずっと筆者のココロを捉え続けているポインティングデバイスがトラックボールなのだ。

トラックボールとは、乱暴に言えば機械式マウスを裏返しにし(正確にはカーソルの動く向きも逆にして)底のボールを指先で転がして操作する、ような入力装置だ。何しろ本体は動かないので、マウスやタブレットに比べると設置面積が小さく、手をあまり動かさなくて済むのが利点だ。そこのお若いの、光学式マウスを裏返しても無駄じゃぞ。

このトラックボール、少し前に地上波で放映されていたのをたまたま見ていた「MI:III」で久々に再開した。敵のアジトを急襲するシーンで何挺ものリモコン機関銃をコントロールするために、赤くて比較的大型のトラックボールが幾つも並んでいるのを見てウレシくなってしまった。

もっと古い記憶を探ると、最近新作が話題になった某SFアニメの元祖バージョンに登場した、ピンポイントバリアなるものの制御に使われていたのも印象的だ。船のごく一部を覆える小さなバリアしか張れないため、敵弾の飛来に合わせてバリアを移動させるわけで、それをトラックボールでやっていたのだ。マニアの皆さんには「あんた男見たいですか?」で有名(?)なアレである。

アヤシの雰囲気色濃い話題はともかく、筆者はというともう少しヒネていて、そのアニメを見た時に「わ、トラックボールだぁ(嬉)」と思った覚えがあるので、それ以前に何かで知っていたことになるが、それが何だったのかは覚えていない。NHKあたりのドキュメンタリーで、恐らく初期のCADか何らかの軍事的な装置などの映像で刷り込まれたのだろう。

というわけで、キューハチで使えるトラックボールを見つけた筆者は容易に吸い寄せられた。前置きが長くなったが、それが今回のモノ、HAL LABORATORYのHTB-10 "COBAUSE"である。"COBAUSE"は間違いなく「子坊主」だろう。その名の通り、本体上面に白いボールが顔を覗かせているが、まあトラックボールならどれでもそんな感じになるとは思う。
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono03.html
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ところが、思いの強さの割にこのトラックボールがキューハチ上で活躍した覚えというのが殆どない。といって失望した記憶もないので、きっとキチンと動作したものと思う。先に書いたように、つまりはキューハチ上でマウスを縦横に使えるアプリが当時の筆者の重用ソフト群になかったのが原因だ。今これを動かす環境を整えて検証する時間のないのが残念だが、ボール自体は今でも十分に滑らかに回転する。ただ、クリック用のボタンに少々引っかかりがあって、やや高級感に欠けるのが残念だ。

さてMac時代に移っても筆者は一度だけトラックボールに手を出している。型番が不明なのだが、周辺機器の老舗Kensingtonのトラックボールである。ネットで外観の画像を調べた感じではTurboMouse model 62360のような気がするが、定かでない。
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono03.html
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このトラックボールはいかにもアメリカーンな感じのデカさで、大きさの割に筐体がやや薄めなのでボールが上部に大きく露出している。COBAUSEでは筐体を開けないと取り外せないボールが、このKensingtonではひょいと持ち上げれば外れるのである。……と他人様の撮ったネット上の写真と記憶に頼って書いているのだが、実は手元に実物が見当たらない。では捨てたのかというと、そうではない証拠に、その簡単に取り外せるボールだけが今も手元に残っているのだ。

この連載では悪口は書かないと宣言したので、あまり書きたくはないのだが、事実として敢えて書く。このKensingtonトラックボールには落胆の記憶がある。ボールは筐体内の金属ローラで支えられているのだが、買って使って半年もたずにボールの回転が滑らかではなくなった。当然画面上のカーソルの動きもぎくしゃくする。清掃必須はトラックボールの宿命と、ボールを取り外してみると、何とローラの表面が錆びていたのだ。汚れではなく愕然の赤錆である。錆を削ぎ落とした上に薄く潤滑油を塗る、というメンテを何度か試みたが、すぐまた錆びる。こうしてこのトラックボールは押し入れ送りになってしまった。日本の気候環境のリサーチが足りなかったのだろうか。

(Kensingtonの名誉のために付け加えておくと、現在同社のトラックボールの支持ローラは錆どころか汚れも付きにくい材質で出来ているらしい。また、筆者の現在の環境ではサブサブ機にKensingtonの薄型キーボードK64366が接続されている。ストロークの小ささと感触が気に入って、現在のAppleの薄型キーボードの出現まではメイン機で愛用していた。アメリカーンな外観はさておき、耐久性不足の先代のApple透明樹脂キーボードよりはずっと良い製品だと思う。ちなみに筆者はUS配列派だ)

Macとトラックボールと言えば、白いデカい重い高いでも美しい、でオールドファンにはおなじみMacintosh Portableや、初期のPowerbook、Powerbook Duoに搭載されていて、特にPowerbookは今や定石と化したその搭載位置もあって、大いにココロ揺れたものなのだが、ノート機はともかく、メインの制作環境であるデスクトップ機について、筆者は上記2種類のトラックボールを通じてようやく痛感した事があり、以後トラックボールに手出ししなくなった。それは、ドラッグがしづらい、というポイントだ。

小さなトラックボールなら人差し指や親指の指先、大きなものなら指の根元辺りでボールを転がすわけだが、その際に別の指でボタンを押し続けるのはかなりツライ、ということにようやく思い当たったのである。ウェブ閲覧のような、カーソル移動&クリックという操作だけならとても楽チンで良いデバイスなのだが、ドラッグしづらいのはグラフィカルな使用では致命的欠点となる。

筆者が現在最も使っているポインティングデバイスは、ワコム製ペンタブレットである。今のところ筆者にとって究極のポインティングデバイスと言える。グラフィカルな作業だけでなく、通常のファイル操作など、あらゆる操作をタブレットで行う。マウスを使う頻度はとても低い。キューハチ時代にコイツに出会っていたら、という想定は非常に興味深いのだ。

ポインティングデバイスを巡る漂流はペンタブレットにたどり着いて一応の決着を見ているわけだが、トラックボールは相変わらず筆者のココロに何かを送り込んで来る。ドラッグ問題の根本的解消を謳ったトラックボールが出現したら、またしても手を出す可能性大なデバイスなのである。

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp
本文の通り、ペンタブレットはもはや手放せないデバイスになっているわけですが、といって、タブレットPCや液晶タブレットには殆ど食指が動かないのが我ながら不思議です。映画「マイノリティ・リポート」みたいなUIの実現待ちかなあ。でもあれ体力要りそうだし、なんか精密な操作ができそうな感じに欠ける気もする。究極はやっぱ“首の後ろにケーブル”というか“ジャックイン&フリップ”の世界かしらん。

さて、この記事が掲載される頃、順調に進んでいれば筆者初の個展の真っ最中です。特定のクライアント向けではない無機的な世界観の作品を展示していますので、ご興味がありましたら是非お越し下さい。
◇Rey.Hori個展「walls:機械残影」
< https://bn.dgcr.com/archives/20090407140100.html
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< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori/walls.html
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3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請
けしてます。サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori
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■気になる情報・記事CLIP

< https://bn.dgcr.com/archives/20090423140100.html
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●横浜開港150年「開国博Y150」の楽しみ方(nikkei TRENDY net)
< http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20090417/1025532/
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●生誕80周年を記念した「手塚治虫展」の魅力を解説&紹介!!(nikkei TRENDY net)
< http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20090420/1025623/
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●女性が阿修羅にうっとり。仏像ブームを見に行った!(nikkei TRENDY net)
< http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20090415/1025472/
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●デザインのギャラリー「JAGDA TOKYO」が1年の期間限定でオープン(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/04/09/061/index.html
>

●雑誌推薦の若手写真家15名による写真展「Editor's Choice」開催(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/03/23/030/index.html
>

●「UT GRAND PRIX」入賞20作品のTシャツがユニクロで販売開始(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/04/15/082/index.html
>

●コンテンツ産業は日本を救うか(ASCII.jp)
< http://ascii.jp/elem/000/000/409/409593/
>

●セカイカメラは人の思考をつなぐ 頓智・井口尊仁氏(ASCII.jp)
< http://ascii.jp/elem/000/000/411/411599/
>

●グランプリ賞金50万円「第三回汐留クリエーターズコンペティション」開催(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/04/22/079/index.html
>

●世界規模で優れた商品デザインを募集する「コクヨデザインアワード2009」(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/04/22/052/index.html
>

●グランプリ受賞者はNHKで監督デビュー「第7回NHKミニミニ映像大賞」(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/news/2009/04/22/068/index.html
>

●【コラム】Webデザイン解体新書1 柔軟なWebサイトを作る─読めるFlex製ブログのひとつのかたち(マイコミジャーナル)
< http://journal.mycom.co.jp/column/anatomyofwebdesign/001/
>

●アドビ、オンラインマガジン「DEKIMAGA」を創刊 〜「Photoshopを使ってやってみたいこと」を募集(デジカメWatch)
< http://dc.watch.impress.co.jp/cda/accessories/2009/04/22/10725.html
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●大辞泉も知恵蔵も無料で引ける!「kotobank」朝日新聞、講談社、小学館が知恵の実を集結!(ASCII.jp)
< http://ascii.jp/elem/000/000/412/412141/
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■編集後記(4/23)

・先日、CMについてよしなしごとを書き流したら、デジクリ筆者のGrowHairさんから「『絡みジロ』なのかも」という件名の怪しいメールが。なんじゃ? そりゃーと思ったら「そのテのCMって、もしかして狙ってやってるのかも、と。『ここへツッコんでください』と言わんばかりのツッコミどころをわざと用意しておく、と。そうするとブログやミクシィの日記で取り上げてくれる人がたくさん出てきて、二次的宣伝効果を生む、という計算づくだったりして、とちょっと思っちゃいました」とコメントがあり、電通総研のレポートの存在を教えてくれた。早速、その「『他己ウケ』の時代 新ケータイ世代へのアプローチ」を読んでみた。上手なイラスト(女子高生がかわいい)を使い、シンプルでわかりやすい解説(文字が少ない)が入って、堅苦しさ度ゼロのレポートは好感度100%、とてもおもしろい。今の10代は、他人からの評価で仲間内の存在感が決まるので、他人からウケるかを常に気にしている。だから、「他己ウケ」の時代なんだって。そんな10代にアプローチするには、「絡める」スキをつくること。彼女らにとってテレビ番組もCMも、「絡みやすいもの」と「絡みにくいもの」しかなく、いくら完成度が高くても、有名タレントが出ていても「絡み合えなきゃスルー」だという。だから「絡みジロ」を持たせるのが大事。ジロって「のりしろ」のシロ、余分な部分ということなのだろう。GrowHairさんの指摘、そうかもなあと思う。ソフトバンクのホワイト犬なんか「絡みジロ」の典型か。しかし、情報発信側が、完成度より「絡みやすい」ことを上位に置くという戦術はバカや凡庸の拡大再生産につながるかも。ケータイにがんじがらめに取り込まれ、「他己ウケ」を気にして痛々しいほどまわりに気を配る10代なんて気の毒だな。ケータイを捨て、読書の豊穣な世界に戻らないと、歳とってから絶対に後悔するぞ。(柴田)
< http://www.dentsu.co.jp/di/consumer/index.html#takouke
>
電通総研のレポート

・雄鶏社が自己破産申請。手芸本といえばここや日本ヴォーグ社、ブティック社、文化出版局、なのに。本棚には雄鶏社の棒針やかぎ針編みの基礎本があるよ。フェルトにビーズに刺しゅう、ソーイング、ぬいぐるみなど、どれだけお世話になったことか。と書きつつ、そういやしばらく手芸らしい手芸はしていないなと。学生さんたちは手芸していたりするんだろうか。その時間があれば実用的な、たとえば英語の勉強あたりをしてそうなんだが。実は最近も書店の手芸や料理コーナーを覗いてはいて、よくこれだけ新刊が出るなぁ、手芸や料理の本って売れるんだなぁと思っていたところなのだ。印刷会社やデザイナーさんたちにも打撃だよなぁ。/20.5光年先に地球外生物が? (hammer.mule)
< http://www.ondori.co.jp/
>  雄鶏社
< http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/3004.html
>  大型倒産速報
< http://news.goo.ne.jp/article/nationalgeographic/life/59520258-ng.html
>
最も地球に似た太陽系外惑星