つはモノどもがユメのあと[07]mono06:10kHz直読最終章──「YAESU FRG-7」/Rey.Hori

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前々回から延々と続くラジオ話である。もう少々お付き合い願いたい。時は1976年頃。周波数直読機能のない自分のラジオで、何とか10kHz直読による待ち受け受信ができるようになったところから。

例えば最近のコンピュータやデジタル家電製品の、単位時間当りの進歩の幅とは比べるべくもないが、大ブームの渦中にあってBCL用ラジオも徐々に進化をしており、筆者らBCL少年は毎月の専門誌のレビュー記事を見ては電気店や専門店で実際に触れてみたりし、いっぱしの技術評論などブチ上げたりしていた。

前回触れたが、ブームの中心を牽引していたのはBCLラジオであり、これらはマニア性の強い特殊なラジオとは言え、家電メーカが作って一般の電気店で売られていた。これに対して、無線通信のプロが無線機と一緒に使うプロ用ラジオというものがあり、通信型受信機と呼んで区別していた。こちらは無線機メーカが作っていて、専門店でしか見ることができない。

前回珍しくほとんど脱線しなかったのに、ここで脱線。筆者は大阪の辺境の生まれ育ちなので、当時専門店と言えば日本橋まで出掛けることになる。日本橋とはもちろん「東京都中央区ニホンバシ」ではなく“でんでんタウン”こと「大阪市浪速区ニッポンバシ」である(でんでんタウン、ってまだ言うんやろか。高校の頃は完全にギャグにしてたけど)。

当時その日本橋しか知らぬ身としては、同時期の秋葉原もきっと同じようにアツかったんだろうな、ラジオ会館とかちょっと見てみたかったな、などと今にして思う。関東生まれの読者諸氏は、以下文中の「日本橋」を「秋葉原」に読み替えて理解に努めてもらえれば幸いである。



ともあれ、電気電子専門店街である日本橋へ、親に連れられてではなく、一人或は中坊仲間で初めて足を踏み入れた動機が、筆者の場合にはBCL=「雑誌で見たあの通信型受信機を見に行くため」だったのだ。あとで述べる通り、この行動が筆者のその後に大きな影響を与えることになる。

脱線おわり。ラジオとは言えかなり高性能なNational Cougar 118Dを使っていた筆者なので、公平に見てその性能で足りないわけはないのだが、やはり新しい製品は気になる。今の筆者から当時の自分に言葉を送ることができるなら、お前ラジオよりアンテナに金かけなあかんのちゃうか、ではあるのだけど。

そこへまたしても(Sony Skysensor 5900ほどではないにしても)なかなかショッキングな製品が発表される。しかも、それはNational製でもSony製でもない。アコガレの通信型受信機だったのだ。

上に書いたように、通信型受信機とはプロ用の機材であり、感度や安定性においてラジオとは一線を画する物とされていた。当然お値段方面もかなり明瞭に一線を画しているわけで、当時でも普通に6桁、うんとお安いもので5桁のギリギリといったところ。BCL用ラジオが2万円台から、高い機種でも4万円台ぐらいだったのと比べるとトクベツなお値段だったわけだ。

そうした状況のところへ、なんと5万円台の通信型受信機が現れたのである。送り出したのは通信機の老舗、八重洲無線株式会社(現・株式会社バーテックススタンダード。以下八重洲)、あの夢のFR-101D(前回参照ね)のメーカということは製品に間違いはない。当然、中〜短波帯全域が受信でき、10kHz直読である。お値段的にも、例によってお年玉丸ごと+お小遣い前借りで、ギリ何とかなりそう。

というわけで、今回のモノは日本橋でゲットしたその格安の、でもパチモンなどでは決してない通信型受信機、八重洲のFRG-7である。購入時期はちょっと記憶が曖昧だが、1976年か77年の正月明け頃だったと思う(なにせお年玉が原資なので)。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono06.html >
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono06.html#p2 >

同時期のライバル機としては、トリオのR-300やドレークSSR-1などがあったと記憶しているが、R-300は直読機能がなく(ここも記憶がオボロ。直読できたかもしれない)、SSR-1は機能性能的にはFRG-7と拮抗していたが、筆者の中では八重洲の製品ということと、いかにも通信型という面構えでFRG-7の圧勝という感じである。

チューニング方法はやや複雑だ。BANDスイッチで受信したいバンド(周波数帯)を選び、MHzツマミを回して受信したい周波数をMHz単位で選ぶ。LOCKのLEDが消えるのを確認して、メインの大きなチューニングダイアルを受信したい周波数(MHz以下の桁。kHz単位)に合わせ、最後にPRESELECTツマミを最大の感度が得られる位置に調整する。

いかに通信型と言えど、チューニングの目盛が全周波数帯で絶対的に合うわけではないので、基準があるほうが良い。周波数の判っている放送局を使っても良いのだが、ここで俄然活躍したのが前回のモノ、ミズホのSKY MARKER MX-1Dである。このマーカを使って、100kHz単位ぐらいでFRG-7のチューニングを較正(こうせい、Calibration)する。さすが通信型というか、ダイアル面の目標線(レティクル)がスライドできるので、較正したところで目標線をダイアル面の目盛に合わせれば、その周波数帯ではほぼ完璧な直読が可能になるというわけである。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono06.html#p3 >

後になって知ったのだが、この多少複雑なチューニング方式による10kHz直読の仕掛けは、あの謎の直読可能ラジオ、バーローワドレー(前回参照ね)が搭載していた回路方式(ワドレーループと呼ぶのだとか)らしい。回路云々については例によって深入りしないが、やはりあれは大したラジオだったのだろう。

先にも書いた通り、先代のラジオCougar 118Dの性能に不満があったわけではないのだが、さすがに通信機メーカの作った受信機だけあって、ダイアルを回す時の感触などは別世界というかホンモノの味わいがあった。特にメインのチューニングダイアルは、滑らか過ぎず重過ぎず適度な抵抗感があり、バックラッシュ(ある目盛に右回しに合わせた時と左回しに合わせた時とでチューニングがズレる現象。これが大きいと微調整がとてもやりづらくなる)は皆無で、止めた位置に全く素直に止まるのだ。

こうして筆者は、当時の中高生がBCLに望む究極とも言うべき受信機を手に入れたのであるが、究極であったが故か、その後2〜3年も経たずにBCLへの興味が下火になる。なんだ長々と話しておいて、単なる無駄遣いだったのか、即まとめてモノ化したのか、というとそうではないと言いたい。

筆者は、BCLを通じて読むようになった「ラジオの製作」や「初歩のラジオ」といった雑誌に載っていた電子工作に手を伸ばす。BCLを通じて出掛けるようになった日本橋へ、今度は抵抗だのコンデンサだのTTLだのといった電子工作の部品を買いに、前より頻繁に通うようになる。筆者の興味はやがてアナログ回路からデジタル回路へ移る。ロジック回路設計のほうが何となく面白かったからだ。

そして、同じ時期(年代的には、BCLブームと一部オーバラップしていたはず)日本橋のそこここに、IMSAI-8080だのPET-2001だのTK-80だのといった初めて見る製品が現れ始めた。世は今のパソコンに通じる、マイコンの時代に入って行くのである。筆者が、それまでのデジタル回路工作の延長としてコンピュータを自作したのは1978年5月のことで、これが筆者にとって最初のコンピュータである(これは明確に記憶している。モノとして紹介するかは考え中)。

それともうひとつ。BCLを通じては、受信報告書をタイプ打ちするために機械式タイプライタの操作を覚えた。すぐにタッチメソッドも身に付いた。つまり、いわゆるキーボードアレルギーに対する免疫も、BCLを通して得たものなのだ。それも、キーボードの付いたコンピュータを手に入れるよりずっとずっと前に。

極私的なこの連載の中でも、特にいささか極私的で申し訳ないが、筆者がラジオとBCLを通じて知った世界は、筆者をかなり早い時点でコンピュータに引き合わせてくれ、今に至る道に最初の光を射してくれたのである。FRG-7にはさすがに頻繁に電源を入れることはなくなったが、ベッドサイドラジオとなったCougar 118Dのすぐ横に現役の日そのままの姿で、今は静かにモノ化している。

【Rey.Hori/イラストレータ】reyhori@yk.rim.or.jp
ラジオや受信機本体は、筆者がBCLからコンピュータに興味を移した時期辺り以降、やはり急速にデジタル化が進み、今やお手軽価格のラジオでもデジタルの周波数表示は珍しくも何ともない。それだけの技術革新があったのだから、短波帯用の小さなアンテナ、なんて製品化されてないかな、もしあったらFRG-7を現役復帰させたいな、などと思っていますがマジメにリサーチしてないので何ともはや。短波帯のアンテナがデカいのは原理的なものなので、技術革新でどうにかなる類の問題じゃないかもですが、淡く期待。誰か知ってたら教えて下さい。

もっとも、仮に小さくて高性能で安価なアンテナがあったとしても、今の我が家(及び、向こう三軒両隣、どちらのお宅も)は遠距離受信の大敵であるデジタルノイズ源(コンピュータやデジタル家電機器)だらけですけどね。現役のBCLマン達はどう対策しているんだろう。前回をご覧いただいて、FR-101Dが健在です、という方からメールを頂戴しましたが、その辺最近はどうですか?

3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請けしてます。サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori >