デジクリには何度目かの登壇なのだが、実は少し前に柴田編集長からネタ提案付きで、久々に何か書かないかというご打診を頂戴していた。そのネタとは加速器である。筆者はこの分野のイラストをここ数年多数描かせてもらっているのだ。せっかくなので、そのご提案のネタで一席努めたいと思う。
加速器、英語でアクセラレータ accelerator。アクセラレータとだけ聞くと、ちょっと古手のパソコンユーザなら、コンピュータの性能を上げる後付けのCPUカードなんかを想像しそうだが、そっちには関係がない。ここでの話は、研究者や専門家以外では科学技術に興味のある人なら聞いたことがあるかもしれない「粒子加速器」についてである。
粒子加速器と言えば大変特殊な装置のように思うかもしれないが、昭和の頃までは各家庭に一台は加速器があった。テレビやモニタのブラウン管のことだ。
電子銃から出た電子を加速して電子ビームにし、細く絞って表示面に当てる。するとそこに塗られた蛍光物質が光る(電子ビーム自体は目には見えない)。ビームに強弱をつけながら表示面をくまなくビームでなめてやる(これを走査という)ことで、画像を表示していたわけだ。テレビのブラウン管は加速器を応用した装置と言えなくもない。
電子などの電気を帯びた粒を、同じく電気を使って加速するキカイ、が加速器だ。なぜ電気を使って加速するかというと、そもそもこの宇宙に存在する4つの力の中で電磁気力がこの目的に一番合っているからで......などといった話をしているといつまでたっても本題にたどり着けない。
呑み会などでこっち方面の話を振られると、呑み友の迷惑も省みず長広舌をふるってしまいそうになるのを、自重している今日この頃なのだ。ここでも大いに自重しよう。
加速器、英語でアクセラレータ accelerator。アクセラレータとだけ聞くと、ちょっと古手のパソコンユーザなら、コンピュータの性能を上げる後付けのCPUカードなんかを想像しそうだが、そっちには関係がない。ここでの話は、研究者や専門家以外では科学技術に興味のある人なら聞いたことがあるかもしれない「粒子加速器」についてである。
粒子加速器と言えば大変特殊な装置のように思うかもしれないが、昭和の頃までは各家庭に一台は加速器があった。テレビやモニタのブラウン管のことだ。
電子銃から出た電子を加速して電子ビームにし、細く絞って表示面に当てる。するとそこに塗られた蛍光物質が光る(電子ビーム自体は目には見えない)。ビームに強弱をつけながら表示面をくまなくビームでなめてやる(これを走査という)ことで、画像を表示していたわけだ。テレビのブラウン管は加速器を応用した装置と言えなくもない。
電子などの電気を帯びた粒を、同じく電気を使って加速するキカイ、が加速器だ。なぜ電気を使って加速するかというと、そもそもこの宇宙に存在する4つの力の中で電磁気力がこの目的に一番合っているからで......などといった話をしているといつまでたっても本題にたどり着けない。
呑み会などでこっち方面の話を振られると、呑み友の迷惑も省みず長広舌をふるってしまいそうになるのを、自重している今日この頃なのだ。ここでも大いに自重しよう。
フリーランスの仕事をしていると、一本の電話や一通のメールで、その後の仕事や大げさに言えば人生が変わってしまうことが、稀にだがある。筆者の場合、2004年10月15日にとある会社から受け取ったメールがそれだ。
そこのクライアントからの依頼で「大規模実験装置の将来計画にかかわるパンフレット」を作ることになったそうで、その「実験装置の3次元CG」制作の打診だった。メールだけではどんな実験装置なのかも判らない。
打ち合せに出掛けてみると、そこには今日に至るまでお付き合いを戴くことになる高エネルギー加速器研究機構(通称、高エネ研。略称、KEK。茨城県つくば市)の研究者の先生方が何名かいらしていて、資料と共に即席のレクチャーを受けた。
全長が30kmの加速器の計画というものがある。これの全景と主要な構成部品の想像図を、今ある装置の写真や図面やイラストを元に描け、というのが依頼だ。
こちらも一応工科系出の科学技術(&SF)好きなので、加速器の概略ぐらいは知っていたが、1時間や2時間のレクチャーできちんと全体を理解できるわけもなく、ましてやその後長いお付き合いになることなど夢にも思わず、主に「どんな絵を描けば良いのか」の話に終始したのを覚えている。
それにしても、全長30kmである。30mだってかなりデカいが、30kmは想像を絶している。この装置─国際リニアコライダー International Linear Collider。略称、ILC─のイラストはその後何度も描き、この夏もまた新しい絵を描く予定なのだが、白状するとその大きさを本当に正しく把握できているのかどうかまだ怪しい。
去年描いたILC内部の完成予想図も、モデリングデータ的には1kmも作っていない(それ以上作っても消失点付近に小さくなって無意味)。といって、外観を正しいスケールで描くと糸のように細くなってしまう。先にその最近の絵をご覧戴こう。
・ILC内観図(2012 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・ILC鳥瞰図(2013 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
2004年のそのご依頼では、全体図の他に、クライオモジュール、クライストロン、ディテクタなど数点の絵をそれぞれ専門の先生とメールでやり取りをしながら、ほぼひと月かけて描いた。
その時には「面白い仕事だったが、単発に終わるだろう」と思っていたわけだが、その後徐々に頻度を上げて直接のご依頼を戴くようになり、ILCだけでなく色々な種類の加速器と、その関連装置のイラストやCG動画を作る縁に恵まれた。今も数件の作業に追われているが、この幸運には本当に感謝している。
多く描かせて戴いた機会を通して、加速器全般についての知識も少しはついたが、言うまでもなく、研究者の方々が見ているものは我々凡人には想像も及ばない。
オマエに専門知識なんてハナから期待してねーよ、と言われそうだが、イラストレータを名乗る以上、描く対象について一定の知識がなければやはりダメだろう。とは言え、2004年の時点では名前を聞くのも初めてな装置を描いたわけで、この時点では相当「いいかげん」な絵だったと今見ると思う。
でも言い訳もある。後で知ったことだが、2004年は日本を含む幾つかの国がそれぞれの方式で同じような装置の構想を進めていたものを、ILCとして一本化した年だ。
ご依頼のパンフレットは、これを受けてのものだったのだ。まだ細かい設計が固まっていない部分多々で、設計の進展を追うように幾つものイラストを後に描くことになった。最初の絵と比較的最近の絵を比較してみよう。
・クライオモジュール(2004 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・クライオモジュール(2011 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・クライストロン(2004 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・クライストロン(2009 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・ディテクタ(2004 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
・ディテクタ(ILD)(2012 (c)Rey.Hori/KEK)
< >
ILCは粒子の加速に超伝導(極低温で電気抵抗がなくなる現象)を使う。クライオモジュールとは魔法瓶のようなもので、熱を伝えないよう真空にした内部に、液体ヘリウムで冷やした「空洞」という部品を内蔵していて、粒子(ILCの場合は電子と陽電子)がその空洞の中をほぼ光速で突っ走る。
クライストロンは粒子を加速する電磁場を作る装置。ディテクタは加速器の中心で衝突した粒子から生まれた別の粒子を検出する装置だ。乱暴に要約しているので、知らない人にはナニがナニヤラだと思うが、要はそういう非日常の技術の集積が加速器なのだ。
そして、知る人ぞ知る、なのであるが、この分野の技術では日本は世界の先頭の更に先を走っていると言っても過言ではない。特に大型の加速器を自前で作れる国は日本を含め一握り。現在世界最大の加速器であり、去年7月には新粒子の発見で一般ニュースもにぎわした大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider。略称、LHC。ジュネーブにある)も、超伝導線材など日本製の技術抜きには実現しなかったとさえ言われている。
こうした話を聞くと、思わず心の中の掲揚台に日の丸が上がってしまうのであるが、悲しいのはこういう誇らしく元気の出る事実があまり世間には広く知られていないことだ。
余談だが、ヘマをやらかすとアッと言う間に知れ渡る。先日のJ-PARCの加速器での放射性物質漏洩の事故が好例だ。これもとても悲しい。ただし筆者の理解では、加速器には原子炉のような意味での危険性はほぼないと思っている。それどころか、加速器応用分野の一つには、核廃棄物処理の夢の切り札まであったりするのだ。
話を戻して、こういった世界に誇るべき技術や研究はもっともっと世の人に知られて然るべきことだと思う。そのための絵なら描くゼ! というやや我田引水的勝手読み的ハタ迷惑的使命感(何せこちとら日々の生活の糧に直結しておるので)をもって、この非日常的技術分野の説明イラスト、完成予想図描きや動画編集にハヒっている毎日なのである。
【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp
予定していたよりかなり長文になったにもかかわらず、まるで舌足らずというか説明不足な内容になってしまいスミマセン。気が済むまで書いていては際限がないので、興味のある人は各自Wikipediaなどで調べて下さい(笑)。
文中に登場した次世代加速器ILCはいまだ未実現ながら、先日ようやく技術設計書が完成。実現に向けての新局面に入りつつあります。建造は世界に一台、日本に候補地は二箇所。外国にも候補地はありますが、世界は日本に期待を高めています。設計書完成を祝うイベントは世界三箇所の研究拠点をリレーして行われましたが、そのメインビジュアルは拙作(なんやい、自慢かい)。
・技術設計書完成記念イベント告知ページ
< http://newsline.linearcollider.org/2013/04/04/from-design-to-reality/
>
・技術設計書ダウンロードページ(pdf。誰でもタダで読めます。英文。ところどころに拙作イラストも載ってます。まずは一般向けの巻「From Design to Reality」からどうぞ)
< http://www.linearcollider.org/ILC/Publications/Technical-Design-Report
>
とまあ、知ったような事を書いてますが、概ね仕事を通じて得た知識の受け売り。いわゆるひとつの門前の小僧。万一看過できない間違いがありましたらお知らせ下さいませ>関係者の皆様。今回言い足りなかったことを書き足す機会を戴くかどうかは、編集長と鋭意検討させて戴くことにしますです、はい。
3DCGイラストを中心にご打診をお待ちしています。
サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori/
>