[4568] スクイーズを作るテマヒマの話◇東京大学駒場寮の事◇横田増生「ユニクロ潜入一年」

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《いかに手間暇をかけるかの話》

■装飾山イバラ道[223]
 スクイーズのテマヒマの話
 武田瑛夢

■Scenes Around Me[27]
 東京大学駒場寮の事(6)鳴神[2]
 関根正幸




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■装飾山イバラ道[223]
スクイーズのテマヒマの話

武田瑛夢
https://bn.dgcr.com/archives/20180522110200.html

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久しぶりにスクイーズについて書いてみました。

スクイーズは柔らかいスポンジでできていて、手で潰して遊ぶので、その触感が命。この記事は動画ではないので、触感をお伝えするのは難しいけれど、写真でわかる違いなら比較しやすいのでまとめてみよう。

スクイーズの触感に影響する要素は、大きく分けると材質、形状、塗装の三つがあると思う。スクイーズは水系やクレイ系などがあるが、今回は低反発スポンジタイプのスクイーズを見ていきたい。

スクイーズの触り心地は、私にとっても最も魅力を感じているところだ。特にカラー塗装の仕上げ部分は、スクイーズを触った時のしっとり感やペタペタ感、スポンジの空気の抜けに影響を与えるので触感の決め手にもなっている。

ここにいかに手間暇をかけるかの話。

●スクイーズの色付け方法いろいろ

まずは見た目の違いを見ていこう。写真の左は大好きなSilly Squishiesのブルーベリーマフィンのスクイーズで、最近届いたばかりのものだ。サイズは大きめのマフィンと同じくらいで手に乗るくらい。

・ブルーベリーマフィン(Silly Squishies Blueberry Muffin)、猫(Angie
Jolly Cats)
http://eimu.com/dgcol/muf1

Sillyのブルーベリーマフィンは、かなりデフォルメされたデザインだけれど、立体感といい焼き色の質感といい、相当良い出来だと思う。

右の三段積みの猫のスクイーズはBanggoodで購入。柔らかいことで有名だったので買っていたら、ついつい増えてしまった。

一体づつ見ると色づけは特に工夫なく、単色のスポンジに模様と顔の部分を貼っただけのような感じだ。猫に比べるとマフィンのカラーリングにどれだけの手間がかかっているか、わかりやすいと思って並べてみた。

まず、マフィンの生地には凸凹のテクスチャが入れられていて、下の溝が掘られたカップ部分との差がつけられている。

マフィンの美味しそうな焼き色は、エアブラシでふんわりと薄く入っている。ベースのベージュカラーもとても薄い皮膜の色だ。

ブルーベリー色のハート模様は、一つずつが立体的に盛り上げられており、それに合わせてブルーの濃い色がついて、プリっとツヤ良く見える。色だけで表現するか、原型作りから攻めるか、設計段階から考えられているのがわかる。

顔の目と口は転写シールのようなプリントだろうか。どの部分の色から塗って、どんな形状でマスキングするのかも、カラーリング工程では間違えられない。一色増やすだけで、作業はなにかと増えてしまうものなのだ。

上のような作業の積み重ねで、ブルーベリーマフィンは独特の色の深みを持った可愛さで完成している。

もちろんSillyなので香りも付いていて、美味しそうなブルーベリーにバターっぽさが加わったリアルなマフィンの香り。触り心地も、以前紹介したシナモンロールに近い、最高グレードの柔らかさだった。

猫のスクイーズ(Angie Jolly Cats)がダメだと言っているわけではない。ダメなら三つも買わない(笑)。

この猫はシンプルなのが可愛くて、シッポもない単純な形だからこそ、触り心地が最高なのだ。

特にピンク色は入荷するとすぐに売り切れてしまうので、慌てて買ってみたら、他の二匹よりも抜群にしっとりとして柔らかかった。なぜ皆、知っているのだろう。

猫のバリエーション製作では一番手間のかかる「型」は全部同じもので、あとは色を変えているだけだ。

そして、つみネコのような形状なので、ついついたくさん積み重ねたくなるよね。商売がとことん上手いのである。まんまと乗せられて、三つ買ってしまったので、よーくわかる。

価格はブルーベリーマフィンがUS$18.99で、猫がUS$8.89だ。手間に対して猫がちょっと高いような気もする。以下のサイトで購入することができる。

・Silly Squishies
https://www.sillysquishies.com/


・Banggood
https://www.banggood.com/ja/


●スクイーズデザイン

次の写真の左に置いたのは、本物のマフィンのような日本のCafe de Nのマフィンスクイーズだ。大きさは普通のマフィンぐらいで、下のカップも溝は彫られている。ふんわりした焼き色で、それぞれの部位で変化しているのでとてもリアルだ。

・Cafe de N マフィン(左)
http://eimu.com/dgcol/muf2

触り心地もみっしりと詰まった感じの低反発で、本物のマフィンに近い。パンよりも密度があるマフィン特有の触り心地を再現していて、つい手が伸びるスクイーズだ。

Cafe de Nの得意とする質感が、マフィンにぴったりだったのかもしれない。香りはない。

右のSillyのマフィンとの差がよくわかる。Sillyの商品は顔をつけることで、キャラクター化して受ける印象がまったく変わる。Sillyのマフィンはフワァっと柔らかいので、触り心地をマフィンに近づけてはいない。

マフィンの生地部分の色の皮膜が薄いので、押した時にスポンジから空気が出やすくなっていて柔らかいのだと思う。それぞれが目指す目的で完成度を上げているので、どちらも素晴らしい。

●品質チェック

重要だと思うのが品質チェックだ。検品して最終的にOKを出す基準は、メーカーによって違う。品質はブランドがはっきりしていないスクイーズでも良いものもあるし、そもそも製造を依頼している工場は、同じようなところではないかと思う。

私のところに届くものは検品を通ってきているはずだけれど、時には正規品とは思えないものも含まれている。正規品の範囲内でも、それぞれに違いがあるので見てみたい。

・BLOOM コアラ、CreamiiCsandy original Yummiibear
http://eimu.com/dgcol/koa1

写真の左は国内でも高品質で有名なBLOOMのコアラ、右は海外スクイーズで人気のCreamiiCandyのオリジナルヤミーベアだ。自立するタイプでサイズも似ているし、どちらも可愛い。

触り心地は二つとも低反発と言えるけれど、コアラの方が三倍くらい戻りが遅くて柔らかい。そして最も違うのが製品のバリの仕上げだ。

型に素材を流し込む製法の場合、バリがつくのは当たり前だ。仕上げではこれをいかに取るかが肝心。型からはハミ出た部分を削る「バリ取り」は、製品の質の要とも言われているようだ。

・BLOOM コアラ、creamiicandy original Yummiibear
http://eimu.com/dgcol/koa2

上の写真を見ると、二つの違いが大きいことがわかる。BLOOMのコアラの耳では気にならないバリが、ヤミーベアではそれこそバリバリに残っている。

BLOOMのコアラの耳は肉厚な丸みの形状良いし、プニプニしていてすごく柔らかい。

ヤミーベアの耳のバリは色が白いこともあって目立つし、触り心地にも影響している。手で全体を包み込む時に、イガイガが触る感じがするのだ。

気になるなら自分でカットすればいいけれど、仕上げの丁寧さはとても大切な部分だ。

バリを削らず手間を削る。製作の工数はできるだけ省いた方が、利益は得られるかもしれない。しかし、バリが多くて嬉しいのはたい焼きぐらいなので、私は製品の仕上げでは丁寧な仕事をしてほしいと思う。

とはいっても、スクイーズメーカーは可愛いものをスピーディに作り続けているので、優先順位の低いところは削るしかないのかもしれない。

実際にCreamiiCandyは、新作のペースが他と比べても驚くほど早いのだ。サーっと作ってドンドン売る。それはそれでアリな時代かな。

選んでもらう理由が何かによって、うちはコレを大切にして物作りしています、というのが伝わればよいのかもしれない。それぞれの良いところを自分で選べばいいのだ。私は手間暇かけたものが好きだなぁ。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


食べられる方の本物のマフィンも大好き! ここで書いたスクイーズの大きめマフィンぐらいのサイズがあるのは、北海道のアリス・ファームだ。

「北海道 アリス・ファーム マフィン」で画像検索すると、美味しそうでたまらなくなる。私も物産展でよく買う。特にブルーベリーチーズマフィンには大きなクリームチーズも入っていて最高。食べられるマフィンの方が、万人に喜ばれる情報なのかも。


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■Scenes Around Me[27]
東京大学駒場寮の事(6)
鳴神[2]

関根正幸
https://bn.dgcr.com/archives/20180522110100.html

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歌舞伎「鳴神」を下敷きにした中村しのぶさんの芝居は、以下のような設定だったと記憶しています。

『ジャングル(?)の奥地で政府転覆を企む鳴神上人は、法力の源が禁欲生活にあったことから、鳴神上人を誘惑して法力を奪うため、上人の元に政府から美女が送り込まれる』

「鳴神」には4名の役者が登場しました。

政府から送り込まれる異装の美女を中村しのぶさん、鳴神上人の護衛をする2名の従者を武盾一郎さんと、陽くん(舞踏家の鶴山欣也さんの関係者か)、そして、鳴神上人役の名前は聞かずじまいでしたが、歌舞伎の養成所でのしのぶさんの知人ではないかと思います。

私は、2日間(もしかすると3日間だったかもしれません)の公演のうち、初日と最終日に行きました。

ただし、私は芝居の稽古にまったく立ち会わなかったという気まずさもあり、初日は会場のオブスキュアギャラリーには入らず、廊下で役者たちが出入りするのを見守ることにしました。

しばらくすると、アラビアンナイトに出てきそうな異国風の装束に身を包んだしのぶさんが二階から降りてきました。

しのぶさんは、楽屋としてギャラリーの真上の部屋を借りていました。

余談になりますが、公演終了後、楽屋がそのまま蟻天嶽の部室になりました。そして、私が「蟻天嶽」を「蟻天国」と間違えていたのは、その部屋の扉に大きく「蟻天国」と書かれていたからでした。

しのぶさんは私が会場の扉の外に居るのを見て、「キョージュは中に入らないの?」と話しかけてきました。

私は、開演時間に間に合わなかったので、今日は外で見守ることにした、と答えました。

すると、しのぶさんは、化粧が上手く出来たか確認して欲しいと言い、手にした蝋燭を顔の前にかざして左右に動かしました。

その時のしのぶさんを、私は一生忘れることはないと思います。

武さんは、しのぶさんを広末涼子のような女の子だと勘違いしたそうですが、私は、最初から女形と紹介されたため、しのぶさんのスッピンを歌舞伎役者らしいスッとした顔立ちだと思っていました。

ところが、その顔立ちの化粧映えすること。

まさに「化ける」という表現がふさわしく、白塗りの顔が蝋燭の赤い炎に照らされているのは、月並みな表現ですが、この世の者とは思えない美しさでした。

その時のしのぶさんは、私を堕とそうとしていたのかも知れません。

それは、私の自惚れではなく、目の前の私一人堕とせないようでは鳴神上人を籠絡する役に説得力はない、としのぶさんは考えたのではないでしょうか。

少なくとも私自身はそう感じたので、「美しさも芸のうち」と客観的に考え、美しさに魅了されるのを思いとどまりました。

いずれにしても、そういう風に心を動かされなければ、第3回で紹介した写真は撮らなかったと思います。

https://c1.staticflickr.com/3/2937/33834451690_9bf0471d43_c



しのぶさんがギャラリーの中に入ってからしばらくして、従者役の武さんと陽くんが外に出て来ました。

次の出番までしばらく時間があったのですが、二人は楽屋に戻らず廊下で待機していました。

それは、楽屋に引っ込んでしまうことで、次の入りのタイミングを逃すおそれがあったからなのか、私がその場にいたせいで彼らを引き止めてしまったのかは思い出せません。

12月下旬の廊下の気温は寮の外とほとんど変わらず、薄着の二人はその場にうずくまってガタガタ震えていました。

写真は、ギャラリーに入る武さんと陽くん。

https://farm1.staticflickr.com/910/40993931354_a7d0a2f62e_c



今回の写真は、つい最近撮影した、高円寺の銭湯の煙突に吊るされた鯉のぼりです。(2018年4月29日)

https://farm1.staticflickr.com/870/41857485402_817a4a3719_c

この日は、高円寺で大道芸フェスティバルがあり、駅前で行われた最後のセッションまで見物しました。

その後、新井薬師のギャラリーで知人が展示をやっていたことを思い出し、早稲田通りに出ようと高円寺をウロウロしているうちに、なみの湯という銭湯の前に出ました。

なみの湯は普段からライトアップしているのですが、この時はこどもの日が近かったこともあり、煙突から鯉のぼりを吊るしていました。

その時風が強く、鯉のぼりはたなびいていました。

日が落ちて、足元は暗くなり始めていましたこともあり、鯉のぼりがブレないようにシャッタースピードを上げるため、カメラのISOを高く、露出をアンダー気味に写真を撮り、後で露出を補正しました。

ちなみに新井薬師の展示は終了していました。


【せきね・まさゆき】
sekinema@hotmail.com
http://www.geocities.jp/sekinemajp/photos


1965年生まれ。非常勤で数学を教えるかたわら、中山道、庚申塔の様な自転車で移動中に気になったものや、ライブ、美術展、パフォーマンスなどの写真を雑多に撮影しています。記録魔


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編集後記(05/22)

●横田増生「ユニクロ潜入一年」を読んだ(2017/文藝春秋)。「ユニクロ帝国の光と影」(文春文庫)に続く二冊目。2015年4月のファーストリテイリングの中間決算会見の当日、筆者は同社の広報部長から、会見への参加は見合わせてほしいという電話がかかってきた。当日発売「週刊文春」の筆者記事「ユニクロ請負工場 カンボジアでも "ブラック" 告発」に対する反応であろう。

ユニクロにとってまずいことを書く人物の口を封じるには、会見や取材から締め出すということだ。横田は激怒した。それならばこちらも考えがある。ユニクロの店舗にアルバイトとして潜入するのだ。横田の「天を衝く勢いである瞋恚(怒り)の炎」を原動力に、内部から剔抉(抉り出す)し、「暴君」の気持ちを翻すほどの調査報告を書いてみせよう。ユニクロは恐ろしい人を、本当の敵に回してしまった。

「プレジデント」2015年3月2日号に弘兼憲史による柳井社長インタビュー記事があり、そこでは「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」とあった。「この言葉は、私への招待状なのか」と感じた横田であった。

横田はアマゾンやヤマト運輸、佐川急便などに潜入取材した経験を持つ。しかし、今回は自分を訴えた企業への潜入である。いくら末端の店舗で働くとはいえ、横田増生の本名でアルバイトの面接に及べばバレる危険性が高い。そこで一か月ほどかけ役所に通い、法的に名前を変え、住民票をとり、健康保険や免許証の名前を変えた。その名前で銀行口座を開き、クレジットカードも作った。

もうひとつのハードルが年齢である。大学生や主婦が主力のユニクロのバイトの中に50代で潜り込めるのか。想定問答集を作り、若作りに伊達メガネで面接に臨む。結果、即日採用・翌日勤務が決定した。しかし、恐るべき労働環境であった。めちゃくちゃ不定期、不安定なシフトを組まれる。取り替え可能な部品扱いだ。日曜日の朝7時に、出勤可能な人はいないかと店長からLINEが来る。

「店長やシフト担当者は、人件費を削るだけ削ってシフトを組み、人手が足りなくなると出勤要請をかけ、人手を集める。自分たちのマネジメント能力のなさを、LINEを使ってスタッフに押しつけている。繰り返される出勤要請は、スタッフの負担を軽減しようという思いやりはほとんど見えなかった」

店内では「機密情報」「守秘義務」という言葉が飛び交い、どんな些細なことでも店外では口外禁止である。社員や元社員は守秘義務契約に縛りつけられ萎縮している。アルバイトでさえユニクロに入る時は、かなり威嚇的な「誓約書」を書かされる。ここで描かれるのは、増田自身が体験したユニクロの労働現場の疲弊と、取材で耳にした社員、アルバイトたちの悲痛な叫び声である。

もし柳井社長が本気でユニクロをいい会社にしたいなら、社長という身分を隠し、ユニクロの現場でアルバイトとして働いてみたらどうだろうと増田は提案する。現場には、業務を改善するヒントが、山のようにうずたかく積まれたまま放置されているからだ。SLAP裁判など考えず、ブラックバイトの実態を見よ。横田は最初の店舗でコマネズミのように働き回り、体重を10kg減らした。(柴田)

横田増生「ユニクロ潜入一年」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163907246/dgcrcom-22/



●昨日の続き。初めてのセルフレジで失敗したことがある。ひとつひとつバーコードを読み込ませるタイプ。CDをレンタルしようとしてレジを通していたら、万越えになって驚いた。

中古販売を兼ねているものが紛れ込んでいて、バーコードがふたつついていた。中古用バーコードを読み込ませていたようだ。

改めて、今度はレンタル用バーコードのみをかざすようにしたが、1枚だけ中古価格になってしまった。諦めて有人レジに持っていったら、同じバーコードを読んでいるのにレンタル価格になった。

有人無人で引っ張ってくるデータベースが違うわけがなく、どうミスったのかいまだにわからない。郵便返却用バッグは無人レジだと無料。そのつもりでレジしていたのに、有人レジに行ったため有料になってしまい、損した気分に。

家人は失敗体験のせいで、もうセルフレジには近づきたくないと言い出したが、今度こそ成功させたい私がいる〜。 (hammer.mule)