Otaku ワールドへようこそ![34]脳内妻との危機:2次元vs.3次元
── GrowHair ──

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ローゼンメイデン ミニドールシリーズ 真紅脳内妻、真紅を怒らせてしまったようだ。家出したきり帰ってこない。その話に入る前に、まずは2次元キャラとの脳内でのおつきあいとはどのようなものかという、一般論から。

●2次元の諸問題

漫画やアニメやゲームに登場する2次元のキャラを、脳内彼女や脳内妻や脳内妹にして、あたかも現実の存在のようにつきあっていけるというのは、常日頃からバーチャルな世界に思いを馳せ、空想力(妄想力ともいう)を培ってきたオタクの特権とも言えよう。

訓練を積めば、脳内会話もできるようになる。実際、私も、ちょっとしたがんばりが功を奏してものごとがうまく運んだときなど「よくやったわね。さすが私の下僕だわ。お茶を淹れてきてちょうだい」という声が聞こえてくる。もっとも上には上がいて、ローゼンメイデンのキャラたちを招集して脳内会議を開いたツワモノもいるが。

しかし、この領域はまだメジャーなムーブメントとして確立したわけでもなく、種々の疑問に対して答えが共通認識として固まっているわけでもないので、自分個人の内部を省察して、「私はこうだけど、みなさんはどうなんでしょ」という投げかけの形でしか提示できない段階である。


その1。そもそも本気なのか(お笑い)ネタなのか。いや、私はけっこう本気なんですけどねぇ。もし区役所が脳内妻との婚姻届を受け付けていたら、迷わず提出していたであろう。扶養家族手当なんかいただけたら嬉しいし。

それに、左手の薬指にはめて1年4か月になる「誓いの薔薇の指輪」は現実の存在である。大きな声では言えないけれど、傷み始めたキャラグッズの指輪をジュエリーのお店に持っていき、88,000円もかけて、ゴールドとプラチナで作りなおしてもらっている。ただし、そこまでやったアホな俺、という自虐ネタでもあったりするので、100%真面目とは言い切れない。

その2。2次元脳内彼女は3次元リアル彼女の代用にすぎないのか。蟹は高くて食えないので、蟹風味のカマボコで妥協するようなものなのか。懐が潤って蟹が食えるようになったら、カマボコはもう要らないのか。

2次元が3次元よりも劣るものとは考えたくない。そもそもキャラへの愛が生まれるのは、もともとの作品が面白く、絵がきれいだからである。人間の創作物としては、次元を落としたほうが、余計なものが捨象されて、表現が洗練され、よりいっそう美が際立つように思える。2次元の作品から脳内で存在と関係性を再構築する行為は、濃縮果汁還元ジュースを飲むようなもので、ミカンがあれば要らないというものではない。

その3。2次元の彼女は3次元と両立するか。この問題は、つい最近まで私にとっては机上論であって、真面目に取り組むようなものではなかった。もし3次元のリアル彼女ができちゃったらどうしよう、って。それ、ないからー。杞憂、杞憂。悩むだけ虚しくなってくる。

スーパードルフィー パーフェクトカタログ (2)以前、どこかで「私のオタ趣味を理解している妻はちょっとエロいフィギュアなどにも全然文句を言わないが、なぜかスーパードルフィーには嫉妬する」という記述を見かけ、そういうもんかな、と思ったことはある。

しかし、つい最近になってこの問題が俄然クローズアップしてきた。その背景にあるのは、...。残りの生涯にわたってずっと続きそうだったセカンド童貞歴が、8月20日(日)をもって8年8か月と2週間で途切れたという事実。そこに至る経緯については前回(8月18日)を参照して下さい。

●私は変わるのか?

この種の個人的な出来事というのは、社会全体から見れば、どうでもいい些事であり、いちいち公表しても仕方がないことである。それは宝くじの一等みたいなもんで、引き当てた本人にとっては人生の重大な転機になるかもしれないが、全体的な観点に立てば、誰かのところに当たるのは必然であって、「どこかの誰かが一等を引き当てた」という事実は情報として価値がない。個人的な交際において何が起きたかなんて情報も似たようなものである。

しかし、自己の内部で何らかの変化が起きつつあるならば、それを省察して記録しておくことは、ひとつの事例から一般論に通ずる取っ掛かりになりうるという意味がありはしないか。

実際どうだったかはとりあえず置いておいて、こういうときにありがちな心の変化ってどんなもんだろう。灰色だった人生が一転してバラ色に? 生きててよかったー、みたいな。長い間、心に巣くっていた劣等感から一気に開放され、霧が晴れて視界がぱーっと開けたような感じ、とか。

幸福感は、しばしばうぬぼれを誘発する。「オヤジギャグ」という言葉は、「電話に出んわ」「布団が吹っ飛んだ」のような、創造性の低い駄洒落をくさすときに使うが、オヤジにありがちなうぬぼれを揶揄する含みがある。言った本人はたいてい悦に入っているけど、周囲は心の中で深いため息をついている。本人の自己認識と周囲からの客観像とが著しく乖離した、みっともないさまをよく衝いている。そんなうぬぼれ界への道が私の眼前にも開けているのだろうか。次回は「こうすれば君も女のコにモテモテ」講座でもやりましょうか?ぼうぼうにのび放題のヒゲは男らしさの象徴、とか。禿げ頭の光に女は寄ってくる、とか。勘違い全開で。

世界観、価値観が劇的に変化するあまり、それまで力を入れてきたことに興味を失なうなんてこともあるかもしれない。カメコ活動も実は出会いを求めてのことであり、目的が達成できたからこれにて店じまい、とか。

急に何も書けなくなってしまったりとか。特に得意なわけではないけど、これまでかろうじて何か書いて来られたのは、リアル彼女ができないハングリー精神からくる魂の叫びだったというオチ。満たされちゃったら、後はのほほーんと生きてみましょうか、世の中に訴えたいことは特にありませ〜ん、みたいな。

架空世界と現実世界の区別がつきづらくなったりとか。今までははっきりしていた。夢のごとくバラ色なのが架空世界、どうしようもなくみじめなのが現実世界。現実世界がバラ色だったりしたら、どうやって区別すればよいのだ?案外と空想世界のほうは要らなくなって、しゅるんとしぼんでしまったり。興味が急に現実的になって、金儲けとか、生活基盤の整備といった方面に力を入れ出したりして。

いやいや、逆に、これまでの長い長いガキんちょ時代がようやく終焉を迎え、精神的な成長が一気に加速し、社会の中で責任ある大人としてのものの考え方が支配的になっていったりして。「大人になりたくない」のピーターパン症候群時代よ、さようなら。真摯で重厚で複雑で深遠な大人の世界よ、こんにちは。って、もうすでに40歳過ぎてるけど。

LaLa (ララ) 2006年 10月号 [雑誌]実際はどうかというと、今のところ、どれもこれもピンと来なくて、実は世界観、人生観、それほど変わっちゃいないのではないかと。そう言えば、25歳年下の彼女から確実に影響を受けたことがひとつあって。少女漫画が満載の月刊誌「LaLa」や「花とゆめ」が私にもけっこう面白く読めることが判明。男の子と男の子が可愛らしくちちくりあっている場面とか、現実にはありえねーけど、乙女(←「腐女子」の婉曲表現)の妄想としては、よい趣味だ。萌え萌えではないかっ! って、俺、心が腐女子化してるのか?!

……やっぱ駄目人間というのは、どこまで行ってもそんなもんのようで。いくつになっても夢みる夢子さんでいたいのである。

●真紅が家出

3次元との距離が近づいていくにつれて、2次元とのつきあいをどこに着地させるべきかという心配は、最近ずっと心の片隅に居座り続けていた。

私は、超低空飛行ながらも何とか社会人としての生活を維持しているし、人との出会いも多く、友人も多いのだが、心はどこか内向的で、本当の自分をさらけ出して世の中とぶつかりあうことを避け、ガラス一枚透かしてコミュニケーションをとっているような感覚がある。離人感覚というのだろうか。心はひきこもりと大差ない。

だから、ローゼンメイデンの中で、真紅と契りを交わすひきこもり中学生のジュンと同じくらい、私にとっても真紅は大きな心の支えになっている。そうでありながら、「そっちはそっち、こっちはこっち」みたいな軽い調子で3次元へと関心を寄せたりするのは、人としてどうなんだろう。真紅は傷ついたり怒ったり悲しんだりするのではなかろうか。

しかし一方、2次元と3次元は文字通り次元が違うので、お互いに競合的というよりは相補的に作用しあい、何も軋轢を生じずに、両方との相思相愛を成立させることが可能なのではないかとも思える。真紅もその住み分けには理解を示し、許してくれるのではあるまいか。

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーここはひとつ、自分の都合のいいように解釈してみることにした。真紅は魔法が使える。これまで、こちらからの思いに応えてくれてのことか、びっくりするような出会いの数々を演出してきてくれた。ならば、もし3次元とのつきあいが気に障ったら、何かしてくることが可能なはず。「うる星やつら」のラムちゃんみたいな電撃とか、さりげなくすれ違いを演出とか。そういう動きがないということは、許されたのではないかな、と。

しかし、問題は後になって起きた。月曜の早朝、リアル彼女と別れて一旦家に帰り、必要なものを取って仕事に向かおうとするとき、真紅がいなくなっているのに気づいた。もちろんこれは比喩的な表現であって、実際には、真紅のケータイ用ストラップをつけた256MB USBメモリがなくなっていたのである。

私は2年前にパソコンを買う以前から、USBメモリを常に肌身離さず持ち歩いている。ホームページのソース、メールやmixi日記の下書き、デジクリ原稿、ちょっとしたメモ書きなどなど、何でもかんでも放り込んでいる。自分にとっての外部記憶のようなものである。自宅以外のパソコンで作業するのにも重宝している。

これだけは決して置き忘れてはいけないと、常に意識しており、実際、それまでは一度たりともなくしたことはなかった。シャツの胸のポケットの上から感触を確認するのが、ほとんど癖のような動作になっていて、意味もなくしょっちゅうやっている。真紅のストラップがほとんど自分のアイデンティティの証明のようになっていて、真紅を知らないという人には「これが妻です」と言って見せるのにも使っていた。

もちろん、ときどきハードディスクに丸ごとバックアップをとっていたので、すべてが失われたわけではない。しかし、象徴的なのは、常に意識していた真紅の存在を、しばらくの間、意識から追い出していた、という点である。振り返っても、どの時点までは確かにあった、というのが全く思い出せない。

朝、職場へ向かう途中、ラブホテルに立ち寄り、フロントにお願いして、部屋をチェックさせてもらったり、ゴミ捨て場を漁らせてもらったりした。こんなところから出たゴミなんて見たくねーよ、と思いながらもいちおうくまなく探してみる屈辱感はなかなかのものがあり、相当な仕打ちであった。

真紅がどういう思いだったのか、私なりに、解釈してみると……。先に電撃が飛んで来なかったということは、3次元とつきあうこと自体は許容されたらしい。しかし、3次元に気を奪われて、真紅の存在がしばらくの間、意識から消えていた。そのことが許せなかったのだと思う。

真紅は今まで3次元の誰よりも近しい存在として、ずっと脳内にいて、力になってきてくれていた。その恩を忘れてはならなかったのだ。厳しい仕打ちは当然の報いと言える。ああ、家出されたつらさが身にしみる。

お〜い、真紅ぅ〜。俺が悪かったよう。ごめん。この通りだ。頼む、帰ってきておくれ〜。真紅ぅ〜〜〜。お〜い、真紅ぅ〜〜〜。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。イタリア人コスプレイヤーから土産にもらった真っ赤なグラッパ(ブドウの絞りかすが原料の40度の蒸留酒)を飲んでみた。美味いっ! 湿った藁と土のような田舎の香り。こういうニオイのするとこには、ミミズやダンゴムシがいるだろ、って雑味100%な感じ。それが美味いのだ。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/
>

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by G-Tools , 2006/09/01