[2082] 森美術館「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」を観て

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<現代美術は18禁にすべし!>

■武&山根の展覧会レビュー
 森美術館「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」を観て
 わかりやすーい「わかりにくい現代美術」そのもの
 武 盾一郎&山根康弘

■グラフィック薄氷大魔王[75]
 Photoshopの表示とナビゲータ
 吉井 宏


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■武&山根の展覧会レビュー
森美術館「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」を観て
わかりやすーい「わかりにくい現代美術」そのもの

武 盾一郎&山根康弘
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武: こんにちは。
山: はいどうも!いやー、今シーズンも終わってしまいました。。来年はどー考えても行けるやろ! っていやいや失礼。昨日はお疲れさんでした。
武: 巨人はダメだの。。。気を取り直して、久し振りに行きましたよ。しょんべん横丁。
山: 僕もやね。
武: ちょっと飲み過ぎたな。
山: 飲んでたな〜。店員呆れとったがな。武さん怒るから(笑
武: つま残ってるのに皿をさげようとするからだっ! 俺はつまが好きなの。
山: ほとんど食べもん頼まへんかったからなー。しかしあっこまで飲まんでもよかったか…。
武: ホントだよなー…。
山: その後さらに飲んだしなあ…こいつらいつまで飲むねん! 朝やがな! わはは!
武: 酔い越しの 金なくなって 都市の朝 詠み人知らず(注:都市は「まち」と読む)
山: そのミョーな歌、ひょっとしてネタとして定着させようとしてんの?
武: 密かに。。。ダメ?
山: あかん。
武: つかみはオッケー(笑
山: どこがおっけーやねん!
武: わはは。さて、

●森美術館「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」を観て

山: 今回は六本木ヒルズですよ。
武: ヒルズ族ですよ、奥さん!
山: 森美術館ですよ。行ってきました。ビル・ヴィオラ展。
< http://www.mori.art.museum/contents/billviola/index.html
>
武: 今回はビデオ・アートですよ! 奥さん!
山: まだ奥さんかい!
武: 俺達は主婦層担当ですから。
山: いつからそうなったんや!
武: さだめじゃ。
山: 誰が決めてん!
武: さあ、いよいよ現代美術のレビューですねー。
山: 流すんか! …まあええわ。ビデオアートなんてな。びっくりですわ。
武: ビデオアートってきちんと見るの俺、実ははじめてなんだよね。
山: 僕もあんまちゃんと見た記憶ないなあ。あ、見た見た。見たがな。エイヤ=リーサ・アハティラ! もう三年前やけど、初台でやってた。これは面白かったで。
< http://www.operacity.jp/topics/030225.html
>
武: おー、ビデオアートなんだ。ビル・ヴィオラという人はニューヨーク生まれのアメリカ人。ナム・ジュン・パイクのアシスタントもしていたようですな。
< http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2006/Billviola/index_j.html
>
山: 結論から言います。良かった!
武: 面白かったですねー!
山: 何がすごいってプラズマテレビ。やっぱきれいやね。
武: そこかい! ビデオアートってなんだかとっつきにくい感じを持ってたけど、見るほどに面白くなって行ったって感じでした。

●ビル・ヴィオラの展示─「装置(インスタレーション)」

山: 最初はね、入ったとたんにでかい画面の向こうから男がゆっくりゆっくり歩いてくるもんやから、このスローモーションはちょっと無理や…。とおもた。我慢してられへん、と。
武: そうそう。あー、これ観んのかよー、苦痛だなー。って
山: それがなぜか進んでいくと、どんどん引っ張られていったな。
武: そうだねー。
山: スローモーションに慣れたと言うか、意味わかったと言うか。
武: 絵だと一瞬観てすぐ移動する事も、何十分もじーっと見つめる事も、それは見る人の自由じゃないですか。
山: そうやね。
武: ビデオアートの場合、「全部見ないと意味分んないのかなー」とか、「えー、これ我慢して見続けなきゃならないのー」とか、そういうのが凄く嫌いで。
山: そうやな。映画とはちょっとちゃうからな。
武: 最初「うわー、これキツいなあー」って思ったのはスローモーションってのもあるんだけど、キャプションに時間が記されてなかったからってのがあったなあ。一体これ何時間の作品なんだよ〜。
山: ああ、確かに。永遠続きます、ってことなんやろか。
武: まさか、ウォーホールじゃないけど7〜8時間とかじゃないだろーなーって。
山: 日が暮れるわ(笑)ほんで、内容的にはシリアスやったな。
武: そうだねー。最初の作品が《クロッシング》(1996)。1枚の巨大パネル両面に映像を流してる。
山: そうやった。
武: で、《ベール》(1995)は9枚の紗幕に両側から投影した作品。
山: きれいやったけど、あれはいまいちよくわからんかった。
武: 《ストッピング・マインド》(1991)は4面に写し出し、《天と地》(19 92)では上下に向かい合わせたブランウン管のモニタ。この一連の作品は映像を写し出す「装置そのもの」が作品なんだよなあ。
山: 《ストッピング・マインド》ってどんなんやったっけ?
武: 4つの面に囲まれるようにして映像を映してる。真ん中で作品を見ると、、
山: あ、わかった! 上から声が聞こえてくるやつやろ。
武: そうそう。
山: うん。装置感はばりばりあった。
武: 紗幕の作品なんかキレーだなーって思ったよ。
山: わかりやすーい「わかりにくい現代美術」そのものやった。
武: 写し出される映像そのものが重要な感じがしない。
山: なんでもええっちゃなんでもええやん、とか思てしまうよな。
武: うん。ハード(外枠)そのものが作品だったんだよなあ。映像はポルノだっていいよなー、みたいな。
山: まあ作品ってそういうとこあるけどな(笑

●ビル・ヴィオラの展示─「古典絵画」

武: で、《グリーティング/あいさつ》(1995)
山: こっから変わってきた。
武: そうそう。「映像そのもの」の作品になるんだよね。
山: こっからじっくり見た感じやな。
武: この作品の前で「ちょっとダルいけど我慢してみてみるか」ってしっかり観て、ビル・ヴィオラの面白さがわかったのよ。
山: そうやねー。まさにあいさつしてたな。スローモーションが効果としてよくわかった。服が風になびいてるとこなんかもきれいやったし。
武: 3人の女性が挨拶してるスローモーションなんだけど、古典絵画のような陰影と色、そして、古典絵画にありそうな人体ポーズ、顔の表情、背景。
山: 後ろの方におっさん(?)がふたり立ってたけど、あれが気になった(笑
武: うん、俺も(笑)で、観ながらどういうわけかコロッケの森進一ものまねのスローモーションネタを思い出してしまった。
山: わはは!
武: コロッケは現代美術なんですよ。形態模写は森村泰昌だし(笑
山: ほう。コロッケが現代美術か。
武: そっくりなんだけど、なんだか奇妙。
 コロッケ< http://homepage3.nifty.com/mr-croket/zassi.htm
>
 森村泰昌< http://www.morimura-ya.com/
>
山: ちゅーかコロッケってすごいな。。現代美術とちゃう方がええよ(笑)うーん、なんかわけわからんようになってきたぞ(笑
武: コロッケは芸術的だけど芸術ではないのは、やっぱり「笑い」という合目的な作品だからなんだろうなあ。
山: 芸術でも笑いでもええもんはええけど。

●現代美術は18禁にすべし!

山: で、次どんなんやったっけ? 肖像画みたいなやつやったっけ。
武: 《ドロローサ》(2000)は連結された2面の液晶モニタで泣く男女の作品。《静かな山》(2001)は大きめの2面のプラズマモニタで男女が動いてる作品。《マニア》(2000)は女男女と並んでる3面の液晶モニタ作品。
山: 《アニマ》やね(笑)。これってほんま肖像画やった。あのサイズで枠がしっかりあると、ほんまに絵みたいやね。
武: 《アニマ》だっけ(汗)ホントに微妙に動くんで驚いた。「動く肖像画」だよね。
山: あんなん家に飾ってたらおもろいな。ちゅうか気持ち悪いか(笑
武: うん。キモチワルイ。「プライスコレクション若冲と江戸絵画展」のレビューで、光が変るから絵が変る。って書いたじゃないですか。
< https://bn.dgcr.com/archives/20060823140200.html
>
山: 書いた書いた。
武: 環境によって絵は様々な動きを観せる。と。
山: そうやね。
武: その「変化」ってのを、自然(環境)にゆだねちゃうのが江戸日本流だとすると、「変化そのもの」まで人間で作ってしまうのってのが、現代アメリカ流ってことになんのかなあって思ったりしたんよ。
山: なるほど。まあ変化を作っているというか、変化を見せているというか。映像は動くもんやけど、それを本来は止まってる絵画のように、映像の利点を生かしつつ見せてるわけやな。
武: 絵画の人物ってのは動きを感じさせる形態を描き出していて、その前後の動き、「時間」は見る側の脳の中で行われるじゃないですか。
山: ふむ。
武: その脳の中で動かしている「想像力」というというのが目の前に現れてしまった、という感じで脊髄あたりがモゾモゾするんだよなあ。
山: ほう。でも実際に脳の中でイメージする時、あんなスローモーションになることなんてないからなあ。あれはあれで、何か別のモンになってる気もする。
武: なるほどー。
山: 例えば……事故に遭った人が、自分が吹っ飛ばされてる時にスローモーションで映像でも見ているようだった、なんて話しはよく聞けへん?
武: ふむふむ
山: なんかそっちに近いんちゃうかな。その時の感覚。
武: それが現実に立ち現れた感じ。
山: 止まっているものから感じる予感、想像、とは別種とちゃうかな。
武: ふむー。で、《驚く者の五重奏》(2000)は肖像画的アプローチの集大成的作品だなあ、と。
山: そうやね。群像やね。あれ見てた時、親子連れが僕の前で見ててね、もう子供はつまんなそうで。チケットパタパタさせて遊んでたわ。
武: わはは。この一連の作品ってのはさ、古典絵画ってのがあってさ、そこには典型的な陰影や構図があって、
山: ふむ
武: それが、ヨーロッパのモノであったわけで、アメリカという映像文化にアイデンティティーを掲げてる国の作家が、絵画には出来ない事を映像作品でやらかした、というアメリカ人の無意識的ヨーロッパコンプレックス(歴史伝統コンプレックス)とか、そういうったものを勘ぐりながら観るから面白い訳であって、そこはガキには分からんのよ。現代美術は18禁にすべし!(笑
山: 他もあるかもしれんけど、一つの見方としてそれはあるよな。たしかに子供にはわけわからんやろな。
武: 18禁にすれば、ガキどもは逆に観たがるワケで、「あー、アタシも早くオトナになって現代美術をやってみたい!」と思うじゃん。アート界の活性化にも繋がる。
山: なるほどな。でも、実際に見て「つまらん…」って思うかもやで。
武: わはは!
山: たぶん子どもでも、微妙に感じてるとは思うねんけどな。これこわいなーとか、なんかむずかしいこと言ってんねんなー、とか。
武: 現代美術は見る側にとある知性を強要してしまうワケですよ、「鑑賞法」っていうのかな。だから石原都知事はカルティエ現代美術財団コレクション展 < http://mot-art-museum.jp/special/cartier/
> のオープニングで「現代美術なんてくだらん!」って言っちゃったりするんです。
山: わはは! 逆ギレやな。

●シリアスと笑い

武: ただ、ビル・ヴィオラの作品は生理的に訴えるものはあったよね。そこが面白かったなあ。きっとそれは老若男女感じ取るんじゃないでしょうか。
山: 最初にも言うたけど、シリアスな印象は持ったな。でも、どっか笑える。
武: 「ププ」って感じでね。《オブザーバンス/見つめる》(2002)は、いろんな人がこっちを見つめて泣いている。
山: 泣いてたっけ?
武: うん。悲しそうな顔をしてそして代わる代わるに前面に人々が来て、涙をこぼして行く。見つめられた自分(鑑賞者)はまるで死者のように感じる。9.11を連想させるんだよなあ。。。
山: ほう。しかしあれはなんかちょっと、やったなあ。
武: けど、大事な葬式やなんかのシリアスな場所で、木魚の音が妙におかしくなってしまうような感覚も抱く。
山: あの作品から?
武: うん。で、次の大作品、《ラフト/漂流》(2004)はだんぜんおかしかった。
山: いやー、あれはもう笑えた(笑)。やっぱりね、突発的なんよ。ありえない! みたいな。
武: 水責め(笑)「オレたちひょうきん族」ラストの「ひょうきん懺悔室」だよなあ(笑
< http://ja.wikipedia.org/wiki/オレたちひょうきん族
>
山: あれよりおもろい(笑)。だってな、みんなすまして立ってるとこに突然大量の水やで! ほんでみんな慌てふためいてる。泣きそう(笑
武: 群衆の突然の災難。これもやっぱ 9.11 が元にあるよなあって思った。で、きっと作家はかなり大真面目だと思うんよ。
山: そりゃそうやろなあ。笑わそうとは当然思ってないやろな。
武: それとも笑いをねらってたのかなあ。
山: ねらうか!いや、狙ってはいないにしてもそれもわかってやってたりすんのか? まさか…!
武: 日本人からみると笑えてしまうって事はないだろうか?
山: ふむ。それはひょっとしたらあるかも。
武: アメリカ人が観たら、この作品から9.11を想起するじゃないですか。笑えない作品かも知れないし。
山: たぶんなあ。どうなんやろ。
武: ただね、撮影現場が楽しそうだなあって思ったりもした。だって、両脇のスタッフ達が大量の水を噴射しようとスタンバッてるわけでしょ。その中で何もしらない人々を演じてる訳だ。シリアスに。
山: あのあとみんなでビールでも飲むねんで。シャワー浴びた後に。
武: 水の噴射で思いっきり飛ばされてる人が居たしね。それがスローモーション(笑
山: 吹っ飛ばされてたなー(笑)もしあの映像がスローモーションとちゃうかったら笑わんでみるかも。声とかも普通に聞こえて。その方が突発的な悲劇を感じやすかったかもな。
武: そうかも! 昔、サッポロビール黒ラベルのCMで山崎努と豊川悦司が大真面目に温泉で卓球してるってのがあったじゃないですか。
山: ほうほう。何となく覚えてる。
武: それがスローモーションだからもの凄く可笑しかったんですよ。
<
>
山: ほー。スローやったか。おお、うちのMacで見ると更にスロー(笑)吹っ飛んでるなー!(笑
武: オカシイでしょ。
山: おもろい(笑
武: これと通ずるものがあるかもって思った。
山: 人が吹っ飛ぶってやっぱりおもろいよ。ギャグやん。
武: 「本気」って所もポイントだよね。本気あるいはシリアス。
山: わはは!そやね。で、それが最後の作品にもあったな。
武: 《ミレニアムの5天使》(2001)ですか
山: あの作品は巨大な画面が5面あって別々の映像が流れてたけど、それぞれ違う角度から撮ってたんかな?
武: そんな感じだったよね。
山: 作品の成り立ちとしてはお父さんが亡くなって非常にショックを受けてそこから立ち戻ってくる、みたいなこと書いてたな。
武: ふむ。
山: 人が飛び込むシーンを逆回しにすることによって、立ち戻ってくる=再生ということを現していた、ということが書かれてた。
武: そこは読んでない(泣
山: そんなこと書いてたで。つまり作品としては、作家のプライベートな、でも誰もが直面するような非常にシリアスな内容を扱ってたわけや。
武: ふむふむ
山: 映像もとても綺麗。抽象絵画のような美しさがあった。
武: 美しかったねー。うんうん。
山: 例えればゲルハルト・リヒターみたいな。
< http://ja.wikipedia.org/wiki/ゲルハルト・リヒター
>
  しかし! そこでやっぱり笑えた訳ですよ(笑)。だって、また人吹っ飛んでる! ちゅど〜〜〜〜ん…て飛んで来た! 再生って言うか吹っ飛んできたがな!
武: えらいこっちゃだよね。
山: えらいこっちゃどころの騒ぎやないで!
武: そうとう高い所から水に飛び込んでるぞ。
山: それが逆回しで飛び上がってくるし! ガキの使いのネタかと思った(笑
武: あー、そーゆーとこあるねー! 飛んでく人はやっぱ、イタオウだね
山: もしも飛び込んでる人間が芸人やったら、やっぱおもろいやろ(笑
武: で、そのあと一言、ボケたら、ホントにお笑いネタだよな。
山: わはは! まさにそう。やっぱありえないこと、突発的な出来事、っていうのはおもろいからね。だからね、非常にシリアスな内容ではあった訳やけど、意外と「死」を感じなかった。僕は。どっちかと言うと、人と人との関係性を大事にしてる作家とちゃうんかなーっておもた訳ですよ。
武: そうすね。人間がほとんどモチーフだしね。
山: そうなんよ。で、いろいろ言わせて頂きましたが、総じていい展示でした。いや、ほんまに。
武: 面白かったですねー。
山: こういう作品は残るような気がするな。何年後かにまた見たい。
武: 新作を観たいよね。
山: そうやな。ほんなら武さん、締めを!
武: 年代的には《ラフト/漂流》が一番新しいから、お笑い路線に行くのかもねー。
山: 行くわけないやろ!

【ビル・ヴィオラ:はつゆめ】
< http://www.mori.art.museum/contents/billviola/index.html
>
日時:2006年10月14日(土)〜2007年1月8日(月・祝)
月・水〜日10:00〜22:00 火10:00〜17:00(最終入館時間は閉館の30分前まで)
入館料:一般1,500円、学生(高校・大学生)1,000円、子供(4歳以上〜中学生)500円 本展チケットで展望台 東京シティビューにも入館できる
場所:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階)
TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)

【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/グラフィックデザイナー兼画家】
・新宿西口地下道段ボールハウス絵画集 < http://cardboard-house-painting.jp/
>
・夢のまほろばユマノ国 < http://uma-kingdom.com/
>
take.junichiro@gmail.com
※前号( https://bn.dgcr.com/archives/20061011140200.html
)に
ついて大熊ワタル さんより補足がありました。ちんどんのルーツは江戸末期、現在のスタイルになったのが大正〜昭和だそうです。

【山根康弘(やまね やすひろ)/阪神タイガース信者兼画家】
・交換素描 < http://swamp-publication.com/drawing/
>
・SWAMP-PUBLICATION < http://swamp-publication.com/
>
yamane.yasuhiro@gmail.com

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■グラフィック薄氷大魔王[75]
Photoshopの表示とナビゲータ

吉井 宏
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最近ぜんぜんグラフィックやCG関係のことを書いてないなあ、と。Photoshopの表示関係の小技についていくつか書いておきます。たいしたワザじゃないので当たり前に実践している人も多いと思います。

●画面を回転しながら描く

Painterでは、紙を描きやすい方向に紙を回しながら描くように画面を回せるのが便利(他にもComicStudioやArtRageなども可能)。これに慣れているとPhotoshopに画面回転機能がないことが非常に不便に感じることがある。

そこで、「イメージメニュー→カンバスの回転」の「90°(時計回り/反時計回り)」を使う。つまり、実際に画像自体を回転させてしまうのだ。僕はこれにFキーのショートカットキーを割り当てて(F9とF10)、けっこうグルグル回転させながら描くことが多い。Painterでもほとんど90°単位でしか回さないので(中途半端な角度だと表示が荒くなる)、かなり実用的だ。

ところが、大きな画像の一部を拡大表示して描いているときに「90°」回転すると、その部分が画面から外れてしまうことがある。そんな場合は、全体画像のうち、集中して描きたい部分を矩形選択し、そのまま「新規(画像作成)→ペースト」し、回しながら描いてから「全体を選択→コピー」し、さきほどの全体画像にペーストする。手順通りなら全体画像に選択範囲が残っているので、ピッタリその位置にペーストできる(ただし、レイヤーの状態によっては無理な場合もある)。

●ナビゲータを活用する

数年前まで「ナビゲータ」はほとんど使ってなかったけど、これは非常に便利。上記のように画面から作業箇所が外れた場合でも、ナビゲータを使えばワンタッチで戻せる。

ナビゲータを気に入っている理由のひとつに、気楽にラクガキしてるときなどにショートカットキー、つまり左手を使わずに作業できる点がある。普段、ショートカットを使うのはほとんどが画面のスクロールや拡大縮小なので、この操作がペンだけでできるのは助かる。ショートカットキーを使うために左手をキーボードの乗せた状態というのは、多少なりとも「構えた」状態なのだ。リラックスしたい。

スポイトツールとUNDOをペンのサイドボタンに割り当てた上でナビゲータを活用すれば、描画のほとんどを左手を使わずにできるようになる(ペン後部のテールスイッチに手のひらツールを割り当てても便利)。

ナビゲータウインドウを極端に大きく(画面の半分とか3分の1とか)して使うと、別の利点が見えてくる。『「ウインドウメニュー→アレンジ→○○の新規ウインドウ」で、別ウインドウに全体画像を表示し、拡大画像に作業』と同じことができるのだ。小さめのタブレットを使っている人には超おすすめ。つまり、画面の拡大縮小を繰り返さずに、全体を見ながら大きな筆遣いで描くことができる。

ところで、大きな画像の一部分に集中したいとき、ナビゲータでは全体しか表示できないが、「○○の新規ウインドウ」なら一部分を拡大した上でさらに拡大した別ウインドウで作業できたり、拡大画像と縮小画像を同時に行き来して作業できるのは大きな利点。別画面表示と特大ナビゲータの両方を同時に使えば最強。ある程度広いディスプレイが必須だけど。

●左右反転と「ゆがみ」

絵を描いて、紙の裏から透かして見ると、デッサンやバランスの狂いがよくわかるのは広く知られている。絵具で描いていたときは鏡を利用した。デジタルでは左右反転を使っている(これもFキーを割り当て)。左右反転したままで描き進め、また左右反転して元に戻して手を入れ、左右反転を繰り返して形を完璧に持って行く。

形を整えていくとき便利なのが「フィルタメニュー→ゆがみ」(Painterでは「効果メニュー→KPT Goo」で一応可能だが、イマイチ)。線一本分のデッサンの狂いでも、大胆な形の変更でも、自由自在に画像の形をコントロールできる。特に、左右反転させたまま「ゆがみ」で修正すれば効果絶大。

●画面の余白

Painterでは画面を画像の外までスクロールできるので、隅っこを描くときも画面中央で描くことができる。Photoshopの初期表示ではこれができないが、「F」を押して全画面表示にすれば可能だ。

【吉井 宏/イラストレーター】hiroshi@yoshii.com

フィギュア制作してるとき、ふと思いついて鏡で左右反転して見てみたら、形の狂いに愕然。入れ込んで作ってるから、客観的に見れなくなってるんだろうな。まあ、左右反転でのデッサンの狂いは、その人固有の目のクセなので他人は気にならないとか、左右反転してもデッサンやバランスが完璧な絵はつまらないという説もあるようだけど。他人の目で見てみたい。

HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

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■編集後記(11/8)

・マイクル・クライトン「プレイ-獲物-」(ハヤカワ文庫)上下で約700ページを一気に読む。ナノテク版「ジュラシック・パーク」といわれているように、先端の技術が意外な恐怖をもたらすストーリーだ。軍用に開発されたナノマシンが、ウイルスのように自己増殖し異常な速度で進化していく。自律型ロボットに自己最適化の手法を組み込んでしまったことにより、野生化したそれらは補食動物のように群れて人間を襲う。比較的わかりやすいストーリーで、映画化したときの見せ場(ハリウッド的お約束)がいくつも用意されている。もっともらしい(ばかばかしい、と言ってはいけない)展開がおもしろくないわけがない。最初のうちはかったるいが、人類ヤバイ度がどんどん増していくに連れて、もう本を離せなくなる。主人公は理不尽にリストラされて、主夫を余儀なくされている。ハイテク企業に勤める妻は、次第に異常ともいえる態度をとるようになる。それには恐るべき理由があるのだが、アメリカの家庭の崩壊ぶりは、小説や映画で必ず持ち出さなくてはいけないテーマなんだろうか。映画でもそんな描写がやたら多い。やはりろくな国ではない。(柴田)

・映画「クリムト」を見た。つまんなかった。期待しているものと違った。クリムトの絵は好きだから、映画に対して厳しいで〜。寝不足もあって何度も寝そうになった。観客席では寝ている人や、眠気覚ましにキャンディを口に入れる人(どちらも複数)もいた。単館系のこの手の映画って、スタッフロールを最後まで見る人が多いんだけど、終った瞬間に立つ人が多い。映像的には面白い時もあったけれど、なんだか悪い意味での学生映画のようだった。内輪受け、枠の中の映画。こんなのやったらかっこいいんじゃない? というものを繋ぎ合わせている感じ。だけどちょっと古い感覚。ありきたりで既視感がある。映画というより二周目の(目新しさのない)ビデオクリップ。個々は面白くてもトータルはダメ。深さはなく、心に残らない。予告編の方がいい。編集力に拍手。見終わった後にロビーにある雑誌や新聞のレビューを見て、この映画の評論がこうなるのか〜と。役者の演技や衣装、映像は褒めているけれど、内容について言及しているものが少ないところを見ると、レビュアーも辛かったのかもしれない。作り手の意図はわからないこともないが、どうせ不思議ちっくに作るなら「エコール」の方が面白いかもしれないなぁと予告を見ながら思った。さぁ私の感覚と貴方の感覚は同じでしょうか? 一度「クリムト」見てみてね、なんてね。(hammer.mule)
< http://www.klimt-movie.com/
>  クリムト
< http://ecole-movie.jp/
>  エコール
< http://www.aurore.jp/
>  これまた微妙な…