数年前から物忘れが多くなった。といっても、名前が思い出せないとか番号が憶えられないといったことなら、ああ、年を取るとどうしてもね、と周囲もあたたかい理解を示してくれる。その辺りさすが世界有数の高齢化社会日本である。わが国の将来は盤石だ。
しかし、言ったことを実行し忘れるということをたまにやってしまうのが困る。昨年の九月まで専門学校の講師をしていたが、授業をしながら「どれだけ理解したか、後でテストをするからな、よーく聞いておけよこの野郎」と生徒達を脅しておいて、結局テストのことなんかきれいさっぱり忘れたまま、授業を終えて意気揚々と帰ってしまうことが、しょっちゅうあった。
しかし、言ったことを実行し忘れるということをたまにやってしまうのが困る。昨年の九月まで専門学校の講師をしていたが、授業をしながら「どれだけ理解したか、後でテストをするからな、よーく聞いておけよこの野郎」と生徒達を脅しておいて、結局テストのことなんかきれいさっぱり忘れたまま、授業を終えて意気揚々と帰ってしまうことが、しょっちゅうあった。
まあ、その程度のミスをいちいち気にしていたら講師などやってはいられないから気にしないことにしていたが、生徒に申し訳なかったのが、授業の過程で「第五章はちょっと難しいので、授業の後半で詳しく説明する」とか「もう時間がないから続きは来週やろう」とか告げておきながらすっかり忘れて、来週どころか、卒業までやらずじまいに終った例がワンサとあることだ。
しかし生徒も悪い。授業が終ってから仲間同士で「先生、後でテストするって言ったよな」とか「先週の続きを今週やるなんて言ってたのにな」などとコソコソと聞こえよがしに言うばかりで、決して私の手抜かりを直接指摘しないのである。そんなやる気のない生徒ばかりだから、私の物忘れが直らないのだ。
しかし私の失態を見て、歳をとると人間は記憶力が低下するから、年寄りの言うことははみんな疑ってかからなければならない、ということを生徒達が学んでくれたのなら、教壇に立った目的はおおむね達成されたといえる。知識や技術を教えるばかりが学校ではないのだから。
忘却の原因は、時間の経過にともなって記憶が失われる減衰説と、他の記憶との干渉によって失われる干渉説があるが、それについては後述する。
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『デジタルクリエイターズ』というメルマガがあって、そこで『笑わない魚』というコラムを連載している。ある号で江戸時代の陶工、酒井田柿右衛門について書いたことがあり、それを書くにあたっていろいろ調べたのだが、そのときに憶えたことはもう跡形もなく記憶から消え去ってしまった。
調べている最中は、ふむそうか、なるほど、こいつぁてえした男だ、とかなんとか賞讃の言葉をまき散らしていたのは憶えているのだが、いったいどこが、てえした男なのか、さっぱり思い出せないのだ。
だから柿右衛門について聞かれても「昔、ある国に柿右衛門という男がおってな、瀬戸物を焼いとったんじゃが、それがまたええ出来での、のちのちまで語りぐさになったそうな」としか説明することができない。
そんなわけで『デジタルクリエイターズ』のサイトのアーカイブに保存されている、これまでに私が書いたのコラムのなかの『柿右衛門は常識か』を読んでみた。それによると、酒井田柿右衛門とは、17世紀の陶工で、彼が確立した「柿右衛門様式」と呼ばれる有田焼のスタイルは代々受け継がれて、現在14代目らしい。海外でも高く評価されているようだ。なるほど、そんな人物だったのか。ぜんぜん知らなかった。勉強になるコラムだ。
蛇足ながら、私のコラムは『デジタルクリエイターズ』の木曜日配信分に掲載されている。このメルマガは、デジタルに限らず、さまざまな分野のプロの執筆者が寄稿していて、とても役に立つ情報を提供してくれる。一度読んでみていただきたい。もちろん無料である。以下のページから登録できる。
< http://www.dgcr.com/regist/index.html
>
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聞いたことや見たことを忘れるのなら、なんとか赦せる。また自分が言ったことを忘れるのも、まあ、ありがちなことではある。しかし何度も推敲した自分の文章を忘れるのは赦せない。年中、垂れ流しのように書いているようなモノカキならともかく、週に一本、せいぜい2000文字程度の、しかも時間をかけて書いた内容を忘れるのは、自分の脳細胞の死滅が進行しているのを実感するようで辛いものである。
実は『デジタルクリエイターズ』というメールマガジンがあって、毎週木曜日に掲載している。もうすでに五年以上書いているが、そのなかで、日本の陶工、柿右衛門(姓は忘れた)について書いたことがある。
書くにあたってあらかじめWebサイトなどで、日本の伝統工芸における柿右衛門の地位や作品の様式などを調べたのだが、そのとき調べたことが、今はもうさっぱり思い出せない。いつの時代の人間なのかすらも忘れてしまった。
そこで『デジタルクリエイターズ』の私のコラムのバックナンバーから『柿右衛門は常識か』を読み返してみたら、姓は酒井田で、江戸時代の陶工、そのスタイルは「柿右衛門様式」と呼ばれ、国際的にも評価が高いと書いてあった。へえ、けっこうためになるな、このコラムなんて思ったのであった。
ついでだが『デジタルクリエイターズ』ではエッセイや小説からIT関連にいたるまで、いろんなジャンルのコラムが読める。登録は以下で。
< http://www.dgcr.com/regist/index.html
>
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ただでさせ忘れっぽいのに、これからますます記憶力が落ちていくのかと思って暗澹たる気持になっていたら、役者が長台詞を憶えるコツを参考にして、短時間で多くのことを憶えるためのヒントが浮かんだ。それについては、次回、後編で述べることにする。
【ながよしかつゆき/東インド会社専務取締役】katz@mvc.biglobe.ne.jp
数小節聞いただけで気分ががらっと変わってしまう音楽のジャンルってあるんですね。私の場合、バロック(特にバッハ)とラテンとブルース。仕事の手が止まってしまう。ただ淡谷のり子先生のブルースはちょっとアレかもしれない。
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
>
・EPIGONE < http://www2u.biglobe.ne.jp/%7Ework
>
永吉さんの書籍「怒りのブドウ球菌」、Tシャツ販売中! !
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しかし私の失態を見て、歳をとると人間は記憶力が低下するから、年寄りの言うことははみんな疑ってかからなければならない、ということを生徒達が学んでくれたのなら、教壇に立った目的はおおむね達成されたといえる。知識や技術を教えるばかりが学校ではないのだから。
忘却の原因は、時間の経過にともなって記憶が失われる減衰説と、他の記憶との干渉によって失われる干渉説があるが、それについては後述する。
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調べている最中は、ふむそうか、なるほど、こいつぁてえした男だ、とかなんとか賞讃の言葉をまき散らしていたのは憶えているのだが、いったいどこが、てえした男なのか、さっぱり思い出せないのだ。
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- 歴代柿右衛門
- 井村 欣裕
- マリア書房 2002-12
- ウィンダム・ヒル:バッハ作品集
- オムニバス ポール・マッキャンドレス ゲイル・ルヴァント
- BMG JAPAN 2005-11-23
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by G-Tools , 2006/11/30