
こんなセリフをドラマなどでよく耳にするが、私の生きてきた五十年間は、まさにこの地獄の連続だった。地獄と地獄の間で、ごくたまに凪のような束の間の平穏が訪れる、そんな人生だったのである。それを生き延びてこられたのは、まんまんちゃんのお陰と考えるしかないほどの奇跡なのだ。
※関西では神仏のことを「まんまんちゃん」と言う。
Wikipedia < http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%82%93!
>
それが地獄かどうかの判定は、経験した本人だけに委ねられるべきものではあるが「オレ飲めないのに、先輩に夜中までつきあわされちゃってさ、もう地獄だったよ」などは噴飯ものである。私は酒が大好きだから、それは地獄どころか天国ではないか。地獄かどうかの判定を経験した本人だけに委ねることには納得ができない。
本当の地獄を見てきた者たちが、むしろそれを懐かしむかのような眼差しで、ぽつりと「あれが…地獄というものか…」と言う時にこそ、その言葉に重みが加わるのである。「春休みも補習すんねんて〜めっちゃ地獄や〜」などと言って地獄を薄利多売する奴は、死ぬまで補習をしていればいいのだ。
その程度のものが地獄なら、硫黄島での悲惨な戦闘は何と表現すればいいのか。いまだ多くの兵士の遺骨が眠る彼の島に行き、砲塔の残骸や地下壕に散乱する兵士たちの遺品を前にして「春休みも補習すんねんて〜めっちゃ地獄や〜」と言えるものなら言ってみるがよかろう!
●
私は地獄のような人生を送ってきた。いや地獄そのものだったといってもいいかもしれない。どんな地獄だったのかというと、それはもう、ものすごい地獄だったのである。そのものすごさは凄まじいばかりであった。そしてそれは、恐るべき怖さであった。「女房と畳は新しい方がよい」という諺があるが、そんな生易しいものではない。
地獄を喩えて「耳の穴から手を入れられて、腎臓をひとつむしりとられ、それが腎不全の患者に移植されて、人命を救ったような苦しみ」と言えば分ってもらえるだろうか。あるいは「人気のない夜道を歩いていると、七人のこびとに逮捕されてパトカーごと大阪湾に沈められ、こびとたちがハイホーハイホーと歌いながら森に帰って行くような絶望」と言えば分ってもらえるだろうか。
いやだめだ。「洋服の青山」のスーツを着た三浦友和だけが「洋服の青山」のスーツを着た三浦友和の心境が分るのと同じで、地獄を経験したことのない者にいくら言葉で説明しても理解できまい。
おお、彼の詩人ダンテの筆力をもってしても、地獄の恐怖を、絶望を、屈辱を言い表すことができなかったのだ! それはあたかも、生者が地獄というものを理解することを、まんまんちゃんがお許しにならぬかのようではないか!それは、まんまんちゃんの加護なのか、それとも罰なのか。ああ、土より造られ、また土に還らねばならぬわれわれに、いったい何が分ろう!
●
地獄を見た人間はふたつのタイプに分かれる。まず、こんな目に遭うなんて、自分はまんまんちゃんに見捨てられたのではないのか、もう、まんまんちゃんは自分を愛していないのではないかと悲観して、荒んだ人生を送るタイプ。
もうひとつは、こんな地獄を見なければならないのは、われわれに何かを学ばせるために、まんまんちゃんが与えてくれた試練なのではないのか、と肯定的に地獄をとらえるタイプである。幸い私はこのタイプだった。
私は、赤ん坊の頃はパラサイトで、日がな一日、家でごろごろして働きもせず、食事など身の回りのことはすべて親まかせにしておきながら、ありがとうも言わない、もちろん客が来ても挨拶もしない、まったく可愛気がなかった。
だが、その後50年間、幾多の地獄を見、修羅場をくぐり抜けてきたおかげで、今では、人から、憂いのある笑顔が素敵ですね、白髪まじりの髪が渋いですね、と言われるまでになった。そのうえ、胃も丈夫になり、トンカツを食べても胃がもたれたり、胸やけがしなくなったのだ。50年前には考えられないことだ。陳腐といわれるかもしれないが、「かわいい子は地獄にたたき落とせ」という先人の言葉は真理に満ちている。
先日も夕食の材料を買いにマーケットに行ったら、干し椎茸が目に入ったので、五目うどんを作るときには材料になるし、長持ちするからと気軽に一袋買ったのだが、帰宅して冷蔵庫を開けた途端、私はそこに地獄を見た。すでに干し椎茸があったのだ。しかも二袋も。二度も干し椎茸を買ってしまっていたことを忘れて、また干し椎茸を買ってしまったのであったが、そんな地獄の苦しみを経験したからこそ、私は今こう言えるのだ。「買い物に出かける前には冷蔵庫を確かめなさい」と。
そして、すでに買ってあるのを忘れて、うっかり布団や洗濯機、iMacG5、電話機、壁などをまた買ってしまわないように気をつけるようになったのである。「馬鹿につける薬はない」とはまさにこのことだ。
【ながよしかつゆき/泥棒】katz@mvc.biglobe.ne.jp
2/26の大阪梅田、HEP HALLの上映会に来てくださった方々には、一千億の感謝を捧げたい。ちなみに火曜の編集後記で濱村さんが感想を書いてくださったが、ホラーなのでご注意いただきたい。でも、それほど怖かったかなー。東京での上映は3/13、14、15で『イエスタディ・ワンス・モア』は14日(水)16:20〜だから、堅気の方にはちと来にくい時間かも。私も会場にいる予定。
・ちょ〜絵文字 < http://emoz.jp/
> au&Yahoo!ケータイ公式サイト
・無名芸人 < http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz/
>
・EPIGONE < http://www2u.biglobe.ne.jp/%7Ework/
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書籍「怒りのブドウ球菌」、Tシャツ販売中! !

その程度のものが地獄なら、硫黄島での悲惨な戦闘は何と表現すればいいのか。いまだ多くの兵士の遺骨が眠る彼の島に行き、砲塔の残骸や地下壕に散乱する兵士たちの遺品を前にして「春休みも補習すんねんて〜めっちゃ地獄や〜」と言えるものなら言ってみるがよかろう!
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私は地獄のような人生を送ってきた。いや地獄そのものだったといってもいいかもしれない。どんな地獄だったのかというと、それはもう、ものすごい地獄だったのである。そのものすごさは凄まじいばかりであった。そしてそれは、恐るべき怖さであった。「女房と畳は新しい方がよい」という諺があるが、そんな生易しいものではない。
地獄を喩えて「耳の穴から手を入れられて、腎臓をひとつむしりとられ、それが腎不全の患者に移植されて、人命を救ったような苦しみ」と言えば分ってもらえるだろうか。あるいは「人気のない夜道を歩いていると、七人のこびとに逮捕されてパトカーごと大阪湾に沈められ、こびとたちがハイホーハイホーと歌いながら森に帰って行くような絶望」と言えば分ってもらえるだろうか。
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おお、彼の詩人ダンテの筆力をもってしても、地獄の恐怖を、絶望を、屈辱を言い表すことができなかったのだ! それはあたかも、生者が地獄というものを理解することを、まんまんちゃんがお許しにならぬかのようではないか!それは、まんまんちゃんの加護なのか、それとも罰なのか。ああ、土より造られ、また土に還らねばならぬわれわれに、いったい何が分ろう!
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地獄を見た人間はふたつのタイプに分かれる。まず、こんな目に遭うなんて、自分はまんまんちゃんに見捨てられたのではないのか、もう、まんまんちゃんは自分を愛していないのではないかと悲観して、荒んだ人生を送るタイプ。
もうひとつは、こんな地獄を見なければならないのは、われわれに何かを学ばせるために、まんまんちゃんが与えてくれた試練なのではないのか、と肯定的に地獄をとらえるタイプである。幸い私はこのタイプだった。
私は、赤ん坊の頃はパラサイトで、日がな一日、家でごろごろして働きもせず、食事など身の回りのことはすべて親まかせにしておきながら、ありがとうも言わない、もちろん客が来ても挨拶もしない、まったく可愛気がなかった。
だが、その後50年間、幾多の地獄を見、修羅場をくぐり抜けてきたおかげで、今では、人から、憂いのある笑顔が素敵ですね、白髪まじりの髪が渋いですね、と言われるまでになった。そのうえ、胃も丈夫になり、トンカツを食べても胃がもたれたり、胸やけがしなくなったのだ。50年前には考えられないことだ。陳腐といわれるかもしれないが、「かわいい子は地獄にたたき落とせ」という先人の言葉は真理に満ちている。
先日も夕食の材料を買いにマーケットに行ったら、干し椎茸が目に入ったので、五目うどんを作るときには材料になるし、長持ちするからと気軽に一袋買ったのだが、帰宅して冷蔵庫を開けた途端、私はそこに地獄を見た。すでに干し椎茸があったのだ。しかも二袋も。二度も干し椎茸を買ってしまっていたことを忘れて、また干し椎茸を買ってしまったのであったが、そんな地獄の苦しみを経験したからこそ、私は今こう言えるのだ。「買い物に出かける前には冷蔵庫を確かめなさい」と。
そして、すでに買ってあるのを忘れて、うっかり布団や洗濯機、iMacG5、電話機、壁などをまた買ってしまわないように気をつけるようになったのである。「馬鹿につける薬はない」とはまさにこのことだ。
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