<「齋藤くんは、イーやってるの?」>
■デジアナ逆十字固め…[54]
美しき「青い花」
上原ゼンジ
■わが逃走[3]
福島ちょっといい話の巻
齋藤 浩
■セミナー案内
クリエイティブクラスターセミナー「この街の先輩に聞け」
■デジアナ逆十字固め…[54]
美しき「青い花」
上原ゼンジ
■わが逃走[3]
福島ちょっといい話の巻
齋藤 浩
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■デジアナ逆十字固め…[54]
美しき「青い花」
上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140300.html
>
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●「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」
という本が出ます。
ひと月ほど前に「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房」という本が出たばかりですが、同じようなネタです。違いとしては、前作の方が、試行錯誤してレンズを作る過程を辿ったのに対し、今回は工作方法と作例写真というシンプルな構成にしたこと。
また、前作では一眼レフを主体とした男子の工作だったのに対し、今回はコンパクトカメラをメインにした女子向け工作になっているということ。mixi内のキッチュレンズ工房コミュニティーを見た編集者の方からメッセージが届き、一冊作ることになりました。
印刷もきれいに上がったので、ぜひ手にとってご覧下さい。今日が取次搬入日なので、この週末あたりから店頭に並び始めると思います。
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
>
●西村陽一郎写真展「青い花」
以前、この連載で紹介したこともある西村陽一郎さんの写真展「青い花」があったので、四谷のルーニィまで行ってきた。今回もすごく良かった。
< http://www.roonee.com/
>
海中に浮かぶ小さく青い生物のようなイメージ。しかし、それはソメイヨシノの花なのだそうだ。ただソメイヨシノを枝ごと切ってきたのではなく、小鳥がついばんで、枝から落としていったものを、拾い集めたというのもポイント。そしてそれをネガキャリアに挟んで、印画紙にダイレクトに投影してプリントしたそうだ。
現像をやったことがない人にはちょっとイメージしにくいかもしれないが、フィルムで撮影したら、フィルム現像を行い、現像したフィルムをネガキャリアに挟んで印画紙に露光するというのが、普通のやり方。それを撮影、フィルム現像の工程を省き、現物をいきなりネガキャリアに挟んでしまったというわけだ。
西村さんがよくやる写真手法にフォトグラムがある。フォトグラムというのは、やはり撮影は行わずに印画紙の上に物を乗せて露光する方式だ。つまり現物の大きさの影ができるわけだが、今回の手法の場合にはランプに近いネガキャリアに花が挟まっているので、像は拡大されることになる。
プリントの大きさはいろいろあったのだが、メインはB0。つまりかなりデカイ。そのデカイ印画紙を壁面に留め、引伸機も横にして露光したそうだ。露光が終わったら印画紙を現像液や定着液に浸けて攪拌するという作業があるが、それをすべて全暗黒下で行ったのだという。想像するにすごーく大変な作業だ。
印画紙はネガフィルム用のものなので、花の像は明るさと色が反転した状態だ。印画紙には花を透過した光が当たるわけだが、薄くて光をいっぱい透過する部分は暗くなり、通さない部分は白っぽくなる。
色に関しても反転するので、実際の色の補色が現れてくる。全体に青っぽく見えるが、おしべやめしべの黄緑っぽい色の補色だ。ピンクの花びらは、光をかなり透過しているようで、暗くなり、うっすらと見える感じだ。つまり全体としては、おしべやめしべが青い触手のように見えているというイメージだ。
言葉で説明しようとすると難しいなあ(笑)。でもそれがすごくきれいなんだよ。全体に色味は少ないけど、その青というのは、たぶん印画紙で再現できる一番鮮やかな青。しかもフィルムを使っていないから粒状感のようなものもない。階調も自然の階調だし、そのあたりも美しく感じる要因なのだろう。
近づいてみるとすごく小さな青い丸がポツポツとある。これは黄色い花粉なんだそうだ。かなりクリアに映っているが、小さな小さな花粉の本物の影なのだと思うと、ちょっと不思議な感じだ。
●フィルムレスは欠陥?
写真のデジタルアナログ論争のなかで、「デジタルには実体がないからダメ」という言い方がある。この場合の実体というのはフィルムのことだが、フォトグラムの場合にも、その実体とやらはない。考えてみればフィルムを使わず、いきなり印画紙にプリントするというケースは他にもあるし、ポラロイドカメラなんていうのもフィルムはない。
となると、フィルム対デジタルというとらえ方にはあまり意味がないかと思えてくる。印画紙やディスプレイに出力し、見ることを最終目標と考えれば、フィルムレスが致命的な欠陥であるとは思えない。
最終出力物さえ鑑賞できれば、中間生成物に実体なぞ求めなくてもいいんじゃないかなあ。
◇西村陽一郎写真展
< http://www.geocities.jp/yoichiro246/
>
「青い花」の会期は残念ながら終わってしまったけど。8月には別の写真が見られるそうです。それと西村さんは美学校の写真工房の先生でもありますが、モノクロプリントのワークショップもやっているそうなので、興味のある方はどうぞ。
●「水の中」
会期:2007年8月1日(水)〜8月14日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで
●「グラス」
会期:2007年8月15日(水)〜8月28日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで
会場:ギャラリーユイット(東京都新宿区新宿3-20-8 トップスハウス8階TEL.03-3354-6808)
●美學校モノクロ写真WS
日程:'07 9/7 9/14 9/21 9/28 10/5 10/12(毎週金曜日・全6回)
時間:18:30〜21:30(3時間)
受講料:36,000円+材料費4,000円
場所:美學校(東京都千代田区神田神保町2-20 第2富士ビル3F TEL:03-3262-2529)
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジ写真研究所
< http://www.maminka.com/zenlab/top.html
>
◇「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房 〜ピンホールに蛇腹、魚眼でレトロでアナログなデジタル写真を撮ろう!〜」上原ゼンジ著
→アマゾンで購入するなら
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/483992421X/dgcrcom-22/
>
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■わが逃走[3]
福島ちょっといい話の巻
齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140200.html
>
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みなさんこんにちは。『わが逃走』第3回です。
くどいようですが説明させていただきますと、このコラムはグラフィックデザイナー齋藤浩が、グラフィックデザインとは無関係に書きたいことを書くという、ノーギャラならではの企画です。
前回は幼年期の悲しい出来事を書いたので、その反動という訳ではないのですが今回のテーマは「大人」です。
さて、みなさんが「大人」を感じた瞬間とはどんなときでしょうか。私がそれを感じたとき。そう。あれは、忘れもしない18の夏。
初めて友人の運転する車の助手席に乗せてもらったときの衝撃! あれは強烈な印象として脳裏に焼き付いています。スッゲー、同級生がハンドル握って、しかもこの車、走ってるよ!! スッゲー!!!
友人のお父さん、お母さんの運転する車に乗せてもらったことは当然あります。ところが今回は本人! 本人ですよ、あーた!!
「ともだち」から連想することといえば、一緒にカブトムシを採りに行くとか、一緒に爆竹で犬の糞を破壊するとか、一緒に試験勉強するふりをしてエロ本を交換するとか、そういったことが誰でも思い浮かぶことと思います。そんな間柄の男がなんと、国家試験に合格して、公道を自ら運転する車で流しているのです。
う。こいつ、お、おとなだ…
尊敬、嫉妬、そして自分だけ取り残されてしまったような寂しさ。第三者的視点からこの状況を考えてみると、当然ハンドルを握る友人は主役。助手席の私は脇役。
なんか、人生における配役がこのまま決定してしまいそうな危機感を感じた私はその一年後の夏休み、福島県のK自動車学校の免許取得合宿に参加したのでした。それでは、そのときの素敵な思い出話に、今回もつきあっていただきましょう。
第1話●4人部屋の怪
「最短14日、宿舎はひろびろ4人部屋、高原のホテル。送迎バスで教習所へ直行!」
コピーを鵜呑みにした訳じゃないが、まあ消去法でいって悪くなさそうだったし。その自動車学校を選んだ理由はそんなところだ。
高校時代からの友人であり、同じ美大仲間でもあるキッカワと共に合宿免許を申し込み、我々は東北新幹線で一路福島県へと向かった。
昼頃駅に到着すると、マイクロバスが待っていた。バスは20分程走り、畑と田んぼの中にある教習所へと我々を運んだ。一応東北とはいえ、限りなく関東に近いこの地の夏は暑かった。
未知の機械・自動車に触れるということで少し緊張していた私だったが、初日は教材配布やら学科の講義なんかで慌ただしく終わってしまった。
ヒグラシが鳴きはじめた頃、大型バス一台とマイクロバスがコースに横づけされ、全員それに乗るよう指示された。こうして見てみると受講生はかなりの人数だ。
若者を満載したバスは、一路“高原のホテル”に向かう。新幹線の駅を過ぎ、繁華街を抜け、バスは国道をひた走る。いつの間にか人家さえまばらになり、明かりと呼べるものは時折すれ違う対向車のヘッドライトのみとなる。そして、ついにはその対向車すら現れなくなってしまった。気がつくと県道に入っていた。周囲に人の気配はない。
50分近く揺られていると、車体が急に揺れはじめた。どうやら峠に入ったらしい。道幅ギリギリまで木が生い茂っており、周囲はうっそうとしている。そんな中をバスは右に左に傾きながら暗い夜道を登ってゆく。
ほんとにこの道でいいのか? このままショッカーの秘密基地に連れられて改造されてしまうのではないか。そんな不安が脳裏をよぎる。
そして乗車してから1時間20分、突如山の中にその建物は出現した。薄明かりが看板を照らしている。そこには「K高原ホテル」と書かれていた。そういう固有名詞なら、“高原のホテル”というコピーもウソではない。周りは山と崖だけど。
鉄筋コンクリートの四角い三階建て。いかにも昭和なたたずまいだ。荷物を担いでフロントへ向かうと、横井社長(あのホテル・ニュージャパンの)を若くしたような蝶ネクタイの男が、愛想笑いで出迎えてくれた。
「今日から合宿免許に参加する齋藤とキッカワです」私がそう言うと彼はすぐに部屋番号を告げ、洗濯物をベランダに干すなとか、夜中は騒ぐなとかいった注意事項の説明をはじめる。一通り聞いたので部屋に行こうとすると、「4人部屋ですから」と念をおされた。
当初から分っていたことなので、「そのように聞いています」と答え、伝えられた番号の部屋の前に立ち、扉を開けた。そこでまず感じたこと。くさい。4人部屋と称されるその万年床の空間には、育ち盛りの青年がすでに9人生活していた。我々はなんと10人目、11人目の客だったのである。
しばし呆然とするも、同室の若者達から話を聞くうちに謎が解けてきた。どうやらこの部屋は「4人部屋タイプ」という名前の部屋、ということらしい。なるほど、キャッチコピーはウソではない。そこに何人詰め込まれるかまでは記載されてなかっただけのことだ。
コピーにうたわれている「ひろびろ4人部屋」とはおそらく「4人部屋タイプの空間で布団の断面をUの字にしながら寝ているうちに、心がひろびろとしてきますよ」という意味なのだろう。ああ、早くシャバへ帰りてーな。合宿生活は始まったばかりだ。
第2話●イノススの謎
翌日、学食を薄味にしたような朝飯を食し、マイクロバスに乗った。昨日と逆のコース。
狭い車内、互いの二の腕を密着させた育ち盛りの青年達を乗せてバスは峠を下る。これがあと何日続くのか。
「送迎バスで直行!」というコピーもウソではない。しかし宿舎から1時間20分とはたいしたもんだ。これって実家から新幹線で来る時間と大差ないよなあ。そんなことを考えているうちに、バスは教習所に到着した。
朝一番の講義は『交通安全の基礎』。講師は、ここK自動車学校の校長だった。校長は教壇に立ち、語りはじめた。
「わだすが、校長のイノティッツィッッです。イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ、と読みます。さて、……」
何? この不思議な言語を操るおじさんは何を言ってるのだ? イノススのツべって何だ。配布された資料を見てみる。担当・猪爪とある。なるほど、イノシシのツメのことか。そこまでは解った。で、何て読むんだ? 聞き取れなかった。つーか、全然解らん。スゲー気になる。
隣に座るキッカワに小声で尋ねてみたが、彼も聞き取れなかったそうだ。気になって講義に集中できない。あー、イノティッツィッッが謎だー。講義終了と同時に私は校長に聞いてみた。
「あのー、先生。先生のお名前は猪の爪と書いて何と……。スミマセン、聞き取れなかったもので」
「ああ、わだすの名前ね。うん。イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ」
「はい?」
「んだがらぁ、イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ」
「ほほう。ありがとうございました」
待合室に向かう途中、キッカワが私を呼び止める。
「で、校長の名前、何て読むんだって?」
私は答えた。
「イノティッツィッッだそうだ」。
第3話●変速機奇譚
イノティッツィッッの謎を残したまま教習は進む。クラッチを離すタイミングをうまく飲み込めない私だったが、なんとか実技も第二段階まで進むことができた。
ここまで来ると、気持ちに多少ゆとりもできてくる。しかし、油断すると直線で速度オーバーしちゃうんだな。
その日もギアをセカンドに入れ、コース外周を回っていると助手席のA教官が言った。
「ほら。そご。トップにあげで!」
何故こんなところでトップに?
不審に思いながらもギアをトップに上げると、車はノッキングをはじめた。
「なんでトップにあげるぅ?」
「だっていま先生が」
「トップにあげるんじゃなぐで、トップりあげろつたの」
「はい??」
「いいがぁ。トップりあげるっつうのは、車間距離をたくさんとれというこどだ」
「たっぷりあける、ですか?」
「だーがーらぁ、さっきからそう言っでるよぅ。おめーみてぇなやづは、はーじめてだ」
危険だ。危険すぎる。この不思議な言語をトランスレートしてる間にも、車は動いているのだ。こんな状態で路上に出たら、俺は……
そもそも、この調子で路上なんかに出られるのだろうか。脳裏に一抹の不安がよぎる19歳の齋藤浩だった。
第4話●クランク椅子の恐怖
坂道発進、S字コース、車庫入れに縦列駐車。初心者泣かせのメニュー勢揃いの第三段階も半ばを過ぎた頃。
いつものように程よく緊張しながら教習車を走らせていると、助手席のB教官が言った。
「はい、そごで椅子型入って」
椅子型……椅子の格好しているコースといえばクランクのことだろうか。半信半疑の私だったが安全確認をし、クランクコースに入るべくハンドルを切った。すると
「なんでクランクさ入る?」
「え、でも、あ、あの、椅子型って……」
「だがらぁ。椅子型だよ椅子型。」
「はあ。」
「はあじゃなぐで、椅子型だってばよぅ」
教官が指差した先にはS字コースが。
「あ、S型ですか!!!」
「そうだよぅ。ほんどにさっぎから何聞いでんだよぅ。おめーがオレの息子だったら、ぜぇーったい免許とらせね」
理不尽だとは思いつつも、ここでは教官が絶対である。
私は彼に“聞き間違い”を侘び、なんとか第三段階終了のハンコを押してもらったのだった。
第5話●面妖面接事件
修了検定も終わり、明日から路上に出る。この日私は適性試験の結果を校長直々に面談形式で聞くという、ありがたい企画の順番待ちをしていた。
試験といってもマークシート方式の簡単なもので、「あなたはスピードを出しすぎる傾向にあるので、気をつけて」みたいなことを校長自らのお言葉として頂戴できるという、まあ言ってみれば路上に向けての自覚と責任を促すイベントみたいなものだ。
しばらく待ってると前の人が応接室から出てきて、私の名前が呼ばれた。部屋に入ると、校長はソファに座るよう言った。
「失礼します」
少々緊張しながら私は来客用と思われるソファに腰をおろした。
その緊張をほぐすように、校長は笑顔でこう言った。
「齋藤くんは、イーやってるの?」
「はい???」
「だがらぁ、齋藤くんは、イーやってるんだっで?」
「イー…Eですか…」
「そうだよ、イー」
「イーですか…あの、わかりません…」
「イーだってば」
「……」
「イーじゃなかったらガー」
「ガーですか?」
「そう! ガーだよ、ガー!!」
「ガー…」
なんなんだ、イーだのガーだの……この人は何を言いたいんだ? 理解できずふと見上げると、校長の顔が真っ赤だ。どうやら怒りを抑えているらしい。
「ガー!!! ガーじゃなかったらイー!、イーッ!! イーーーッッ!!」
もうだめだ、全く理解できない。素直に謝ろう。
「すみません、わかりません」
すると校長は怒りを爆発させた。
「美大行ってんだろーっ!!!」
「あ、絵ですか?」
「そうだよぅ。さっきからそう言ってるよぅ……」
校長の言うガーとはおそらく画のことだろう。沈黙が気まずい。
「さて、齋藤くんはだね……」適性検査の話が始まったはいいが、気まずさは最後まで消えなかった。
面接を終えて応接室から出ると、次は同じ美大のキッカワの番だ。これはいかん! 過ちを繰り返してはいけない。私は彼に「イーって言ったら絵のことだからな。粗相のないようにな」と耳打ちした。
「おう、わかった」元気にこたえて彼は応接室に入っていった。
部屋に入ると、校長はソファに座るよう言った。
「失礼します」
少々緊張しながら彼は来客用と思われるソファに腰をおろした。
その緊張をほぐすように、校長は笑顔でこう言った。
「キッカワくんは、絵画やってるの?」
以上、福島ちょっといい話でした。その後私はなんとか卒業検定に合格し、無事運転免許を取得しましたとさ。なんだかんんだでもう20年近く前のことです。
あの校長の名前も謎のままです。今は何でもネットで情報が得られるいい時代ですが、少しくらい謎を謎のままにしておきたい。それが男のロマンってもんさ。
今回は諸般の事情で割愛しましたが、この合宿では普段の生活では絶対接点がないような人たち(ヤンキーなど)とスゲー仲良くなれました。同じ目的があると、けっこう気が合っちゃうものですね。
【さいとう ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
>
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■セミナー案内
クリエイティブクラスターセミナー「この街の先輩に聞け」
< http://www.mebic.com/seminar/2007-01.html
>
< http://www.mebic.com/seminar/2007-02.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140100.html
>
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<主催者情報>
クリエイターとしての働き方、仕事の楽しみ方、独立のノウハウ…起業まもない方や起業をめざすクリエイターが知っておくべきことはたくさんあります。大阪を中心に活躍する5人のアートディレクター・プロデューサーが、現場と経営の最前線で培った経験を元にクリエイターとしての仕事術や、経営とクリエイティブ実務のバランスのとりかたなどをお伝えします。
会場:メビック扇町2F(大阪市北区南扇町6-28 水道局扇町庁舎 TEL.06-631 6-8780)
参加費:1,000円(各回/税込)
申込・詳細:サイト参照のこと
●受注仕事におけるクリエイティブの見せ所
日時:8月2日(木)19:30〜21:30
講師:入潮泰浩 (有)クロスメディア・コミュニケーションズ
受注仕事は基本的にクライアントありきです。クライアントの思いを具現化するのが私たちの仕事です。しかし、それはクライアントの言いなりになることでは決してありません。クライアントの望んでいることを、それ以上のモノとしてカタチにすることが出来れば、クライアントも大喜び、私たち制作サイドもしてやったり!! の気分になれて、みんなが平和です。毎回そんな風に仕事が出来たらええよねーという講座です。
●観察と収集してる? デザインするのに大事なコト
日時:8月8日(水)19:30〜21:30
講師:北直旺哉 キネトグラフ社
そのデザインは何のために存在するのか…。何も考えず漠然と作っていませんか? 少し経験のある人やMacでバリバリ制作されている人に多く見受けられます。しかし、ジックリ「観察と収集」すれば必ずその先が見えてきます。なぜなら人は必ず整理や収納、分析せずにはいられないからです。そもそもデザインって何? って話から心得的な話まで。身近なコト、技術的なコトを例にお話したいと思います。無意識に作っている、なんとなく作ってしまっている人へ。心あたりのある方は必見デス!
●クウカンデザインの「リアル」な仕事術 自分ブランドのために「いま」で
きること
日時:8月23日(木)19:30〜21:30
講師:杉山貴伸 ライフサイズ総合計画事務所
設計事務所勤務から開業に至るまで私がどんな準備をし、また何につまづいたのか。そして開業からの二年間、営業から受注そして建築設計・空間デザイン等の業務と並行し自社ブランディングも行ったその手法を紹介。数年前皆さんと同じように悩み、計画を実行に移した私が、ごく最近の実体験を元に「今、何をすればいいの?」をお話します。
序章:起業する「まで」からした「あと」 〜実体験をもとに〜
1章:自分ブランディングのために 〜いまできること〜
2章:クウカンプレゼン小ネタ集 〜パースラクラク表現力アップ〜
●「独立系デザイナーの働き方を考える ビジュアルだけがデザインじゃない」
日時:8月28日(火)19:30〜21:30
講師:浪本浩一 ランデザイン
これからの時代に求められる、「案件に合わせたプロジェクト型ワークスタイル」において、我々デザイナーは何ができるのか、何をしなければならないかを考えます。また、制作会社勤務時代に学んだ外部パートナーとの付き合い方、会社を辞めて独立するまでの取り組み、独立してから二年の間に考えたこと、感じたこと、行動したことなど実用的な内容から、日々持ち歩く「ひらめきノート」にメモした仕事の楽しさや嘆きまで、ざっくばらんにお話します。
●「ゲッ! そんなアホな!」思惑ハズレの原因は、まず我にあり。
日時:9月4日(火)19:30〜21:30
講師:藤井保 つくり図案屋
デザインはプロでも経営は素人? 折角の個性やセンスが、結果的に制作価格や経営に反映されずもったいない結果に終わらないように、経営・営業・制作環境を共に検証して事業の継続と発展を目指しましょう。
・「信頼って何?」お客に価格を決められるのはオークションとデザイン料?
・仕事とは「必要物」を作るためのプロセスでないと…。
・チリも積もれば、掃除が大変!
・スタンスを明確に「良いもの」は安くできるはずが無い…。
等について経験を交えて語ります。
●クライアントから「ありがとう!!」の言葉を引き出す仕事術
日時:9月14日(金)19:30〜21:30
講師:芦谷正人 (有)DRIVE
僕達デザイナーは芸術家ではありません。自分が満足するためにデザインをしている訳ではありません。かといって、クライアントの言いなりになってこめつきバッタのようになってもいけません。デザイナーの仕事はデザインを通してクライアントの悩みや願いを解決し期待値を超えた答えを出すことで「ありがとう!」の言葉を引き出すことが仕事です。そうすれば、クライアントとデザイナーの継続的で幸せな関係を築くことができるのです。「ありがとう!」をクライアントから引き出すために重要な“五つの掟”を中心にお話しさせていただきます。
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■応募受付中のプレゼント
「Web Designing 2007年8月号」
7月27日(金)14時締切です。
< https://bn.dgcr.com/archives/20070720140100.html
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■編集後記(7/26)
・大阪のクリエイターから、住所録などデータの入ったHDDを初期化してしまったので、住所をお知らせくださいとメールが来た。なぜ誤って初期化してしまったのかというと、クマゼミのせいだという。7月半ば頃から本格化した、あのシャシャシャシャとかセンセンセンとか聞こえる、強烈にやかましい鳴き声のせいだという。群れて鳴くから本当にうるさい。それはよくわかる。しかし、あのセミが最もやかましく鳴くのは午前中の早い時間帯である。そんな時間に彼が中央区の仕事場に出勤しているはずはないので、また前夜に深酒して仕事場に泊まり込んだにちがいない。大ボケはクマゼミではなくアルコールのせいだと断言できる。かつて、夏は必ず中之島にあった府立現代美術センターで「ディジタル・イメージ」展を開催していたので、その設営とイベントと撤収などで東京・大阪間を三往復するのが常であった。毎朝浴びたクマゼミの鳴き声シャワーは、電車の中の女子学生の漫才みたいな会話とともに、ああまた大阪に来たわいと実感させられるものだった。しかし、あのクマゼミの大音響は、いくら慣れていても堪え難いくらいうるさいのではないか。関東地方には生息していないからよかったと思っていたら、1995年に環境庁が実施した調査では、太平洋側の北限は千葉、日本海側では京都だったが、いまは更に東進・北進しているということだ。それは困る。ぜったい困る。なんとか阻止したい。東京都知事がなんとかしてくれんか。/昨日の「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」については、おおくのご意見をいただいた。反対意見のサイトもいくつか見た。この本はたしかに突っ込みどころの多い、脇の甘い内容だと思うが、いい問題提起だと評価している。今日の新聞では、ヤマダ電機が家電リサイクル法の引き渡し義務違反(中古品の輸出業者に横流し)で、経済産業省と環境省から厳重注意を受けたとある。環境保護の美名のもと、リサイクルに無駄な税金が投じられ、不正に儲ける輩がいるというこの本の告発は重要だと思う。/シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ…………(柴田)
・ゼンジさん、出版おめでとうございます。/齋藤さん、ちゃんと落としてくれはりますな。うまい〜。/昨日の後記でミス。新藤三雄氏ではなく信藤三雄氏でした。頭の中では信藤三雄氏のことだったのだが、誤字がないようにとコピペしたのが裏目に出た。お詫びし訂正いたします。恥ずかしい〜。Sさんご指摘ありがとうございます。あ、そうだ。中田英寿の「Take Action! 7.29」は信藤氏が監督だって。「7.29」さえなかったらなぁ。/F1ヨーロッパグランプリをやっと見終わった。食事時に細切れで見ていたので臨場感はない。F1がチーム戦だと改めて思うレースだった。いきなりの雨で、おもちゃみたいにスリップするマシンたち。レインタイヤに交換するのだが、いつピットインさせるかタイミングを図る司令塔。その判断で順位は変わっていく。ピットイン数の多いレースだったので、クルーたちのチームワークがいつも以上にレースを左右する。タイヤを変えるだけで雨の中を平気で走れるようになるのにも、当たり前だけど感心する。いかにぎりぎりのところで勝負しているのかわかるから。雨、晴、雨、マシントラブルで、荒れたレース。ハミルトンの連続入賞がストップしたのは残念だけど、たまには上位を譲ってくれ〜。マーク・ウェーバーが表彰台に上がった時、その場所では見慣れないウェアが印象的だったよ。(hammer.mule)
< http://sports.yahoo.co.jp/f1/
> Yahoo! F1
美しき「青い花」
上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140300.html
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●「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」
という本が出ます。
ひと月ほど前に「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房」という本が出たばかりですが、同じようなネタです。違いとしては、前作の方が、試行錯誤してレンズを作る過程を辿ったのに対し、今回は工作方法と作例写真というシンプルな構成にしたこと。
また、前作では一眼レフを主体とした男子の工作だったのに対し、今回はコンパクトカメラをメインにした女子向け工作になっているということ。mixi内のキッチュレンズ工房コミュニティーを見た編集者の方からメッセージが届き、一冊作ることになりました。
印刷もきれいに上がったので、ぜひ手にとってご覧下さい。今日が取次搬入日なので、この週末あたりから店頭に並び始めると思います。
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
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●西村陽一郎写真展「青い花」
以前、この連載で紹介したこともある西村陽一郎さんの写真展「青い花」があったので、四谷のルーニィまで行ってきた。今回もすごく良かった。
< http://www.roonee.com/
>
海中に浮かぶ小さく青い生物のようなイメージ。しかし、それはソメイヨシノの花なのだそうだ。ただソメイヨシノを枝ごと切ってきたのではなく、小鳥がついばんで、枝から落としていったものを、拾い集めたというのもポイント。そしてそれをネガキャリアに挟んで、印画紙にダイレクトに投影してプリントしたそうだ。
現像をやったことがない人にはちょっとイメージしにくいかもしれないが、フィルムで撮影したら、フィルム現像を行い、現像したフィルムをネガキャリアに挟んで印画紙に露光するというのが、普通のやり方。それを撮影、フィルム現像の工程を省き、現物をいきなりネガキャリアに挟んでしまったというわけだ。
西村さんがよくやる写真手法にフォトグラムがある。フォトグラムというのは、やはり撮影は行わずに印画紙の上に物を乗せて露光する方式だ。つまり現物の大きさの影ができるわけだが、今回の手法の場合にはランプに近いネガキャリアに花が挟まっているので、像は拡大されることになる。
プリントの大きさはいろいろあったのだが、メインはB0。つまりかなりデカイ。そのデカイ印画紙を壁面に留め、引伸機も横にして露光したそうだ。露光が終わったら印画紙を現像液や定着液に浸けて攪拌するという作業があるが、それをすべて全暗黒下で行ったのだという。想像するにすごーく大変な作業だ。
印画紙はネガフィルム用のものなので、花の像は明るさと色が反転した状態だ。印画紙には花を透過した光が当たるわけだが、薄くて光をいっぱい透過する部分は暗くなり、通さない部分は白っぽくなる。
色に関しても反転するので、実際の色の補色が現れてくる。全体に青っぽく見えるが、おしべやめしべの黄緑っぽい色の補色だ。ピンクの花びらは、光をかなり透過しているようで、暗くなり、うっすらと見える感じだ。つまり全体としては、おしべやめしべが青い触手のように見えているというイメージだ。
言葉で説明しようとすると難しいなあ(笑)。でもそれがすごくきれいなんだよ。全体に色味は少ないけど、その青というのは、たぶん印画紙で再現できる一番鮮やかな青。しかもフィルムを使っていないから粒状感のようなものもない。階調も自然の階調だし、そのあたりも美しく感じる要因なのだろう。
近づいてみるとすごく小さな青い丸がポツポツとある。これは黄色い花粉なんだそうだ。かなりクリアに映っているが、小さな小さな花粉の本物の影なのだと思うと、ちょっと不思議な感じだ。
●フィルムレスは欠陥?
写真のデジタルアナログ論争のなかで、「デジタルには実体がないからダメ」という言い方がある。この場合の実体というのはフィルムのことだが、フォトグラムの場合にも、その実体とやらはない。考えてみればフィルムを使わず、いきなり印画紙にプリントするというケースは他にもあるし、ポラロイドカメラなんていうのもフィルムはない。
となると、フィルム対デジタルというとらえ方にはあまり意味がないかと思えてくる。印画紙やディスプレイに出力し、見ることを最終目標と考えれば、フィルムレスが致命的な欠陥であるとは思えない。
最終出力物さえ鑑賞できれば、中間生成物に実体なぞ求めなくてもいいんじゃないかなあ。
◇西村陽一郎写真展
< http://www.geocities.jp/yoichiro246/
>
「青い花」の会期は残念ながら終わってしまったけど。8月には別の写真が見られるそうです。それと西村さんは美学校の写真工房の先生でもありますが、モノクロプリントのワークショップもやっているそうなので、興味のある方はどうぞ。
●「水の中」
会期:2007年8月1日(水)〜8月14日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで
●「グラス」
会期:2007年8月15日(水)〜8月28日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで
会場:ギャラリーユイット(東京都新宿区新宿3-20-8 トップスハウス8階TEL.03-3354-6808)
●美學校モノクロ写真WS
日程:'07 9/7 9/14 9/21 9/28 10/5 10/12(毎週金曜日・全6回)
時間:18:30〜21:30(3時間)
受講料:36,000円+材料費4,000円
場所:美學校(東京都千代田区神田神保町2-20 第2富士ビル3F TEL:03-3262-2529)
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジ写真研究所
< http://www.maminka.com/zenlab/top.html
>
◇「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房 〜ピンホールに蛇腹、魚眼でレトロでアナログなデジタル写真を撮ろう!〜」上原ゼンジ著
→アマゾンで購入するなら
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/483992421X/dgcrcom-22/
>
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■わが逃走[3]
福島ちょっといい話の巻
齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140200.html
>
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みなさんこんにちは。『わが逃走』第3回です。
くどいようですが説明させていただきますと、このコラムはグラフィックデザイナー齋藤浩が、グラフィックデザインとは無関係に書きたいことを書くという、ノーギャラならではの企画です。
前回は幼年期の悲しい出来事を書いたので、その反動という訳ではないのですが今回のテーマは「大人」です。
さて、みなさんが「大人」を感じた瞬間とはどんなときでしょうか。私がそれを感じたとき。そう。あれは、忘れもしない18の夏。
初めて友人の運転する車の助手席に乗せてもらったときの衝撃! あれは強烈な印象として脳裏に焼き付いています。スッゲー、同級生がハンドル握って、しかもこの車、走ってるよ!! スッゲー!!!
友人のお父さん、お母さんの運転する車に乗せてもらったことは当然あります。ところが今回は本人! 本人ですよ、あーた!!
「ともだち」から連想することといえば、一緒にカブトムシを採りに行くとか、一緒に爆竹で犬の糞を破壊するとか、一緒に試験勉強するふりをしてエロ本を交換するとか、そういったことが誰でも思い浮かぶことと思います。そんな間柄の男がなんと、国家試験に合格して、公道を自ら運転する車で流しているのです。
う。こいつ、お、おとなだ…
尊敬、嫉妬、そして自分だけ取り残されてしまったような寂しさ。第三者的視点からこの状況を考えてみると、当然ハンドルを握る友人は主役。助手席の私は脇役。
なんか、人生における配役がこのまま決定してしまいそうな危機感を感じた私はその一年後の夏休み、福島県のK自動車学校の免許取得合宿に参加したのでした。それでは、そのときの素敵な思い出話に、今回もつきあっていただきましょう。
第1話●4人部屋の怪
「最短14日、宿舎はひろびろ4人部屋、高原のホテル。送迎バスで教習所へ直行!」
コピーを鵜呑みにした訳じゃないが、まあ消去法でいって悪くなさそうだったし。その自動車学校を選んだ理由はそんなところだ。
高校時代からの友人であり、同じ美大仲間でもあるキッカワと共に合宿免許を申し込み、我々は東北新幹線で一路福島県へと向かった。
昼頃駅に到着すると、マイクロバスが待っていた。バスは20分程走り、畑と田んぼの中にある教習所へと我々を運んだ。一応東北とはいえ、限りなく関東に近いこの地の夏は暑かった。
未知の機械・自動車に触れるということで少し緊張していた私だったが、初日は教材配布やら学科の講義なんかで慌ただしく終わってしまった。
ヒグラシが鳴きはじめた頃、大型バス一台とマイクロバスがコースに横づけされ、全員それに乗るよう指示された。こうして見てみると受講生はかなりの人数だ。
若者を満載したバスは、一路“高原のホテル”に向かう。新幹線の駅を過ぎ、繁華街を抜け、バスは国道をひた走る。いつの間にか人家さえまばらになり、明かりと呼べるものは時折すれ違う対向車のヘッドライトのみとなる。そして、ついにはその対向車すら現れなくなってしまった。気がつくと県道に入っていた。周囲に人の気配はない。
50分近く揺られていると、車体が急に揺れはじめた。どうやら峠に入ったらしい。道幅ギリギリまで木が生い茂っており、周囲はうっそうとしている。そんな中をバスは右に左に傾きながら暗い夜道を登ってゆく。
ほんとにこの道でいいのか? このままショッカーの秘密基地に連れられて改造されてしまうのではないか。そんな不安が脳裏をよぎる。
そして乗車してから1時間20分、突如山の中にその建物は出現した。薄明かりが看板を照らしている。そこには「K高原ホテル」と書かれていた。そういう固有名詞なら、“高原のホテル”というコピーもウソではない。周りは山と崖だけど。
鉄筋コンクリートの四角い三階建て。いかにも昭和なたたずまいだ。荷物を担いでフロントへ向かうと、横井社長(あのホテル・ニュージャパンの)を若くしたような蝶ネクタイの男が、愛想笑いで出迎えてくれた。
「今日から合宿免許に参加する齋藤とキッカワです」私がそう言うと彼はすぐに部屋番号を告げ、洗濯物をベランダに干すなとか、夜中は騒ぐなとかいった注意事項の説明をはじめる。一通り聞いたので部屋に行こうとすると、「4人部屋ですから」と念をおされた。
当初から分っていたことなので、「そのように聞いています」と答え、伝えられた番号の部屋の前に立ち、扉を開けた。そこでまず感じたこと。くさい。4人部屋と称されるその万年床の空間には、育ち盛りの青年がすでに9人生活していた。我々はなんと10人目、11人目の客だったのである。
しばし呆然とするも、同室の若者達から話を聞くうちに謎が解けてきた。どうやらこの部屋は「4人部屋タイプ」という名前の部屋、ということらしい。なるほど、キャッチコピーはウソではない。そこに何人詰め込まれるかまでは記載されてなかっただけのことだ。
コピーにうたわれている「ひろびろ4人部屋」とはおそらく「4人部屋タイプの空間で布団の断面をUの字にしながら寝ているうちに、心がひろびろとしてきますよ」という意味なのだろう。ああ、早くシャバへ帰りてーな。合宿生活は始まったばかりだ。
第2話●イノススの謎
翌日、学食を薄味にしたような朝飯を食し、マイクロバスに乗った。昨日と逆のコース。
狭い車内、互いの二の腕を密着させた育ち盛りの青年達を乗せてバスは峠を下る。これがあと何日続くのか。
「送迎バスで直行!」というコピーもウソではない。しかし宿舎から1時間20分とはたいしたもんだ。これって実家から新幹線で来る時間と大差ないよなあ。そんなことを考えているうちに、バスは教習所に到着した。
朝一番の講義は『交通安全の基礎』。講師は、ここK自動車学校の校長だった。校長は教壇に立ち、語りはじめた。
「わだすが、校長のイノティッツィッッです。イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ、と読みます。さて、……」
何? この不思議な言語を操るおじさんは何を言ってるのだ? イノススのツべって何だ。配布された資料を見てみる。担当・猪爪とある。なるほど、イノシシのツメのことか。そこまでは解った。で、何て読むんだ? 聞き取れなかった。つーか、全然解らん。スゲー気になる。
隣に座るキッカワに小声で尋ねてみたが、彼も聞き取れなかったそうだ。気になって講義に集中できない。あー、イノティッツィッッが謎だー。講義終了と同時に私は校長に聞いてみた。
「あのー、先生。先生のお名前は猪の爪と書いて何と……。スミマセン、聞き取れなかったもので」
「ああ、わだすの名前ね。うん。イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ」
「はい?」
「んだがらぁ、イノススのツべ、と書いて、イノティッツィッッ」
「ほほう。ありがとうございました」
待合室に向かう途中、キッカワが私を呼び止める。
「で、校長の名前、何て読むんだって?」
私は答えた。
「イノティッツィッッだそうだ」。
第3話●変速機奇譚
イノティッツィッッの謎を残したまま教習は進む。クラッチを離すタイミングをうまく飲み込めない私だったが、なんとか実技も第二段階まで進むことができた。
ここまで来ると、気持ちに多少ゆとりもできてくる。しかし、油断すると直線で速度オーバーしちゃうんだな。
その日もギアをセカンドに入れ、コース外周を回っていると助手席のA教官が言った。
「ほら。そご。トップにあげで!」
何故こんなところでトップに?
不審に思いながらもギアをトップに上げると、車はノッキングをはじめた。
「なんでトップにあげるぅ?」
「だっていま先生が」
「トップにあげるんじゃなぐで、トップりあげろつたの」
「はい??」
「いいがぁ。トップりあげるっつうのは、車間距離をたくさんとれというこどだ」
「たっぷりあける、ですか?」
「だーがーらぁ、さっきからそう言っでるよぅ。おめーみてぇなやづは、はーじめてだ」
危険だ。危険すぎる。この不思議な言語をトランスレートしてる間にも、車は動いているのだ。こんな状態で路上に出たら、俺は……
そもそも、この調子で路上なんかに出られるのだろうか。脳裏に一抹の不安がよぎる19歳の齋藤浩だった。
第4話●クランク椅子の恐怖
坂道発進、S字コース、車庫入れに縦列駐車。初心者泣かせのメニュー勢揃いの第三段階も半ばを過ぎた頃。
いつものように程よく緊張しながら教習車を走らせていると、助手席のB教官が言った。
「はい、そごで椅子型入って」
椅子型……椅子の格好しているコースといえばクランクのことだろうか。半信半疑の私だったが安全確認をし、クランクコースに入るべくハンドルを切った。すると
「なんでクランクさ入る?」
「え、でも、あ、あの、椅子型って……」
「だがらぁ。椅子型だよ椅子型。」
「はあ。」
「はあじゃなぐで、椅子型だってばよぅ」
教官が指差した先にはS字コースが。
「あ、S型ですか!!!」
「そうだよぅ。ほんどにさっぎから何聞いでんだよぅ。おめーがオレの息子だったら、ぜぇーったい免許とらせね」
理不尽だとは思いつつも、ここでは教官が絶対である。
私は彼に“聞き間違い”を侘び、なんとか第三段階終了のハンコを押してもらったのだった。
第5話●面妖面接事件
修了検定も終わり、明日から路上に出る。この日私は適性試験の結果を校長直々に面談形式で聞くという、ありがたい企画の順番待ちをしていた。
試験といってもマークシート方式の簡単なもので、「あなたはスピードを出しすぎる傾向にあるので、気をつけて」みたいなことを校長自らのお言葉として頂戴できるという、まあ言ってみれば路上に向けての自覚と責任を促すイベントみたいなものだ。
しばらく待ってると前の人が応接室から出てきて、私の名前が呼ばれた。部屋に入ると、校長はソファに座るよう言った。
「失礼します」
少々緊張しながら私は来客用と思われるソファに腰をおろした。
その緊張をほぐすように、校長は笑顔でこう言った。
「齋藤くんは、イーやってるの?」
「はい???」
「だがらぁ、齋藤くんは、イーやってるんだっで?」
「イー…Eですか…」
「そうだよ、イー」
「イーですか…あの、わかりません…」
「イーだってば」
「……」
「イーじゃなかったらガー」
「ガーですか?」
「そう! ガーだよ、ガー!!」
「ガー…」
なんなんだ、イーだのガーだの……この人は何を言いたいんだ? 理解できずふと見上げると、校長の顔が真っ赤だ。どうやら怒りを抑えているらしい。
「ガー!!! ガーじゃなかったらイー!、イーッ!! イーーーッッ!!」
もうだめだ、全く理解できない。素直に謝ろう。
「すみません、わかりません」
すると校長は怒りを爆発させた。
「美大行ってんだろーっ!!!」
「あ、絵ですか?」
「そうだよぅ。さっきからそう言ってるよぅ……」
校長の言うガーとはおそらく画のことだろう。沈黙が気まずい。
「さて、齋藤くんはだね……」適性検査の話が始まったはいいが、気まずさは最後まで消えなかった。
面接を終えて応接室から出ると、次は同じ美大のキッカワの番だ。これはいかん! 過ちを繰り返してはいけない。私は彼に「イーって言ったら絵のことだからな。粗相のないようにな」と耳打ちした。
「おう、わかった」元気にこたえて彼は応接室に入っていった。
部屋に入ると、校長はソファに座るよう言った。
「失礼します」
少々緊張しながら彼は来客用と思われるソファに腰をおろした。
その緊張をほぐすように、校長は笑顔でこう言った。
「キッカワくんは、絵画やってるの?」
以上、福島ちょっといい話でした。その後私はなんとか卒業検定に合格し、無事運転免許を取得しましたとさ。なんだかんんだでもう20年近く前のことです。
あの校長の名前も謎のままです。今は何でもネットで情報が得られるいい時代ですが、少しくらい謎を謎のままにしておきたい。それが男のロマンってもんさ。
今回は諸般の事情で割愛しましたが、この合宿では普段の生活では絶対接点がないような人たち(ヤンキーなど)とスゲー仲良くなれました。同じ目的があると、けっこう気が合っちゃうものですね。
【さいとう ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
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■セミナー案内
クリエイティブクラスターセミナー「この街の先輩に聞け」
< http://www.mebic.com/seminar/2007-01.html
>
< http://www.mebic.com/seminar/2007-02.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20070726140100.html
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<主催者情報>
クリエイターとしての働き方、仕事の楽しみ方、独立のノウハウ…起業まもない方や起業をめざすクリエイターが知っておくべきことはたくさんあります。大阪を中心に活躍する5人のアートディレクター・プロデューサーが、現場と経営の最前線で培った経験を元にクリエイターとしての仕事術や、経営とクリエイティブ実務のバランスのとりかたなどをお伝えします。
会場:メビック扇町2F(大阪市北区南扇町6-28 水道局扇町庁舎 TEL.06-631 6-8780)
参加費:1,000円(各回/税込)
申込・詳細:サイト参照のこと
●受注仕事におけるクリエイティブの見せ所
日時:8月2日(木)19:30〜21:30
講師:入潮泰浩 (有)クロスメディア・コミュニケーションズ
受注仕事は基本的にクライアントありきです。クライアントの思いを具現化するのが私たちの仕事です。しかし、それはクライアントの言いなりになることでは決してありません。クライアントの望んでいることを、それ以上のモノとしてカタチにすることが出来れば、クライアントも大喜び、私たち制作サイドもしてやったり!! の気分になれて、みんなが平和です。毎回そんな風に仕事が出来たらええよねーという講座です。
●観察と収集してる? デザインするのに大事なコト
日時:8月8日(水)19:30〜21:30
講師:北直旺哉 キネトグラフ社
そのデザインは何のために存在するのか…。何も考えず漠然と作っていませんか? 少し経験のある人やMacでバリバリ制作されている人に多く見受けられます。しかし、ジックリ「観察と収集」すれば必ずその先が見えてきます。なぜなら人は必ず整理や収納、分析せずにはいられないからです。そもそもデザインって何? って話から心得的な話まで。身近なコト、技術的なコトを例にお話したいと思います。無意識に作っている、なんとなく作ってしまっている人へ。心あたりのある方は必見デス!
●クウカンデザインの「リアル」な仕事術 自分ブランドのために「いま」で
きること
日時:8月23日(木)19:30〜21:30
講師:杉山貴伸 ライフサイズ総合計画事務所
設計事務所勤務から開業に至るまで私がどんな準備をし、また何につまづいたのか。そして開業からの二年間、営業から受注そして建築設計・空間デザイン等の業務と並行し自社ブランディングも行ったその手法を紹介。数年前皆さんと同じように悩み、計画を実行に移した私が、ごく最近の実体験を元に「今、何をすればいいの?」をお話します。
序章:起業する「まで」からした「あと」 〜実体験をもとに〜
1章:自分ブランディングのために 〜いまできること〜
2章:クウカンプレゼン小ネタ集 〜パースラクラク表現力アップ〜
●「独立系デザイナーの働き方を考える ビジュアルだけがデザインじゃない」
日時:8月28日(火)19:30〜21:30
講師:浪本浩一 ランデザイン
これからの時代に求められる、「案件に合わせたプロジェクト型ワークスタイル」において、我々デザイナーは何ができるのか、何をしなければならないかを考えます。また、制作会社勤務時代に学んだ外部パートナーとの付き合い方、会社を辞めて独立するまでの取り組み、独立してから二年の間に考えたこと、感じたこと、行動したことなど実用的な内容から、日々持ち歩く「ひらめきノート」にメモした仕事の楽しさや嘆きまで、ざっくばらんにお話します。
●「ゲッ! そんなアホな!」思惑ハズレの原因は、まず我にあり。
日時:9月4日(火)19:30〜21:30
講師:藤井保 つくり図案屋
デザインはプロでも経営は素人? 折角の個性やセンスが、結果的に制作価格や経営に反映されずもったいない結果に終わらないように、経営・営業・制作環境を共に検証して事業の継続と発展を目指しましょう。
・「信頼って何?」お客に価格を決められるのはオークションとデザイン料?
・仕事とは「必要物」を作るためのプロセスでないと…。
・チリも積もれば、掃除が大変!
・スタンスを明確に「良いもの」は安くできるはずが無い…。
等について経験を交えて語ります。
●クライアントから「ありがとう!!」の言葉を引き出す仕事術
日時:9月14日(金)19:30〜21:30
講師:芦谷正人 (有)DRIVE
僕達デザイナーは芸術家ではありません。自分が満足するためにデザインをしている訳ではありません。かといって、クライアントの言いなりになってこめつきバッタのようになってもいけません。デザイナーの仕事はデザインを通してクライアントの悩みや願いを解決し期待値を超えた答えを出すことで「ありがとう!」の言葉を引き出すことが仕事です。そうすれば、クライアントとデザイナーの継続的で幸せな関係を築くことができるのです。「ありがとう!」をクライアントから引き出すために重要な“五つの掟”を中心にお話しさせていただきます。
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■応募受付中のプレゼント
「Web Designing 2007年8月号」
7月27日(金)14時締切です。
< https://bn.dgcr.com/archives/20070720140100.html
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■編集後記(7/26)
・大阪のクリエイターから、住所録などデータの入ったHDDを初期化してしまったので、住所をお知らせくださいとメールが来た。なぜ誤って初期化してしまったのかというと、クマゼミのせいだという。7月半ば頃から本格化した、あのシャシャシャシャとかセンセンセンとか聞こえる、強烈にやかましい鳴き声のせいだという。群れて鳴くから本当にうるさい。それはよくわかる。しかし、あのセミが最もやかましく鳴くのは午前中の早い時間帯である。そんな時間に彼が中央区の仕事場に出勤しているはずはないので、また前夜に深酒して仕事場に泊まり込んだにちがいない。大ボケはクマゼミではなくアルコールのせいだと断言できる。かつて、夏は必ず中之島にあった府立現代美術センターで「ディジタル・イメージ」展を開催していたので、その設営とイベントと撤収などで東京・大阪間を三往復するのが常であった。毎朝浴びたクマゼミの鳴き声シャワーは、電車の中の女子学生の漫才みたいな会話とともに、ああまた大阪に来たわいと実感させられるものだった。しかし、あのクマゼミの大音響は、いくら慣れていても堪え難いくらいうるさいのではないか。関東地方には生息していないからよかったと思っていたら、1995年に環境庁が実施した調査では、太平洋側の北限は千葉、日本海側では京都だったが、いまは更に東進・北進しているということだ。それは困る。ぜったい困る。なんとか阻止したい。東京都知事がなんとかしてくれんか。/昨日の「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」については、おおくのご意見をいただいた。反対意見のサイトもいくつか見た。この本はたしかに突っ込みどころの多い、脇の甘い内容だと思うが、いい問題提起だと評価している。今日の新聞では、ヤマダ電機が家電リサイクル法の引き渡し義務違反(中古品の輸出業者に横流し)で、経済産業省と環境省から厳重注意を受けたとある。環境保護の美名のもと、リサイクルに無駄な税金が投じられ、不正に儲ける輩がいるというこの本の告発は重要だと思う。/シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ…………(柴田)
・ゼンジさん、出版おめでとうございます。/齋藤さん、ちゃんと落としてくれはりますな。うまい〜。/昨日の後記でミス。新藤三雄氏ではなく信藤三雄氏でした。頭の中では信藤三雄氏のことだったのだが、誤字がないようにとコピペしたのが裏目に出た。お詫びし訂正いたします。恥ずかしい〜。Sさんご指摘ありがとうございます。あ、そうだ。中田英寿の「Take Action! 7.29」は信藤氏が監督だって。「7.29」さえなかったらなぁ。/F1ヨーロッパグランプリをやっと見終わった。食事時に細切れで見ていたので臨場感はない。F1がチーム戦だと改めて思うレースだった。いきなりの雨で、おもちゃみたいにスリップするマシンたち。レインタイヤに交換するのだが、いつピットインさせるかタイミングを図る司令塔。その判断で順位は変わっていく。ピットイン数の多いレースだったので、クルーたちのチームワークがいつも以上にレースを左右する。タイヤを変えるだけで雨の中を平気で走れるようになるのにも、当たり前だけど感心する。いかにぎりぎりのところで勝負しているのかわかるから。雨、晴、雨、マシントラブルで、荒れたレース。ハミルトンの連続入賞がストップしたのは残念だけど、たまには上位を譲ってくれ〜。マーク・ウェーバーが表彰台に上がった時、その場所では見慣れないウェアが印象的だったよ。(hammer.mule)
< http://sports.yahoo.co.jp/f1/
> Yahoo! F1