資料集めを終りにすると、やりたいことから手をつける。読書の仕方に似ている。一枚ずつの絵を仕上げるのではなくて、必要な資料をスキャンし、欲しい写真を撮り、スケッチをし、一枚目の絵をザッと仕上げ、二枚目にとりかかり、五枚くらい描いたところで見比べて、何かアイデアを思い付いたらやってみる。
この時は、デフォルメの勉強のつもりで、たくさん試してみました。まったくデフォルメしない「人物」という感じに描いたり、できるかぎりキャラクター化してみたり。アクリル絵の具で手描きで描いてスキャンして、また合成してみたり。
個展で、「試作」として展示した一枚は、ペーター佐藤さんの画集のイラストAをスキャンした資料と、雑誌に小さく載っていたグレース・ケリーの写真Bを合成して、その上からどんどん描き足した絵。A、B両方ともに、まったく下絵の痕跡を残さないように、「こうだったらもっとキレイ」というふうに描いてみた。
けれども、たった一か所、どうしても塗りつぶせない箇所がありました。それは、ペーター佐藤さんの手による「目の光」。この光は、瞳の光ではなくて、睫毛(マツゲ)と目のキワにほんの小さく、まるで光線のように放射状に描いてあるの。
この時は、デフォルメの勉強のつもりで、たくさん試してみました。まったくデフォルメしない「人物」という感じに描いたり、できるかぎりキャラクター化してみたり。アクリル絵の具で手描きで描いてスキャンして、また合成してみたり。
個展で、「試作」として展示した一枚は、ペーター佐藤さんの画集のイラストAをスキャンした資料と、雑誌に小さく載っていたグレース・ケリーの写真Bを合成して、その上からどんどん描き足した絵。A、B両方ともに、まったく下絵の痕跡を残さないように、「こうだったらもっとキレイ」というふうに描いてみた。
けれども、たった一か所、どうしても塗りつぶせない箇所がありました。それは、ペーター佐藤さんの手による「目の光」。この光は、瞳の光ではなくて、睫毛(マツゲ)と目のキワにほんの小さく、まるで光線のように放射状に描いてあるの。
ペーターさんのイラストは、たぶんエアブラシで描かれている。この光が、斜めからの顔の手前の目と、画面奥の目に、微妙な遠近感を添えているのだ。この光で、目のキワの強い色をほんの少し削った感じ。でなければ、陰影をつけてボカすか、、、そうすると、顔の印象が暗く、またリアルになるだろう。と思って、実際いろんな遠近の技法を試してみた。でも、やっぱり、ペーターさんの方法が一番キレイ。かなわない。
なんてったってコンセプトは、「絶望の破壊」なのだ。絶望を「陰り」で表現したのでは、感情的な悲しみを超えない。明るい闇の、晴れた空に吸い込まれるような絶望感。反動形成的な表現で良いと思いました。「誰にも文句は言わせない」ていうような強さが出るまで描こうと決めて、イラストの先生の言葉を思い出す。「もっと、人は、もっと複雑だろう?」
この光を相手に試行錯誤して、最後に、「消そうか、いっそ、このまま残そうか」と迷い、なんだかひとりで感動しちゃった。ペーターさんって、すごいや。
ペーターズギャラリーには、グループ展でお世話になったこともあり、万が一、この絵が仕事で使われるような事があったら、この絵の成り立ちなどをイラストの先生に相談すれば、きっと大丈夫。「今は、この光に感動した気持ちを残しておこう」と思って、その箇所には手をつけず(ほんの0.5ミリの光だけど)展示した。
読書や瞑想でコンセプトノートを作り、絵を描きはじめたら、疲れた時、迷った時に、パラパラとノートを読み返す。このノートがなかったら、ペーター佐藤さんの絵を上から塗りつぶすことなんて、できはしない。
「ペーターさんの女性美を超えて行きたいんだもの。準備は充分したの。あとは、描くだけだ。」と自分を励ましながら、筆を進める。それでも、私の左手は、取り消しコマンドを何十回も打つ。時代性や普遍性を見つめるペーターさんの視点は、とても真摯だから、、、「真摯」とか、本当は、ぴったりな言葉が見つからないけど。
描いて、比べて、気に入った広告写真や資料と自分の絵を、また比べてみる。街を彩るグラフィックは、今日より明日、必ず美しい。それを感じるためだけに、生きていられるほど、必ず進化させるのだ。一番良いと思うデフォルメの仕方を、できるかぎり探した。目が、強すぎる、弱すぎる、キツすぎる、優しすぎる。
この時は、どれだけ壊しても残る最後の強さ、、、それが優しさなの か、凛とした感じなのか、描きながら探していました。ペーターさんの絵が教えてくれたのは「神様は、こんなに細部に宿るのだ」ということ。どれだけ壊しても、細心の技術が残るのだな〜。
文章にすると、大変そうだけど、上手なイラストレーターは、みんながんばっていることなのだと思う。私の絵ね、上手じゃないかも知れない。だけど、私の絵をチラっと見て前を通り過ぎて行く人の頬に、ほんのちょっと違う空気が流れるといいな。女性の美しさを願って絵を描いている人がいる、、、それだけで、街の空気がほんの少し違う。そうだったらいいと思う。きっと、伝わると思っています。
【たかはし・りき】イラストレーター。 riki@tc4.so-net.ne.jp
高橋里季の、瞑想のためのオススメ読書レシピ。「ニュートンの予言」「ポアンカレ予想を解いた数学者」「国家の品格」「渾沌からの秩序」を一緒に読む。横須賀の夏島貝塚付近で拾ってきたドングリをお守りに読み進めると爽快です。
・高橋里季Webサイト
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
>
なんてったってコンセプトは、「絶望の破壊」なのだ。絶望を「陰り」で表現したのでは、感情的な悲しみを超えない。明るい闇の、晴れた空に吸い込まれるような絶望感。反動形成的な表現で良いと思いました。「誰にも文句は言わせない」ていうような強さが出るまで描こうと決めて、イラストの先生の言葉を思い出す。「もっと、人は、もっと複雑だろう?」
この光を相手に試行錯誤して、最後に、「消そうか、いっそ、このまま残そうか」と迷い、なんだかひとりで感動しちゃった。ペーターさんって、すごいや。
ペーターズギャラリーには、グループ展でお世話になったこともあり、万が一、この絵が仕事で使われるような事があったら、この絵の成り立ちなどをイラストの先生に相談すれば、きっと大丈夫。「今は、この光に感動した気持ちを残しておこう」と思って、その箇所には手をつけず(ほんの0.5ミリの光だけど)展示した。
読書や瞑想でコンセプトノートを作り、絵を描きはじめたら、疲れた時、迷った時に、パラパラとノートを読み返す。このノートがなかったら、ペーター佐藤さんの絵を上から塗りつぶすことなんて、できはしない。
「ペーターさんの女性美を超えて行きたいんだもの。準備は充分したの。あとは、描くだけだ。」と自分を励ましながら、筆を進める。それでも、私の左手は、取り消しコマンドを何十回も打つ。時代性や普遍性を見つめるペーターさんの視点は、とても真摯だから、、、「真摯」とか、本当は、ぴったりな言葉が見つからないけど。
描いて、比べて、気に入った広告写真や資料と自分の絵を、また比べてみる。街を彩るグラフィックは、今日より明日、必ず美しい。それを感じるためだけに、生きていられるほど、必ず進化させるのだ。一番良いと思うデフォルメの仕方を、できるかぎり探した。目が、強すぎる、弱すぎる、キツすぎる、優しすぎる。
この時は、どれだけ壊しても残る最後の強さ、、、それが優しさなの か、凛とした感じなのか、描きながら探していました。ペーターさんの絵が教えてくれたのは「神様は、こんなに細部に宿るのだ」ということ。どれだけ壊しても、細心の技術が残るのだな〜。
文章にすると、大変そうだけど、上手なイラストレーターは、みんながんばっていることなのだと思う。私の絵ね、上手じゃないかも知れない。だけど、私の絵をチラっと見て前を通り過ぎて行く人の頬に、ほんのちょっと違う空気が流れるといいな。女性の美しさを願って絵を描いている人がいる、、、それだけで、街の空気がほんの少し違う。そうだったらいいと思う。きっと、伝わると思っています。
【たかはし・りき】イラストレーター。 riki@tc4.so-net.ne.jp
高橋里季の、瞑想のためのオススメ読書レシピ。「ニュートンの予言」「ポアンカレ予想を解いた数学者」「国家の品格」「渾沌からの秩序」を一緒に読む。横須賀の夏島貝塚付近で拾ってきたドングリをお守りに読み進めると爽快です。
・高橋里季Webサイト
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
>
- PATER
- ペーター佐藤
- PARCO出版 1995-08
- ポアンカレ予想を解いた数学者
- ドナル・オシア 糸川 洋
- 日経BP社 2007-06-21
- おすすめ平均
- 話としては面白い
- ペレルマンに興味を持った人には不適
- 数学の本、ちょっと(かなり)難しい
- 『フェルマーの最終定理』を好きな方におすすめ