<"ゲイトの輪"を広げよう>
■わが逃走[10]
学校のセンセイの巻 その1・始動編
齋藤 浩
■伊豆高原へいらっしゃい[3]
「スターゲイト」を見よう!
松林あつし
■展覧会案内
荒野のグラフィズム:粟津潔展
■わが逃走[10]
学校のセンセイの巻 その1・始動編
齋藤 浩
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■わが逃走[10]
学校のセンセイの巻 その1・始動編
齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140300.html
>
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さて記念すべき『わが逃走』10回目。もう10回も書いてるんですね。前回は思い入れ満載の狭くて深い話を書きました。このまま突き進みたい気持ちをぐぐっと抑えて、今回は『学校のセンセイ』について書いてみようと思います。ちなみに今回のタイトルに「その1」と付いていますが、その2がいつ発表されるかは書いてる本人もわかりません。
えー、私は現在、某美術専門学校で広告とグラフィクデザインに関するゼミのセンセイをしています。なんだかんだで今年で7年目。嬉しいことに学生の質も良く、デザイナーとして優れた仕事をしている卒業生も多くいます。
でも、ここまで来るには、いろいろあったんですよー。俺様としましても、どういった経緯でデザイン教育に携わることになったかを記録しておかないと忘れてしまいそうなので、今回はこの場を借りて発表させていただきます。
●1999年3月上旬
2月末日で広告制作会社を退社した。ついにフリーランスのデザイナーになった訳だが、仕事のあてはまったくなかった。すべてゼロからのスタート。
いま目の前にしなければならない仕事がまったくないというのは、ある意味清々しいものである。自分の正しいと思うデザインをじっくりと自主制作しながら、いろんな人達と交流して人脈を増やしていける。まあ、こんな時代だし仕事自体も少ないとは思うが、食えなくて死ぬということもないんじゃないか?と、心配性のオレにしては何故だか妙に落ち着いていたと記憶している。
おそらく人生史上最も緊張した出来事『会社に辞表を提出する』を終えた直後だったので、辞表を出すことに比べれば収入がなくなることなんて恐くもなんともねーやという気持ちになっていたのだろう。ほんとはそっちの方が問題なのだが。
しかし、フリーランスにとってまず必要なのは、収入の保証のなさに対する恐怖心を抑える力。根拠もなく自信を持てる図々しさなのではなかろうか。これを別の言葉で覚悟ともいう。(そうか?)
●2000年2月中旬
なんだかんだでフリーになって一年が過ぎようとしていた。ビンボーだけど、納得のいく仕事だけでギリギリ食っていけてた。
そんなある日電話が鳴った。ムサビ時代の師であり、某CG制作者団体の顔役でもあるK氏からだった。訳あってO美術専門学校の非常勤講師を辞めることになったので、その後任をやってほしいという内容。
以前からデザイン教育には興味があったし、私がデザイナーになることができたのも多くの先輩や先生のおかげである。こんどは私の番だ! 私には真っ当なデザイナーを世に送り出す義務があるのだ!!(85%)定期的な収入があれば家賃の心配も減るぞ!!(15%)「やります。是非ともやらせてください」鼻息も荒く即答した。
●2000年3月中旬
O美術専門学校にて面接。今までの作品をまとめたポートフォリオを持参し、常勤講師に対しプレゼン。デザインとは情報伝達手段です。伝えたいことを相手に対していかに分かりやすく伝えるか。その計画をするのがデザイナーです。デザイナーに最も必要なことはMacを上手に使えるかといった事ではなく、ビジュアルという言語を使って相手を振り向かせ、語る能力なのです。といったようなことを熱く語った。相手の反応も良かったようだ。数日後、正式回答が来た。4月から非常勤講師として採用、ということだった。
当時蔓延していた「Macのオペレーション能力=デザイン能力」という誤解をとき、自らのデザイン論を語り合えるような若手を育てたい。そんな志を掲げる私だったが、「とにかく学生がMacを上手に使えるようにしてください。」ということで、Mac技術指導要員として雇われることになった。まあいいか。「それとwebの授業もお願いします。」「あのwebって…私はグラフィックが専門でして、インターネットのたぐいは全然…」「大丈夫、齋藤さんなら出来ますよ」
翌日、『サルでも分かるMacOS』と『初めてのホームページ』なる本を購入、Macの仕組みも分かってないし、webのウェの字も知らない私は勉強づけの毎日となった。授業スタートまで一か月。間に合うのだろうか。不安にかられる齋藤浩30歳の春であった。
※ここでちょっと説明しておくと、デザインの指導とオペレーションの指導って全く別ものなんです。私はMacを使ってデザインの仕事をしてるけど、必要なソフトの必要な機能だけを我流で使っていただけだったので、例えば矢印をポインタと呼ぶことすら知らなかったのです。デザインの話はMacに触れなくてもできるけど、Macの話はMacを知らないとできないのです。
●2000年4月中旬
講師室でちょっとしたミーティングの後、教室へ移動。さて最初の授業だ。グラフィックデザインの定番ソフト、IllustratorとPhotoshopを使って数か月かけてダラダラと一枚のポストカードを作るといった内容。授業内で全て完結させないといけないので、「来週までにやって来い」というような課題を出してもいけない。
さて、学生の第一印象。バカばっか。学ぼうという姿勢がない。教えてくれるのを口をあけて待ってるだけ。デザインの学校に来たってことはデザイナーになりたいんだろ? そう思っていたオレが間違っていたのだ。奴らの大半が消去法で進路を決めているように思えた。デザイナー志望の者ですら、この状況で満足している。自分が動かないから周りも動かない。言われないからやらない。当然、作品数も増えない。数を作らないからいいものができない。そうこうしているうちに卒業だ。
「彼らを20歳の若者と思ってはだめです。小学14年生です」いつか聞いた常勤講師の言葉を思い出す。こういうことだったのか。とりあえず授業を始めてみた。すぐに理解する者もいれば、なかなか理解できない者もいる。前者に合わせると落ちこぼれが増え、後者に合わせるとできる者がダレる。
当時の学生はパソコンに触ったことのない者も少なくなかった。「はーい皆さん、このまるっこい物をマウスと言います」とか「マウスのボタンをカチカチって押すことをダブルクリックと言います」なんてやってるうちにあっという間に1コマ3時間の授業が終わる。精神的にものすごい疲れるが、内容は一向に進まない。なんとか最初の授業を終えた私は、身も心もボロボロだった。
webの授業はやや状況が違っていた。なんと、すでに自分のホームページを作っている者が受講していたのだ。当時は今と違ってメールもインターネットも知らない学生がまだ多くいた反面、好きな奴はすでにどっぷりハマっていた。一応私はセンセイを名乗っていたが、webに関しては前述のとおりにわか覚えの知識しか持ってない。それを悟られないように授業を進行しなければならないのだ。危険きわまりないミッション。
とにかく、その週の内容を正確に理解した上で授業に臨まなければならない。予習は確実にこなし、翌週以降の内容にかかる質問は(まだ勉強してないので)一切受け付けないという姿勢を貫く。授業前日にやっと理解したことを翌日に教える。そんな綱渡りのようなギャンブル人生。
この時の給料は1コマあたり8000円。時給にして2600円。しかし、事前に授業の進行計画はもちろん、HTMLなどという呪文のような言葉を勉強し、教えられるレベルにまで理解しておかないといけない。授業の準備に時間をかければかけるほど時給は下がる計算になる訳で、結果的に私のギャラは高校生の時給以下だった。
まあ、そんなことはどうでもいい。おかげでwebのウェの字も知らない私はホームページ制作の知識を身に付けてしまったのだから。でも、果たしてこれを教育と呼べるのか。専門分野はその道のプロが指導すべきなのではないか。理想と現実の狭間に苦しむ齋藤浩30歳の春。
●2000年5月
学校にも慣れてきた。最初はバカばっかと思っていた学生の中にも、磨けば光りそうな奴が見えてきた。そんなある日。
画像処理の授業でPhotoshopを使って好き勝手絵を描かせていたところ、「あ、先生。ちっと、いいすかー」ある学生が質問してきた。見せられたのは、戦闘機らしきものがミサイルを発射しようとしているシーンを描いたものだった。
「これさあ、今ピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってんじゃん。これをドゥルルルルルルルルーゥってしたいんだけど、どうやんの?」
「はい?」
「だからさあ、ここんとこ、ピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってんじゃん。これをドゥルルルルルルルルーゥってしたいんだけど、どうやんの?」
〈沈黙〉
「ほほう。君はピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってる部分をドゥルルルルルルルルーゥってしたい訳だね。なるほど」
「あぇい」。うなずきながら発したのだから肯定の意思表示なのだろう。
「すまんが何を言ってんだか分からん。君は君の表現したいイメージがあるのだろう。しかし、まずそれを伝える言葉を知れ」
私はそう言って彼に背を向けた。おそらく彼は私に不満を持ったことだろう。
質問してんのに答えてくんねー。齋藤マジムカツク。とか言ったに違いない。
しかしが私はデザイナーである。デザインに関することなら誠心誠意答えよう。
だが、それ以前の問題まで面倒見る気はねーよ。
もし彼がこのままデザイナーになったとして、自分の案をクライアントにプレゼンする際、どのような言葉で伝えるのだろうか。「えっとー。こんどの広告の案なんすけどー。いままではどっちかってゆーとプシュギュゥァーッッって感じだったじゃないすか。でも、次からはもっとッグバシュゥッッッゥゥゥゥーンてした方が若者に受けるんじゃないかってことで、で、考えてたら、なんか、ッギョゥワァァァァァァーってゆうふうになってきちゃって。で、それもなんかいい感じじゃんて思ったんで、そうしました」
とか言うのだろうか。殺す。
「彼らを20歳の若者と思ってはだめです。小学14年生です」
あの言葉が再び脳裏をよぎった齋藤浩30歳の春。もうすぐ夏。
●2000年10月
なんとか前半を乗り切った。勝手に掲げていたデザイン教育論はいったん引っ込め、オペレーター養成講座と割り切ってしまえばけっこううまく進めることができた。
そんなある日。いつものようにIllustratorの使い方なんぞを指導していると、ある学生が机の上に足を乗せているのに気がついた。ムッとしたオレだったが、穏やかに「きみきみ、授業中なんだから足を机から下ろしなさい」と言ってみたところ「なんでですか?」「うっ…」〈沈黙〉
なんでですかだと?? それが授業を受ける態度かコノヤロー! と、どついてみようかと思ったが、彼の表情をみると本気でそう聞いているらしい。なので私はなぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないかを説明した。
私は教育者ではない。なので私のことを先生と呼べとか、それが人からものを教えてもらう者の態度か! などとは言わない。そもそも私は教えているつもりはない。同じ仕事を目指す者に対して、すでにその仕事をしている者としてノウハウを提示しているだけだ。そこから各自が必要なことを学び取ればいいのだ。しかし、である。人として最低限のマナーは守るべきではないか。そう、人として。私は聖人ではない。不愉快な態度をとられても平常心でいられるほど人間ができてないのだ。なので、そういった態度をとられると本来授業を円滑に進めるためのパワーを怒りを抑えるために使うこととなる。授業は君一人に対して行われているものではない。君が机の上に足を乗せることによって進行役である私の力が半減したとしたら、受講している全員が迷惑することになるのだ。君が君の責任で何しようが私の知ったことではない。しかし、君がしたことによりここにいる皆が迷惑するとしたら、それはすべきことではない。違うか? といったようなことを延々20分もかけて語ったと記憶している。
最終的には彼も理解してくれたようで、「わかりました」と言って机から足を下ろした。わかってくれればいいんだ。知らなかっただけなんだよね。どういう教育うけてんだコイツ、子がバカなのは親の責任だよな。とは思ったけど口には出さなかった。授業1コマの時間は180分。実にその1/9の時間を「なぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないのか」に使った計算になる。
こう見えても私はデザイナーだ。決して有名じゃないけどそれなりに実力もあるし、いいものを作れるという自負もある。そんな俺様の授業の1/9の内容が「なぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないのか」……。
悲しいかった。情けなかった。俺はその程度の男だったんだ。このままやっていく自信はありません。これはデザインの授業ではありません。デザインの学校はデザインの教育をすべきです。私にデザインのゼミを持たせてください。そうしてくれなきゃ今すぐ辞める。だだをこねてみた30歳の秋。
●2001年4月
脅しが功を奏したのか、晴れてデザイナー養成講座『グラフィック研究ゼミ』を開講することができた。ここからやっと本当の意味で学校のセンセイ稼業がスタートしたと言えましょう。コンセプト重視の楽しい課題を毎週どっさり出しました。ぬるま湯に浸かりきっていた若造達はあわてふためき、どんどん脱落していったのです。ヒッヒッヒざまーみろ。
それでもついてきた者達は、なんだかんだでいっぱしのデザイナーとして社会に出てがんばっています。うーん、頼もしい。そんなこんなで、これからくだらないことや楽しいことや悲しいことを沢山経験することとなるのですが、それはまた次の機会にご紹介ってことで。ではまたねー。
※この物語は事実を基に多少脚色を加えたフィクションに近い実話ですと言っても過言ではないと思わなくもない。
学校のセンセイ・始動編でした。今の学生と当時の学生を比較してみると、ぜんぜん違います。最近の学生は文句ひとつ言わずに真面目に課題をこなすけど、突拍子もない馬鹿げた作品を作る者は減ってきました。あの頃、学生と講師がケンカしながら荒っぽい作品が作られていったのに対し、今はそれぞれの作風が比較的おとなしく、似通ってきているように思えるのです。クオリティも環境も良くなっているのは確かなんだけど、根性のあるバカ(もちろんいい意味で)が減ってきているのは残念。
男女比もずいぶん変わった。今は女子が異常に多いのだ。しかも弱々しい感じのぼーっとした少数の男子に対し、覚悟を決めた女子のパワーはどんどん強くなってきている。気づけよ、男。自ら動かねば何も変わらんぞ。
[さいとう・ひろし]saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
>
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■伊豆高原へいらっしゃい[3]
「スターゲイト」を見よう!
松林あつし
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140200.html
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先日、伊豆高原での天体観測について書きましたが、実は僕、天文好きが高じて宇宙物のSFドラマも大好きなのです。当然、CGを仕事としているので、それらのSFXにも興味はあります……しかし、なんと言ってもその醍醐味は、未知の分野をフィクションという形の壮大で魅力的なシナリオで表現し、我々の想像力をかき立ててくれるところにあります。
今回はその中でも、アメリカのテレビドラマ「スターゲイト」を取り上げてみたいと思います。ちょっと、コアすぎました? まあ、少しでもSFに興味のある方は、少々お付き合いください。
実は、僕にはSFを楽しく見る基準があります。あくまで主観ですが、以下のようなシナリオや設定上の妥協点が目立つ場合、すぐ興ざめして見る気が失せるのです。
1)科学的な基礎を完全に無視した設定
2)シナリオの整合性が欠けている
3)初めて訪れた星で、エイリアンや住人が英語をしゃべっている
4)初めて訪れた星で、いきなり宇宙服(ヘルメットなど)を着けずに歩く
5)アメリカ人が地球を救って、最後に感動が訪れるというシナリオ
この基準で見ると、かの有名な「アルマゲドン」などは、地球を救うためにスペースシャトルを二機並べて、同時に発射した時点で「あ〜あ……」ってなってしまうわけです(そんな打ち上げ方、あり得ませんから……)。
それで、今回のテーマ「スターゲイト」はどうか、と言いますと……実は非常につっこみどころは多いのです。しかし、それらを打ち消すだけの、綿密なシナリオと壮大さは他のSFを凌駕しています。さらに、このシリーズは元々映画「スターゲイト」の続編として描かれており、そのTVドラマは、放送回数SF部門で歴代1位という超長寿番組なのです。今やシーズン1〜シーズン10まで10年に及ぶ大河SFとなっています。さらにさらに、本筋からスピンオフした「アトランティス」シリーズもAXN(スカパーチャンネル)にてシーズン2を放送中です(2008年には北米でStargate Universeというシリーズが放送されるそうで、新たなスピンオフでしょうか)。
簡単にストーリーを説明します。
<映画:スターゲイト>
1928年、エジプトの遺跡で巨大なリングが見つかる。近年になって、それが宇宙のいたる所をワームホールで繋いでいる「ゲート」であることが判明。導き出されたアドレス先に調査団を送るべく、アメリカは極秘裏にトラベラーチームを結成し、異星アビドゥスへと旅立つ。しかし、その先で待っていたのは、古代エジプト時代に地球から奴隷として連れてこられたアビドゥス人と、ゴアウルドと呼ばれる種族の支配者「ラー」だった。
<ドラマ:スターゲイトSG1>
あれから一年。アメリカの軍事基地地下深くに眠っていたスターゲイトが動き出し、突然ゴアウルドの支配階級の一人、アポフィスが現れ、物語は再び動き出す。アビドゥスに残っていたダニエル・ジャクソン博士の妻シャーレが誘拐され、ゴアウルドの幼生を埋め込まれてしまう。シャーレを救うべくダニエルはSG1のメンバーとなり、SGチームはゴアウルドと戦いながら、銀河に満ちている異星人や、古代にスターゲイトで異星に連れて行かれた、人間の子孫達との交流を図り、文化や知識を学んでいく。
時には異文化の科学力を搾取しようとする政府の秘密組織NIDに邪魔をされながらも、ゲイトアドレスを増やしていき、冒険の範囲をどんどん広げていく。他文明との交流や戦いの中から、銀河の四大知性体種族である、アスガード、ノックス、ファーリング、エンシェントの秘密を解明していく。SG1においては、アスガードとの繋がりや同盟関係が強調されている。SG1シリーズ後期ではアスガードからの技術提供で亜光速航行(ワープ)が可能な大型宇宙船を建造し、一気にスタートレック的な様相を呈し始める。
南極で第二のスターゲイトが発見された事を発端に、エンシェントを求めて他の銀河への旅を始めた人類をモチーフにした「スターゲイト・アトランティス」も、同時進行で描かれている。SG1とアトランティスは話が時々リンクする。
このシナリオのおもしろいところは、古代文明の多くは異星人によって形成され、その時、人類の多くが奴隷として銀河中にばらまかれた……結果、今現在、人類の子孫が多くの星系でそれぞれの文明を築いている、という点です。つまり、今銀河に溢れている異星人の多くは「人間の子孫」……つまり、そこは元から人間が生存可能な環境が揃っている星であり、そして、住人の多くが過去の地球の英語圏から連れて来られた人々、という前提で考えると、宇宙服もなしにいきなり異星へ降り立つのも、訪問先の星で住人が英語をしゃべるのも、納得(?)いくのです(すごいこじつけですが)。
それと、注目すべき点は、アメリカのSFドラマにありがちな、「地球人=アメリカ人」という図式を崩し、地球には多くの種族がおり、それぞれ文化や考え方が違うという前提で物語が進んでいるところです。もちろん、最初はアメリカ軍の中の一部の組織が関わる「極秘プロジェクト」として出発する訳ですが、ストーリーが銀河全体に及び、なおかつそのプロジェクトのおかげで、世界が知らないところで、地球が度々破滅の危機にみまわれだすと、整合性を取るために他の国も巻き込んだシナリオにせざるを得なかったという感じでしょうか(残念な事に、その他の国々には日本は含まれません。それどころか、日本人は一切出てこない)。
そして、シナリオもさることながらドラマの最大魅力は、そのテーマ性が多岐にわたっている点です。盛り込まれているテーマとして、思い付くだけでも、科学、文化、宗教、神、古代史、戦争、精神世界、恋愛、宇宙人、政府の陰謀、パラレルワールド、タイムスリップ、ゾンビ(生き返り)、バイオハザード、アンドロイド、悟りなど……う〜ん、つまり、何でもありって事ですね。しかし、このごった煮のような世界観でありながら、根底にあるストーリーが揺らがないところがすごい!
また、何でもありと言えば、このシリーズは数多くの名作SFからインスパイアされている、と言えるのです。まず、何はともあれSFの王道「スタートレック」です。アメリカ軍が極秘に異星人から提供を受けた技術で建造した宇宙船は、形こそ違え、エンタープライズそのものです。戦闘シーンは「スター・ウォーズ」、ワームホールでの移動手段は「コンタクト」、政府の秘密組織が絡むサスペンスは「Xファイル」、そして、根底に流れる"エンシェント(数百万年前に地球で文明を築いた謎の種族)のエネルギー体への昇華(悟り的進化)"はまさに「2001年宇宙の旅」のテーマでもあります。
キャストとしては、主人公のオニール大佐にリチャード・ディーン・アンダーソン(映画ではカート・ラッセル)、ダニエル・ジャクソン博士にマイケル・シャンクス(映画ではジェームズ・スペイダー)が演じています。その他、ドラマで新たに加わった、サマンサ・カーター大尉(後に少佐>中佐)のアマンダ・タッピング、正義に目覚めた異星人ティルクにクリストファー・ジャッジを配役し、ストーリーに柔軟性とおもしろさを加えています。
とりわけ、アマンダ・タッピングはドラマの人気を支える重要なヒロインではないでしょうか。なんと言っても現在42歳でありながらキュートで魅力的だ!実は、アメリカのSFドラマの出演者は、他のSFドラマにも多数出演しており、その関連作を見て、「あのドラマの主人公の人が、この作品ではこれか!」なんて楽しみ方もできます。
まだまだ、書きたいことは山ほどありますが、紙面(?)の都合で、このあたりまでとします。
でも、もし近所のレンタルDVDショップに「スターゲイト」を置いていなかったら、どうすれば見られるのでしょうか。DVDを全部買いそろえていたのでは20万円以上のお金がかかります。そこで僕の方法を紹介しますと……まず、出たばかりのシリーズを新品で購入し、全エピソードを見終わったら、ネットオークションに出します。もし、その売買差額が5000円だとすると、1シーズン8枚(22話)ですから、1枚のDVDを625円で見ることができる計算になります。(あくまで、オークションですので、自己責任で)
ぜひ、「スターゲイト」を沢山の方に見てもらって、"ゲイトの輪"を広げたいですね。
・AXN「スターゲイト」ページ
< http://www.axn.co.jp/stargate/index.html
>
[まつばやし・あつし]mail@atsushi-m.com
イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/
>
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■展覧会案内
荒野のグラフィズム:粟津潔展
< http://www.kanazawa21.jp/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140100.html
>
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< http://www.kanazawa21.jp/ja/12press/pdf/awazu.pdf
>(PDF)
会期:11月23日(金)〜3月20日(木)10:00〜18:00 月休 金土20時
会場:金沢21世紀美術館(金沢市広坂1-2-1 TEL.076-220-2801)
入場料:一般1,000円、大学生・65歳以上800円、小中高生400円
内容:ドローイング、ノート、未発表作品、実験映像、新資料を含め、同館が所蔵する約2600点におよぶ粟津潔作品より主要な1500余点を一堂に展観し、有形無形の粟津芸術の全貌を捉え、その現在性を問いかける。
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■編集後記(11/22)
・昨日、昼食を食べているとき市役所から電話が来た。「市役所の××××と申します。ご本人様ですか。本日お電話を差し上げたのは、平成18年度の…」という流暢なトーク。応答のあと黙っていたら、少し間を置いて電話は切れた。しばらく待ったがかかってこない。待てよ、いかにもな公務員声(どういうのだ?)だったが、自分の所属部課名を名乗らないのはおかしいし、用があるならかけ直してくるはずだ。これが、「税金を還付するから云々」でATMから金を振り込ませる「振り込め詐欺」の一種ではないかと思った。もう少しちゃんとつきあってやればよかった。先日、【最終通告】というメールが来た。「あなたが支払いを延滞している下記サイト運営会社より、あなたの氏名調査・所在調査及び不良債権回収業務の依頼がありました」と、回収代行手数料を加えて54,135円の請求である。「今回、万一入金が確認できなかった場合、当社関連会社の調査部門が自宅・勤務先をアドレスから調査し、回収専門員があなたの自宅、勤務先へ直接、回収に伺う事となります。(略)従って、今から問い合わせを頂いても、一切お答えいたしません。解決したいとお考えなら、至急入金をお願いします。今回入金頂けなかった場合、断固たる処置を取りますので、宜しくお願いいたします。また、回収に行った場合、交通費、宿泊費、回収手数料(金10万円)を下記金額に上乗せします。これ以上の、遅れは一日も絶対に猶予しませんので、何卒宜しくお願いします」だって。変な文体。デスクに転送したら「わはは。送信元がgmail。回収窓口がhotmailってありえない〜」と大笑いされた。おいしい話もこわい話も、金を持っていないわたしにとっては「そんなの関係ねえ」んだ。←いばることもないか。(柴田)
・齋藤さんみたいな先生に習いたかったな。/サッカー、五輪出場決定おめでとう!/あと「自宅・勤務先をアドレスから調査」というのも独自ドメインじゃなければ難しい話だし、直接取立てとか言うなら、請求明細を先に出せとか、裁判所通せとか、明細がはっきりするまでは供託をとか、来られる前にいろいろ回避策はありそう。「一日も絶対に猶予しません」って何じゃそりゃ。法律家やそれに準ずる人が使う言葉じゃないよね。法定利息にのっとり、とかならわかるけど。にしてもハガキや封書代までケチれるネット詐欺ってリスク少なくって旨味多そうよねぇ。そういう時は迷惑メール情報提供先に転送か、警察のサイバー犯罪相談窓口に連絡だ。オレオレの時も思ったけど、うちの子じゃないと思った人は切るだけだもんな。悪いことしたら罰を受けると思ってもらわないと。といっても最近の迷惑メールフィルタは優秀で、そんなメールが届いたかどうかすらわからないものものもあったり。今までで一番怖かったのは電話。俺はやくざだ、お前の家はわかっている。要求をのまなければ今からそっちに行く、家族にも害を加えるという脅し。で、何をさせるかというと、服を脱げ、今から要求どおりのことをしろっていう猥褻行為。とても怖かったけど、そういう不当な要求されることの方が腹が立つのよね。なので来るなら来い、といって切った。震えが止まらなかったけど、金槌やらのこぎりやら出してきて、玄関前でしばらく待ったわよ(笑)。何も起こらなかったわよ。いま思えばバカらしいけど、ほんと怖いのよ。言いなりになる人は結構いるんじゃないかなぁ。(hammer.mule)
< http://www.dekyo.or.jp/soudan/ihan/
> 違反メールの情報提供
< http://www.npa.go.jp/cyber/soudan.htm
> サイバー犯罪相談窓口
学校のセンセイの巻 その1・始動編
齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140300.html
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さて記念すべき『わが逃走』10回目。もう10回も書いてるんですね。前回は思い入れ満載の狭くて深い話を書きました。このまま突き進みたい気持ちをぐぐっと抑えて、今回は『学校のセンセイ』について書いてみようと思います。ちなみに今回のタイトルに「その1」と付いていますが、その2がいつ発表されるかは書いてる本人もわかりません。
えー、私は現在、某美術専門学校で広告とグラフィクデザインに関するゼミのセンセイをしています。なんだかんだで今年で7年目。嬉しいことに学生の質も良く、デザイナーとして優れた仕事をしている卒業生も多くいます。
でも、ここまで来るには、いろいろあったんですよー。俺様としましても、どういった経緯でデザイン教育に携わることになったかを記録しておかないと忘れてしまいそうなので、今回はこの場を借りて発表させていただきます。
●1999年3月上旬
2月末日で広告制作会社を退社した。ついにフリーランスのデザイナーになった訳だが、仕事のあてはまったくなかった。すべてゼロからのスタート。
いま目の前にしなければならない仕事がまったくないというのは、ある意味清々しいものである。自分の正しいと思うデザインをじっくりと自主制作しながら、いろんな人達と交流して人脈を増やしていける。まあ、こんな時代だし仕事自体も少ないとは思うが、食えなくて死ぬということもないんじゃないか?と、心配性のオレにしては何故だか妙に落ち着いていたと記憶している。
おそらく人生史上最も緊張した出来事『会社に辞表を提出する』を終えた直後だったので、辞表を出すことに比べれば収入がなくなることなんて恐くもなんともねーやという気持ちになっていたのだろう。ほんとはそっちの方が問題なのだが。
しかし、フリーランスにとってまず必要なのは、収入の保証のなさに対する恐怖心を抑える力。根拠もなく自信を持てる図々しさなのではなかろうか。これを別の言葉で覚悟ともいう。(そうか?)
●2000年2月中旬
なんだかんだでフリーになって一年が過ぎようとしていた。ビンボーだけど、納得のいく仕事だけでギリギリ食っていけてた。
そんなある日電話が鳴った。ムサビ時代の師であり、某CG制作者団体の顔役でもあるK氏からだった。訳あってO美術専門学校の非常勤講師を辞めることになったので、その後任をやってほしいという内容。
以前からデザイン教育には興味があったし、私がデザイナーになることができたのも多くの先輩や先生のおかげである。こんどは私の番だ! 私には真っ当なデザイナーを世に送り出す義務があるのだ!!(85%)定期的な収入があれば家賃の心配も減るぞ!!(15%)「やります。是非ともやらせてください」鼻息も荒く即答した。
●2000年3月中旬
O美術専門学校にて面接。今までの作品をまとめたポートフォリオを持参し、常勤講師に対しプレゼン。デザインとは情報伝達手段です。伝えたいことを相手に対していかに分かりやすく伝えるか。その計画をするのがデザイナーです。デザイナーに最も必要なことはMacを上手に使えるかといった事ではなく、ビジュアルという言語を使って相手を振り向かせ、語る能力なのです。といったようなことを熱く語った。相手の反応も良かったようだ。数日後、正式回答が来た。4月から非常勤講師として採用、ということだった。
当時蔓延していた「Macのオペレーション能力=デザイン能力」という誤解をとき、自らのデザイン論を語り合えるような若手を育てたい。そんな志を掲げる私だったが、「とにかく学生がMacを上手に使えるようにしてください。」ということで、Mac技術指導要員として雇われることになった。まあいいか。「それとwebの授業もお願いします。」「あのwebって…私はグラフィックが専門でして、インターネットのたぐいは全然…」「大丈夫、齋藤さんなら出来ますよ」
翌日、『サルでも分かるMacOS』と『初めてのホームページ』なる本を購入、Macの仕組みも分かってないし、webのウェの字も知らない私は勉強づけの毎日となった。授業スタートまで一か月。間に合うのだろうか。不安にかられる齋藤浩30歳の春であった。
※ここでちょっと説明しておくと、デザインの指導とオペレーションの指導って全く別ものなんです。私はMacを使ってデザインの仕事をしてるけど、必要なソフトの必要な機能だけを我流で使っていただけだったので、例えば矢印をポインタと呼ぶことすら知らなかったのです。デザインの話はMacに触れなくてもできるけど、Macの話はMacを知らないとできないのです。
●2000年4月中旬
講師室でちょっとしたミーティングの後、教室へ移動。さて最初の授業だ。グラフィックデザインの定番ソフト、IllustratorとPhotoshopを使って数か月かけてダラダラと一枚のポストカードを作るといった内容。授業内で全て完結させないといけないので、「来週までにやって来い」というような課題を出してもいけない。
さて、学生の第一印象。バカばっか。学ぼうという姿勢がない。教えてくれるのを口をあけて待ってるだけ。デザインの学校に来たってことはデザイナーになりたいんだろ? そう思っていたオレが間違っていたのだ。奴らの大半が消去法で進路を決めているように思えた。デザイナー志望の者ですら、この状況で満足している。自分が動かないから周りも動かない。言われないからやらない。当然、作品数も増えない。数を作らないからいいものができない。そうこうしているうちに卒業だ。
「彼らを20歳の若者と思ってはだめです。小学14年生です」いつか聞いた常勤講師の言葉を思い出す。こういうことだったのか。とりあえず授業を始めてみた。すぐに理解する者もいれば、なかなか理解できない者もいる。前者に合わせると落ちこぼれが増え、後者に合わせるとできる者がダレる。
当時の学生はパソコンに触ったことのない者も少なくなかった。「はーい皆さん、このまるっこい物をマウスと言います」とか「マウスのボタンをカチカチって押すことをダブルクリックと言います」なんてやってるうちにあっという間に1コマ3時間の授業が終わる。精神的にものすごい疲れるが、内容は一向に進まない。なんとか最初の授業を終えた私は、身も心もボロボロだった。
webの授業はやや状況が違っていた。なんと、すでに自分のホームページを作っている者が受講していたのだ。当時は今と違ってメールもインターネットも知らない学生がまだ多くいた反面、好きな奴はすでにどっぷりハマっていた。一応私はセンセイを名乗っていたが、webに関しては前述のとおりにわか覚えの知識しか持ってない。それを悟られないように授業を進行しなければならないのだ。危険きわまりないミッション。
とにかく、その週の内容を正確に理解した上で授業に臨まなければならない。予習は確実にこなし、翌週以降の内容にかかる質問は(まだ勉強してないので)一切受け付けないという姿勢を貫く。授業前日にやっと理解したことを翌日に教える。そんな綱渡りのようなギャンブル人生。
この時の給料は1コマあたり8000円。時給にして2600円。しかし、事前に授業の進行計画はもちろん、HTMLなどという呪文のような言葉を勉強し、教えられるレベルにまで理解しておかないといけない。授業の準備に時間をかければかけるほど時給は下がる計算になる訳で、結果的に私のギャラは高校生の時給以下だった。
まあ、そんなことはどうでもいい。おかげでwebのウェの字も知らない私はホームページ制作の知識を身に付けてしまったのだから。でも、果たしてこれを教育と呼べるのか。専門分野はその道のプロが指導すべきなのではないか。理想と現実の狭間に苦しむ齋藤浩30歳の春。
●2000年5月
学校にも慣れてきた。最初はバカばっかと思っていた学生の中にも、磨けば光りそうな奴が見えてきた。そんなある日。
画像処理の授業でPhotoshopを使って好き勝手絵を描かせていたところ、「あ、先生。ちっと、いいすかー」ある学生が質問してきた。見せられたのは、戦闘機らしきものがミサイルを発射しようとしているシーンを描いたものだった。
「これさあ、今ピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってんじゃん。これをドゥルルルルルルルルーゥってしたいんだけど、どうやんの?」
「はい?」
「だからさあ、ここんとこ、ピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってんじゃん。これをドゥルルルルルルルルーゥってしたいんだけど、どうやんの?」
〈沈黙〉
「ほほう。君はピシュゥィピシュゥィピシュゥィッってなってる部分をドゥルルルルルルルルーゥってしたい訳だね。なるほど」
「あぇい」。うなずきながら発したのだから肯定の意思表示なのだろう。
「すまんが何を言ってんだか分からん。君は君の表現したいイメージがあるのだろう。しかし、まずそれを伝える言葉を知れ」
私はそう言って彼に背を向けた。おそらく彼は私に不満を持ったことだろう。
質問してんのに答えてくんねー。齋藤マジムカツク。とか言ったに違いない。
しかしが私はデザイナーである。デザインに関することなら誠心誠意答えよう。
だが、それ以前の問題まで面倒見る気はねーよ。
もし彼がこのままデザイナーになったとして、自分の案をクライアントにプレゼンする際、どのような言葉で伝えるのだろうか。「えっとー。こんどの広告の案なんすけどー。いままではどっちかってゆーとプシュギュゥァーッッって感じだったじゃないすか。でも、次からはもっとッグバシュゥッッッゥゥゥゥーンてした方が若者に受けるんじゃないかってことで、で、考えてたら、なんか、ッギョゥワァァァァァァーってゆうふうになってきちゃって。で、それもなんかいい感じじゃんて思ったんで、そうしました」
とか言うのだろうか。殺す。
「彼らを20歳の若者と思ってはだめです。小学14年生です」
あの言葉が再び脳裏をよぎった齋藤浩30歳の春。もうすぐ夏。
●2000年10月
なんとか前半を乗り切った。勝手に掲げていたデザイン教育論はいったん引っ込め、オペレーター養成講座と割り切ってしまえばけっこううまく進めることができた。
そんなある日。いつものようにIllustratorの使い方なんぞを指導していると、ある学生が机の上に足を乗せているのに気がついた。ムッとしたオレだったが、穏やかに「きみきみ、授業中なんだから足を机から下ろしなさい」と言ってみたところ「なんでですか?」「うっ…」〈沈黙〉
なんでですかだと?? それが授業を受ける態度かコノヤロー! と、どついてみようかと思ったが、彼の表情をみると本気でそう聞いているらしい。なので私はなぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないかを説明した。
私は教育者ではない。なので私のことを先生と呼べとか、それが人からものを教えてもらう者の態度か! などとは言わない。そもそも私は教えているつもりはない。同じ仕事を目指す者に対して、すでにその仕事をしている者としてノウハウを提示しているだけだ。そこから各自が必要なことを学び取ればいいのだ。しかし、である。人として最低限のマナーは守るべきではないか。そう、人として。私は聖人ではない。不愉快な態度をとられても平常心でいられるほど人間ができてないのだ。なので、そういった態度をとられると本来授業を円滑に進めるためのパワーを怒りを抑えるために使うこととなる。授業は君一人に対して行われているものではない。君が机の上に足を乗せることによって進行役である私の力が半減したとしたら、受講している全員が迷惑することになるのだ。君が君の責任で何しようが私の知ったことではない。しかし、君がしたことによりここにいる皆が迷惑するとしたら、それはすべきことではない。違うか? といったようなことを延々20分もかけて語ったと記憶している。
最終的には彼も理解してくれたようで、「わかりました」と言って机から足を下ろした。わかってくれればいいんだ。知らなかっただけなんだよね。どういう教育うけてんだコイツ、子がバカなのは親の責任だよな。とは思ったけど口には出さなかった。授業1コマの時間は180分。実にその1/9の時間を「なぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないのか」に使った計算になる。
こう見えても私はデザイナーだ。決して有名じゃないけどそれなりに実力もあるし、いいものを作れるという自負もある。そんな俺様の授業の1/9の内容が「なぜ机の上に足を乗せて授業を受けてはいけないのか」……。
悲しいかった。情けなかった。俺はその程度の男だったんだ。このままやっていく自信はありません。これはデザインの授業ではありません。デザインの学校はデザインの教育をすべきです。私にデザインのゼミを持たせてください。そうしてくれなきゃ今すぐ辞める。だだをこねてみた30歳の秋。
●2001年4月
脅しが功を奏したのか、晴れてデザイナー養成講座『グラフィック研究ゼミ』を開講することができた。ここからやっと本当の意味で学校のセンセイ稼業がスタートしたと言えましょう。コンセプト重視の楽しい課題を毎週どっさり出しました。ぬるま湯に浸かりきっていた若造達はあわてふためき、どんどん脱落していったのです。ヒッヒッヒざまーみろ。
それでもついてきた者達は、なんだかんだでいっぱしのデザイナーとして社会に出てがんばっています。うーん、頼もしい。そんなこんなで、これからくだらないことや楽しいことや悲しいことを沢山経験することとなるのですが、それはまた次の機会にご紹介ってことで。ではまたねー。
※この物語は事実を基に多少脚色を加えたフィクションに近い実話ですと言っても過言ではないと思わなくもない。
学校のセンセイ・始動編でした。今の学生と当時の学生を比較してみると、ぜんぜん違います。最近の学生は文句ひとつ言わずに真面目に課題をこなすけど、突拍子もない馬鹿げた作品を作る者は減ってきました。あの頃、学生と講師がケンカしながら荒っぽい作品が作られていったのに対し、今はそれぞれの作風が比較的おとなしく、似通ってきているように思えるのです。クオリティも環境も良くなっているのは確かなんだけど、根性のあるバカ(もちろんいい意味で)が減ってきているのは残念。
男女比もずいぶん変わった。今は女子が異常に多いのだ。しかも弱々しい感じのぼーっとした少数の男子に対し、覚悟を決めた女子のパワーはどんどん強くなってきている。気づけよ、男。自ら動かねば何も変わらんぞ。
[さいとう・ひろし]saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/
>
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■伊豆高原へいらっしゃい[3]
「スターゲイト」を見よう!
松林あつし
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140200.html
>
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先日、伊豆高原での天体観測について書きましたが、実は僕、天文好きが高じて宇宙物のSFドラマも大好きなのです。当然、CGを仕事としているので、それらのSFXにも興味はあります……しかし、なんと言ってもその醍醐味は、未知の分野をフィクションという形の壮大で魅力的なシナリオで表現し、我々の想像力をかき立ててくれるところにあります。
今回はその中でも、アメリカのテレビドラマ「スターゲイト」を取り上げてみたいと思います。ちょっと、コアすぎました? まあ、少しでもSFに興味のある方は、少々お付き合いください。
実は、僕にはSFを楽しく見る基準があります。あくまで主観ですが、以下のようなシナリオや設定上の妥協点が目立つ場合、すぐ興ざめして見る気が失せるのです。
1)科学的な基礎を完全に無視した設定
2)シナリオの整合性が欠けている
3)初めて訪れた星で、エイリアンや住人が英語をしゃべっている
4)初めて訪れた星で、いきなり宇宙服(ヘルメットなど)を着けずに歩く
5)アメリカ人が地球を救って、最後に感動が訪れるというシナリオ
この基準で見ると、かの有名な「アルマゲドン」などは、地球を救うためにスペースシャトルを二機並べて、同時に発射した時点で「あ〜あ……」ってなってしまうわけです(そんな打ち上げ方、あり得ませんから……)。
それで、今回のテーマ「スターゲイト」はどうか、と言いますと……実は非常につっこみどころは多いのです。しかし、それらを打ち消すだけの、綿密なシナリオと壮大さは他のSFを凌駕しています。さらに、このシリーズは元々映画「スターゲイト」の続編として描かれており、そのTVドラマは、放送回数SF部門で歴代1位という超長寿番組なのです。今やシーズン1〜シーズン10まで10年に及ぶ大河SFとなっています。さらにさらに、本筋からスピンオフした「アトランティス」シリーズもAXN(スカパーチャンネル)にてシーズン2を放送中です(2008年には北米でStargate Universeというシリーズが放送されるそうで、新たなスピンオフでしょうか)。
簡単にストーリーを説明します。
<映画:スターゲイト>
1928年、エジプトの遺跡で巨大なリングが見つかる。近年になって、それが宇宙のいたる所をワームホールで繋いでいる「ゲート」であることが判明。導き出されたアドレス先に調査団を送るべく、アメリカは極秘裏にトラベラーチームを結成し、異星アビドゥスへと旅立つ。しかし、その先で待っていたのは、古代エジプト時代に地球から奴隷として連れてこられたアビドゥス人と、ゴアウルドと呼ばれる種族の支配者「ラー」だった。
<ドラマ:スターゲイトSG1>
あれから一年。アメリカの軍事基地地下深くに眠っていたスターゲイトが動き出し、突然ゴアウルドの支配階級の一人、アポフィスが現れ、物語は再び動き出す。アビドゥスに残っていたダニエル・ジャクソン博士の妻シャーレが誘拐され、ゴアウルドの幼生を埋め込まれてしまう。シャーレを救うべくダニエルはSG1のメンバーとなり、SGチームはゴアウルドと戦いながら、銀河に満ちている異星人や、古代にスターゲイトで異星に連れて行かれた、人間の子孫達との交流を図り、文化や知識を学んでいく。
時には異文化の科学力を搾取しようとする政府の秘密組織NIDに邪魔をされながらも、ゲイトアドレスを増やしていき、冒険の範囲をどんどん広げていく。他文明との交流や戦いの中から、銀河の四大知性体種族である、アスガード、ノックス、ファーリング、エンシェントの秘密を解明していく。SG1においては、アスガードとの繋がりや同盟関係が強調されている。SG1シリーズ後期ではアスガードからの技術提供で亜光速航行(ワープ)が可能な大型宇宙船を建造し、一気にスタートレック的な様相を呈し始める。
南極で第二のスターゲイトが発見された事を発端に、エンシェントを求めて他の銀河への旅を始めた人類をモチーフにした「スターゲイト・アトランティス」も、同時進行で描かれている。SG1とアトランティスは話が時々リンクする。
このシナリオのおもしろいところは、古代文明の多くは異星人によって形成され、その時、人類の多くが奴隷として銀河中にばらまかれた……結果、今現在、人類の子孫が多くの星系でそれぞれの文明を築いている、という点です。つまり、今銀河に溢れている異星人の多くは「人間の子孫」……つまり、そこは元から人間が生存可能な環境が揃っている星であり、そして、住人の多くが過去の地球の英語圏から連れて来られた人々、という前提で考えると、宇宙服もなしにいきなり異星へ降り立つのも、訪問先の星で住人が英語をしゃべるのも、納得(?)いくのです(すごいこじつけですが)。
それと、注目すべき点は、アメリカのSFドラマにありがちな、「地球人=アメリカ人」という図式を崩し、地球には多くの種族がおり、それぞれ文化や考え方が違うという前提で物語が進んでいるところです。もちろん、最初はアメリカ軍の中の一部の組織が関わる「極秘プロジェクト」として出発する訳ですが、ストーリーが銀河全体に及び、なおかつそのプロジェクトのおかげで、世界が知らないところで、地球が度々破滅の危機にみまわれだすと、整合性を取るために他の国も巻き込んだシナリオにせざるを得なかったという感じでしょうか(残念な事に、その他の国々には日本は含まれません。それどころか、日本人は一切出てこない)。
そして、シナリオもさることながらドラマの最大魅力は、そのテーマ性が多岐にわたっている点です。盛り込まれているテーマとして、思い付くだけでも、科学、文化、宗教、神、古代史、戦争、精神世界、恋愛、宇宙人、政府の陰謀、パラレルワールド、タイムスリップ、ゾンビ(生き返り)、バイオハザード、アンドロイド、悟りなど……う〜ん、つまり、何でもありって事ですね。しかし、このごった煮のような世界観でありながら、根底にあるストーリーが揺らがないところがすごい!
また、何でもありと言えば、このシリーズは数多くの名作SFからインスパイアされている、と言えるのです。まず、何はともあれSFの王道「スタートレック」です。アメリカ軍が極秘に異星人から提供を受けた技術で建造した宇宙船は、形こそ違え、エンタープライズそのものです。戦闘シーンは「スター・ウォーズ」、ワームホールでの移動手段は「コンタクト」、政府の秘密組織が絡むサスペンスは「Xファイル」、そして、根底に流れる"エンシェント(数百万年前に地球で文明を築いた謎の種族)のエネルギー体への昇華(悟り的進化)"はまさに「2001年宇宙の旅」のテーマでもあります。
キャストとしては、主人公のオニール大佐にリチャード・ディーン・アンダーソン(映画ではカート・ラッセル)、ダニエル・ジャクソン博士にマイケル・シャンクス(映画ではジェームズ・スペイダー)が演じています。その他、ドラマで新たに加わった、サマンサ・カーター大尉(後に少佐>中佐)のアマンダ・タッピング、正義に目覚めた異星人ティルクにクリストファー・ジャッジを配役し、ストーリーに柔軟性とおもしろさを加えています。
とりわけ、アマンダ・タッピングはドラマの人気を支える重要なヒロインではないでしょうか。なんと言っても現在42歳でありながらキュートで魅力的だ!実は、アメリカのSFドラマの出演者は、他のSFドラマにも多数出演しており、その関連作を見て、「あのドラマの主人公の人が、この作品ではこれか!」なんて楽しみ方もできます。
まだまだ、書きたいことは山ほどありますが、紙面(?)の都合で、このあたりまでとします。
でも、もし近所のレンタルDVDショップに「スターゲイト」を置いていなかったら、どうすれば見られるのでしょうか。DVDを全部買いそろえていたのでは20万円以上のお金がかかります。そこで僕の方法を紹介しますと……まず、出たばかりのシリーズを新品で購入し、全エピソードを見終わったら、ネットオークションに出します。もし、その売買差額が5000円だとすると、1シーズン8枚(22話)ですから、1枚のDVDを625円で見ることができる計算になります。(あくまで、オークションですので、自己責任で)
ぜひ、「スターゲイト」を沢山の方に見てもらって、"ゲイトの輪"を広げたいですね。
・AXN「スターゲイト」ページ
< http://www.axn.co.jp/stargate/index.html
>
[まつばやし・あつし]mail@atsushi-m.com
イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/
>
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■展覧会案内
荒野のグラフィズム:粟津潔展
< http://www.kanazawa21.jp/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20071122140100.html
>
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< http://www.kanazawa21.jp/ja/12press/pdf/awazu.pdf
>(PDF)
会期:11月23日(金)〜3月20日(木)10:00〜18:00 月休 金土20時
会場:金沢21世紀美術館(金沢市広坂1-2-1 TEL.076-220-2801)
入場料:一般1,000円、大学生・65歳以上800円、小中高生400円
内容:ドローイング、ノート、未発表作品、実験映像、新資料を含め、同館が所蔵する約2600点におよぶ粟津潔作品より主要な1500余点を一堂に展観し、有形無形の粟津芸術の全貌を捉え、その現在性を問いかける。
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■編集後記(11/22)
・昨日、昼食を食べているとき市役所から電話が来た。「市役所の××××と申します。ご本人様ですか。本日お電話を差し上げたのは、平成18年度の…」という流暢なトーク。応答のあと黙っていたら、少し間を置いて電話は切れた。しばらく待ったがかかってこない。待てよ、いかにもな公務員声(どういうのだ?)だったが、自分の所属部課名を名乗らないのはおかしいし、用があるならかけ直してくるはずだ。これが、「税金を還付するから云々」でATMから金を振り込ませる「振り込め詐欺」の一種ではないかと思った。もう少しちゃんとつきあってやればよかった。先日、【最終通告】というメールが来た。「あなたが支払いを延滞している下記サイト運営会社より、あなたの氏名調査・所在調査及び不良債権回収業務の依頼がありました」と、回収代行手数料を加えて54,135円の請求である。「今回、万一入金が確認できなかった場合、当社関連会社の調査部門が自宅・勤務先をアドレスから調査し、回収専門員があなたの自宅、勤務先へ直接、回収に伺う事となります。(略)従って、今から問い合わせを頂いても、一切お答えいたしません。解決したいとお考えなら、至急入金をお願いします。今回入金頂けなかった場合、断固たる処置を取りますので、宜しくお願いいたします。また、回収に行った場合、交通費、宿泊費、回収手数料(金10万円)を下記金額に上乗せします。これ以上の、遅れは一日も絶対に猶予しませんので、何卒宜しくお願いします」だって。変な文体。デスクに転送したら「わはは。送信元がgmail。回収窓口がhotmailってありえない〜」と大笑いされた。おいしい話もこわい話も、金を持っていないわたしにとっては「そんなの関係ねえ」んだ。←いばることもないか。(柴田)
・齋藤さんみたいな先生に習いたかったな。/サッカー、五輪出場決定おめでとう!/あと「自宅・勤務先をアドレスから調査」というのも独自ドメインじゃなければ難しい話だし、直接取立てとか言うなら、請求明細を先に出せとか、裁判所通せとか、明細がはっきりするまでは供託をとか、来られる前にいろいろ回避策はありそう。「一日も絶対に猶予しません」って何じゃそりゃ。法律家やそれに準ずる人が使う言葉じゃないよね。法定利息にのっとり、とかならわかるけど。にしてもハガキや封書代までケチれるネット詐欺ってリスク少なくって旨味多そうよねぇ。そういう時は迷惑メール情報提供先に転送か、警察のサイバー犯罪相談窓口に連絡だ。オレオレの時も思ったけど、うちの子じゃないと思った人は切るだけだもんな。悪いことしたら罰を受けると思ってもらわないと。といっても最近の迷惑メールフィルタは優秀で、そんなメールが届いたかどうかすらわからないものものもあったり。今までで一番怖かったのは電話。俺はやくざだ、お前の家はわかっている。要求をのまなければ今からそっちに行く、家族にも害を加えるという脅し。で、何をさせるかというと、服を脱げ、今から要求どおりのことをしろっていう猥褻行為。とても怖かったけど、そういう不当な要求されることの方が腹が立つのよね。なので来るなら来い、といって切った。震えが止まらなかったけど、金槌やらのこぎりやら出してきて、玄関前でしばらく待ったわよ(笑)。何も起こらなかったわよ。いま思えばバカらしいけど、ほんと怖いのよ。言いなりになる人は結構いるんじゃないかなぁ。(hammer.mule)
< http://www.dekyo.or.jp/soudan/ihan/
> 違反メールの情報提供
< http://www.npa.go.jp/cyber/soudan.htm
> サイバー犯罪相談窓口