うちゅうじん通信[24]孤独の共感
── 高橋里季 ──

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今日は、前回掲載した「ミナカのペンダント」について書きます。前回の物語りはこちらから。ペンダントのイラストも見てみてね。
< https://bn.dgcr.com/archives/20080606140300.html
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脳と心の化学 (ポピュラーサイエンス)さてペンダントの中にある記号は、エンドルフィンという神経伝達物質。脳内麻薬物質ともいわれるもので、化学式を探したのですが、やっと見つけたのは、1993年の本で大木幸介著「脳と心の化学」(裳華房)から。

本によると、R(アミノ酸)4個でエンケファリン、30個でβ・エンドルフィンというように書いてあって、どうやって30個のRを図式にするのか、また、α型はどうなのか、よくわからないんです。

映画にもなった小川洋子さんの小説「博士の愛した数式」では、数学の「友愛数」が出てきたり、「オイラーの公式は暗闇に光る一筋の流星だった。」とか書いてある。名もないインドの数学者が発見したという「ゼロ」についての記述も面白くて、「古代ギリシャの数学者たちは皆、何も無いものを数える必要などないと考えていた。」とかね。



博士の愛した数式 (新潮文庫)この小説を書くために、小川洋子さんは数学者に取材をしたらしい。いろんな物語に科学や神話のディティールが使われたりするけれど、みんな取材とかするのかもしれない。学者さんに取材を申し込むなんて、素敵! 羨ましいな〜と思いますが、取材をする側も、そうとう勉強していかないと質問するのさえ難しそう。

愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史エンドルフィンが面白いと思うのは、1993年の人類学者の本「愛はなぜ終るのか」ヘレン・E・フィッシャー著(草思社)を読んでから。この本では、恋愛中の気持ち、わくわくしたり、相手のことを四六時中、想い続けたり、、、ということを脳内麻薬物質エンドルフィンの為せる技として説明しています。それで、ヒトの脳は、その脳内麻薬に2〜4年で慣れてしまうとか、疲れてしまうとかで、個人差はあるものの、エンドルフィンの分泌が一定期間以上は続かないんですって。

それで、エンドルフィンが脳の中で出来なくなると、恋愛感情も冷めてしまって、麻薬の幻覚が覚めるように、恋人を客観視するようになるという話。私としては、そこから恋愛とは違う、どきどきわくわくとは違う、人間同士の理性的な愛情のようなものが始まると考えていますが、どうでしょう?

進化しすぎた脳 (ブル-バックス)だけど、2007年の池谷裕二著「進化しすぎた脳」には、「エンドルフィン仮説が正しいとしたら」って書いてある。私は、こういう一行で、「あら? 仮説だったのかしら?」と思い、また機会があったら調べてみようと思うけど、あんまり急いではいません。こういうことに詳しい人がいたら教えて下さいね。

たぶん、「ミナカの物語」で、ミナカが傷つけた「壁」というのは、量子的(デジタル的)な壁の話なんです。だから、お話が進展するためには、エンドルフィンの詳細は後回しで、イラストもまた、描きなおすかも? な感じなんだけど、エンドルフィン化学式が、7項で出来ている所が、私、大好きなの。

ヒトとサルのあいだ―精神はいつ生まれたのかどうして7項だといいと思うのかというと、このごろ一番のお気に入りの本、何度も書くけれど、吉田脩二著「ヒトとサルのあいだ」精神構造の説明が、「全能因子」「意識」「自明性」と言語的精神、一体感的精神、自力的精神、他力的精神の7項で出来ているの。その精神構造を同書では、4頭立ての馬車の比喩で説明しています。

私は、フロイドの3項と、ユングとラカンの4項をどうやって並べようか、ずっと考えていたんです。だから「ヒトとサルのあいだ」はとても興味深く読みました。物語に「7項という数」の要素があったりすると、それだけで、あとで何か素敵なエピソードを思い付きそうな気がします。

私、自分でも何を考えてるのかわからないんだけど、本棚にね、背中を向けたまま、適当に手を伸ばして斜上方の本を抜き取って読みはじめたりしている時があって、そういう時は、もう読むことが決まっているみたいに、ある箇所をパラパラ開いて読み始めるのね。

スピノザ―実践の哲学 (平凡社ライブラリー (440))そんなふうに本を読んで、「私は、いったい何を気にしてるのかな〜?」と自分で考えます。ヨースタイン・ゴルデル著「ソフィーの世界」とジル・ドゥルーズ著「スピノザ実践の哲学」。どうも、1993〜1996年あたりの本が気になってるみたい。「スピノザ」も、何度も読む本です。長くなったから、話しのつづきは、また書きます。今回は、「孤独の共感」という言葉を思い付いて、どういうわけか、女の子のイメージが先にイラストレーションに出てきました。まだ、名前もわからない女の子です。だけど、この女の子は、きっと、ミナカに会うんだと思います。イラスト、見てみてね。

< http://www.dgcr.com/kiji/riki/080620/riki24_240 > <携帯で>

女の子のセリフ:「共感? もしも私が何かに共感するとしたら、【孤独】に……。あなたの中の孤独になら共感できるかもしれない。」

もう少し物語の登場人物ができてきたら、早く予告編の動画を音楽入りで作ってみたいな〜。私は映画の予告編が大好きです。本編より、予告編がわくわくして好きだったっていうことも多くて。テレビも、広告を見るのが一番の楽しみだったりします。

イラストに添えた文章に、「NECのFAクリアレター」っていうフォントが合いそうだな〜と思いつつ、デザインまで手がまわらない感じ。フォントも探し始めると、楽しくてどんどん時間が過ぎてしまうので。

【たかはし・りき】イラストレーター。riki@tc4.so-net.ne.jp
・高橋里季ホームページ
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
>
ナチスの発明柴田編集長オススメの「ナチスの発明」面白かったです! 「鼓笛隊の襲来」「ヒトはいつから人間になったか」も読みました。

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脳と心の化学 (ポピュラーサイエンス)
大木 幸介
裳華房 1993-12

by G-Tools , 2008/06/20