音喰らう脳髄[54]私はね、あなたとは違うんですよ
── モモヨ ──

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一週間前、月曜の夜に元総理が吐いた捨て台詞が微妙に流行っている。

──私はね、自分自身を客観的に見ることはできるんです。あなたとは違うんです。

言葉すべて他人事に聞こえるという街の声があるのだが、という記者の指摘に対して、彼は言ったのだった。



ちなみに元首相だった人物言うところの「あなた」とは、質問した記者である。記者は「ついしましがたの会見も私には他人事という印象があるのだが」と口にしてしまったわけだが、実際の質問は、街の声、あるいは有権者の声に「会見が他人事のように聞こえている」というものがあり、それをどう感じているか? というものだった。眼目が、国民の声にあるのは、いうまでもない。それに対して、

──私は、あなたとは違うんです。

と元総理はいう。これが、とんでもなく主観的な言葉であることは間違いない。屁理屈を言うならば、記者と首相を隔てるものが存在するという客観的な物証もなく、また、その証明もなされていないのだ。そこへ突如として敵意むき出しの言葉をなげるのだから、どう考えても、物事を客観視できる人物の行動ではない。むしろ発言者の混乱をすら物語る言葉である。

一見して、如何にもクールな、事態を冷静に分析しうる人物という印象があった元首相の言葉とは思えない。どうやら彼を冷静な人物と見ていたそれが的外れであったのかも知れない、そう私は感じている。どこか肥大化したエゴすら見て取れる発言であり、病的ですらある。総理の辞任は健康上の理由ではないとのことだが、これはある意味で健康上の理由と言っていいのかもしれない。

あのような態度、発言は、閣議や与党内の政策論議の場でなされるべきであった、と私は思う。だが、それができなかった。結果、背負った重圧を国民にむかっての辞任会見で解き放つに至る。このメカニズムは、どう見ても病的だろう。

いずれにしても、だ。発言者が、仲間の政治家・官僚の方が国民より重い、そう感じていたことは容易に推測できる。だから私は相当程度アタマにきている。

元総理、中国において「ドラえもん」ののび太に似ていると言われているらしい。野比のび太が成長して一国の総理になった、という感じで報道されているというが、どうやら、のび太は成長していなかったようである。

「あなたとは違うんです」という言葉は、のび太の「ドラえもーん!」という悲鳴、助けを乞う断末魔だったのであろう。そう思うと、怒りを感じながらも妙にせつない。

しかし、いまの私たちは逼迫している。それぞれの生活や心を守らねばならないのだ。のび太が、真実、客観視できる人物ならば、こうはならなかった。現実そのものが、発言の虚偽を暴いているが、いまにしてあれこれ言うのは繰言である。

いま繰言を述べている時間はない。

反撃の準備をちゃくちゃくと進めることで心を鎮めようと私は思う。物事に闇や影があるのなら、そこから目をそらさないことだ。解決は簡単には見つからないだろうし、世界は闇に満ちていることだろう。しかし、である。それでも光のある方向だけはわかるし、闇が闇である、そのこともわかる。であれば、だ。闇の中、光に向かって一歩をすすめるしかない。

とにかくは、歩いてゆくこと、生きていくことだ。
                          モモヨ(リザード)

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/
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