音喰らう脳髄[65]大リーグボールの悲哀
── モモヨ ──

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なんだか、政治状況が日々厳しく、というか、わびしくなっており、いまや悲惨というべき姿を通り越している。誰だってすっきりしない気分で毎日を過ごしているに違いなく、私もその一人だ。朝、起きて現実に対面するのがつい億劫になるが、今朝に限っては気合で早起きした。

WBCのキューバ戦を観るためだ。



立ち上がりに少しハラハラさせられたものの、立ち直ってからの松坂の快投は、早起きして観る価値があるものだった。ほんの少し気分も上向いた。また、今朝のピッチングを見ていて、アメリカに渡ってからの彼のピッチングスタイルの変容にあらためて驚きもした。

よく知られていることだが、彼は渡米した当初、ほぼ一年間、相当苦しんだ。漫画『巨人の星』において、主人公が巨人軍に入団してから味わう苦悩を、彼もまた苦しんだのだろう。ちなみに、平成になってからはメジャーリーグという呼称が一般化したが、昭和において、大リーグという呼び名が通例だった。そんな時代の野球漫画の傑作が『巨人の星』だ。

そこでは、主人公は、直球勝負にこだわる従来のスタイルを捨て、《超》変化球ともいうべき《大リーグボール》なるものを編み出し、それを中心にしたピッチングで再生をはたすのである。作中の《大リーグボール》は驚愕的なシロモノだったが、松坂の投球は、地上に顕現した《大リーグボール》と言っていい。

そんなことを考えていたはてに、ふと悲しくなった。《大リーグボール》という名前にである。あの時代、私たちは何と自己を卑下していたことだろう、そんなことを思い出したからだ。

本場=アメリカの野球には、私たち日本人では歯が立たない怪物的な選手が山ほど存在している。私たちは、そう信じ込まされていたし、そう信じているからこそ、魔球にその名前を冠した漫画を抵抗なく読みふけっていたし、何の不自然さも感じなかったのだ。

ことは野球だけではない。音楽、例えばロックの世界にしても、私たちはどこか自己卑下した価値観を共有していたようである。それが敗戦国の戦後というものなのだろう。

なんてことを思っているうちに無難な継投が続き、無失点で日本が勝っていた。いくら6点とってキューバに勝ったとて、こんなことを考えていれば心も晴れるわけがない。わざわざ早起きして見た試合なのに、そう思うと、なんか悔しい。損した気分。(3月16日)

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/
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