音喰らう脳髄[68]無常の風
── モモヨ ──

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奇妙な連休だった。

4月30日から5月1日に日付がかわって数分後、この正月頃から体調を崩して臥せりがちだった愛犬が静かに息をひきとった。犬種はチワワ。10年くらいしか生きてない。…静かな最後だった。

その日は、息子と娘の学校があったため、私ひとりで埋葬の手配をした。こうして我が家の連休が始まった。それが終わる6日の午後、どしゃぶりの雨の中、二人の子を連れ両国を訪ねた。国技館通りの南のどんずまり、国民的に知られた鎮魂の地、回向院を訪ねるためだ。愛犬を葬ったのがこの有名な墓所だった。



その日、訪れたのは葬送の読経に焼香し供養の塔婆を立てるためである。初7日には一日早いが、葬儀に立ち会えなかった子供達が「今回は自分達もぜひ愛犬を送りたい」そう言いつのるので、その意を汲むことにした。

雨のなか馬頭観音わきに塔婆を立て、すべてが完了した。

寺域を出る際、山門両脇に並ぶ竹の植え込みのあたり、立派な竹の子が幾本も頭を覗かせているのに気づいた。大都市のコンクリートにおおわれた地面の下、日の届かない中でさえ豊穣な命の芽吹きが用意されている、そう思うと何故か心が軽くなった。目に見えている命がその全てではない、そういうことだろう。

しかし、なんという連休だったろう。無常の風が吹いたとしか思われない。有名な彼のことは言うまでもない。それだけでなく、幾人かの知り合いが逝った。訃報を聞くたびに、新しい鎮魂歌を紡ぐのが生者の務めだ、そう強く思い返すしかない。

バンドのメンバーとも、よく別れ際に「死なないでね」なんて声をよくかけあうが、それは、とどのつまり、自分も出来る限り生きる、死なない、そういう意味が込められている。生きている限り、鎮魂歌をつむがなければならない。そう思っていたいものだが、正直に白状すると、私の場合、生者と死者の境界が曖昧になってきている、そんな感じがする。

30歳を過ぎた頃、やたら墓園に惹かれ、近隣の霊園をさまよったものだが、あの頃とはまた違っている。

逝った人々が皆集う、そんな帰るべき場所を身近に感じている、そう言えばいいのか。

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/
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