《Web屋さんって武士のようなものかと思うことがある》
■私症説[08]
なぜ男はみな40代女性が好きなのか
永吉克之
■電網悠語:日々の想い[132]
Web道、武士道、静と動
三井英樹
■ショート・ストーリーのKUNI[66]
時間旅行
ヤマシタクニコ
■私症説[08]
なぜ男はみな40代女性が好きなのか
永吉克之
■電網悠語:日々の想い[132]
Web道、武士道、静と動
三井英樹
■ショート・ストーリーのKUNI[66]
時間旅行
ヤマシタクニコ
■私症説[08]
なぜ男はみな40代女性が好きなのか
永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140300.html
>
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少し前のことになるが、齢53にして初めて、合コンなるものに参加しましたとさ。大阪市内にある、知人が経営しているパブが、月一回のイベントとして開催しているのだ。今回は40代が対象だったが、だいたい中年野郎ってのは、こういった恋の活動には、興味はあるくせに消極的で、女性はすぐ定員に達するのに、男性はなかなか頭数が揃わず、主催者はいつも往生している。そこで、知人のよしみから、50代の私を動員するという超法規的措置に及んだというわけである。
とはいえ、恋の活動どころか自己保存活動すらままならぬ窮境にある私である。仮にパートナーをみつけたとしても、それに費やすリビドーは少し残っているが、資金がない。まあ、俺は数合わせ要員だという気楽さもあり、何の期待もなく参加したわけだが、それでも、せっかくだから何かを得て帰ろうと思ったので、積極的にご婦人方と接した。
40代。妙齢の女性ばかり10人と、鬱陶しい中年野郎10人が互い違いに着席して、楕円形の大テーブルを囲んだ。乾杯をしてから、それぞれ、隣にいる人と自由に会話を始めた。こんな老残の身でありながら、若い女性に話しかけるなんて倫理上許されるのかという罪責の念に刺し貫かれながらも、なんとか共通の趣味を探って話題にし、芸能人時代の経験を生かして、ちょっとした話芸など披露し、イントロしか弾けない曲をギターで奏でて、ご婦人方をエンターテインすることに専念するつもりでいた。
やはりいいものだ。香り立つような若い娘たちに囲まれるのは。40代の娘と向かい合って話していると思うだけで、この老いたる漢をして心躍動せしむるに充分である。まさに若い娘は回春の妙薬。それに40代女性ほど清潔なものはない。歩く無菌室だ。40代の娘は、しと(尿のこと)すら伽陀那江の水より清い、と故事にもあるほどだ。
しかし、乳臭い30代と、線香臭い50代にはさまれた10年間は、人生を通して見ればつかの間だ。根気よくチャンスを窺っていたギャンブラーがここぞと大枚を張るように、女性は、40年間に蓄えてきた女の全財産をこの10年間につぎ込むのである。私は、店にいた10人の処女たちの控えめな所作のひとつひとつに、可憐な装いではとうてい隠しおおせぬ闘争本能の発露を感じ取ったのであった。
来年は50歳、もうゾンビですよと、ある女性が隣にいる男性に、自嘲気味に告白しているのを聞きながら、私は無常というものを観じていた。有為転変は世の習いとはいうが、この、融通のきかない自然の摂理というやつに、まさに蹂躙されようとしておののき悶えている魂を、私はそこに見た。
頼みもしないのに、この世に産み落とされ、望みもしないのに老いてゆく。やはり人間存在も自然現象のひとつに過ぎないのだ。自然現象である人間が生み出したのだから、戦争も犯罪も不況も失業も自然現象だ。しかしそれらを自然現象として包容することのできないところに人間の悲劇と喜劇がある。
この合コンという自然現象。理想の相手を獲得するか、そこそこの相手で手を打つか、まったく論外の相手にとっ捕まるかは、その時の風向き次第である。突然私が、ゾンビ発言をした女性と結ばれたいと思ったのも自然現象だ。ある種の同情が働いたのは明らかだが、同情も自然現象である。私は、その50代を迎えようとしている、決して美貌とはいえない女性に話しかけた。
「そこの女、お話しください。ぼくが永吉ですが」
「杉山ですよ。わたしのは」
「完全に年齢を言うのですが、ほんとうは、ぼくは53歳だぞ。40代だと人びとをだまして参加する。おーい、それは違うでしょ。でもだましたのと同じか。それより頭数がどうだったか。趣味は?」
「映画が観られること。どうしてリュック・ベッソンが好きなのですか?」
「ちがう。ベッソンは観たことがないんです。全作30本観ましたよ」
「ベッソンの?」
「ちがう。黒澤明。映画が好きなんです。用心棒。映画は黒澤ですか?」
「ちがう。ベッソンは観たことがないようです。映画はDVDだけです」
「ベッソンは誰ですか」
こうして、お互いの基本情報を交換して、まんざら異質の人間でもないと判断すると、さらに、合コンの最終目的に繋がってゆく話へと、彼女を誘導した。
「お前は49歳だというのか。それというのも、49歳だから、ぼくと歳が近いからなのか。ひとつひとつが平行なのか。50代の男はなぜ、ややもすると失業しているのか」
「失業はありませんよ。だから50代の男は失業はしていないから、50代の男でも、おつき合いの対象としては見ています。しかも50代の男は対象です」
「ぼくは、そのことが、ぼくが期待できそうだと信じられることだということを、あなたの話ぶりから納得するでしょう。あなたは昔から、はい、台所にいても、歩道の上にいても、男にどんなことを望むのか考えたのだった」
「考えただろうか。ねえ、ちょっと。結婚歴あなた」
「結婚歴はないですからねと言いたい。あなたには結婚歴があります」
「結婚歴すらわたしにはあります。今の夫は不動産です」
「酒ですよ。アルコール。杉山さんはお酒。焼酎も。杉山さんは、お酒はウィスキーはどうですか? いいですか? 一部分のが」
「杉山です」
こうして、飲みに誘うまでに漕ぎ着けた。会ったばかりの男にデートを申し込まれて、彼女も少しばかり警戒しているだろうと思ったので、私は彼女の連絡先は訊かず、私のメールアドレスをメモした紙切れを渡しておいて、僕と飲みに行ってもいいと思ったらメールをくださいと伝えて別れた。後で、それを聞いていた店のマスターに「誰も彼もがみな携帯電話を命綱として持ち歩く時代が到来した。アドレスは男女が交換したいと願うのをよく見ていた。合コンが積極的ではないのか。恋人は昨日か」と叱られてしまった。
なるほど、私の消極性が功を奏したらしく、それから4か月ほど待っているが、一向に連絡がない。実は、彼女が「土曜日があるのが来週ですか? 土曜にお会いできれば、それほど曲がって仕事がないからですが。永吉さんのご都合は打っておいて戻すのですか!」という文面のメールを送ってくれていたのだが、メモで渡したアドレスが間違っていて、こっちに届いていないのだ。しかし私はいまだにそれに気づかず、いらいらと待っている状態である。
もともと私は数合わせで参加したつもりだったので、相手を見つけようなどという不埒な考えは端からなかったのだが、40代の女性たちが群れているのを見て、正気を失い、誇大妄想的な願望を抱いてしまったのだ。だから、杉山さんからの返事はむしろ来ない方がいいと思っている。
【ながよしかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
・ブログ< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
>
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■電網悠語:日々の想い[132]
Web道、武士道、静と動
三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140200.html
>
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Web屋さんって、武士のようなものかと思うことがある。戦時においては素早く動き、平時においては地道に備える。田畑を耕し、自らの生活の糧を育みながら、武器を研ぎ、馬を鍛え、腕を磨く。常に戦時ではない、常に平時でもない。そんなところも似ていると想うのかもしれない。
そんなことを考えながら、パソコンを見る。これは「馬」なんだろうな。これがなければ始まらない。歩兵戦を蔑視する訳ではないけれど、歩兵戦だけでクリアできる合戦は少ない。機動力は、そのCPUとメモリと、備えておいた武具(アプリケーション)。最近の悩みはいい馬が減ってきたこと。馬に載せる武具は広がっているにも関わらず。
基本的なノート馬暦は、VAIO、Let's Note、ThinkPad、PowerBook、PowerMac。Macは基本的に室内(家)馬で、外に持っていくことは出張時くらい。Adobe製品は、Windowsで揃えているので、武具に頼る戦いは、Windowsでしのいで来た。
馬を買ってきてすることは、前の飼い主の癖を抜くこと。余計で華美な動きが最近の馬には多すぎる。殆ど素(Windows)の状態にする。色々と調べながら引っこ抜く。最近はリカバリー機能が付いているので、購入時(出荷時)レベルには戻しやすい。逆に素の状態+最低限ドライバの状態にしてくれる機能拡張が欲しくてたまらない。買ってきてワクワクしながらする最初の作業が削除だなんて、やってる自分が少し空しい。売り手は、買い手のニーズをもう少し理解して欲しい。
そこまで済んだら、必要最低限のアプリを入れる。基本的にはブラウザとフリーソフト群。鍛えぬいた、というか手に馴染んだ設定を持っていくことも大切な作業。ここ数年で、ブラウザとそのアドオンでかなりをまかなっている感が強い。選択する苦労があるけれど、そこは情報でなんとか軽減化して、お金がかからないことを喜ぶ。
為参考)mitmix :: Add-ons for Firefox
< https://addons.mozilla.org/ja/firefox/collection/mitmix
>
多用しているのは、画面キャプチャのFireShotと、CoLT。CoLTは下記のように設定するのがミソ。URLとタイトルの組合せを右クリック一発でコピー:
▽CoLTの設定:
1)PlaneText = %T%N%U
2)TitleOnly = %T
3)HTML+URL = < a href="%U" >%T< /a >< br >%N%U
4)HTML+target = < a href="%U" target="_blank" >%T< /a >
馬(パソコン)と武具(アプリケーション)と諸設定。そこに過去のデータを合わせれば、新しい戦いをする際にかなり楽になる。何もない「0」を創造する力よりも、「1」から「2」や「3」を生み出す方が何かと早い。一度踏んだ生産過程はそうそうは忘れないし、そこに過去財産が残っていると、更なる加速装置として支えてくれる。
かくして馬の数よりも、武具庫(外部ディスク)が増えていく。価格低下もあいまって、整理するよりも先ずは保存。馬固有の武器庫はすぐに一杯になるので、サンダーバード2号方式をもくろみつつも、整理が追いつかない。未整理の武器庫がまさに段々と積まれていく。
なので、定期的に棚卸しをする。プロジェクトの整理、ファイルの整理、参考資料の整理、作例の整理。パワポやイラレでお気に入りの表現は、再利用できるように日頃から集めては整理して、微調整してをチマチマやる。
武具が錆びつかないように研ぐが如し。侍が静かに研いでいる姿はさまになって格好いいが、作例の整理はあまり美しくない。それでもこの作業を怠ると、次の資料作成がはかどらない。忙しい時に限って、未整理資料の中からゴソゴソと探すことになる。地道に堅実に、と3〜6か月に一度は振り返る(ように努める...)。
■
自分の馬や武具を備えた武士が集まると、自然とノウハウ共有が進む。最近は白板にマジックで書くことも続けるけれど、モニタやプロジェクタで情報を写しながら議論することも多い。用意したスライドだけを映すのではなく、議論に合わせて、ブラウザでサイトを見たり、エクセルで課題管理をしたり、ワードで議事録を書いたり、Outlookで会議依頼をその場で出したりする。
当然、衆目の中での操作になる。そこで適切な情報提供と情報操作がなされれば、会議が進むだけでなく、ノウハウも盗用共有されていく。MS嫌いで生きてきたせいか、Office系の使い方は未だに月に一度は新しいものに遭遇する。よくぞここまで分かり難く奥にしまい込むものだと逆に感心する。だからこそ、手練(てだれ)の早業を見せ付けられると、その操作自体にまた感動する。
同じプロジェクト内の侍ばかり、基本的に必要な情報整理方法は似てくる。だからこそ、効果的な技はその群れの中で有効に機能する。さすがに、Office勉強会と銘打っては気恥ずかしいし、わざわざ実施するのも情けない。現場の他流試合のようにプロジェクトの中で披露し合った方が効果的だ。
別にOfficeばかりじゃない、PhotoshopだってIllustratorだって。互いの武具を見せ合って、鍛えていく。教室みたいに「ここは大事ですからね」とか誰も言ってくれない。勝手に盗む。見えなければ、「も一回やって」と頼む。それができる集団が強くなる。
■
そして、手練の武士達が集まると、共同作業の効率が問われてくる。連絡方法やその記録の仕方、情報の置き方から、過去情報の退避の仕方。更には大量生産のための独自ツールやそのノウハウ。ツールを作り込むこともあれば、ルールという決め事で解決する場合もある。
一定の方法で何かがなされることが分かっていると類推が効く。あのプロジェクトのあのドキュメントは良かったから参考にしよう。思い立ったら探し当てられる。ここでも個々が整理されてるというポテンシャルが効いている。
でも、皆が類推できるようなルールを作りつつ、更にそれを改良しようと狙っている。一度作ったものが未来永劫ベストであり続ける訳がない。そんな信念に近い何かも共有されている。もっと良いものがあるに違いない、もっとうまいやり方があるに違いない。そんな体制が、クライアントに変化を提案し続けることができるチームなのかもしれない。
「転がる石に苔(こけ)はつかない/A rolling stone gathers no moss.」ということわざ(?)を思い出す。二つの意味を持つことで有名な言葉だ。苔(moss)を良いものだという立場では、「じっくり腰を落ち着けてやらないと本当の実力はつかない」。苔を悪いものだという立場では、「活動的な人には常に新鮮さをたもつことができる」。自分達の作ってきたルールや仕組みが苔にならぬように、後者の意味で走り続けるべきだと思いたい。
そして苔も付かない活躍をする武士群には戦略が要る。ただし、戦い方ではない気がしてきた。最近読んだ本に、「戦略とは『戦いを略す』と書く」とあった。無駄な戦いを避けることこそが、大切なのかと思い始めている。ふり返っても、なんと無駄な戦いが多かったことか。あの諍(いさか)いがなければ、もっと先まで行けたのに。まさにブルーオーシャン戦略だ。
為参考)mitmix@Amazon - ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する(Harvard business school press)
< http://astore.amazon.co.jp/milkage-22/detail/4270000708
>
■
特に時代劇が好きな訳ではないけれど、戦時と平時がともに描かれているものには好きなものが多い。武勇だけでは胡散臭い、華々しい死は空しい、でも平時だけではなだらか過ぎる。静の中の動、動の中の静。それらが描かれているドラマで、静の中により深い想いや共感が得られるものが好きなんだろう。だから自分の業界も、職場も、環境も、暮らしも、そうあって欲しい。動はあくまでワクワクと、静は限りなく深く。
【みつい・ひでき】感想などはmit_dgcr(a)yahoo.co.jpまで
mitmix< *http://www.mitmix.net/
>
名古屋で話してきました。最近短めのものが多かった中での50分間。前日の夜中になって、突然不安になって資料をupdate。約50枚、しかもパワポではなく、InDesignで。作りすぎました。覚悟を決めて腹を据えて話さないと、駄目です。話し手の不安はキチンと伝わることを実感。アンケートではほめて貰えたけど、自分自身が納得いかなかった。反省。鍛錬鍛錬。
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■ショート・ストーリーのKUNI[66]
時間旅行
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140100.html
>
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タケシ「おかあちゃん、いてるかー」
母 「ああ、タケシちゃんか。びっくりするやないの、急に来てー。せめて3日前から予約でも入れてくれんと。たまたま今日は私はオフやからよかったけど。ただし3時からニコニコスーパーで冷凍食品半額セールやから、用件は手短にな」
タケシ「お母ちゃんは年中オフやろ。いや、今日はな、プレゼント持ってきたんや」
母 「また、なんかしょうむないもん発明したんかいな」
タケシ「しょうむないもんで悪かったな。今日はぼくの発明したもんちゃうねん。タイムマシン旅行券。すごいやろ」
母 「あー、タイムマシンな。それやったらだいぶ前に一回行ったことあるわ。むかいの大山さんとその斜め後ろの三好さんと3人で。なんか...もひとつやったわ」
タケシ「うん。お母ちゃんのゆうてるのは近距離やろ。安いやつ。10年前の世界が見られるとかいう」
母 「そうそう。何年か前にえらい宣伝してたやろ。夢の時間旅行がいよいよ身近なものになりました! お手軽パック好評発売中、ゆうて。たまたま大山さんの親戚がそこの旅行社の人で、安くで行けるゆうて何回も勧めるから行ってみたけど...この10年てあんまり変化ないやろ。事件ゆうたら道頓堀からカーネル・サンダースが出てきたくらいやんか」
タケシ「いや、もっとほかにもあったと思うけど...」
母 「とにかく、あんまり変化がわかれへんかったわ。あれやったら城之崎にカニ食べに行ったほうがよかったわー」
タケシ「まあそんなんは時間旅行のうちに入れへんわ。インターネットでゆうたらブロードバンド以前、テレホーダイもなかったころ、ジ〜ジ〜、ぴ〜〜〜ゆうてたときみたいなもんやん。いまはちがうで。日進月歩や。ぼくが買うてきたったツアーは現在可能な時間旅行の限界、645年まで行けるねん。どや」
母 「どや、言われてもなあ...645年ゆうたら『むしごめ供える鎌倉幕府』...えらい昔やなあ」
タケシ「どんな覚え方してんねんな。645年ゆうたら『むしごめ供える大化の改新』やろ」
母 「鎌倉幕府でも合うからしょうがないやんか。ほなあれか、その時間旅行に行ったら中大兄皇子のサインがもらえるとか蘇我入鹿に乗った少年に会えるとか、なんか特典あるん」
タケシ「いや、そんな変な特典はないよ。だいたい、タイムマシンで過去にさかのぼっても、その時代に何らかの痕跡を残したらいかんねん」
母 「え、そうなん」
タケシ「うん、くわしいことは省略するけど」
母 「バタフライエフェクトいうやつやな」
タケシ「知ってるんかい...」
母 「しやから、ただ見てるだけやろ。おもしろないやん。それに、長距離タイムマシンの中はもの食べるのも苦労するそうやないの。無重力やからふわふわして」
タケシ「それは宇宙旅行や」
母 「とにかく、なんか、もひとつやわー。めんどくさいわー」
タケシ「うーん、そんなめんどくさいめんどくさい言わんと、行ってみたら感動するって。一生の思い出になるし」
母 「私、やっぱり白浜一泊豪華グルメの旅のほうがええと思うわ...あ、そろそろ私、支度せなあかんし。そわそわ」
タケシ「せわしないな。冷凍食品なんかどうでもええやん。あああ、せっかく親孝行しようと思て買うてきたのに...ぐすっ」
母 「あ、そやったそやった、ごめん、ほんまはむちゃくちゃうれしいねん。感動してるねん。あんたみたいな息子持って幸せや。涙出てきたわ。ごめん、かんにん。ぐすん」
タケシ「...ほんまか、そう言うてくれたらぼくもうれしいわ。大枚はたいて買うた甲斐があったというもんや。ほな、ちょっと説明さしてもらうけど、実はその、ちょっとややこしいねん」
母 「何が」
タケシ「21世紀から一本で645年に行かれへんねん。まず1871年まで行って、そこから乗り換えやねん」
母 「乗り換え?」
タケシ「うん。最初は南海タイムトラベル社の線を使うんやけど、それは1871年までしか行けへんねん。そこが終点で、そこから系列の和歌山電鉄ハッピートラベル社の線に乗り換えるけど、それも1868年が終点」
母 「たった3年だけかいな和歌山電鉄ハッピートラベル社。それに、1868年は明治維新でなんとなく切りがいいからわかるけど、1871年て何やのんその半端で、地味な年」
タケシ「廃藩置県の年らしい」
母 「あー、そうそう...『藩とはいわない鎌倉幕府』やったね」
タケシ「鎌倉幕府が好きなんか」
母 「なんでそんなとこが終点になってるん」
タケシ「知らんがな。まあそのへんが空いてたんちゃうか。地味やから。で、それから京阪時間旅行社の線に乗り換える」
母 「え、南海と京阪がつながってるん。いつの間に。便利やなー。ほなラピートで出町柳まで行けるんやな。鬼の目に涙やな」
タケシ「ことわざの使い方間違ってると思うけど、とにかくラピートは出町柳行けへんから。電車とこれは話が別やから。えーと、それで1703年の赤穂浪士討ち入りの年まで行ったら阪急タイムトラピックスに乗り換えて関ヶ原の合戦の1600年」
母 「えーっ。今度は阪急。ほな途中で京都線と宝塚線と神戸線に分かれたりするんかいな。いややわー」
タケシ「時間旅行に十三はないからだいじょうぶや」
母 「あ、そうか。しやけど、やっぱりめんどくさそうやな...説明聞いてるだけでしんどなってきたわ...うーん...」
タケシ「もうちょっとやがな。そこからいよいよJR西日本時間旅行社に乗り換え、1467年の応仁の乱、1274年の文永の役、894年の遣唐使廃止を過ぎると645年まで止まりません」
母 「ああ、熱出てきた。頭痛い。腰まで痛なってきた。やっぱり私には無理やわ。もう長うないし...」
タケシ「だいじょうぶやって。ツアーやからなんとかなるって」
母 「...乗り換えは楽にいけるんやろね。御堂筋線と四つ橋線の乗り継ぎみたいにえんえんと歩かされたら私は怒るよ」
タケシ「だいじょうぶやって!」
母 「...松山の坊ちゃん電車やったら乗ってもええけど...」
タケシ「そんなもん、いつでも行けるやん!」
母 「あ、えらいこっちゃ。こんなこと言うてられへん。もう出かけなあかんわ、タケシちゃん、ごめんな、また今度」
タケシ「ちょ、ちょっと待って。冷凍食品の半額セールは3時からてゆうてたやん」
母 「そうや」
タケシ「まだ1時やけど」
母 「ニコニコスーパーはここから自転車で20分、駅前から100円バスに乗って終点のひとつ手前で下りてまた歩いて、そこから1時間に2本しかない、ショッピングセンター専用の送迎バスに乗り換えて行かなあかんねん!」
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://midtan.net/
>
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■編集後記(10/1)
・30数年前、わたしは松下電器製の折り畳み自転車に乗っていた。フレームの折り畳み部分が蝶番になっている、いまでもよくあるスタイルだ。16インチ、変速機なし、鉄製の部品が多くかなり重かったが、当時は他に手に入る折り畳み自転車はなかったように思う。今なら1万円もしない安い折り畳みがいくらでもあるが(あれは極めて危険か極めて重い)、その頃はずいぶん高価で月賦(なつかしい言葉だ)で買った記憶がある。小旅行にも使えるスポルティーフを持っていながら、なぜ小径の走りには不向きな自転車を買ったかというと、もっとお気楽に輪行したかったからだ。自転車を解体し、また組み立てる、それをくり返す輪行スタイルがめんどうに感じていたのである。その16インチを専用の袋に入れて、鎌倉まで運んで走った。しかし、とてつもなく重い。持ち運ぶだけで疲れた。その上、坂道にはまったく弱く、登りに疲労し下りではバランスが悪い。まるで楽しめない輪行であった。これに懲りて輪行目的を放棄、この自転車は街乗り専用になった。あれから信じられないくらい時間が過ぎて、ようやく持ち運びが楽で走行のバランスもいいという、超軽量車YS-11が出た。これこそ夢にまで見た折り畳み自転車ではないか。自転車乗りの醍醐味はヒルクライム&ダウンヒルであるが、もう登りは勘弁してもらって下りだけを楽しむことも、これならできる。峠の上までバスで行って、あとは下り一方。疲れたら電車に乗る。富士スバルラインでもそれをやりたい。買ってもいないのに妄想はふくらむ。(柴田)
・機械翻訳みたいな会話に爆笑。そういや萬田久子がキレイなんだよなぁ。51歳らしい。若作りしすぎず、皺やたるみをアンドロイドのような補正せず。/引っ越しして水道のレバーを触るたびに三井さんを思い出す。主催セミナーでのUI話の例。家とは逆なので毎回間違ってしまう。今は統一されつつあるけれど、家のは古い形式(下げて出す)だったのだ。/乗り換え! 確かに10年ぐらいなら変わってないな。/ウィルコムが事業再生手続きに入ったというニュースを聞いて、利用者としては気が気でない。というのは単なる言い訳で、Willcom 03よりiPhoneの方が良さげだなぁ、でもDoCoMoとの二台持ちにするにはiPhoneの月額料金だと負担増えるなぁと最近思っていた。DoCoMoとiPod touchにするとか……。DoCoMoのパケホーダイでiPod touchは使えるんだろうか、いっそiPhone一台で……一台持ちの人ってまわりで見ないんだけど(iPhone二台持ちの人はいる)、バッテリーの保ち、通話品質はいかがですか? うーん、うーん。おサイフとワンセグはないんだよね。今頃何書いているんだ。……DoCoMoから出るって噂あったやん!(hammer.mule)
< http://www.dtp-booster.com/
>007は残席10、急げ! 008はおなじみゼンジさんのカラーマネージメント特集!
なぜ男はみな40代女性が好きなのか
永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140300.html
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少し前のことになるが、齢53にして初めて、合コンなるものに参加しましたとさ。大阪市内にある、知人が経営しているパブが、月一回のイベントとして開催しているのだ。今回は40代が対象だったが、だいたい中年野郎ってのは、こういった恋の活動には、興味はあるくせに消極的で、女性はすぐ定員に達するのに、男性はなかなか頭数が揃わず、主催者はいつも往生している。そこで、知人のよしみから、50代の私を動員するという超法規的措置に及んだというわけである。
とはいえ、恋の活動どころか自己保存活動すらままならぬ窮境にある私である。仮にパートナーをみつけたとしても、それに費やすリビドーは少し残っているが、資金がない。まあ、俺は数合わせ要員だという気楽さもあり、何の期待もなく参加したわけだが、それでも、せっかくだから何かを得て帰ろうと思ったので、積極的にご婦人方と接した。
40代。妙齢の女性ばかり10人と、鬱陶しい中年野郎10人が互い違いに着席して、楕円形の大テーブルを囲んだ。乾杯をしてから、それぞれ、隣にいる人と自由に会話を始めた。こんな老残の身でありながら、若い女性に話しかけるなんて倫理上許されるのかという罪責の念に刺し貫かれながらも、なんとか共通の趣味を探って話題にし、芸能人時代の経験を生かして、ちょっとした話芸など披露し、イントロしか弾けない曲をギターで奏でて、ご婦人方をエンターテインすることに専念するつもりでいた。
やはりいいものだ。香り立つような若い娘たちに囲まれるのは。40代の娘と向かい合って話していると思うだけで、この老いたる漢をして心躍動せしむるに充分である。まさに若い娘は回春の妙薬。それに40代女性ほど清潔なものはない。歩く無菌室だ。40代の娘は、しと(尿のこと)すら伽陀那江の水より清い、と故事にもあるほどだ。
しかし、乳臭い30代と、線香臭い50代にはさまれた10年間は、人生を通して見ればつかの間だ。根気よくチャンスを窺っていたギャンブラーがここぞと大枚を張るように、女性は、40年間に蓄えてきた女の全財産をこの10年間につぎ込むのである。私は、店にいた10人の処女たちの控えめな所作のひとつひとつに、可憐な装いではとうてい隠しおおせぬ闘争本能の発露を感じ取ったのであった。
来年は50歳、もうゾンビですよと、ある女性が隣にいる男性に、自嘲気味に告白しているのを聞きながら、私は無常というものを観じていた。有為転変は世の習いとはいうが、この、融通のきかない自然の摂理というやつに、まさに蹂躙されようとしておののき悶えている魂を、私はそこに見た。
頼みもしないのに、この世に産み落とされ、望みもしないのに老いてゆく。やはり人間存在も自然現象のひとつに過ぎないのだ。自然現象である人間が生み出したのだから、戦争も犯罪も不況も失業も自然現象だ。しかしそれらを自然現象として包容することのできないところに人間の悲劇と喜劇がある。
この合コンという自然現象。理想の相手を獲得するか、そこそこの相手で手を打つか、まったく論外の相手にとっ捕まるかは、その時の風向き次第である。突然私が、ゾンビ発言をした女性と結ばれたいと思ったのも自然現象だ。ある種の同情が働いたのは明らかだが、同情も自然現象である。私は、その50代を迎えようとしている、決して美貌とはいえない女性に話しかけた。
「そこの女、お話しください。ぼくが永吉ですが」
「杉山ですよ。わたしのは」
「完全に年齢を言うのですが、ほんとうは、ぼくは53歳だぞ。40代だと人びとをだまして参加する。おーい、それは違うでしょ。でもだましたのと同じか。それより頭数がどうだったか。趣味は?」
「映画が観られること。どうしてリュック・ベッソンが好きなのですか?」
「ちがう。ベッソンは観たことがないんです。全作30本観ましたよ」
「ベッソンの?」
「ちがう。黒澤明。映画が好きなんです。用心棒。映画は黒澤ですか?」
「ちがう。ベッソンは観たことがないようです。映画はDVDだけです」
「ベッソンは誰ですか」
こうして、お互いの基本情報を交換して、まんざら異質の人間でもないと判断すると、さらに、合コンの最終目的に繋がってゆく話へと、彼女を誘導した。
「お前は49歳だというのか。それというのも、49歳だから、ぼくと歳が近いからなのか。ひとつひとつが平行なのか。50代の男はなぜ、ややもすると失業しているのか」
「失業はありませんよ。だから50代の男は失業はしていないから、50代の男でも、おつき合いの対象としては見ています。しかも50代の男は対象です」
「ぼくは、そのことが、ぼくが期待できそうだと信じられることだということを、あなたの話ぶりから納得するでしょう。あなたは昔から、はい、台所にいても、歩道の上にいても、男にどんなことを望むのか考えたのだった」
「考えただろうか。ねえ、ちょっと。結婚歴あなた」
「結婚歴はないですからねと言いたい。あなたには結婚歴があります」
「結婚歴すらわたしにはあります。今の夫は不動産です」
「酒ですよ。アルコール。杉山さんはお酒。焼酎も。杉山さんは、お酒はウィスキーはどうですか? いいですか? 一部分のが」
「杉山です」
こうして、飲みに誘うまでに漕ぎ着けた。会ったばかりの男にデートを申し込まれて、彼女も少しばかり警戒しているだろうと思ったので、私は彼女の連絡先は訊かず、私のメールアドレスをメモした紙切れを渡しておいて、僕と飲みに行ってもいいと思ったらメールをくださいと伝えて別れた。後で、それを聞いていた店のマスターに「誰も彼もがみな携帯電話を命綱として持ち歩く時代が到来した。アドレスは男女が交換したいと願うのをよく見ていた。合コンが積極的ではないのか。恋人は昨日か」と叱られてしまった。
なるほど、私の消極性が功を奏したらしく、それから4か月ほど待っているが、一向に連絡がない。実は、彼女が「土曜日があるのが来週ですか? 土曜にお会いできれば、それほど曲がって仕事がないからですが。永吉さんのご都合は打っておいて戻すのですか!」という文面のメールを送ってくれていたのだが、メモで渡したアドレスが間違っていて、こっちに届いていないのだ。しかし私はいまだにそれに気づかず、いらいらと待っている状態である。
もともと私は数合わせで参加したつもりだったので、相手を見つけようなどという不埒な考えは端からなかったのだが、40代の女性たちが群れているのを見て、正気を失い、誇大妄想的な願望を抱いてしまったのだ。だから、杉山さんからの返事はむしろ来ない方がいいと思っている。
【ながよしかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
・ブログ< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
>
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■電網悠語:日々の想い[132]
Web道、武士道、静と動
三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140200.html
>
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Web屋さんって、武士のようなものかと思うことがある。戦時においては素早く動き、平時においては地道に備える。田畑を耕し、自らの生活の糧を育みながら、武器を研ぎ、馬を鍛え、腕を磨く。常に戦時ではない、常に平時でもない。そんなところも似ていると想うのかもしれない。
そんなことを考えながら、パソコンを見る。これは「馬」なんだろうな。これがなければ始まらない。歩兵戦を蔑視する訳ではないけれど、歩兵戦だけでクリアできる合戦は少ない。機動力は、そのCPUとメモリと、備えておいた武具(アプリケーション)。最近の悩みはいい馬が減ってきたこと。馬に載せる武具は広がっているにも関わらず。
基本的なノート馬暦は、VAIO、Let's Note、ThinkPad、PowerBook、PowerMac。Macは基本的に室内(家)馬で、外に持っていくことは出張時くらい。Adobe製品は、Windowsで揃えているので、武具に頼る戦いは、Windowsでしのいで来た。
馬を買ってきてすることは、前の飼い主の癖を抜くこと。余計で華美な動きが最近の馬には多すぎる。殆ど素(Windows)の状態にする。色々と調べながら引っこ抜く。最近はリカバリー機能が付いているので、購入時(出荷時)レベルには戻しやすい。逆に素の状態+最低限ドライバの状態にしてくれる機能拡張が欲しくてたまらない。買ってきてワクワクしながらする最初の作業が削除だなんて、やってる自分が少し空しい。売り手は、買い手のニーズをもう少し理解して欲しい。
そこまで済んだら、必要最低限のアプリを入れる。基本的にはブラウザとフリーソフト群。鍛えぬいた、というか手に馴染んだ設定を持っていくことも大切な作業。ここ数年で、ブラウザとそのアドオンでかなりをまかなっている感が強い。選択する苦労があるけれど、そこは情報でなんとか軽減化して、お金がかからないことを喜ぶ。
為参考)mitmix :: Add-ons for Firefox
< https://addons.mozilla.org/ja/firefox/collection/mitmix
>
多用しているのは、画面キャプチャのFireShotと、CoLT。CoLTは下記のように設定するのがミソ。URLとタイトルの組合せを右クリック一発でコピー:
▽CoLTの設定:
1)PlaneText = %T%N%U
2)TitleOnly = %T
3)HTML+URL = < a href="%U" >%T< /a >< br >%N%U
4)HTML+target = < a href="%U" target="_blank" >%T< /a >
馬(パソコン)と武具(アプリケーション)と諸設定。そこに過去のデータを合わせれば、新しい戦いをする際にかなり楽になる。何もない「0」を創造する力よりも、「1」から「2」や「3」を生み出す方が何かと早い。一度踏んだ生産過程はそうそうは忘れないし、そこに過去財産が残っていると、更なる加速装置として支えてくれる。
かくして馬の数よりも、武具庫(外部ディスク)が増えていく。価格低下もあいまって、整理するよりも先ずは保存。馬固有の武器庫はすぐに一杯になるので、サンダーバード2号方式をもくろみつつも、整理が追いつかない。未整理の武器庫がまさに段々と積まれていく。
なので、定期的に棚卸しをする。プロジェクトの整理、ファイルの整理、参考資料の整理、作例の整理。パワポやイラレでお気に入りの表現は、再利用できるように日頃から集めては整理して、微調整してをチマチマやる。
武具が錆びつかないように研ぐが如し。侍が静かに研いでいる姿はさまになって格好いいが、作例の整理はあまり美しくない。それでもこの作業を怠ると、次の資料作成がはかどらない。忙しい時に限って、未整理資料の中からゴソゴソと探すことになる。地道に堅実に、と3〜6か月に一度は振り返る(ように努める...)。
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自分の馬や武具を備えた武士が集まると、自然とノウハウ共有が進む。最近は白板にマジックで書くことも続けるけれど、モニタやプロジェクタで情報を写しながら議論することも多い。用意したスライドだけを映すのではなく、議論に合わせて、ブラウザでサイトを見たり、エクセルで課題管理をしたり、ワードで議事録を書いたり、Outlookで会議依頼をその場で出したりする。
当然、衆目の中での操作になる。そこで適切な情報提供と情報操作がなされれば、会議が進むだけでなく、ノウハウも盗用共有されていく。MS嫌いで生きてきたせいか、Office系の使い方は未だに月に一度は新しいものに遭遇する。よくぞここまで分かり難く奥にしまい込むものだと逆に感心する。だからこそ、手練(てだれ)の早業を見せ付けられると、その操作自体にまた感動する。
同じプロジェクト内の侍ばかり、基本的に必要な情報整理方法は似てくる。だからこそ、効果的な技はその群れの中で有効に機能する。さすがに、Office勉強会と銘打っては気恥ずかしいし、わざわざ実施するのも情けない。現場の他流試合のようにプロジェクトの中で披露し合った方が効果的だ。
別にOfficeばかりじゃない、PhotoshopだってIllustratorだって。互いの武具を見せ合って、鍛えていく。教室みたいに「ここは大事ですからね」とか誰も言ってくれない。勝手に盗む。見えなければ、「も一回やって」と頼む。それができる集団が強くなる。
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そして、手練の武士達が集まると、共同作業の効率が問われてくる。連絡方法やその記録の仕方、情報の置き方から、過去情報の退避の仕方。更には大量生産のための独自ツールやそのノウハウ。ツールを作り込むこともあれば、ルールという決め事で解決する場合もある。
一定の方法で何かがなされることが分かっていると類推が効く。あのプロジェクトのあのドキュメントは良かったから参考にしよう。思い立ったら探し当てられる。ここでも個々が整理されてるというポテンシャルが効いている。
でも、皆が類推できるようなルールを作りつつ、更にそれを改良しようと狙っている。一度作ったものが未来永劫ベストであり続ける訳がない。そんな信念に近い何かも共有されている。もっと良いものがあるに違いない、もっとうまいやり方があるに違いない。そんな体制が、クライアントに変化を提案し続けることができるチームなのかもしれない。
「転がる石に苔(こけ)はつかない/A rolling stone gathers no moss.」ということわざ(?)を思い出す。二つの意味を持つことで有名な言葉だ。苔(moss)を良いものだという立場では、「じっくり腰を落ち着けてやらないと本当の実力はつかない」。苔を悪いものだという立場では、「活動的な人には常に新鮮さをたもつことができる」。自分達の作ってきたルールや仕組みが苔にならぬように、後者の意味で走り続けるべきだと思いたい。
そして苔も付かない活躍をする武士群には戦略が要る。ただし、戦い方ではない気がしてきた。最近読んだ本に、「戦略とは『戦いを略す』と書く」とあった。無駄な戦いを避けることこそが、大切なのかと思い始めている。ふり返っても、なんと無駄な戦いが多かったことか。あの諍(いさか)いがなければ、もっと先まで行けたのに。まさにブルーオーシャン戦略だ。
為参考)mitmix@Amazon - ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する(Harvard business school press)
< http://astore.amazon.co.jp/milkage-22/detail/4270000708
>
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特に時代劇が好きな訳ではないけれど、戦時と平時がともに描かれているものには好きなものが多い。武勇だけでは胡散臭い、華々しい死は空しい、でも平時だけではなだらか過ぎる。静の中の動、動の中の静。それらが描かれているドラマで、静の中により深い想いや共感が得られるものが好きなんだろう。だから自分の業界も、職場も、環境も、暮らしも、そうあって欲しい。動はあくまでワクワクと、静は限りなく深く。
【みつい・ひでき】感想などはmit_dgcr(a)yahoo.co.jpまで
mitmix< *http://www.mitmix.net/
>
名古屋で話してきました。最近短めのものが多かった中での50分間。前日の夜中になって、突然不安になって資料をupdate。約50枚、しかもパワポではなく、InDesignで。作りすぎました。覚悟を決めて腹を据えて話さないと、駄目です。話し手の不安はキチンと伝わることを実感。アンケートではほめて貰えたけど、自分自身が納得いかなかった。反省。鍛錬鍛錬。
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■ショート・ストーリーのKUNI[66]
時間旅行
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20091001140100.html
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タケシ「おかあちゃん、いてるかー」
母 「ああ、タケシちゃんか。びっくりするやないの、急に来てー。せめて3日前から予約でも入れてくれんと。たまたま今日は私はオフやからよかったけど。ただし3時からニコニコスーパーで冷凍食品半額セールやから、用件は手短にな」
タケシ「お母ちゃんは年中オフやろ。いや、今日はな、プレゼント持ってきたんや」
母 「また、なんかしょうむないもん発明したんかいな」
タケシ「しょうむないもんで悪かったな。今日はぼくの発明したもんちゃうねん。タイムマシン旅行券。すごいやろ」
母 「あー、タイムマシンな。それやったらだいぶ前に一回行ったことあるわ。むかいの大山さんとその斜め後ろの三好さんと3人で。なんか...もひとつやったわ」
タケシ「うん。お母ちゃんのゆうてるのは近距離やろ。安いやつ。10年前の世界が見られるとかいう」
母 「そうそう。何年か前にえらい宣伝してたやろ。夢の時間旅行がいよいよ身近なものになりました! お手軽パック好評発売中、ゆうて。たまたま大山さんの親戚がそこの旅行社の人で、安くで行けるゆうて何回も勧めるから行ってみたけど...この10年てあんまり変化ないやろ。事件ゆうたら道頓堀からカーネル・サンダースが出てきたくらいやんか」
タケシ「いや、もっとほかにもあったと思うけど...」
母 「とにかく、あんまり変化がわかれへんかったわ。あれやったら城之崎にカニ食べに行ったほうがよかったわー」
タケシ「まあそんなんは時間旅行のうちに入れへんわ。インターネットでゆうたらブロードバンド以前、テレホーダイもなかったころ、ジ〜ジ〜、ぴ〜〜〜ゆうてたときみたいなもんやん。いまはちがうで。日進月歩や。ぼくが買うてきたったツアーは現在可能な時間旅行の限界、645年まで行けるねん。どや」
母 「どや、言われてもなあ...645年ゆうたら『むしごめ供える鎌倉幕府』...えらい昔やなあ」
タケシ「どんな覚え方してんねんな。645年ゆうたら『むしごめ供える大化の改新』やろ」
母 「鎌倉幕府でも合うからしょうがないやんか。ほなあれか、その時間旅行に行ったら中大兄皇子のサインがもらえるとか蘇我入鹿に乗った少年に会えるとか、なんか特典あるん」
タケシ「いや、そんな変な特典はないよ。だいたい、タイムマシンで過去にさかのぼっても、その時代に何らかの痕跡を残したらいかんねん」
母 「え、そうなん」
タケシ「うん、くわしいことは省略するけど」
母 「バタフライエフェクトいうやつやな」
タケシ「知ってるんかい...」
母 「しやから、ただ見てるだけやろ。おもしろないやん。それに、長距離タイムマシンの中はもの食べるのも苦労するそうやないの。無重力やからふわふわして」
タケシ「それは宇宙旅行や」
母 「とにかく、なんか、もひとつやわー。めんどくさいわー」
タケシ「うーん、そんなめんどくさいめんどくさい言わんと、行ってみたら感動するって。一生の思い出になるし」
母 「私、やっぱり白浜一泊豪華グルメの旅のほうがええと思うわ...あ、そろそろ私、支度せなあかんし。そわそわ」
タケシ「せわしないな。冷凍食品なんかどうでもええやん。あああ、せっかく親孝行しようと思て買うてきたのに...ぐすっ」
母 「あ、そやったそやった、ごめん、ほんまはむちゃくちゃうれしいねん。感動してるねん。あんたみたいな息子持って幸せや。涙出てきたわ。ごめん、かんにん。ぐすん」
タケシ「...ほんまか、そう言うてくれたらぼくもうれしいわ。大枚はたいて買うた甲斐があったというもんや。ほな、ちょっと説明さしてもらうけど、実はその、ちょっとややこしいねん」
母 「何が」
タケシ「21世紀から一本で645年に行かれへんねん。まず1871年まで行って、そこから乗り換えやねん」
母 「乗り換え?」
タケシ「うん。最初は南海タイムトラベル社の線を使うんやけど、それは1871年までしか行けへんねん。そこが終点で、そこから系列の和歌山電鉄ハッピートラベル社の線に乗り換えるけど、それも1868年が終点」
母 「たった3年だけかいな和歌山電鉄ハッピートラベル社。それに、1868年は明治維新でなんとなく切りがいいからわかるけど、1871年て何やのんその半端で、地味な年」
タケシ「廃藩置県の年らしい」
母 「あー、そうそう...『藩とはいわない鎌倉幕府』やったね」
タケシ「鎌倉幕府が好きなんか」
母 「なんでそんなとこが終点になってるん」
タケシ「知らんがな。まあそのへんが空いてたんちゃうか。地味やから。で、それから京阪時間旅行社の線に乗り換える」
母 「え、南海と京阪がつながってるん。いつの間に。便利やなー。ほなラピートで出町柳まで行けるんやな。鬼の目に涙やな」
タケシ「ことわざの使い方間違ってると思うけど、とにかくラピートは出町柳行けへんから。電車とこれは話が別やから。えーと、それで1703年の赤穂浪士討ち入りの年まで行ったら阪急タイムトラピックスに乗り換えて関ヶ原の合戦の1600年」
母 「えーっ。今度は阪急。ほな途中で京都線と宝塚線と神戸線に分かれたりするんかいな。いややわー」
タケシ「時間旅行に十三はないからだいじょうぶや」
母 「あ、そうか。しやけど、やっぱりめんどくさそうやな...説明聞いてるだけでしんどなってきたわ...うーん...」
タケシ「もうちょっとやがな。そこからいよいよJR西日本時間旅行社に乗り換え、1467年の応仁の乱、1274年の文永の役、894年の遣唐使廃止を過ぎると645年まで止まりません」
母 「ああ、熱出てきた。頭痛い。腰まで痛なってきた。やっぱり私には無理やわ。もう長うないし...」
タケシ「だいじょうぶやって。ツアーやからなんとかなるって」
母 「...乗り換えは楽にいけるんやろね。御堂筋線と四つ橋線の乗り継ぎみたいにえんえんと歩かされたら私は怒るよ」
タケシ「だいじょうぶやって!」
母 「...松山の坊ちゃん電車やったら乗ってもええけど...」
タケシ「そんなもん、いつでも行けるやん!」
母 「あ、えらいこっちゃ。こんなこと言うてられへん。もう出かけなあかんわ、タケシちゃん、ごめんな、また今度」
タケシ「ちょ、ちょっと待って。冷凍食品の半額セールは3時からてゆうてたやん」
母 「そうや」
タケシ「まだ1時やけど」
母 「ニコニコスーパーはここから自転車で20分、駅前から100円バスに乗って終点のひとつ手前で下りてまた歩いて、そこから1時間に2本しかない、ショッピングセンター専用の送迎バスに乗り換えて行かなあかんねん!」
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://midtan.net/
>
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■編集後記(10/1)
・30数年前、わたしは松下電器製の折り畳み自転車に乗っていた。フレームの折り畳み部分が蝶番になっている、いまでもよくあるスタイルだ。16インチ、変速機なし、鉄製の部品が多くかなり重かったが、当時は他に手に入る折り畳み自転車はなかったように思う。今なら1万円もしない安い折り畳みがいくらでもあるが(あれは極めて危険か極めて重い)、その頃はずいぶん高価で月賦(なつかしい言葉だ)で買った記憶がある。小旅行にも使えるスポルティーフを持っていながら、なぜ小径の走りには不向きな自転車を買ったかというと、もっとお気楽に輪行したかったからだ。自転車を解体し、また組み立てる、それをくり返す輪行スタイルがめんどうに感じていたのである。その16インチを専用の袋に入れて、鎌倉まで運んで走った。しかし、とてつもなく重い。持ち運ぶだけで疲れた。その上、坂道にはまったく弱く、登りに疲労し下りではバランスが悪い。まるで楽しめない輪行であった。これに懲りて輪行目的を放棄、この自転車は街乗り専用になった。あれから信じられないくらい時間が過ぎて、ようやく持ち運びが楽で走行のバランスもいいという、超軽量車YS-11が出た。これこそ夢にまで見た折り畳み自転車ではないか。自転車乗りの醍醐味はヒルクライム&ダウンヒルであるが、もう登りは勘弁してもらって下りだけを楽しむことも、これならできる。峠の上までバスで行って、あとは下り一方。疲れたら電車に乗る。富士スバルラインでもそれをやりたい。買ってもいないのに妄想はふくらむ。(柴田)
・機械翻訳みたいな会話に爆笑。そういや萬田久子がキレイなんだよなぁ。51歳らしい。若作りしすぎず、皺やたるみをアンドロイドのような補正せず。/引っ越しして水道のレバーを触るたびに三井さんを思い出す。主催セミナーでのUI話の例。家とは逆なので毎回間違ってしまう。今は統一されつつあるけれど、家のは古い形式(下げて出す)だったのだ。/乗り換え! 確かに10年ぐらいなら変わってないな。/ウィルコムが事業再生手続きに入ったというニュースを聞いて、利用者としては気が気でない。というのは単なる言い訳で、Willcom 03よりiPhoneの方が良さげだなぁ、でもDoCoMoとの二台持ちにするにはiPhoneの月額料金だと負担増えるなぁと最近思っていた。DoCoMoとiPod touchにするとか……。DoCoMoのパケホーダイでiPod touchは使えるんだろうか、いっそiPhone一台で……一台持ちの人ってまわりで見ないんだけど(iPhone二台持ちの人はいる)、バッテリーの保ち、通話品質はいかがですか? うーん、うーん。おサイフとワンセグはないんだよね。今頃何書いているんだ。……DoCoMoから出るって噂あったやん!(hammer.mule)
< http://www.dtp-booster.com/
>007は残席10、急げ! 008はおなじみゼンジさんのカラーマネージメント特集!