[3155] 印刷のカラーマネージメント

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《またスマホですか》

■買物王子の家づくり[17]
 上棟式で一区切り
 石原 強

■ショート・ストーリーのKUNI[106]
 悪夢
 ヤマシタクニコ

■デジアナ逆十字固め...[120]
 印刷のカラーマネージメント
 上原ゼンジ



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■買物王子の家づくり[17]
上棟式で一区切り

石原 強
< https://bn.dgcr.com/archives/20111117140300.html
>
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上棟式は、建物の守護神と匠の神を祀って、棟上げまで工事が終了したことに感謝し、無事、建物が完成することを祈願する儀式です。最近では、儀式よりも施主が職人さんをもてなす「お祝い」の意味が強くなっているようです。我が家も「略式」で行うことにしました。

●初めて入った家に感激

当日は、準備のために仕事を休むつもりでしたが、外せない打ち合わせが入ってしまい半休をとりました。仕事を片付けて、慌ててデパートで、手土産のお菓子とお酒の小瓶を揃えます。祝儀袋も買って、現場に駆けつけました。

フルヤさんに案内されてはじめて建築中の家を見学しました。工事用の足場にある階段を伝って三階に登ります。まだ柱が剥き出しで、材木が積んであったり、階段がなくて落とし穴みたいな状態。おっかなびっくり見て回ります。

天井の高さや部屋の広さはよくわかって楽しい。三階の子供部屋を通って、二階に下ります。リビングの吹き抜けを見上げると思ったより天井が高い。期待以上の空間で感激です。ただし、窓の位置だけが気になりました。東側の窓からは隣家の屋根が重なってしまうこと。南側に移そうかとフルヤさんと話をしていました。

一通り家の中を見たら、日が暮れて来た。大工さんたちも片付けが終わり、一階の南側の部屋に集まりました。仮設のテーブルも作られています。オオハラさんの進行で上棟式がはじまりました。

家の四隅の柱にお酒、お米、お塩を撒いて清めます。順番もあるみたいなので、現場監督のキクチさんがお酒を持って先導します。続いて私がお米、妻が塩という順番。最後は「僕もやりたい」と後ろで見ていたカケルも参加しました。

その後は、施主挨拶です。「家づくりは、見守るだけなので、丈夫な家を造って欲しい」と伝えると、大工さんから「まかせておいてください」と力強いお言葉をいただきました。

続いて設計の古谷さんからの挨拶「震災の日がスタートで、家を作っている場合なのかと悩んだこともありました。でもこうやって力をあわせて家が建つと、やってきて良かったと思います」

あとは歓談。オオハラさんから、大工さんや協力していただいている会社の方など紹介していただきました。大工さんからは、「連棟の中でも一番カッコいいよ」とほめていただきました。デザインは好き付きだけど、良いものと思って作っていただけるのは、嬉しいです。

オオハラさんからは、家の説明。「この家は一階に柱が多い。梁に対して必ず柱が立っている。半分くらいにしても大丈夫だと思うけど、丈夫にできているんです」。素材についても「柱に使われているのは、スギの無垢材です。E70という印がついているでしょう。これは強度を表しているのだけど、無垢材で揃えるのは大変なんですよ」。きれいな柱で、近づくと木のいい香りがします。

一本締めでお開き。手みやげを渡して小一時間ほどで終了。和やかな会でした。関係者が一堂に会する機会も少ないので良かった。これから現場に通うので、顔と名前を覚えていれば気軽に声をかけられます。家づくりが一区切りついた感じがしました。

●現場で体験して決める

上棟式から翌週の週末にフルヤさんと打ち合わせ。以前に事務所で選んだ、壁紙、タイルを現場で確認します。

部屋の壁紙はシンプルに二種類。居室と水周りです。居室は、フルヤさんオススメの塗装調の壁紙。無地でマットな質感のものです。前の週末にリリカラのショールームでサンプルをもらってきました。水周りは、掃除がしやすいものという妻の指定。水拭きもできるような、丈夫な加工が施されたものにします。
リリカラ < http://www.lilycolor.co.jp/
>

壁紙にあわせて床タイルを選びます。実際に床に置いて色合いを確認します。室内では同じ黒に見えたタイルも、陽の光でグレーと黒にはっきりわかれた。外壁にあわせてより黒いほうを選択します。玄関からつながる納戸の床は、石目調のクッションフロアを選んでコストダウンします。

上棟式の時に気になった窓の位置。変更するなら今しかない。南側に向けると確かに眺めはいい。でも窓を拭くことができないことに気がついた。東側だと屋根に登ればなんとかなる。それに立っていると隣家が見えるけれど、座ったり寝転がったりすれば期待通りに空が見えます。これくらいなら我慢できるかもしれないと、最初の設計どおりにしました。

電気の配線も、もうすぐ始まるということで、スイッチの位置を確認します。図面では、まだ曖昧になっていたり、途中の変更で位置がはっきりしないものがあります。これを現場で決めてしまいたい。

スイッチもインテリアとしてはイマイチです。できればあまり目立たせたくない。しかし、隠してしまうと使えない。毎日のことだから、不便なのが気になってくるだろう。そのため、実際に使う場面を想像しながら場所を確認していきます。

普通は右手で操作するから右側がいい。しかし部屋の外からは右側でも、内側からみると左側になってしまう。あまり気にしすぎてもダメみたいです。ここがベストといっても、構造的にダメな場合もあります。柱や引き戸が重なる部分は避けなければなりません。そうなると、適当な場所が見当たらないところもでてきます。

あっちがいいか、こっちがいいか、あれこれと試したり、フルヤさんに相談したりしながら決めました。一通り確認し終えた時には、既に真っ暗になっていました。

●引き渡しは年末ギリギリ

作業の工程表を受け取りました。11月の進行としては、まずは屋根を作って、サッシを取り付ける、それから壁の断熱や配管、配線をしてを行っていくということです。12月に入ると外壁のサイディング、ベランダの取り付けをしつつ、壁紙、建具やキッチン、トイレなど設備の取り付けなどの内装工事があります。

引き渡しは、なんと29日。年末ギリギリです。Boo-Hoo-Woo.comの三宅さんからは、24日、25日にはオープンハウスをやりたいという連絡。なんとか年末に引っ越して、新年は新居で迎えたいのだけど、大丈夫だろうか? これからの進行にかかっています。

いよいよ大詰めですが、あと1ヶ月半でこの家に入居するというのも、まだ信じられません。できることは早く決断をして、滞りなく工事が進んでいくことを見守るだけです。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
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クリスマスツリーが立って、ライトアップが目に付くようになると、年末が近いことを感じます。例年に比べると、さすがにおとなしい演出です。近所のオフィスビルのツリーは、必要な電気を太陽電池でまかなうらしい。冬も節電ですね。

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■ショート・ストーリーのKUNI[106]
悪夢

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20111117140200.html
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ある日曜日、おれのうちにセールスマンが来た。
「突然ですが最近、悪い夢をごらんになったことはありませんか」
「悪い夢? しょっちゅうだよ」
「ほほう」

「今日もさんざんな目にあったよ。幼稚園の遠足でいつの間にかみんなとはぐれてしまい、気がつくとトラの檻の中だった。必死で脱出法をスマホで検索したら体を3センチ幅にする方法がわかったのでなんとか脱出したけど、一時は死ぬかと思った。いまでも胸がどきどきしてる」
「それはたいへんでしたね」

「おとといは会社の廊下を走っていたら小学校のときの中本先生に見つかって大根の束で殴られた。おれの頭上で砕け散る大根。次の瞬間には、荒れ狂う海で酢昆布を浮き代わりにして泳いでいる。と思ったら、なんとそれは部長の頭の上で、風にたなびくバーコード髪がおれにからみつく。必死で脱出法をスマホで検索して」
「またスマホですか」

「とにかくよく悪夢をみるんだ。目がさめたらくたくたでいつまでも頭がぼうっとしている。何時間寝ても寝た気がしない。パトラッシュ、もう疲れたよ」
「そんなあなたにぴったりのものをご紹介したくてやってまいりました。ただいま獏の一週間無料レンタルをしております」

「獏? レンタル?」
「はい。悪い夢を食べてくれるので眠りから覚めるとすっきり気分爽快。一日中気持ちよくすごせます。仕事の能率も格段に上がります」
「ふうん。でも、悪い夢を食べる獏は想像上の動物っていうじゃないか。動物園にいる獏とはちがうんだぜ」

「さようでございます。想像上の獏を世界で初めて、当社が実在化したものです。商品名は『iBaku』」
「電話もかけられるのか」
「かけられません」
「ロボットなのか」
「ではありませんが、まあそう思ってくださってもけっこうです」
「ふうん。まあ無料ならいいだろう。試してみるよ」

というわけで、おれの寝室にiBakuが来たというか設置されたというか。見た目は一応伝説の獏に似せたのか、鼻が長く、目は小さく、もしゃもしゃの毛皮に包まれたおとなしそうな動物だ。小さな目が、なんとなく愛嬌がないこともない。

「ほんとに悪夢を食べてくれるんだろうな」
獏はこっくりとうなずいた。おれは説明書に従い、自分と獏の頭をケーブルでつないだ。おやすみ。

翌朝、おれはひさしぶりにすっきりと目覚めた。
「ああよく寝た。ゆうべは悪夢を全然みなかったようだ」
そういうと、かたわらの獏はぶるるるるる! と首を横に振った。

「ん? あ、そうか。おまえが全部食べたってか」
獏はうなずき、げっぷをした。悪夢でおなかいっぱいのようだ。
「そうか。それは助かった」

次の日もその次の日も、気持ちよく目覚めた。頭がすっきり冴えているので、新聞を読んでもテレビを見ても中身がすうっと頭に入っていく。会社でも、なんとなく仕事がはかどる。疲れ方もちがう。そうか。おれは今まで悪夢のために相当いろんなことを犠牲にしていたのかもしれない。本来のおれは「できる人間」だったのだ。もっと早く獏を使うべきだったのか。

いよいよ今日は獏を返却するという次の日曜日の朝。おれは獏がなんだか調子が悪そうなことに気づいた。みぞおちのあたりをさすりながら「おえっ」「おえっ」とやっている。それでも治らないようで、トイレにかけこんだ。しばらくこもっていたと思うと浮かない表情で戻ってきた。

「なんだ。どうしたんだ」
獏は両手を頭にやったりおなかにやったりして、ジェスチャーで説明を始めた。

「ん? 夢を食べて...腹をこわした? いや、夢を食べるのがおまえの仕様じゃないのか...え? それは? 悪い夢だけ? ええっ? いい夢も食べたんだ? あ、そういえば、ゆうべは寝る前に枕の下にAKB48の写真を敷いて寝たんだ。いい夢がみられますようにと、ぱん、ぱんと柏手打って...おまえ、それ食っちゃったの?!」
獏はうんうん、とうなずいた。

「そうか。おまえにとっては悪い夢がおいしい食事で、いい夢だと食あたりを起こすんだ...って、なんでいい夢まで食べてしまうんだよ...ん? iBakuはまだ開発途上で? 夢の分別までできない?! 片っ端から食ってしまうのか! ええっ? そもそも...何が悪夢かそうでないかは主観的なもので...個人の嗜好の差も大きく?...うんうん、確かに一理ある...いや、ちがう、なんだいそれ! 聞いてないぞ!」

そのときセールスマンが来た。
「いかがです。お使いになってみて。なかなか快適なものでしょう。よければ有料のご契約を」
「するもんか!」

AKBの夢が不意になったおれは即座にことわった。ああ、夢の中でああもしたいこうもしたいと、念じて眠りについたのに。ちきしょう。ばかあ。ばくのばかあ。獏は悲しそうな顔をして引き取られていった。

と思ったら2時間後にセールスマンが戻ってきた。獏を連れて。ばかばくを連れて。
「なんだよ。まだ何か用か」

「失礼ですが、お客様のせいで当社のiBaka、いえiBakuに重大な損傷が生じております。すっかり弱って通常の業務もできそうにありません。たいへん申し上げにくいことですが、修理費を請求せざるを得ません」
「しゅ、修理費?!」

「契約書のここに書いてあります。万一、試用期間中に獏になんらかの損傷が起こった場合、修理に要する費用は全面的に試用者が負担する、文句はいっさい言いませんと」

「な、なんじゃこりゃ! こんな字、読めるもんか! こんな...5ポイントか6ポイントくらいのちっさい字で行間詰めまくり、カラーはどうみてもスミ10%くらい、しかもフォントはMS明朝...おれはMS明朝はきらいだ!」

「そう言われましても、お客様のサインと捺印もあることですし、今さら通りません。修理費×××万円を負担していただくか、もしくは」
「もしくは?」
「有料でのレンタルを続ける、または買い取っていただくという方法でもけっこうです。お安くしておきます」
「はあ?」

「通常は獏本体価格にネットワーク使用料、メンテナンス費用などすべてあわせてこれこれですが、試用していただいたお客様には割引がありまして月々これこれのお支払い、獏の価格が実質ゼロ円になるプランもございます。ただし5年縛りですが。なお、獏の勝手な処分は法律で禁じられております」

おれはまんまとひっかかったのか。以来、おれは獏と同居を続けている。おれはこれ以上獏の調子が悪くならないように、毎日せっせと悪い夢をみては獏に食べさせている。

たまにうっかりいい夢をみると(といってもおれには自覚できないが)獏がげーげーやってますます弱るのでそれはあきらめ、枕の下には見ただけでぞっとするゾンビやゴキブリや、ブルジュ・ハリファの最上階から真下を見下ろした図(おれは高所恐怖症だ)、カキフライ(これも苦手だ)の写真などを敷いて寝る。

とりあえず、今のおれの不満はもう長い間夢をみていないことだ。目覚めたときに頭の中がからっぽですっきりしているなんて、もううんざりだ。そんなの人間じゃない。たまには悪夢でもなんでもいいからみて、思いっきりいやな気分を味わいたい。能率が悪くてけっこうだ。おれの夢を返してくれ!

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://yamashitakuniko.posterous.com/
>

団地で大がかりな補修工事をやっている。作業員たちの元気な会話が聞こえる。と思ったらそれが外国語だ。英語でも中国語でも韓国語でもないような。へ〜と思ってたら、別の日、その外国語をしゃべっていた同じ人と思える声で突然「オマエ、アホチャウカ!」。作業の手順の問題で、なにか同僚に注意していたようだ。大阪弁も話せる人なのだった。

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■デジアナ逆十字固め...[120]
印刷のカラーマネージメント

上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20111117140100.html
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ようやく書き下ろしの本が刊行された。

以前からまとめたいと思っていた、レタッチとカラーマネージメントに関する、基礎的知識をまとめた教科書的な本だ。レタッチの本というのはたくさんあるけれど、製版や印刷の話にまで踏み込んだ本というのはあまりない。

しかし、私がデジタルで入稿を始めた時に知りたいと思ったのは、「印刷上で自分のイメージ通りに再現するにはどうしたらいいのだろうか?」ということだった。今でも同じようなことで悩んでいる人はたくさんいるはずだから、自分が学んできたことをまとめておきたいと思ったというわけだ。

私が当初知識を得たのは本からだった。最初の頃はPhotoshop本を買い集めていたが、やはり製版や印刷に関する情報は得られなかったので、製版技術やスキャニングに関する本に手を出し始める。そして、重要なのはカラーマネージメントの技術だということに気づき、日本パブリッシング協会のセミナーに顔を出し始めるようになる。

そこで知り合ったのは、製版、印刷の技術者達であり、スキャナやデジタルカメラを開発しているような人達だった。そして、そこにはカメラマンやデザイナーが知りえないような知識や技術があった。そして、セミナーが終わった後に飲み屋で根掘り葉掘り質問をすることにより、少しずつ後工程の知識を得ていった。

やがて、日本パブリッシング協会のカラーマネージメント委員会に加えていただいたり、MD研究会のメンバーとして、「DTP WORLD」の誌上実験室に参加することになる。

その最初の成果として、上梓したのが「すぐにわかる! 使える!! カラーマネージメントの本─仕事で役立つ色あわせの理論と実践マニュアル」(毎日コミュニケーションズ刊)。さらに、MD研究会編の「図解カラーマネージメント実践ルールブック」や「RGB & CMYK レタッチ大全」(ともにワークスコーポレーション刊)の制作にも加わった。

ただし、これらの本はちょっと専門的過ぎるきらいもあったので、もう少しコンパクトで初心者にも分かりやすく、しかし仕事でちゃんと使えるような知識が詰まった本、というのを企画したというわけだ。タイトルは「写真の色補正・加工に強くなる 〜レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社刊)となりました。

●微塗工紙に刷るのがネックに

前回のテキストでもちょっと書いたことだが、この本を制作するにあたっての懸念材料がひとつあった。それは本の用紙が微塗工紙であり、版元で見せてもらった同じ紙で刷った本の仕上がりがいまいちだったこと。上述の本はすべてコート紙だったから何の問題もなかったが、レタッチの本なのに仕上がりがいまいちというのは、ちょっと致命的だ。

私が関わっている本でも微塗工紙というのは、けっこう使われている。というか、カラー印刷をする書籍のトレンドといってもいいだろう。微塗工紙とコート紙の違いは、平滑性を増すための塗料の塗工量の違いだ。たくさん塗工すれば、ビカビカのアート紙になるし、量を減らしていけばインクを吸うようになり、色再現域も狭くなっていく。

では、なんでそんな微塗工紙が使われるのかと言えば、値段が安いことと、束(=ツカ。本の厚み)が出せるというのが大きい。それにコート紙だと風合いがないから、書籍の用紙としては人気がないのだ。風合いがあって印刷が良く出る紙というのもあるが、そういう紙は高い。そこで「印刷の悪いのはちょっと我慢して微塗工紙にするか」という決められ方をしているのだろう、と推測する。

今回の本は、シリーズの中の一冊にしたいとのことだったし、用紙に関して著者がガタガタ言うのは憚られる。しかし、今回監修をしていただいた庄司正幸さんに相談をしたら、その用紙のプロファイルを作ってくれるという。まあ最初からそう言ってくれると期待して、相談したという部分もあるんだけどねw

というわけで、今回の本ではカラーマネージメントのワークフローを組んでもらうことができた。本機でカラーチャートを刷ってプロファイルを作り、そのプロファイルを使ってCMYKに変換するという方法だ。

では、この方法を採るのと採らないのとではどんな違いがあるのか。もし、通常の方法でやるのであれば、コート紙用のプロファイルを使って色変換をし、微塗工紙に印刷をすることになる。すると、コート紙と微塗工紙の色再現域の違いの分だけ、ナリユキで彩度や明度は落ち、色相も変わってしまう。そして「まあ、こんなものかな」と言って我慢をしたり、校正が上がってから無理やり補正をすることになる。

一方、カラーマネージメントをするとどうなるのか? カラーマネージメントをしても、微塗工紙の色再現域が広がるというわけではない。しかし、色再現域の共有部分に関してはマッチするようになるため、制作に使ったディスプレイ表示の色とも近似するようになる。

実際に刷り上がった印刷物を見ての印象は「カラーマネージメントして良かった! 微塗工紙でもそんなに悪くないじゃん」である。カラーマネージメントしたおかげで、ちょっとランクが上の紙に刷ったような感じになった。

これは大変お得なことだと思う。ディスプレイで仕上がりのシミュレーションも可能なので、校正の回数も減る。実際に今回、後からデータを直したのは2点だけだ。よく、色校正を何度もやったと言って自慢する人がいるけど、最初から合うようなワークフローを組んだ方が絶対にいいはずだ。コストは安くできるし、製作時間も短くなる。

たぶん、こんなやり方で印刷をするケースは少ないので、紙質が良くなければ、ナリユキで色が沈んでしまっても仕方がない、というのはデザイナーや編集者にとっての共通認識だと思う。でも今は印刷機が良くなったり、CTPが普及したりで、印刷物のクオリティーは上がっているので、そこにカラーマネージメントのワークフローを組み込むことによって、紙質の良くない紙でもそれなりの印刷が可能になるということだ。

印刷のプロファイルを作るというのはけっこう難しく、変なプロファイルを作ってしまうと、そのデータで変換をかけただけで画質が劣化してしまうような場合もあるので、あまり甘く見てはいけない。ただし、シリーズ物などで用紙が決まっているような場合には、かなり有効な方法だと思います。

●福井若恵の「徒歩目線」

書き下ろしの仕事が終わったので、bitgalleryのコンテンツも増やすことができた。福井若恵さんの「徒歩目線」だ。このbitgalleryというのは、私が好きな写真家に声をかけて、写真集のようなスタイルでWEBに公開するギャラリーだ。本誌で連載中のセーラー服仙人GrowHairさんの「Dollfriends」も掲載させていただいている。

若恵さんはイラストレーターが本職なので、写真家というわけではない。でも、変なものを見つけ出してくる才能に溢れ、コメントもすごく面白いので、今回声をかけさせていただいた。自信を持ってオススメしますのでぜひご覧ください。そして、もし気に入った写真があれば、ツイートしたり、「いいね!」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。

・bitgallery
< http://bitgallery.info/
>

・「写真の色補正・加工に強くなる 〜レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)
< http://gihyo.jp/book/2011/978-4-7741-4888-5
>

【うえはらぜんじ】zenji@maminka.com < http://twitter.com/Zenji_Uehara
>
上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>
Soratama - 宙玉レンズの専門サイト
< http://www.soratama.org/
>
上原ゼンジ写真実験室のFacebookページ
< https://www.facebook.com/zenlabo
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■編集後記(11/17)

・蕨市の三学院(金亀山極楽寺)で卒塔婆プリンタによる成果物を見たことがあったが、後にネットで三学院を復習したら手水舎に水琴窟が仕込まれていることがわかった。先日、妻を驚かせようと黙ってそこに連れて行った。龍のような顔をした金色の亀が睨みをきかせ、水盤の底から常に水が湧き上がっている。その水盤の真下の砂利あたりからたしかに妙なる音が聞こえるではないか。前に行ったときは気がつかなかった。「水琴窟の音は、地中に作りだされた小さな空洞の中に水滴を落とした際に発生する音で、音を空洞内で反響させ、地上に漏らしたものである」(Wikipedia)。水がとぎれることなく連続的に流されているから、ここの水琴窟は常に演奏を続けている。音楽専攻の妻はいくつかの音を拾って解説してくれたが、わたしにはよくわからない。せっかくの素晴らしい仕掛けなのに、そばになんの紹介もなく、総合案内図にも記入されていないから、気がつかない人も多いと思う。もったいないことだ。/先日の「困った」の続き。官製はがきはあきらめて薄いはがき用紙で印刷完了。その後、使用済み年賀はがき数枚でトライしたら、給走・印刷が可能なものも現れた。新品の硬いはがきがいけなかったのか。それだって問題ではあるが、とりあえず難局は乗り切ったのであった。(柴田)
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>
蕨市三学院の水琴窟(YouTube)

・あと一ヶ月半か〜。/私もMS明朝はきらいだ! わはは。実質ゼロ円にも爆笑した。/ゼンジさんの新刊。「画像はピクセルの集合」「RGBって何?」「カラーチャンネルの仕組み」というような基本的な解説から始まり、自動補正の危険性や、出したいニュアンスに合わせたトーンカーブのいじり方、Camera Rawの使い方、女性ポートレートの補正など、実例写真とともに紹介されている。他にもレイヤーマスク、アルファチャンネル、調整レイヤー、スマートオブジェクト、アクションやバッチを使ってのテクニックなどにも言及。1項目につき1ページまたは見開きで書かれてあり、読みやすくわかりやすい。Photoshop本は巷に多数あるものの、Photoshop以前の基礎知識や印刷物に反映させるためのカラーマネージメント、製版処理の話まで書かれてあるものは少ない。専門学校の授業用テキストにも良さそうだ。最近やったお仕事で、女性のシワやクマ、肌色を美しくしたいと思いつつ、時間の関係もあって、あまり補正できなかったのだが、この本を読んでいたら簡単にきれいにできたのになぁなんて思っていたりする。私は調整レイヤーやスマートオブジェクトが好きで、これらの機能が備わっていないPhotoshopバージョンでは、元データを残すため、レイヤーのコピーを大量生産してパフォーマンスそのものに支障が出たり、調整途中でpsdデータを複製してハードディスク容量を圧迫していたが、これらの機能を使えばそれらが解消できるのだ。多くのスペースを占める写真がきれいだと印象が良くなり、お客さんの笑顔が違ってくるでござる。(hammer.mule)
< http://ja.wikipedia.org/wiki/Adobe_Photoshop
>
調整レイヤーってそんなに古くからあったっけ?