《政権公約:イケメンの定義をはっきりさせます》
■私症説[44]
オヤジはどうでもいいから若者に仕事を!
永吉克之
■ショート・ストーリーのKUNI[130]
むなしい兄弟
ヤマシタクニコ
■私症説[44]
オヤジはどうでもいいから若者に仕事を!
永吉克之
■ショート・ストーリーのKUNI[130]
むなしい兄弟
ヤマシタクニコ
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■私症説[44]
オヤジはどうでもいいから若者に仕事を!
永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20121206140200.html
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《平均年齢24歳! フレッシュな職場です!》
こんなコピーの下に、若い男性を間にはさんで若い女性ふたりが並び、ピースサインを出している写真が載っている求人サイトを眼にして、すっかり嬉しくなってしまったので、つい電話機に手が伸びた。
女性の声だった。
「お電話ありがとうございます。〇〇コーポレーションの中岡が承ります」
「あの、求人広告を見たんですけど、少しお尋ねしてもいいですかね」
「はい、どうぞ。」
「ええと、店頭で新製品のサンプルを配布する仕事と書いてあるんですけど、接客の経験がなくてもかまいませんか?」
「大丈夫です。研修期間がございますので」
「それと募集広告に、平均年齢24歳の職場、というコピーがありますけど、そのあたりの年齢が採用の条件ということなんですか?」
「いえ、別にそういうわけではございません」
「じゃ、年齢制限は設けてないんですね」
「ええ、一応設けてはおりません......が、おいくつでらっしゃいますか?」
「72です」
「少少お待ちくださいませ」
保留メロディ。
「年齢制限ございませんが、業務時間中はずっと立ちっぱなしなもので、ご高齢の方には、ちょっと負担が大きいかと」
「体力なら自信があります。この間ホノルルマラソンで完走しました」
「少少お待ちくださいませ」
......保留メロディ
「たしかに広告では謳っておりませんが、一応、30歳あたりを上限ということにさせていただいております」
「ということは、年齢制限をしてるということですよね」
「ええ、まあ職種からして、その辺が常識的な範囲ではないかということで」
「72では非常識なんですか?」
「いや、そうわけでは......少少お待ちくださいませ」
......保留メロディ
中年らしい男の声。
「お電話替わりました。確かにある程度の年齢制限はさせていただいております。ただ、法律がありましてですね、募集をするときは、採用条件に年齢を含めてはいけないことになってるんですよ。だから、求職者のかたがたにその辺りの事情を察していただくために広告には《平均年齢24歳》というコピーを入れてるわけなんです」
「ええ、それはわかってます。だから、法律を守って年齢に関係なく採用すべきじゃないんですか?」
「それが、そうもいかないんですよ。この仕事は接客が中心で、お客様も若い方が多いんです。スタッフのイメージが売り上げにもつながりますので、失礼ながら、ご年輩よりも若い人の方が、なんと言いますか、その、雰囲気が明るいですよね」
「シミのいっぱい浮いた汚らしい年寄りにうろうろされると、雰囲気が暗くなると」
「それは、いくらなんでも言い過ぎじゃないですか」
「そうですか。でも、明らかに雇用対策法に違反してますよね」
「その辺りの解釈は、そちらのご自由です。......ちょっとお待ちください」
......保留メロディ。
今度はずいぶん待たされた。もう切っちまおうかと思って受話器を置こうとしたら、さっきの男の声がした。部屋を移ったらしく、周囲に人の気配がない。
「おたく誰?」
「求職中の者ですけど」
「ほんとに仕事する気あんの? ただの嫌がらせなんだろ?」
「いえいえ。こんな仕事前からしたかったんですよ、ほんとに」
「あそう。いいよいいよ。じゃ面接してやるからいま来いよ。すぐ来いよ。絶対にこいよ」
電話を置いた。怒らせて本音を吐かせてやったから私の勝ちだ。どうせ全部ウソなんだから、72歳なんてケチなこと言わずに85歳くらいに言ってやればよかった。
迷惑な電話に最後までつき合ってくれただけ、この会社はましな方だった。なかには、私が話している途中で一方的に電話を切るところもあったし、威力業務妨害で訴えると脅してくるところもあった。改正された雇用対策法は罰則規定のない無力な法律なので、それを盾にして闘うつもりはなかった。
《学生を支援!》《フリーター歓迎!》《20〜30代が活躍中!》《若い仲間でいっぱいの職場!》などなど、求人サイトのコピーの無芸さにはほんとうに愉しませてもらっているが、これは企業が、年輩者の応募を水際で食い止めるためのサインで、《平均年齢24歳!》と謳ってあれば、それはせいぜい30歳くらいまでの方しか採用しませんから、応募しても履歴書がムダになるだけですよ、と警告しているのだ。
おいおい、これもそそられるじゃないか。
《先輩社員のサポートがあるから初心者でも安心!》
電話応対業務か。写真のなかで、ヘッドセットを着けてコンピューターの前に坐っている女どもの空空しい笑顔を見ていると、また電話機に手が伸びる。
年齢にも性別にも触れていないが、その笑顔が中高年求職者の脇をすり抜けて、若い女性求職者においでおいでしているのが誰にでもわかる。ここはわたしたちの花園よ。小汚いオヤジは入れないから安心してね。この広告を見て応募できるほどの根性オヤジがいるなら一度見てみたいものだわ。
そう言っているのが聞こえる。いや、安心してくれたまえ。応募する気持なんか毫もないんだから。私はちょっと話がしたいだけなんだよ。
今度は、ほんとうの年齢で勝負してみたくなって、56歳でいくことにした。
「おはようございます。◯◯の吉川でございます」
よく通るきれいな声だった。こんなきれいな声の持ち主をこれから虐めるのかと思うと少し胸が痛むが、これも対外的に訓練されたものだ、同情してやることもないか。
まずは、相手に油断をさせようと、業務内容についていろいろと尋ねた。そして、頃合いを見て切り出した。
「採用条件のなかに、年齢のことが書いてないんですけど、年齢制限はないんですか?」
「はい、ございません」
「56なんですけど、かまいませんか?」
「ええ、問題はございません」
何のためらいもなく言われたので、次に用意していた手が打てず、言葉を探しているうちに、向こうでさっさと段取りを始めた。
「面接ですが、明日の午後4時ではいかがでしょうか?」
「あ、はい。ええと、そうですね。それで結構です」
攻めには強いつもりだったが、守勢に立つとこんなにも弱いとは思わなかった。
「では、明日、12月6日木曜日の午後4時から面接を行ないますので、写真つきの履歴書をご持参のうえ、10分前には受付においでいただいて、お名前をおっしゃってから、お待ちくださいませ」
応募者からの電話を受けるたびに、日時以外は一言半句にいたるまで同じことを繰り返し言っているのだろう。舌も滑らかに、歌うが如くだった。私は、相手に誘導されるままに名前と電話番号を伝えた。
「では、お待ちしております」
こいつはひょっとして、と募集広告を見直すと、社名の次に「人材派遣会社」という表記を見つけた。しまった。ここはコールセンター専門の人材派遣会社だったんだ。挑発的な募集広告で、すっかり昂奮して、ろくに読まないで電話をしてしまった。
そりゃ派遣会社なら、登録するだけだから年齢は関係ない。仕事が斡旋できなくても、派遣先の会社から、年輩者はいらないと言われたから、と言えば済む。
予約してしまったので、翌日、面接に出かけて登録を済ませた。それから4年近く経つが、いまだに、その派遣会社から仕事の斡旋はない。
■
もし私が経営者の立場にいたら、特にそれが接客中心の業務だったらオヤジを雇うなんて非常識なことはしない。また、客の立場から言えば当然、若い女性に応対してもらいたい。うっとおしいオヤジと対面していられるのは6秒が限界だ。オヤジとは何と孤独な人種であることか。
【ながよしのかつゆき/永吉流家元】thereisaship@yahoo.co.jp
年末は例年通り、聖夜も大晦日も元日も、平日となんら変わりのない反復生活を過ごすことになりそうな私だが、それでいい。アルマジロには聖夜どころか祝祭日もないのだからね。その他、インドクジャクとフクロオオカミにも祝祭日はない。たしか、スマトラトラにも祝祭日はなかったと記憶している。とにかくそれでいい。
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■ショート・ストーリーのKUNI[130]
むなしい兄弟
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20121206140100.html
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むさくるしい部屋でむさ苦しい兄弟がごろごろしていた。
兄「なんか選挙があるらしいな。おまえ、行く?」
弟「行かないよ」
兄「行かないのか」
弟「行かないよ」
兄「なんかいろんな政党ができておもしろいらしいぜ」
弟「行かないよ」
兄「おれの彼女が言うんだよ。『ねえねえ、こんな政党、どう? 名前はまだ考えてないんだけど、公約は、イケメンの定義をはっきりさせます』って。おもしろくないか? 彼女に言わせるとイケメンだイケメンだと言うので見に行ったら『どこが?』みたいなケースが多すぎるというんだ。だから、政党をつくって民意を問う必要があるって。わははははは」
弟「・・・」
兄「そうだ、おまえなんか、こういう政党どう? 名前は考えてないけど公約は『バージョンアップは絶対5年以内にはしません』っていう党。いいだろ。どうだ?! わはははは」
弟「どうでもいいよ」
兄「なんかやたらテンション低いじゃないか。どうしたんだ」
弟「あのさ」
兄「うん」
弟「ああ、やっぱり言いにくいな」
兄「なんだ。言えよ」
弟「おれ、最近、なんだか足のここに裂け目ができて」
兄「裂け目?」
弟「うん。それで、そこから何か出てるんで、そっと引っ張ってみたら......」
兄「あ、なんだそれ」
弟「ケーブル......みたいじゃね?」
兄「みたいも何も、ケーブルだ!」
弟「だろ。足なのに、さ。ここ」
兄「うん」
ふたり、しばし顔を見合わせ沈黙。
弟「おれって、機械か何かなのか?」
兄「機械!いや、そんな。でも、そうなのか」
弟「知らなかった」
兄「そうだろうな。おれも気づかなかった」
弟「でも、これを見つけてから意識するせいか、なんだか思い当たるふしがあ
るんだよ」
兄「どんな」
弟「前から時々、炊飯器とか洗濯機にすごく親近感を持つことがあったんだ」
兄「えー、そうなんだ!」
弟「なにか、こう、他人じゃないって感じ?」
兄「ほんとかよ!」
弟「心を通わせることができそう、っていうか。炊飯器のあの丸みをおびたボディなんか、いとおしくて抱きしめたくなる」
兄「へんたい!じゃない、まじか。おれの弟が」
弟「人間じゃない」
兄「信じらんない」
弟「おれだって。だから」
兄「だから?」
弟「選挙なんか行ったってむなしいだろ」
兄「ああ、そうだな」
弟「なんか新しく法律が決まったとして、それって人間でないやつには関係ないだろ」
兄「確かに。『ただし人間に限る』ってやつだな」
弟「そうそう」
兄「ええっ?そうなると......」
弟「うん?」
兄「実はおれもさ。ちょっとおまえの意見を聞きたいことがあるんだ」
弟「え?」
兄「言いにくいなあ。やっぱりやめとくか」
弟「なんだよ、人に言わせておいて!」
兄「うん......これなんだけど」
兄は靴下を脱ぎ、、足の裏を示す。弟、飛び上がる。
弟「わ、びっくりした! ......隠すなよ、も、もっと見せろよ!」
兄「はずかしいじゃないか!」
弟「いや、びっくりしたなもう。それ、ひょっとしたら、その、あの......根?」
兄「いうなよ!そんなでかい声で!」
弟「根が生えてる、って、つまり兄貴は......植物?!」
兄「......なのかなあ。最近生えてきたんだ」
弟「まいったなあ」
兄「それはおれの言うセリフだ」
弟「兄貴は人間だと思ってたのに」
兄「おれだっておまえは人間だと思ってたさ」
弟「でも、兄貴が植物って、わからないでもない」
兄「うん。おれも。自分でも、そういえば、ってとこがあるんだよね。昔から運動きらいだし。ひとところにじっとしていたいほうだった。だいたい朝目が覚めると必ずカーテンのすき間の、光が差し込むほうに頭が向いてるし」
弟「やっぱり!」
兄「となると、たしかに選挙なんかむなしいよな」
弟「そうだろ。そもそもおれたち、選挙権ないかも!」
兄「ああ、言えてるな。そうだ。おれたちが投票なんかできるわけないじゃん!」
弟「そうだよ! なんだ。あれこれ考えることないんだ」
兄「考えてもしかたないというか。ちょっとさびしいけど、気楽なもんだ」
弟「まったくだ」
ふたりごろんと横になり、ますますだらける。
弟「なあ兄貴」
兄「なんだよ」
弟「兄貴に彼女がいたって知らなかったよ。彼女には、それ......見せたの?」
兄「彼女?」
弟「ああ」
兄「すまん。あれはうそだ。ほんとは電車でそばにすわってたぶさいくな女の子たちがしゃべってるのを聞いただけだ。見栄張ったんだ」
弟「なんだ」
兄「それより、おまえに聞きたいんだけど」
弟「なんだよ」
兄「うちの冷蔵庫、最近ごーっとかきゅるきゅる、とか変な音するだろ」
弟「うん」
兄「あれ、何を言ってるかわかるのか」
弟「......わかるわけないだろ!」
兄「怒るなよ」
弟「おれは......まだ人間なんだ!」
兄「そうだったな」
弟「ばかにすんなよ!」
兄「怒るなって」
弟「怒るさ!」
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
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< http://yamashitakuniko.posterous.com/
>
最近ショックだったのは、職場で(たまたまその場で、だけど)私以外の人間はみんな「計算尺」を知らなかったこと。といっても、私もよく知らないし、どういうふうに使うものなのかいまいちわかってなく「なんかこう、スライドするんだよ」くらいしか説明できなかったけど。使っていた人、いますか?
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編集後記(12/06)
●「魔が差す」の意味は「悪魔が心に入りこんだように、一瞬判断や行動を誤る。出来心を起こす。」(デジタル大辞泉)である。そんな瞬間はわたしの人生にもたしかに何度もあった、と思う。嵐山光三郎「魔がさす年頃」を読んだ(新講社、2012)。
筆者はわたしが勝手に師事している自由人である。「素人庖丁記」は愛読書中の愛読書で、講談社文庫はボロボロになった。芭蕉や徒然草や、古き良き時代の文士たちのみごとさ、おもしろさはこの人に教わった。そのうち「不良中年」ものをいくつか読んで、ああなりたいもんだと崇拝した。
筆者は魔がさすと、自宅に帰らず連絡不能、火宅同然、暴飲暴食、乱売乱読、場末探訪、深夜徘徊、名句量産、色紙乱作とかなり多くの遊びを体験してきて、せっせと本に書いた。遊びでモトをとっているんだからうらやましい。これらの遊びはほとんどバカバカしい企画なのだが、実行できるところに憧れ、せめて紙上で追体験を楽しんだものだ。
ひさしぶりにイカしたタイトルの嵐山本を読んでみたわけだが、なんだろう、この違和感。というかあまり心に響いてこないのはなぜだ。期待していたほどおもしろくないのだ。こんなはずではなかった。筆者は既に不良中年から不良定年を経て、不良老年になっている。どんな年甲斐もない思想と行動を実践しているかを書いてあるのかと思ったら、ただの寄せ集めエッセイ集ではないか。
70歳を過ぎれば、ふと魔がさしたときに、魔の川の流れに身をまかせて生きることがモーロクの極意です。年をとるほど、欲望に忠実になり、コソコソ生きるのがコツです。そう語る師匠なんだから、もっとバカをやっていただかないとカッコよくありませんぜ。
80歳になって立ち上がった人がいる。魔が差したのではないと思う。だが、自己の主張の多くが正反対の日本維新の会にすり寄ったのは、魔が差したといっていい。万が一、最高権力を握って、反対する者を弊履のごとく捨て去ることができたなら、「魔が差した」を取り消し「大魔王」として奉りたいが、まあ夢のまた夢でしょうなあ。(柴田)
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署名は自動的につくが、送信前にどの署名がついているかは本文内に表示されないので不明。このアカウントからはこの署名って決めてるんだから(デスクトップのGmail上で設定した)、確認しなくてもいいでしょ、ええ、でもなんとなく不安なのよ、POPで吸い上げているアカウントもあって。あ、そういやiPhone標準のメールアプリの署名をアカウントごとにつけられるって知ってた? 設定アプリの「メール/連絡先/カレンダー」→「署名」→「アカウントごと」。
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