私症説[47]日本語を使ってもいいじゃないか、日本人だもの
── 永吉克之 ──

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いまさら議論するほどの問題でもないのだが、日本のプロ野球12球団のユニフォームの胸と背中に縫い付けてあるチーム名と選手の名前に、日本語の文字が使われないのは何故だろうか?

一応チーム名は伏せておくが、一年あまり前、球団内で造反劇のあったチームの選手の胸に、もし「GIANTS」ではなくカタカナで「ジャイアンツ」と記されてあるのを見たら、かなり脱力しそうな気がする。とても優勝を狙えそうなチームには見えないだろう。ましてや平仮名で「じゃいあんつ」などと書いたらもうコメディでしかなくなる。

逆に、本来日本語のものをローマ字にすると、たとえば相撲の「出羽海部屋」を「DEWANOUMI BEYA」にすると、ハンドバッグの高級ブランドかなんかと勘違いしそうなほどお洒落に見える。なぜ日本人はそう思ってしまうのか。その心理については後述する。

それと、もう国民の常識のようになっているので、改めて考えてみようという気すら起きないのだが、なぜプロ野球チームの名はみな英語なのだろう。どのチームも親会社の名前の次に来る名前はすべて英語である。仏語も独語も蘭語も葡語も西語も梵語も見当たらない。

メリケンから輸入された競技だから、最初はそのモノマネになってしまうのは仕方がないとしても、例の造反劇チームが日本で最初のプロ野球チームとして名乗りを上げてから80年近い年月を経た。

そして日本野球は、3連覇はならなかったが、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で2度世界一になった。また日本は経済力も世界第3位にまで躍進した。そろそろ母国語に対する意識を変えてもいいころだ。




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外国人から、ニホンゴチョトダサイデスネと言われたわけでもないのに、日本人がみずから進んで母国語を格好悪いと思っているのだ。カタカナで「ジャイアンツ」と書かれてあっても、外国人の眼にはダサいとは映らないと思う。

仮に、ロシアにプロ野球があるとして、「ビーフストロガノフス」とかなんとかいったチームのユニフォームにロシア語で「БЕФСТРОГАНОВС」と書いてあるのを日本人が見て、うわ、だっせー、と感じるだろうか。アラブ首長国連邦にプロ野球があるのかどうか知らないが、アラビア語のチーム名を見て、うぜー、と感じるだろうか。私は感じないと思う。

実際、台灣のプロ野球チーム、兄弟エレファンツのユニフォームの胸には「兄弟」という漢字が、こともあろうに優雅な毛筆体で縫い込んである。同じく、統一ライオンズのユニフォームも漢字である。

もし台灣人が母国の文字を格好悪いと感じているのなら、こんなことはしないはず。当たり前だ。母国語を恥じることは、自国を恥じることに等しいからだ。

日本語に育ててもらっておきながら、まるで、ヨイトマケの母親を恥じるかのように日本語を避ける。手をマメだらけにして地ならしの鎚(つち)を持ち上げる綱を引き、日焼けで真っ黒になって稼いで育てた子供が人目を気にして、「この人は僕のお母さんなんかじゃないからね」と汚いものを避けるように言ったら、母親はどんな気持ちがするだろう。

いったい日本人は、日本語の何を恥じているのだろうか? それについては後述する。

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意識を変えるのに時間はかかるが難しくはない。「ジャイアンツ」「タイガース」「ホワイトソックス」と日本語で書かれたユニフォームでプレイしてれば、いつしかそれが馴染んでくる。当たり前になる。当初は愚かな大衆が、「センス最悪!」と笑いものにするだろうが、時間が彼らを啓蒙してくれるはずだ。

生物には「馴化」という機能がある。例の、平城遷都1300年祭の公式マスコットキャラクター「せんとくん」も発表当時は、気持ち悪いだの仏を侮辱しているだのさんざん言われたものだが、それでもしぶとく、あちこちに顔を出しているうちに、われわれの感覚が馴化して気にならなくなってしまった。

私も童子の頭にむりやり鹿の角をくっつけたデザインにひどく違和感を覚えたものだが、いまでは、可愛い......とは思わないまでも、気にならなくなった......わけではないが、まあイラストはいいとしよう。しかし、着ぐるみに馴化するにはまだ数年を費やすことになりそうだ。

・せんとくんの着ぐるみ < http://bit.ly/116FrRo
>

それはともかく、「ジャイアンツ」が「GIANTS」と対等になるためには、時間だけでなく、文字のデザインにも革新的アイデアが必要だ。それがどのようなデザインなのかについては後述する。

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毎年、甲子園の全国高校野球選手権大会で熱闘している球児たちが、なぜみな純真で純朴で誠実で童貞なのか、このコラムを書いているうちにわかった。それは、ユニフォームの学校名が「なんとか学園」「かんとか商業」などのように日本語で書いてあるからだ。いや分かっている分かっている。ローマ字を使っている学校もあるのは重々承知している。それについては後述する。

彼ら高校球児たちの頭の中には、甲子園でいいところを見せて、プロ野球のドラフトで指名されようなどといった穢らわしい目論みは微塵もない。私は甲子園球児に知り合いはひとりもいないが、そんな不純なことを考えている選手とはまだ一度も会ったことがない。

そんな無垢な球児が、プロ入りしたとたんにみな守銭奴になる。契約更改時に年俸が不満だからとなかなかサインをしない。自分が属する組織には滅私奉公するのが日本古来の美徳だったのではないのか。

それは、ユニフォームに縫い込まれた英語の名前が原因であるのは間違いない。自分のユニフォームに英語のアルファベットが並んでいると、アメリカ人になったような錯覚に陥る。日本の選手が試合中に唾を吐いたり噛みタバコを噛んだりポップコーンを買いに行ったりホットドッグを焼いたりするようになったのはそのためだ。

だからゼニに対する概念もアメリカ的になる。ルーキーであろうがベテランであろうが、自分の能力に相応した年俸を要求するようになる。甲子園の精神を失っていない選手なら年俸を拒否し、「自分は新参者ですから、時給850円で契約してください」と要求して譲らないはずである。

ちょっと待て、日本のプロ野球のユニフォームにローマ字が使われているのは戦前からじゃないか、澤村榮治のユニフォームに「GIANTS」と書かれてある写真が残っているぞ、だったら当時から日本人選手もホットドッグを焼いていたはずじゃないか、という反論もあるだろうが、それについては後述する。

【ながよしのかつゆき/永吉流家元】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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