《これは国家的陰謀なんで》
■ショート・ストーリーのKUNI[149]
スリープ
ヤマシタクニコ
■ニュース
デジクリ電子文庫第二弾! ヤマシタクニコ「午後の茶碗蒸し」発刊!
■3Dプリンター奮闘記[28]
3Dプリンターだけじゃないのよ
織田隆治
■ショート・ストーリーのKUNI[149]
スリープ
ヤマシタクニコ
■ニュース
デジクリ電子文庫第二弾! ヤマシタクニコ「午後の茶碗蒸し」発刊!
■3Dプリンター奮闘記[28]
3Dプリンターだけじゃないのよ
織田隆治
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■ショート・ストーリーのKUNI[149]
スリープ
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20140206140200.html
>
───────────────────────────────────
「おーい、石川、いてるかー」
「あ、その洗面器が風呂場でひっくり返ったような声は富山先輩ですね。どう
したんですか、突然」
「どんな声やねん。いや、ちょっと近くに寄ったもんで。なんや寝起きのような顔してるな」
「え、わかりますか」
「そらわかるがな。しやけど昼間から寝てるんか」
「仕方ないんです。国家的陰謀ですから」
「国家的陰謀? なんやそら」
「先輩、知らないんですか」
「知らん」
「ぼくら用がないときはスリープするように設定されてるんですよ。大きな声では言えませんが」
「すりいぷう? なんでやねん」
「いや、これは国家的秘密になってまして知らない人は知らないんですが、わが国はいま国家的危機にあるんです。これは国家的うわさになってます」
「国家的にわからんが」
「とにかくずーっと不景気じゃないですか」
「それはわかる」
「根本的に回復したような感じも全然ないし、少なくともぼくらフリーランス
のギャラは下がる一方、貧乏になるばかりですよね」
「確かにな」
「国家としてもお金がないんで無駄遣いを省かないといけないんです。エネルギー問題も解決してません。それで、省エネのために用のないときはスリープするように人間を設定してるらしいんです。人間がスリープすると、さらにそれが察知されて、家の照明が消えてテレビもパソコンもオフになるそうです。すごい省エネじゃないですか」
「そんなもん、いつ設定されたんや」
「それは人それぞれだそうです。ぼくの場合は、こないだ来た新聞の勧誘員があやしいと思ってますけど、ひとによっては駅のホームですれちがったときとか、電車の中で居眠りしてるときとか」
「ほとんどスリやないか」
「とにかく油断もすきもないんです。先輩も、たまたま今設定を免れてるだけで、いつそうなるかわかりませんよ。こわいじゃないですか。国家的こわいです。それで、ぼくもすっかり設定されてしまいまして。昼間でもちょっとぼうっとしてるといつの間にか寝てしまうんです」
「前からそうやろ」
「いや、ぼくは全然眠たいと思てないんですよ。それでも、脳が活発に動いてないことが察知されると強制的にスリープになるんです。それでさっきも寝てたようですが、先輩が呼びかけたことで解除された……ようです」
「ほんまかいな」
「ほんまですって」
「しかし、まあそういうことも現実に起こりえないと言い切れないところが問題であるな。あー、今の政治体制について考察するに、与党も野党も政策的に行き詰まっていて国際的にも孤立しており、事態を打破するため……す〜……って……寝るな!」
「あ、スリープしてたようですね」
「なんや、おれが話してるときは脳が活発に動いてないんか。つまり、それはおれの話を聞く気がないゆうことか」
「いや、そそそんなことないです。これは国家的陰謀なんで。ぼくのせいとちゃいますから」
「ほんまかいな。どうもあやしいな」
「ほんまですって」
「しんぼうが足らんのやないか。前から思てた。君らの世代はしんぼうが足らん。おれらの世代は少々のことは……」
「す〜」
「スリープするなっちゅうねん!」
「ああ、すいません。またスリープしてたようですね。決して先輩の話が退屈やとか、ああまたかと思ったわけではないんですが」
「いつもそんなふうにすぐスリープするんか」
「そんなことないです。この間、長野先輩がものすごい美人でセクシーな女性といっしょに来たときは、全然スリープしませんでした。秋田先輩がめちゃめちゃおいしい地酒を持ってきてくれたときも、青森先輩がぎょうざ定食をおごってくれたときもです。脳がびんびんに働いてたようです」
「どうせおれは美女と縁がないし、手ぶらで来たし、おまえにおごったこともない。悪かったな」
「そんなん言うてませんよ。とにかく国家がそういうことも察知するとはびっくりですよね」
「勝手にびっくりしとけ。それはそうと、おれが今日来たのは実はほかでもない、君に以前貸した『タイタニック』のDVDを返してもらおうと」
「す〜」
「ついでに『海辺のカフカ』と『AKIRA』も返してもらおうと」
「す〜〜〜〜〜」
「都合が悪くなるとスリープするんかい!」
「ぐわ〜〜〜〜〜〜!」
「なんやそら。スリープどころか爆睡やないか。しかも、大きな声出しても起きへんってどうやねん。おい、おい……肩たたいても起きへん……え? 目つぶったまま何をボソボソゆうてんねん。パスコードを入れてください、もしくは10時間後に自然に解除されるまでお待ちくださいって……マジか!」
富山先輩はあきらめて爆睡する石川くんを残し、マンションを出た。通りに出て歩き出すといかにも昭和な感じの、表が引き戸のパン屋があった。
昼間だというのに照明を落とした店先は薄暗く、だれもいないのかと思うと店主らしい年配の男がレジのそばで眠っていた。
その数軒先のクリーニング屋でも、カウンタに額を押し付けるように中年の女が眠っていた。美容院では受付の女の子と美容師が別々の場所で突っ伏して眠っていた。
なんや。どいつもこいつもだらしないな。
富山先輩は気にもかけずずんずんと歩き、駅についた。改札機にプリペイドカードを入れるつもりが、うっかりドラッグストアのカードを入れてしまった。ちゃらんぽろんちゃらんぽろんと音が鳴って改札機が閉まる。
制服・制帽の駅員がやってきて機械を操作して音を止める。「もう一度やりなおしてください」と言いながら富山先輩の腕に軽くふれた、ような気がした。
その夜、富山先輩はいつものようにパソコンの前で、だらだらとあちこちのサイトを見ていた。だが、その後の記憶がない。気がついたときはすっかり朝で、前夜とまったく同じ姿勢でパソコンの前に座っていた。
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>
いつから車での送迎が主婦の仕事になったのだろう。子供の塾や習い事の送迎、夫の送迎等々。うちの会社の主力は女性パートだが、宴会の出欠をとるとそんなこんなでけっこう調整が難しい。
いまの時期は「子供の受験で当分無理」というケースもあるし、子供の野球やサッカーチームのお世話係(夏は冷蔵庫いっぱいにドリンクを用意したり)でたいへんということも。いくら全自動洗濯機や電子レンジが普及しようが子供の数が減ろうが、主婦は永遠にひまにならないのだなと思う。
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■ニュース
デジクリ電子文庫第二弾! ヤマシタクニコ「午後の茶碗蒸し」発刊!
< https://bn.dgcr.com/archives/20140130140100.html
>
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デジクリの木曜日に掲載されている、ヤマシタクニコさんの「ショートショートのKUNI」が電子書籍になってマイナビから発行されました。あの何ともいえない不思議におかしいヤマシタWORLDを20篇。ふにゃふにゃな脱力まんがも収録しました。Amazon Kidleストアで発売中。238円。すぐクリックしましょう!
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00I38VYFQ/dgcrcom-22/
>
◎デジクリのために書かせていただくようになって早や9年。掲載作品もいつのまにか100を超えたが、そのうちの一部が今回、電子書籍としてまとまることになった。非才の身としてはただただありがたい。「まんがも入れましょう」と柴田編集長に言われたので(と、ひとのせいにする)、へたくそな4コマまんがも過去作からいくつか入れてみた。はずかしいがありがたい(それにしても、へた)。
まんがも小説も書くの? と時々言われるが、見ていただいたらわかるように、かたちが違うだけで、どちらも同じ、私の身から出たものです。さらに、表紙のカットも自作です。これもへただなあ。すいません。私は幸せもんですね。(あとがきから)
< >
表紙カット。
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■3Dプリンター奮闘記[28]
3Dプリンターだけじゃないのよ
織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20140206140100.html
>
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暖かくなったり、寒くなったり、最近の気温は変わり過ぎて大変ですね。布団から出たくない日が続いています。
今日、僕の仕事場がある大阪市内でも、雪がチラホラ舞いました。気温もダダ下がりですよ。皆さん、風邪なんか気をつけてくださいね。
僕は○○なんで風邪ひかないんですけどね……。
実は今「ワンダーフェスティバル2014冬」の出展準備と、とある工業製品のモックアップ製作でエラいことになっている訳なんです。
「ワンダーフェスティバル2014冬」は、とうとう今週の日曜。
2月9日(日)に、幕張メッセで行われます。
↓詳しくはWEBで!(笑)
< http://wf.kaiyodo.net/
>
日本最大規模のフィギュアの祭典です。フィギュア業界ってのが、世界的に見ても日本がダントツでトップなので、たぶん世界最大のフィギュアの祭典だと思います。
最近では、企業さんの出展も増えました。フィギュアは、昔、アングラ、サブカル、とか言われてましたけど、このごろはもう完全に市民権を得て、広く一般的に「ドン引き」されることが少なくなり、かなり受け入れられるようになってきました。
ガチャガチャ(ガチャポンとも言う)や、コンビニのクジなんかでも、びっくりするくらいフィギュアを目にする機会が増えてきましたよね。
サブカルからの脱皮でしょう。アニメなんかもそうですよね。昔はアニメってそういった目線で見られてたんですが、今や日本から輸出するトップカルチャーになりつつあります。
まあ、フィギュアってのは、そのアニメや漫画の土台があって、初めて成立するものなんでしょうけど。
そういうことで、ワンフェスなんかのイベントに出れば、今、何が流行っているのか、どういったアニメやキャラクターが受け入れられているのか、ってことが分かるようになってきました。
個人ディーラーもそうなんですが、企業ブースに行くと分かります。企業が商業ベースとして捉えているのは、どのアニメなのか? 凄く分かりやすいです。
個人ディーラーは、出展者の趣味趣向がかなり出るので、参考程度かもしれません。僕がそうですから(笑)
そういうことに興味のある方で、関東圏内の方は是非行ってみてください。ちょっと宣伝っぽくてアレなんですが、僕は 5-30-8「MJSガレージキット」というディーラーにいます。多分、当日は屍状態かもしれないので、ヤバそうならそっとしておいてあげてください。
話は変わって、今やってるモックアップの製作。
所々で3Dプリンターも使いながら製作しています。
なんだか最近、僕の仕事は「3Dプリンター!でっ!」って思われているんですが、3Dプリンターも、まだ万能ではないんですよね。
部品によっては、アクリル板をカットした方が早くてキレイで安かったりします。また、数のある物は3Dプリンターで出力し、原型を作ってシリコン等で簡易の型を作り、樹脂を流して量産する。といった手法をうまく使いながら、適材適所で使い分けて行く事が重要なんです。
よくクライアントさんから「全部3Dプリンターで、ちゃちゃっ! ってやっちゃうんでしょ? 素材はどんなの?」とか聞かれたりするんですが、その際にいつも丁寧にそういった事を伝えています。
最近では、3Dプリンターの長所だけでなく、欠点の方も、webを検索すれば沢山出て来るようになってきました。これは良いことだと思います。
そういう欠点をカバーする3Dプリンターが出て来たり、最近の3Dプリンターの発展には目を見張るものがありますね。これは、色々な特許が切れ始めたことが、かなり影響しています。
去年の今頃から考えても、最近の製品ラッシュは凄いですね。日本製の3Dプリンターも、遅ればせながら色々と出て来ています。これは本当に楽しみです。
そして、3Dスキャナーも、かなりお値段のこなれたものが出て来ています。低価格のものは、それなりの解像度でしかスキャン出来ないのですが、それでも、かなりのスピードで進化していってますね。
iPhoneなんかでも、簡易とは言え、3Dスキャンが出来る時代になりました。
そういう僕も、そろそろ新しい3Dプリンターを入れてみたいと思っています。消費税も上がりますしね…。税率が3%上がっただけでも、その3%で素材が1kg買えたりしますので、かなりの額です。
それから、レーザー彫刻機も導入することにしました。これまで外注さんにお願いしていたんですけど、やっぱり外注費用を下げることって大事。
そういう便利な機械を入れて、使いこなすことが出来て初めて「設備投資」が生きてくるんだと思います。
ああ、そろそろワンフェスの準備に戻らないとね。
【織田隆治】FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>
いや、本業がドッと来たので、ワンフェスの準備があまり出来てなくて…。そろそろ本気出さないとマズイ! がんばろっと!
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編集後記(02/06)
●映画「大いなる勇者」DVDを見た(1972、アメリカ)。一人の男が、極寒のロッキー山脈に踏み込み、山の神様のような老人からサバイバル術を学ぶ。やがて、山で出会った少年とネイティブアメリカンの女性の三人で、幸せな山小屋生活を営むようになる。しかし、男が留守をした時に、ふたりは山を支配するクロー族に殺される。襲撃者を皆殺しにした男には、クロー族の刺客が次々と襲って来る。孤独な戦いが延々と続く。そのうち、彼(ジェレマイア・ジョンソン:映画のタイトルでもある)はクロー族の偉大な敵として、ロッキー山脈の生きた伝説になる。
映画はひたすら彼の生き方を追う。街を捨て山に向かった理由はなにも説明されない。たぶん脱走兵であろうという想像はできる。彼はなぜ山を下りないのか。わたしがこの映画を見る契機となった漫画「テレキネシス」では、「彼の最大の敵はクロー族でも大自然でもない。それは孤独。大いなる敵がいる限り彼は絶対山を下りない」と解釈している。みごとなものだが、わたしにはそこまでの深読みはできない。たんなるハードなサバイバル映画ではないことは確かだが。主演のロバート・レッドフォードばかりでなく、クロー族もかっこいい。律儀に必ず一人ずつ攻撃して来る。古きよきアメリカに武士道を見た。
「ライトスタッフ」は3時間もある長い映画だから、DVDを二晩かけて見た(1983、アメリカ)。エドワーズ空軍基地では、テストパイロットのチャック・イェーガーが、ロケット機を単独で駆って音速の壁のさらに上を目指す。一方で、ソ連のスプートニク・ショックに恐慌を来した政府がNASAを創設、精鋭パイロットから宇宙飛行士候補者を募る。厳しい検査を経て7人(ザ・マーキュリー セブン)が選ばれる。イェーガーは大卒ではないため資格がなかった。この二方向の「ライトスタッフ」が平行して描かれる。
「ライトスタッフ」とは「正しい資質」を言うそうだが、そもそもその日本語がよくわからない。「テレキネシス」では、「宇宙飛行士を通して、天賦の才とは何か、その才に恵まれた人間はどういう種族かを描いた映画」と書いている。苛酷な訓練を受け完璧な宇宙飛行士となった7人は、次々に未知なる宇宙へ飛び立って行く。その頃イェーガーは、ソ連が持つ高度記録に挑む。これらは知られざる宇宙開拓史だ。30年も前、CGもない時代によくこれだけの映像が撮れたものだと感心する。面白かったな。たまたま、男のための男の映画を二本続けて見たことになる。次は戦車モノだ。わくわく。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HNLL/dgcrcom-22/
>
「大いなる勇者」
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00F4LCF8A/dgcrcom-22/
>
「ライトスタッフ」
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091875912/dgcrcom-22/
>
漫画「テレキネシス」
< http://gigazine.net/news/20140206-japan-media-arts-festival-2014/
>
ジョジョリオンや有頂天家族など、マンガからエンターテインメントまで色んな受賞作品を展示している第17回文化庁メディア芸術祭まとめ(GIGAZINE)
< http://gigazine.net/news/20140205-jojolion-araki-hirohiko/
>
「ジョジョリオン」が文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞し、荒木飛呂彦さんも登場(GIGAZINE)
< http://gigazine.net/news/20140203-best-visual-effects-oscar/
>
アカデミー視覚効果賞の歴代受賞映画を集めたムービーが圧巻(GIGAZINE)
●続き。スケジュール帳に「ネイルサロン」と書いて枠をとり、仕事ほっぽり出すのは気が引ける(といっても一般OLなら問題のない終業時間後)。時間を読んでいるつもりでも、ちょっとしたトラブルで一日飛ぶなんてザラだから怖いのよ。
人と会っている時に、自分のためだけに時間を使ってもらうのも気が引ける。友人は私も行きたいからと言ってくれた。提案を何度も確認した後、一緒に施術を受けてもらう。
ひどいヒビの部分はアクリルで補強してもらい、ジェルネイルに。UVライトやLEDライトで速攻乾き、通常のエナメルのように剥がれたりしない樹脂製のもの。色は、アクリルやヒビを隠す意味もあって、ベージュ系の一色にした。とても硬くなって、ドアの開け閉めも怖くない! 何といっても痛くない! 見た目もキレイ。これで冬を乗り切るぜっ。(hammer.mule)
■ショート・ストーリーのKUNI[149]
スリープ
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20140206140200.html
>
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「おーい、石川、いてるかー」
「あ、その洗面器が風呂場でひっくり返ったような声は富山先輩ですね。どう
したんですか、突然」
「どんな声やねん。いや、ちょっと近くに寄ったもんで。なんや寝起きのような顔してるな」
「え、わかりますか」
「そらわかるがな。しやけど昼間から寝てるんか」
「仕方ないんです。国家的陰謀ですから」
「国家的陰謀? なんやそら」
「先輩、知らないんですか」
「知らん」
「ぼくら用がないときはスリープするように設定されてるんですよ。大きな声では言えませんが」
「すりいぷう? なんでやねん」
「いや、これは国家的秘密になってまして知らない人は知らないんですが、わが国はいま国家的危機にあるんです。これは国家的うわさになってます」
「国家的にわからんが」
「とにかくずーっと不景気じゃないですか」
「それはわかる」
「根本的に回復したような感じも全然ないし、少なくともぼくらフリーランス
のギャラは下がる一方、貧乏になるばかりですよね」
「確かにな」
「国家としてもお金がないんで無駄遣いを省かないといけないんです。エネルギー問題も解決してません。それで、省エネのために用のないときはスリープするように人間を設定してるらしいんです。人間がスリープすると、さらにそれが察知されて、家の照明が消えてテレビもパソコンもオフになるそうです。すごい省エネじゃないですか」
「そんなもん、いつ設定されたんや」
「それは人それぞれだそうです。ぼくの場合は、こないだ来た新聞の勧誘員があやしいと思ってますけど、ひとによっては駅のホームですれちがったときとか、電車の中で居眠りしてるときとか」
「ほとんどスリやないか」
「とにかく油断もすきもないんです。先輩も、たまたま今設定を免れてるだけで、いつそうなるかわかりませんよ。こわいじゃないですか。国家的こわいです。それで、ぼくもすっかり設定されてしまいまして。昼間でもちょっとぼうっとしてるといつの間にか寝てしまうんです」
「前からそうやろ」
「いや、ぼくは全然眠たいと思てないんですよ。それでも、脳が活発に動いてないことが察知されると強制的にスリープになるんです。それでさっきも寝てたようですが、先輩が呼びかけたことで解除された……ようです」
「ほんまかいな」
「ほんまですって」
「しかし、まあそういうことも現実に起こりえないと言い切れないところが問題であるな。あー、今の政治体制について考察するに、与党も野党も政策的に行き詰まっていて国際的にも孤立しており、事態を打破するため……す〜……って……寝るな!」
「あ、スリープしてたようですね」
「なんや、おれが話してるときは脳が活発に動いてないんか。つまり、それはおれの話を聞く気がないゆうことか」
「いや、そそそんなことないです。これは国家的陰謀なんで。ぼくのせいとちゃいますから」
「ほんまかいな。どうもあやしいな」
「ほんまですって」
「しんぼうが足らんのやないか。前から思てた。君らの世代はしんぼうが足らん。おれらの世代は少々のことは……」
「す〜」
「スリープするなっちゅうねん!」
「ああ、すいません。またスリープしてたようですね。決して先輩の話が退屈やとか、ああまたかと思ったわけではないんですが」
「いつもそんなふうにすぐスリープするんか」
「そんなことないです。この間、長野先輩がものすごい美人でセクシーな女性といっしょに来たときは、全然スリープしませんでした。秋田先輩がめちゃめちゃおいしい地酒を持ってきてくれたときも、青森先輩がぎょうざ定食をおごってくれたときもです。脳がびんびんに働いてたようです」
「どうせおれは美女と縁がないし、手ぶらで来たし、おまえにおごったこともない。悪かったな」
「そんなん言うてませんよ。とにかく国家がそういうことも察知するとはびっくりですよね」
「勝手にびっくりしとけ。それはそうと、おれが今日来たのは実はほかでもない、君に以前貸した『タイタニック』のDVDを返してもらおうと」
「す〜」
「ついでに『海辺のカフカ』と『AKIRA』も返してもらおうと」
「す〜〜〜〜〜」
「都合が悪くなるとスリープするんかい!」
「ぐわ〜〜〜〜〜〜!」
「なんやそら。スリープどころか爆睡やないか。しかも、大きな声出しても起きへんってどうやねん。おい、おい……肩たたいても起きへん……え? 目つぶったまま何をボソボソゆうてんねん。パスコードを入れてください、もしくは10時間後に自然に解除されるまでお待ちくださいって……マジか!」
富山先輩はあきらめて爆睡する石川くんを残し、マンションを出た。通りに出て歩き出すといかにも昭和な感じの、表が引き戸のパン屋があった。
昼間だというのに照明を落とした店先は薄暗く、だれもいないのかと思うと店主らしい年配の男がレジのそばで眠っていた。
その数軒先のクリーニング屋でも、カウンタに額を押し付けるように中年の女が眠っていた。美容院では受付の女の子と美容師が別々の場所で突っ伏して眠っていた。
なんや。どいつもこいつもだらしないな。
富山先輩は気にもかけずずんずんと歩き、駅についた。改札機にプリペイドカードを入れるつもりが、うっかりドラッグストアのカードを入れてしまった。ちゃらんぽろんちゃらんぽろんと音が鳴って改札機が閉まる。
制服・制帽の駅員がやってきて機械を操作して音を止める。「もう一度やりなおしてください」と言いながら富山先輩の腕に軽くふれた、ような気がした。
その夜、富山先輩はいつものようにパソコンの前で、だらだらとあちこちのサイトを見ていた。だが、その後の記憶がない。気がついたときはすっかり朝で、前夜とまったく同じ姿勢でパソコンの前に座っていた。
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>
いつから車での送迎が主婦の仕事になったのだろう。子供の塾や習い事の送迎、夫の送迎等々。うちの会社の主力は女性パートだが、宴会の出欠をとるとそんなこんなでけっこう調整が難しい。
いまの時期は「子供の受験で当分無理」というケースもあるし、子供の野球やサッカーチームのお世話係(夏は冷蔵庫いっぱいにドリンクを用意したり)でたいへんということも。いくら全自動洗濯機や電子レンジが普及しようが子供の数が減ろうが、主婦は永遠にひまにならないのだなと思う。
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■ニュース
デジクリ電子文庫第二弾! ヤマシタクニコ「午後の茶碗蒸し」発刊!
< https://bn.dgcr.com/archives/20140130140100.html
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デジクリの木曜日に掲載されている、ヤマシタクニコさんの「ショートショートのKUNI」が電子書籍になってマイナビから発行されました。あの何ともいえない不思議におかしいヤマシタWORLDを20篇。ふにゃふにゃな脱力まんがも収録しました。Amazon Kidleストアで発売中。238円。すぐクリックしましょう!
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00I38VYFQ/dgcrcom-22/
>
◎デジクリのために書かせていただくようになって早や9年。掲載作品もいつのまにか100を超えたが、そのうちの一部が今回、電子書籍としてまとまることになった。非才の身としてはただただありがたい。「まんがも入れましょう」と柴田編集長に言われたので(と、ひとのせいにする)、へたくそな4コマまんがも過去作からいくつか入れてみた。はずかしいがありがたい(それにしても、へた)。
まんがも小説も書くの? と時々言われるが、見ていただいたらわかるように、かたちが違うだけで、どちらも同じ、私の身から出たものです。さらに、表紙のカットも自作です。これもへただなあ。すいません。私は幸せもんですね。(あとがきから)
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表紙カット。
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■3Dプリンター奮闘記[28]
3Dプリンターだけじゃないのよ
織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20140206140100.html
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暖かくなったり、寒くなったり、最近の気温は変わり過ぎて大変ですね。布団から出たくない日が続いています。
今日、僕の仕事場がある大阪市内でも、雪がチラホラ舞いました。気温もダダ下がりですよ。皆さん、風邪なんか気をつけてくださいね。
僕は○○なんで風邪ひかないんですけどね……。
実は今「ワンダーフェスティバル2014冬」の出展準備と、とある工業製品のモックアップ製作でエラいことになっている訳なんです。
「ワンダーフェスティバル2014冬」は、とうとう今週の日曜。
2月9日(日)に、幕張メッセで行われます。
↓詳しくはWEBで!(笑)
< http://wf.kaiyodo.net/
>
日本最大規模のフィギュアの祭典です。フィギュア業界ってのが、世界的に見ても日本がダントツでトップなので、たぶん世界最大のフィギュアの祭典だと思います。
最近では、企業さんの出展も増えました。フィギュアは、昔、アングラ、サブカル、とか言われてましたけど、このごろはもう完全に市民権を得て、広く一般的に「ドン引き」されることが少なくなり、かなり受け入れられるようになってきました。
ガチャガチャ(ガチャポンとも言う)や、コンビニのクジなんかでも、びっくりするくらいフィギュアを目にする機会が増えてきましたよね。
サブカルからの脱皮でしょう。アニメなんかもそうですよね。昔はアニメってそういった目線で見られてたんですが、今や日本から輸出するトップカルチャーになりつつあります。
まあ、フィギュアってのは、そのアニメや漫画の土台があって、初めて成立するものなんでしょうけど。
そういうことで、ワンフェスなんかのイベントに出れば、今、何が流行っているのか、どういったアニメやキャラクターが受け入れられているのか、ってことが分かるようになってきました。
個人ディーラーもそうなんですが、企業ブースに行くと分かります。企業が商業ベースとして捉えているのは、どのアニメなのか? 凄く分かりやすいです。
個人ディーラーは、出展者の趣味趣向がかなり出るので、参考程度かもしれません。僕がそうですから(笑)
そういうことに興味のある方で、関東圏内の方は是非行ってみてください。ちょっと宣伝っぽくてアレなんですが、僕は 5-30-8「MJSガレージキット」というディーラーにいます。多分、当日は屍状態かもしれないので、ヤバそうならそっとしておいてあげてください。
話は変わって、今やってるモックアップの製作。
所々で3Dプリンターも使いながら製作しています。
なんだか最近、僕の仕事は「3Dプリンター!でっ!」って思われているんですが、3Dプリンターも、まだ万能ではないんですよね。
部品によっては、アクリル板をカットした方が早くてキレイで安かったりします。また、数のある物は3Dプリンターで出力し、原型を作ってシリコン等で簡易の型を作り、樹脂を流して量産する。といった手法をうまく使いながら、適材適所で使い分けて行く事が重要なんです。
よくクライアントさんから「全部3Dプリンターで、ちゃちゃっ! ってやっちゃうんでしょ? 素材はどんなの?」とか聞かれたりするんですが、その際にいつも丁寧にそういった事を伝えています。
最近では、3Dプリンターの長所だけでなく、欠点の方も、webを検索すれば沢山出て来るようになってきました。これは良いことだと思います。
そういう欠点をカバーする3Dプリンターが出て来たり、最近の3Dプリンターの発展には目を見張るものがありますね。これは、色々な特許が切れ始めたことが、かなり影響しています。
去年の今頃から考えても、最近の製品ラッシュは凄いですね。日本製の3Dプリンターも、遅ればせながら色々と出て来ています。これは本当に楽しみです。
そして、3Dスキャナーも、かなりお値段のこなれたものが出て来ています。低価格のものは、それなりの解像度でしかスキャン出来ないのですが、それでも、かなりのスピードで進化していってますね。
iPhoneなんかでも、簡易とは言え、3Dスキャンが出来る時代になりました。
そういう僕も、そろそろ新しい3Dプリンターを入れてみたいと思っています。消費税も上がりますしね…。税率が3%上がっただけでも、その3%で素材が1kg買えたりしますので、かなりの額です。
それから、レーザー彫刻機も導入することにしました。これまで外注さんにお願いしていたんですけど、やっぱり外注費用を下げることって大事。
そういう便利な機械を入れて、使いこなすことが出来て初めて「設備投資」が生きてくるんだと思います。
ああ、そろそろワンフェスの準備に戻らないとね。
【織田隆治】FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>
いや、本業がドッと来たので、ワンフェスの準備があまり出来てなくて…。そろそろ本気出さないとマズイ! がんばろっと!
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編集後記(02/06)
●映画「大いなる勇者」DVDを見た(1972、アメリカ)。一人の男が、極寒のロッキー山脈に踏み込み、山の神様のような老人からサバイバル術を学ぶ。やがて、山で出会った少年とネイティブアメリカンの女性の三人で、幸せな山小屋生活を営むようになる。しかし、男が留守をした時に、ふたりは山を支配するクロー族に殺される。襲撃者を皆殺しにした男には、クロー族の刺客が次々と襲って来る。孤独な戦いが延々と続く。そのうち、彼(ジェレマイア・ジョンソン:映画のタイトルでもある)はクロー族の偉大な敵として、ロッキー山脈の生きた伝説になる。
映画はひたすら彼の生き方を追う。街を捨て山に向かった理由はなにも説明されない。たぶん脱走兵であろうという想像はできる。彼はなぜ山を下りないのか。わたしがこの映画を見る契機となった漫画「テレキネシス」では、「彼の最大の敵はクロー族でも大自然でもない。それは孤独。大いなる敵がいる限り彼は絶対山を下りない」と解釈している。みごとなものだが、わたしにはそこまでの深読みはできない。たんなるハードなサバイバル映画ではないことは確かだが。主演のロバート・レッドフォードばかりでなく、クロー族もかっこいい。律儀に必ず一人ずつ攻撃して来る。古きよきアメリカに武士道を見た。
「ライトスタッフ」は3時間もある長い映画だから、DVDを二晩かけて見た(1983、アメリカ)。エドワーズ空軍基地では、テストパイロットのチャック・イェーガーが、ロケット機を単独で駆って音速の壁のさらに上を目指す。一方で、ソ連のスプートニク・ショックに恐慌を来した政府がNASAを創設、精鋭パイロットから宇宙飛行士候補者を募る。厳しい検査を経て7人(ザ・マーキュリー セブン)が選ばれる。イェーガーは大卒ではないため資格がなかった。この二方向の「ライトスタッフ」が平行して描かれる。
「ライトスタッフ」とは「正しい資質」を言うそうだが、そもそもその日本語がよくわからない。「テレキネシス」では、「宇宙飛行士を通して、天賦の才とは何か、その才に恵まれた人間はどういう種族かを描いた映画」と書いている。苛酷な訓練を受け完璧な宇宙飛行士となった7人は、次々に未知なる宇宙へ飛び立って行く。その頃イェーガーは、ソ連が持つ高度記録に挑む。これらは知られざる宇宙開拓史だ。30年も前、CGもない時代によくこれだけの映像が撮れたものだと感心する。面白かったな。たまたま、男のための男の映画を二本続けて見たことになる。次は戦車モノだ。わくわく。(柴田)
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「大いなる勇者」
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「ライトスタッフ」
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漫画「テレキネシス」
< http://gigazine.net/news/20140206-japan-media-arts-festival-2014/
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ジョジョリオンや有頂天家族など、マンガからエンターテインメントまで色んな受賞作品を展示している第17回文化庁メディア芸術祭まとめ(GIGAZINE)
< http://gigazine.net/news/20140205-jojolion-araki-hirohiko/
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「ジョジョリオン」が文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞し、荒木飛呂彦さんも登場(GIGAZINE)
< http://gigazine.net/news/20140203-best-visual-effects-oscar/
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アカデミー視覚効果賞の歴代受賞映画を集めたムービーが圧巻(GIGAZINE)
●続き。スケジュール帳に「ネイルサロン」と書いて枠をとり、仕事ほっぽり出すのは気が引ける(といっても一般OLなら問題のない終業時間後)。時間を読んでいるつもりでも、ちょっとしたトラブルで一日飛ぶなんてザラだから怖いのよ。
人と会っている時に、自分のためだけに時間を使ってもらうのも気が引ける。友人は私も行きたいからと言ってくれた。提案を何度も確認した後、一緒に施術を受けてもらう。
ひどいヒビの部分はアクリルで補強してもらい、ジェルネイルに。UVライトやLEDライトで速攻乾き、通常のエナメルのように剥がれたりしない樹脂製のもの。色は、アクリルやヒビを隠す意味もあって、ベージュ系の一色にした。とても硬くなって、ドアの開け閉めも怖くない! 何といっても痛くない! 見た目もキレイ。これで冬を乗り切るぜっ。(hammer.mule)