[3725] ショート・ストーリー「自分ワールド」

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《やっぱり人力なんですよね(笑)》

■ショート・ストーリーのKUNI[155]
 自分ワールド
 ヤマシタクニコ

■3Dプリンター奮闘記[39]
 デジタル造形とアナログ造形 その2+ちょっと宣伝
 織田隆治

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  怒りのブドウ球菌 電子版 〜或るクリエイターの不条理エッセイ〜
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◎デジクリから2005年に刊行された、永吉克之さんの『怒りのブドウ球菌』が
電子書籍になりました。前編/後編の二冊に分け、各26編を収録。もちろんイ
ラストも完全収録、独特の文章と合わせて不条理な世界観をお楽しみ下さい。
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■ショート・ストーリーのKUNI[155]
自分ワールド

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20140703140200.html
>
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ある日の夜、ある会社の事務所ではカワナカくんとミズシマくんが残業をしていた。もっと正確に言うと、いやいや残業をしていた。

なんで残業をするはめになったかというと、部長が裏紙で大量コピーを試みたためにひどい紙づまりが起こり、しばらくコピーもファクスもプリントもできなかったせいで仕事が大幅に遅れたのだ。

部長はふだんから口うるさく、部下に小言を言うのが生き甲斐であるかのような人間だが、特に紙の使い方がケチなのである。そこに思い至ってふたり同時にためいきをついた。

「おれは思うんだけどな、カワナカ」

「なんだよ、ミズシマ」

「世の中いろんな人間がいるからうまくいくと言うけど、ほんとかね」

「というと」

「自分と同じような人間ばかりのほうが話が早いんじゃないの、何かにつけ」

「ああ、そりゃそうだろなあ......」

「そうだったらいいだろうなあ......」

ふたり、もともと集中できない仕事から離れ、妄想に突入。

「ああ、ここがおまえの世界か。ミズシマ」

「おお、おれみたいな人間しかいないミズシマワールドだ」

「ミズシマワールド。遊園地みたいだな。気のせいかおまえも表情がいきいきしてる。楽しそうだ」

「おれの好みでできてる世界だからな。ストレスというものがまったくないんだ。あ、腹減っただろ。どこかで飯でも食おう。おごるよ。ほら、店もたくさんあるだろ」

「じゃあ遠慮なく......えーっと、お好み焼き屋、たこ焼き屋、うどん屋、ラーメン屋、牛丼店、カレーショップ、お好み焼き屋、たこ焼き屋、うどん屋、ラーメン屋、牛丼店、カレーショップ、お好み焼き屋、たこ焼き屋......なんか店の種類が片寄ってないか」

「あたりまえだろ。自分が行きそうな店しかないんだから。フレンチとか回らない寿司屋とか、きどった店はない。ピーマンを使う店もない」

「ピーマンきらいなんだ」

「ここではピーマンは栽培も禁止だ。ついでにいうと目玉焼きにはソースだ。しょうゆをかける人間は住めないようになっている」

「なるほどなあ......それはそうと、なんか不思議な感じがすると思ったら、平屋建ての建物ばかりじゃないか」

「おれは高所恐怖症なんだ。つまりミズシマワールドでは全員高所恐怖症。だから二階建て以上の建物はない。怖くて建てられないんだ。木もあまり高くなるものは植えてない。手入れが怖いし、実が成っても怖くて収穫できない。別にいいだろ」

「もちろんいいとも。おまえの世界なんだから。それより、この道、急に行き止まりになってるけど」

「ああ、工事の途中で飽きたんだな」

「飽きた?! た、確かに君は飽きっぽいところが......」

「そこの公園もハート形の花壇を作るつもりが、途中で飽きたので適当に仕上げた」

「いもむしみたいな形になってるぞ!」

「いいんだよ」

「あ......向こうの広い空間に、建てかけの施設のようなものが見えるけど」

「ああ、オリンピックを誘致するつもりだったけど、やめたみたいだな」

「ええっ。じゃあ、あれはスタジアムか何かかい?!」

「そうらしい。でも、よく考えたら高所恐怖症だから階段状の観客席って不可能なんだよ。ひょっとして、がまんしたらできるかもと思ったみたいだけど、工事の途中で作業員がその場で凍りついて動けない事案が多数発生して中止」

「そんなことわかってるだろ。全員おまえみたいなんだから」

「見通しが甘いのもおれの特徴だからなあ」

「どうも君の世界には住めないようだなあ」

「そういう君の世界はどうなってるんだ」

「ふふふ。遠慮せずに来ればいいさ...」

「おー、これがおまえの世界、カワナカワールドか」

「いや、カワナカランドだ」

「おまえのほうが遊園地みたいじゃないか。いやー、なんだか......妙にきれいだな」

「当然だ。カワナカランドの住民は全員おれと同じくきれい好き。ごみが落ちてるなんて耐えられないんだ」

「ほんとか。何か捨ててみよう......びいいいいっ! 鼻をかんでティッシュを...わっ、あちこちから住民が飛んできてゴミを強制的に持って行ってしまった! 路上にごみを捨てる自由もないのかカワナカランドは」

「ないに決まってるだろ」

「びっくりしたなー。しかし意外だ。カワナカランドも建てかけの建物があちこちに見えるじゃないか。おれといっしょだ。おまえも飽きっぽい性質だったとは知らなかった。わははは」

「ひどい誤解だ。あの塔は30年前から、その横のビルは50年前から、そして向こうのほうに見える集合住宅群は70年前から建築が続いている。周到かつ綿密な長期計画にもとづき、少しずつ、少しずつ建設が進められている。途中でやめてないし」

「おお、確かに、よく見れば工事中だ。ヘルメット姿の作業員がいるし、クレーンも動いている。そういえば君は会社でも有名な、こつこつ型のしつこい人間だった」

「しつこくて悪かったな。ところで腹が減ったら言ってくれ。うまい店に連れてくよ。ただし、何の料理でもタマネギ抜き」

「え、タマネギがだめなのか。あんなベーシックな野菜が」

「あんないまわしいものはここには存在しない。カツ丼もカレーもハンバーグもタマネギ抜きだ。でもピーマンはたっぷり入ってる」

「カワナカランドは地獄か!」

「タマネギなんかなくとも全然困らないことをこの世界は示しているんだ!」

「地獄だ!」

「ピーマンの何が悪いんだ!」

「カワナカランド、滅びろ!」

「ミズシマワールドこそ隕石にあたって消滅しちまえ!」

言い合っているうちにミズシマくんとカワナカくんは、いつしかまた別の妄想世界へ入ってしまったようだ。突然頭の上から怒鳴られる。

「......と思ってるんだ! これだからいまどきの若いやつはどうたらこうたらでイワシがみずぼうそうでメリケン粉が人見知りのなんとかだから全然あれがこうでそれがあれで水道管がどうしようもなく海パンなんだ!」

また別の男がやってくる。

「まったくこういう手合いにはよく言って聞かせるしかない。いい年をして何もわかっていない。学校教育にも責任はある。なぜはちみつのど飴とダイオウイカの関係に目を向けないか。まったく理解に苦し......」

さらに別の男がやってくる。

「われわれが若いころはこうではなかった。仕事に対する意識がそもそもホッチキスの弾である」

ミズシマくんとカワナカくんはふと顔を上げた。そこには部長と同じような顔つきの男たちがいて、てんでにまるで部長のような口調でお説教をしているのだ。ここは「全員が部長みたいな人間」の世界なのだ。

「だからコピーは裏紙で十分だと言っておるのだ。仕事もできないくせに新しい紙を使うなんて10年早い!」

部長みたいな男たちが声をそろえて言った。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>

会社の仕事で古いフィルムを整理する必要があり、ファイルを物色したが4×5サイズのネガアルバムとなると選択肢が少ないこと。ネットで探して、一応あったので注文してみたらシートがペラペラでフィルムが安定せず(めくるたびに落ちる)失敗だった。やはり店頭で手に取ってみないとわからないものだ。


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■3Dプリンター奮闘記[39]
デジタル造形とアナログ造形 その2+ちょっと宣伝

織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20140703140100.html
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早いもので、もう今年も半分が終ってしまいました...。今年に入ってから、凄い勢いで仕事が発生してます。アベノミクスの影響か、景気が少し上向きになってきたのか。

僕の仕事の大半は造形で、そのほとんどが新製品の開発や展示に関わるものばかり。そういった仕事が増えて来ているということは、販売促進に企業がお金をかけているってことなんで、こういうの直結で分かるんですよね。

これまでは、CGで表現していたものが、3Dプリンターが一般に知られるようになってから、模型や造形等の立体物に変わりつつあります。昔はそういった模型、造形が主だったんですけど、3DCGが普及してからは、しばらく3DCGと映像に置き換わってきてました。

模型等は、制作に日数と手間と技術、材料費がかかるので、それなりに高額になってしまいます。3DCGも、当然、制作に日数と手間と技術が必要な訳ですが、最近のCG制作は、ソフトも便利になり、いろいろな表現もデフォルトで可能になってきたことで、見る人側からすると飽きられてきているのかもしれません。

その点、模型や造形は、そこにあるだけで存在感もあり、集客効果も大きいことから、見直されて来ているんだと思うんですよね。

その上、3Dプリンターやプロジェクションマッピングといった、立体と3DCGとの融合されたビジュアルが流行しているんだろうな......なんて思ってます。

今週末は筑波大での集中講義をさせて頂くんですが、その受講生の数も毎年どんどん増えていってます。初年度は50名、去年は100名、今年は140名だとか。最近では、家電量販店でも発売されるようになり、3Dプリンターの注目度も上がってきているようです。

有り難いことなんですが、レポートをくまなく読んで、採点するのがまた大変(笑)でも、このレポートには、稀に凄く面白い内容のものがあり、とても楽しみにしていたりします。

最近は、あまりテレビに取り上げられないようですが、今年から来年にかけて、また色々な3Dプリンターの特許関連の期限が切れて来ることもあり、様々な新しいプリンターが登場することになると思います。

本当なら、ここが一番の頑張り時なんですけどね......。

Form1やB9クリエイターのような、UV硬化型のプリンターも、今年から来年にかけて、色々な動きがあるようで、僕的にはかなり期待しています。

DLP方式やガルバノ方式等のつり下げ型のプリンターも、小さいものは出力が結構きれいに出るんですが、底面積が大きいものになると、まだまだ安定した出力が出来ません。

そういう場合、中を中空にするようにモデリングして、出来るだけ断面積を少なくするようなデータ作りも必要になってきます。

こうする事により、使用するUV硬化樹脂の量も減りますし、一石二鳥なんです。

Form1やB9クリエイターのような「つり下げ型」のプリンターの良い所は、常に造形用プールをUV硬化樹脂で満たしておく必要のある昇降型のプリンターと比べて、使用するUV硬化樹脂が少量で済むことで、樹脂の劣化やストックを減らせるんです。

一般に普及するのは、こういったプリンターだと思いますが、UV硬化樹脂の完成品は、湿度や気温、紫外線等が後から当たる量によって、変形もかなり見られるので、そういった素材の開発も進んで行くのかな〜なんて思います。

樹脂溶解型のプリンターも、今や色々な種類も出て来ており、アマゾンなんかでも購入出来るようになってきてますし、単価も下がってきてますもんね。

僕の最近の仕事で、3Dプリンターを使って面白かったものは、ドリカムの25周年アルバムの制作に携わっていることです。

これがまた面白いです!

ビジュアルに使用する小道具(プロップ)や、メカニカルのデザインをやらせて頂いたんですが、実際にPVやビジュアルに使用するプロップも、デザインした3Dデータから、3Dプリンターで出力して制作しました。

で、どんなのよ?

という事なんですが、8月13日にアルバムが発売されますので、詳細は発売されてから......となります。

3DCGとまったく同じ物が出来ている! と、なかなか好評なようで(当たり前ですが......)僕的にもかなり嬉しい評価を頂きました。

詳しくは、ドリカム、ATTACK25で検索してください。すこしずつ情報がアップされています〜(と、たまには宣伝も......)

まだまだ色々と制作するものもあり、これからもっと楽しくなりそうです!

仕上げ作業も塗装も、凄く楽しかったです。ここが一番言いたい所なんですが、3Dプリンターで出力出来ても、やっぱり仕上げ作業が出来ないことには、本当に使いこなすことなんて難しいんですよね。

これは、どの工作機械にも言えることなんですが、どんなに良い機械を持っていたとしても、しょせん道具のひとつに過ぎません。

それをどう使って、どう工夫していくかってことは、やっぱり人力なんですよね(笑)ここが、一番大事なところです。

【織田隆治】FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>

しかし、半年なんてあっという間ですねぇ......。後半もがんばろっと!
次回は実制作のことも書いていこっと。


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編集後記(07/03)

●瀬川貴次「ばけもの好む中将」を読む(集英社文庫、2013)。「虫めづる姫君」をもじったタイトルだ。平安時代を舞台にした物語と言えば、王朝の権力闘争がらみの恋愛ものか、怨霊ウォーズが想像できる。すぐ思いつくのが夢枕獏の「陰陽師」シリーズだが、表紙を見た限りではそれとは明らかに違う路線であろうことはわかる。どうやらこれはラノベらしい。「なんでも、怪異に触れて全身の穴という穴から血を噴き出したと──」「どこのびっくり人間ですか」「鬼に襲われ、五臓六腑を引きずりだされて三つ編みに──」「だったら死んでおります」......なんだこれは。コントか。

「頭の中に疑問符が──」とかいう表現にもぶつかって、あまりの違和感にもう投げ出そうかと思ったが、我慢して読み進めたら意外に面白い。テンポもいい。物語として破綻していないし、シリーズ化できるしっかりした構成だ。主役はふたり、「陰陽師」の安倍晴明っぽいのが左近衛中将宣能、「ばけもの好む中将」だ。父は右大臣、叔母が弘徽殿の女御という家柄。イメージとしては光源氏だが女性関係はクリーン。マイペースというより自分勝手だ。超能力のある幼い妹・初草がいる。

「陰陽師」の源博雅っぽいのが右兵衛佐宗孝。腹違いの姉が12人もいる中流貴族。八の姉は更衣、十一の姉は更衣に仕える小宰相。気弱で臆病者なのに、宣能にひきずられるように怪異の現場に行き、毎回恐ろしい目に会う。肝心の宣能に陰陽師の能力はないというのがミソ、常識的な推理を働かせ、これは物の怪ではなく人間の仕業だと見抜く。平安ミステリーかい。妖怪そのものではなく、人間のほうに焦点をあてているとあとがきにもあるので、これはネタバレではない。夢枕獏の世界とはまったく違う。京極夏彦っぽいのかな。

一冊は4つの中編から構成される。4つは結局つながっている。人間関係が次第にわかってくる。うまいものだ。とくに宗孝に12人の姉がいるという設定が面白い。その中で更衣と小宰相以外の姉も、意外な現れ方をして宗孝を驚愕させる。次の姉はどんなキャラなのか楽しみになる。「ばけもの好む中将」は続刊も出た。本棚の一番てっぺんに岡野玲子「陰陽師」全16巻がある。1994年から2005年にわたって出版されたシリーズである。ちょっと見たのが運の尽、第一巻の最初の百鬼夜行シーンに魅入られてしまい、続きを読む読む読む読む読む。これからしばらくは「陰陽師」読破の途中......。(柴田)

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>
瀬川貴次「ばけもの好む中将」


●Livescribe続き。最新版の「Livescribe 3」ではOneNoteにアップできる。またiOSアプリ「Livescribe+」で、書いたものが直ちにiPhoneやiPadに同期できる。私の持つ「Livescribe WiFi」は、Evernote経由で近いことは可能。

Livescribe+を外部出力すれば、手書きの文字をリアルタイムに大きな画面に出すことができそう。

話は戻るが、「何それ」「TVで見た」「実物を見るのは初めて」と言う人は、たいていIT系の方。皆さん、一通り話が終わった後、堰を切ったみたいに「打ち合わせの最初から、気になっていたのですが〜」と切り出される。

簡単なデモをし、音声とメモが連動していること、Evernoteと自動同期することを説明する。その後に聞かれるのが、「ここにカメラがあるんですか?」さすがだわ、仕組みに興味を持たれるなんて。続く。(hammer.mule)

< http://www.livescribe.com/ja/smartpen/ls3/
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Livescribe 3

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Livescribe+ の紹介動画

< http://www.livescribe.com/ja/smartpen/ls3/app.html
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Livescribe+