《何十年ぶりかでハローワークに行った》
■ショート・ストーリーのKUNI[169]
木になる
ヤマシタクニコ
■3Dプリンター奮闘記[54]
僕の妄想3Dプリンター
織田隆治
■ショート・ストーリーのKUNI[169]
木になる
ヤマシタクニコ
■3Dプリンター奮闘記[54]
僕の妄想3Dプリンター
織田隆治
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■ショート・ストーリーのKUNI[169]
木になる
ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20150226140200.html
>
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ある日、夫が彼女に言った。
「私は木になろうと思うんだ。人間には飽きたんでね」
「どうやってなるのよ。木に」
彼女がそう言うと、待ってましたとばかりに夫は説明を始めた。図書館で、あるいはネットで調べた結果、人間が木になる方法はほぼ確立されていてそれなりの歴史があること、そのための道場も何か所かあること。すでに説明書も取り寄せてみたこと。
「道場ですって。木になるためには何か修業が必要なの」
「まあそうだ」
そこで夫は軽く咳払いする。そして
「問題は道場に入門して所定のコースを修了するにはけっこうな費用がかかることだ。それで独学でできるかどうかさらに調べて検討を重ねてみたところ、どうやらできそうだとわかった。困難ではあるが不可能ではない。私はどうやら独学で人間から木になった最初の人間になれそうなのだ」
「あなたらしいわ。要するにけちなのよ」
「既成のコースに乗るのをよしとしないだけだ」
「それで」
「それで。君には悪いが、すでに少しずつ準備を進め、もうすぐ木になれそうなんだ。君は聡明な女性だから私の決断を理解してくれるよね」
「私は聡明じゃないからまったく理解できないわ。でも、理解できないと言ったり反対してもどうせ無視するんでしょ」
夫はくすっと笑い、そしてうなずいた。
「君は本当に理解してくれてるよ」
そういうわけで、夫は木になった。場所は近くの公園の、あまり人が通らない片隅を選んだ。二人の住居は古い賃貸のアパートだったので、そこで木になるわけにはいかなかったのだ。
公園のその場所で、夫は落ち葉を足でどけたりそこらをとんとんと踏みしめたりして慎重に場所定めしたあと、「ここにする」と言った。彼女はそれで「じゃあ」と言って家に帰った。
次にその場所に行くと夫は一応木になっていた。
「どうだい」
「どうだいと言われても」
「率直に感想を述べてくれたらいいんだ」
「なんか変」
「どう変なんだ」
「これは木じゃないというか……いったいどういう木をイメージしたわけ」
「私がめざしているのはふつうにある木じゃないんだ。そんなものに私がわざわざなる必要がない」
いかにも夫らしい応えだ。だが、木肌が部分的に古壁のようであったり木綿地のようであったり、かと思うとつるんとして光沢を帯びていたり、色も紫から緑までいやにカラフルで、おまけに枝はというとジャガイモの芽のようなものがあちこちに出ているだけ。
唐突にてっぺんから細い茎が伸びて、バナナのような形の果実がぶら下がっているし。そんな木──というのかどうか──は当然ながら公園では特殊すぎた。
「君は、私がケヤキとかニレとか、あるいはクスノキとかクロガネモチとか、そういう木になることを夢みてると思ったのかい。がっかりだね」
「私はケヤキやニレの木は好きよ。クスノキもヌマスギも。くさくさしてるときに大きな木が天に向かって思い切り枝を広げているのを見ると気分が良くなるわ。そばにいると守られているような気がする。私のイメージする木はそういうものよ」
「なんて月並みな。君がそんなに凡庸な発想の持ち主とは。私は自分なりの木を追求する」
「もっともらしく聞こえるけど、ほんとはそもそも木というものを知らないんじゃないの」
「知っているさ」
「チューリップとひまわりの区別もつかないくせに」
「つくさ、そんな区別。だいたい知識が何になる」
「知識や技術をばかにするのがあなたの良くないところだわ。人間は謙虚であるべきよ」
「とにかく結論として君はこの木が気に入らないと」
「これは木じゃないわ」
彼女は夫を公園の片隅に残して家に帰る。食事をする。夫の分はもういらないのだから楽になった、と思う。「ああ、さばさばした」と声に出し、浴室で歌を歌い、口笛も吹き、ベッドのスペースを存分に使って、寝る。
それから何日か後、回覧板が回って来た。
「○○公園に待望の駐車場ができることになりました。工事は○月○日から始まります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」
別紙の地図を見ると予定地がアミをかけた楕円形で示され、夫が木になっているところが含まれていた。日付は三日後だった。
「ここ、駐車場になるらしいわよ」
彼女がさっそく報告すると夫はびっくりしたようだった。
「というと」
「予定地に生えている木は全部伐採されるらしいわ」
「暴挙だ」
「とにかくそういうことなのよ」
夫は黙り込んだ。そのとき気づいたが、夫の枝はかなり伸びていて、やはり変ではあるが前よりは木らしくなっていた。
「どうするの」
「なんとか……なると思う」
「なんとかって」
「幸か不幸か、私はまだ完全に木ではない」
「確かにそうね。木なのか何なのかよくわからないものだわ」
「私は、誰にも頼らず独学で必要な手順を見いだし、それをひとつひとつ実行することでここまで木になったわけだが、その手順を、いわば逆まわしすることによって、元に戻ることが可能かも知れないと考える」
「なんだ。できるのね」
「やってみたことがないので自信はないが、うまくいけば私は独学で人間から木になり、木からまた人間に戻った最初の人間になるだろう。これは私の」
彼女は最後まで聞くのがめんどうになり、途中で帰った。
三日後の朝、公園に行くと、夫はまだそこに生えていた。
「何してんの。もうすぐ工事の人たちが来るわよ」
「あと少しなんだよ」
「見た目、そのままだけど」
「いや、着実に変化は起こっているんだ。もう少しだ」
「いつかパンを独学で初めて焼こうとしたときもそんなふうに言ってたけど、
結局失敗したじゃない」
「あれはあれだ」
「間に合わないんじゃない」
「いま一生懸命集中してるんだ。余計なことを言わないでくれ」
「そんなこと言っても」
「だいじょうぶだったら」
「あ、作業車が公園の入り口に来たみたい。もう無理よ」
「集中させてくれと言ってるじゃないか」
彼女は思い切って夫を──木なのか何なのかよくわからないものを抱きかかえ、うっ、と力を込めて持ち上げた。そのままずるずると引きずり始めた。
「あああっ、待てと言ってるのに。もう少しなのに」
彼女は無視した。木をかついだまま歩いた。横断歩道を渡り、開店前のスーパーの前を通り、あと一歩でアパートの玄関というところで、転んだ。すねを思い切り階段にぶつけ、声も出せずにうずくまった。
「だから待てと言ってるのに」
ふと見上げると、半分くらい人間に戻った夫がさっさと歩き出すところだった。
それ以来、夫はふたたび木になろうとは言わなくなった。ただし、完全に人間に戻れていない。顔の半分は樹皮で覆われているし、衣服で隠してはいるもののあちこちに枝になりそこねたこぶがある。右足の裏には根がしょぼしょぼと生えたまま引っ込む気配もない。
「あれほどだいじょうぶだと言ってたのに、君はまったく私を信用していない。別にかまわないけどね。次は鳥になるつもりだから」
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
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< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>
何十年ぶりかでハローワークに行った。白髪まじりの男性がにこやかに応対してくれたが、パソコンを操作するときの手元を見てると完璧に右手だけでキーボードを操っている。「?」と思ったら、時たま左手で、マウスを使っていた。あ、そうか。そういう方法もあるんだ。
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■3Dプリンター奮闘記[54]
僕の妄想3Dプリンター
織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20150226140100.html
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さて、ワンフェスも終わり、本業の仕事に追われる毎日です。
最近は色々な3Dプリンターが出てきていますが、基本的に
熱融解式(PLA。ABS等を溶かして積層)
粉末硬化式(ナイロン粉末や金属粉末、石膏等を蒔いて固めるもの)
光硬化式(紫外線等を当てて、UV硬化樹脂を固めるもの。インクジェット式も含む)
といったように、方式にあまり新しいものはありません。
最近では、コンクリートや粘土を出力するものや、チョコレートや食材を積層するものが出て来てはいますが、それも、基本的に限られた用途に使うもので、素材自体が科学反応や冷えることで固まるものですね。
例えば、この科学反応で固まるってのは面白そうで、ヘッド内部でエポキシ接着剤のようなA液とB液が混ざると固まる、みたいなものが出て来れば、かなり強固な積層が出来るんじゃないかな〜なんて思っています。
僕は技術者ではないので、それが果たして可能なのかどうかは分かりませんけどね。
素材がかなり高価になるかもしれないし、ヘッドで内部で混ぜ合わせて固まるわけなので、使用した後のヘッドは内部で素材が固まって、すぐにダメになるかもしれないけど……。
でも、熱融解式と違って、ヘッドが発熱する必要もないから、簡単な使い捨ての樹脂製にすればいいのかな〜と、妄想は広がります。
ワンフェスなんかではよく、A液とB液を混ぜて固まるレジンキャストなんかを使ってますが、これは比較的に安価だし、この素材を改良して粘度を上げ、速攻で固まるようなのが出来ればいいんだけどね。
ヘッド近くで素材を混ぜ合わせる技術は、熱融解方のマルチカラー出力の方法で出来上がっているし、後はその樹脂の改良・開発と、エクストルーダー的な樹脂の送り出し方法が解決すれば可能ですよね。
この場合、粘度がどれくらいあれば形状を保持してプリント出来るのか?樹脂のヒケが起こらないような素材の開発、という難題が。
「そこが難しいんじゃ! このやろう!」って言われてしまうかもしれないけど。スライサーや他の部分の技術は出来ているわけだし、どこか開発してくれないかなぁ。
開発してみるよ! 面白そうじゃん! って研究機関があれば、ご連絡ください! 非力ながら、妄想を色々提供します!(笑)
ということで、僕の妄想でした。
あ、そうそう。方式変われば取り扱いも変わって来るのだけど、同じ方式のプリンターでも、そのソフトウェアの違いで、また色々と取り扱いが変わって来るわけです。
プリンターは色々出ていますが、そのプリンター独自のソフトウェアだったり、フリーのソフトウェアだったり、シェアウェアだったり、色々とソフトを切り替えて使用しないといけないわけです。
まあ、このへんは3Dソフトも映像編集ソフトもグラフィックソフトも変わらないわけで、新しいソフトウェアをどんどん覚えて行く必要があるんですね。
ソフトウェアとプリンターの癖や相性なんかもあったりして、そのプリンターに合ったソフトウェアの設定を見つけるまでに、かなりの労力が必要になってきます。
とりあえず出すようなレベルなら、比較的簡単に出力出来るんだけど、そのプリンターを使って最高な物を出力するには、かなりの設定イジリと、データの制作方法をこねくり回す必要があるんですね。これが実は本当に大変だったりして。
そのへんがもっと改良されて、このプリンターにはこの設定だ! という情報がメーカーからちゃんと発信されるようになれば、もっと3Dプリンターも普及するんじゃないのかな〜と思います。
3Dデータの制作に関しては、使う側の問題なので仕方ないんですけどね。まあ、それくらいはユーザーが努力しないとね。
ということで、先月末に納品されてきた新しい国産3Dプリンターの「Bellulo」と、戦っております。
上記のように、普通に出力は簡単に出来るんですけど、もっと良い状態での出力はどうすれば良いのか! ってことですね。
「Bellulo」は「Simplify3d」というソフトウェアを使っているんですけど、「Bellulo」と「Simplify3d」のベストマッチな設定を探す必要があります。
「Bellulo」の最良の出力を目指して色々試行錯誤が必要になってきます。
前回の記事のように、色々と物件が重なりまくってまして、「Bellulo」に触れない日々が続いていましたけど、やっと少し余裕が出て来て、ここのところ色々と触って試しています。
ガッツリきれいな出力が出来るようになれば、ちゃんと公開して行くつもりです。その辺の情報提供も、今週中にメーカー様にご協力頂くことになっていて、すごく楽しみ!
こういった協力体制を取ってくれるメーカー様ってのもありがたいです。
次回には「すげ〜プリントが出来たぜ〜」という報告が出来るようにがんばります。
【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
< http://www.f-d-studio.jp
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編集後記(02/26)
●もうひとつの「是非に及ばず」は山口敏太郎の作である(青林堂、2006)。山口は、作家、ライター、オカルト研究家、漫画原作者で、大量のオカルト本の著者である。彼は「妖怪=オカルト」というパズルを完成させ、その概念を解説するため、妖怪本、怪談本、UMA(未知生物)本、都市伝説本、幽霊本など多分野を縦断する書物を量産してきた。これは、「現実社会において『妖怪=オカルト』という巨大な偶像を浮かび上がらせるための『ひとつの戦略』である」という。何を言っているのか、正直よくわからない。わたしもオカルトに凝っていた時期があったが、この人の一連の著作は全然知らない。
筆者によれば、いまや「妖怪=オカルト」の概念をフィクションという手法を用いて世間に訴えかける段階に入っており(へえ、その概念はノンフィクションであったのか! 知らなかった)その第一作のテーマに「六天魔王」信長を選んだのだという。大量の資料の中で見えてくる信長像は、いずれも造られた虚像だと主張するが、それは多くの人が指摘するので目新しくはない。筆者は安土、京都、堺、備中高松、出雲の各現場に赴き、丹念にフィールドワークを行うことで、多くのインスピレーションを得、作品に大きく反映させたという。作家の現場取材は普通のことだが、霊感を得るとは普通ではない。
加えて、取材の手法としてサイキックリーディング(霊視)を採用したのが新機軸。これにより「資料や記録に出てこない、ライブ感に満ちた信長像に迫れた」と自負する。だんだん怪しくなってきた。……以上は後書きを先に読んで感じたことだが、本文を読み始めるとたちまち引き込まれる。当時のオールスターが総出演の豪華さで実におもしろい。信長は人の内なる声を聞き分けることができる異能者で、安土城という巨石遺構を使って日本を霊的に支配しようとしていた。そして、本能寺の変は信長の自作自演である。従来と違うどころか、まったく新しい視点だ。霊視だもの。
信長は暗殺計画を知っていながら、本能寺に宿泊した。それはなぜか。信長は「一度死んだあと姿を現し現人神になる」というプランを立てた。自分の死という危機管理能力を問う情報を流し、織田家中の人事査定を行う。叛意ある者の炙り出しだ。しかしアクシデントで信長の目論見は外れ、意外な人物に殺され、死体は秀吉が手に入れる。あとはよく知られる光秀謀反説の世界だ。信長を救出に向かった光秀は、秀吉のプロパガンダによって犯人にされてしまう。この物語で一番気の毒なのが光秀、一番狡猾なのが秀吉。家康や藤孝も腹黒い。秀吉を描く続編「なにわの夢」も読まなくてはなるまい。(柴田)
●hammer.mule の編集後記はしばらくお休みします