《言われてみればモダニズム》
■わが逃走[181]
文化都市盛岡をゆく の巻 その2
齋藤 浩
■もじもじトーク[41]
大好きなTVCMと丸明オールドと
関口浩之
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■わが逃走[181]
文化都市盛岡をゆく の巻 その2
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20160526140200.html
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前回に引き続き、盛岡で出会った構造美をご紹介します。
人生初盛岡となった今回の旅はわずか2泊3日でしたが、この地の歴史や文化に興味を持つのに充分なきっかけとなりました。
恥ずかしいことに、私の人生において宮澤賢治も石川啄木も高村光太郎も、学校の試験に出るから仕方なく要点だけ覚えるような存在だったのです。
こうして実際に彼らの暮らしていた場所に赴き、彼らと同じ風景を眺め、その時代や人間関係を知ることで、気づかなかった面白さが見えてきました。
そんなわけで、盛岡はイイぞ〜。
では、今回も文学とは無関係にまいります。
盛岡銀行本店本館
1911年竣工。東京駅を想起させる、いかにも明治な印象の洋風建築。と思った
ら辰野金吾設計だった。何がスゴいって、重要文化財でありながら現役の銀行
であるところがスゴイ。
今回は休日だったので内部を見ることはできなかったが、次こそ明治時代から使われ続けるインテリアを! と思うのだった。
盛岡銀行本店本館・部分
こうして見ると、そのまんま東京駅。実際、プロトタイプ的な意味合いもあるとの話も聞く。
旧盛岡貯蓄銀行
1927年竣工。ものの本によれば、新古典様式に見せて実は近代建築技術を先取りした設計。地下ボイラー室からのスチーム暖房、スチールサッシやシャッター設備など、竣工時からのものだそうだ。
ここも信用金庫として現役。是非とも内部を見てみたい! 盛岡市保存建造物指定。
旧盛岡貯蓄銀行・部分
国の威光を感じない分、盛岡銀行よりも好みだな。とくに柱のてっぺん付近の装飾など、ディテールの随所に“言われてみればモダニズム”。
もりおか町家物語館周辺
巨大なスーパーマーケットの隣に、古くからある町家をリフォームした『もりおか町家物語館』がある。
時間の関係で施設自体はほとんど見ずに、周辺を少しだけ散歩した。由緒正しい日本家屋がきちんと残っているだけでありがたいが、この辺りではまだ歴史をイメージできるだけの町並みを、かろうじて見ることができる。
戦前のものと思われる洋館なども点在していたので、こんど来るときにはじっくり時間をかけて散策してみようと思う。空き家が多いようにも思えるのが少々心配。
小岩井農場四号牛舎
登録有形文化財。1908年竣工、木造二階建。隣接する板張りのサイロもかっこいい。
乳製品業界でも近代化遺産業界でも有名な、小岩井農場までは市内から車で約30分。
小岩井さんが始めた農場と思われがちだが、実はその昔、鉄道庁長官だった井上勝の発案を日本鉄道会社副社長の小野義眞が仲介し、三菱社社長の岩崎彌之助が出資してできたとかなんとか。
3人の名前から人文字ずつとって「小岩井農場」と名付けられたのだ。けっこう有名な話らしいので、昔から知ってたことにしておこう。
もつもつと草を喰む一点透視図法
震災のときは牛さんたちも驚いたと思うが、建物も無事でよかったよかった。
一号サイロと二号サイロ
登録有形文化財。一号は、現存する日本最古のサイロ。さて、どっちが一号だったかなあ。開口部の蓋が黄色くペイントされていたことに違和感を覚えたが、モノクロなら気にならない。
牛舎周辺
資材の整理整頓のされっぷりが美しい。
天然冷蔵庫
1905年に作られた、円墳のような不思議な構造物。実は天然の冷蔵庫で、室温は年間を通して常に10度。乳製品の瓶詰め作業場や夏場の貯蔵庫として使われていたとのこと。煉瓦の入口が美しくもあり怖くもあり。
私は幼い頃からこういったものを見ると、あの世とこの世の境界のような、異世界への改札口のような、そういったものに思えてしまう癖があるのデス。なので、夜中にひとりでここには来れないかなー。
といったところでした。おしまい。
もちろん、花巻の宮澤賢治や高村光太郎ゆかりの地なども巡りました。美しい風景にうっとりです。しかし「構造美」な写真は撮れなかったので、またの機会にご紹介したいと思います。
最後にもう1点。
花巻に向かう蒸気機関車
通過時刻の5分前くらいになると、どこからともなく沿線に人が集まってきて、みんなで手を振ったり写真を撮ったりしていました。いいねえ。
実は私、この運行に関してはアンチ派だったのです。というのも、SLが引いているのは客車に見せかけたディーゼルカーなのです。
つまり、先頭に機関車なんかいなくても自走できるんですね。この無意味な感じがどうにも受け入れ難かった!!
しかしまあ、動態の蒸機を見るのは久しぶりだったし、煙のにおいも音も本物なので結構許しちゃうというか、年甲斐もなくはしゃいでしまいましたとさ。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[41]
大好きなTVCMと丸明オールドと
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20160526140100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
みなさんは、テレビコマーシャルやポスターを観察するのが好きですか? 僕は大好きなんです。まずは、僕の大好きなコマーシャル映像をご覧になってください!
長崎バス運転者募集CM 「南越のふたり」篇 60秒
https://goo.gl/30wKjf
バスに乗ってくる幼い姉妹の会話が微笑ましいですよね…。そして、バスの運転手を演じる役所広司さんの表情がすごくいいです。なんかジーンとくるものがあります。このコマーシャルには、あと2パターンあります。
長崎バス運転者募集CM 「神ノ島の人々」篇 60秒
https://goo.gl/n7rxBw
長崎バス運転者募集CM 「オープニング」篇 60秒
https://goo.gl/wL5QU3
この映像は、バスの運転手さんを募集するCMなんです。すごくクオリティが高いと思いませんか? CMというよりも映画の予告を見ているような感覚になりました。
僕はこのCMが好き過ぎて、長崎バスのスペシャルサイトをじっくり見てしまいました。
長崎バス 80周年CMスペシャルサイト
https://www.nagasaki-bus.co.jp/recruit/businfo/lp/
ここで使われている文字は僕の大好きな「丸明オールド」という書体です。明朝体なのに各エレメントが丸で構成された「丸い明朝体」なのです。このCMには温かみのある丸明オールドが似合います。
えっ、なんで、いきなりそんな話をしたかと言いますと…、
昨晩、このCMをプロデュースしたアートディレクターの副田高行さんと、書体設計家の片岡朗さんをお招きしてセミナーを開催したからなんです。
◎FONTPLUS DAYセミナー Vol.3 [ざっくばらんなデザインのお話]
http://fontplus.connpass.com/event/31249/
先ほどご紹介した長崎バスの三つの映像は、登壇者の一人である副田高行さんがプロデュースした作品なんです。副田さんのことをご存知ない方もいるかと思いますが、みなさんが知っている広告をたくさん手がけている方なんです。
いくつか例を挙げると、サントリー「ナマ樽」・「モルツ」・「ウイスキー KONISHIKI」キャンペーン、JR九州、ANA「ニューヨークへ、行こう」、トヨタ「エコ・プロジェクト」・「ReBORN」キャンペーン、シャープ液晶テレビ「アクオス」、高橋酒造「しろ」、福井市「一乗谷 DISCOVERY PROJECT」、earth music & ecology、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、連続テレビ小説「あさが来た」などなど。
最近のコマーシャルは、人気の女優アイドルを起用して、そのタレント性や話題性を活用した作品が多いような気がします。「あのアイドルが好きだからこのCMが好き」という声をよく聞きます。
インパクトはあるかもしれませんが、その広告を出している会社のブランディングがうまくいっていかというと、そうでない場合も多いと思います。
一方、副田さんの作品テーマはあくまでも人であり、生活であり、愛だったり感情だったりするものが多いと思います。心の琴線に触れるって感じですね。
また、作品のほとんどが、スタジオ撮影ではなく、実際の現場ロケーションでのカメラ撮影が多いのです。そして、その「映像」と組み合わされる「キャッチコピー」と「音楽」がうまく融合して違和感がない作品に仕上がっています。
最初に紹介した長崎バスのCMのひとつは役所広司さんを起用していますが、テーマは長崎であり、バスであり、その地域の人々であることが、60秒の映像を一度見ただけで感じられます。
そんな副田さんがプロデュースした映像をふたつ発見したのでご紹介します。
高橋酒造 米焼酎「しろ」「ぬか漬けをつけるひと/おにぎりを握るひと」篇
70秒
https://goo.gl/cCMYbp
高橋酒造 米焼酎「しろ」「鰹節を削るひと/魚を焼くひと」篇 30秒
https://goo.gl/ETwDe4
このCMも、丸明オールドが使われてますね。
●副田さんと片岡さんの出会い
昨晩のセミナー登壇者お二人のことを少し書きます。
片岡さんと副田さんは、写植や手書きデザインが主流だった1970年代から1980年代にかけて、広告エージェンシーで机を並べて仕事をしていた同僚だったそうです。
その後、片岡さんは書体設計家の道へ進み、副田さんは30年間にわたり広告制作の第一人者として、素晴らしいクリエーションを世に送り続けています。
そして、2000年にお二人がゴルフ場で再会した際に、片岡さんが5年かけて制作していた新書体「丸明オールド」があることを知り、副田さんはその書体ととても気に入ったそうです。
2000年2月に展開されたサントリー新モルツの広告キャンペーン(新聞15段広告)で、丸明オールドが採用されたことがきっかけで世間から脚光を浴び、15年経過した今でも、色々なシーンで丸明オールドは使用されています。
なので、副田さんは「俺のおかげで丸明オールドは有名になったんだよね」って笑って言ってました。
僕が尊敬してやまない大御所お二人をお招きして、2時間のトークセッションと懇親会を実施できて、すごく良かったです。帰り際に聞いたのですが「お二人だけのトークセッション」は初めてだったということを知りました。
昨日は、アナログからデジタルへと移行をしたデザインの現場のお話、そして、デザインの本質について熱く語っていただきました。
今回、副田高行さんのことを中心に書きましたが、片岡朗さんのことは、過去に二回書いていますので、こちらもご一読ください。
もじもじトーク[04]僕の好きな書体の仲間達(1)
丸明オールド:書体設計家の片岡朗さんをお訪ねして
https://bn.dgcr.com/archives/20140911140100.html
もじもじトーク[22]街中で見つけた素敵な書体たち〜第2回〜丸明オールド探検記
https://bn.dgcr.com/archives/20150625140100.html
良い書体・良いデザイン・良い映像・良い音楽は、人を優しくしてくれたり、和ませてくれたりする力がありますよね。そんな上質なコマーシャルやポスターを目にするとすごく幸せな気分になります。
みなさんも、そんな観点でコマーシャル映像を見ると楽しいかもしれませんよ。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。
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編集後記(05/26)
●CGを使います、ワイヤーを使います、スタントマンを使います、早回しを使います、最強の格闘技ムエタイを使います、∞、今度は何でもアリです!と宣言する「マッハ!無限大」を見た(2013、タイ)。この映画は「マッハ!」シリーズとは無関係。CGなし、ワイヤワークなし、スタントなし、アクション場面に一切の手加減なし、というのがタイのムエタイ映画の売りだったはずだが、この作品はその制約をとっぱらった、なんでもありアクションなのだ。主演のトニー・ジャーは超絶カーアクション「ワイルド・スピード SKY MISSION」(2015、アメリカ)では、とてつもない身体能力を持つ悪役を演じていたな。
ビルの屋上でバイク対ムエタイの戦いが延々と続いたが、これは緑か青のスクリーン前のアクションシーンを、実写ビルと合成している種明かしカットがエンドタイトルにあったような気がする。SFX、VFXをわんさか使いました、という開き直りは、妙なシーンがあっても笑って許せる心理的効果があるのかもしれない。とにかくひとつのエピソードがうんざりするほど長い。金をかけた後処理アクションシーンは、短いともったいないからだろうか。カーム(トニー・ジャー)はさらわれた象を取り戻すため、世界的犯罪王(笑)が支配する世界最強格闘家軍団との戦いに挑む。律義に一対一で格闘するが、敵もすごく強い。
見応えのある格闘だが、長い長い。前に見たトニー・ジャーのムエタイのキレやスピードはものすごかったが、ここの格闘はドタバタ演出が過ぎるような気がする。そして、この女優は前に見たことがあるぞ、ナイスなアクションだなと思ったら、アドレナリン爆裂のノンストップ生傷アクション「チョコレート・ファイター」ジージャー・ヤーニンではないか。かつての史上最強美少女である。彼女が好きで、出演作はほとんど見てきた。いまや子持ちで32歳のはずだが、まだすっごくカワイイし、相変わらず強い。彼女ピンピンは、テコンドーと鍼の名手。初めはカームの敵だが、いつのまにか戦闘パートナーに(?)。
ストーリーは平凡で、格闘も延々としつこく続き、一度見ればお腹いっぱい。もういいいや、ということで口直しに、「テッド2」を見たら、これが史上最も下品な映画といわれるだけあって(そこまで言うか)、うんざりした。かわいいクマさんのほのぼの映画だろうとまでは思わなかったけど、ここまでひどいお話とは予想外である。低レベルの下ネタ、マリファナ、アメリカだけで通用する皮肉(意味不明だが、ユーモアではないことは分る)の連続で、ここまでやったらヤバイんじゃないの。濃厚な悪意がぎっしり。家族で見たらとんでもない事態に陥るから絶対ダメ。カップルで見ても居心地悪いだろう。(柴田)
「マッハ!無限大」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00XVC2DM2/dgcrcom-22/
「ワイルド・スピード SKY MISSION」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01AN5NX0U/dgcrcom-22/
「テッド2」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B018XHIRWY/dgcrcom-22/
●「マッハ!無限大」機会があったら見ようっと。「アルティメット」(2004年)は、スタントマンとパルクールの達人(創始者の一人)がメインの映画で、アクションシーンが凄かった。見るなら吹替版がおすすめ。字幕を追うのはもったいない。一部映像のリンクをはっておくぜ!
リメイクの「フルスロットル」(2014年)は、ワイルド・スピードのポール・ウォーカー遺作。ストレートな表現、大げさな表現にしてあるんだが、元の方が心理的に怖かったなぁという部分がある。アルティメットは動ける人がメインなんだが、こっちは、スターさんがメインなので迫力に欠ける。見比べると面白いよ。
車映画で連想。「ニード・フォー・スピード」のCGなしに感嘆した。この映画で好きなのは、車内から聞こえる音。エキゾーストノートって言うんだっけ。加速すると変化するその音がめっちゃいい。レースシーンに派手なBGMがないのは、音を聞けってことなのかな。ゲームの映画化なせいもあって、話は面白くないです。
「テッド」は、可愛い熊さんが親父な声をしているという情報しか持っていなかった。WOWOWでの字幕放送を見て、下品すぎてイヤになったが、ヒットするだけの何か理由があるんだろうと最後まで頑張って見た。後悔した。見るまではぬいぐるみが欲しかったが、そんな気はなくなった。
友人が見たいというので、やめるように忠告した。が、それでも見たいというので、一番放送の近かった吹替版を録画。ちらっと見たが、吹替版は字幕版よりは下品さが薄れていた。テッド2は見るもんか。 (hammer.mule)
アルティメット(Banlieue 13 / District 13)
http://www.b13ultimatum-lefilm.com/baseuk.html
日本語字幕の予告編
パルクールシーンが凄いよ〜
2の予告編もあるよ
フルスロットル。予告編あり
http://0-g.asmik-ace.co.jp/
見せ方が悪かったのか……凄さは十分伝わったぜ
http://movie.maeda-y.com/movie/00761.htm
YAMAKASIも見たい
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0088LBXRC/dgcrcom-22/
ニード・フォー・スピード 本編プレビュー映像