[4233] 機械彫刻用標準書体って知ってますか?

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《私は都会恐怖症なので》

■わが逃走[191]
 沖縄の構造美の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[51]
 文字の定点観測〜第2回〜 機械彫刻用標準書体って知ってますか?
 関口浩之




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■わが逃走[191]
沖縄の構造美の巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20161117140200.html

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10か月の制作期間、うち半年に渡って校正作業を繰りかえした末、ついに冊子が完成。新製品のパッケージは想像以上の仕上がり、東京、金沢でのイベントもおかげさまで大成功。

てな具合にめでたく仕事が山場を越えたので、秋だというのに夏休みと称して沖縄に行ってまいりました。

今年の関東地方は10月になっても真夏日が続きましたが沖縄も同様、10月の下旬になっても、連日気温30度を超える異常気象でした。

地元の友人も「この季節でこんなに暑いのは初めてさー」とのこと。

さて、いつもなら大都会那覇をとっとと後にして、北部へ向かってそれっきりなのですが、今年は久々に都市部における美しい坂道や歴史的建築なども視野に入れ、南と北を行ったり来たりしてみました。

そのうちのいくつかの物件をご紹介します。

●首里の石畳とその周辺 奇跡的に戦災を免れた金城町の石畳道。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/11/17/images/001

歩くだけで琉球の文化が伝わってくるかのようだ。この道が失われるようなことが二度とあってはいけないよなあ。

ブラタモリでも紹介されていたけど、首里の高低差は実にドラマチック!

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曲線と曲面の立体的な交錯空間は、一歩進むだけでもエンターテインメント。

それでいて、そこかしこに歴史的物件が点在する。

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たとえばここ。金城大樋川(キンジョウウフヒージャー)と呼ばれる公共の水場で、かつてはここから各家庭まで桶で水を運んだとのこと。

実に神秘的な佇まい。おそらくこの水は、王様の飲んでたものや瑞泉酒造の仕込み水と同じなのではなかろうか。

●「エンダー」ことハンバーガーショップA&Wの牧港店。

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まぎれもなく50年代のアメリカ文化をそのまま持ち込んだ様子。おそらく沖縄最古のドライブイン建築のひとつ。ドライブスルー(?)も健在で、マイクに向かって注文すると店員が車まで届けてくれる。

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その昔は、当時のアメリカと同様にローラースケートのおねえさんが運んでくれたらしい。背景が青空とこの建築なら、思い切り似合ったことであろう。

●農連市場

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観光客にとって那覇の市場といえば牧志公設市場だが、地元の人にとっては農連市場なのだそうだ。

戦後復興期の印象を色濃く残すこの市場だが、再開発が進みすでに半分は更地、残りの半分ももはや風前の灯。もったいないなあ。

とはいえ、ギリギリのタイミングで来ることができて本当によかった。

●ホテルムーンビーチ

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沖縄最古のリゾートホテルとして名高い名建築。1975年竣工。それなりに年月を重ねた感じは否めないが、建物自体が熱帯雨林! という存在感には圧倒される。

訪れたのはちょうど夕暮れ時で、西の海に沈もうとする日差しを真横から受けたピロティ空間の“ジャングル”は脳裏に焼き付いて離れない。

ちなみに、この上に屋根はなく、雨が降ったら客室まで濡れていくことになる。素晴らしいコンセプト。

階段の造形も個性的で、とくに手すりのデザインは思わず見とれる美しさ。

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●那覇の小路

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前述のとおり、私は都会恐怖症なので、空港に降り立つと同時に北へと向かうパターンが多かったのだが、今回はちょこっとだけ那覇を散歩してみたところ、けっこう面白いじゃん!!

まったく興味のなかった国際通りも、一歩脇道に入ると車が通れないくらいの細道につながっていて、そのどれもが個性的。

迷路のような小路を抜けるとアーケード街に出くわしたりして、これはなんともスペクタクル。こいつあ一度那覇をがっつり散歩する必要があるなあ。

しかし、沖縄は暑いのだ。11月だというのに気温30度となると、それなりに季節は選ばねばならぬ。

散歩するならやはり冬か。まだ行ったことないが、1月とか2月とか、行ってみたいなあ。

というわけで、沖縄構造美散歩でした。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[51]
文字の定点観測〜第2回〜 機械彫刻用標準書体って知ってますか?

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20161117140100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

◎スーパームーンのお話

今週の月曜日、11月14日は68年ぶりのスーパームーンでしたが、皆さん、ご覧になりましたか? 東京はあいにくの雨天でしたが、翌15日は、雲の合間からお月さまが顔を出してくれたので撮影してみました。こちらです!
https://goo.gl/xsxcW0


満月の翌日なので十六夜のお月さまです。このお月さまの写真の上のほうに、スイカのヘタのような大きなクレーターが見えますよね。「ティコ」という名前のクレーターです。

直径は85kmあります。一億年ぐらい前、大きな隕石が月に落下して、クレーター「ティコ」ができたようです。月の誕生が46億年前なのでティコは比較的新しいクレーターなのです。

そして、ティコを中心に1500kmにも及ぶ、放射状の光のきれいな筋が見えます。なぜ、そのように見えるかいうと、大きなクレーターは太陽の光を浴びると、光を反射させる構造になっているようです。それが美しいな光条になってみえるのです

この写真は、望遠鏡で撮影したので倒立像になってますので、肉眼でみた場合、ティコはお月さまの下のほうに見えます。

●この文字を見たことありませんか?

『文字の定点観測〜第2回〜』では、駅構内で見かけた「機械彫刻文字」をお送りします。

皆さんは、赤いアクリル板に「非常電話」と書かれているプレートを駅構内でみたことありませんか? こちらの写真をご覧ください。
https://goo.gl/W0r8HB


通勤途中で見かけた6枚を、iPhone撮影しました。この文字は「機械彫刻用標準書体」という書体なのです。この書体名、今年の2月まで聞いたことがありませんでした。

丸ゴシック体のようにも見えますが、独特の佇まいを持つ書体ですね。僕はこの文字を見た時、ペンプロッターで描いた文字を思い出しました。

1980年代、CADシステム関連の仕事をしていたことがあって、当時はCADシステ
ム出力装置といえばペンプロッターでした。X-Y軸方向に自由に動くアームが
数種類の太さ、複数カラーのペンを握って、トレーシーングペーパーに図面や
文字を描く装置です。

パソコンからベクトルデータ(座標情報)をプロッターへ送信し、ペンが漢字やかなを描く様子は、30年前の画期的かつ、かわいい印刷装置でした。まだレーザープリンタは登場しておらず、ドットプリンタが主流の時代でしたから。

●機械彫刻用標準書体の特徴

話を戻しますが、機械彫刻とは、彫刻機が回転刃を使ってアクリル板や金属板などに文字を彫り込むことを意味します。

機械彫刻と言えば、僕は「ベントン彫刻機」が最初に思い浮かびました。ベントン彫刻機は、活版印刷の鋳造活字を制作する工程の、母型作成をするための装置です。文字の原図をなぞると、テコの原理の応用で、活字の母型を作ることができます。

一方、機械彫刻用標準書体を彫る仕組みは、ベントン彫刻機にかなり似ています。文字の原図をなぞると、テコの原理の応用で、回転刃がクルクル回りながら、アクリル板や金属版に直接、文字を刻んでいきます。そして刻んだ溝にラッカーを塗り込んで完成です。

彫り込みに使う刃は、作業の途中で付け替えすることはしないので、線の太さが一定になります。横画と縦画の太きさは同じになります。

そして、作業能率の観点から筆押さえやハネ、げたなどが基本的に省略され、角が曲線で描かれているのが特徴です。

彫刻機の構造上、丸ゴシック体になってしまうのです。ゴシック体を彫りたくても回転刃を使っているので難しいです。また明朝体を彫りたくても、回転刃のサイズを途中で交換しなくてはなりませんし、やったとしたら相当な労力が必要です。

また、手の圧の加減で、彫る深さや文字の滑らかさが決まるわけで、手動式の機械彫刻機をあやつれる職人さんは、いまでは非常に限られていると聞きました。現在では機械式MC彫刻機も存在するようです。

それ以外の特徴を列記してみます。

・1960年代から使われ始めたようです。駅構内の電気設備系の銘板、注意喚起のプレートなどでよく見かけます。

・機械彫刻用標準書体は、その名の通り、機械彫刻で刻印するために設計されました。

・日本工業規格のJIS Z 8903、JIS Z 8904、JIS Z 8905、JIS Z 8906で定められています。

・機械彫刻機を使って、プレートの表面を彫るパターンと、プレートの裏面を彫るパターンの二種類あります。とりわけ、裏面を彫るケースでは、雨風に晒されても文字が薄れることが少なく、耐久性が高いようです。

●機械彫刻用標準書体の原図

今年2月に「もじ部特別編:機械彫刻用標準書体の原図を見ながらあれこれ話そう〜駅の案内表示板でよく見るかわいい丸ゴシック体の謎に迫る〜」というセミナーに参加しました。

その時に「機械彫刻用標準書体の原図」を、ポストカードサイズに印刷した原図見本をもらったので、こちらに掲載します。
https://goo.gl/40AYl0


三番目の写真は、標準文字と略字の比較です。僕は「機」「監」「電」の略字がとても気に入っています。でも、この略字は、小さな文字のみで使用することという決まりがあり、略字で制作されたプレートは見当たらないそうです。

駅構内の「緊急電話」とかのプレートでよく見かけるこの書体、実は以前から気になってました。だけど「機械彫刻用標準書体」という、JISで定められた書体とは知りませんでした。

手書き風で可愛らしいこの丸ゴシック、JRのデザイン担当者が大昔に設計して、それが駅構内で使用されているぐらいにしか思っていませんでした。勉強不足で、本当にすみませんでした。

検索してみたら、この機械彫刻用標準書体、ベータ版がダウンロードできるんですね。
http://font.kim/#download


Kimさんという制作者の方のダウンロードサイトです。商用、非商用を問わず無償で使用できるようですが、使用条件の詳細はご確認ください。

この機械彫刻用標準書体は、僕にとって、今年の新発見書体大ニュースのひとつだったような気がします。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(11/17)

●樋野興夫「病気は人生の夏休み」を読む。絶妙なタイトルに惹かれて。サブタイトルは「がん患者を勇気づける80の言葉」、やっぱり幻冬舎だよ(笑)。右ページに大きな文字で言葉、左ページがその説明。文字が少なくてもページが稼げるいつもの仕掛け。筆者は順天堂大学医学部教授、がん哲学外来理事長である。臨床医とは違い外来へ出て患者を診察することはない。医療現場と患者の隙間を埋める試みとして2008年に「がん哲学外来」を開設、今まで3000人を超える患者や家族と会い、患者一人ひとりに「言葉の処方箋」を出してきた。大事なことは「何を言ったか(内容)」ではなく「誰が言ったか」だという。

先生の「言葉の処方箋」は、新渡戸稲造、内村鑑三をはじめ、南原繁、矢内原忠雄、吉田富三ら先人たちの言葉の数々が源になっている。って、ネタを明かしているのだから寛大である。「暇げな風貌で、脇を甘くする。相手につけいる隙を与えて、懐の深さを示す」というのが、がん哲学外来の基本方針の一つだ。先生は自分が人を感動させたり、心に響く言葉を語れるとは思っていないので、先人たちの言葉を伝えるメッセンジャーボーイになるのだという。なんいう潔く明らかな立場の表明であろうか。「暇げな」という表現が変だなと思いGoogle検索したら、最初の7つがすべてこの本に関連していた。やはり変だ。

言葉は人を傷つけ、人を慰め、人を勇気づけたりする。この本にある80の言葉は、たしかに人を変える力があると思う。「病気は人生の夏休み」なんという素敵な言葉だ。「あなたには死ぬという大切な仕事が残っている」いいね、励ましや慰めはむなしいが、これは希望の言葉だ。「何事にも『よい』をつけてみる」いいね、よい病気、よいがん、よいお節介、よいボケ老人。「人の言葉を暗記して言うと、丁寧になる」なるほど、自分の言葉ではないから謙虚な気持ちで口に出せるし、相手に対して丁寧に接することができる。自分が励まされた言葉、慰められた言葉、勇気づけられた言葉を集めて暗記しておこう。

「言葉の処方箋」を見つけてきたのはおみごとだが、本として仕上げるには編集の力不足がありあり。文章の表記ルールが全然なっていない。この本は縦組みの普通の体裁であるが、以下の不統一はなんだ。今日1日を一生懸命生きようとする、一番、一日一日、人生は2つに1つ、1輪の花、2人に1人、1周遅れ、一喜一憂、一口、一声………。縦組みなんだから、漢数字に統一しなければならないのにバラバラである。数字を使うというみっともなさ。1つ、1輪、1周、この醜さになんで気がつかないんだ。「1億総活躍」なるトンデモ表記もある、と思い首相官邸に行ったら、いつのまにか「一億」に変わってたよ。 (柴田)
(あのー、デジクリも数字表記はさいきんいい加減です)

樋野興夫「病気は人生の夏休み がん患者を勇気づける80の言葉」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344030214/dgcrcom-22/



●齋藤さんの写真、好き。/機械彫刻文字。見ます見ます! 扉に貼ってあるイメージがあります。書体があったとは! ダウンロードできるとは!

スマホ料金見直しの続き。MMS。解約前の数か月は、一日に20〜30通の迷惑メール(MMS)が届くようになってしまった。auは迷惑メール対策がしっかりしており、すぐに対応してくれるのだが、業者がそれらをかいくぐったメールを次々に出してきて追いつかない。

MMSでの内容ならGmailで十分。迷惑メールフィルタは強力だし、新しく取得するアドレスならしばらくは大丈夫だろう。Gmailをはじく設定にしている人には届かないのが不安ではあったが、試しに送ってみたら、めぼしい人からは返事が来たので大丈夫そう。

ただし、キャリアメール(@docomo.ne.jp、@ezweb.ne.jp、@softbank.ne.jpなど)はいくつかのサービスを利用する際に必要だったりする。続く。 (hammer.mule)