[4246] 一か月でプロになり編集者にもなった

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《ムダにきれいなラフスケッチを量産》

■ローマでMANGA[103]
 一か月でプロになり編集者にもなった
 midori

■グラフィック薄氷大魔王[500]
 「アイディアスケッチは小回りの効く方法で」他、小ネタ集
 吉井 宏




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■ローマでMANGA[103]
一か月でプロになり編集者にもなった

midori
https://bn.dgcr.com/archives/20161207140200.html

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

前回の記事の後記に「manga家としての役割がある」と書いた。今回はそのことを書いてみたい。

●一か月でプロになった

テンプレートとして、記事の後記にマンガボックスのリンクをつけている。私の幼い頃の記憶を元に、読み切りのショートで昭和の生活を描いている。

四年前に着想を得て描き始め、ノロノロと進めていた。お仕事としての義務がないものだから、自分に締め切りを課すこともなく、制作のスピードがどんどん落ちて行った。

こういう態度だから、何事もプロになれなかったのだけど。まぁ、それでも、これは私の生涯の作業と決めてノロノロでも進めてやっとこ16話までたどり着いていた。

この作品を描こうと思った理由がふたつある。

ひとつは、mangaの講師をしていながら、mangaを制作した経験が少なすぎる。理屈をこねまわしていても、実際に作るときの困難を私も味あわなければ、と思ったこと。

もうひとつは、お友達のイタリア人の日本熱。

現実でもFaceBookでも、イタリア人の友達に日本ファンが多い。日本に旅行に行く人も増えている。

歴史的なことも現在のことも、知る手立ては色々あるけれど、かつての普通の暮らしというのはなかなかお目にかからない。文化も科学も歴史も大事だけれど、旅行してみて面白いのは普通の暮らしだったりする。

それと私が幼少を過ごした1950年代、60年代というのは、どの国でも生活が一変する前夜で、伝統を残した最後の時期に当たると思う。まぁ、いわゆる昭和30年代というやつですが。

私が振り返るのが好き、ということもあるけれど、結構しっかり覚えているあの時期の自分の暮らしを丁寧に、しかもイタリア語で描いて、勝手にFaceBookにあげて、日本好きのイタリア人のみなさんに見てもらおうと思ったのが発端。

そうこうしているうちに、manga的なスタイルでオリジナルを発表して10年になるという30代の男の子と知り合い、年は違うけどお友達付き合いをするようになった。

私のセミナーに勝手に居すわっていて、絵が上手いので、アシスタント的にペンの使い方やトーンの使い方の実演をしてもらったりした。また、学校で仕事をしている、やはり30代の女の子達とも一緒にアニメを見に行ったりするようになった。

彼、パオロはせっせと作品をウエブで発表して、ウエブでmanga家狩りをする小さな出版社に発掘されて紙の本で刊行している。もちろんコミックスフェアなどで売り込みに行くのも忘れない。

・パオロのページ
https://www.facebook.com/paolozeccardomanga/


そうして見つけてきたのがUpperComics
http://uppercomics.com/


一年前に会社組織として立ち上がったばかりのシチリアは、メッシーナの若い出版社だ。運営している人間も若い。代表者が26歳のガエターノ。ガエターノと一緒に、編集、グラフィック、宣伝を担当するのが20歳のルカ。

ルカはユーチュバーとしても活躍して、それだけで暮らせるほど稼いでいる。

・ルカのチャンネル
https://www.youtube.com/user/Mangaka1996


9月にメッシーナであった小さなコミックスフェアに合わせて、UpperComicsに書き下ろしたパオロのオリジナルmanga、「Almost Dead」を発表した。
http://uppercomics.com/prodotto/almost-dead-vol-1/


10月末のルッカコミックスにも、ブースを持って参加することを決めたアッパーコミックス。でもパオロの作品だけではさびしいので、パオロに誰か既に原稿を持ってる人を知らないかと聞き、パオロはFaceBookで見ていた私のmangaを思い出した、というわけだった。

その時点で、私の手元にあるのは16話、4ページの64ページしかない。アッパーコミックスは単行本は120ページと決めているそうで、扉など外しても少なすぎる。

電話で話しつつ「一か月であと二話用意する! これで72ページ。残りは各エピソードについて説明の文と、写真かイラストを用意できる!」と提案して、私の本が出ることがきまった。

つまり、アマチュアとして勝手に描いていたのが、話が出てから一か月でページを増やして出版の運びになった。小さな小さな出版社だから発行部数は多分、何百という単位だと思う。

それでも、幼いころから漠然とマンガ家になりたいと思っていた。30代の時に講談社のモーニングで発表の機会を得ながら、ものに出来なかったという、喉に引っかかった魚の小骨のような思いをずっと持っていた。

それが叶ったということで、父のお墓に報告したい出来事が起きた2016年、というわけだ。
http://uppercomics.com/prodotto/un-posto-dove-vivere/


●ついでに編集者にもなった。

アッパーコミックスの代表者も、協力者のルカも、アッパーから出そうと制作
中のマンガ家たちはイタリア中に散らばって生活している。今は便利ですねー。
FaceBookでグループを作ってやりとりしている。

みんなが素人さん。パオロが「こんなので出版するつもりだなんて!」と怒っているくらい。私は、質が低い底辺であっても、広がるのはいいことだと思っている。

ところが! ガエターノから、「僕達の作品にサジェスチョンをもらうことはできるだろうか」という申し出があり、これはやりたかったことなので、ボランティアを引き受けることにした。

なんと、13タイトルが進行中で、私は四つの作品を受け持つことになった。三作品はとてもとても素人さん。一作品は17歳という若さながら、かなり描ける男の子。

それでも、見開きのノド部分にフキダシを置いたりという、素人らしいエラーがあちこちにあり、どの作品にも共通するのはフキダシにびっしりとセリフがあること。言葉で説明してしまうのですね。

さ、忙しくなる。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

今回のルッカコミックスでは、日本人ゲストの送迎と一回の通訳、そして主にアッパーコミックスのブースで人集めのためのお絵かきと、本を買ってくれた人への署名とお絵かきに終始する楽しい日々を過ごした。

編集者、ユーチュバーのルカがこの機会を生かしてインタビューをした。

“mangaka96”のインタビュービデオ


ルカ(mangaka96)をフォローする人は多く、インタビュー場所へ移動中でもずいぶん呼び止められたいた。

今回の私の本は、日本語ではMangaBoxに投稿しているのでこちらへ。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/



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■グラフィック薄氷大魔王[500]
「アイディアスケッチは小回りの効く方法で」他、小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20161207140100.html

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●アイディアスケッチは小回りの効く方法で

あるマンガ家がFacebookで「学生は、走り書きで十分なネームを何か月もかけて下絵かと思うほどていねいに描くが、授業で一瞬でボツを食らう。面白さを作るための効率が悪すぎる」という話を書いてた。

「アイディア出し」と「形を書く=ドローイング」は分けないとめちゃくちゃ効率悪い。イラストやデザインでも同じだろう。アイディア出しは変更がラクで、小回りの効く方法でやらないとダメ。そのへん、液タブ絡みで最近実感してた。

液タブはどんどん形が描けるから、いきなり描いてどんどんブラッシュアップしたりバリエーション作るのに都合がいい、と思ったら、僕の場合そうでもなさそう。液タブは、走り書きから綿密な下絵まで断絶がない代わり、「キレイに描く」誘惑に負けてしまう。

結局、液タブを使ってる時間のほとんどを「キレイに描く」ために費やしてるんじゃないか。アイディアはほとんど発展しないまま、ムダにきれいなラフスケッチを量産してる。やっぱ、アイディア出しはボールペンや鉛筆で書き殴るほうがいいよ!

以前「スケッチはなるべく汚く描くこと!」とか言ってたけど、極太鉛筆でもサインペンでも液タブでも、気がつくとていねいに描いてしまう。ぜったい汚くしか描けない筆記具って何だろう? 竹ペンとか?

●上から描く件

最近何度か書いてた「タブレットや紙を傾けず真っ平らに置いて描くと、手が重力の影響を受けずにクルクルすらすらと描ける」って件。

たしかにその通りなんだけど、液タブ・板タブ・紙などでドローイングしてて思ったのは、板タブでしか本格的に役に立たないなって。というのは、液タブや紙を水平に置くと、顔を下に向けなきゃいけなくて首や背中や腰がしんどい。板タブなら顔は真っ正面に向けたまま、手は水平に動かせる。

●BGMの低音がダメ

Spotifyをきっかけに、Apple Musicで仕事中にBGMを流す習慣ができた。もうほぼ定着したと思われるので、Bluetoothミニスピーカーではなくちゃんとしたスピーカー(ってもクリエイティブメディアの安いやつ)を超久しぶりに設置してみた。

ダメだw BGMにならない。ステレオ空間が拡がりすぎてあちこちから音が聞こえて落ち着かないのと、ズ〜ンズ〜ンって低音が混じると一気にやる気なくなっちゃう。中音域のモノラルに近い音のほうがBGMに向いてるのかも。

BOSEのBluetoothスピーカーをちょっと迷ってたんだけど、買う前でよかったw 低音がすごいらしいから。

●予感の仕組み

電話が鳴り始める前に「あ、電話だ!」ってわかる(かすかにプチって音がするとかじゃなく)とか、よほど重要な電話だと、鳴った瞬間に誰が何の話するのかわかってしまう。って経験は何度かある。

「人間は自分でこれをしようって思って行動を始めるずいぶん前(0.5秒だっけ? 何秒だっけ?)から、脳はその行動をしようと動き始めてる」って研究があるらしい。

プラス、「自分の意志で動いたり決めたりしてると思ってるけど、実際は無意識や本能がやったことを、自分でやったと錯覚してるだけ」って話もあったし。

としたら、日々の生活や仕事のほとんど全部の行動は無意識と本能がやってて、やった結果を数秒遅れでスクリーンで眺めてるに等しいのかも。だから、習慣を変えたり新しいことを覚えるのって大変なのかも。

で、大きな衝撃波のような出来事は、スクリーンに映るまでの遅延時間を越えて感覚に届いてしまう、みたいなこと考えた。

●写真.appのライブラリがおかしい件

24GBにまでダイエットした写真.appのライブラリをDropboxに入れた。他のMacからも見れるようになる、はずだった。一日中同期させてたのに……しまった! うっかりした。同期させたのはSierraでアップデート済みのライブラリだった。

他の二台のMacはEl Capitanなので「サポートされていないライブラリ。写真.appをアップグレードしてください」で、開けない orz

で、不思議なことが。24GBのライブラリを同期させたら、他の二台のMacでは容量が42GBになってる???

「パッケージの内容を表示」でライブラリの中身を確認すると、Sierraでは「Masters」フォルダに元写真が入ってるのだが、El Capitanでは「Masters」と同容量の「Originals」フォルダが出来てた! SierraではMastersのエイリアスとしてOriginalsがあるのだが、中身を伴っちゃってる。

これが原因だったのか。Sierraにアプグレしたら消えるのかもしれんけど、まあ、それまで放っておこう。

っていうか、中身を見てわかったけど、写真.appっていろんな機能を盛り込んだから、ライブラリの中身ってすごいことになってる。「顔認識」のために、写真から顔を切り出した何千の画像入りフォルダがあったり、修正途中みたいな写真がたくさん入ってるフォルダとか。

だいたい、写真.app特有の便利機能ってほとんど使わない。Appleのデジタルハブ戦略で、iPhoto/写真.appで写真を扱えばいろいろ便利になる、ということで不便と思いつつも使ってきたわけだが、実際にはiPhone連携ですらほとんど使ってない。

シンプルな画像ブラウザでいいんだけどな。年ごとにフォルダ分けしてBridgeで閲覧する程度で十分。写真は別に保管したフォルダがあるわけだし、写真.appを使うのをやめれば、僕の場合24GBの容量が浮くんだもん。

●WindowsキーボードをMacで使う

思わず買ってしまった。Apple純正のテンキー無しでも大丈夫だけど、Home/Endキーやpg up/pg downキーがなく、矢印キーが小さくて押しにくい。このキーボードならそれら全部ある!
http://www.yoshii.com/dgcr/ELECOM-keyboard-IMG_4273

で、Macで使ってみたんだけど、足りないキーがあるなどやはり不便。で、Seilというユーティリティで英数かなキーを使えるようにしてみた。と、システム環境設定で修飾キーの入れ替え。一応Macのキーボードとほぼ同じに使えるようになった。

「Windows用キーボードをMacで使う時にやっておくと便利な設定」
http://decoy284.net/2015/12/01/setteing-windows-keyboard-use-mac/


ていうか、写真をあらためて見ると、かな印字は不要だよなあ。かな入力の人だってブラインドタッチしてるんだろうし。「ろ」のキー、長くて変w


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


500号〜! 2005年3月30日号から毎週。400字詰め原稿用紙約7〜9枚分だから、4000枚=文庫本10冊分だw でも、あれ? たった11年9か月しかたってない? と思ったら、そっか。デジクリ連載始める前はブログに書きまくってたのだった。じゃあ、ブログに本格的に書かなくなって間もなく12年ってことかー。それも残念な気が……。

・ショップジャパンのキャラクター「WOWくん」
https://shopjapan.com/wow_kun/

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500


・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii


・rinkakの3Dプリント作品ショップ
https://www.rinkak.com/jp/shop/hiroshiyoshii



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編集後記(12/07)

●来年2月に開催する「自治基本条例フォーラム」の準備会議に出席した。だいたい市が主催するイベントはピント外れのものばかりで、昨年おこなわれた二回のフォーラムは、会場内を見回したところ、関係者の方が一般参加者より多かったという惨状だった。当時わたしはただの参加者だったから、これじゃ関係者はお通夜状態だろうなと気の毒に思ったが、そうでもなかったようだ。内容はともかく、イベントでお客を集められなければ失敗だ。今まで多くのイベントに関わってきたが、客足が伸びないと胃が痛む思いをしてきた。お役所の人たちは、案外平気で「あー、終わった、終わった」とサバサバしている。

今回はわたしも企画に参加したフォーラムだから、絶対に成功させなければならない。成功というのはお客さんをたくさん集めることで、内容は二の次である。企画を出すのは担当課と自治基本条例推進委員会である。ところが、平凡なアイデアしか出てこない。わたしにもいい思いつきがない。市民の大半は知らないであろう条例を冠にした企画では、まずお客は来ない。こうなったら裏技を用いるしかない。組織的な動員である。まず、つまらないいくつかの提案を無慈悲に潰した。そして取り出したのが、町会・自治会に動員をかけて、とにかく92人は確保しようという、会議出席者全員が眉をひそめる提案だ。

内容より先に動員だものな。46も組織がある町会・自治会から2人ずつ参加してもらえればいいのだ。タイトルは「町会なう」でどうだ! それがウケた。それで昨夜、ほぼ最後の打ち合わせがあり、サブタイトルと内容がまとまった。まさか今ここで決めるとは思っていなかった。まだ時間があると油断していた。お役所侮り難し。不本意な平凡なものになった。だが、担当課と委員会の人々はまだ集客を甘く見ている。若い人向けにこんな告知しようとか、どこそこにビラを配ればいいとか、甘いことを言っている。どうして現実を見られないのだろう。ほとんど希望的観測に基づいた、なりゆき任せの集客計画である。

「もう覚悟して下さい。町会・自治会ネタで一般の人は来ません。加えて地味な自治基本条例では誰も来ません。こんな面白くないネタで、一般市民ましてや若い人は絶対に来ません。身内でいいではないですか。町会・自治会で固めればいいんです。一般の人はオマケと思って下さい」とまで言わざるを得ない悪役なわたしである。フォーラムなんて、会場の席を埋めてナンボだろうが。じつは町会・自治会ネタはかなり面白いはずだ。全国的に町会・自治会は相当なきらわれものだが、わが市は組織率が異常に高く、うまく回っている町会・自治会がある。彼らに何を語らせるか、またでしゃばらないとなー。 (柴田)


●吉井さん、500号おめでとうございます! ありがとうございます〜!!

ユーチュバー! いいなぁ。顔出ししてレポートしたり、主張する勇気がない……。

/「中音域のモノラルに近い音のほうがBGMに向いてる」に同意。天井近くに小さなスピーカーのある喫茶店の音ぐらいがいい〜。

/予感に鈍感。ポケットに入れているスマホがブルッとなったと思って、画面を見たら何の通知もないってことならある……。本能に負けることは多い……。

/Windowsキーボードのcontrolキー(Macで言うところのcommandキー)が遠くて使いづらい。コピーペーストや保存は片手で行うので、Windowsを使う時には指が引きつりそうになる。一番使うキーがaltキーの位置にあるため混同してしまう〜。 (hammer.mule)