《ここに比べれば東京の冬なんざ激甘である》
■わが逃走[197]
異世界探訪の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[58]
筑紫書体の魅力について
関口浩之
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■わが逃走[197]
異世界探訪の巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20170309140200.html
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屁の擬音といえば「プー」とか「ブッ」といったものがポピュラーだが、私の屁はここ数年、「オガッ」と聞こえることが多い。
このことを極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に話すと、それはきっと男鹿半島が呼んでいるのよ。あなたは男鹿半島に行くべきだわ、と言う。
そんなとき、K川氏から秋田行きの誘いを受けた。
我々のカメラ仲間でもある元同僚・I中氏が、秋田の美大の先生になってから一度も訪ねてないので、行ってみないか、とのこと。寒いところには寒い時期に行くべきだよね、ということで2月の終盤、新幹線「こまち」に乗って秋田を訪問したのだった。
初日の夜は、きりたんぽ鍋と地酒で三人は旧交を温め、仕事と無関係な話題で夜半まで盛り上がる。この旅の主軸はまさにここにあるのだが、ものすごく内輪な話なので割愛する。
翌朝、雪の予報だったが市内は見事に晴れていた。この時期、秋田の天気はめまぐるしく変わるので、場所によっては雪が降ってるはず、とのこと。
この日、I中氏は超激務ゆえ同行できず、レンタカーでK川氏と二人で男鹿半島へと向かった。市内からは約35キロ。国道をまっすぐ、快適なドライブである。
しばらく青空が続いたが、男鹿半島に近づくにつれて、空は不思議な表情を見せる。
フロントガラスの右半分は晴れているのに、左分は低い雲に覆われている。青空と雲との比率が刻々と変化する。まるでスコットランドの空を見るようだ。行ったことないけど。
船越水道を越えれば正真正銘、男鹿半島だ。海沿いの道を名所『ゴジラ岩』目指して進む。
途中あまりにも空と海が幻想的なので、車を停め、シャッターを切った。
ここはもう、どこか違う星なのではなかろうか。水平線の陽射しと頭上の黒い雲。かと思えば、突然明るくなり足元に自分の影がくっきりと落ち、同時に雪も落ちてくる!

眼前の風景に圧倒されて忘れていたが、風は強く、空気はとても冷たい。口を閉じていても寒さが歯にしみてきたので、車に戻る。
あ、あ、あたたかい!! 風をしのげるだけでこんなにもシアワセなのか!ここに比べれば、東京の冬なんざ激甘である。
さらに車は進む。車窓からは似たような風景が続くのか、と思えばとんでもない。空の表情は秒刻みで変化し、それに合わせて山肌の陰影も変わり続ける。まるで映画でも見ているかのようだ。
隣のK川氏とともに、「うおー」だの「スゲー」だの言い通しである。
カーナビが目的地付近だと言っている。速度をゆるめて周囲を見渡すと、ちんまりと「ゴジラ岩こっち」と書かれたプレートが見えた。
他に人影もない。駐車場もない。ガイドブックにも大きく載ってるし、観光ポスターにもなってるのにこのヒトケのなさはなんだ?
かろうじて車3台くらいが停められるスペースがあったので、そこに車を寄せて岩場へと下りる。


岬の小さな灯台へと、電線が続く風景は実にシュール。周囲は奇岩・奇石だらけだ。

足元には保護色をまとった古代魚みたいなヤツもいた。そして、見上げるとそこにゴジラ岩が。

最もゴジラに見える角度から撮ると絵はがきになっちゃうので、今回はあえてギャオスっぽく見える角度からご紹介します。
灯台へと続く階段が美しい。まるで古代遺跡のようだ。

いちばん海側の鋭角的に切り返すところには手すりもなく、かなりコワイ。

寒さを忘れて夢中でシャッターを切る。それにしても、観光名所なのにホントに誰もいない。

最後に高台からの一枚。晴れと雨と雪が混在しているかのような空だ。この数秒後、吹雪となった。
このゴジラ岩周辺、時間にして30分程度の滞在だったが、めまぐるしく変わる光と空と海の表情に、寒さを忘れるひとときだった。
その後、男鹿温泉でひとっ風呂あびた後、市内へついたのが6時半。
その後I中氏も合流し、地ビールとソーセージで旧交を温めつつ、仕事と無関係な話題で夜半まで盛り上がる。この旅の主軸はまさにここにあるのだが、ものすごく内輪な話なので割愛する。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[58]
筑紫書体の魅力について
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20170309140100.html
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こんにちは! もじもじトークの関口浩之です。今回は筑紫書体の魅力についてお話します。
「明朝書体ってなに?」って思った人、多いのではないでしょうか? それとも、もじもじトークの読者は、文字に興味を持っている人が多いので(?)、「筑紫書体知ってますよ」という人が多いのかなぁ……?
どっちなんだろう……。アンケートをとってみたいけど(笑
それでは、筑紫書体をずらっ〜と並べてみました。
https://goo.gl/0d36X2
筑紫○○という書体名の代表的なものを15書体、ピックアップしました。同じ明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体でも、ひらがなが雰囲気が異なるのがわかると思います。
筑紫書体の話をする前に、そもそも「筑紫」の読み方は「ちくし」なのか「つくし」のどっちなの?
筑紫書体の場合は「つくし」と読みます。
筑紫平野の場合も「つくし」です。でも、筑紫哲也さんは「ちくし」です。そして、JR博多駅の筑紫口も「ちくし」と読みます。なんかややこしいです。
固有名詞なので、どちらの読み方も正しいです。昔は、つくしを使うことが多かったけど、最近は、ちくしを使うケースが多いみたいですと、福岡出身の知人が自信なさそうに説明してくれました。
さて、筑紫書体の本題に戻ります。
●筑紫書体の魅力
先ほど、筑紫書体をずらっと並べてみましたが、この書体を制作したのは、書体デザイナーの藤田重信さんです。
2016年6月13日にNHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演した、あの藤田さんです。福岡に本社があるフォントワークス株式会社で、書体を制作しています。
実は、先月2月9日に下記セミナーを開催しました。
FONTPLUS DAYセミナー Vol.6[筑紫書体の魅力について]
〜藤田重信さんと祖父江慎さんをお招きして〜
https://goo.gl/lL4OSC
セミナー募集を開始したところ、3時間で100名の申し込みがありました。告知はTwitterとFacebookのみでしたが、あっという間に定員オーバーになったんです。
筑紫書体の生みの親である藤田さんのお話が聴けて、ブックデザイナーの祖父江慎さんのお話も聴けちゃうということなので、瞬殺になることは予想していました。
主催者である僕自身も、久しぶりに藤田さんと祖父江さんのトークセッションが聴きたかったので、聴講者と一緒に、がっつりお話聴きました。とても幸せな気分でした。
お二方のトークセッション、筑紫書体の奥深さのお話にうなづきつつも、祖父江さんのユーモアたっぶりのツッコミと、藤田さんの熱い筑紫書体トークで、会場の雰囲気はなんとも言えない不思議な世界でした。
2時間のお話の中で、とくに記憶に残ったお話をいくつかご紹介します。
●やり過ぎじゃないかと心配したけど……
藤田さんは書体制作の過程で、「こんな感じの新書体どうかなぁ」と祖父江さんに意見を聞いたり、Twitterで「今、こんな新書体を制作中です」と書き込みをどんどんしています。
新書体の開発というと、内々に制作して完成してから発表するというイメージがありますが、藤田さんは、フォントワークスに入社した頃から、ユーザーの意見を聞きながら制作するスタイルだったとお聞きしました。
藤田さんの筑紫書体は独創性のある書体なので、「これは、ちょっと、やり過ぎじゃないか」と、最初は心配になるそうです。でも、一週間経つと、やり過ぎじゃなかったと感じるそうです。
今年春にリリース予定の新書体に『筑紫Q明朝体』という書体があります。
祖父江さんが、筑紫Q明朝体の「む」を見て、こんな「む」見たことないよ〜、すごいよね〜、と最初思ったんだけど、見ているうちにだんだん普通に見えてきちゃう、不思議だよね〜、とおっしゃっていたのが印象的でした。
僕も、当時のやり取りを、藤田さんのTwitter上で見ていたのですが、同じ感想でした。
ちなみに、筑紫Q明朝とはこんな明朝体です。
https://goo.gl/XBkxZS
カタカナの「シ」とか「ク」とか、どうしちゃんだろうってくらい、のびやかですよね。本の装丁とかでしか使用できないと思ったけど、実際に、本文組みしてみたら、僕は、結構いけると思いました。
祖父江さんから、「筑紫明朝が発表されてから、表現豊かな、ひらがな、カタカナが使えるようになったね」というお話があり、本当にそうだなぁと感じました。
そして、「筑紫書体って清潔感があるんだよね〜」という意見もとても腑に落ちました。
雑誌でよく見かける明朝体も美しいけど、筑紫書体のように独自の世界感をもった明朝体は少ないかもしれません。そして、筑紫書体は一目見てすぐわかります。
どの書体が良いか悪いかでなく、いろんな個性を持った書体が存在して、空気感にあったフォントを選べることがうれしいことなんだと再認識しました。
●丸ゴシックのお話
丸ゴシックってゴシック体の角を丸めたものだと思っていませんか? 実はそうではないそうです。
えっ、そうなんだ……。僕も知りませんでした。
丸ゴシックは、篆書体(てんしょたい)という、うねうねした文字が起源といわれています。角印とかでよく使われている、文字のパーツが左右対称の読みづらい字形です。
丸ゴシックというと「かわいい」というイメージがありましたが、おどろおどろした篆書体が、丸ゴシックの起源という説もうなずけますね。
丸ゴシックの代表選手と言えば、1973年に写研から発売された『ナール』が頭に浮かびます。書体設計は中村征宏さんという書体デザイナーです。
ナールという書体名の由来は「ナカムラ+アール(Round)」からきていると言われています。1972年に第1回石井賞国際タイプフェイスコンテストで第1位を獲得した書体です。写植(写真植字)が全盛の時代に誕生した、ニューフェースの書体だったのです。
藤田さんが写研に入社したのが1975年なので、藤田さんいわく。
「入社した時には、このナールという書体は発売されていたのですが、当時、この書体にすごく未来を感じたんです。でも、ナールの時代が長く続いたこともあり、今、見ると古めかしさを感じる。今の時代は、ふところがキュッと絞られたほうが自然な気がします」と40年間を振り返ってお話されてました。
僕は『ナール』の写植盤メインプレートを持っているので(個人コレクション)、その写真と、藤田さんの『筑紫A丸ゴシック』と『筑紫B丸ゴシック』を比較してみましょう。
https://goo.gl/1eJjw4
同じ丸ゴシックでも、雰囲気が異なりますね。ナールは、ふろころ広い丸ゴシックで、筑紫丸ゴシックはふところがキュッとしてます。
僕は両方とも好きです。文字のトレンドも、何十年かかけて、流行のサイクルを繰り返すかもしれませんね。
●妄想に近い感覚が大事
藤田さんは、具体的な字形を見ながら設計するというよりも、記憶の中にある「印象」をイメージして設計しています。「ふところがキュッと絞られた感じ」とか「抑揚感が強い感じ」とか、頭の中で想像します。
素敵な印象って美化されるので、ある意味、「妄想」に近い感覚だそうです。そうやって完成した書体が、昨年リリースされた『筑紫オールドゴシック』なのです。
この書体、普通のゴシックとは、明らかに違いますよね。
https://goo.gl/KW4P8p
今年春にリリース予定の『筑紫Q明朝』がとても楽しみですね。ちなみに「Q」はどういう意味なのかを藤田さんにお聞きしました。
書体サンプルを見せたところ、みんなが不思議そうな顔をしたので、Questionの「Q」にしたそうです。これが正式な書体名になるのか、楽しみですね。
●フォントだけじゃない
藤田さんのTwitterをぜひご覧なってください。フォントのツイートだけではありません。とても愛嬌のある猫、薔薇、車、眼鏡、などなど、素敵なツイートで満載なんです。
実際のところ、フォントの話題よりも、猫のツイート件数のほうが明らかに多いです!
https://goo.gl/fvxT68
次回も、文字ネタをお送りする予定です。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。
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編集後記(03/09)
●先週末、娘一家が軽井沢に一泊スキー旅行に出かけた。いつ出発したのか知らなかったが、朝9時頃に娘からメールが来て、孫娘が電気ストーブを消したかどうかビミョーというから、ひまな時にチェックしてくれという。わが家は一階、娘の家は高層階。玄関のスペアキーは預かっているが、たまたま前日に孫娘が持って行ったままだった。
チェックしに行こうにも、キーなしでは入れないではないか。ひまな時にチェックしてなんて、のんきなことをいうが、ことがことだけに放置するわけにはいかないではないか。管理人室に行って事情を話し、玄関を開けてもらえないかと頼んでみた。
予想通り、あっさり「それはできません」。マスターキーはないのですかと聞くと「ありません。鍵屋を呼んで開けてもらうしか方法がありません」と言う。マンションの使用細則に「本マンションは、マスターキー(合鍵)を用意していないので、鍵の管理には充分注意する」とあるのは知っていたので、やっぱりねえと思う。
彼は「事情はよくわかりますが、手の出しようがありません」と困惑しているが、当事者はもっと困惑しております。管理会社に相談してみますから、しばらく待って下さいとのことだった。
その後、管理人さんからは「管理会社の緊急センターに相談してみて下さい。わたしと同じ返事になりますが」と連絡が来たので電話してみた。男性の明朗な声で「専用部の鍵のトラブルは、お近くの鍵屋さんで、携帯番号は……」と慣れた対応、よくあるみたいだ。費用は1万から2万円だという。
万が一、電源が入ったままで放置しても発火することはあるまいと思ったが、ストーブがどんな場所にあるのか分からないので不安ではある。お気楽なメールだったから、まあ大丈夫だろうと、自信はないけど思い込むことにした。もちろん、娘にはそんな状態は知らせない。こちらが手出しできない以上に、彼らは何もできない。よけいな不安を与えたら旅行もメチャクチャだ。
夕方になって一応見に行って、玄関扉やガラス窓に触れ、周囲の臭いをかぎ、何事も起きてなさそうな気がしたので、もういいやと思った。もし出火したらすべての部屋に警報が鳴り響くシステムなので、鳴りませんようにと祈って寝た。翌日はもう何も心配しなかった。19時頃、帰ってきたよー、いま風呂から出たー、とお気楽なメールが来た。大きな塩羊羹くれたから、まあいいや。
鍵屋さんって、追っつけ二つ返事で合鍵を作ってくれるが、考えてみればずいぶん危険な人たちである。「合カギ3分でつくります、4分目にドロボーに入ります」とブラックジョークを飛ばしたのが、「室内」編集長の山本夏彦だった。ピンチの時に来てくれた鍵屋さんは、頼んだ人にとっては神様に見えるらしい。お世話になるのは困った時だ。そんな時は来なければいいと思う。 (柴田)
●一瞬永吉さんかと……。/筑紫Q明朝すてき! Twitterにあった筑紫ヴィンテージ明朝もいいなぁ。「ナール」の名前の由来ってそうだったのか〜。
/合鍵を預けないことがあるのね。うちは合鍵を管理会社か警備会社が持っているはず。警報鳴ったら勝手に入るって話だった。非常ボタンもあって、不審者が侵入したら押してくれと言われた。
鍵を落とした時は相談したら開けてくれるんだろうか。警備解除のパスワードで認証してくれるとかないかな。コンシェルジュさんの一人は顔を覚えてはくれているみたいなんだけど……不安になってきたわ。
合鍵は、鍵に刻印されている番号で作れたりするらしい。番号をメモしておいた方がいいかも。映画やドラマなら、鍵を机の上に置いた隙に、粘土持ったスパイが寄ってくるわね。あ、刻印どころか形そのまま型取りできるわ。 (hammer.mule)
合鍵を作りたいときには、どうすればいいですか?(美和ロック)
http://www.miwa-lock.co.jp/lock_day/support/faq/faq01.html
メーカー、鍵番号、お届け先、決済方法のみ。全国送料無料!
https://合鍵ナビ.com/buy-aikagi.html
2,538円、5,238円。大丈夫なんだろうか……沖縄の会社か
合鍵作成不可の鍵一覧
https://xn--hdks151yx96c.com/fuka.html
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