こんにちは! もじもじトークの関口浩之です。今回は筑紫書体の魅力についてお話します。
「明朝書体ってなに?」って思った人、多いのではないでしょうか? それとも、もじもじトークの読者は、文字に興味を持っている人が多いので(?)、「筑紫書体知ってますよ」という人が多いのかなぁ……?
どっちなんだろう……。アンケートをとってみたいけど(笑
それでは、筑紫書体をずらっ〜と並べてみました。
https://goo.gl/0d36X2
筑紫○○という書体名の代表的なものを15書体、ピックアップしました。同じ明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体でも、ひらがなが雰囲気が異なるのがわかると思います。
筑紫書体の話をする前に、そもそも「筑紫」の読み方は「ちくし」なのか「つくし」のどっちなの?
筑紫書体の場合は「つくし」と読みます。
筑紫平野の場合も「つくし」です。でも、筑紫哲也さんは「ちくし」です。そして、JR博多駅の筑紫口も「ちくし」と読みます。なんかややこしいです。
固有名詞なので、どちらの読み方も正しいです。昔は、つくしを使うことが多かったけど、最近は、ちくしを使うケースが多いみたいですと、福岡出身の知人が自信なさそうに説明してくれました。
さて、筑紫書体の本題に戻ります。
●筑紫書体の魅力
先ほど、筑紫書体をずらっと並べてみましたが、この書体を制作したのは、書体デザイナーの藤田重信さんです。
2016年6月13日にNHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演した、あの藤田さんです。福岡に本社があるフォントワークス株式会社で、書体を制作しています。
実は、先月2月9日に下記セミナーを開催しました。
FONTPLUS DAYセミナー Vol.6[筑紫書体の魅力について]
〜藤田重信さんと祖父江慎さんをお招きして〜
https://goo.gl/lL4OSC
セミナー募集を開始したところ、3時間で100名の申し込みがありました。告知はTwitterとFacebookのみでしたが、あっという間に定員オーバーになったんです。
筑紫書体の生みの親である藤田さんのお話が聴けて、ブックデザイナーの祖父江慎さんのお話も聴けちゃうということなので、瞬殺になることは予想していました。
主催者である僕自身も、久しぶりに藤田さんと祖父江さんのトークセッションが聴きたかったので、聴講者と一緒に、がっつりお話聴きました。とても幸せな気分でした。
お二方のトークセッション、筑紫書体の奥深さのお話にうなづきつつも、祖父江さんのユーモアたっぶりのツッコミと、藤田さんの熱い筑紫書体トークで、会場の雰囲気はなんとも言えない不思議な世界でした。
2時間のお話の中で、とくに記憶に残ったお話をいくつかご紹介します。
●やり過ぎじゃないかと心配したけど……
藤田さんは書体制作の過程で、「こんな感じの新書体どうかなぁ」と祖父江さんに意見を聞いたり、Twitterで「今、こんな新書体を制作中です」と書き込みをどんどんしています。
新書体の開発というと、内々に制作して完成してから発表するというイメージがありますが、藤田さんは、フォントワークスに入社した頃から、ユーザーの意見を聞きながら制作するスタイルだったとお聞きしました。
藤田さんの筑紫書体は独創性のある書体なので、「これは、ちょっと、やり過ぎじゃないか」と、最初は心配になるそうです。でも、一週間経つと、やり過ぎじゃなかったと感じるそうです。
今年春にリリース予定の新書体に『筑紫Q明朝体』という書体があります。
祖父江さんが、筑紫Q明朝体の「む」を見て、こんな「む」見たことないよ〜、すごいよね〜、と最初思ったんだけど、見ているうちにだんだん普通に見えてきちゃう、不思議だよね〜、とおっしゃっていたのが印象的でした。
僕も、当時のやり取りを、藤田さんのTwitter上で見ていたのですが、同じ感想でした。
ちなみに、筑紫Q明朝とはこんな明朝体です。
https://goo.gl/XBkxZS
カタカナの「シ」とか「ク」とか、どうしちゃんだろうってくらい、のびやかですよね。本の装丁とかでしか使用できないと思ったけど、実際に、本文組みしてみたら、僕は、結構いけると思いました。
祖父江さんから、「筑紫明朝が発表されてから、表現豊かな、ひらがな、カタカナが使えるようになったね」というお話があり、本当にそうだなぁと感じました。
そして、「筑紫書体って清潔感があるんだよね〜」という意見もとても腑に落ちました。
雑誌でよく見かける明朝体も美しいけど、筑紫書体のように独自の世界感をもった明朝体は少ないかもしれません。そして、筑紫書体は一目見てすぐわかります。
どの書体が良いか悪いかでなく、いろんな個性を持った書体が存在して、空気感にあったフォントを選べることがうれしいことなんだと再認識しました。
●丸ゴシックのお話
丸ゴシックってゴシック体の角を丸めたものだと思っていませんか? 実はそうではないそうです。
えっ、そうなんだ……。僕も知りませんでした。
丸ゴシックは、篆書体(てんしょたい)という、うねうねした文字が起源といわれています。角印とかでよく使われている、文字のパーツが左右対称の読みづらい字形です。
丸ゴシックというと「かわいい」というイメージがありましたが、おどろおどろした篆書体が、丸ゴシックの起源という説もうなずけますね。
丸ゴシックの代表選手と言えば、1973年に写研から発売された『ナール』が頭に浮かびます。書体設計は中村征宏さんという書体デザイナーです。
ナールという書体名の由来は「ナカムラ+アール(Round)」からきていると言われています。1972年に第1回石井賞国際タイプフェイスコンテストで第1位を獲得した書体です。写植(写真植字)が全盛の時代に誕生した、ニューフェースの書体だったのです。
藤田さんが写研に入社したのが1975年なので、藤田さんいわく。
「入社した時には、このナールという書体は発売されていたのですが、当時、この書体にすごく未来を感じたんです。でも、ナールの時代が長く続いたこともあり、今、見ると古めかしさを感じる。今の時代は、ふところがキュッと絞られたほうが自然な気がします」と40年間を振り返ってお話されてました。
僕は『ナール』の写植盤メインプレートを持っているので(個人コレクション)、その写真と、藤田さんの『筑紫A丸ゴシック』と『筑紫B丸ゴシック』を比較してみましょう。
https://goo.gl/1eJjw4
同じ丸ゴシックでも、雰囲気が異なりますね。ナールは、ふろころ広い丸ゴシックで、筑紫丸ゴシックはふところがキュッとしてます。
僕は両方とも好きです。文字のトレンドも、何十年かかけて、流行のサイクルを繰り返すかもしれませんね。
●妄想に近い感覚が大事
藤田さんは、具体的な字形を見ながら設計するというよりも、記憶の中にある「印象」をイメージして設計しています。「ふところがキュッと絞られた感じ」とか「抑揚感が強い感じ」とか、頭の中で想像します。
素敵な印象って美化されるので、ある意味、「妄想」に近い感覚だそうです。そうやって完成した書体が、昨年リリースされた『筑紫オールドゴシック』なのです。
この書体、普通のゴシックとは、明らかに違いますよね。
https://goo.gl/KW4P8p
今年春にリリース予定の『筑紫Q明朝』がとても楽しみですね。ちなみに「Q」はどういう意味なのかを藤田さんにお聞きしました。
書体サンプルを見せたところ、みんなが不思議そうな顔をしたので、Questionの「Q」にしたそうです。これが正式な書体名になるのか、楽しみですね。
●フォントだけじゃない
藤田さんのTwitterをぜひご覧なってください。フォントのツイートだけではありません。とても愛嬌のある猫、薔薇、車、眼鏡、などなど、素敵なツイートで満載なんです。
実際のところ、フォントの話題よりも、猫のツイート件数のほうが明らかに多いです!
https://goo.gl/fvxT68
次回も、文字ネタをお送りする予定です。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。