《干ばつによる尖った糞》
■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[002]
目指すはトマト文学
花と星
タカスギシンタロ:超短編ナンバーズ
■もじもじトーク[71]
道路標識で使用されている書体って何?
関口浩之
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■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[002]
目指すはトマト文学
花と星
タカスギシンタロ:超短編ナンバーズ
https://bn.dgcr.com/archives/20171005110200.html
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◎目指すはトマト文学
趣味は家庭菜園です。来週はイモ掘りします。今年こそ干しイモつくるぞー。
などと創作活動とは関係ない話からはじまりです。ふだんは小野塚力さんの言葉を借りて、超短編の直接の先祖は稲垣足穂の『一千一秒物語』であるとか、その稲垣足穂はロード・ダンセイニの『五十一話集』に影響を受けていたようだとか話しているが、じつのところ、文学ってよく分からない。
なぜならぼくは農学部出身だから。農学部農学科の応用昆虫学研究室卒業だ。かといって昆虫に詳しいかというとそんなこともなく、在学中はひたすら草刈りをした記憶しかない。
そうはいっても農業の基礎はなんとなく分かっていて、農家さんにくらべたらおままごとみたいなものだが、家庭菜園程度ならお茶の子さいさい。クワを適当にふるっているだけで次々と野菜が穫れてしまうのだ。
なんていうと大げさのように思われるかも知れない。しかし、じつは植えておきさえすれば誰でも野菜は穫れるのだ。もちろん、商品になるようなうつくしい野菜をつくるとなるとそうはいかない。
そこがプロの農家との違いではあるが、形が悪かったり虫食いだったりを気にしなければ、ビギナーでも簡単に野菜はつくれると思う。
今年の畑のトピックはトマト。神田須田町にあるイタリアンの名店トラットリア・ラ・テスタドゥーラの店長からリクエストがあり、「フィオレンティーノとパンターノがほしい」とのことだった。
どちらもイタリアではけっこう定番のトマトだが、日本ではなかなか手に入らないのだとか。そこで両品種にチャレンジすることにした。
そんなわけで春先にトマトの苗を入手しようとしたのだが、そもそもフィオレンティーノもパンターノも苗が売っていない。しかたがないのでネット通販で種を買いました。種袋の説明がイタリア語で、なんて書いてあるか分からないが、F1とあるのは理解できた。
F1というのはカーレースのF1ではなくて、交雑品種の一代目ということ。固定種ではないということだ。つまり、この種から育てたトマトの種をとって、再び播いたとしても、もとの品質のトマトは得られないということを意味する。
これは農家にとってはけっこうゆゆしき問題で、自分たちで種を管理することが出来ず、毎年毎年、種苗会社から種を買い続けなければならないのだ。種苗会社による農家の支配へもつながるけっこう重大な問題が、そこにはひそんでいる。
もちろん種屋さんにとってみれば、毎年買ってもらえた方が儲かるわけであるが、こと食料に関しては倫理的な問題も絡んでくるのでやっかいだ。
似たような話は複製可能なデジタル作品にも言えるわけで、著作者の権利を守るために複製は制限されなければならないが、一方で自由なデータの流通もジャンルの発展には必要な場合がある。
電子書籍のためし読みを例にとると、ぼくの作品はひとつが500文字程度のため、そもそもためし読みで、完結した作品が全部読めてしまうという問題がある。まあ、読んでもらわなければはじまらないんですが……。
さて、種を播いたトマトだが、なんとか発芽させて苗まで育てることに成功した。日本のトマトとそんなに育て方に違いはないと思ったが、いちおうWebで調べてみた。
イタリア語のサイトをGoogleさんに翻訳してもらったらこれがなかなか優秀で、なんとなく書いてあることが分かる。しかし少々疑問なところもあった。
・気候の改善:果実の熱傷、過剰な水のはね、凍結、急激な窒息、干ばつによる尖った糞。
おそらく気候の管理で注意すべきところだと思うが、「干ばつによる尖った糞」が気になる。気になりすぎる。イタリア語に堪能な方には、ぜひ本来の意味を推測していただきたい。
そんなこんなで、なんとかトマトは実りました。パンターノは実が大きく、生
で食べると少々味気ないが、熱を加えるとがぜんおいしくなる。
トマトソースにするなら、ゼリー部が少ない上に身が柔らかくて最高だし、厚めに切ってフライパンで焼けば、それだけで激うまトマト・ステーキのできあがり。とろけるチーズをかけてもおいしい。
一方のフィオレンティーノは、実のかたちがおもしろい。日本ではまずお目にかからない、しわしわの形状で、輪切りにすると歯車のような、お花のようなかたちで、サラダに彩りをそえてくれる。トマトらしい香りと酸味があり、こちらも熱を加えた方が味は良いかなと思う。
無事にイタリア料理屋にトマトを納品すると、それは“パンツァネッラ・トスカーナ風”と“スパゲティ・アッラ・ケッカ”という料理になりました。どんな料理なんだろう(食べてない)。イタリア語に堪能な方には、ぜひどんな料理なのか教えていただきたい。
そして、なんとトマト代をいただいてしまいました! それもトマトとしてはかなり良いお値段。超短編ものがたりを書いてもあまり売れないのに、トマトは即売れる。やはり農業の方が才能あるのかな……。
冒頭で超短編のルーツの話をしたが、その源流のひとつに南米のMicrorrelatoがある。英語で言えばMicro Storyといったところだろうか。グアテマラの作家アウグスト・モンテローソの『恐竜』は、世界一短い物語のひとつとして有名である。
考えてみると、トマトも原産は南米。そこからヨーロッパに広まって、いまや世界の人々を魅了している。超短編も世界中で楽しまれている物語の形式だ。ぜひこの日本でも、もっともっと読まれてほしい。トマトのように。
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◎花と星
「俺たちもしわしわになっちまったな」
男はテーブルにしわだらけのトマトを戻した。
「まだまだひと花咲かせるよ」
女がトマトを輪切りにすると、しわだらけの断面からきれいな花模様が現れた。女は花模様のトマトを皿に飾る。男は笑い、トマトのへたでもって星のごとく、皿を輝かせた。
【タカスギシンタロ】
kotorinokyuden01@mac.com
フリーペーパー「コトリの宮殿」ではいつでも原稿募集中。A4の1/4に収まるものであれば、物語、評論、イラスト、エッセイなど内容自由。ご投稿はメールでどうぞ。
コトリの宮殿HP:http://inkfish.txt-nifty.com/kotori/
超短編集『ピアノ』(Kindle版):http://www.amazon.co.jp/dp/B01AI36HX2
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■もじもじトーク[71]
道路標識で使用されている書体って何?
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20171005110100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
九州出張から戻ってきました。あれっ、前回のもじもじトーク配信日も、鹿児島に出張中でした。なぜか、メルマガ配信の前日は、出張中か、出張から戻ってくる日、もしくは主催イベントがある日の確率が、ほぼ100%なんです。
●悲報か朗報か?
昨日、東京駅に到着して、新幹線ホームを歩いていたら、頭の後ろを、何かがかすめた気がしました。
恐る恐る、髪の毛を触ってみると、手にねっとりしたものが……。
そうです。鳥の糞です。しかも大量に……。大漁ともいいます(笑) しかも、スーツケースの上に積んでいたビジネスバックにも、大量のケチャップのようなものが……。オムライス二人前ぐらいのケチャップの量でした。
なんか嫌な予感がしたので、新幹線ホームでYシャツを脱いでしまいました。つまり、上半身は肌着一枚。
予感が的中しました。Yシャツの背中にもたっぷり付着していました。そして、肌着にも鳥の糞が染み込んでいる模様。
すぐにトイレに駆け込んで、頭を洗って、鞄をきれいに拭いて、まずは一次対応完了。幸いなことに、着ていない予備のTシャツが一枚、スーツケースの中に入っていたので、上半身裸で帰宅しなくても済ました。
かみさんにはメールで事情を説明しておいたので、帰宅したらすぐに、一時間ぐらいかけて、鞄を特殊な布やブラシで除菌したり漂白してくれました。ありがとう!
乾燥したら臭いは消えるだろうと期待してましたが、乾いたら、まだ鳥の糞の臭いがほのかに感じるではありませんか! いやっ、ほのかではない……。
諦めてゴミ捨場へ持っていきました。お気に入りの鞄だったので、同じ型の鞄の予備を買っていたので、それを明日から使用することにしよう!
急ぎの仕事は溜まっているし、メルマガ原稿の入稿もあるし、2時間のロスは痛かった。さて、気持ちを入れ替えて、もじもじトークを仕上げましょう。
大惨事でしたが、良く考えてみたら、「大当たりを引いた」「うんがついた」と考えることにしました。ということで、悲報じゃなくて、朗報だね!
でも、大型の鳥かな? 鷲とか鷹とか? そうじゃないよね。大型のカラスかな? 謎は残りました。
気持ちを切り替えて本題に入りましょう。今日は、久しぶりに、「まちもじ」特集です。
●この中に入る文字は何?
まずは、この写真をご覧ください。
https://goo.gl/orW7tG
みなさんが、毎日、目にする道路標識のひとつですよね。この逆三角形の赤い標識の中に何が書かれていますか?
「文字の色は?」
「何が書かれているか?」
「それは漢字か平仮名か?」
「その書体は何?」
を瞬時に答えられますか?
これを、先週のもじもじ勉強会ツアー(鹿児島・博多・佐賀・広島・東京)で、参加者に質問してみました。
最初の反応としては、
「たしか、ゴシック体だよね」
「止の一文字かな?」
「んっ、止まれの三文字だよね」
「色は白だよね」
って感じでした。思ったよりも自信満々の人は少なかったです。
なので、下記の三パターンのサンプルを見せました。
https://goo.gl/gYuWwN
一番は明朝体です。何か違うよね。この書体は、エヴァンゲリオンで使用されている「マティスEB」です。
二番目はゴシック体です。近いようで、でも、何か違う。ヒラギノ角ゴシック体です。
三番目は、古印体です。なぜか、会場の皆さんから笑い声が聞こえてきました。「何か怖くて立ち止まるよね」「やばいと思って急ブレーキを踏みそう」「お化けが出てきそう」という意見が多かったです。
正解はこちらです。
https://goo.gl/TM12BW
丸ゴシック体だったのです。この二枚の写真は、福岡で撮影したものと、自宅近所の東京の人形町で撮影したものです。
日本全国、津々浦々の「止まれ」の標識を調べたわけはありませんが、丸ゴシックである可能性は99%以上ではないでしょうか。
なぜ、丸ゴシックになったかは、手書き看板職人が製作していた時代、丸ゴシックは角ゴシックよりも2〜3割早く、書き上げることができたからのようです。その字形が現在にも引き継がれているのです。
あと、気になるのは、「止」の横画が斜め上を向いている点です。この理由は、わかりませんでした。その理由を知っている方がいれば、ぜひ、教えて下さい!
●コメダ珈琲店のドアに注目!
この三枚の写真をご覧ください。
https://goo.gl/r15pBC
ドアの「引」「PULL」と「押」「PUSH」のラベルの文字が古印体ですよね。でも、それを見たときに笑ってしまうということはないと思います。
そもそも、コメダ珈琲店の「押」と「引」の書体に目がいくことは、普通の人はあまりないかもしれませんね。
コメダ珈琲店の看板の書体がとても特徴的で、おどろおどろしているので、古印体に違和感をあまり感じないのだと思います。
古印体は、印鑑でも使用することがある書体です。古印体の捺印をみて、笑う人はないですよね。
つまり、書体には適材適所があり、使われている場所や風景、そのシーンにおける背景などにより、同じ書体が使われていても違和感を感じる場合とそうでない場合があるのです。
人間の脳は0.1秒で、目の前にしたものが何であるか、そして、それが好きか嫌いかを判断しているといわれています。
正しく情報を伝えること、そして、その情報の重み付け、また、感情を伝えるために、文字や書体が重要な役割を果たしているのです。
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
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編集後記(10/05)
●加瀬英明・石平「明治維新から見えた日本の奇跡、中韓の悲劇」を読んだ(2017/ビジネス社)その2。江戸時代はすごかった、という加瀬英明の話から。映画やテレビで描かれる大江戸では、けっこうバラエティ豊かに悪党が出没し、御用だ御用だと捕り方も大勢、まるで犯罪都市みたいな感じだが、それは違う。
江戸時代の日本は全国どこでも治安がよかった。なかでも江戸はとびきり。奉行所には332人の町方役人がいた。2人の奉行のもとに、管理職である与力が50人、その下で282人が働いていた。南北奉行所の役人は月番制で、毎月交代であった。つまり、奉行所には常に、半数の166人しか詰めていなかった。
332人の役人のうち、64人が司法と警察を担当。このなかで警察官にあたる奉行所付定廻りは、江戸時代を通じて両奉行所を合わせて12人しかいなかった。定廻りはいわゆる「八丁堀の旦那」だ。自分の収入の中から、それぞれ5人あまりの目明かし(御用聞き)抱えており、さらに目明かしがそれぞれ5人あまりの下引きを自費で雇っていた。これが江戸の警察のすべてである。
今日の東京都は310人毎に警察官が一人と言われる。江戸は町民4700人毎に一人で足りていたという。その計算式はわたしにはよくわからないが、とにかく町民が高い自治能力を持ち、公徳心が極めて強かったことを証す。町民が礼節を重んじていたことが、社会に秩序を与えていた。家や部屋には鍵も錠もなく、誰でも侵入できるのに、金銭や物が盗まれることが決してなかった、という。
かなり高齢の芭蕉が、ほとんど一人で奥の細道を踏破できるほど安全だった。芭蕉は道中で追い剥ぎに一度も遭っていない。その当時、世界で一番郵便が発達していたのは日本だった。日本中の隅から隅まで、郵便が届くシステムが完成していた。定飛脚と呼ばれる郵便屋兼宅配屋が、全国の街道を往復していた。
日本橋のたもとにゴザが敷かれ竹の籠がいくつも置かれている。宅配センターである。金をいれた袋に宛名を書いて竹籠の中に置けば、金飛脚が日に何回か回収し、全国に配達する。往来の真ん中で、番人もいない。誰も盗まない。ほんまかいな。金飛脚だけが護身用に腰に刀を差していた。江戸の今で言う中央郵便局に届いた郵便は、町飛脚が500〜600ある町の各家まで届けていた。
江戸は世界のどの都市より飲料水に恵まれていた。小石川上水と神田上水が造営され、やがて多摩川上流から43キロにわたる地下水路が掘削され、四谷大木戸の水番所から地下水道を通じて、それぞれの町内に設けられた上水井戸まで届けられた。ヨーロッパの大都市では、糞尿は住居に面する路上に投棄されていたが、江戸では汚穢屋が同業組合をつくって回収していたから、町はとても清潔である。
江戸時代は障がい者の保護に手厚かった。全盲の按摩だけに金貸しを許した。全盲の御典医・杉山和一が日本式鍼灸を編みだす。綱吉に進言し1680年から全国に30か所以上、6年以上鍼灸を教える盲学校、鍼按摩稽古所を開設する。世界で最初の盲人学校だった。二番目はその100年後のフランスだ。江戸時代は西洋が生んだ機械こそ欠いていたものの、経済、農業、教育、学問、工芸、余暇活動のどの分野をとっても、世界の先端にいたのだ。素晴らしい。(柴田)
加瀬英明・石平「明治維新から見えた日本の奇跡、中韓の悲劇」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4828419624/dgcrcom-22/
●昨日書けなかった。タカスギシンタロさん、連載ありがとうございます!/家庭菜園いいなぁ。虫が苦手だからアレなんだけど、パソコンの前での仕事が多いと、つい考える。家族や知人には話したことがある。
/「干ばつによる〜」に爆笑した。/関口さんの髪の毛……今日はそういう繋がりの日なのか! 筆者同士や後記がシンクロすることあるのだ。/文字はわかった。書体も当たったよ〜。/コメダどこにあったっけな。
/洗濯機修理の続き。編集長とやり取りして気づいたのだが、分解や組み立ては楽しいが、それは趣味だからだ。絶対修理しないといけないというものではない。ダメモトだから気軽にチャレンジできるのだ。
作業を見ていると、だんだんと好奇心より不安が上回るようになり、仕事に戻ることにした。時々様子をうかがいに行き、終わったら出すカフェオレやお菓子類を準備。汗かいてらしたから冷たいもの。頭使うから甘いもの。でも甘いの苦手だとあかんので、酸っぱい系飴とかも。手が汚れてるからお手ふきと。続く。(hammer.mule)