[#4753] ショート・ストーリー「他人の木」◇マンガ学校中間考査と三人の先生

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《いい先生たちだね》

■ショート・ストーリーのKUNI[244]
 他人の木
 ヤマシタクニコ

■ローマでMANGA[140]
 マンガ学校中間考査と三人の先生
 Midori



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■ショート・ストーリーのKUNI[244]
他人の木

ヤマシタクニコ
https://bn.dgcr.com/archives/20190314110200.html

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兵藤くんは自宅のベランダに放置状態の苗木をみつめ、悩んでいた。

黒いビニールのポットに入ったままの苗木である。何の木なのか知らない。植物に関する興味も知識もない兵藤くんには「ふつうの葉っぱとふつうの枝があるふつうの木」としか思えない。買ったのではなく、もらったのだ。

「あーどうしよう。ちゃんとした植木鉢と土を買ってきて植え替えたらたぶん、すくすくと育つんだろうな。でも、なんだかめんどくさいな」

兵藤くんはかれこれ3か月ほどもそうやって悩んできた。といっても毎日ではなく、思い出したときだけだけど。思い出しては「あーどうしよう。めんどくさいなー」と悩む。

ポットのままなのに枯れたりしおれたりせず、植物ってのはすごいなと感心するが、それだけに悩みもずるずると長引くのだ。

ある日、兵藤くんはふと思い立ち、夜半に300メートルばかり離れた家の軒下に、それを持って行って置いてきた。

「この家には見るからに親切な老夫婦が住んでいる。きっとおまえのことをかわいがってくれるだろう。実際、この軒下にはほかにもいろんな鉢植えがあるじゃないか。味噌の容器や洗剤の空き缶も鉢としてのことだけど」

兵藤くんは自分で自分に言い聞かせるようにつぶやいて、うん、うんとうなずき「じゃあな。達者で暮らせよ、太郎」と言って立ち去った。太郎という名前をつけていたのがおどろきだ。育てる気もなかったのに。

明くる日、何食わぬ顔で兵藤くんはぶらぶらとそのへんを散歩した。

「まあ、おじいさん。こんなものが」
「おお、これは……何の苗木だろうな」
「なんでしょうね」
「おや、なんか土に刺さっている。クリーム色のプラスチックの……ああ、マーガリンの容器のふただ。マジックで何か書いてあるぞ……なになに……わけあって育てられません。よろしくお願いいたします。へたくそな字だな」
「捨てられたのね、かわいそうに。じゃあうちで育てましょう」
「そうだな。ひょっとしたらおいしい実がなるかもしれないし」

単なる通行人のふりをして聞いていた兵藤くんはよしよし、と思った。それから兵藤くんは毎日の散歩ついでに、こっそりと太郎の様子をみることにした。

太郎はポットから大きな鉢に植え替えられ、どんどん成長した。せいぜい15センチくらいで、何本かのひょろひょろした枝に葉っぱがぱらぱらっとついていただけだったのに、幹も枝もしっかりして、葉っぱはつやつや、肉厚になってきた。

「おばあさん、この子がこんなにたくましくなったよ」
「ほんとにねえ。世話のしがいがあるというものよねえ」

老夫婦の会話を聞くと、兵藤くんはなにやらいいことをしたような気持ちになった。

木はどんどん大きくなった。あっという間に1メートルを超え、大人の背丈ほどになった。老夫婦は次々に鉢を大きなものに買い換えていったが、それでも根の圧力がすごく、鉢が割れそうであった。

それはもう、おそろしいというか、すさまじいというか、まさに怪物的という成長ぶりだった。枝にはびーっしりと葉がつき、老夫婦の家の中はたぶん、昼間でも暗いはずだ。

兵藤くんは夜ふけに木の前に立ち、感慨をこめて言った。
「太郎、大きくなったなあ!」
木は無反応だ。なんだこのおっさんはという風情である。
「おまえは知らないだろうが、実はここへおまえを持って来たのは、この私なんだ」

枝がちょっと揺れたような気がする。

「すまない。甲斐性なしの私を許しておくれ。おまえを育てる自信がなくて、親切なだれかに預けようと決めたんだ。ここの老夫婦はおまえの育ての親なんだ。私はおまえを捨てたことになるのかもしれない。でも、私にも生活があるんだ。わかってくれ、太郎」

ずばばばばっ! と木のてっぺんに一瞬、稲妻のような閃光がきらめいた。木の枝という枝ががぶるんぶるん、ばしばしっ!と動いた。風もないのに。

「な、なんだこれは」

兵藤くんはにわかに恐ろしくなって、あわててその場を離れ、家まで全速力で逃げ帰った。

翌朝、老夫婦は玄関の引き戸を開けてびっくりした。軒下のゼラニウムや小菊、サザンカ、ツワブキの鉢、松の盆栽、何も植えてない土だけのプランターなどいっぱい並べていた鉢がひっくり返り、割れ、土がこぼれてものすごい惨状を呈していたのだ。

「ばあさんや、えらいことになっておるぞ」
「おおおお、おじいさん、こここれはもしや」
「そうだ、この木だ。こいつが悪さをしたのだ。間違いない! どうしたんだ、今まで素直にすくすく育っていたのに!」
「私たちは何かまちがったんでしょうか」
「わからん……わしらにはわからん……」

木は何も知らぬという風に立っていたが、枝ぶりがむちゃくちゃになっている。どうみても、夜中に暴行を働いたしるしである。葉っぱも路上一面に散乱しているし。

真夜中、兵藤くんは目撃した。老夫婦がこっそり、ふたりで前後に分かれて木を脇に抱きかかえ、よたよたしながらどこかへ運んでいくのを。時々根から土がぼろ、ぼろっとこぼれる。

「ばあさんや、だいじょうぶか。膝が悪いのに」
「だいじょうぶですよ、おじいさんこそだいじょうぶですか、腰が悪いのに」
「ああ、だいじょうぶさ。しかし、つらいなあ」
「つらいですねえ」
「せっかく大きくしたのになあ」
「大きくしたのにねえ」

二人とも涙声だ。兵藤くんはいたたまれない気持ちで、それでも気づかれないよう要所要所で自販機の陰にさっと隠れたり、工事現場の塀に張り付いて標識のふりをしたりしながら尾行した。

やがて二人は公園に行き着いた。真夜中でだれもいない。外灯だけが青っぽい光を放ち、「あいさつすればたのしいこのまち」と書かれた小学生の手作り看板を寂しげに照らし出している。

「どこがいいかしら」
「このケヤキのそばはどうだろう」
「あそこにキンモクセイの並びのほうがいいんじゃない」
「時計台のそばはどうだ」

二人はあっちだ、いやこっちだと木を抱えながら真夜中の公園内をさまよい歩いた。そして、にぎやかなところのほうが寂しくなくていいだろうと、公園の中心部の遊歩道脇に場所を決め、持って来たシャベルで穴を掘り出した。兵藤くんはそのあたりでめんどくさくなり、まあこれでだいじょうぶなようだと、家に帰った。

元妻が兵藤くんを訪ねて来たのは、それから何か月か後のことだ。

「あれ? あんた、あれはどうしたの? あれ」
「あれって?」
「私が持って来たあの苗木」
「ああ。あれは……いま公園にいるよ」
「公園?! どういうこと?!」
「いや、植物の世話ってむずかしそうだし……」
「なんで公園に? なんで? なんで?! 意味わかんない!」
「怒るなよ。だいじょうぶだよ、ちゃんと他の木といっしょに元気で暮らしているはずだから。それよりあの木、何の木なんだ?」

「何の木でもいいじゃない! 知らないわよ! そうじゃなくて、公園に持っていけなんて言わなかったでしょ、私! あんたにあげたのよ、あんたがさびしいかと思って。性悪女にふられていじけてたでしょ。あの女のせいで私たちが離婚することになったんだから私としてはどうでもいいわけだけど。でも、あんたのことが気になって、ちょっとでも心がいやされるかなと思って、あげたんじゃない、あの苗木を! なのに、なんで公園なんかに!」
「怒るなって。心配しなくていいってば! これからいっしょに行ってみよう!」

しかし、行ってみると件の場所に木はいなかった。

「どこなのよ」
「おかしいなあ」
「やっぱり、あんたってそんな男なのよ! なんでもいい加減で、やる気がなくて、めんどくさがりやでなげやりで、その場しのぎで、おまけにうそつき!」
「ごめん。いや、確かにここだったんだけど。うそじゃないさ」

兵藤くん自身もちょっとショックを受けていた。兵藤くんはあまりいろんなことを深く考えない。本気でだいじょうぶだと思っていたので。

しょげている元妻とコンビニに入って、一番高価な弁当を買った。それを持って帰って、ふたりで食べようとすると元妻は急にぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「どうしたんだよ」
「これ……きっと、あれよ。あの苗木がこれになっちゃった……」
妻はコンビニでもらった割り箸を手にして言ってるのだ。

「え、え? いや、そうかな? なんでこれがあの苗木だと思うんだ?」
「そんなこと、見ればわかるわ。私はあの苗木の母親……じゃないけど、あれを選んで、あんたにあげたのよ。あの木のことはよくわかってるわ! いま、このお箸を割ったとき、なんか感じたもん! 絶対、これがそうよ! あの子はこんな、こんな割り箸になっちゃったのよ! ひどい、あんたのせいで!」

元妻はわあわあ泣き出した。いったいそう思う根拠は何なのか、割り箸になるのは木としてそんなに不幸なのかどうか、いろいろ聞き出したいような、聞き出したくないような気持ちが入り乱れ、結果、兵藤くんはただその様子をぼんやり見ているだけだった。とりあえずタオルを探して手渡すと、元妻はさらに、手がつけられないくらい泣きわめいた。

さらにひと月くらい後。また元妻がやってきた。

「ごめんね、あれ、私の勘違いだった」
「あれって?」
「割り箸があの苗木だと思ったこと」
「ああ。そうなんだ」

別にたいして気にしていなかったが、聞いてほしそうだったので「なんで勘違いだったとわかったんだ?」と聞いてみる。

「あれから公園に行ってみたの。ひさしぶりだったし、ぐるっと全体をまわってみた。そしたら、あの木、いたのよ。あんたが言ってたとこじゃなくて、奥のほうの、池のそばに一本だけ、ぽつんと植わってた」
「えっ、そんなとこに。いや、でも……そのぽつんと一本だけ植わってたのがあの苗木だと、どうしてわかった?」

「ふと見上げたら木の高いところに何かクリーム色のものが見えたの。もう、10メートル近くもある大きな木になってて、葉っぱもすごく茂ってるから目立たないんだけど、たまたま見えたのね。で、何だろうと思って、持ってたデジカメの望遠で撮ってみたら。ほら」

元妻はコンパクトデジカメのモニタ画面を見せた。そこに写ってるのはマーガリンの容器の蓋にマジックで書いて、ポット容器に突っ込んだものだった。

「わけあって育てられません。よろしくお願いいたします。hiroshi1018って、こんなとこにハンドルネーム書く?! それもしっかり誕生日までわかるような」

兵藤くんは目をまんまるにしてしばし見入った。確かに自分の書いたものだが、それが木の幹に。おそらくは急激な成長の過程で、木がマーガリン容器の蓋を巻き込んでしまったか。そういえば、木の幹にフェンスが食い込んでいる、いや、木がフェンスを巻き込んでる写真を見たこともあった。木というやつは時にそういうことをするのだ。

「もしもし、○○市の公園管理課さんでしょうか」
「はい、そうですが」
「あのう、○○公園の奥のほうの、池のそばに最近、大きな木が植えられている、とかいないとか、その、まあ、うわさで聞いたんですが。いや、あの、別に、ちょっとお聞きするだけなんですけどもね」
「ああ、あの木ですか」

電話の向こうの男は、軽く舌打ちした。回転式チェアの動く、ぎいという音がする。

「もとは別のところにあったんですが、あっというまに信じられないくらい大きくなって、住民から『まわりの木がかわいそうだ』『なんだか不気味だ』という苦情が相次ぎましてね。中には『隣の木を殴ってるのを見た』という人もいて、いや、さすがにそれはないだろうと思いましたがね。ははは」

いや、ありうるぞ……。

「それで、とりあえず移植したんですが、でかいので大変でしたよ……そもそも、過去にあんな木を植えたという記録もこちらにはないし、何の木なのかも皆目わからないんですが……。ひょっとして、あなた、あの木に心当たりが?」
「いいえ、とんでもない! 全然知りません!」

兵藤くんは思い切り否定して電話を切った。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
http://midtan.net/

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梅田でポケGOをやってみたらさすが都会。短時間のうちに3回もレイドバトルができて、しかもあっという間に勝った。地元ではこうはいかない。それに、みんなミュウツーとかグラードンを普通に持ってるんだ。ドサイドンなんか出してる自分があわれ……。


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■ローマでMANGA[140]
マンガ学校中間考査と三人の先生

Midori
https://bn.dgcr.com/archives/20190314110100.html

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●中間考査(ディアナ編)

2月末から3月にかけて、マンガ学校は中間考査の季節に入る。中間考査には副校長か、教務課長の出席が必須。体は二つ、クラスはたくさんなので、どうしても中間考査の期間が長くなる。

我がユーロマンガコースは、副校長が担当してくれることになった。副校長は校長の娘で、昨年12月の誕生日で40歳を迎えた才媛。批評家の目を持ち、実に的確な読みをする。

本来、中間考査は担当主任講師(私)と副校長か教務課長の二人で行うのだが、ユーロマンガでは三人だった。

前回のテキストで、同僚だった講師がペドフェリア的な絵をインスタグラムに投稿したことをきっかけに、結局、学校を辞めざるを得なくなったことを報告した。彼の後釜として、校長以下関係者一同の賛成で、かつて私の教え子だったディアナ嬢が入ることになった。

ディアナは生徒だった時に三年間満点を取り、奨学制度で一緒に東京を旅行した。超絵が上手いのだけど、不運が重なって彼女のオリジナルでの出版に至っていない。不運だけではなく、彼女の自己信頼の欠如から来る完璧主義も災いしてると思う。

例えば、ゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクタデザイナーさんが、イタリアのフェアに招待された時に、ディアナは会いに行ってスケッチブックを見せた。

そのお方はいたく感心して、何枚も彼女のスケッチを写真に撮り、東京に来ることがあったら連絡しなさいと言い残されたのだ。

私はすぐに行くべき! と言ったのだけど、喜びながらも大いに不安に駆られたディアナは「ちゃんと見せられるポートフォリオを作ってから行く」と言って、一年の期間を置いてしまった。

その後、東京へ会いに行ったけど、そこから何も生まれていない。すぐ行ったら何か変わったかどうかはもちろんわからないけれど、ディアナに対する興味がまだ新鮮なうちに行くのと、そうでないのとでは与える印象も違ってくると思う。

一緒に講師を始めるようになったら、なんとか彼女の余計な不安を取り除いていけるような機会になれたらいいな、と思う。

自分を売り込むのに自信のない彼女だけど、かなり勉強してる人で、文化的教養が広い。マンガ、manga、アニメ、ゲームはもちろん、それにとどまらない。

三年間30点を取る、というのは並大抵ではない。それに到達する人というのは向上心がずば抜けている、という共通点がある。

幅広い視覚伝達の知識、眼識から、作品の良いところ、残念なところを的確に突いていった。

●中間考査(ジョルジャ編)

副校長のジョルジャは、かなり「受信機」が発達してる人で、彼女に中間考査を見てもらえる生徒は幸せだと思う。

時間がかかっても面倒がらずに、生徒の作品を丁寧に見ていく。そして、たとえ技術的なレベルが高くなくとも、やる気のある生徒には、そのやる気に応えて、いいところを引き出そうとする。また、その生徒が目指していそうなスタイルの参考になりそうな作家をポンポンあげて、参考にしたら? と示唆を与える。

目の前の作品の出来がどうであるか、という評価より、さらに向上するためにはどうしたら良いかというサジェスチョンをする。

ジョルジャとディアナの考査は、生徒にとって良い刺激になる。

●中間考査(midori編)

生徒の中間考査は私の中間考査でもある。生徒が見せる作品は、私の講義の結果でもあるからだ。自分ではそのつもりはなかったけれど、かなり緊張していたと見えて、ただでさえトイレが近いのに輪をかけてさらに近くなった。午前中だけで5、6回は行った。

ジョルジャもディアナも私も、作品を見始めるとついついじっくり見てしまう。いい先生たちだね。

ほかのクラスがさっさと終わっていくのに、昼食時になってもまだやっと4人を終えただけ。残り10人。

別の日にしようかという案も出たけど、この日はなんと交通公共機関のストライキで、それが始まる前の8時半には皆学校に到着していた。そんな思いをしてきた子達をすげなく返すのも気がひける。

それで、頑張って考査を進めることにして、全部終わったのが午後8時。

来年も10人以上だったら、初めから2日に分けた方がいいんじゃなかろうか。あるいは午前と午後に最初から分けてしまう。もっとも、ストライキがあると移動できる時間が限られてしまうけど。

●中間考査(生徒編)

14人の生徒の中で、画力も分析力も物語を作る力もある生徒が4人いる。画力にちょっと欠けるけど、やる気があり、オリジナリティがある生徒が2人。同上でオリジナリティに欠けるのがひとり。

やる気はあるし、課題も全部やってくるけど、今まで何を習ってきたの? と言いたくなる生徒が4人。特に可も不可もないのが2人。欠席が多く、かといって休んだ分を取り戻そうという、気概が一向に見えない生徒がひとり。

できる生徒は、課題をこなすスピードも速く、全部きれいに仕上げて、考査へ持ってきて、見せ方にも気を使う。「製作する」ということの考え方の基本がわかっているので、こちらのサジェスチョンの飲み込みも的確。つまり、ちゃんと通じている、というのがわかる。それで、さらに上達していくのだ。

困るのがそれ以外の生徒たち。一番困るのが最後のひとり。欠席が多い生徒だ。課題を全部持ってこなくて、なんだかんだと言い訳ばかりで、建設的な要素がかけらも見られない。金八先生が必要なのだろうけど、どうしたらいいのか、実際のところわからない。

可もなく不可もない、というか、ある種のことはできて、でもそれだけにとどまっている女生徒は、迎えに来ていたおじいちゃんが「朝早くから待機してるのにまだ終わらないのはどうかしてる」と怒鳴る声を聞いて、明らかに動揺していた。

せっかくのジョルジャのサジェスチョンをうわの空で聞いて、反応しない。家族の大人の男の怒声に怯える経験は、私にもあって気持ちはよくわかる。私はその彼女の怯えに入って行くべきなのか、それはそれ、と置いておいた方がいいのか、困惑中。

できる生徒の中にも、もう大丈夫! という生徒ばかりではない。すっかり出来上がってまとまってしまって、先へ進む気概が見えない生徒もいる。

やる気がない、という意味ではなくて、「作家」としてそれ以上の進展を、この歳でやめてしまってる。自分のスタイルを見つけたのはいいけど、なんというか、描き慣れたからそれがスタイルになった、という感じ。哲学がない、と言ったらいいのかな。

画力はあるので、しつこくあちこちに見せまくればちらほら仕事にはありつけると思う。まぁ、ちんまりとまとまって、つつがなく生きるのも悪くないけど、そこへはもうちょっと後で到達してほしい。まだ20歳前半なのだから、色々冒険してほしい、と先生は思う。


【Midori】
マンガ家/MANGA構築法講師/イタリアの畜産における動物虐待精通者

いやー、まいったまいった。ガイドやら通訳やらの仕事をくれる会社からの依頼で、「EU指令の動物保護に関するイタリアにおける処置(法律にしているのか。実態はどうなっているか)」の調査を仰せつかった。

ほぼネットでの調査でどうにかなる、ということで受けた。たしかにどうにかしているけど、法律用語なんてイタリア語も日本語もわからない。お陰で脳みそがオーバーヒート中。

政令を読み解いていったり、その理解のために動物保護団体の抗議的ビデオを見たりすると、人間に食べられるために飼育されている動物の哀れな実態を知ることになって、なんだかなーと考えてしまう。

だからといって、菜食主義者になろうとは思わないけれど、例えばスーパーの中でもCOOPは、動物保護の政令に従っている畜産業者から肉、卵を仕入れているのだと知った。ほかのスーパーより割高だけど、消費者の方も値段ばかり見てないで、そうやって応えて行かないと虐待はなくならないだろうなと思った。

試しにCOOPで、鶏の手羽を買ってみた。いつものスーパーより高い値段で。ジャガイモと一緒に塩胡椒、ローズマリーでオーブン焼きにしたら、たしかに美味しかった。抗生物質漬けで育ったブロイラーの臭みがないし、肉がプリプリしていた。

[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/


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編集後記(03/14)

●東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死罪で強制起訴された東電の旧経営陣3人の第37回公判が3.12に結審した。起訴状では「3人は10メートル超の津波襲来を予見できたのに漫然と原発の運転を続け、事故を起こした」としてそれぞれ禁錮5年を求刑していた。いやはやトンデモお粗末魔女裁判である。

最終弁論の要旨をさらに要約。

……巨大津波による原発事故を予見できなかったのは明らかで、3人は無罪だ。東日本大震災の規模は地震学者でもまったく想定できなかった。津波水位の15.7メートルは敷地南側の試算であり、実際には、津波は東側から来襲した。試算結果に応じて防潮堤を設置するなどしても結果を回避することは不可能だった。津波来襲の予見は到底不可能である。社外の専門家から、すぐに対策工事をするべきだとの指摘はなく、「問題の先送り」との主張は誤りだ……。

検察官役は、震災前に原発を停止すれば事故を防げたと主張したそうだが、電力会社は電力の安定供給の義務を負う。停止には具体的な根拠が必要だ。検察官役が“たられば”を用いるなんてお粗末至極。

「業務上過失致死罪の成立にはまず、巨大津波を『予見』できたうえで結果を『回避』できたという立証が必要だ。3人共通の主張(最終弁論)の津波の予見可能性、事故の結果回避可能性、因果関係のなさを考えれば、無罪はあきらかだ」と書くのは産経、と思ったら朝日(吃驚)。社説に書いたのは産経のみ。

産経の「主張」は、安倍政権へのまっとうな批判だ。「いつまでも原発に否定的な世論におもねり基本政策との矛盾を糊塗するのか。事故から8年を経た今、現実的かつ冷静に原子力政策を進めるべきだ。このままでは国がかかげる2030年度の原子力比率20〜22%の確保もおぼつかない。ひいては地球温暖化防止のパリ協定で日本が約束した温室ガス効果26%削減もおぼつかない。

原子力行政に望まれるのは、日本が資源小国の島国であるというエネルギー地政学を念頭におきつつ、安全性を高めた原発の活用に取り組むバランス感覚である」と書く。民主党時代に設置された独立性の高い三条委員会「原子力規制庁」には警戒せよとの記述もある。ところが、1月1日に行った年頭会見で、経団連の中西宏明会長が、なんと「日本の原発はもう無理」と発言していた。

「東日本大震災から8年が経とうとしているが、東日本の原発は再稼働していない。電力会社が利益を上げられていない商売で、ベンダーが利益を上げるのはすごく難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をすべきだと思う。全員が反対するものを、エネルギー業者や日立といったベンダーが無理に作ることは、民主国家では、ないんですよね」とかいう、ヤバすぎる内容。お屠蘇気分か?

ではなく、本音だったそうだ。この「経団連会長の反乱」の原因は日立が中心で進めてきた英国への原発輸出計画が失敗したからであろう。といった大事件をきちんと伝えたのは東京新聞のみで、マスコミはそろって中西発言は報道されず、「なかったこと」にされてしまった、と「高野孟のTHE JOURNAL」にある。日本国民の多くの意向は「脱原発」のようだ。日本危うし……。(柴田)


●「hiroshi1018」に爆笑した。先にIDが取得されていた時の候補に、誕生日が出てくるようなネットサービスがあったけど避けてたなぁ。

/「カメラを止めるな」続き。非日常っていうのは、ゾンビってことじゃなくて、等身大の人たちが幕が上がった途端に、観客席と違う世界を演じている、あの感じ。急に役者さんたちが、はじめちゃう。

こちらはセリフを聞きつつ、いろいろなことを理解していく。登場人物の年齢や性格、職業や育った環境、時代、国、季節、場所……。

映画だと映像でねじ伏せることができるし、予算のある商業演劇なら大がかりな大道具はあるけれど、そうでなければ、据え置きのジャングルジムが、シーンによって城や山や部屋の壁として扱われていたりする。一本のロープが、一枚の布が、ひとつの照明が、等々。

「この階段は3段しかありませんが、とてもとても長い階段で、観客席から見えない奥は絶壁なんですっ」というのを観客が想像力で補完する。続く。(hammer.mule)