[4854] 動物小説の面白さを知った◇「無変換」「変換」キーの謎

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《戸惑うキーボード》

■日々の泡[016]
 動物小説の面白さを知った
 【荒野の呼び声/ジャック・ロンドン】
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[623]
 「無変換」「変換」キーの謎
 吉井 宏




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■日々の泡[016]
動物小説の面白さを知った
【荒野の呼び声/ジャック・ロンドン】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20190904110200.html

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「馬に乗った水夫」(アーヴィング・ストーン著)というジャック・ロンドンの伝記を読んだのは、中学生の時だった。当時、定期購読していた「ミステリマガジン」に短期連載されていたのだ。後に早川書房から単行本にまとまった。

小学生のときには「キューリー夫人」とか「エジソン伝」といった偉人伝のような子供向けの本をいろいろ読んだけれど、特に偉人でもない小説家を取り上げた本格的なバイオグラフィ(伝記)を読んだのは初めてだったし、アメリカでは伝記作家という存在が成立するのだと知った。

しかし、「馬に乗った水夫」がジャック・ロンドンの伝記でなかったら、僕は読まなかったかもしれない。「ミステリマガジン」を定期購読していたのは、ミステリを読みたかったからで、ノンフィクションには馴染みがなかったからである。しかし、当時の「ミステリマガジン」は、ミステリ以外の作品やコラムが充実していた。編集長だった常盤新平さんの方針だったようだ。

僕は小学生で「荒野の呼び声」と「白い牙」を読み、ジャック・ロンドンという名前を記憶していた。後に原題が「The Call of the Wild」と知り、物語の内容からすれば「野生の呼び声」という邦題の方がニュアンスを伝えていると思ったけれど、僕の小学生の頃は「荒野の呼び声」というタイトルが一般的だったと思う。

「荒野の呼び声」は、僕が初めて読んだ動物小説だった。飼い犬だったバックがさらわれてソリを引く重度労働に従事させられたり、様々な人間と出会い苦難に充ちた経験をし、やがて「野生の呼び声」によって荒野へ帰っていく物語だった。荒野で遠吠えをするバックの孤影を、僕は鮮明に浮かび上がらせた。

狼と犬の間にできた「白い牙」と呼ばれる犬の物語の舞台は、ゴールドラッシュに湧くアラスカだった。狼の血を引く「白い牙/ホワイト・ファング」は猜疑心の強い子犬だったが、原住民に拾われ、強いソリ犬のボスに育つ。やがて白人に買われ、闘犬に出されるようになり、無類の強さを誇る。

しかし、闘犬のために育てられたブルドッグと対戦して重傷を負い、瀕死のところを判事の息子に救われる。初めて心優しい人間に出会った白い牙は、判事の家の忠実な番犬になる。これは「荒野の呼び声」とは逆で、猛々しい野生の狼犬から幸せに暮らす飼い犬になる物語だった。

「白い牙」で印象に残ったのは、「片目」と名付けられた父親の狼である。過酷な荒野の生活を送ってきた片目は、右の目がつぶれている。犬のキチーとの間に白い牙を含めて五匹の子を為し、オオヤマネコと戦い死んでいく。

「片目」は、「シートン動物記」の「狼王ロボ」を僕に連想させた。ただし、僕が読んだのは、「シートン動物記」を白戸三平がマンガにしたものである。1961年から1964年にかけて、僕の小学4年生から中学1年生のときに発表されたマンガだった。

その頃、金曜日の夜8時から一時間、日本テレビ系で三菱電機提供による番組枠があった。そこではプロレス中継と「ディズニーアワー」が隔週で交互に放映されていた。小学生たちはもちろんプロレスに熱中したけれど、僕はどちらかと言えば「ディズニーアワー」の方が楽しみだった。

その「ディズニーアワー・冒険の国」の回で、映像化された「白い牙」が放映された。そのときの映像を、僕は今でも憶えている。檻の中に入れられて吠える主人公の狼犬。過酷な労働をさせられ、闘犬シーンでは牙を剥いて戦った。犬の目には、人間たちは己の欲望だけに生きているように見える。

ということで、僕はジャック・ロンドンという作家に強い興味を持っていたのだった。「馬に乗った水夫」を読んだ僕は、ジャック・ロンドンが極貧に生まれ、幼い頃から働き、やがて水夫になり、そんな経験を経て社会主義者となったことを知った。

1876年生まれのジャック・ロンドンは、マルクスとエンゲルスの「共産党宣言」に共感し、1901年にアメリカ社会党に入党する。1903年、27歳のときに「荒野の呼び声」を発表し、流行作家となった。以降50冊以上の著書を残したという。

ちなみに数年前、僕は書店で柴田元幸さんが翻訳したジャック・ロンドン著「火を熾す」を見つけ、久しぶりに彼の短編を読んだ。村上春樹さんもジャック・ロンドンの「To Build a Fire」にインスパイアされた短編を書いている。

さて、ジャック・ロンドンは20世紀初頭のアメリカで社会主義者だったから、ウォーレン・ベイティが監督主演した「レッズ」(1981年)にジャック・ロンドンが出ていたと、ずっと僕は錯覚していた。「レッズ」は、二十世紀初頭のアメリカでコミュニストとして生きた人たちを描いていたからだ。

「レッズ」(赤たち、つまり共産主義者たち)は、ロシアのヴォルシェビキによる十月革命をルポした「世界を震撼させた十日間」を書いたアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・リード(ウォーレン・ベイティ)を主人公にした物語だ。映画のラスト・クレジットでは重厚な「インターナショナル」が流れる。

しかし、「レッズ」にはリードの友人である劇作家ユージン・オニール(ジャック・ニコルソン)は登場するが、ジャック・ロンドンとは少し時代がずれている。ジャック・ロンドンは、ロシア革命以前の1916年に死んでいるのだ。モルヒネを飲んでの自殺だという。40年の生涯だった。

ジャック・ロンドンの代表作は、何度も映画化されている。「シーウルフ/海の狼」「野生の呼び声」「白い牙」などである。ケン・アナキン監督でチャールトン・ヘストンが出た「野生の呼び声」(1972年)や若きイーサン・ホークが出ていた「ホワイトファング」(1991年)を僕は憶えている。


【そごう・すすむ】
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■グラフィック薄氷大魔王[623]
「無変換」「変換」キーの謎

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20190904110100.html

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Windowsでスペースバーの左右にある「無変換」と「変換」キーが、Macの「英数」「かな」キーのように使えるようになるらしい。

「半角/全角」キー不要に? WindowsのIME切り替えがMac方式に
(IT media NEWS)
https://bit.ly/2ZudLhZ


ずっと不思議だった。「半角/全角」キーがMacの「英数」「かな」に相当するのは理解できるんだけど、なんであんな変な位置にキーがあるのか? って。普通に素直に考えて、「変換」「無変換」キーでIME切り替え出来なきゃおかしいよなあ。

キーボードが非対応なのかなあ、壊れてるのかなあ、とか思ってたもん。ようやく、自然な操作で切り替えできるようになるのはうれしい。

じゃあ、「変換」「無変換」キーって何なの? どうやって使うの? と思ったら、元々の機能は他のキーに取って代わられてて、基本的には使わない過去の遺物だそう。Macのように「英数」「かな」として使えるようにするのは、正しい進化と言えそう。
https://cancam.jp/archives/499058


3ds Maxを使わなくなって以来、Windowsは仮想環境も含めてほとんど使わなくなってるけどね。VR用にゲームマシンを買う予定なので、近々Windowsを再び使うようになるはず。

あ、ATOKを使わなくなってMac日本語IMEに移行したから、Windowsでも標準日本語IMEを使うことになるわけか。慣れられるかなあ。

そういえば、92年にMacintosh IIciを入れ、97年に新しいMacを買うまでの5年間、IME切り替えは「command+space」でやってた。旧キーボードには「英数」「かな」が無かったから、Macを新調したときにはキーボードに戸惑った。

「command+space」で覚えて5年も使ってたので、「英数」「かな」キーの切り替えはスピードを削がれる感じがして、しばらく慣れなかったな。

「command+space」は今どちらのモードか、上のアイコンを確認するか打ってみるまでわからないので、押せば確実に切り替わる「英数」「かな」のほうが便利なのは確かだった。

今やってみたら、「command+space」切り替えってできなくなってるのね! しばらく前はできたはずだぞ?

調べてみたら、El Capitanから「control+space」で切り替えるように変更されたとのこと。やってみたけど、あれ? 切り替わらないなあ。

さらに調べると、「control+space」が効くようにするには、「システム環境設定→キーボード→ショートカット→入力ソース→前の入力ソースを選択をチェック」しないといけなかった。ここで「command+space」にも変更可。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


梅雨前から8月前半まで、用事であちこち出かけたりバタバタしてた。ようやく落ち着いていろんなことができるぞ。と思ったらもう9月。気分的には2週間後に夏本番到来、って感じなんだけどなあ。

◯Studio City Macauのデコレーション展示中
https://bit.ly/30olPNF


○吉井宏デザインのスワロフスキー、7月半ばに出た新製品4つ。

・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


・HOOT HAPPY HALLOWEEN 2019年度限定生産品
https://bit.ly/2JZVVcm


・SCS ペンギンの赤ちゃん PICCO
https://bit.ly/2JStbC4


・SCS ペンギンのおばあちゃん
https://bit.ly/2YbmnJ7



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編集後記(09/04)

●偏屈読書案内:高橋洋一「この数字がわかるだけで日本の未来が読める」2

少し前まで、大阪市と大阪府は犬猿の仲にあったが、日本維新の会コンビになってから両自治体の協力体制がうまく機能している。2020年度のIR区域認定、2024年度のIR開業、2025年度の大阪万博開催というスケジュールの実現に向けて足並みを揃えている。万博誘致に成功したのはオールジャパンの勝利である。

高橋先生は大阪万博開催の経済効果を数字で示す。1970年の万博開催が、大阪の都市開発の大きな原動力になった。なかでも都市交通網の整備は著しく進んだ。2025大阪万博の会場は、大阪市の最西端にある広大な未開発地域・夢洲で、3.9km2の殆どが更地である。大阪万博は、いままで大阪の負の遺産とされた、この忘れられたような場所を有効活用する、捲土重来のチャンスというべきだ。

数学が天敵のわたしは、色々な数字を出されても困惑するが、「万博をプロジェクトとして見れば、0.2兆円の投資費用で2.6兆円の便益があるという計算式が成り立つ」と言われるとよく分かる。これは滅多にない優良案件で、多少費用が増えても、入場者数が減ったとしても「投資する価値がある」という結論に変わりはない。それでも心配な人は、万博の仕組みを考えればよい。

万博は出展者である各国が、費用持ちでやってくるのだ。この種のイベントは、主催者が儲かるのは当たり前だ。最初から大阪万博に反対する人たちは、誘致が決まっても批判を続けている。多くが左翼系の文化人である。彼らは、もし誘致に失敗したときは大喜びで「誘致活動に金がかかった」ことに文句を言うつもりだった。誘致が成功してしまったことで、あてが外れて残念でした。

批判の中には、試算はあてにならない、外れるものだと、頭から決めつけている意見もある。産業連関分析、あるいは投入産出分析と呼ばれるこの手法はそれなりの信憑性があるものだ。元大蔵省の数学の天才・高橋先生の言うことだから間違いはあるまいと確信する、数学敗残者の元高橋君であるわたしである。

そしてまた堂々たる(てへっ)年金生活者である。色々わけありで、給付額は決して多くない。出生率と経済成長率に左右されるという給付額だが、先行きを不安視してもしょうがない。重要なのは、年金が「保険制度」であることだ。保険料を支払う人が減れば、そのぶんだけ給付額も減るように自動調整される。

したがって、「人口減少で年金制度が破綻する」という主張は、年金制度を正しく理解していない人の戯れ言のようなものだ。また、年金制度を「保険」ではなく「福祉」だという、トンデモおバカな誤解も広まっているらしい。誤解してもらったほうが好都合な人たちが存在するからだ。とくに財務省である。

社会福祉は保険料でなく「税金」でまかなう。年金制度への不安が高まれば、破綻させないためには消費税が必要という曲解が流布する。高橋先生は役人時代に「年金定期便」の制度設計を企画し、発行にかかわった。そこに書かれた年金支給額の見込み数字が、大きく裏切られたという話は一切ない。その数字を見れば、年金財政が絶対に破綻しないということが理解できる。(柴田)

高橋洋一「この数字がわかるだけで日本の未来が読める」2019 KADOKAWA
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4046041676/dgcrcom-22/



●試算通りになればいいなぁ……。これで大阪の財政が良くなるといいなぁ。

/レジ話続き。納得いかないわ〜、そんなレジある? スーパーのおばちゃんらの方が、目的・ゴールに向かって臨機応変に動きはるで〜、と愚痴る。

すると家人が「一番あかんのは、次のお客さんの対応した子やな」と。「面倒になりそうと思った途端、これ幸いと離れていってんけど、お客さんから一番遠いところにおってん。あれはずるいな」。え、そんなことが?

そうよねぇ、三人もいれば、困ってる子に声かけるよねぇ、一緒にやり方探すよねぇ、と話したら「全員コードを使うレジに慣れてなかったんちゃう?」と。

え、ピッ、やん。取り消しはレジのボタンのどこかにあるやん。探せばいいだけやん。たぶん目立つように色ついてるはずやで。え、全員出来ないってこと?(hammer.mule)