[5041] 大林宣彦監督のこと◇「缶塗料ベタベタ回避の驚愕の工夫」など

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《ベタベタ作業がしたくなってきたぞw》

■日々の泡[036]
 大林宣彦監督のこと
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[661]
 「缶塗料ベタベタ回避の驚愕の工夫」他、小ネタ集
 吉井 宏
 



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■日々の泡[036]
大林宣彦監督のこと

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20200701110200.html

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大林宣彦監督は、今年四月に亡くなりました。以下の文章は、それ以前に三重県で出ている映画同人誌「シネマ游人」8号に寄稿したものです。柴田さんにも関係する昔の思い出を書いているので、こちらにも再録させていただきます。


僕が昭和五十年に就職した出版社は玄光社といい、昭和六年の創業で名付けたのは北原白秋だった。「玄」には「クロ」や「漆黒の闇」という意味があり、つまり「闇と光の会社」である。写真関係の書籍出版を行う会社だったので、そう名付けたのだ。

戦後、株式会社になり、僕が入社した頃には「小型映画」と「コマーシャル・フォト」という月刊誌を出していた。写真業界や広告業界ではよく知られていた「コマーシャル・フォト」だったが、一般的な知名度はなかった。ただ、広告はよく入ったので社内の稼ぎ頭ではあった。

その「コマーシャル・フォト」がテレビCMを扱い始めたのは、僕が入社する数年前のことだった。杉山登志が「リッチでないのに リッチな夢など描けません」という有名な遺書を残して自殺した頃のことである。

杉山登志は、CMディレクターとして天才と言われた人である。図書館にいた少年が美しい年上の女性に憧れの視線を向ける資生堂のCMは、後々まで語り継がれる作品となった。その頃、CMディレクターが花形の職業としてスポットライトを当てられていた。そのひとりが大林宣彦さんだった。

僕が入社してすぐの頃、「コマーシャル・フォト」でCM部門を担当していた先輩が、ある日、「大林宣彦特集」を準備しているのを知った。僕は「大林さんに会いたいなあ」と先輩に言ってみたが、取材には同行させてもらえなかった。当時、大林さんは百恵・友和の製菓会社のCMなどを撮っていたと記憶している。

大林さんは、アラン・ドロンを使った「ダーバン」のCM、「さらば友よ」でブレイクしたチャールズ・ブロンソンを起用した「マンダム」のCMなどで注目された人だった。初期のCMに「レナウン・イエイエ娘」があるが、これはプランナーに電通の今村昭さんが加わっている。今村さんは映画評論家・石上三登志(石の上にも三年)として活躍した人である。

さて、大林さんは自主映画の先達としても注目された作家だった。「EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ」(1966年)は、僕の高校生の頃には伝説の自主映画として八ミリ少年の夢を刺激したものだった。当時、大林宣彦、高林陽一、飯村隆彦の三人が自主制作映画の世界で活躍していた。

月刊「小型映画」には単独主催の「全日本アマチュア映画コンクール」とユネスコと共催していた「国際アマチュア映画コンテスト」があった。そのコンテストに大林さんたちも応募していたらしい。

僕が「小型映画」編集部に配属になった頃は自主映画界が盛り上がっていた時で、後に商業映画の世界に進出する若者たちがいっぱいいた。大森一樹、森田芳光、石井聡互、長崎俊一、黒沢清、松岡譲司、犬童一心などである。

大林宣彦さんは「小型映画」とも深い関わりがあったのだけど、僕が初めて会ったのは、たぶん「ねらわれた学園」(1981年)の撮影現場を取材したときだった。

「HOUSE ハウス」(1977年)で商業映画に進出したときには、「大林組」だったので「最近じゃ土建屋が映画を撮るのか」とスタッフに嫌みを言われたそうだが、その後、「ブラックジャック」の実写版「瞳の中の訪問者」(1977年)や百恵・友和の「ふりむけば愛」(1978年)を経て、人気絶頂だった薬師丸ひろ子のアイドル映画を撮る監督になっていた。

取材のときに驚いたのは、大林さんのあまりにもやさしい言葉と態度だった。あんなにやさしい話し方をする人には、その後も僕は会ったことがない。この人は声を荒げることがあるのだろうか、と僕は思った。

その取材の後、僕は親子対談という企画を立ち上げ、一回目に羽仁進監督と羽仁未央さんに出てもらい、二回目に大林宣彦監督と大林千茱萸さんにお願いした。手塚真くんと手塚治虫さんには「恥ずかしいから」と断られた。

大林父娘の対談は大林家の近くのレストランで行われたのだが、大林さんは娘に対しても大変丁寧でやさしい言葉遣いをした。この人は普段でも家庭でこんな風に話しているのだろうか、よほど育ちがいいのではないか、と育ちの悪い僕は思った。

その後、何度も大林さんの発言を聞く機会があったが、大林さんの丁寧すぎるのではないかと思える話し方は変わらなかった。ただ、僕は大林さんの作品が苦手だった。

劇場映画第一作の「HOUSE ハウス」とはまったく噛み合わず、取材した手前しかたなく見た「ねらわれた学園」も途中で出ようかと思ったほどだった。CMのセンスと劇映画の監督業は違うんだな、と僕は思った。

しかし、数ヶ月後、大林さんの事務所から一本の電話が編集部にかかってきた。「今度、作る映画の主人公が八ミリ少年という設定でして、彼の部屋の本棚に『小型映画』を二年分並べたいんです」と相手は言った。

僕は編集長の了承をとり相手に連絡すると、翌日、助監督らしき青年が「小型映画」二年分を受け取りにきた。僕が「何て映画ですか」と訊くと、彼は「『転校生』と言います。男の子と女の子の体が入れ替わっちゃう話です」と答えた。

半年ほど後のこと。試写状をもらって出かけた僕は、映画が終わってもしぱらく席を立てなかった。「転校生」(1982年4月17日公開)は傑作だった。「大林さん、せつない映画を創りましたね」と、僕は監督のやさしそうな顔を浮かべてつぶやいた。


【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
http://sogo1951.cocolog-nifty.com/

「映画がなければ生きていけない」シリーズ全6巻発売中
https://www.amazon.co.jp/%E5%8D%81%E6%B2%B3-%E9%80%B2/e/B00CZ0X7AS/dgcrcom-22/



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■グラフィック薄氷大魔王[661]
「缶塗料ベタベタ回避の驚愕の工夫」他、小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20200701110100.html

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●オリンパスのショートアニメ

オリンパスがカメラなど映像事業を売却だそうで。カメラにほとんど興味のない僕的にオリンパスといえば、2007年のショートアニメ制作。ネット上の短編映画祭「CON-CANムービーフェスティバル」を協賛していたオリンパスから、短編映画といっしょに配信されるムービーの依頼が来たのだった。

5人のアーティストがそれぞれ3本の30秒のショートアニメを制作。冒頭にオリンパスのロゴを入れるのと、オリンパスが扱う光学機器を登場させられたらベター、というゆるい感じ。以前からやってみたかった「トムとジェリー」みたいなドタバタを考えた。

モデリングはModo、アニメーションは3ds Maxを使用。プラグインCharacter Animation Toolkitのおかげで比較的ラクにモーションは作れた。グローバルイルミネーションを使えるようなPC環境じゃなかったから、ライティングは単純で、ちょっと古く見える。

小鳥やサルの声は、2005年にデモ用アニメーションを作ったときにもお願いした声優事務所の声優さん。「ピピピピ、キーキー」変な声ばかり頼んで申し訳ないw クマの声は自分でやった。ブルーグラス風の音楽も自作。

「Bekuma Bear ep1 - 3」




秋元きつねさんも5人の一人で、「Bekuma Bear」を見て連絡をくれたのがきっかけで「ヤンスガンス」のキャラクターデザインに繋がったのだった。
http://www.yoshii.com/dgcr/OLYMPUS-concan
http://meatordie.com/


このアニメ制作について書いたテキストないかなと検索したら、この連載に4回に渡って詳しく書いたのだった。

「ショートアニメ制作顛末1〜4」
https://bn.dgcr.com/archives/20070411140200.html

https://bn.dgcr.com/archives/20070418140100.html

https://bn.dgcr.com/archives/20070425140200.html

https://bn.dgcr.com/archives/20070509140100.html


すっかり忘れてた実際の制作が、めちゃくちゃ詳しく記録されてる。MacBook ProのBootcampで3ds Max使ってたんだ! びっくりw 13年前ってけっこう昔なんだなあ。

●缶塗料ベタベタ回避の驚愕の工夫

おおおお! すごい! 缶の塗料をベタベタにならずに、すっきり注げる目ウロコの工夫。テープを貼って折り曲げるだけ。終わったら剥がしてポイ。

GIFアニメ
https://www.gif-vif.com/gifs/Such-a-nice-trick/


シリコーンの缶やレジンとかの、小さいパッカン口でも応用できそう。ベロがついてても、缶上部にこぼれまくるのがイヤでしかたなかった。

この方法でやれば、樹脂とかベタベタ系の作業のイヤさの半分がなくなりそう。っていうか、使い捨てゴム手袋の快適さを知ったら、作業のイヤさが半分になったことがあるので、最初の4分の1のイヤさに。ベタベタ作業がしたくなってきたぞw

これをFacebookでシェアしたら、132件もシェアされて感動のコメントが続々wみなさん同じように困ってたんだなあ。織田隆治さんによれば、プロの間では知られてる方法だそう。

●Procreateにショートカットが!

iPadにたまたまキーボードを繋いでたとき、押してしまったSpaceバー。そしたら、Procreateで左右反転やコピーなどのメニューが出た! もしかしてと試すと、Bでブラシ、Eで消しゴムなど、キーボードショートカットがちゃんとあるのね〜!

AstropadでPhotoshopを使うときには、普通にショートカットを使ってるけど、Procreateではジェスチャーのみで使ってた。まあ、iPadはなるべくキーボードなしで使いたいと思ってるけど、そうもいかなくなってくるかな。

参考
https://yossense.com/procreate-keyboard-shortcut/



【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://www.yoshii.com/dgcr/blueimpulse-IMG_2672

macOS Big Surが発表。iOSっぽいUIデザインは、非MacユーザーでiPhoneを使ってる人にMacを親しみやすくする効果はあるだろうけど、どうせならMacの画面もタッチ操作できるようにしてくれないと。マルチタッチとApple Pencilが使えるMacBook ProやiMacを待望! ってタブレットPCの頃から20年も言ってるw

「Apple、美しい新デザインのmacOS Big Surを発表」
https://nr.apple.com/d2C4Y0c6r1


◯ウォーキングアプリ「STEP ISLAND」

ミクシィのゲーム感覚ウォーキングアプリ「STEP ISLAND」(現時点でiPhoneのみ対応)。歩き回るキャラクターを数十匹提供してます。6月初旬にアップデートされ、キャラも増えてます。

App Store  https://apps.apple.com/jp/app/id1456350500

公式サイト https://stepisland.jp


○吉井宏デザインのスワロフスキー

・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X


・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV



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編集後記(07/01)

●偏屈BOOK案内:辛坊治郎「日本再生への羅針盤 この国の『ウイルス』を撲滅するにはどうしたらいいのか?」

辛坊治郎は関西発の報道情報番組の司会、ニュース解説などで幅広く活動している。埼玉県では見られない。だから辛坊治郎の思想や行動は本で知るしかない。なぜかこの関西人の時評が好きで、何度か紹介してきた。「FRASH」で連載中の「辛坊治郎のニュース食い倒れ!」をもとに書籍化したのがこれだ。

PART1/政治・経済編で6本、PART2/社会・事件編で9本、PART3/海外・外交編で8本、年金・医療編で7本の記事が並ぶ。これからの日本で、一番不安なのはやはり少子高齢化問題だ。現代日本が抱える問題の核心といっていいのかもしれない。統計的に確定するのは2020年9月だが、2019年末の推計によれば2019年1年間に生まれた子供の数が、どうやら90万を切ってしまったようである。

86万人程度か。今後ずっと年間86万人の子供が生まれ、日本国民全員が100歳ちょうどで死ぬという極端な未来予測をしても、100年後の総人口は8600万人にしかならない。算数に弱いわたしでもわかる。しかし、実際に、日本の将来の人口がどうなりそうかというと、8600万人どころかなんと5000万人くらいという予測だ。日本の人口が減ることで、困ることは何か。何が問題なのか。

それは人口バランスが安定するまで、日本のシステムが持つのかということ。まもなく危機が訪れる。いまでも高齢者の人口は激増しているが、2022年から団塊の世代が75歳になりはじめ、2025年には全員が75歳以上になる。さらに、2040年前後には、団塊の世代の子供たちの世代が退職する年齢に達する。

団塊の世代の子供たちはそれなりの数いるのだが、なぜかその子供、つまり団塊の世代の孫世代の人口が伸びず、2040年ごろに日本の人口バランスが「最悪期」を迎えてしまうようである。現役世代が高齢者と子供の医療・介護・年金を支える現在のシステム上、「最悪」に至るというしかないではないか。その「最悪」をどう乗りきればいいのか、果たして乗り切れるのか。

最も望ましいのは、いま予想されている人口バランスを覆すことだ。現役世代を増やせばいい。正攻法はいくらでもあるが即効性がない。そこで考えられるのは、現役世代が引退する年齢を遅らせ、その間の社会保険料と直接税の担い手になってもらうこと。いくつかの政策が動き始めているが、まだ不十分だ。

もうひとつの現役世代拡大策は、外国人労働者の受け入れだ。望ましいとは思えないが、背に腹はかえられぬ。受け入れの拡大が決められたが、うまく機能していないようだ。進み行く少子高齢化を解決するには、高齢者の医療・介護・年金の水準をより落とすか、現役世代の負担で高齢者の面倒を見るシステムを見直すことであるが、どちらも政治的にきわめて困難である。

迫り来る超高齢化社会に対する、有効な施策の実施が絶対に不可能なわけは、高齢者の票に頼る政治家を抱える日本の病理である。一番愚かなのは政治に関心を持たない若者、中高年、つまり現役だ。あなた達が高齢者になった時、医療・介護・年金の全ては機能不全を起こすだろう。自業自得なのかな。(柴田)

辛坊治郎「日本再生への羅針盤 この国の『ウイルス』を撲滅するにはどうしたらいいのか?」2020 光文社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334951473/dgcrcom-22/



●先週水曜日の続き。Apple Watchの手洗い回数カウントは、個人的にはいらないなぁ……。子供の時に習ったよね? 手洗いの順番。手の平、手の甲、指の間、爪、指、手首。あの通りにしていたら、秒数が多少少なくても綺麗になると思うんだよ〜。と検索したら、微妙に順番の違うイラストがずらり。

使っているApple WatchはSeries 2で、新機能のWatch OSへバージョンアップできず。新しいの欲しいなぁ。今でも十分だからすぐに買う必要はないけど、いずれ。購入したのは2017年6月、AppleCare+をつけた。不具合が出て、2018年11月に無償交換してもらっていた。

専用の文字盤デザインとドゥブルトゥールベルトが気に入って、エルメスのものにしたんだけど、文字盤は機能優先で別のものを使っているし、普段は家事やら何やらで、シリコンのスポーツバンドばかり。次は普通のでいいかな。

AppleCare+が3年になるのと、電話サポートが優先的なのとで、またエルメスにしたい気持ちもあったり、価値の上がるレガシー時計とは違うし、とか思ったりしている。series 6が出るとしたら9月か〜。(hammer.mule)