[5127] ポスターをつくるの巻/時代をひらく書体をつくる

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《20世紀後半の金字塔書体「ナール」と「ゴナ」》

■わが逃走[271]
 ポスターをつくるの巻
 斎藤 浩

■もじもじトーク[140]
 時代をひらく書体をつくる
 ~書体設計師の橋本和夫さん~
 関口浩之




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■わが逃走[271]
ポスターをつくるの巻

斎藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20201119110200.html

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たまにはデザインの話をしようと思う。いちおうデザイナーなんだし。

伊藤嘉朗建築設計事務所のポスターを制作した。

伊藤さんとのおつきあいは、かれこれ20年くらいになる。建築にまつわるオモシロイ話を、たとえるならよく晴れた秋の日の午前中に、あてもなく散歩するがごとく、そこはかとなく語ってくれる。

すると、知らず知らずに世の中への興味の幅が広がってゆくから不思議だ。

やはり、オモシロイ話をオモシロイ人から聞くと、オモシロイことが起こる。私の持つ「役に立たない知識」も伊藤さんの話と共鳴することがあり、たまにオモシロイ事象をもたらすことがあるのだ。

今回のポスターもそんな化学変化の結果なのではなかろうか。なんてことを思う。

伊藤事務所のポスターを作るのは、今回で4回目だ。とはいえ、前回の制作から3年以上経過している。

これまでは、部材や工法を主軸に建築を語ってきたが、さて今回はどうするか(このへんは好き勝手に考えて提案させてもらう。それでOKならOK、ダメならダメというやり方である)。

そもそも今回のポスターのアイデアは、数年前にチャリティイベントで手に入れた伊藤さん設計の建築模型にある。

3Dプリンタで出力された、手のひらに乗るほどの小さなものを見ていると、東西南北、どの面から見てもリズムがあり、楽しくなる。
https://bn.dgcr.com/archives/2020/11/19/images/001

これを各面ごとに、あえてフラットなイメージで捉えてみたら面白いかもしれないと思った。

デザインには目的がある。目的には外に向けられるものと、内にむけられるものがある。

オモテのテーマとウラのテーマ。オモテだけの仕事も少なくないが、ウラにもテーマを課す余裕があればなおよい。

オモテのテーマは、伊藤嘉朗建築設計事務所のなんたるかを伝えること。

さて今回のウラのテーマだが、いままでは立体をいかに立体に見せるか? というお題を自らに課していたのに対し、今回は立体をあえて平面で見せてやれという天邪鬼な考えを試みたい。

では、 平面から立体を感じてもらうためにはどうすべきか?

週に何度か美術大学などでデザインの授業を担当しているのだが、このところの学生の作品を見て、ホワイトスペースの使い方がイマイチだなーと思うことが多い。「白場」が機能せず「余白」になってしまっているのだ。

ポスターは、最低限の構成要素で最大限の情報を伝える芸なのかもしれない。

だからなのか、よく俳句に例えられる。ホワイトスペースとは、五・七・五における五と七の間、七と五の間でなくてはならない。

エラい先生からそう聞いた。さしてエラくもない私もそう思う。

つまり、その「間」が余白と感じられてしまえば、もったいないからとさらに言葉を詰め込むべきだという話しになろう。そうなれば、それはもはや俳句でなくなってしまう。

さて見る者に、平面から立体を感じてもらうには?

……! 白場を「壁面」と感じてもらえばいいかもしれない!!!

と、そこまで考えがまとまれば、あとは一気に作る、作る、作る。気づいたら3点シリーズが完成していた。

伊藤嘉朗建築設計事務所。3点シリーズその1・東面
https://bn.dgcr.com/archives/2020/11/19/images/002

伊藤嘉朗建築設計事務所。3点シリーズその2・南面
https://bn.dgcr.com/archives/2020/11/19/images/003

伊藤嘉朗建築設計事務所。3点シリーズその3・北面
https://bn.dgcr.com/archives/2020/11/19/images/004

当初、文字要素は白地に黒で配置してあったんだけど、いっそのこと色部分に重ねたら? とやってみたら、イイじゃん! となった。

ホワイトスペースに一切ものを置かないことで、白場がより壁面として認識しやすくなったというわけです。伊藤さんにお見せしたところ一発OK。

今年の代表作が完成しました。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[140]
時代をひらく書体をつくる
~書体設計師の橋本和夫さん~

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20201119110100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

ちょうど1か月前に開始した「週に5回ぐらい、5~8km、ウォーキング(早歩き散歩)するぞ」プロジェクトは継続しています。すごい(笑)

ウォーキングが苦にならない、というか、心地よいと感じているので、三日坊主にならず、モティベーション高く続いています。

新型コロナにより、4月から9月までの半年間、運動することなく過ごしてきました。なので、ここ1か月間、ウォーキングしたことで、コロナ禍以前の筋肉量に戻ってきたようです。

最近、5階ぐらいまでの階段の登り下りは苦にならず、エレベータを使わないことが習慣になってきました。

さて、この習慣がいつまで続くのだろうか……。これから寒くなるしなぁ……。引き続き、レポートしますが、あまり、期待しないでくださいね(笑)

さて、今日のテーマは、『時代をひらく書体をつくる。~書体設計士の橋本和夫さん~』です。

●書体設計士の橋本和夫さん

書体設計師の橋本和夫さんという人、みなさん、ご存知でしょうか?

橋本和夫さんは、20世紀の日本の書体(フォント)の歴史を語る上で、欠かせない人物なのです。橋本和夫さんの経歴を簡単に書きますね。

橋本和夫さんは、1954年に金属活字のモトヤに入社しベントン彫刻機用の原字制作にたずさわり、1959年に写真植字の写研に入社します。1990年代まで、写研で発売されたほとんどすべての書体を監修した方なのです。現在はイワタにてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわっています。まだまだ現役の書体設計士なのです。

まずは、11月10日発売の『時代をひらく書体をつくる。書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』(出版社:グラフィック社)の表紙カバーのご覧ください。ジャーン!
http://bit.ly/mojimoji140bookjacket


すごいでしょ。これらすべての書体の監修を担当した方なのです。「もじもじトーク」の読者の皆さんでしたら、この中で知っている書体がいくつかあるのではないでしょうか!

橋本和夫さんは、20世紀後半、日本の写真植字で多様な新書体が誕生した制作現場において活躍した、第一人者であることに間違いありません。20世紀後半の書体の世界で、まさに、「今、時代は動いた!」の大河ドラマの主人公なのです。

●すごいぞ!『時代をひらく書体をつくる。』

11月11日に「FONTPLUS DAYセミナー Vol.29 オンラインライブ版[『時代をひらく書体をつくる。』出版記念座談会]―雪朱里さんとフォントおじさんのオンラインライブ対談―」を開催しました。

実は、雪朱里さんとの座談会「FONTPLUS DAY Vol.29」を企画したのが9月でした。なので、この書籍の新刊発売があるのを知らなかった時にイベント企画したのです。そしたら、ちょうどイベント開催日が、新刊発売日の翌日になるという奇跡が起こりました。

この座談会ライブ放送は、11月末まで期間限定ですが、再放送の視聴ができますので、興味のある方、ご覧いただけるとうれしいです。
http://bit.ly/mojimoji140kazuohashimoto


橋本和夫さんに興味を持ったかた、ぜひ、この書籍を手に取ってください。というか、この本、フォントおじさんの絶賛超推し本です。ここ数年で100冊以上の文字関連本を手にしましたが、ベスト3、いやっ、1位かもしれません。

日本の書体にかかわるすべてのひとに、ぜったい読んでもらいたいっ!

と、ブックデザイナー・祖父江慎さんに言わしめた本でもあります。祖父江慎さんも好きですが、この本も好きです!

一粒で何度も美味しい本です。ちなみに、この本のチラ見せしちゃいます。いろんな意味ですごいでしょ! 本好きな人にはたまらない一冊です。
http://bit.ly/mojimoji140akariyuki


●書体デザイナーの中村征宏さん

FONTPLUS DAYイベントは、今回、2週連絡開催でして、先週に引き続き、昨日、Vol.30として『ナール、ゴナの中村さんをお招きして』を開催しました。

登壇いただいた中村征宏さんはフリーの書体デザイナーですが、1970〜1980年代にナール、ゴナをはじめとした数々の書体を監修したのが、橋本和夫さんなのです。

ですので、今回、このような素敵なバトンリレーが実現できたこと、奇跡であり、感謝いたします。

こちらの座談会も、期間限定(2020年11月末まで)でアーカイブ視聴できますので、ナール、ゴナの中村征宏さんにご興味のある方、ぜひ、ご覧ください。
http://bit.ly/mojimoji140yukihironakamura


●20世紀後半の金字塔書体「ナール」と「ゴナ」

ナール、ゴナについては、2017年3月27日の「もじもじトーク[59]ナール、ゴナという書体、知ってますか?」で解説したことがあります。こちらも、読んでもらえるとうれしいです。
https://bn.dgcr.com/archives/20170323140100.html


1970年代に「ナール」と「ゴナ」がリリースされると、ananやnon-noなどのファッション雑誌やさまざまな広告のキャッチコピーで、これら書体が使われるようになりました。

それまでは、小説や教科書で馴染みのある明朝体や教科書体が中心の時代から、見た目に印象的でデザイン性の高いフォントが誕生したのです。新書体ブームの火付け役になった代表的な書体が、ナールとゴナ、タイポスなのです。

日本語書体の歴史を変えた、ナールとゴナがなぜ、現在、一般的に知られていないのでしょうか? その理由の一つが、Windowsや macOSにこれらフォントが入ってないからです。また、デジタルフォントとしてもお販売されていなのです。

現在、これらの写研がリリースしたたくさんの素敵な文字たちは、デジタルフォント化して一般に広く販売されていない状態が続いています。

今からでも遅くないので、ナールやゴナをはじめとした写研の書体をデジタルフォント化してリリースして欲しいですね。そんな動きがあれば、フォントおじさんは、全力でお手伝いしたいです。

では、また、お会いしましょう。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)

Facebook
https://www.facebook.com/hiroyuki.sekiguchi.8/



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編集後記(11/19)

●偏屈BOOK案内:ジャック・アタリ「命の経済」プレジデント社 2020
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121026063/dgcrcom-22/


欧州最高峰の知性がロックダウンのフランスで書き上げた「パンデミック後、新しい世界が始まる」「欧州最高峰の知性が、来たるべき未来を予測!」という一冊。今回のパンデミックは起こるべくして起こった。充分に予見でき、備えることができたはずだ。だが、人々はパンデミックを封じ込め不能なものにし、制御不能にさせる行動パターンをとるようになっていた。それにはわけがある。

第一に、世界各地では医療制度が時間をかけて脆弱化されてきた。その原因は、医療制度を国の財産ではなく負荷とみなすイデオロギーにあった。第二に、世界はこれまで以上に開放的になり、相互依存が進んでいた。第三に、自己満足し、自らを過信した人類は「悲劇は起こり得る」という感覚を失っていた。

第四に、既に20年以上にわたり、利己主義、偏狭な視点、他人の考えを受け入れない態度が幅を利かせるようになって、世界は、軽薄、不誠実、不安定で溢れかえっていた。気候変動はますます深刻になったのに、地球温暖化などの対策に必要な環境基準の採択は拒まれて、次世代の利益は顧みられなかった。

第五に、最も重要であり、列挙したすべてを物語る点として「世界から見捨てられた層の存在」があげられる。世界人口の45%以上は満足のいく衛生設備を使用できない。世界人口の半分以上の食糧は、今回のパンデミックの発生地、武漢の生鮮市場のように、衛生状態の疑わしい市場で売買されている。

すべてが非持続的であり、もはや許容しがたい状況にあると誰もが無意識のうちに感じていたところ、今回のパンデミックが発生した。このような規模のパンデミックは予見できたはずだが、備えはされていなかった。世界中の国々はまったく無防備だった。状況をいち早く理解したのは、過去にパンデミックと戦ったことがある韓国で、KCDC(韓国疾病管理本部)が三つの決断を下した。

マスクの生産と配布、検出用キットの生産と検査の実施、陽性者と彼らと密接な接触をもった者たち全員の隔離である。これら三つは、のちに英断だったことが判明する。マスク、検査、追跡、これがすべてだった。韓国はあらゆる面で卓越していた。情報収集は感染者の名前を特定せず匿名で行った。新型コロナウイルスのゲノムの塩基配列を利用して、すぐに検出用キットを開発した。

すべての感染者と、彼らと二週間以内に接触をもったすべての人物を隔離、追跡した。韓国では経済活動の停止を回避した。閉鎖された公共機関は学校だけだった。授業はネットやテレビを通じて行われた。ネットを利用できない家庭の子供に対して数万台のタブレットが支給された。マスクの品不足が予見されると、政府はマスクを配給した。パンデミック対策は大きな効果をもたらした。

中国は韓国と正反対の対応をとった。KCDCの責任者は「我々が実行可能な最良の対策を打ち出すことができたのは、中国の事例を参考にしたからだ。中国の『素晴らしい対応』を垣間見ることにより、どうすればコロナウイルス感染症を予見でき、抑え込めるかを事前に学ぶことができた」と皮肉を交えて述べた。みごとにパンデミックを抑え込んだ韓国だが、自分たちの対策に倣うよう、世界に対して声をあげなかったところが残念でした。(柴田)


●『SwitchBot Hub Mini』の続き。お風呂を沸かすのは、お屋敷に住んでいるわけではないので、三十歩未満を平行移動してポチッと押せばいいだけ。うちのリモコンだと、スイッチがフチぎりぎりについているので、ボットを設置するためには、下駄を履かして高さをつけないといけない。

お湯はティファール電気ポットみたいなのを使っていない。IHクッキングヒーターで、割とすぐに沸くから、朝食の準備をしている間にやかんを熱するだけ。

豆をひく音が早朝に響くのはまずいかなと、電気コーヒーメーカーは使っていない。そのうちボットを使いたいがために、粉から入れるようにするかもしれない。

炊飯器にはタイマーがあるけど、外出先から帰宅時間に合わせてスイッチを入れられるのはいいな。しかしスイッチは上部手前にあって、ご飯をよそう時に邪魔になるなぁ。着脱式に……ああ、面倒くさい。続く。(hammer.mule)