[5176] ローマでMANGA:わたしの教え子たち

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《なによりもモチベーションが高い》

■ローマでMANGA[169]
 私の教え子たち
 Midori




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■ローマでMANGA[169]
私の教え子たち

Midori
https://bn.dgcr.com/archives/20210226110100.html

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしています。

開始の話題はやっぱり、これになってしまいますね。

●ローマでコロナ

1月最終の月曜日から、イタリア全土(ほぼ)黄色になった。

レストランで夕食をとることはできないけれど、市を越えてもいい。黄色州なら州を行き来できる。マスクは相変わらず必須で。

ニュースで取り上げるのは、感染陽性者数よりもワクチンの行方に重きを置いている。火炎放射器発言で話題になった、デ・ルカ州知事率いるカンパーニャ州でのワクチン接種率が一番高い。

と言ってるうちに、変異種が出てきて感染陽性者が増え、2月19日からローマが属するラツィオ州の周り、トスカーナ、アブルッツォ、ウンブリア、モリーセ、カンパーニャの各州がオレンジゾーンになった。

オレンジゾーンの州は出入りできない。もちろん、仕事、帰宅、帰郷、健康(例:州を超えた病院でしか治療ができない)など、やむを得ない事情がある場合は、その限りではない。振り子のようにあっち行ったりこっちに来たりしながら、感染が収まっていくのだろう……と期待している。

2月の第二土曜に、久々に家族で外食をした。肉専門のレストランで、日曜にしたかったが予約でいっぱいとのこと。それで土曜にした。どうせ誰も仕事ないし。

ローマの外れ、昔は放牧地だった所に、不法に家を建てたのが始まりだったのだろうと思わせる地域で、一軒家が並び、店舗はなく、こんな所にレストランがあるのが不思議なくらいだったが、予約でいっぱいとは!

田園のなかにある見晴らしがいい場所で、天気がよければ緑でいっぱいの庭で食事もできる。私たちが行った時のように、ちょっと寒い場合は屋内になるけれど、厚手のビニール(?)張りのホールで、やはり緑を見ながら食事ができる。

皆、出かける口実に飢えてる感じがする。

店内はコロナ仕様だ。入り口に手の消毒剤。食卓につくまでマスクは必須。テーブルは4人がけで、テーブル同士は1メートル以上離れている。

4人以上のグループの場合、コロナ以前はテーブルをくっつけて、全員同じテーブルにつけるようにするのが普通だったが、コロナ以後はともかく4人まで。ちょっと離れて隣り合ったテーブルにつく。

注文の前に、「ウィルスに罹患して14日間の自粛中ではありません」という、自己申告書(代表者の氏名、住所、電話番号を記入して署名)を書くのも、コロナ以降のレストランではすっかり普通になった。

●マンガ学校・中間考査

2月4日に中間考査があった。10月半ばから今までの課題作品を見て評価する。

今までは、講師はコースの責任者(各コースに二人から四人の講師がいて、「責任者」がいる。ユーロマンガの場合は私。責任があるだけで報酬は変わらないけど)と教務課の二人で考査をしたが、今年から担当講師全員が参加することになった。

それぞれが課題を出すのだから、当然と言えば当然。そして教務課は参加しない。教務課で中間考査を担当できる人は二人しかいないので、全クラスを時間差で網羅するのに無理があるとみえる。

「出版社に企画を提案するつもりで、誰が見ても分かるように、透明ファイルにストーリーボードや原稿を入れて、それをバインダーにまとめ、例えば課題のタイトルを書くなりして、見やすいように考えて」と、口を酸っぱくして言ったはずだった。

まぁ、想像できたけど、半数は厚紙のドキュメントフォルダにバサっと入れて持って来た。二度や三度言っても、言葉が右耳から左耳に抜ける生徒が半数。何度言えばいいんだろう。

採点の仕方も変わった。これまでは、一人につき、5項目について30点満点で評価し、平均を出した。そして文章による評価。

これを短時間でやるのが結構大変だったけど、中間考査では5段階評価を担当講師が、それぞれ記入するだけでよくなった。評価自体は短時間、というか数秒で済む。

でも、作品を見るのに時間がかかってしまう。時間がかかるというより、時間をかけてしまう。授業でのお直しが全員に十分に行き届かないので、ついつい、じっくり見て、細かいサジェスチョンをしてしまう。

責任者として、じっくり見ている同僚講師に、もっと短時間にしようね、と進言せざるを得なかった。9時から午後1時の4時間で、12人を評価しなければならないのだから。

同僚講師は元教え子なのだが、manga言語を充分に理解し、報酬よりも(時間が過ぎても残業代は出ない)ついついじっくり見て、サジェスチョンをし続けてしまうのには好感が持てる。

1時30分に終わって、一緒に昼食に行ったのだが、その場でも今後の授業内容について話し合った。その熱心さに、彼女にやってもらって本当によかったとつくづく思った。

●元教え子 その1

コースの全過程が終わる度に、コースが終わっても何か聞きたいこととか、ストーリーボードを見てほしいとかあったら、遠慮せずに連絡してね、と言っている。

携帯の電話番号とメールアドレスとフェイスブックのアカウントは教えてあるし、クラスごとにWhatsApp(LINEと同じ機能を持つアプリ)やTelegramでグループを作っているので、その連絡先もある。

連絡を取ってくる元教え子は稀だ。遠慮もあるだろうけど、実際のところ、見せるべきストーリーボードを作ったりするなどの活動をしてないのではないかと思う。

強制されずに、作品を制作するのはすごくエネルギーがいる。課題ではなく自由に何でも作っていいとなると、途方にくれるのではないかと思う。

そして、稀だけど、少人数連絡をくれる元教え子がいる。そのうちの一人がフィリッポ君。
https://instagram.com/filippopandolfinimanga?igshid=q0zscd6w9fl0


フィリッポ君に初めて会ったのは2014年、フィレンツェ校で一年間mangaコースを開催した時。父上の仕事関係でフィレンツェにいて、参加した。

その後、ローマに戻ってきてローマ校に入学。3年生になってユーロマンガコースを選択して、再び教え子になった。

「ストーカーしてるわけじゃないんだけど」と言いつつ、嬉しそうに通っていた。

2018年6月。コースの卒業考査の日に、「この3年目の授業が今までで一番良かった」と私に告げるために、終わるのを待っていてくれた。嬉しいね。

フィリッポ君は、課外でも独自にサイレントマンガオーディショ(SMA)に参加していて、一度佳作にノミネートされた。

今年、2021年のSMAにも参加し、連絡を取ってきてストーリーボードを何度かお直しした。同じ「言語」を話すので、お直しも容易にできたし、彼は仕事が早くて、心ゆくまでお直しができて、編集者の役目をした私的にも満足のいく出来栄えになった。

締め切りは1月27日だったのだけど、フィリッポ君は5日前には仕上げていたそうだ。

結果発表はいつになるのかは、SMAからのアナウンス待ちだ。いつも3か月くらいかかっていたかな? 4月末かな? 結構いいとこまで行くのではないかと、ワクワクしている。

学校を卒業してから、どうしたらいいのかわからない生徒の方が多いだろうと思う。先輩の話を聞いたら、方向が掴めるかなと思い、フィリッポ君に授業に来てもらった。まだ、漫画家として活躍しているわけではないけれど。

SMAに送った作品をプリントアウトしたものと、製作データをペンドライブに入れて持ってきていた。

作品をプロジェクターで大画面に映し出して鑑賞しつつ、私とフィリッポ君とが構図の意味や、なぜそうしたのかなどを生徒に解説した。彼はコンスタンスに描き続けることの大切さを力説してくれた。

講演料の代わりにお昼に誘い、学校から徒歩5分の中国人経営の寿司屋で食べた。ここがなかなかいい腕をしているのだ。中華料理もやっているので、中華と寿司を混ぜて食べる。餃子がとてもおいしかった。

彼は制作中だという作品のさわり(要点、みどころ)を示して、出版社に企画を出すためにどうしたら良いのか、サジェスチョンを求められた。

実は、ここが一番弱いところなのだ。何しろ、私はまさにそこを避けて通って来たのだから。

それでも第三者の目で、何をどう見せられたら興味が惹かれるかという点と、ちゃんと出版社に企画を見せて出版に漕ぎ着けたり漕ぎ着けなかったりした話を色々聞いているので、イタリアの出版社に見せる場合のスタンダードなやり方などをサジェスチョンした。

まだデビューしていない、つまり作風も何も知らない作家の企画を見せられたとき、だらだらと物語の中身を書いてあるワード書類が何枚にもわたっていても、読む気にはなれない。また、登場人物の顔が丁寧に何枚も描かれてあっても面白くない。

だから、メインキャラ二人くらいは一人一枚、全身、表情いくつか、武器など特筆すべき小道具がある場合は、それも入れてキャラ紹介を作る。残りのキャラは一枚にまとめてしまう。

物語の内容は、タイトル、おおよそ何ページか、その他に内容を数行でまとめたもの。それよりちょっと長いあらすじをA4の紙一枚に、小さすぎないフォントでまとめる。さらに出来上がりの原稿を5枚ほど……とサジェスチョンした。

日本の編集部に持ち込むときは、読切数十枚を原稿に仕上げるのが基本だけどね。

●元教え子 その2

フィリッポ君の一年後輩、2019年に卒業したフェデリコ君も、連絡をくれる一人。

https://instagram.com/yourgreenkj?igshid=1e2h4mwvh69x5


ストーリーボードのサジェスチョンは求めてこないけど。

卒業制作は毎回、現実的な話とファンタジーの二篇を作ってもらう。フェデリコ君は、最終講評時にその二篇を本にして持ってきた。つまり、原稿は講評日のかなり前に仕上げた、ということだ。

フィリッポ君もそうだけど、点数が良かった生徒は作品を仕上げる速度が早い。一日の中で描く作業をする時間が長い、集中力がある、何よりもモチベーションが高い、という共通点があるように思う。書くことに慣れれば慣れるほど、作業スピードもあがる。

フェデリコ君は3年生を終えてから、「グラフィックノベル」マスターコースに通った。コースの課題を片付けながら、自分の作品を作り、それを小さな出版社に見せて出版にこぎつけた。

https://www.facebook.com/toraedizioni/posts/617060219201886/


今までの生徒の動向を見ると、出版にたどり着くまで3年かかるのが普通だ。フェデリコ君は早い。mangaの影響を受けた作品を出す出版社が増えて来た、ということでもあるのだと思う。いいことだ。

フェデリコ君は昨年11月に出たばかりの本と、完成原稿数枚と、ストーリーボードが何枚か入ったバインダーを持って来てくれた。

バインダーを生徒に投げ出すと、麩によってくる鯉みたいに生徒がわらわらと寄ってきて、目を輝かせて見ていた。密を作ってしまった。

フェデリコ君は性同一性障害を持っていて、3年生の終わりに性を変えることを決心した。私の生徒になった時はフェデリカという女性名だった。現在、ホルモン治療をして、髭が生え、声が低くなっている。

今のクラスに一人、同じ問題を持つ生徒がいて、フェデリコ君をモデルとして勇気を持てるといいな、と思ったけど、当日、かの生徒は休みだった。残念。

こうして「元教え子」が授業にゲストに来てくれる、作品が世に出始める…という現象を目のあたりにするのって、とても嬉しい。あ、そういえば、もう一人の講師も元教え子だった!

先月の記事でエレナが応募した賞の発表が17日、と書いたけど、2月27日の間違いでした。だから、来月の記事で結果をお知らせします。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

トランプ大統領を応援している弁護士が、アメリカ連邦最高裁判所に不正選挙に関して起訴を起こしていたが、まだ結果が出ていない三件を残して(2月23日時点)すべて棄却という結論を出した。審議をしない、ということ。

どこまで腐っているんだ、アメリカ司法。審議をしたらトラさん側が集めた証拠が世に出てきてしまうからね。闇の勢力がガンのように深く広く巣食っている現実に寒気がする。



↑このカナダ人ニュースさんの動画は米国の公的資料を元に発信していて、大いに参考になります。アメリカだけじゃないようだけど。

動画でリラックス。嫁姑の争い投稿読み上げ動画の話を前にしたけど、今はそれに飽きて別の動画でリラックスしている。あまり大きな声では言えないけど、角栓をにゅるっと押し出す治療をする動画。ムーミンのニョロニョロみたいなのが出てきて、気持ち悪いのが変にリラックスできる。愛好家が結構いるのも発見した。

気持ち悪いのに見たがる心理を解説するページも見つけた。

https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201801_post_15743/


ホラー映画が安全な場所で恐怖を提供するのと同じで、ニュル動画は安全な場所で嫌悪感を提供する。嫌悪感は人間の根源的な感情であり、コミュニティで嫌悪感を共有する(病気などのリスクを減らす)という本能に基づくらしい。

日本の角栓除去治療動画だと、肌を温め毛穴を開いて角栓を動かしやすくして、かつ角栓をどうにかする治療薬を湿布し、後にバキューム器で吸い取ったりして「ニュル」が見えなくてつまらない。お肌には絶対いいと思うけど。

東南アジアらしいどこかの治療室の動画が一個づつ手袋した指で押し出すのでオススメ。
URLは貼らないでおきます。

https://www.facebook.com/midori.yamane

https://www.instagram.com/midoriyamane

https://twitter.com/midorom


前記事
http://bn.dgcr.com/archives/midori/



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編集後記(02/26)

●偏屈BOOK案内:斎藤美奈子「中古典のすすめ」紀伊國屋書店 2020
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4314011521/dgcrcom-22/


「中古典」とは筆者の造語である。古典未満の中途半端に古いベストセラーを指すという。彼女がほんの出来心で、その昔読んだ1690年代、70年代の本を読み返したら「おお〜、まだ全然いけるじゃん」な本がいくつもあった。

一方では「さすが、これはもう無理だな」と思う本もあった。そこで、この状況をマイウェイで評論しちまおうというのが、この本のコンセプトであろう。

中古典とはまだ歴史的な評価が定まっていない本である。その時々にヒットしたり注目を集めた本は、すべて中古典候補である。筆者の趣味が反映しているのは否めないが、1960年代、70年代、80年代から各15冊、90年代初頭から3冊、計48冊がチョイスされた。

小説、エッセイ、ノンフィクション、評論など、本の種類は雑多である。その本をいま読む価値があるかどうか、これが重要だ。

「今日の視点でみると、中古典はときに眩しく、ときに恥ずかしい」そうだ。そこでこの本では、無謀にも、現在(2020年)の時点において、いまも再読にたえるかどうかを、「名作度」と「使える度」の二つの視点から星印で示す。

「名作度」はいちおう客観的に考えた、本としての価値。「使える度」はあくまでも主観的に、いま読んでおもしろいかどうかである。

「名作度」★★★すでに古典の領域 ★★知る人ぞ知る古典の補欠 ★名作の名に値せず 「使える度」★★★いまも十分読む価値あり ★★暇なら読んで損はない ★無理して読むことない

……そうとう厳しい判定が下されると期待される。わたしが考える斎藤美奈子はいじわるで辛辣、理想の評論家である。

名作度、使える度、両方が★★★の作品はあるのか。ありましたよ。いきなり冒頭の、住井すゑ「橋のない川」1961 新潮社である。水平社運動に向かった小年たちの物語だ。文庫本でも全7冊の大長編、1〜7部の合計で400万部というロングセラーである。わたしの最も苦手なテーマのストレートパンチ。今後も読むことはないだろう。

そして、北杜夫「どくとるマンボウ青春記」 鎌田彗「自動車絶望工場」 灰谷健次郎「兎の目」 橋本治「桃尻娘」 堀江邦夫「原発ジプシー」 森村誠一「悪魔の飽食─「関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!」 黒柳徹子「窓ぎわのトットちゃん」の7冊。

おお! わたしは全部読んでいた。桃尻娘とトットちゃん以外は、読んでいて楽しくなかったが。(柴田)


●自己申告書!

/作業サポートアプリ『アヴェ・クラシック』続き。公式サイトのストーリーでは「音楽を司る神・ミューズの管理する箱庭」「ミューズの死により音楽は消滅の危機」「音楽を守るべくクラシック男子を導き、ミューズの死の謎を解き明かすことに」とあって、謎解きでもあるのね。

iOS版は2018年1月公開になっていた。現時点では8曲で、最初はカノンのみ。カノンだけでも十分リピできるんだけど、もっと曲数が増えたらなぁとか思ったり。アプリのコンセプトからいって、ロックされていない曲しかBGMにはできないのね。

BGMアプリを試していたら、キャラから「そう、君がやめたいなら仕方ないね」と言われてしまった。そうか操作したらダメだったわ。あ、なんだか罪悪感(笑)。続く。

iOS版
https://apps.apple.com/jp/app/id1325399668


Android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.aveclassic