《人類の知恵の一つです》
■再評価大百科[010]
現金を再評価する
吉田貴之
■映画ザビエル[108]
文脈を読みとること
カンクロー
━━━━━━━━━━━━━━━━━
■再評価大百科[010]
現金を再評価する
吉田貴之
https://bn.dgcr.com/archives/20210304110200.html
─────────────────
日本において、2019年は「キャッシュレス元年」とされ、クレジットカードやQRコード決済のような、各種キャッシュレス決済の利用が進みました。
それからそれなりの時間が経過しましたが、キャッシュレス決済は「使っている人はとても使っているけれど、使っていない人はまったく使っていない」という状態で落ち着いているように思います。
キャッシュレス決済が普及している中国では、6割以上の決済がキャッシュレスで行われていますが、日本では2割未満程度の利用だそうです。現金がいまだに使われている理由や、背景を考察してみましょう。
□現金の歴史
歴史上、先に生まれた現金は硬貨の方でした。硬貨といっても現在のような金属ではなく、貝や石、塩など保存がきくものが硬貨として使われていたようです。破損や変形がしにくい金属の硬貨は、かなりあとになってに発明されています。
10世紀になると、最初の紙幣が誕生します。紙幣にしても硬貨にしても、現金は「偽造」との闘いだったと言っても過言ではないでしょう。印刷技術や鋳造技術で偽造そのものを防いだり、強い罰則を設けることによって偽造を抑えようとしてきました。
□現金のデメリット
しかし、現金の偽造を完全に防ぐことはできませんでした。その結果として、高額紙幣を作らない/使わないようにしたり、表示額以上のコストをかけて製造したりなど、不便を強いられていました。また、当然のことですが現金はどれも同じ見た目ですので、紛失したり盗まれたりした際に、自分のものであることを証明する術がないのも問題でした。
□初期のキャッシュレス決済
「クレジットカード」は、所有者の支払い能力に応じて、「ツケ」で買い物をすることができる仕組みです。クレジットカードは上述の現金が抱える問題をいくつか解決しましたが、不正利用など別の問題も生みました。
また「プリペイドカード」は現金を有価証券の形に変えて利用できるキャッシュレス決済ですが、こちらもカードの破損や紛失、盗難には対応できておらず、現金の完全な代替にはなりえませんでした。
□QRコード決済と仮想通貨
インターネットを利用した「QRコード決済」は、サーバー上に記録された残高をもとに取引ができるため、紛失や悪用のリスクが少ない決済方法です。
現金のように真贋判定する必要もなく、クレジットカードのように信用の査定も必要ないので、現金やクレジットカードの運用に自信がない地域で爆発的に普及しました。
「仮想通貨」はその進化のスピードが凄まじく、定義が難しくなっていますが、インターネットを利用した決済のうち、よりセキュリティが担保されたもの、という認識で良さそうです。
□現金は増減しない
別の視点で現金を見てみましょう。現金を手元に持っているだけでは増えることはありません。株式や債権などの有価証券に変換することで初めて、評価額として増加する可能性があります。もちろん、減少する可能性もあるのですが。
□キャッシュレスの問題点
このようにみてみると、キャッシュレス決済はいずれも良くできており、現金の利用が少なくなっていくのは必然のような気もします。しかし、多くの人が現金の利用をやめない理由はなんでしょうか。
ひとつは、キャッシュレスの概念がややこしい、ということにありそうです。価値を有している「何か」がどこにあって、現在いくらで、どのようにすれば使えるのか。実際に使っている人であっても完璧に理解するのは難しそうです。
□現金が活きる場面
また、災害が多い日本ですが、被災経験者が口を揃えて言うのは、災害時にあらゆるキャッシュレス決済が使えなくなった、ということです。電気が止まった状態では、インターネットも決済端末も安定して使うことができません。その場合は現金が役に立った、ということです。
□現金が使える文化
筆者としては、現金が使える世の中であることを興味深く思います。貨幣制度は歴史によって磨かれた、人類の知恵の一つです。価値のないものに価値を与え、何億もの人がそれを守って使っている、というのは信じがたいけれど事実です。その暗黙の了解が愛おしくさえ思えます。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
https://www.idia.jp/
腕時計ポータルサイト:腕時計新聞
https://www.watchjournal.net/
兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
■映画ザビエル[108]
文脈を読みとること
カンクロー
https://bn.dgcr.com/archives/20210304110100.html
─────────────────
◎作品タイトル
シカゴ7裁判
◎作品情報
原題:The Trial of the Chicago 7
公開年度:2020年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:130分
監督:アーロン・ソーキン
出演:サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世、マーク・ライランス、ジョセフ・ゴードン=レビット
◎だいたいこんな話(作品概要)
1968年8月、ベトナム戦争は長期化と激化の一途をたどり、累計で50万人以上のアメリカの若者が戦地に送られていた。それに対する抗議活動をしていた三つの大きな団体がシカゴに集結。
大統領選挙を控えた民主党大会が開かれるその場所で、大規模なデモ活動を行い、アメリカ国民全体に反戦を訴えるためだった。
デモには当時過激派とされていたブラックパンサー党も参加していたが、いずれの団体も平和的な抗議活動を望んでいた。しかしシカゴ警察と衝突し、多くの負傷者と逮捕者を出す事件に発展してしまう。
5か月後、大統領選は共和党のニクソンが勝利した。政権交代後に新しく任命された司法長官は、シカゴでのデモ活動は暴動を煽動した共謀罪にあたるとして、参加した団体の代表者7名を起訴した。
ところがその裁判は、公正中立であるはずの判事が担当検事以上に政府側に肩入れし続ける、きわめて理不尽な展開を見せる。果たして暴動を引き起こしたのは、シカゴ・セブンと呼ばれた被告人たちか、それともシカゴ警察だったのか。
「ソーシャル・ネットワーク」や「マネーボール」など、実録もの(厳密にはノンフィクションとは言い難いが、実在する人物などを描いたもの)の脚色に定評のある、アーロン・ソーキン監督作品。
◎わたくし的見解/大いなる力に大いなる責任
本作の面白みは、昨年から今年にかけて実際に行われた大統領選や、それに敗北したトランプ氏の支持者による連邦議会議事堂の襲撃事件などと、図らずもリンクしているところにあります。
図らずも、としましたが図っているであろう部分もしっかりあり、劇中に黒人解放運動の過激派ブラックパンサー党のボビー・シールを取り上げたのは、明らかにブラック・ライヴズ・マター運動を意識しているはずです。
昨年、取り沙汰された警官による黒人への不当な暴力に、衝撃を受けた人は多いでしょう。本作の舞台である1968年は、彼らへの弾圧が現代より一層強かった時代であるとの認識はあっても、裁判という公の場で行われたボビー・シールへの扱いは信じ難いものでした。
また、映画で取り上げられている「シカゴ・セブン」と呼ばれた被告人の中に、ボビー・シールが含まれていない(公判途中で被告から外されたためですが)こと、つまり当時は決してシカゴ・エイトとして扱われなかったことにも、人種差別問題の根の深さが現れていました。
ところで、シカゴ・セブンの裁判の発端は、ニクソンに指名された新しい司法長官による見せしめでした。司法長官ジョン・ミッチェルは、政権交代に伴い前任者は自ら辞任する慣習が守られなかったことを根に持ち、前司法長官が下していた「シカゴ・セブンは起訴に値しない」との判断を覆したことで、物語は始まります。
もちろん、司法長官としては前政権に対する個人的な苛立ち以外に、反戦活動に熱を帯びる若者たちに脅威を感じており、政治的な判断として政府の力を誇示する目的もありました。
他にも昨今の出来事との類似点を感じる部分があるとは言え、映画ではかなりの脚色が加わっているでしょうし、2021年の議事堂での暴動についても、まだ真偽の定かではないことが多いのです。
しかし、それでも間違いなく言えることは、世の中には発言に多大な影響力を持っている人がいて、また目的は何であれ、一度動き出した集団をコントロールすることは極めて困難であるということです。
まったく関連はありませんが、『スパイダーマン』の中で、主人公のピーターが保護者であるベン叔父さんから受け取った箴言「大いなる力には大いなる責任が伴う」を、ふと思い起こしました。
何か一つのきっかけだけで、歴史や国家レベルにおける物事が大きく変わる局面があります。そして、そのきっかけを作れるだけの発言力を持つ人もいる。力を持つことのリスクを、強く感じられる作品でした。
絵に描いたような社会派作品ですが、(ボビー・シールの境遇とは真逆の)中流以上の家庭で、何不自由なく育った白人のお坊ちゃんキャラを見せつけるトム・ヘイデンと、その彼とは対照的に、ヒッピー全開でどれほどシリアスな場面でも、軽口を叩くことを忘れないアビー・ホフマンとがぶつかり合う演出も効いていて、エンターテインメントとしても楽しめる法廷劇に仕上がっています。
アカデミー賞などの賞レースから、とっても好まれそうな作品です。
【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル
http://www.eigaxavier.com/
━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(03/04)
●偏屈BOOK案内:本郷和人「歴史のIF(もしも)」扶桑社、2020
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594086411/dgcrcom-22/
私たちは「歴史にIF(もしも)はない」と教えられてきたらしい。「もしあのとき、こうだったら」を考えるのは意味がない、科学的ではない、というのが戦後の歴史学らしい。
つまり〈検証を必須の手続きとする科学〉であることを選択したらしい。「らしい」だらけだが、「らしい」がなかったら世の中はつまらない。この本では14のIF(もしも)について語っているが半分はあまり興味がない。
たとえば、「もしも、畠山持国が男としての自信にあふれていたら?」「源頼家が重病に。もしも比企能員が慎重であったら?」なんて、その人物名初めて聞いた。どうでもええわい。「もしも、豊臣秀頼が女の子だったら?」……あほな設問。
なるほどと思ったのは、「モンゴルから国書がやってきた。もしも、鎌倉武士たちに教養があったら?」である。ご存知「モンゴル軍が日本を侵略しようとしたとき、神風が吹いて云々」のアレである。
この話は神国日本を強調するために、戦前には何度となく語られたストーリーだ。元寇当時、日本軍の指揮をとったのが鎌倉幕府の第八代執権・北条時頼で、「モンゴルの侵略から日本を守りぬいたヒーロー」として扱われた。
最近ではその評価もだいぶ様変わりしてきた。東洋史の先生たちの定説は「そもそもモンゴルは、日本を占領しようとは最初から思っていなかった」そうである。
モンゴルは「中国に元という新王朝を建てたから挨拶に来い」ということを丁寧な文章で日本に送った。朝廷は「これは日本を外交の対象と認めて書かれたものである」と理解し、返事を送ろうとしていた。
現代感覚ではかなりエラそーな印象だが、国書を返信しないより断然マシな対応である。これに待ったをかけ、国書を奪ったのが鎌倉幕府で、この事態を無視し元へ使いを送らなかった。
戸惑ったのが元で、誠意をもって手紙を書いたのに、なぜか日本からは何の反応もない。あまりの無礼に怒った元が、日本を懲らしめるために起こしたのが第一回目の侵攻「文永の役」。
日本に遠征軍を送って侵略戦争をしてもコストがかかるだけ、やりたくないと考えていたに違いない、というのが現在の定説であるらしい。日本に勝利しても何のメリットもない。占領に値しないと思われていたはずだ。
問題は鎌倉幕府の対応である。国書に返信しないという無礼をしたのだから、モンゴルから攻撃されるリスクを当然予測できたはずだ。信じられないことに、鎌倉幕府は侵攻に対する備えをほぼ何もしていない。
鎌倉幕府は軍事政権だから、大国・モンゴルと命運をかけて戦うのであれば、北条時宗自身が北九州に駆けつけて戦うのが筋だ。ところが一回目の元寇で、時宗は鎌倉から動かない。
日本はモンゴルの来襲をまったく考えていなかった。にもかかわず、1274年の「文永の役」で日本は勝利する。というより、負けなかった。なぜだ?
有力視されているのは「威力偵察だったのではないか」という説。偵察してすぐ引き返しただけで、本当は嵐もなかったと現在では考えられている。本格的な侵攻となったのは1281年の「弘安の役」である。
モンゴルは再度、日本に使者を送っている。鎌倉の時宗は、あろうことか使者の首をはねる。怒ったモンゴルは「日本はやはり野蛮な国だ」と思い、二回目の遠征軍を送りこみ、弘安の役が勃発する。苦戦を強いられたものの、最終的にまたも日本はモンゴルの侵攻を阻止することできた。どうやって? つづく
(柴田)
●母からメール「『Bloomee LIFE』って知ってる?」。初耳。
4年前からある、お花のサブスクサービス。週替わりでポストにお花が届く。配達は提携している全国200のお花屋さんから。全国10万世帯が利用しているとのこと。コロナで外出減ってるし、利用者増えてそう。
プラン価格は、一回あたり本数3本以上の500円+送料250円、4本以上の800円+送料350円、5本以上の1,200円+送料500円。毎週か隔週かは選べる。3/14までの初回無料クーポンあり。
ギフトサービスあり。お世話になった人に定期的にお花を贈るのっていいね。こちらは月ごとの契約で毎週届けられる。初回のみ花瓶とメッセージカードがセット。至れり尽くせりだなぁ。一ヶ月4,500円、二ヶ月7,700円、三ヶ月10,800円の三つのプランがある。続く。
Bloomee LIFE
https://bloomeelife.com/
初回無料クーポン
https://bloomeelife.com/lp_series/campaign/new2020
ギフトプラン
https://gift.bloomeelife.com/